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失われた雀羽・ストーリー・メイン9章~16章

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第九章-妖鏡

新しい仲間

地下宮殿内

祭壇深部

???:彼らは僕を捕まえようとしてる!全員悪者だ――うううう――!

 男の子が突然叫び出すとは思っていなかったのか、周りにいた数人は慌てて彼の口を塞いだ。他の黒服達の視線も一斉に遠くにいた五人に向いた。

黒服のリーダー:お前たち、余計な気を起こすなよ!

???:う、うっ!――た、助け――

蟹醸橙:真っ昼間に、なんで子どもをいじめてんだ!

彫花蜜煎:そうだぞ!どう見ても良い人に見えないわ。早く彼を放してくれたら、見逃してあげるよ。

黒服のリーダー:フンッ、良い度胸じゃねぇか。どうやって助けるのか見物だな!

 カシラが手を振ると、男の子を抑えていた数人は力を強めた。男の子は突如苦痛の表情を露わにした。

 前方にいた黒服の一人がこっそり服の中に手を入れていた。この些細な動きは京醤肉糸に見られ、扇子が綺麗な放物線を描いて、彼の手に当たると、苦無のような謎の液体が付いた暗器が落ちた。

蟹醸橙:や、闇討ちだと!

黒服達のカシラは目論見がバレた事で、眉間に皺を寄せ、すぐさま部下に視線を送った。男の子は力づくで持ち上げられた。彼の痩せ細った四肢は空中でもがき足搔いていた。

松の実酒:逃げようとしています!

 一行は飛んで行き、すぐに戦闘を始めた。ヤンシェズは少し躊躇った後、最終的に加勢した。

 双方の実力差ははっきりしていた。例え黒服達がどんな汚い手を使っても、彼らは依然として抑え込まれていた。

???:鏡!僕の鏡は?!僕の鏡を持って行かせないで!

ヤンシェズ:鏡?

 叫び声を聞いたヤンシェズは、めざとく黒服の一人が持っていた瑠璃銅鏡を奪い取ろうとした。奪い合っている最中、どちらも手を放さず、双方が揉めている内に、瑠璃銅鏡は地面に落ちた。

 パリンッ――

黒服のリーダー:チクショウ!割れるなんて!撤退!

 黒服達がそう言うと、すぐに「パンパンッ」と破裂音が鳴った。周囲は濃霧が立ち込め、彼らはその煙霧の中に消えて行った。

蟹醸橙:ゲホゴホッ、卑怯な手を使いやがって!

京醤肉糸:安心しろ、もう大丈夫だ。

 京醤肉糸は優しく男の子の頭を撫でた。ヤンシェズは少しバツが悪そうに歩いてきた。彼の手の中の瑠璃銅鏡が割れて半分しか残っていないからだ。

ヤンシェズ:ごめん……鏡……

???:大丈夫だよ!あいつらのせいだから!助けてくれてありがとう!恩を返さなければ……えっ――待って――この気配は――朱雀様!!!

松の実酒:……

京醤肉糸:……?

蟹醸橙:???

彫花蜜煎:???

 男の子が突然口にした言葉で、全員が呆気に取られた。その単語の意味すら忘れる程に。男の子は京醤肉糸に抱き着いて、子犬のように嗅ぎ始めて、最後に腰にあった玉佩を掴んだ。

???:これだ!これから朱雀様の気配を感じる!間違いない!

京醤肉糸:朱雀様の事を知ってるのか……?

松の実酒:貴方は一体何者なんですか、どうして彼らは貴方を捕まえようとしたのですか?

妖鏡:おっと失礼、自己紹介を忘れていたよ。僕は元々この鏡の中にいたんだ。目覚めた時から朱雀様と一緒だった。朱雀様は僕を拾った。僕は妖鏡だって教えてくれた。そして朱雀様のお陰で僕は人型になれるようになった。さっきの奴らに関してはまったく知らない連中だ。何故僕を捕まえようとしたのかもわからないよ。

蟹醸橙:じゃあ鏡ちゃん、ここにどれぐらいいたんだ?

