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天使と悪魔のパラダイス・ストーリー_2

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ソフトクリーム/生き残った芽

「新入り?」


ソフトクリームです。魔導学院のサイモン先生の紹介でここのシードライブラリへ実習に来ました」


ソフトクリームは両手で推薦状を渡し、大人しく結果を待っていた。


受付窓口のぽっちゃりとした女性は推薦状を手に取り、窓越しでソフトクリームを一目見た。


「実習の準備はちゃんと出来てるの?」


「はい。エデンのシードライブラリにずっと憧れていました」


「前に来た実習生もそう言っていたよ。数日も経たないうちに凍っていなくなったけど」


「大丈夫です、生まれつき冷たい場所が好きなので」


「まあ、長く続いて欲しいけどね。ここで少々お待ちください」


女性は早口でぶつぶつと言った。


そしてお尻の位置をズラして、少し嫌そうに深呼吸してから椅子から飛び降りた。一瞬、女性の後ろに尻尾みたいな物がついているように見えたが、すぐに見えなくなった。


ソフトクリームは見なかったフリをした。


来る前から、ミドガーのエデンは風変わりで神秘的な植物園だと聞いていた。ここには多くの食霊が住んでいる。実習に来たら、むやみにちょっかい掛けたり、興味を持ったりしない方がいいとされている。


エデンにはティアラで最高レベルの生態ライブラリがあり、研究者の天国とも言われている。

ソフトクリームは完全にここの最先端の研究施設を目当てに来たので、どんな同僚や仕事環境だって受け入れられる。


「これを着て、私についてきて」


女性は受付の部屋から出てきて、白衣を渡してきた。


ソフトクリームは白衣を受け取り、大人しく着た。


女性についていくと、程なくしてある平屋に辿り着いた。


「ここよ、これ以上進まなくていい」


女性は更に進もうとするソフトクリームを呼び止めた。


「……はい?」


ソフトクリームは瞬きをして、戸惑いながら女性を見てから平屋の方を見た。


ここは森で、この平屋以外は何もなかった。


「ここですか?」


「そう、ここよ」


女性は両手を伸ばした。袖から現れたのは細い腕だった。この時ソフトクリームは気付いた、女性はぽっちゃりしていた訳ではないと。ただ大き目のセーターを何枚も重ね着していただけ。


女性は平屋のドアを開けた。中の空間はとても狭く、何もなかった。


「入ってきて」


ソフトクリームは困惑しながらも平屋に入った。


疑問を口に出す前に、セーターを着込んでいた女性はドアを閉め、何かしらのボタンを押した事で、床は突如物凄いスピードで下へ落ちていった。


「きゃっ!」


ソフトクリームは思わず叫び出した。


程なくして下降は止まった。


平屋のドアは再度開かれ、強烈な光が差し込むと同時に、冷たい空気も一気に入ってきた。


「出てきて、ここがシードライブラリよ」


ソフトクリームは目をこすって、周りを見た。


周りには四方八方に通じている通路があった。彼女と同じように白衣を着た人々は、忙しなく通路を縦横無尽に歩いていた。


――なんど地下に研究センターが!


「しっかりついてきて。ここで迷子になって、行ってはいけない所に行ったら、助けてあげられないから」


ひとしきり驚いたあと、ソフトクリームは急いで女性の後を追った。


しかし好奇心を抑えきれず、思わず質問を投げ掛けた。


「行ってはいけない所とは、どういう所ですか?」


「それはもちろん古い精霊植物の種がある所よ」


「そんな物もあるんですか?」


ソフトクリームは驚いて声を上げた。


女性は予想外な顔でソフトクリームを見た。


「そんな事も知らないの?」


「すみません、魔導学院でずっと食霊の生態を研究していたので……サイモン先生からも、自然学科への知識が欠けていると言われました。実はこの分野に関してはあまり詳しくないんです……」


