創世日祭典・ストーリー・メインクエスト25-40
ヌクメン男子キター!
おでんは衝動的なお好み焼きをとめて、ニコニコ笑いながら、最後まできいてあげてと話した。
25とっておきのネタ
納豆が縄で頂上に戻った時、目の前には何とも言い難い光景が広がっていた。
酒呑童子が縄で縛られ、梅酒とタピオカミルクティーが猫じゃらしで酒呑童子の足をくすぐっていた。お好み焼きの姿は見えない。
梅酒「言いなさい!」
タピオカミルクティー「言いなさい!」
酒呑童子「や、やめてくれ!絶対に親分の命令でお面を奪いにきたことなんて言わないからな!」
梅酒「親分って?」
酒呑童子「教えない……」
納豆「明瞭な根拠はないですが、おそらく暴飲王子だという噂が。」
酒呑童子「え?どうしてそれを?」
納豆「ああ、本当だったんですか。これで証言を記録できました。」
酒呑童子「……うう。」
納豆「でも、いったい何があったんですか?」
タピオカミルクティー「コホン……梅酒……」
タピオカミルクティーは顔を赤らめながら梅酒の袖を引く。
梅酒は微笑みながら説明する。先ほどタピオカミルクティーが酒呑童子を納豆と勘違いしたことは言わずに、力を合わせて酒呑童子を捕まえたことだけを。
梅酒「お好み焼きは、酒呑童子がお面を奪うため、食霊を襲っていると聞き、おでんのところへ行ったようです。」
納豆「ひとりでですか……。」
タピオカミルクティー「あなたたちも後を追ってください!バンジーの店主さんがもうスタッフの方に連絡してくださったはずですから、酒呑童子を連れて行ってくれるはずです。」
タピオカミルクティー「店主さんが戻るまでは私がここで酒呑童子を見張っておきます。今回はなかなか良い素材が手に入るチャンスです!」
タピオカミルクティーは興奮気味に手に持った猫じゃらしを振る。
納豆「うん、それでは次の「記録者」茶会でのお話に期待してます!」
タピオカミルクティー「ええ!またお茶会で!」
26腐れ縁
梅酒と納豆が東市に戻ってしばらく、やっと響いてくる喧嘩の声でお好み焼きを見つける。
お好み焼き「客も少ないんやし、早めに店仕舞いしたってええやろ?アタシの話、聞いてた!?」
おでん「聞いてましたよ。少し声のボリュームを落としてもらえねぇかい?」
お好み焼き「めんどいって思っとるやろ?」
おでん「そんなことないですよぅ。ただそんなに叫んでたら喉を痛めるよ?ほら、君の好きな大根とタケノコだ!」
おでん「心配してくれてるのはわかりましたよ……。」
お好み焼き「ふん、誰が心配なんか!!!アタシの湯豆腐はまだか!?」
お好み焼きは話題を切り、お椀を持って、目線はすでにグツグツ煮込まれている豆腐に向かっている。
お好み焼き「もうだいぶ経つのに同じ味……変化もなくって……どうやって客を集めるんや!」
おでん「これこそが皆が望んでいる故郷の味でさぁ。おでんはこうでなくっちゃねぇ。」
おでんは話しながら豆腐を彼女のお椀に入れる。その時、店先で立っていた納豆と梅酒の姿を見て、おでんは意外そうな表情をする。
おでんも挨拶がわりにと、何度か頷く。
お好み焼き「あれ?梅酒に納豆?どうしてここに?納豆……アンタ、おでんと知り合いだったの?」
