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いなり寿司・エピソード

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いなり寿司のエピソード

神社に住んでいる、自称神の使者。神社が廃れてしまい、一人の暮らしはつまらないので、周りの村でいたずらするようになった。



Ⅰ.巫女

「稲荷様がお見えになりました!!!」

「稲荷様です!!」

「稲荷様がお見えになりました!!!」


感動の呼び声と共に、私は目を開けた。


目の前にいる神官と巫女服を着た人間が私に向かって跪き、絶えず礼拝をしている。


彼らの目の中の興奮は嘘じゃないように映った。


私は、俯いて自分の姿を見た。


私があの混沌の中で認識した通りであれば、私たちはこの世界に生まれたときに、自分の最初の心の持ち方によって外見が決まるはずである。


だが……。

私たち食霊を召喚した人間に、極めて強力な執念を持っていた場合をその限りではない。


「稲荷様、これが私たちが守っているものです。」


彼は、この稲荷神社は、極めて重要な神物を守っているが、全ての神物が破壊された日に、私たちの身が置かれているこの桜の島は破滅する恐れがあると私に話した。


彼の真面目な表情に、私はとても耐え難く、黙って頷いた。


ふむ……君が私を、あの退屈な混沌から召喚したのなら、君の願いを叶えてやってもいいだろう。


あの男は人間の年齢で言うと、かなり年上であろう。


彼の顎には長く白いひげが蓄えられていて、慈愛に溢れて優しそうであった。


ただ彼は、私を見ているとき、いつも私を通して、私の背後にいる誰かを見ているように感じた。


今から思えば彼らが見ていたのは、崇拝している『稲荷様』であり、私ではなかった。


稲荷様の在り方は――こうだ。


自分自身を慎んで守り、礼節を重んじる。


自分自身の純潔を守る。更に、如何なる穢れにも染まってはならない。


これら全てはあの老いぼれがいつも私の耳元でくどくど口にしている話である。


彼はそれでも十分に私を尊重してくれた。


しかしそれは、彼が求めていた『稲荷様』像通りに、私が振舞っていたときだけだ。


「あら~九尾様、また来てくださいね~」


遊女の柔らかい指の腹が手の甲をなぞる、


媚びた笑顔と離れ難いと訴える瞳には、計算に満ちていた。しかし、私はそれが嫌いではなかった。


何しろ、同じ水商売をする相手だとしても、誰でも自分の気持ちを分かってくれて、優しくしてくれる人と一緒に居たいだろう?


――当然だ。


「おや……ぬしが最近、みなに好かれている九尾様でありんすか?」


冗談めかしい軽薄な声が聴こえてきて、振り返って、上を見あげた。


真っ先に目に入ったのは彼が赤い階段の上にだらしなく広げた長い振袖。


正装だが、彼は自由気ままに着こなして、だらしなく腕に振袖を掛けていた。


弧を描いた眉と目は艶やかな遊女よりも一層他の者を魅了した、


私は仰ぎ見て、彼を吟味した。彼が私を見つめている視線に気が付いたとき――彼が私と同種であることに気がついた。


「九尾様、今日はあちきのお供で一杯飲もうでありんす」

「それには及ばない」

「えぇ? 店主ったら、また他の者の商売を横取りしてぇ」

「今日の売り上げはアンタにつけとくよ」

「まぁ素敵ね。だったら邪魔はしないわ」


私は顎を支え眉を上げて、聞こえのいい言葉で女の子の機嫌を取っている青年を見る。


「極楽の店主かな?」

「それが? もしや怖気づいたのかい?」

「いえ。是非とも飲みましょう。」



夜更けに神社に戻り。鳥居を通った瞬間、あの老いぼれの怒号が聴こえてきた。


「あなたはまたこのような汚らしい姿で穢れた場所に行ったのですか!」


私は冷ややかに笑い、何も答えなかった。


本来の姿に戻り、したい事をしている私は穢れている、と?


そのようなこと、言われる筋合いなんてどこにあるのだろうか?