妖鏡:うーん……一、二、三、四……もう数えられないや、自分でもどれだけ寝ていたのかわからないし、最近起きたばっかりなんだ……待って、その呼び方は朱雀様だけの物だ!その呼び方で僕を呼ぶな!お前たちは朱雀様とどういう関係なんだ!どうして彼の気配がするんだ!

京醤肉糸:朱雀様は私達南離族にとって至高の神君であり、私達はずっと朱雀様を探している。そしていつかあの方を本来の地位に戻そうとしている。こう言えば、わかるだろうか?

妖鏡:なるほど、君たちは朱雀様の一族なんだね!そしたら今からは僕の友達でもある!僕を救ってくれたから、僕も恩を返さなきゃいけない!何が欲しいの?

第十章-神物

それは昔から色とりどりの光‥…

地下宮殿内

祭壇深部

京醤肉糸:鏡ちゃんは朱雀様の神物がどこにあるか知っているか?

妖鏡:その呼び方はやめてって言ったでしょ。……神物……尾羽の事?朱雀様を探してる時に拾って、墓の中に隠した。まさかこんなに時間が経ってもまだ朱雀様の物を覚えている人がいるなんて、本当に良かった。

京醤肉糸:私達は今も朱雀様の行方がわからない。朱雀様の力はこの光耀大陸の各地に散らばっており、尾羽はその内の一つだ。このような神物を見つける事で、朱雀様はより早くご自分の力を回復させられる。

妖鏡:なるほど……!つまり……その尾羽がないと……朱雀様は帰って来れないって事?

京醤肉糸:ああ、だから鏡ちゃん、尾羽を私達に譲ってくれるだろうか?必ず大事にする。

 京醤肉糸の言葉を聞いて、妖鏡は俯いて、手を弄りながら悩み始めた。

京醤肉糸:問題ない、ゆっくり考えると良い……。それは、貴方にとっても意味のある物だからな。

 京醤肉糸は優しく妖鏡に伝えると、妖鏡はすぐに顔を上げた。

妖鏡:勿論良いよ、朱雀様の大事な物なら。恩を返したいとも言ったし、有言実行しなきゃ。今連れて行ってあげるよ!

 顔を上げた妖鏡の目は、キラキラと輝いていた。一行はやっと神物の在処が判明すると知って、心の中でホッとした。


秋山

古い陵墓

妖鏡:……君たちは朱雀様の勇姿を見た事ないよね、相手をコテンパンにしてとってもカッコいいんだ!朱雀様は戦いは好きだけど、人をいじめる事は絶対にしない。もちろん人をいじめてる朱雀様もカッコ良い!

妖鏡:あの時、僕は朱雀様が一番お気に入りの鏡だった、一日に何回も僕を見るんだ――ああ!朱雀様の羽はこの世界で一番美しい!!特に太陽に照らされて、キラキラと光る感じとか!

 薄暗い地下道の中、松の実酒の手の平にある夜明珠は優しい光を放っていた。そして妖鏡の声は興奮したように止まらない。一方、隊列の最後尾からもブツブツと小さな声が聞こえて来ていた――

蟹醸橙:こんなに歩いたのに……まだ話し終わらないのか……。

彫花蜜煎:彼にとって朱雀様は本当に大切な存在なんだろうね。

妖鏡:朱雀様とはぐれなかったら、あのイヤな皇帝に捕まらなくて済んだのに!朱雀様が失踪する前に、顔を見れたのに……

京醤肉糸:その皇帝とは、誰の事だ?

妖鏡:あの玄……玄なんちゃら。そんなのどうでも良いよ!あいつは自分で一杯法陣を作っといて、力が足りないって……何に使うかは僕にもわからない。あいつの体から朱雀様と似たような気配がしなかったら、騙されたりしたもんか!フンッ!

妖鏡:あいつが僕をあのクソ法陣に閉じ込めなきゃ、僕は眠ったりしなかった。もしここに閉じ込められなかったら、もしかすると今も朱雀様の傍にいたかもしれない!せっかく起きたのに、また変な人たちに会っちゃって……い、いや君たちの事じゃないよ!