「サイモン先生に免じてよしとするわ」


女性は肩をすくめて、こう言った。


「とにかく危険な物だから、園長からも接近禁止令が出されているの」


「ただの植物の種なのに、近づいたらどうなってしまうんですか?」


「それらの種は、あんたが想像しているような種と違うわ。寄生されたら、大変な事になるわよ」


女性は何かを思い出したかのように、目を細めた。


「昔何かあったんですか?」


女性は首を横に振る。


「あんた本当に何も知らないのね」


「本当にすみません。でも物すごく知りたいので、教えてくれませんか、先生?」


ソフトクリームの「先生」の一言で、女性の機嫌は一気に良くなった。


「まあ、別に秘密じゃないし良いでしょう」


女性はまんざらでもない顔で話し始めた。


「あの時、エデンにはまだこれ程の施設はなかったし、スタッフも少なかった。だから園長はよく自分で種子の採取や実験をしていた」


「ある時、園長は"悪の花"と呼ばれている古い精霊時代の種を手に入れた。"悪の花"を育てて、当時まだ種が少なかったシードライブラリのラインナップを増やそうとした。だけど、実験中にその種はある食霊に盗まれた。"悪の花"はその食霊に寄生して、彼を人殺しの悪魔に変えてしまった。ミドガーで大きな騒ぎにもなった……それ以来、園長は接近禁止令を出した」


「エデンにはそんな事があったんですね」


「そうなのよ。そう言えば、幸いあの寄生された食霊は"アーク"に関わっていたわね。もしそうじゃなかったなら、あんな騒ぎになったんだから、園長はきっともっと大変な目に遭っていたでしょうね……その表情……あんたまさかアークの事も知らないの?」


ソフトクリームは恥ずかしそうに笑った。


「あんたね、本当に世間に関心がないのね。話が長くなるから、詳しい事は後で調べて。とにかくアークは公益組織のはずなのに、当時は極端な人間が集まっていて、裏で食霊の人身売買に関わっていたのよ。こっそり買った食霊で実験を繰り返していたみたい。食霊の体を武器に改造して、人造の神なんてのを作ろうとしていたらしいわよ。終末に備えるためって謳ってたけど、おかしいと思わない?」


「食霊で神を作るんですか?愚かですね!」


ソフトクリームは驚きの声を上げた。


「本当にその通りだわ」


女性は話を続けた。


「あの寄生された食霊も、アークの実験室から逃げ出した実験品だったの。寄生されてからは、悪の花の力を利用してアークへの復讐をして、大変な騒ぎになった。まあ最後は園長と園長の友達がどうにか問題を解決したみたいだけど、大きな代償も払ったらしい……」


「そういう事だから」女性は足を止め、通路にあるドアを開け、ソフトクリームを中に通した。


「今後絶対にそういう植物に近づかないでね。あんたは食霊だけど、あの種はやっぱり危険だわ。分かった?」


「はい、近づかないようにします!言われた仕事だけやるつもりです」


ソフトクリームは大人しく答えた。


女性は満足げに頷いた。


「ここがあんたの実験室。主な仕事は各地で採取した新しい種の分析、それからシードライブラリにある種を最適な状態に保つ事。詳細は指導の先生が来たら教えてくれるから」


「案内して下さって、ありがとうございます」


女性は手を振り、そこから離れた。


ソフトクリームは一人で実験室に残り、少し落ち着いたようだった。珍しそうに目の前にある器具たちを見ていた。左手でルーペを取り、右手でガラスの模型を開けて、観察しながら独り言を言った。


「食霊で神を作る?センスがなさすぎるよ。私の御侍が生み出そうとしているあれこそ、本当の新しい神だよ……」


カプチーノ/運命の槍

ガシャンと音が鳴って、カプチーノがこの部屋の最後の一つの花瓶を壊したが、寝室の扉や窓はまだ完全に壊れてはいない。


「出してくれ!ダニエル先生を助けに行きたい!」


カプチーノ様、旦那様と奥様が言っていました、どんな理由があろうと、今日が終わるまであなたを出してはいけませんと。あなたは朝こっそり逃げ出しましたからね。」


ドアを隔て、召使いの声が蚊の鳴くような声で聞こえたが、それでもからかう感じがあることが分かる。


カプチーノは腹を立ててその場で腰を下ろした。


どうしてこんなことになったのか彼にはさっぱり分からない。


今日の朝、彼は御侍さまと一緒に王室の宴会に参加するつもりだが、この宴会は普通でくだらないので、馬車が途中まで走っている時、カプチーノは御侍さまと奥様が気付かないうちにこっそり逃げ出した。


