失われた雀羽・ストーリー・メイン5章~8章
第五章-荒廃した山荘
荒地の奥底に。
荒れ果てた山荘
正門
京醬肉糸は目を細めてこの荒れ果てた山荘の観察を始めた。門には蜘蛛の巣と埃が被っており、扁額(へんがく)に彫られていた字もかすれて、山荘の名前を読み取れない。全てが怪しい雰囲気に包まれていた。
それでも、京醬肉糸が握っている玉佩(ぎょくはい)はますます眩しい光を放ち始めていた。まるで彼らをこの怪しい山荘に入るよう促しているようだった。
蟹醸橙:ほ、本当に入るのか……どう見ても怪しいんだけど……
彫花蜜煎:何、怖がってるの?
蟹醸橙:そ、そんな事ねぇよ!何があっても叫ぶなよ!
ギシッ――
古く腐っている木の門が開けられた。案の定、前庭も荒れていた。
一行が歩き始めた瞬間、元々静かだった庭にどこからともなく冷たい風が吹き始め、地面に散乱している枯葉と枝を巻き上げた。そしてあたりから怪しい声が聞こえて来た。うめき声に笑い声が混じり、まるで魑魅魍魎があたりにいるようだった。
???:えへへへへ~~~~ははははは~~~
???:ああーーああーーああーーああーー
蟹醸橙:ここここれはなんだーーーー!!!
京醤肉糸:うむ、人を脅かすための細工だろう。
京醬肉糸は輝き続ける玉佩を更に強く握る。今の彼は普段のだらだらした様子に比べて完全に別の人だ。他の人も彼の後ろに付いている。
蟹醸橙:え~~!早すぎるよ、待ってくれ!
次の瞬間、蟹醸橙は躊躇なく自分の蠍の尾で道を拓いていくヤンシェズの後ろに張り付いた。ヤンシェズは一瞬だけ足を止めた。
蟹醸橙:へへっ!君の傍は比較的安全な気がする!僕たちはもう兄弟なんだし!気にしないよな!
ヤンシェズ:……うん……
蟹醸橙:えっ?!喋ったか?!そんなに早く歩かないで!待って――
一行は真っすぐな一本道を進み、更に広い庭に辿り着いた。いくつもの庭の景色は違うはずなのに、どうしてか見覚えのある感覚に襲われた。
蟹醸橙:おかしい……こんなに庭があるのか……
彫花蜜煎:なんかここは来た事がある気がする……
松の実酒:……常識的に考えて、山荘はこのような作りをしていないはずです。
京醤肉糸:確かにそうだ、ただこの山荘は変化を繰り返している。
蟹醸橙:えっ?じゃあどうすればいいんだ?このままぐるぐる歩き続けるのか?うっ……
松の実酒:……早く正しい道を見付けなければなりません。
京醤肉糸:恐らく、そんなに簡単ではない。
突然四方から怪しい物音が響き、地面に徐々に亀裂が入っていく。その亀裂は規則正しく、まるで格子を描くように広がっていった。おかしな現象を前に、京醤肉糸ですら眉を顰め始めた。
松の実酒:気を付けてください!
次の瞬間、天地が崩れるかのような巨大な音が鳴り響き全ての物音をかき消した。周囲の石は高速に複雑に移動、上下を繰り返していた。どうにか振り落とされないように全員が必死で踏ん張っていた。
巨大な石が砂ぼこりを巻き上げていたため、ヤンシェズは曲刀を近くの大樹に引っかける事しか出来なかった。
彼が蠍の尾を伸ばして一番近くにいた仲間を引き寄せようとする前に、大樹の下の地面も裂けた。墜落する時の強烈な浮遊感によって、ヤンシェズは眩暈がして、周囲にいた仲間に視線を定められなくなっていた……
山荘内
祭壇
バンッ――
埃が舞う中、ヤンシェズは体に乗っていた石を押しのけ、残骸から立ち上がった。
ヤンシェズ:ゴホゴホ……いっ――
体の痛みで彼は息を呑んだ。辺りを見回すと、寂れていた台の横には模様が彫られている石柱が数本立っていた。
突然、地下から不思議な波動が伝わってきて、彼の五官を刺激した。
ヤンシェズ:(……!)