妖鏡:あの黒い服の人たちは、僕が弱っているのを見計らって捕まえに来た。人間は幽霊とか妖怪が怖いって言うでしょ?だからいっぱいおかしな物音を出して追い返そうとしたんだ……はぁ、もし朱雀様がいたら、羽根の一本であいつらを追い返せたのに!

蟹醸橙:……って事は、あのおかしな音は全部君の仕業だったのか?

妖鏡:あれ、君たちも聞こえてたの?どうだったどうだった、効果覿面でしょ!怖いでしょ!前に来た人たちも腰を抜かしてたよはははは!バカだな!

蟹醸橙:…………

妖鏡:彼はどうして隅っこに行ったの?

彫花蜜煎:合わせる顔がないからじゃない?

妖鏡:ふーん。……待って、着いたよ!

 一行はその声を聞いて足を止めた。苔が蔓延っている石門が目の前に現れ、上には複雑そうな機関があった。

 先程まで落ち込んでいた蟹醸橙は目を光らせて、指をボキボキと鳴らしながら、気合十分な様子で前に進んだ。

蟹醸橙:この門の機関なら僕に任せて……

 カチャッ――

 石門はゆっくりと開いた。残りの四人は、一斉にボタンを押した妖鏡を見てから、表情が固まった蟹醸橙を見た。

蟹醸橙:…………

彫花蜜煎:ぷはっ!

妖鏡:あれ?なんでまた隅っこに行ったの?

彫花蜜煎:大丈夫、気にしないで。唯一の見せ場を奪われて、ちょっと落ち込んでるだけ。

 石門は完全に開かれた。広い部屋の中央には綺麗な机がある。その机の上には綺麗な模様が描かれている朱色の宝箱が置いてある。

 妖鏡の許可を再び得て、京醤肉糸は恭しく慎重に箱を開けた。赤と金色が入り交ざった光が箱から少しずつ溢れ出し、部屋全体を照らしていた。遠古からやって来た色とりどりの光芒は、威厳と神聖さを兼ね備えていた。

 全体から光を放つ、まるで炎のような尾羽は静かに箱の中に横たわっていた。柔らかな羽根は自由に伸び、天然の模様の中には光の斑点が灯っていた。言葉を使わずとも、その輝かしい歴史を感じ取る事が出来た。

 まるで時間が止まったかのよう、一行の顔は驚きを隠せていない。呼吸音を出す事すら憚られ、誰もこの神聖な瞬間の邪魔をしたくなかった。

蟹醸橙:うわぁ…………

彫花蜜煎:これが朱雀様の神物……

妖鏡:言ったでしょ、朱雀様の羽根は世界で一番美しいって!

蟹醸橙:……き……綺麗すぎる……

彫花蜜煎蟹醸橙――箱によだれを垂らしそうになってるぞ!

京醤肉糸:鏡ちゃん、南離族を代表して心から感謝する。

松の実酒:長い間神物を守ってくださり、私達の手助けもしてくださり、本当にありがとうございます。

妖鏡:コホンッ、朱雀様の物をきちんと保管するのは当たり前だよ。僕の気が変わる前に早く回収しちゃって!

 妖鏡の幼い顔が赤く染まると、一行は思わず吹き出してしまった。蟹醸橙彫花蜜煎は相変わらず呆けた顔で尾羽に見惚れていた。

 しかしこの時、徐々に透明になっていく手を背後に隠す妖鏡に誰も気付く事はなかった。

第十一章-危地

四面楚歌

秋山

古い陵墓

 神物が入った宝箱をきちんと仕舞った後、来た道を帰ろうとして石門を通った瞬間、陵墓からおかしな音が聞こえてくるようになった。そして激しい振動の後、石くずが壁から降ってきた。

蟹醸橙:ど、どうなってるんだ?!

松の実酒:陵墓に異変が起きたみたいですね、早くここから出なければ。

京醤肉糸:山荘全体だ。

 京醤肉糸の冷静な声で、全員は思わず身震いした。蟹醸橙は思わず妖鏡に方に疑いの目を向けた。

妖鏡:僕を見ないでよ。前のは僕の仕業だったけど、今回は本当に知らない!

京醤肉糸:あの皇帝が貴方をここに封印したのは、法陣に必要な力が足りなかったから?