そう思って、私はただ黙って彼を見つめるのだった。

Ⅱ.神の使い

「ふふ――つまり、ぬしは昼は女になって、氷のように清らかな稲荷様に扮して、夜は元の姿に戻ってお酒を飲んで退屈をしのいでいるんでありんすか?」


大吟醸は笑いながら私を見た、彼の目に浮かんだ笑いに私は気持ちを持て余してしまう。


彼は知り合った当初の妖艶な容姿から変わってはいないが、私の前では以前よりも生き生きとしている、そして……ちょっと腹立たしい者となった。


酒を一口で飲み干したら、彼は私の肩に腕をかけて言った。


「あのつまらない連中を見捨てて、極楽に来た方がいいんじゃないかえ。九尾のような顔なら、女の姿に戻ったら、この花魁の立場を受け渡すしかなくなるだろうよ。ふむ……男の身も悪くはないな。男と女、一日ずつ交互で店に出たらどうだい?」

「しっしっ、寝言は寝て言え」


私はつまらなそうに、彼の手を振り払う。

そして、お腹抱えて地面にひっくり返って笑っている大吟醸を見た。


自分の顎を支え、外の静かな空を眺めて、長い溜息をついた。


女性の姿を嫌っているわけではないが――と

むしろ女性の姿も悪くないと思う。


だが、このような日々は実につまらない……





「き、君!君は良し悪しも分からないのか!またあのような穢れた場所に行ったのか!穢れた者たちと仲良くなって!……何故笑っている?そんな顔で笑っているんだ!君!!!今すぐ上着を脱いで、滝に行って身を清めてくるんだ!!!!」


寿命が風前の灯火のようだというのに、私に張り合ってくる老いぼれを見て、顔から笑みが消えた。せっかく極楽で少し気持ちを落ち着かせてきたのに……私は苛立ってきた。


もう冬と呼べる時期、滝の先端には氷柱が少し出来ていた。


ザーザーと流れてきた水によって全身の服で体に張り付く。


そばに座って腹を立てながら私を見る老人を見て、思わず首を振って目を閉じた。


私をこの世に呼び出してくれた彼に、感謝をしていない訳ではない。


そう、私たちの間には、悪い思い出だけ残っている訳でもない。


彼は優しく私の髪を束ねてくれる。

私のために柔らかい布団を敷いてくれる、

私の好きなお茶を準備してくれる……。


だが、私は知っている。


『この全ては、私のためではなく、彼が信仰している稲荷様のためでしかない』




とはいえ、彼が私の御侍であることに変わりはない。私は、彼の意思に従うだけだ。


彼はもういい歳だ。彼を看取ってからここを離れる事を考えればいい。


――人間は本当に弱い。

弱いし、力もないし、強さもない。


枯れ木のような形をした手が、私の手の甲に重ねられた。彼の両目はもう濁っている。


「稲荷……あなたは稲荷様です。覚えておいてください。『あなたは稲荷様です!』」


「安心してください。あなたが私を神と仰ぐなら、私は神としての責任を果たします。」

「良かった……あなたがそのように言ってくださるなら、私はもう……安心です……」


和室を出ると、神官や巫女たちは急いで私を退け、私には聞こえないと思っているだろう小さな声で話をしだした。


「ハッ、こんな化け物を神だなんて」

「チッ、そう思ってるのはあの老いぼれだけでしょう」

「そうだ、これでやっと彼をここから追い出せるのでは!?稲荷神社を私たちの物に出来るのできるんじゃ!」

「そうだ!毎年のお供え物を……へへへ」

「でもこれは、神様にあげるものじゃ……」

「神様なんていない。あの老いぼれしか神を信じてないよ」


――ああ、なんて穢れた人間。


神様には喜びだけじゃない、悲しみや怒りもあるのだ。


君たちが神を敬ってこなかったのなら、それは神への冒涜だ。


神を冒涜する者たちには天罰が下される。

天誅を受け、この地が滅亡するだろう……。


Ⅲ.怪物

この土地の人々は、神に様々な恩恵を与えられている。しかしそれらすべてのことを、彼らは長い月日をかけて忘れてしまった。


神は彼らに豊かさを与え、平和を与えた。


しかし、彼らは敬うことを、感謝することをしなくなっていた。


彼らを助けるために召喚された食霊も神様と同様に、この世に君臨してから尊重されることはなかった。


「フッ、化け物は化け物に処理してもらわないと」

「フン、こんな化け物は早く死んだ方がましだ!」

「共倒れが一番良い、そうじゃないとまたその怪物に衣食をあげないといけなくなる」


そんな雑音を余所に、大吟醸は酒を飲んでいる。彼は顔を上げて黒い空を見て、綺麗な弧を描く眉をひそめた。


「何故、力を持っているあちきたちの方が、暗闇の中に隠れて、弱い人間たちの外見を模して隠れてなきゃいけないのか……間違いなく、あちきたちが彼らを守っているのに……」


私は、彼の言う通りだと思った。


(……なぜ彼らを守ってあげている私たちが感謝の言葉すらもらえず、あまつさえ化け物――『怪物』などと呼ばれるのか……)


「怪物と呼ばれるからには、怪物のようなことをしないとねぇ……」


大吟醸は艶やかに笑い、彼の目尻は微かに弧を描いた。


私はわかっている。彼は、魑魅魍魎の世界に私を誘っているのだ。


(私は、いつも彼を見透かせない……それは友達でいるのに、障害になっていないか?)