かつて墓室に閉じ込められていた頃の記憶が蘇り、今の感覚と当時のそれがほぼ一致していた。ヤンシェズは頭を抱えて無理やり過去の苦しい記憶を抑え、懐から小さな鏡を取り出した。
指先で鏡を撫でると、弱い光が放たれた。聞き覚えのある声を確認した後、ヤンシェズは口を開いた。
ヤンシェズ:ここには……同じ墓がある。手がかりが……あるかもしれない。
???:わかりました。貴方のお陰です、お疲れ様。
第六章-機関
怪しい地下宮殿には何かが隠されている。
地下宮殿
某所
蟹醸橙:誰かいるか?――助けて――
彫花蜜煎:諦めよう、館長たちが聞こえていたらとっくに来てるぞ……体力を無駄にしないで、どうやって脱出するかを考えよう。
蟹醸橙:脱出の方法を知ってたら、叫んでないよ……
彫花蜜煎:ああ――ダメ!こんな罠にうちらが閉じ込められるなんて!
彫花蜜煎はイライラして髪の毛をかきむしりながら、悔しそうに前に進んだ。
蟹醸橙:おい待って……僕も一緒に行く!
二人は再びきつく閉じられた門の前にやって来た。どんなに体で押し開けようと、霊力をぶつけても、黒鉄の門はビクともしない。
彫花蜜煎は焦りながら狭い部屋の中でうろうろしていたが、蟹醸橙は門の前にしゃがんで、持っていた夜明珠(やめいしゅ)を綺麗に拭いて、ある一点を凝視し続けた。
彫花蜜煎:何に気づいたのですか?
蟹醸橙:夜明珠を持っててくれ、どうやって脱出すればいいかわかった!
蟹釀橙は真剣な顔で門の上にある出っ張った装置を弄じり始めた。彫花蜜煎はこんなに真面目な蟹釀橙を今まで見た事がなく、彼の邪魔をしないよう無意識に息を止めた。
カチャッ――
蟹醸橙:おおお!!開いた!!!!!
蟹釀橙の歓声と共に、黒鉄の門はゆっくりと開いた。
蟹醸橙:へへっ!この下にまさか孔明鎖(こうみんそう)があるとはな、気付けて良かった! この孔明鎖って言うのは……えっ待ってまだ話は終わってない!行くな待って!ちょっとぐらい褒めてくれたって良いじゃねぇか!僕がいなかったら出られなかっただろ!
彫花蜜煎:はいはい、じゃあ早く館長たちを探しに行こう。
門から出ると、そこには暗く長い地下通路があった。どんよりとした石壁に圧迫されて息が苦しい。二人は細心の注意を払って前に進んだ。地下通路の突き当りには開けた空き地があり、そこからまた四方に通路が延びていた。
蟹醸橙:えっ……次は道が四本もあるのか……どれを選べば良いんだ?君が選んでくれない?僕はあまり運が良くないんだ。
彫花蜜煎:慌てないで、まずは様子を見てみよう。
二人は全ての通路を観察しながら進んだ。そして空き地の中心に辿り着いた時――
カチッ。
彫花蜜煎:ねぇ……何か聞こえなかった……?
蟹醸橙:何か踏んだのか?!
二人はすぐに俯くと、踏んでいた所が円状に窪んだ事に気付いた。
彫花蜜煎:……
蟹醸橙:……
ゴロゴロ――――――
四方の壁から金属が線路の上を移動するような音が聞こえて来た。
ドン――――
彫花蜜煎の背後にある壁に突然大きな門が開かれた。青銅の兵士らが中から出てきて、手にはそれぞれ長い槍や刀剣などを持っていた。鉄の盾を持っている者もいた。
彫花蜜煎:蟹釀橙!あなたの後ろも!!!!
四方八方から押し寄せてくる兵士らの顔は強張っていて生気が感じられない。二人に向かってくる彼らは、まるで敵影を捕捉したかのように、容赦なく刀剣を振り回してきた。
蟹醸橙:どうしてここにこんな機関が!気を付けろ!
彫花蜜煎:いっ――平気!