妖鏡:うん……確かにあいつはそう言ってた……

京醤肉糸:この法陣の中に貴方とその他の法陣と、後何があるんだ?

 耳をつんざく轟音はまだ絶えず響き、地面が沈み、石が墜落して来た。一行は崩壊寸前の地下道を障害物をかわしながら素早く抜けて行き、幸いにもすぐに陵墓の入口に辿り着いた。入口にあった祭壇は既に原型をとどめていなかった。

妖鏡:思い出した……!あとは彼に弾圧された堕神がまだたくさんいる!

 妖鏡の言葉を聞いて、陵墓から逃れたばかりの一行はホッと一息つく前に、思わず息を呑んだ。張り詰めていた心臓が喉元までせりあがって来そうになっていた。

松の実酒:きっと誰かが法陣を動かしたのです、ここからが……危険かと……

妖鏡:本当に僕のせいじゃないよ!今までのは自分の力だったけど。す、朱雀様に誓います!

京醤肉糸:……あの黒服の人らが法陣を乱したに違いない。

蟹醸橙:じゃ、じゃあ早く逃げないと?!

京醤肉糸:もう間に合わない。

 京醤肉糸の言葉に応じるかのように、天をも切り裂く轟音の中、全員が危険信号を捉えた。あれは堕神の気配だ、四方八方から押し寄せてきている。

 巨大な黒影が一つずつ現れた。雄叫びを上げるものもいれば牙をむき鋭い爪を振り回すものもいた。百年もの歳月抑制され再び目覚めた堕神たちは、復讐しようと舌をなめずりまわして自分の獲物を探していた。

蟹醸橙:あああこんなに多くの堕神……

彫花蜜煎:どうしたら良いんだ……

 蟹醸橙は自分のカニ型の機会をギュッと掴み、彫花蜜煎は唇を噛みしめ、松の実酒京醤肉糸も顔つきが険しくなった。ヤンシェズは依然として冷たい表情を浮かべているが、曲刀を握っている手には青筋が浮かんでいた。

 全員が戦闘態勢に入ったが、堕神に囲まれた四面楚歌の状況の中、誰一人前に出る事は出来なかった。

第十二章-死闘

族人と仲間のために!

地下宮殿

祭壇

 徐々に蘇っていく堕神たちは凶悪な牙をむき出した。新鮮な生き物の気配を感じ取ったからか、咆哮の中には喜びの感情が含まれていた。

 一行がいる中央祭壇は少しずつ包囲され、全員が戦闘態勢に入った。一番近くにいる堕神たちは迷わず襲い掛かっていた事で、遂に戦いの幕が開かれた。

蟹醸橙:来いっ、やってやるーー!行けカニちゃんーー!

彫花蜜煎蟹醸橙ちょっとどいて!

 蟹醸橙はカニ型の機会を操りながら突っ込んで行った。二本の硬いハサミが目が真っ赤な怪物を掴み、彫花蜜煎はその隙に刀を振り下ろした。怪物は真っ二つに切り裂かれ、もがきながら消滅した。

蟹醸橙:連携悪くないじゃん!

 順調に堕神を一匹倒した二人は、得意げにお互いを見た。そして次の瞬間彫花蜜煎の背後から怒号が飛んで来た――

 数度の鋭利な斬撃によって、咆哮していたデカブツは瞬時に倒れた。彫花蜜煎は驚いて振り返ると、曲刀を持っているヤンシェズを確認して、思わず息を呑んだ。

ヤンシェズ:気を付けて。

松の実酒:貴方達集中しなさい!

 松の実酒もこの状況に気付き、戦いながら蟹醸橙彫花蜜煎に大声で注意した。

 危うく奇襲されるところだった二人は集中し、息の合った連携で多くの堕神を倒した。

 一方――

 京醤肉糸は余裕のある様子で怪物の間を歩いていた。扇を煽りながら力強い曲線を描いていた。裾もそれと共に上下に舞った。

妖鏡:僕を下ろして、そこまで弱くないよ!

