極光神境・ストーリー・メインⅤ現世の門
第十五章-種
希望の種は植えられた……
現世の門
神国
現世の門がある砂浜で、羊かんは昏睡状態に陥った一同を見つめた。自分ではない様々な感情が消え、少し歪んだ表情もおさまり、元の神々しい輝きを取り戻した。
天沼:貴方は……本当に全員の記憶を消すおつもりですか?本当に、そうして良いのでしょうか?
羊かん:あなたたちが覚醒していることは知っている。しかし、この「神国」の主は私だ、ここではあなたたちは私の指令に従うべきだ。
羊かん:今回は、感情に任せて自分を傷つけるような間違った決断をさせたりしない。
瓊子:我々は、他人を救うことで自分が傷つくとは思っていません……
羊かん:しかし、あの者たちは救うに値しない。
天沼:羊かん、我々も認めるべきです、人間の中には確かに悪意に満ちた存在がいると。しかし、多くの人間は善良な心を持っています。少数の悪のために、大多数の善を否定するべきではありません。
瓊子:貴方が出会ってきた人間は僅かしかいないのに、大きな傷が残ってしまった。そんな貴方に理解を求めたりはしません。しかしどうか彼らに機会を与えてください。完全に否定するのではなく。これが「黄泉」にとっての唯一の希望かもしれない……
天沼:私たちが犯した過ちを償う唯一の機会でもあります。
羊かん:例えその代価が自分自身でもか……
天沼:別の角度から考えてみたらどうでしょう、私たちはエネルギーへと戻るだけです。異なる形にはなるが、永遠に存在し続けますよ。
瓊子と天沼は顔を見合わせて微笑んだ。それは羊かんが今までに感じたことのない感情だった。満足していて、安心感があって、吹っ切れているような感情。
羊かんは双子の巫女の化身を憧れの目で見つめた。そして理解が出来ないまま、また揺るぎない元の表情に戻った。
それと同時に、庭園の角にいる最中は、他の者たちのように昏睡してはいなかった。彼の意識は身体を離れ、あるおかしな空間に来ていた。
最中:ここは……
鯛のお造り:ここは私たちが初めて出会った場所、貴方はそれを水晶球の中に隠した……思い出せたかな?
最中:時空の狭間か……思い出した……あの時私は書籍を読み漁り、「現世」と「黄泉」を繋ぐ方法を見つけ、そして貴方に出会った。
鯛のお造り:ええ、先程羊かんが突然貴方たちを全員連れて行った。私も急いでこの方法を試したらまさか本当に「黄泉」を離れることが出来るなんて。もしかするとこの方法で「現世」に戻れるかもしれない。
最中:しかし羊かんは今、貴方の考えに同意したりはしないだろうな。あいつは頑固すぎる、頭が痛くなる程に。例え巫女様たちが覚醒したとしても、この羊かんの「神国」にいる限り、彼の言う通りに行動しなければならない……
鯛のお造り:機会が、あるかもしれない。
最中:機会?
鯛のお造り:時空の狭間にいれば、全ての影響が消え、貴方は全てを思い出せる。
最中:それに何か意味はあるのか……たとえ思い出したとしても、羊かんは何度も私の記憶を消すだろう。
鯛のお造り:植えたばかりの種で収穫することは出来ないよ。待たなければならないことは多い。それに、巫女様たちなら既に覚醒しているようだ!
最中:つまり……
鯛のお造り:静かに機会を伺うんだ。
最中:貴方は?どうするつもりだ?
鯛のお造り:ここは長居出来る場所ではない、私は戻らなければならない。しかし帰る前に、私は「神国」に印を残しておこう。更に、私たちで芝居を打っておこう。もし私のことを倒すことが出来れば、羊かんの信頼を勝ち取ることができるんじゃない?
最中:常に数手先を読むのか……尊敬するな……流石最古の陰陽家出身だな……
現世の門
神国
鯛のお造りが現れた時、神国は既に黄昏を迎えていた。極光は輝いていて、海面は実に穏やかだ。現世の門はまるで鏡面の上に立っているかのよう。
現れた瞬間、鯛のお造りは現世の門に惹きつけられた。彼はあの門こそ「現世」に帰る希望であると、彼は微かに感じ取っていた。
羊かん:ここまで来たのか……しかしちょうど良い、我が民を呼び起こす時間だ、貴方を素材にしよう──瓊子、天沼、神国に属さないそれを封印しろ。
鯛のお造り:封印?極光の力を使って私を隔絶するつもりか……確かにそれは良い方法だ、そうすれば私が再びやって来ても深入り出来なくなる……
羊かん:今のあなたはまるで怪物のようだ、きっと我が民たちは正しい選択をしてくれるだろう。目覚めよ、神国の民たち、神国のために戦え。
天沼:……はい。
瓊子:……
ホットドッグ:あら?どういう状況かしら?どうして突然歌舞伎町から戻ってきたの……まだ回りたかったわ……
りんご飴:あれは何?新しい堕神?さっき会ったお兄さんに似ているように見えるけど!
納豆:彼は確か……鯛のお造りと自称していた方……まさか彼も神子様の言う裏切り者、嘘つきですか?
りんご飴:手を出して良いの?いけないの?悩むわ!!!
目覚めた者たちの中で、最中は極光に侵され、体が幻想的になった鯛のお造りを見つめた。そして軽く笑って、立ち上がってこう言った。
最中:貴方を倒すべきは、この私だ。陰陽家と最強の占星術師の戦いだ!