カプチーノは家に帰らず、ダニエル先生のところへ行った。今日エデンでは無料の遊覧イベントがあって、彼は手伝いたいと思っていた。


しかし、誰にも予想できないことに、カプチーノがエデンに着いて間もなく、アークからの衛兵たちが急になだれ込んで来て、ダニエル先生の植物園には危険な邪悪植物があると言って、そして変な装置を使って、その場でミネストローネの真の姿を暴露させた。


――ミネストローネの体にはなんとも恐ろしい悪の花が寄生している。彼は逃げたが、ダニエル先生は悪の花の実験をした責任者として、彼ら衛兵たちに連れ去られた。


彼は阻止したいと言ったが、ダニエルはこう返事した。「当面の急務はエデンの事務をちゃんとこなすこと、なにせミネストローネの暴走によりお客が驚いてしまいましたから……」


それで、彼はいやいやながらそこに残って、一人でエデンの事態の後始末をして、そして片時も休まず家に帰った。


彼は御侍さまに助けを求めたくて、彼の王族の身分でアークにダニエル先生を解放させたいと考えたが、思わぬことにすでに待ち構えていた召使いたちがすぐに彼を「逮捕」した。罪名は「若旦那さまがまた宴会から逃げたせいで、旦那さまが大変ご立腹だから。」


普段なら、外出を禁じられても彼にとってはただの日常茶飯事だったが、今日の状況は違う。ダニエル先生がまだ危険な状況から離脱できていないというのに、彼がどうしてじっと座っていられるだろうか?


しかし、どう繰り返し繰り返し頼み込んでも、どう怒って騒ごうとも、見張りの召使いは一切聞こうとしない。彼らにとっては、このやんちゃな若旦那さまの悪知恵はよく働くので、騙されないために、旦那様がお帰りになって処遇を決めるまで待つ方が一番である。


もしかして本当にぼくが普段遊びすぎたせいで、これがぼくに対する罰なのか?


無駄なあがきをした後、カプチーノは落ち込んで地面に腹ばいになる。


太陽の光はガラス窓を透き通って部屋を照らし、窓外の朝顔はすでに夕暮れの訪れと共に少し紫となっている。


時間が一分一秒と流れて行く……。


「あ!」


突然、扉の外から聞こえてくる異様な音がカプチーノに聞こえた。


彼は警戒心のあまり飛び上がり、入り口へ跳びつく。


「どうした?」


「き、君は誰だ???うっ――」


扉の外で、召使いは彼に返事することなく、声がどんどん弱まっていく。


「おいーー!大丈夫か??」


カプチーノの心臓がドキドキ跳ねて、彼は焦りながら扉を叩く。


その時、扉の外から鍵が鍵穴に挿し込まれる音が伝わって来て、カプチーノが鋭敏に後ろに何歩か下がる。左右を見て、無造作に傍らに置いてある装飾品の槍を持って、扉口に向かって警戒している。


ガタッと扉が開くと、ミネストローネが傍らに倒れている召使いを蹴飛ばし、ゆっくりと歩いて来る。



扉が開くにつれて、束縛の魔方陣が破壊され、霊力が再びこの部屋に流れて来た。


カプチーノはようやく霊力を使えるようになったが、彼は自由を取り戻した喜びをちっとも感じていない。


「そのまま立て、動くな!!」


彼は槍を構えて、ミネストローネに向かって大声で叫ぶ。


正直、今彼の気持ちはとても複雑である。過去の日々の中で、ミネストローネは時々自分と言い争ったが、エデンガーデンの旅から帰った後、彼らの関係もだいぶ緩和になった。彼と時には争う事もあるが、本当に仲たがいすることはなく、永遠にその関係は続くとカプチーノは思っていた。