 京醤肉糸の片手で抱えられている妖鏡はやっと機会を見付けて口を開いた。

京醤肉糸:貴方の霊力は散り始めている、共に戦う事は出来ないだろう。

妖鏡:な、なんでわかったの……!

京醤肉糸:貴方の本体はあの鏡だろう?本体は既に半分に割れている。さっきも自分の両手を隠そうとしていたが――私の視力はまだそこまで悪くはない。

京醤肉糸:安心しろ、私達は貴方を連れて朱雀様を探し当てて見せる、信じてくれ。

妖鏡:僕は……

 自分の考えが見透かされた妖鏡は複雑そうに目の前の冷静な、更には笑顔を浮かべている男を見た。心が少し揺れ動き、それ以上抗う事をやめ、大人しく京醤肉糸の懐におさまり、彼の胸元にしがみついた。

妖鏡:わかってる……

 京醤肉糸は一瞬だけ笑って、また戦闘に集中し始めた。力を強め、素早く放った。この時、彼は妖鏡がほぼ透明になってしまっている自分の両腕を見つめて朦朧としている事に気付いた。

京醤肉糸蟹醸橙、貴方達はこの子を守れ。

蟹醸橙:わかった!

 蟹醸橙京醤肉糸が連れてきた妖鏡を見た。小さな体を丸めた妖鏡の顔色は真っ白になっていた。

 蟹醸橙は自分の服を脱いで硬い石板の上に敷いた。妖鏡は自分の体の下に柔らかな感触がある事しかわからず、疲労感と眠気に襲われ続け、気付けば瞼が閉じていった……

 完全に意識を失う頃には、蟹醸橙の怒号しか聞こえなかった……

第十三章-炎

城主の炎

 苛烈な戦いはしばらく続いた。地面には既に判別が出来ない程の残骸が散乱していた。最初は優勢だった一行だが、徐々に形勢が不利になっていく。まだやる気は残っていたが、絶えずわいて出てくる堕神に対抗する力がもう尽きそうになってきていた。

 動きが遅くなって来た者もいた。蟹醸橙は部品が外れたカニ型の機械を持って下がり、彫花蜜煎も欠けた刀を持って座り込んだ。

 松の実酒ヤンシェズも傷口を押さえ、流れていく霊力を止めていた。顔に汗が伝う京醤肉糸も、自分ももう長く持たない事を自覚していた。

 しかし凶暴な堕神は依然として鋭利な牙をむきながら、攻撃を続けていた。全てを呑み込もうと咆哮を上げながら……

 怪物たちはふらつく松の実酒に気付いたのか、彼に照準を合わせ、鋭い爪を高く掲げた。京醤肉糸が扇子を投げつける前に――爆発音が鳴り響き、どこからともなく飛んで来た砲弾が堕神に当たり爆発し火花を散らした。

辣子鶏:……ブサイクばっか、気持ち悪い。マオ・シュエ・ワン、やってやれ!

マオシュエワン:へへっ了解!この雷火弾を味わえ!

冰粉:そちらの方々、大丈夫ですか?

 京醤肉糸一行は突然聞こえて来た声の方に視線を送った。二人の真っ赤な見知らぬ人物が大手を振って歩いて来た、隣には落ち着きのある人もいた。

冰粉:某たちは用があってここに来ました。物音に気付いてやって来たのですが、まさか大変な目に遭っている人がいるとは。

辣子鶏:顔が汚いな……まあ良い、俺は今日気分が良いから、助けてやるよ。フンッ、離火、こいつらを吹き飛ばせ!

マオシュエワン:あああああ辣子鶏(らーずーじー)また俺の獲物を奪うな!

 人に話す隙を与えないまま、赤い鳥を従えている赤い服の青年は尊大な表情を浮かべて笑った。もう一人は怒りながら叫んでいた。もう一人の落ち着いた雰囲気の青年は、負傷した京醤肉糸たちを連れて赤い服の青年の傍まで歩いた。

冰粉:怪我をしてますよね、まずここで休んでください。城主、続きを宜しくお願いします。

辣子鶏:準備はできたのか?

冰粉:はい。

辣子鶏:離火焚心――!!