腕に槍の攻撃を受けた彫花蜜煎は地面に転んだ。二人は背中を合わせて大量に湧いて出た青銅の兵士に対峙した。通路は全て兵士たちによって塞がれているため、脱出するには強行突破しかなかった。
容赦なく刀剣を刺してくる兵士たちに対して、彼らは武器を持ってなんとか防御していた。だが、傷を負った彫花蜜煎の限界がそろそろ近づいて来た。その時――
キンッ――
見覚えのある人影が素早く彫花蜜煎の前に現れ、曲刀を空中で回転させ鋭い衝撃を放った。さらに硬い蠍の尾で兵士たちを地面に倒した。
ヤンシェズは小さく頷くと、また兵士たちと戦い始めた。蟹釀橙と彫花蜜煎も再び自信を取り戻して、武器を握り直した。
青銅の兵士は身体は大きいが、行動は機械的で鈍い。二人がヤンシェズの動きに合わせた事で、しばらくすると兵士たちのほとんどが破壊され、一面に散乱した。
蟹醸橙:ふっ、ふぅ……こいつら結構やるな。ヤンシェズ、君のお陰だ、ありがとう!
彫花蜜煎:あの、ありがとう!
ヤンシェズ:うん……
ヤンシェズは淡々と応じた後、通路の入り口を塞いでいた青銅の兵士たちをどかした。いつものように何も話さず黙々と動いていたが、今回は彫花蜜煎たちが怖がる事はなかった。二人は気を取り直して、すぐに彼の手伝いを始めた。
蟹釀橙に至っては少し前にヤンシェズの冷たさに怯えていた事を忘れ、冗談を言い始めた。
蟹醸橙:この槍や剣とか持って帰れないかな。見た感じ良さそうだから、高く売れるかも。
ヤンシェズ:……
ヤンシェズ:……
蟹醸橙は言いながら兵士の兜を剥ぎ取りヤンシェズに合わせようとしたが、ヤンシェズは頭をずらして避けた。ヤンシェズは一瞬わかりづらいが顔が赤くなっていたのを彫花蜜煎は気付いて、我慢できずため息をついた。
彫花蜜煎:死者が身に着けていた物かもしれないのに、よく触れるね。
蟹醸橙:あーーじゃあやっぱいーらない!
第七章-黒服
もう一方。
山荘の外
某所
火のように熱い太陽は空高くかかっており、忙しなく動く人らの影を映した。黒服の人々は整然と進み、大きな山荘の前を横切り、青石で出来た道を踏みながら、裏口から入って行く。
黒い服を着た者達から遠くないところで、赤い服を着ている人が目の前の全てを観察している。
黒服のリーダー:上からの指示だ。滅多にない機会を逃してはならない。成功しか許さないとな!聞こえたか!!
黒服のリーダー的存在が一喝すると、それに応えるかのように揃った大きな声が響いた。
黒服のリーダー:お前たちは陵墓の入口を探せ、早くしろ!
話し終えてすぐ、黒い服を着た者達は四方に散った。まるで影のように山荘内を縫って行った。
黒服のリーダー:アレを壊すなよ。完璧な状態で持ち帰るよう上から言われているのだからな!
乱雑な足音、マントを引きずる音が鳴り響き、静かだった山荘は喧騒に包まれた。
黒服の人:カシラ!入口を見付けました!
黒服のリーダーは声の方へと向かった。ボロボロな祭壇を通ると、埃だらけの石板で出来た入口がそこにはあった。
黒服のリーダー:良くやった!すぐに入ろう!逃がすな!
黒服のリーダーの高ぶった声から興奮が滲み出ていた。すぐに隊列を指示し始めた。
一方――
黒服の人:おおおれはあいつらに付いて来ただけだ、何も知らない!
明四喜:貴方達の言う「あれ」とは一体なんですか?
黒服の人:聖主様に捧げる物である事以外わからない……聖主様を迎えるための……
明四喜:(聖主様……)
明四喜:どうやってこの陵墓を見つけたのですか?