彼の一言一句は、ひどく私を惹きつける。むしろ私の心に深く響いた。


長い間庇護を受けてきた人間は、神様を尊重することを忘れてしまっている。


ならば、神様のもう一つの顔を思い出してもらうべきだ。


私たちは自分の手を汚す必要すらない。

ただ、手をこまねいて傍観していれば良い。


彼らは、自身の抱いた欲望から生み出された怪物に飲み込まれるのだろう。



***



それは赤く空が染まった夜だった。大きな炎が神社を呑み込み、真っ赤に燃えていた。


悲痛で凄まじい叫び声は、風に覆い隠されて地面に飛び散った血痕は炎の中で漆黒に色を変えた。


神社に入ると、私を召喚した男を「あの老いぼれはボケている」と嘲笑った神官が、私の足首を掴んで震える声で訴えた。


「稲荷様……! どうか私をお助けください……お願い、助けて……!」

「君は神様を敬った事はあるかな?」

「え? 私は……」

「私はその答えを知っている。君はこれまで一度だって神を敬わなかった。それなのに、どうして神に助けてもらえると思うんだ? 愚かな人間よ、自分で自分を助けたまえ」

「……クッ! ば、怪物!!!! この怪物めがっ!!!」


今まさに私に助けを乞うた人間の目の色が、変わる瞬間を見た。憎しみを宿しているその瞳を見て、私は冷静になっていく自分を発見する。


『怪物と呼ばれるからには、怪物のようなことをしないとねぇ……』


目を伏せて、大吟醸が呟いたあの日の言葉を思い出した。


――怪物になることで、君たちのこれまでの行いを思い出させることができるのなら、私は、怪物になっても構わない……。


小さなため息と引き換えに、私はゆっくりと目を開いた。


Ⅳ.神社の下

「ほお、これは綺麗に焼けたねぇ」


大吟醸は自分のあごを撫でながらあたりに広がっている外壁の残骸を見て、そう呟いた。


私と大吟醸は僅かに残った階段の上に座り、神様のために一生懸命神社を再建している人間たちの姿を眺めながら酒を飲んでいた。


(面白いものだな。神社があるときは神様がいたことすら忘れてしまっていたのに)


大きな災害に直面した時だけ、彼らは神様を思い出すんだ。


全ての『怪物』たちは、もう無条件では彼ら人間を助けなくなるだろう。


そのとき、やはり彼らは思い出すんだ、これらの『怪物』もそれ相応に尊重すべきだったことを。


(そんな『怪物』たちのため、彼らは次々と祠堂を建てて、お供えをするんだろうな)





大吟醸は退屈だったようで、早々に極楽へと帰っていった。


私だけがひとり、残骸の中に座ってあくびをしながら忙しなく動く彼らを見ている。


すると、そんな中のひとりと視線が交わり、私は肩を落とした。するとその人間は、おどおどと私に近づいてくる。


「あの……稲荷様……神社の中に隠し扉を見つけまして……その、見に行っていただくことはできないでしょうか……?」

「うん?」

「あの……我々には隠し扉を開けて中に入る勇気がないのです。だから、あなた様に見に行っていただきたく……」

「いいよ。今日はもう遅いし、君たちももう帰って休んだら?」

「あと……畑にいる怪物たちの退治を……」

「わかった。明日見に行くよ」

「ありがとうございます、どうもありがとうございます!!!」


(以前までは「ありがとう」なんて言葉は、絶対に言わなかったのに)


長いため息をついて、頭の奥に浮かんだ多くの感慨を一掃し、私は立ち上がる。そして、その隠し扉の所に向かった。






隠し扉の中は、寒くて薄暗い場所だった。

そして私はこのとき初めて神社の下にこんなにも大きな空間があることを知った。


(神社に地下があったことも驚きだが、その一番深い場所に神祠があったとは――)


神祠は巨大な力によって守られており、近づこうとしても拒まれてしまう。


だが何故かその不思議な力に覚えがあった。


手を伸ばして結界に触れる。


(この結果の中に流れているのは……)


やはり最初に私を呼んだ時、混沌から私を切り離してくれた力だった。


(結界の中心で黒い霧に包まれているのは、まさか……)


人間たちは……神器を守るために、強制的に食霊を召喚するための巨大な力を抜き出していた、


そして、この世に生まれたはずだった食霊の魂が、この巨大な力の奥に閉じ込められている……!