 天をも貫く灼熱の炎は、多くの堕神を呑み込み歪ませた。薄暗くジメジメとした地下宮殿で、まさかこのような灼熱の炎に焼かれるとは思いもしなかっただろう。最後に残った火花は逃げようとした堕神数体を一匹たりとも逃す事はなかった。

 京醤肉糸らは空をも燃やし、太陽をも呑み込みそうな炎とまだ続々と出てくる堕神を見て、どうにか立ち上がろうとした。

辣子鶏:傷ついてんのに無理すんな、休んでろ。虫だろ、すぐに終わる、焼き殺せば良い。俺の足を引っ張るなよ!

冰粉:城主、言葉を慎んでください。

 冰粉は前に出て辣子鶏への攻撃を防いだ。一瞬のうちに、見知らぬ人たちは息の合った攻撃を始め、辺りに殺気が満ちた。近づこうとした怪物たちはそれにあてられ、歩みを一瞬止めた。緊迫した局面は、また再び動き出した。

 食霊たちは各自行動を開始し、違う方向へと散った。巨大な怪物は先程よりも激しい勢いで叫びながら襲い掛かってきた。

 激しい戦いの音が空中で鳴り響く。怪物の間を縫っていく姿はまるで稲妻のようだった。鋭利な刃は空中を切り、炎は大地を燃やし、機械は回転を続け、そこには異様な光景が広がっていた。

 祭壇が、更には山が、この空前絶後の戦闘によって震えていた。咆哮の中に怒号も混ざり、霊力と機械の力が合わさって相乗効果を発揮していた。一行の破竹の勢いによって、勝利の音が鳴り響いた。

マオシュエワン:ハハハハッ――死ねっ――死ねっ!!!

冰粉:マオ・シュエ・ワン止まりなさい!

辣子鶏:…………

蟹醸橙:わっ――こ、ここここの花は人を食べるのか?!

辣子鶏:そうだ……こええぞ……普段から、全然俺を尊重してくれねぇんだ……

冰粉:コホンッ、城主何か?

辣子鶏:いっ、いや、何でもない。

蟹醸橙:あはっ、でもこの太った鳥はなんか面白いな、どこで拾ったんだ?

モフモフ鳥:誰が太った鳥だ!!!俺様は朱雀だ!!!

蟹醸橙:は?朱、なんて???

松の実酒:危ない!

辣子鶏:離火!もう一発かませ!

 妖鏡は炎が広がる中目を覚ました。なんだか……懐かしい、泣きそうになる位懐かしい炎を感じる……

妖鏡:……

 妖鏡は目を擦ると、ようやく目の前の状況を確認出来た。祭壇の前に後ろ姿がいくつか見えた。周囲は血で洗われたみたいになっていて、堕神が亡くなった形跡が荒れた土地の至る所にあった。キラキラと光る橙色の炎は全ての暗闇を呑み込んだ。

 明るい光は陽射しのように暖かい。遠くないところで一羽の丸い小鳥は赤い青年の肩にいる。その瞬間、目の前の姿は記憶の中のあの方に重なった。

第十四章-去る

彼は光になった……

地下宮殿

祭壇

蟹醸橙:鏡ちゃん――!起きたか――!

彫花蜜煎:その体……鏡ちゃん体どうしたの!

妖鏡:大丈夫……もう終わったの……あ……あの人は……

蟹醸橙:えっ、彼?彼は辣子鶏だ、彼が助けてくれて、怪物を倒してくれたんだ!

妖鏡:堕神……全部……いなくなったの……

京醤肉糸:そうだ、全部だ。貴方のおかげだ鏡ちゃん。今、貴方は自由になった。

妖鏡:僕は……

蟹醸橙:あれ……待って、地面が動いてる……待って……なんで地面がまた動いてるんだ?!

松の実酒:恐らく堕神の力を失ったから……法陣の効力がなくなったのかもしれない……

辣子鶏:チッ、やっぱり遅かったか……また朝鮮人参を探しに行かねぇと。

マオシュエワン:そんな事考えてる場合か?!早く出ないと俺たちも生き埋めにされる!ああああなんで今回に限って何も持ってきてないんだ!

辣子鶏冰粉にバレないようにこっそり出ようって言ったのはお前だろ!