黒服の人:聖、聖女様が教えてくれた……
黒服の人:他の事は本当にもう知らない!お願いですから許して……くださ……
黒服の人は続きを口にする前に、瞳孔が開き、空気が抜けた風船のようにふらつきながら倒れた。
明四喜は思う所があるような表情で、石板で出来た地下通路を見て、前に進んだ。
第八章-救援
助太刀に入る。
地下宮殿
某所
「ドタドタ」と足音が山荘内で鳴り響く。先程までのおかしな物音は既に消え、周囲は再び静寂に戻った。
彫花蜜煎と蟹釀橙はヤンシェズの後ろにぴったりとついて、細心の注意を払いながら首を伸ばして辺りを見回していた。
彫花蜜煎:長い間歩いた気がするけど、どうしてまだ館長たち見つからないの……
蟹醸橙:まさか彼らは……痛っ!
彫花蜜煎:バカな事言うな!
蟹醸橙:人の話を最後まで聞けよ、彼らもなんかの罠にハマったんじゃないかって言いたかったんだ。
彫花蜜煎:あの方たちは賢いから、もうとっくに神物を見付けているかもしれない。
ヤンシェズ:……あっち。
ヤンシェズは足を止めた。前方の曲がり角から微かに長身の影が見えてきた。京醤肉糸はヤンシェズの後ろに雛のようにくっついている二人を遠くから見て、思わず眉を上げた。
彫花蜜煎と蟹醸橙は見慣れた姿を見て、嬉しそうに飛んで行った。
彫花蜜煎:館長!無事だった?
京醤肉糸:平気だ、貴方達はどうだ?
蟹醸橙:ヤンシェズのおかげでなんともない!そうじゃないとまだ出て来れなかったかもしれない!
京醤肉糸:迷惑を掛けてしまったな。
蟹醸橙がキラキラとした目でヤンシェズを見ていた。全員の注目を浴びたヤンシェズは、不自然に頭を横に向けた。松の実酒は本題に入った。
松の実酒:先程玉佩(ぎょくはい)の力で神物の在処は地下であると分かりました。地下に通ずる道を発見していませんか?
蟹醸橙:ん……
彫花蜜煎と蟹釀橙は真剣に考え始めた。そしてこの隙に、おかしな物音はまた鳴り始めた、先程の音よりももっと激しく。
鳥肌が立つようなうめき声、四方から吹いてくる冷たい風、物が動いているようなごちゃごちゃとした音、まるでおどろおどろしい地府にいるかのようだった。
蟹醸橙:わわわわわ?なんでまた――
このような喧騒を聞いて、京醤肉糸は静かに集中して両目を閉じた。乱雑で規則性のない物音は、全てある一点を目指している事に気付く。
無秩序な波動は一つにまとまった。京醤肉糸はまるで一本の糸を掴んだかのようだった。その糸の先に真相があるかもしれない。彼は迷わず長い廊下を通って山荘の裏へ進んだ。
地下宮殿内
祭壇深部
開けた祭壇の上で、黒服の人々は円を作っていた。それはまるで風すら通さない壁のようになっていた。
そしてその円の中心には変わった服装の男の子がいた。怒っている彼は数人の食霊によって拘束されていた。黒服の人々のリーダー的存在は綺麗な銅鏡を持って、彼を見下ろしていた。
京醤肉糸達一行が祭壇に近づいて行くと、その男の子が束縛から逃れようと必死になっている様子が見えた。しかしその行為は、この大きな黒服達の前ではか弱く見えた。
蟹醸橙:誰なんだ?!子どもをどうするつもりだ?!
彫花蜜煎:大勢で一人の子どもをいじめるなんて、恥知らず!
京醤肉糸:どうして子どもなんかがこんな所にいるのか、という事の方が重要ではないか?
蟹醸橙:えっ!それは重要じゃない!まず助けてからだ!
蟹釀橙と彫花蜜煎は気が立って、拳を握り締めて相手に突っ込もうとしていたが、すぐに松の実酒に止められた。
松の実酒:落ち着いてください。無謀な行動をすると誰かが傷つく可能性だってあります。
五人はまだ少し距離のある場所に立っていたが、どうしてか男の子の注意を引いた。彼は機敏に黒服達の間を縫って、五人に向かって助けを求めた。
???:助けて!!!!早く僕を助けて!
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