(つまり……それは、もしかしたら……?)


Ⅴ.いなり寿司

純米大吟醸には分からなかった、


彼は、己の悪友に酒のつまみを持って行った僅かな間しかここを離れていなかったのに。


いなり寿司の傍らには彼の裾を握り、誰が近づいても敵視する小さな狐がいた。


「……ぬしの隠し子かえ?」

「大吟醸、本気で殴るぞ」

「この子、一体どこで拾ったんだい?」


ポンッ――


鋭い音が響く。

それと同時に、キツネうどんへと歩み寄った純米大吟醸の前に突然小さな壁が現れた。


「おっと――」

「九尾さまに触らないでよ!」

「……おや、チビは結構ガードが強いな。九尾、正直に言え。どこで拾ったんだい?」


いなり寿司は、額をさすっている大吟醸と、己の裾を握り、己の背中からひょこんと顔をのぞかせているキツネうどんを見て、堪らず笑ってしまった。


「天から落ちてきたと言ったら、君は信じてくれるかい?」

「いいや。言いたくないならいいさね。いなり寿司、こっちに来て、あちきと酒を飲もうじゃないか。お子様の誕生日を祝う体で」

「お子様じゃないよ!」

「フン、そのなりでお子様じゃないと」

「違うから違うって言ったんだ!」


いなり寿司はしょうがないといった様子で、首を横に振った。そして純米大吟醸の酒瓶を手に、ひとりで飲み始めた。

それから横を向き、漆黒が広がる空を見た。


「九尾、何が見える?」

「何も見えないよ。ただこの空に何か飾りがついてたら、もっと綺麗かなと思っただけ」

「……フッ」

「何故笑う?君もそう思わないか?」


純米大吟醸は肩をすくめ、杯を持ち上げて、いなり寿司に軽く触れた。


それから、透明で冷たい澄んだお酒を一気に飲み干す。空を眺める表情は優しいが、その影には冷たさが見てとれた。


「つまらない物なら、捨てた方がいい」


純米大吟醸は振り返り、キツネうどんに酒を注いでいるいなり寿司に驚いてしまう。


「これは君が教えてくれた事だろう?」


そんないなり寿司に、純米大吟醸は眉を吊り上げ顎に触れる。


そんな彼らに気づかれないように舌を出し、キツネうどんは杯の酒を恐る恐る舐めた。


「うっ……!」

「どうかしたのか?」


純米大吟醸の問いに、ふいとキツネうどんは顔を逸らす。


「このお酒はなかなかきつい酒だぞ。空から落ちてきたお子様には耐えられないかもな。酒を飲むのは、耐えられないかもな。酒を飲むのは、初めてであろう?」


純米大吟醸の言葉に、キツネうどんはカッとなって、杯の美酒を一口で飲み干した。


「うぅ……ひぃーっく!」


キツネうどんはしゃっくりをして、そのままテーブルに突っ伏した。


そんなキツネうどんを横目に、純米大吟醸は静かに呟いた。


「聞いたところによると……この桜の島には神器の守護があるようだ。神器が全て壊れてしまうと、破滅の危機が訪れるらしいね」

「そうだね、それがどうかした?」

「じゃあこの……空から落ちてきたお子様の手の中のカギを最終的に開けるのは、どんな門なんだろうか?」


いなり寿司はキツネうどんの髪を撫でる手を止める。


(キツネうどんのカギのことを、何故、彼は知っているのだろうか?)


洞察力が優れているのか、それとも――


しかし、その追求をここでするのはやめた。まだ自分は純米大吟醸のことをよく理解していないからだ。


(そうだ、問題は他にある)


にこやかに笑う純米大吟醸を、いなり寿司は首を傾げて見つめる。


「その謎を明らかにするのを急ぐ理由は? 私はまだ、こうして穏やかに酒を飲める友を失いたくないな」

「急いではいないさ。他の神器が全て顕現してから、またこの話をしても遅くはないね」

「私が逃げる心配はしないのかな?」

「九尾さまは自信家だ。逃げるわけがない」


そこで一息つき、純米大吟醸は手にした杯に酒を注いだ。


それをいなり寿司に渡してから、己の杯にも酒を注いだ。


「さあ、もう一杯いこうじゃないか、これは極楽で最高のお酒だ!ぬしだからこそ、差し出す酒だ」

「フッ……良いだろう。飲もうか、友よ!」


ふたりは杯を軽く当て、ゆっくりと注がれた酒を体内に沁み渡らせる。


――今しばらくは、月を肴にこの享楽を。


いなり寿司純米大吟醸が持ってきた極上の酒を飲みながら、しみじみと思うのだった。



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