でも今日、今、彼の目の前で――ミネストローネは何らはばかる事なく悪の花の邪悪な力を示している。


「なんでこんなことに?」


――今日これで二回目だ、カプチーノがこころの中の自分にそう聞くのは。


「こいつらは一時的に悪夢に陥っただけだ。オレはお前と喧嘩をしに来たわけじゃない、小僧。」


彼はカプチーノの槍に対し何の心配もなく、大股で彼を無視し、まっすぐに窓へ歩み、片方のカーテンを開け、そしてさっと閉めた。


突然、部屋の中の太陽の光の大半を弱めた。これでミネストローネの気分がよくなるようだ。彼がぎゅっと寄せられていた眉を少し緩めたが、彼の邪気もまた理由もなく三割上がった。


これはカプチーノをさらに緊張させた――彼はこんな悪意に満ちているミネストローネを見たことがなく、今と比べたら、以前エデンでたまに感知出来た悪念なんて大したものではなかった。


「一体どういうことだ!お前はなぜ、なぜそんなものに染まったんだ!」


「お前に関係ない。」ミネストローネが冷たく言う。


カプチーノは一瞬ぽかんとして、そして歯を食いしばる。


「じゃあダニエル先生は?もし彼が尋ねたら、お前はそう答えるのか?」


「……」


ミネストローネの動きが少し止まったが、すぐに、彼はもう片方のカーテンを閉めた。部屋が徹底的に暗闇になったのに伴って、カプチーノは彼の低い声を聞こえた。


「オレがここに来た理由はお前からアイツに伝えてほしいことがあるからだ。悪の花の種はオレが極雪原で盗んだ。オレは悪の花目当てであそこに来た。アイツと知り合ったのも偶然なんかじゃない。アイツを救ったのもエデンガーデンの所在を知っているからというだけだ。」


「とにかく、アイツはオレに騙された。最初からすでにだ。だから今後オレのことを見知らぬ者として欲しい。また赤の他人と関わったらもう二度とそんなに無邪気でいてはいけない。」


「だから、それがぼくに言いたいことなのか?」

カプチーノは低い声で問う。


「そうだ。」


「馬鹿野郎!」


ミネストローネは冷笑しながらうなずく。次の瞬間、いきなりパンチを喰らって倒れた。


カプチーノは飛びかかって、彼の襟を掴む。


「お前……お前は……そんなこと伝えたら、彼が悲しまないとでも思ってるの?」


「誰が勝手にこのまますべてのケリをつけていいって言った?」


「ダニエル先生、先生は……先生はお前のこと、最高の友達だと思ってるんだよ!!!」


「……」


カプチーノの泣き叫ぶ声を聞いて、ミネストローネが少し止まり、しばらくの間、彼は血が付いた口元を拭いて、ゆっくりと立ち上がる。


「アークがエデンに訪ねて来たのは偶然じゃない。アイツらの真の目的はダニエルからエデンガーデンを奪うことだ。」


彼は話の向きをさっと変え、カプチーノは一瞬ぽかんとした。


「なんだって?」


「オレの体に悪の花が宿っていること、これは事実だ。でも悪の花の種はアイツが管理しているから、オレが徹底的にアイツとの関係を断ち切るしか、ダニエルの嫌疑は晴れない。」


ミネストローネが平静に話す。


カプチーノはいらだって自分の頭を掻く。

「いや、おかしいよ。仮に悪の花に寄生されても、それがまたどうしたって言うの?ただの実験ミスで、あなたとダニエル先生は誰も傷つけて……待って……もしかして……」


カプチーノの話が止まり、まるで何かを思い出したかのように、「信じられない」と言いたげな顔をしてミネストローネを見る。


「そうだ。人を殺した。人を沢山殺した。」


カプチーノの顔色がすぐに青白くなった。「……悪の花の寄生のせいか?」


「いや、オレは自ら悪の花を利用し、復讐を果たした。」ミネストローネはそっけなく言う。


「……復讐?かたきでもいるの?」



「これはお前が質問すべき問題ではない。」

ミネストローネは迅速にこの話題を飛ばした。


「お前は、今回アークがオレのことを言い訳としてダニエルを連れ去ったということだけを覚えていればいいんだ。次、誰がどんな方法でアイツに近づくか分からない……その時は小僧、アイツのそばにはお前しかいないんだ。」