納豆「うん!以前おでんさんには色々な話をしてもらいました。」
おでん「納豆は久しぶりに来た常連客だよぉ。ほら、立ってないで入ってくだせぇ。」
27大根と竹の子
良い匂いが立ち込める中、納豆はおでんに堕神がお面を奪おうとしていることを教えた。
おでん「なるほどぉ。道理でさっきお好み焼きが慌ててあたしに店を閉めろと……お好み焼き、気遣いをありがとうなぁ。」
お好み焼き「礼なんていらんわ!アタシも別にアンタのためだけに来たわけやないし!アタシはただ大根とタケノコを食べに来ただけ!そうや!大根とタケノコをな!」
納豆「おでんさん……今日、大丈夫でしたか?堕神に襲われてないですよね?!」
おでん「いいや、今日一日とてもいい日だったよぅ。お客さんは多くなかったけどねぇ、面白い人ばかりだったさ。」
おでん「特にあの大根とたけのこが好きな女の子が一番さぁね。」
おでんは笑みをこぼし、お好み焼きの頭を撫でようと手を伸ばしたが避けられてしまった。
お好み焼き「ふん!タケノコ、もう一つ!」
おでん「はい、はいな。」
おでんは再びお好み焼きに手を伸ばした。今度は避けることなく、そのままガシガシと撫でまわされた。
お好み焼き「頭を撫でるなって言ってるやろ!納豆!梅酒!アンタたちももっと食べや!こいつのお財布をすっからかんにするんや!」
おでんは笑った。
おでん「問題ないさ、みんなちょっと待ってておくんなまし。新しいお客さんが来たみたいだ、ちょっと見てくるよ。」
お好み焼き「でも、もしも暴飲王子がお面を欲しがっているのなら、酒呑童子が現れたのには納得できるわ。ただ、般若たちもお面を被った食霊を追ってるんやろ?」
納豆「確かにおかしい、きっと、このふたつのことには何か繋がりがあるに違いないですよ。」
その時、玄関からおでんの優しい声が聞こえた。
おでん「いらっしゃいまし。おや、あなたは?」
般若「だ、だ、だーー」
28最後まで聞いてあげて
突然の般若の出現に皆が驚き、お好み焼きはすぐさま飛び出し、おでんをかばうように、般若の前に立ち塞がった。
般若「だ、だ、だーー」
お好み焼き「ほら来いや!この前の事、全然懲りてないみたいやね!」
お好み焼きは袖をひるがえし、臨戦態勢に入ったが、おでんに腕を掴まれた。
おでん「落ち着きなはれ、まずは話を聞かせておくれ。」
お好み焼き「聞いてどうするんや!?アイツが襲いに来たんだよ!」
般若「き、き、きーーきい、てくだ、さい……、お面を、かぶった、堕神を見ま、せんでしたか……?」
お好み焼き「……。」
納豆「……。」
梅酒「……。」
おでん「悪いねぇ、見てないよ。」
般若「あ、あ、お邪魔、しました……」
皆が驚いている中、般若はお辞儀をし、身を翻すと、体をカタカタと鳴らしながら、去っていった。
お好み焼き「ど、どうなってるんや?」
おでん「いいかい?物事を表面だけで決めつけてはいけないよ。何事も冷静に判断するといいよ。わかったかい?」
お好み焼き「……。」
おでんはククッと笑い、呆然としているお好み焼きを店内に引っ張り戻した。
当たらなかったらお代は結構!