夕日で赤く染まった海面で、一触即発の戦いが始まった。
第十六章-未完
未完の使命を、果たそうとする者がいる。
神国の黄昏。
意外な展開、また合理的な対決は、海の上空で繰り広げられた。
橙色の夕陽がその場にいる者たちの目を眩ませた。
一体どちらが優勢なのか見分けがつかない程に。
鯛のお造り:勝ったのは、貴方だ──
神力の加護があったからか、戦闘はそう長くは続かなかった、最中の複雑な視線の中、鯛のお造りは頭を振って負けを認めた。
この時、鯛のお造りの体は完全に極光化し、肌の表面はおかしな光が輝いていた。立ち止まったまま、動けずにいる。それでも、彼は羊かんの方に顔を向け、最後の言葉を残した。
鯛のお造り:これが桜の島にとっての最後の希望かも知れない、本当にこれで良いのか?
羊かん:人間を──あの裏切り者たちを救えと?災いと負の感情をもたらす以外、何が出来る?奴らを我が神国に入れるなど、断じて許さない。
鯛のお造り:……ただの幻境に過ぎないのに?どうして、現実と向き合わないんだ?
羊かん:現実と向き合いたくないのはあなたの方だろう?人間に救う価値などない。あなたがくだらないこだわりを捨てるなら、その封印を解いて、この神国に留まることを許そう。
鯛のお造り:もし私が拒否したら?この空間が私を拒絶しているのを感じる、私が抵抗さえやめればここから離れることが出来る、貴方は私を引き留めることは出来ない、だろう?
羊かん:あなたを引き留めるつもりはない。もしあなたが私の提案を拒絶するなら、例えいつの日か「黄泉」と「現世」が繋がり、誰もが自由に行き来出来るようになっても、あなただけはこの瞬間に留まることになるだろう。
鯛のお造り:ふふっ──怖いね?それなら──やっぱり拒否させてもらおうか。
羊かん:愚かな選択だ。
鯛のお造りは微笑もうとしたが、うまく笑えなかった。最後に「現世の門」を一目見て、抵抗するのをやめ、極光と化し、少しずつ神国の空に消えていった。
羊かんが手を上げると、一同の感情と記憶が綺麗に抜かれ、様々な色の堕神が生まれた。
羊かん:さあ、戦闘の後、全ては最初の単純で美しい姿に戻るだろう。
輪廻の中、時間はまるでその意味を失った。
長い長い、金色の夢の中……数百、数千、はたまたそれ以上の神秘的な力が、四方から伝わって来た。力強く何度も何度も最中にこう呼びかける。
???:「「「目覚めて……貴方にはまだやるべき事がたくさんある!早く目覚めて……!」」」
最中はその声によって呼び起こされた。まどろみの中飛び起きると、目の前には午後のあたたかい太陽の光が降り注いでいる。
良く知っている声だ、一体誰なんだ?どうやったって思い出せない。
最中はしばし考えた後頬杖をついて、ぼんやりと外の空を見上げた。突然散歩がしたくなって、ふらふらと庭園にやって来ては、目的なくぶらついた。
最中:今日の空は、相変わらず魅力的だ、だけどなんだか……心に何かが欠けているような……
天沼:落花の如く 雲水の如く 星月の如く 雨雪の如く 風雷の如く 真を現せ
最中:誰だ?!ああ、瓊子様、そして天沼様……
天沼:思い出しましたか?
最中:え?私は……待て、どこかで、それを聞いたことが……鯛の……お造り?
瓊子:良かったです、本当に思い出しましたね。貴方が冊子に書いてあった通りです。
最中も頷き、全てを思い出した。彼は瓊子が言っている冊子のことを知っている、歌舞伎町で自ら真相を書き記した冊子だ。
天沼:私たちがこれから話す事は、貴方にとっては少し迷惑なことかもしれません。
天沼:ここ数日、私たちは幾度も計算しました。「黄泉」はもう救う事が出来ない、全員をそこから救い出すほかに方法はありません。
瓊子:しかし、全ては羊かんの同意がなければいけません。更に、「現世」にいる者に、外界から開けてもらう必要があるようです。
天沼:残念ながら、「現世」ではここについての全ての記憶がありません。もし祭壇を見つけたとしても、神力がなければ開けることは難しい……そのため、外界から助けを求めるのは至難の業です。
瓊子:私と兄様は限界が来ております、羊かんの指令のまま動いてしまう日もそう遠くないかもしれません。
天沼:我々は貴方が「黄泉」と連絡が取れることを知っています。申し訳ありませんが、皆を救うには、貴方の力が必要不可欠です。
瓊子:これを受け取って下さい──
最中:勾玉?
天沼:瓊勾玉の本体を持っていてください、これを持っていれば幻境の影響を受けず、二度と忘れたりしません。
最中:しかし、貴方たちは……
瓊子:いつか我々の力は失われます、力があるうちに出来る事をしておきたいんです。
天沼:「黄泉」と「現世」は我々が作ったものですから、私たちが責任をもたなければなりません。
瓊子:ここで再び出会えただけで嬉しいのです、そうでしょう?
最中は勾玉を受け取り、水晶玉の中にある時空の狭間に隠した。頭の中で様々な記憶が戻り、少し頭痛がした。
瓊子:行ってください。そしてどうか皆を救ってください。
最中:わかった。ここにいる!すぐに行く!
最中は表情を整え、歩き出した。一先ず疑惑を置いて、終わらない幸せと快楽へと向かった。
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