「……」


カプチーノはもう二度と聞かず、沈黙がこの部屋に蔓延した。


暫くすると、カプチーノが無力な囁きを口にした。


「なんで、こんなことになるんだよ……」


潮水のような辛い気持ちが彼の心の底からどっと現れたが、なぜなのかは彼自身にもわからない。


「おい。」

突然、ミネストローネカプチーノの額に思いっきりデコピンをした。

「いつまでもガキなままだと、ダニエルのことを守れないぞ?」


「いた――」


カプチーノが額を覆うと、心の中にある原因不明の辛い気持ちがすぐさまきれいに晴れた。彼はミネストローネをじろりとにらんだ。「心配するな、ぼくは必ず先生を守る!」


「守ってやれよ……」ミネストローネは腰をかがめ、目を細める。「じゃなきゃ、オレはここに帰って自分のやり方で処理するしかなくなる。」


「お前……そうはさせないよ。帰るチャンスなんて与えないからな!」


「ふん、そうだといいんだけど。」


ミネストローネはまっすぐに立ち、口元を引き上げ、ズボンのポケットから一枚のメモを取り出して、空中に投げる。


「ダニエルが監禁されている場所の住所だ。お前の代わりに調べた。そこにいる奴はお前を困らせない。アイツを取り戻せ。」


言い終わると、彼は手をポケットに突っ込んで、振り返りもせず去った。


カプチーノは慌てて空に舞い落ちるメモをキャッチした。


彼がメモを持って部屋から出て追いかけた時には、ミネストローネはすでに空っぽの廊下から消えていた。



どこから来た風かは知らないが、その風で寝室の閉めたはずのカーテンの一部が開いた。


光が再びこの空間に入った。


この世界に一筋の希望さえあれば、太陽の光は再び大地に戻る。


カプチーノは一息深々と空気を吸い込んで、手中にあるメモをぎゅっと握って外へ歩みだす。


「見てろよ、ぼくはお前が思ってるよりずっと強くなるからね!」


マッシュポテト/罪を被る身

「これらの金貨をあなたにあげます、全部あげます。」

「え……先生、それは……お金の問題じゃなくて……」

「お願いします、その船を貸してください。」


グルイラオの南部沿岸に島がある。その名はシチリである。

邪悪な精霊植物「悪の花」に侵入されて、グルイラオの王室は「島全体を封鎖隔離しろ」と強制的に命じた。

マッシュポテトは今小船を操作して、独りで海を渡ってそこへ向かっている。


航路が封鎖されたので、彼はたくさんの金貨を使って航路を見張っている職員を買収した。「空が暗いうちに、こっそりと行ってください、道中で生きようが死のうが私には関係ありません」とスタッフが言った。


マッシュポテトはためらうことなく承知し、その危ない道に足を踏み入れた。


「あの島はもう救いようがないですよ。上にいるのは全部汚いものばかりですよ。王室ですら手に負えないのに、あなたが行って何の役に立つんですかね?」


船の鍵をマッシュポテトに渡してる時に、そのスタッフが善意から彼に再び忠告する。


彼はついさっき目の前にいる食霊のおかげで大金を儲け、貧困な生活から抜け出せる喜びに浸っていたので、彼はマッシュポテトに幾分か同情をつけ加えた。


マッシュポテトはただ頭を横に振り、何も言わずに去った。


他人から見ると、彼は意地っ張り強がりの馬鹿かもしれないが、彼は分かっている。この旅は他人を救う旅なんかじゃない……自分を救う旅だ。


悪の花は、初めは彼が極雪原に植えた物だ。


もし当時彼が一個目の種を植えなければ、極雪原を通り過ぎたミネストローネも寄生されず、その後も悪の花の力でこの島丸ごとを全滅させるような結果になったはずがない。


「すべては僕のせいで起きたことなので、僕は無視するわけにはいきません……。どんなまずい状況であっても、少なくとも僕も何かできることをして、自分を安心させます。」


そんな思いを抱いて、マッシュポテトは小船を浅瀬に泊めて、この見知らぬ土地に足を踏み入れた。


シチリ島はグルイラオでもっとも人気がある観光島だったそうだ。ここの四季は春のように暖かく、景色が良く、島の住民も情熱的で客好きであった。


しかし現在は目の前のすべてがすでに別物のように変わっていた。


濃霧に包まれた町で、日夜が混同し、街灯がない暗闇の中に、一つ一つの怪しい幽光が梁、壁の隅や町じゅうの窓などにくっついている。


マッシュポテトは知っている。これらはまだ形が出来ていなくて、宿主を探している悪の花の花霊。


やつらはまるで深夜にうろうろしてえさを捜している空腹の悪鬼たちのようだ。マッシュポテトが近づくのを見ると、あちらこちらで騒ぎだした。何匹か大胆なやつが襲いかかろうとしたが、何かに遮られたように弾け飛んだ。