黄山毛峰茶は危うく屋台を潰したところだ。緊急時、彼の目の前に現れたのはなんと……。
29伝説の占い師
酒呑童子は捕らえられて、般若も今の所襲ってこない。お好み焼きは無理におでんの店を閉めろとは言えなくなってしまった。
三人はおでんと子の刻にお店に戻り、一緒に花火大会を見に行くと約束し、それまで引き続き祭典を巡ることにした。
お好み焼き「あの般若がずっと探し回っていたお面を被った堕神が、誰だか分かるん?」
梅酒「知らないよぅ。」
お好み焼き「もしかして納豆が言っていた般若のボスって、言い伝えの蛇君のことか?」
納豆「可能性はありますね。」
お好み焼き「やあ、こんなことは本当に初めてやで。般若が人探し?それに酒呑童子が何もせずに、お面だけ奪う?そんなんおかしいやろ。誰か答えを直接教えてくれたらええのに!」
黄山毛峰茶「鉄は一刀両断。嘘偽り無し……勘定は後回し。役に立たなきゃ金はいらない。」
三人が般若が言っていたことについて話していると、突然呼び止められた。
黄山毛峰茶「ああ、そこのお嬢さん……見渡さなくていい。私が呼んでいるのは、お主のことだ!」
お好み焼きは辺りを見回し、黄山毛峰茶が彼女のことを言っているのだと気づくと、不思議そうに首を傾げた。
お好み焼き「アタシに、なんの用??」
黄山毛峰茶「お嬢さん、眉間が黒くなっているよ、もしや、今まさに心の中で誰かに疑問の答えを聞きたいと思っているんじゃないか?」
お好み焼き「え?そうそう、そうやの!すごいわ!なんでわかっちゃったん?」
梅酒(誰の心にでも悩みがあるだろうに、言い当てるのなんて簡単。この人はペテン師なんじゃないのかな……)
黄山毛峰茶「ハハ、貧道がお嬢さんの疑問を解決してあげよう。お嬢さん、聞きたいか?」
お好み焼き「うんうん!おじさん、早よ教えや。これは一体どういうことなん?」
30結婚の気配
黄山毛峰茶は灰を手で払いながら、思わせぶりに目を閉じ、印を結んだ。
黄山毛峰茶「見えたぞ!」
お好み焼き「なになに?」
梅酒も警戒しながら、前に詰め寄った。
黄山毛峰茶「コホン、お嬢さん。お主が今日、周囲が混乱していて心が乱れていると思うのは、それは全部良縁の兆候だ!これは悪いことじゃない!とても喜ばしいことだ!」
お好み焼き「え?何するん?」
梅酒(ああ、この人はホントにいい腕をしているみたい……でも、お好み焼きも、もしかしたらもう……)
お好み焼き「なんやって?今日は追われて襲われて……これがいい事やって?これを喜べって言うん?」
黄山毛峰茶「そうだ。お嬢さん、追われるのは悪い事じゃない。喧嘩をするのも普通だ。良縁とは、心が動くから行動が伴うのだよ。しかし、私からひとつ助言をしよう。」
お好み焼き「……えっ?」
黄山毛峰茶「お嬢さんはとてもきちんとしていて、話上手な良縁の持ち主だ。良いことだが、才気ひけらかしてはせっかくの夫婦の縁が逃げてしまうぞ?」
お好み焼き「夫婦の縁?夫婦の縁やと?何言うてるん!?もういっぺん言ってみ??」
お好み焼きは黄山毛峰茶が何を言っているのかを理解した途端、尻尾を踏まれた猫のように怒りが爆発した。
黄山毛峰茶「いやいや。お嬢さん、言ったはずだ。熱愛の時期だからって、想う相手と毎日喧嘩ばかりしちゃあ駄目だ。相手が自分をどんなに好きだからってそれに甘えるのは良くない。」
黄山毛峰茶「時には優しい一面も見せる必要がある。そうすることで、長続きする。それと私は、お主に似合いそうな桃の花のお面を持っていてなーー」
お好み焼き「……。」
梅酒(とっても……嫌な予感がする……!)
黄山毛峰茶「見てくれ、このお面を!とても神秘的だろう?これを恋人の家に飾るか、身につけるかすると、お互いの厄を追い払ってくれるのさ。心を晴れーーうわあ!!」
黄山毛峰茶「何をする!買わないならそれでいいから、壊さないでくれ!」
31口は災いのもと
お好み焼きは顔を真っ赤にし、黄山毛峰茶の店の品物を黄山毛峰茶の顔に投げつけた。
近くで見ていた納豆は黄山毛峰茶と怒ったお好み焼きを見て、どっちに手を貸すべきかあたふたしていた。
黄山毛峰茶「えっと……貧道は事実を言っているだけだ。最初からお主が頼んできたんだ。そんな急に怒られても……?」
お好み焼き「まだ言うか!?アタシは堕神のことを聞いてるの!なにわけのわからないこと話し始めてるんや!」
黄山毛峰茶「お主はーー」
黄山毛峰茶は引き裂かれた八掛を見ながら今日の早朝に重陽糕の話していた予言を思い出す。
黄山毛峰茶(確か災難は口からやってくると言っていたが、まさか本当に当たるなんて、まったく!)