冰粉:はい?

彫花蜜煎:ほ、本当に効力を失ったらどうなるの……

松の実酒:この法陣はこの祭壇を支えるもの、もし法陣が効かなくなれば……この山荘……いいえ恐らくこの山も崩れます……そして今は逃げ道すら……

 ボーッと辣子鶏の肩に止まっている黄金色のモフモフを見ていた妖鏡がゆっくりと口角を上げているのを誰も気づいてなかった。彼は身体を支えて、ゆっくりと立ち上がった。

妖鏡:僕が助けてあげる……

妖鏡:僕は長くこの法陣の中にいたから、とっくに力が繋がってる。だから僕の力があればしばらくは持つと思う……

蟹醸橙:じゃあ鏡ちゃん……君はどうなるの?

京醤肉糸:鏡ちゃん……

 体の半分が既に透明になっている妖鏡は俯いていた。そして再び顔を上げた時、素敵な笑顔を浮かべていた。

妖鏡:朱雀様の尾羽の力がないと、そもそも僕は長くもたない。君たちを無事に送り届けられる方が良いよ。

妖鏡:それに、僕の夢はもう叶えてもらったし。ありがとう。

蟹醸橙:えっ?鏡ちゃん今なんて……?

彫花蜜煎:鏡ちゃん!待って!

 妖鏡は引き留めている二人の事を気にする事なく、半分に割れた自分の鏡を持って、振り返って祭壇の中心へと向かった。まるで普通の別れのように、笑顔で手を振っていた。でもその場にいる全員はわかっていた、これは永遠の別れであると。

 割れた鏡は宙に浮き、妖鏡と同じ優しい光を全体から放っていた。その光は一つの力となり、祭壇の中心に向かって飛んで行った。地面には複雑で華麗な模様が浮かび上がり、力はそこに注がれていく。

 法陣の光が明るくなるにつれ、周囲の揺れは収まって行き、妖鏡の体も徐々に消えて行った……

妖鏡:僕の願いを叶えてくれてありがとう。

 妖鏡は消えそうになっていた腕を揺らし、叫んだ。最後は彼は眩しい笑顔を見せながら、一粒の光点となり法陣の中に入った。妖鏡は完全に消滅し、祭壇の中心には何も残らない。

 全員は静かに妖鏡が去って行った方を見つめた。誰も今の静寂を破ろうとはしていない。ただ黙々とたった今消え去って行った命を追悼した。

第十五章-情報

意外な収穫

少し前

荒廃した山荘

 乱雑な足音が山荘の地面を踏んで行く。周囲から微かに震動が伝わってきた。

 狼狽した黒服の者達は慌てふためいた様子で山荘内を走り回り、逃げ道を探していた。元々大勢いた隊列も、数人しか残っていない。

黒服のリーダー:チクショウ!全部使えないお前らの所為だ!あの鏡を壊しやがって、出口も塞がれて!

 隊列の先にいた黒服のリーダーは、ボロボロな服で怒り狂っていて滑稽な様子だった。

黒服のリーダー:面倒事しか増やさない。鏡は半分しかないし、どう上に報告すりゃ良いんだ!

黒服のリーダー:どうした?口も利けねぇのか?使えないな!早く出口を探しに行け……

 黒服のリーダーは部下を説教しようとしたが、振り返った瞬間、最後の言葉が喉元に詰まって発する事は出来なかった。

 彼は硬直して口を開いたまま、瞳孔が震えていた。長髪の男が地面に倒れた死体を踏みながら、颯爽と歩いてくるのを見ている事しか出来なかった。地面に広がる鮮血はまだ熱を帯びていた。まるで艶やかな蕾のように石板の上で咲き誇っていたが、その男の服には一切の血痕はなかった。

 黒服のリーダーは自分の四肢が何か見えない力で抑えられている事に気付いた。呼吸すらも奪われていた。長髪の男は掴みどころのない笑顔を浮かべていて、全身から危険な気配が漂っていた。

黒服のリーダー:ゆ、許してください!