マッシュポテトは一息深々と空気を吸い込んで、胸のあたりで微かに発熱しているネックレスをぎゅっと握る——そのガラス瓶の中には、ガイアが彼に送ったライフツリーの葉がある。


ライフツリーの力が彼を守っていて、悪の花の花霊からの襲撃を止めてくれていることを彼は知っている。だが、独りで行動することを、彼は依然として怖がっている。


自分は大胆不敵な人なんかじゃないとマッシュポテトは知っている。ただ毎回試練に耐える時、彼のそばにはいつも手を差し伸べ、力を与えてくれた人がいた。


ふと、彼は思わずミネストローネのことを思い出した。


時宜にかなわないかもしれないが、この島にいる彼が恐れるすべてが、まさにミネストローネの傑作である。


しかしマッシュポテトは今でも彼のことを思っている。


その理由は、彼の生涯で経験した数少ない暗闇の冒険は常にミネストローネと一緒だったからかもしれない。


極雪原の時、エデンガーデンの時、それらの暗闇と幻影(ファントム)に陥る時、ミネストローネが自分のそばから離れることはなかった。


今に至っても、自分自身の目でミネストローネが起こしたこの悪夢を見た今でも、彼は記憶の中でいつも自分を守ってくれた友人と、このすべてを引き起こした罪の元凶とを結びつけることができない。


「あなたは一体、どうしてそんなことをするんだ……」


マッシュポテトは瞼を垂らす。悲しみ、疑問、苦しみ、迷いのすべてがこの一言の囁きに変わるが、その一言はただ夜に散りゆく。それに応答してくれる人は誰もいない……


急に、状況が変わった。


手のひらの中の、ライフツリーの力による熱が急に下がった。マッシュポテトは我に返って、びくっとして「まずい」と心の中でつぶやく。


「悪の花は精神属性の精霊植物であり、人間の負の感情が重ね合わさった隙に人の心に侵入する」と出発する前に、ガイアは何度も彼に言い聞かせた。マッシュポテトはライフツリーの葉の加護があるが、心を揺れ動かしてしまったら……


一塊の紫黒色の幽光が襲来してくる。マッシュポテトは驚いて振り返るが、防御姿勢の構えが間に合わず、悪の花との絡み合いの中に陥った。


「これらは……何だ!」


泣き声。至るところ苦しい泣き声と悲鳴ばかりだ。


マッシュポテトは頭を抱え、悪の花の精神攻撃に耐えられず地面に倒れた。


紫の藤蔓が召喚されるばかりで、まだ力を発揮できず、すでに虚弱になって動かなくなっているが、主人の体にしっかり張り付いて、彼の最後の防衛線を守っている。


マッシュポテトの脳裏に、無数の歪んだ顔がどんどん湧いてくる。


彼らは悲鳴をあげ、争って、ヒステリックに見えない敵を攻撃する。彼らはこの島で死んで逝った住民たちである。


マッシュポテトの心の中の最大の負担がまさにこれらの死んだ島民たちだと、悪の花は明らかに知っている。つまり、彼らが死ぬ直前に経験した苦痛を彼の目の前で再現することで、彼の罪悪感をより一層深く強くさせようとしているのだ。


マッシュポテトはどんどん窒息感を感じた。彼からすると見るに忍びないが、悪の花はあえてこの一つ一つの残酷なシーンを彼に見せる。


突然、ファントムの中によく知っている姿が現れた。


それはミネストローネだ。


マッシュポテトの呼吸が一瞬止まる。見たことがない凶悪な笑顔のミネストローネが自分の目の前を通り過ぎるのを見た。彼が歩いたところには、黒色の悪の花が咲いて蔓延している……