黄山毛峰茶が呆けていると、危うく墨のついた筆が額にあたりそうなる。それを器用にかわすと後ろから声が聞こえた。
酒呑童子「痛――」
梅酒「酒呑童子、どうやって逃げ出したの!?」
酒呑童子「お前達は、俺を止められない……」
黄山毛峰茶「酒呑童子?ここで何をするつもりだ?」
酒呑童子「その桃の花のお面を、渡せ……。」
黄山毛峰茶「こここ、これを貧道から奪うつもりか?!」
酒呑童子「早く渡せ!」
黄山毛峰茶「困ったもんだ……私が言えることはひとつ。君のお家では、物を奪う時は黄歴を見ろと教わらないのかい? 何をするにも、日は選んだ方が良いぞ?」
32贈る言葉
黄山毛峰茶「次に貧道と戦う時は、子どもだけで来るんじゃないぞ。貧道が弱い者いじめをしていると思われないためにな。」
酒呑童子「お前ら覚えていろよ……私は諦めないからな……。」
お好み焼きは見直したかのように、酒呑童子を撃退した黄山毛峰茶と目を合わせる。
お好み焼き「少しはできるみたいやない?」
黄山毛峰茶「いえいえ、外で飯にありつくには多少なりとも護身術の心得は必要なので。」
この戦いを経てどうやらお好み焼きの憤怒はスッキリしたようだ。彼女は少し申し訳なさそうに散らかしたお店を片付ける。
お好み焼きが辺りを見て、納豆と梅酒まで散らかった店を整えている姿を見て、顔を赤らめて小さな声で尋ねる。
お好み焼き「あの……」
お好み焼き「あのお面は本当にきくんか?」
黄山毛峰茶は少し可笑しく思いながらも、小さな声で答えた。
黄山毛峰茶「もちろん、騙したりしませんよ。効き目がなければお代は結構。」
梅酒と納豆が八掛をもって黄山毛峰茶に返した。お好み焼きが慌てて買い物袋に何か入れたようだったが、よく見えなかった。
梅酒「道士さん、私達はもう行くね。」
黄山毛峰茶「縁があったらまた会いましょう。最後に、貧道からお主たちにお告げをひとつ送りましょう。」
納豆「道士さん、ありがとうございます。教えてください。」
黄山毛峰茶「北へ行くといい。そこにスイーツ通りがある。そこに行けば、君たちが探している答えがある。全てが解決するぞ。」
Exchange or rob?
香ばしいデザート街に来て、酒呑童子が連れた援軍と遭遇?!