 明四喜は土下座し始めた人物を興味あり気に眺めた。その人物の黒い服は汗水で全部濡れていた。

明四喜:緊張しないでください、知っている事を話してくれるだけで良いんです――

明四喜:あの男の子をどうするつもりなんですか?

黒服のリーダー:言います!言います!あれは自然の神としか知りません……どう、どうするつもりかは……俺たちはただ聖女の命令に従っただけ……本当にし、知りません……!

明四喜:聖女?

黒服のリーダー:せ、聖教の聖女です……これぐらいしか、知りません!

明四喜:ここの法陣については、どれだけ知っているのですか?

黒服のリーダー:法陣、ってなんですか?知りません!本当です!聖女様は、山荘の中や地下の墓地に妖怪が潜んでいるかもしれないと、教えてくれた、だけで……法陣、なんて聞いてません!

明四喜:十分です、もういって良いですよ。

 冷たい声が頭上から聞こえて来た。黒服のリーダーは終始俯いたまま、顔を上げる勇気がなかったが、この言葉を聞いてやっとホッとした。

黒服のリーダー:あ、ありがとうございます!

 彼は喜んで慌てて立ち上がり、歩き出した。しかし一秒も経たない内に、首筋に冷たさを感じた。ねっとりとした赤い液体がゆっくりと流れ、濡れた黒い服に暗い赤が広がった。

明四喜:「いく」の意味までは言ってませんよ。

明四喜:聖教……聖女……悪くないですね……

明四喜:(崩れそうですね……)

 明四喜は目を細め、四喜鏡を軽く撫でた。周囲の震動は強まり、彼の顔に一縷の躊躇いはあったが、すぐに黒服のリーダーの最期の視界から消え去った。

第十六章-大詰め

一旦終了。

南離印館

書斎

 静かな書斎で、京醤肉糸は頬杖をつきながら、書類を眺めていた。扉を叩く音が響いた。

京醤肉糸:どうぞ。

 京醤肉糸は俯いたまま返事をした。懐かしい気配を感じるとゆっくりと顔を上げた。目の前にはいつもの笑顔を浮かべている明四喜がいた。

京醤肉糸:副館長か。

明四喜:また館長の事務作業の邪魔になってしまって、申し訳ございません。

京醤肉糸:構わない、副館長は私に呼ばれて来たのだ、邪魔な訳がなかろう。

明四喜:この間の一件ですが……ヤンシェズは館長にご迷惑を掛けてないでしょうか?

京醤肉糸:副館長は考えすぎだ、彼は良い子だった。

明四喜:それは何よりです、では神物は――

 明四喜が単刀直入に聞いてくるとは思っていなかった京醤肉糸は、視線を精巧な宝箱に移して見せた。

明四喜:館長は本当に、此度の式典を指揮する権限を不才に任せてくださるのですか?

京醤肉糸:合意しているのだから、これ以上何度も確認する事はないだろう。

明四喜:不才は本当に考えすぎているのやもしれません。ただ入念に準備を進めたいのです。

京醤肉糸:なら、きちんとやってくれ。今回の式典は……貴方が知っている事は私と大差ないだろう。

 京醤肉糸は笑って、自分の語り口を強めた。もちろん明四喜もその言葉から警告の意味を感じ取ったが、焦らず視線を合わせた。

明四喜:館長が言いたい事は――勿論承知しております。


 門を隔てても外に立っている松の実酒は中の修羅場のような雰囲気を感じ取っていた。彼は早めに来なくて良かったと胸をなでおろした。

 次の瞬間、明四喜が扉を開いて中から出てきた。彼は箱を持って礼儀正しく松の実酒に会釈をして去って行った。そして、すぐに部屋の中から彼を困らせる声が聞こえて来た――

京醤肉糸:おお、松の実酒やっと来たか――じゃあ残った書類は頼んだ――少し出てくる、夜には帰るよ。

松の実酒:館長っ……!

 松の実酒は頭を抱えて、上がった眉を抑えた。深呼吸してからやっと部屋に立ち入った。

 京醤肉糸の姿はもうとっくになく、机の上の紙には水墨画で笑顔の人の絵が描かれていた。それは窓から来た風に吹かれて、体を揺らしていた。


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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
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    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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