マッシュポテトは無意識に彼の方へ手を伸ばす。だがファントムの中のミネストローネはこちらに気づいていないようで、彼の体を通り抜けた。


マッシュポテトは慌てて振り返る。ミネストローネがゆっくりと苦しみにあがいている島の住民たちに近寄るのを見た。


ミネストローネはその中の一人の人間の胸倉を掴んで、蛇のような凶悪な笑いを浮べながら彼を見ているが、一言も発しない。


その彼に掴まれている人の意識が一瞬はっきりしたように見えたが、目の前の人の顔を見た時、ハッと怖がる顔つきをした。


まるで、まるで地獄から帰ってきた悪鬼を見たかのように。


「そん、そんな、お前だったなんて!!」

「久しぶりだな……オレの……御侍さま。」ミネストローネは笑いながら言う。


マッシュポテトはぽかんとした。


彼はまだ我に返ることができない。ファントムの中で、ミネストローネはすでに手を離した。

その人間はまるで泥のように地面に倒れ、しばらくすると、瀕死のあがきをしている魚のように跳ね上がり、ほふく前進しながらミネストローネの足元にひれ伏した。


「お願い、お願いだ。許してくれ!私たちを許してくれ!殺さないでくれ。あの時は仕方なかったんだ!」


「御侍さま、何ふざけたこと言ってるんだ。」


ミネストローネは体をぴんと伸ばし、その人を蹴り飛ばす。


「オレたち食霊は命令を受けずに、御侍を殺すことがきない……これは当初アンタが教えた道理じゃないか?」


ミネストローネは笑いながら頭を横に振る。


「殺すわけないだろ。オレはとっくに諦めたよ。ただ……オレをヤツらの実験で死ぬまで苦しませ、そして生き延びて、またこの美しい悪の花に出会わせた人は誰なのかな……」


御侍「いや、いや、いや……わ、私が間違ってた。私が間違ってた!お前を売るべきじゃなかった。でも彼らはお前にこんな、こんなことをするとは思わなかったんだよ!彼らのために働く食霊を欲しがってるだけだと思った!」


ミネストローネ「……やれ。」


一瞬、マッシュポテトミネストローネの手のひらから一つ黒い鬼の影が飛び出したのを見た。


世界は無惨な白色になり、クチャクチャという音と、その口で人間を飲み込む影しか残っていない。


突然、すべてが終わった。


マッシュポテトはゆっくりと目を開ける。東の方から一筋の赤色に染まった朝の光がこの島を染め上げている。暗い夜の怪物はやむなく一時退去する。この世界の自然の摂理が彼を運よく救った。


マッシュポテトはその場で伏せて、荒い息をついでいた。藤蔓は彼が攻撃された傷口を哀れみながらなでる。でも彼はまだぼんやりしていて、気付いていない。


しばらくして、彼は立ち上がり、疲れ果てた体を引きずって前方の土地へ行く。


マッシュポテトは首のガラス瓶を外して、その中にあるライフツリーの葉を取って、それを土に埋めた。


瞬く間に、水色の光波がそこから広がった。その影響で島全体が揺らいでいる。一つの青色の苗が土の中から出てきて、新芽が少し見えて来た。


「今後は、あなたにお願いします。」


マッシュポテトは手でそれを軽く触り、小声で言う。


ガイアが彼にあげたライフツリーの葉、ここではエデンガーデンのように強いエネルギーではないが、依然として島の負のエネルギーをゆっくりと浄化することができる。ただ少し時間がかかる、十年か、もっと長い時間かもしれない。


しかし彼は今ここから離れるつもりだ。


自分の代わりに、そしてミネストローネの代わりに始まった救いの道が、すでに新たな方向にあると彼には分かっている。


一体誰がミネストローネの御侍と食霊売買の商談をし、ミネストローネに極悪非道な実験を行ったのか。その中にどれくらいの人が関わっているのか。彼は必ず調べ出す。


無罪、有罪、どちらともはっきり言えない。とにかく過去のことはすでに取り返しがつかない。


彼はミネストローネの代わりに犯した罪から逃れることはできないが……少なくとも、次を阻止することはできる。


「これが僕が君のためにできる、最後の贖罪です。」


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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
    • Android
    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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