33このまま北へ
黄山毛峰茶と別れた後、一行は納豆の地図を元に北へ向かおうとしていたが、お好み焼きが突然立ち止まった。
お好み焼き「あの……アタシは一緒にスイーツ通りには行かんで。」
納豆「え?今起きている事件について、一番知りたがっていたのに?」
梅酒「それに、ずっと前からスイーツ通りに行きたがっていたじゃない。」
お好み焼き「実はそんなに重要な事じゃないんや……酒呑童子も逃げ出したし、おでんのヤツもあんなに霊力が弱いのに、もしも酒呑童子がお面を奪いにあの店に行ったら……」
お好み焼き「まあまあ!じゃあもう行くで!もし、スイーツ通りで何か分かったことがあったら教えてや!あと美味しいスイーツをアタシに持ってくるのを忘れるんやないで!」
お好み焼き「じゃあな!」
お好み焼きは買い物袋を抱きかかえ、そのまま何も言わず、走り去ってしまった。
――北市、スイーツ通り。
道には色とりどりの灯りがつき、まるで真昼のようだった。多くの人で賑わい、空気には甘い香りで包まれている。
ティアラ各国の絶品スイーツが並び、どれも人の目を引くものだった。
梅酒「納豆、見て見て!あのパティシエが作ったケーキ!とても美味しそう……!」
34パティシエは口下手
ここは一軒のコーヒー店。入り口付近でパティシエがちょうどケーキを作っていた。
梅酒と納豆だけでなく、東方の格好に身を包んだ少女がふたり同様にそのケーキに目を奪われていた。
モクセイケーキ「「一粒の雪が花を成し、一抹の人間は甘味に歓喜す」……見事な腕前!重陽糕、貴方はどう思う?」
重陽糕「行雲流水、見分を広げん。」
納豆は興奮気味に筆をとり、質問をする。
納豆「こんにちは!お聞きしたいのですが、このクリームはどうして高温下で溶けないのですか?」
パステル・デ・ナタ「……。」
チョコレート「皆さん、ようこそ!彼は、我えらが誇るサタンカフェのパティシエ、パステル・デ・ナタ!ああ、彼は今日少々疲れているようです。質問があればこちらへどうぞ。」
35ご立腹
チョコレートは四人を近くの席に案内し、スイーツを振る舞った。そして納豆の横に座り、丁寧にケーキに関する質問に答える。
納豆「ありがとうございます!お時間を使わせてしまいましたが、おかげで多くのことを学べました。」
チョコレート「いえいえ。お客様のためですから当然です。まだ時間はたっぷりあるので、何でも聞いてください。」
チョコレート「いいえ、忙しくないですよ。店長、すぐにそちらへ行きます。」
チョコレート「申し訳ありません、時間切れです。スイーツはまだありますから、どうぞごゆっくり。」
納豆「あっ……?」
チョコレートはサッと立ち上がり、そのままコーヒーと共に店を出て行った。
納豆はまだ何か気になるようだったが、しぶしぶ筆を置く。一方で梅酒はスイーツを食べて満足気な表情を見せた。
梅酒「満足したぁ……!でもあの道士さんが言ってた「ここに来たら真相がわかる」ってどういうことなんだろう?」
納豆「ああ言うんだから何かあるはずですよ。あとでしっかり調査してみましょう。きっと何か見つかるはずです。」
重陽糕「なぜ探す?もし答えに厄災が存在するならば貴方はどう対処するのだ?」
納豆「??」
重陽糕は納豆が呆けているのを見て躊躇したようにも見えたが、結局何も言わず、目を逸らした。
重陽糕「モクセイケーキ、行こう。花火大会まで時間がありますし、他を巡ってみたい。」
モクセイケーキもそう聞いて立ち上がり、ふたりはそのまま人混みへと姿を消した。
しばらくして、納豆は困惑して目をばたつかせていた。
納豆「梅酒、さっきの女性が言っていた厄災というのは……どういう意味なんでしょう?まさか良くないことが起こるんじゃ?」
梅酒「わからない……ここはこんなに落ち着いているし。ともあれ、空から堕神が降ってくるとかだよね?」
梅酒がまだ言葉を言いきる前に突然濃い酒の匂いが漂ってきた。
酒呑童子「親分、こいつらです……。」
暴飲王子「ふん、お前たちか?」
納豆「暴飲王子だ!」
梅酒(どうしようどうしよう、酒呑童子が本当に呼んできちゃった……)
梅酒が気づいた時には暴飲王子が片手で大きな酒樽を投げてきていた。彼女が慌てて避けると、後ろから声がした。
梅酒は少し驚きながらも振り返ってみる。
そこにはまだ完成していなかったケーキが原型がわからないほどになっていた。
暴飲王子「はあ、酒を奢ってやろうと思ったのに、どうしてちゃんと受け止めないんだ?」
パステル・デ・ナタ「……。」
パステル・デ・ナタは目の前の崩れたケーキを見て無言で肩を回す。
36畏堕神
暴飲王子「むむむ、ただケーキを潰しただけだろう!私の酒樽が壊れてもなにも言わなかったくせに!」
暴飲王子「やるか?まだやるか?やるなら容赦しないぞ!」
近くで本来手助けしようとしていた納豆だが、一方的にパステル・デ・ナタにやられる暴飲王子を見てためらう。
梅酒「私たち……手伝う必要あるかな?」
街の通りはますます人が増え、本来冗談交じりだった暴飲王子も少し焦り始めた。暴飲王子は必死にパステル・デ・ナタの攻撃を避けてスッと建物の屋上へと逃げる。
暴飲王子「おい、そこの坊さん!」
納豆「……僕のことですか?」
暴飲王子「他に誰がいる?ここに来たのはお前に聞きたいことがあるからだ。その頭のお面を俺の酒と交換しないか?」
納豆「どうしてこのお面を欲しがるんです?」
暴飲王子「知ってどうする!交換するかしないかを答えろ!俺の酒はそう簡単に手に入る代物じゃないぞ!よく考えろ!」
納豆「……いりません。」
暴飲王子「なんでだよ!!!」
暴飲王子は予想外の返事に危うく屋根上から落ちかける。
暴飲王子「だったら、こっちも容赦しないぞ!」
暴飲王子が目を細め、後ろの尻尾で納豆を攻撃しようとする。
重陽糕「待つのだ!」
その時、ひとりの女性が人混みの中から現れる。
暴飲王子「……お前は?」
納豆(さっきの女性……遠くに行ったのでは?)
重陽糕「お主がわからずとも、わしはわかっている。今日お主に災いが降りかかることを。」
暴飲王子「……いったい何者だ!」
重陽糕「早く立ち去ると良い。でないとお主はこの災いから逃れられなくなるぞ。」
暴飲王子「……ふん!脅かすつもりか!そんなことで動揺なんてしない!」
般若「だ、だ、だーー」
突然、暴飲王子は遠方に機械のようにこちらに行進する般若を見つける。さらにその後ろに見知った影を見てゾッとする。
暴飲王子「どうしてこんな時に……もういい、酒呑童子、行くぞ!」
花火の下で
終わりの花火の下で、みんなはそれぞれの願いをかけた。
37転換
暴飲王子と酒呑童子はその場から離れた。周りの見物客も次第に散っていく。
納豆、梅酒、そして重陽糕はスイーツ通りを出てリバービーチで話しながら歩いていた。
納豆「わたしは納豆、彼女は梅酒。先ほどはありがとうございます。」
納豆「さっき暴飲王子に言ったことは本当なのですか?あなたは本当に見えるんですか……。」
重陽糕「ふむ。そんなに構えないでくだされ。わしの目は確かに人の災いを見ることができますが、何も話しにくいことはないのだ。」
梅酒「つまり、スイーツ店にいた時、あなたはすでに暴飲王子が襲ってくることを知っていたと?」
重陽糕「そうだ。ただわしの経験上、災いと幸福は比例するもの。わしはあまり誰かの運命を変えたくはなかった。だから教えなかったのだ。」
納豆「なら、どうして戻ってきたんです?」
重陽糕「……ふと思った。どのように災いから逃れるかを教えることはできぬが、少しでも抵抗したなら……わしの心も安らぐ。」
納豆「ああ、なるほど。優しいんですね。」
重陽糕は一瞬呆けて、その後顔を背けて表情を隠した。
そこからか人の歓声が聞こえてくる。スイーツ通り全体が急に静かになり、人々はみな空を見上げている。ちょうど一発花火が打ち上げられていた。
納豆「あ、これは花火大会がもうすぐ始まる合図!この後に本番が始まりますよ!」
梅酒「納豆、私たちもおでんのお店でみんなと合流しないと。重陽糕、一緒に来ますか?」
納豆「そうですよ、一緒に花火を見ましょう!」
ライス「うう……どうしよう……。」
梅酒「あれ?誰かが泣いてる?」
納豆「川岸ですね。言ってみましょうか。」
38しつこい客
納豆「なんだって、暴飲王子があなたのお面を?お酒を残して?」
ライス「うん。あのお面はこの後舞台で使うものなの……どうしよう……。」
梅酒「ひどいよ……納豆のお面が取れなかったからって、他の人のお面を取るなんて!」
納豆「すぐにお面を取り返してきます!」
梅酒「でもどうやって暴飲王子の居場所を……?」
重陽糕「お主ら、そこのお店を見たか?暴飲王子が店の中を歩いておる……店にはお面をした青年と、あとツインテールの女子もいる。」
――その頃、おでんの店では。
お好み焼き「おでん、片付けはすんだか?花火大会がもうすぐ始まるで!」
おでん「そう慌てんと。すぐ終わるから。」
暴飲王子「はは、花火大会の前になんとかお面を手に入れた!店主、早くこの店で一番うまいものを出してくれ!」
お好み焼き「うん?」
おでん「あ……お客はん、ごめんなぁ。もう店仕舞いなんや。」
暴飲王子「店仕舞い?ダメだダメだ、友達も呼んでるんだ!何か作ってくれ!」
お好み焼き「おい、あんた。店仕舞いだって言っただろう!こんなに店があるんだから、他の店をあたりなよ!」
暴飲王子「他に行けって?ふん、下調べもしてあるんだ。ここのおでんは伝統的な桜の島の味なんだって。ここで食うぞ!」
お好み焼き「はあ?流石にそれは迷惑すぎるんじゃないの?」
暴飲王子「いい度胸してるな。私が誰だかわかって言ってるのか?」
39どなた?
一方、納豆、梅酒そして重陽糕はライスを連れておでんの店へと向かっていた。
勢いよくおでんの店の戸を開けて入る。
梅酒「え?」
暴飲王子「クソォ……腹黒すぎるだろ……ううう!!!」
一同は苦しそうな表情で縛られた暴飲王子を見つけ、その口に雑巾をねじ込んで黙らせるお好み焼きの姿を見て唖然とした。
お好み焼き「あれ?納豆に梅酒?おかえり!あと新しいお友達?」
梅酒「お好み焼き、おでん!実はこれこれこういうことがあって……。」
――お好み焼きは暴飲王子が来てからのことを、納豆たちに話した。
暴飲王子「いい度胸してるな。私が誰だかわかって言ってるのか?」
お好み焼き「誰かなんてどうだってええやろ!」
暴飲王子「お、お前……どれだけの酒となら交換する!?教えろ!」
お好み焼き「酒に興味なんてな・い・ね!」
暴飲王子「とにかく、友達ももうすぐ来るんだ。その前には何か出してくれ!」
おでん「お客はん……えっと、わかりましたわ。そこまで言うのならお座りくださいな。しばしお待ちくださいねぇ。」
暴飲王子「そうこなくっちゃな!」
暴飲王子はズカズカと席に着き、おでんが茶を持って来る。
おでん「お客はん、先にちびっと飲んで待っててくださいな。」
暴飲王子「うん?美味そうだな。ゴクゴク……美味い!……うん!!??」
暴飲王子はそのまま頭から机に倒れこむ。
おでん「あたしはただ一時的に薬で動きを封じようと思っただけなんやけども、もしやこの方が暴飲王子?」
納豆「早まらないで、多分敵意はないと思う。」
ライス「ありがとう、みんな!」
お好み焼き「よし……ことも済んだし、みんなで花火大会に行くで!」
梅酒「じゃあ……暴飲王子はどうしよう……ここに放っておくの?特に人を傷つけてはないようだし、さすがにこれは……」
暴飲王子「ううう!ううう!」
お好み焼きが暴飲王子の口に詰まっていた雑巾を抜き出す。
暴飲王子「うはあー!お、お前たち!ひどすぎないか!私の仲間が絶対に見逃さないぞ!」
お好み焼き「友達って誰や?」
蛇君「彼の友達は私です。」
納豆「……蛇君!」
40願いの花火
納豆「皆さん、気をつけて。」
華やかな装いの蛇君は店にいた者を見て、最後に目線を縛られて身動きの取れない暴飲王子に向ける。
蛇君「なんて恥ずかしい。」
暴飲王子「……ふん!早く解いてくれ!」
蛇君が指を少し動かすと、暴飲王子を縛っていた縄が一瞬で切れた。
お好み焼き「どうしよう……アタシたちじゃ勝てそうもないし、逃げた方がよくないか?」
おでん「早まらんといて、多分敵意はないと思うわ。」
蛇君「暴飲王子、どういうことですか?どうして今日はずっと私を避けていたのです?」
意外にも蛇君は敵意を見せず、逆に暴飲王子を質問責めにする。
暴飲王子「それは……ああ、もういいや!般若みたいな顔するのはやめてくれ!」
暴飲王子「言えばいいんだろう、言えば!今日朝にお前から借りたお面をうっかり無くしちゃったんだよ。」
暴飲王子「怒られるのが怖かったから……だからお面が見つかるまでは避けてたんだ……。」
蛇君「……。」
暴飲王子「何が『奪う』だよ!ちゃんと酒と交換しただろう!このケチな食霊共。」
暴飲王子「ふん!蛇君!蛇君!早く般若に言って、俺を解放させてくれ!面子が潰れちまう!」
どこからともなく現れた般若たちが一斉に暴飲王子を囲みそのまま店の外へ連れていった。
蛇君「申し訳ない諸君、迷惑をかけた。」
蛇君は般若とともに去って行き、店には再び静けさが戻る。
納豆「よし。今のうちに記録してなくては。」
お好み焼き「ぷっははは!いいやいいや。アイツらは放っておいて、アタシたちは花火を見に行こうや!じゃないと本当に見逃しちゃうで。」
おでん「お好み焼き。会場までの道に詳しいお前さんたちで、先にライスを送り届けてきてくれるかい?店を閉めたら追いかけるさかいに。」
お好み焼き「わあったわ……早くしぃ!」
おでん「そうやな。」
皆が離れた後、店に落ち着きが戻る。おでんは散らかった店を片付けていると、窓の外から突然瑞気(ズイキ)がおでんの前に舞い降りてくる。
おでん「うん?これはいったい?」
おでんが驚いてそれを見ると、その瑞気は最終的に文章を成した。
おでん「「おめでとうやな、あなたは今回の祭典において優秀な働きを認め、創世日祭の大賞を授与する……『神君の願望』……神君にあなたの願いを告げてください。」」
おでん「……なんです?」
子の刻が訪れ、広場はとても賑わっている。
十……九……八……七……六……
我慢しきれない子どもが大人の服を引っ張りながら期待に満ちた表情を浮かべる。
お好み焼き「おでんはいつになったら来るんや!こないとホンマ怒るで!」
五……四……三……二……一……!!
鋭い音が舞い上がる光とともに暗闇の中に響き、鮮やかな花火が更に咲く。連なるそれは次第に線となり、海となる。それはまるで銀河のように、星空を彩る。
ロマンチックな光の下、人々が何度も歓喜の声を上げる。人々は皆、空に咲く花火の下で自身の願いを祈った。
梅酒(私の旅に後悔がありませんように。)
納豆(僕の記憶で、世界に美しさを残せますように。)
重陽糕(今日より災いを挑戦とし、良心ある者となろう。)
お好み焼き(アタシは……)
お好み焼き「ふん!今頃来てどうするんや!一回目の願い事の時間は過ぎちゃったで!」
おでん「大丈夫や、もう願っておいたわぁ。」
少し前の店内にて。
おでん「あたしの願いは、暴飲王子が無くしたお面が見つかりますように、やわ。」
おでん「はい、これがあたしの願いで間違いおません。祭典の日は、身分に関わらず、みんなが楽しむ権利を持っとるはずやから。」
お好み焼き「なにをお願いしたん?」
おでん「なんでもないさぁ。大したことのないお願いだよ。」
……この世界に、夢と希望がありますように、創世の日に乾杯!
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