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亀苓膏・エピソード

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亀苓膏のエピソード

怖い顔で説教をするが、本当は面倒見がいい人。説教の後はやれやれと思いながらも、後始末を引き受けている。


Ⅰ 幼少期

御侍様が亡くなった時、彼女はまだ五歳だった。


母の墓の前に立って、茫然と石碑の文字を見ていた。こんな幼い子供には、まだ生死について理解できないだろうと、私は思っていた。


けれど次の瞬間、私はその幼い顔に涙が流れているのを見た。




御侍様が死んだとき、私は彼女の後ろに居た。


彼女は人間の脆い肉体で堕神が放った渾身の一撃を受け止めた。堕神の武器は彼女の腹を貫いて、吹き出した血が私の黒いローブに飛び散った。


すべてが突然すぎて、もう倒したはずの堕神は、息が絶える前、私達に沈痛な一撃を与えた。


私のミスだ。


彼女の傷口を押さえて、あふれ出る血を止めようとした。しかし彼女は私の手を振り払った。その目はまるで既に遅いと告げていた。


私は、彼女との契約の力が徐々に消えていくのを感じた。


もし私が油断しなかったら……


もし私が彼女の前を歩いていたら……




突然手に触れられた感触が、私を悲しみから現実に引き戻した。


私は頭を下げて、掌に小さな手があることに気づいた。


その小さな手の主は、涙を溢れさせ、洟を啜って、私を見上げている。


その顔は、御侍様の面影を感じさせる。私は思わず彼女の手を握り返した。




あの日、私は心に決めた。契約がなくても、私は彼女のそばにいる。彼女が天寿を全うするその日まで。


Ⅱ 少女と私

子供を育てるのは容易なことではない。


その小柄な体がうっかり怪我をしないか、私はいつも心配でしょうがなかった。子供の食べるものは大人とは大きな違いがある。まだ五歳の彼女は、大人の人間と同じものを食べてはいけないと、私は思った。


だから彼女が眠っている時、私は人間の町に赴き育児について学んだ。親切に教えてくれる優しい女性もいれば、揶揄の視線を送ってくる女性も居た。


でも私は他人の視線など気にしない。ただ自分のやるべきことをするだけだ。


私はいつも彼女が起きる前に戻ってくるが、時々彼女は私が戻るより前に目覚めることもある。


起きたとき私がいなくても、彼女は他の子供のように泣いたりしない。ただ家の中で静かに座って、私が帰ったらいつも笑顔で声をかけてくれる。


「おかえり」




こうした日々が続いていく中、私と幼い彼女との間には暗黙の了解があった。それは、あの時の悲しみについて話さないということだ。


年に一度の墓参り以外、私は彼女の悲しい顔を見たことがない。


Ⅲ 成長

八歳。


彼女の身長は以前より高くなった。


十一歳。


顔から幼さが徐々に消え、少し女の子っぽくなった。


十四歳。


一人の少年が恥ずかしそうにはにかんで、彼女と何かを話しているのを偶然見かけた。


十七歳。


目の前の彼女を見て、私は昔の御侍様を見ているような感じがした。


十八歳。


「駄目だ」


「どうして?」


「君は適任ではないから」


顔を赤くして私と口論をする彼女を見て、私は不安と焦燥に駆られた。


私は彼女を御侍様のように前線で堕神と戦わせたくない。あの時の悲しみはもう味わいたくない。しかし、いつも大人しい彼女がこのことに関しては頑として譲らなかった。


「私はお母さんの仇を取りたい。あなたのように安全な場所で隠れていたくない!」


彼女はその言葉を残して、家を飛び出した。彼女の後ろ姿を見て、その背中はもう記憶の中の、あの幼い女の子ではないと気づいた。


結局母親と同じ道を選ぶのか……


私はため息をついて、


彼女の後ろ姿が消えた方向へと歩き出した。


Ⅳ もしも

彼女に追いついた後。強情な彼女に負けた私は、彼女の「料理御侍になる」という願いを止めようとはしなかった。


もし必要ならば、私は食霊として御侍の貴方と契約してもいいと言った。


でも彼女はそれを断った。


「あなたの同情はいらない」


「私は自分の食霊を召喚する」


彼女の頑なな姿を見て、私はそれ以上何も言わずに、彼女の好きにさせた。





しかし事は順調ではなかった。


強い霊力を持つ料理御侍であった母の血脈を受け継いだにも関わらず、彼女は食霊を召喚できなかった。彼女はその事実に強い衝撃を受けた。


――なぜこんなことになる?


彼女の体内には、霊力が満ちあふれている。私にはそれが感じ取れる。しかしその霊力は、まるで錠を施されたようで全く使えない。


それはまるで、御侍様が彼女も同じ道をたどってしまわないように止めているように、私は思わずにはいられなかった。





しかし彼女は諦めなかった。


その頑固な性格は、彼女の母親にそっくりだ。彼女は霊力を使う突破口を探すため、毎日訓練を積み重ねた。


だが、毎日の訓練は希望をもたらさなかった。このような日々がしばらく続き、家にいる時の彼女は、少し無口になった。


こういう場合、何といって慰めたら良いのか、私にはわからない。


だから私は、悔しくも彼女に何も言うことができなかった。



彼女が私に助けを求めないのはきっと自分なりの考えがあるからと、私は思った。




数年後の私はいつも後悔している。

もしあの事が起こる前にもう少し彼女と話をしたら、もう少し彼女の考えを聞いたら。


違う結末もあったかもしれない。


亀苓膏

堕神が蔓延る時代において、数えきれないほどの人間が死んだ。


亀苓膏を召喚した料理御侍も、その中の一人だった。


それは一人の若い女性だった。彼女の夫は彼女よりも早く戦争で亡くなった。


そして彼女も、最終的に幼い娘を残してこの世を去った。


御侍様の死を自分の責任だと思っていた亀苓膏は、御侍の娘を育てる事を自分の義務、そして償いだと思った。


少女は日々成長し、日に日に御侍様に似てきた顔を見て、亀苓膏は思わずホッとする。


これからは、このような平和な日々が続いていけばいい――そう、思ったとき。


母親のような料理御侍になると言い出した。

彼女は懸命に努力をしていたが、食霊を召喚できなかった。それでも夢を諦めきれない彼女は、なりふり構わず突っ走った。


それは、独りで堕神が蔓延る森で、自らを危険にさらし、封印されている潜在能力を引き出すという危険な方法。


しかし、そこまでしても彼女の願いは叶わなかった。


一足遅く森に辿り着いた亀苓膏は、十八年間共に暮らしてきた娘が、その母親と同じ結末を迎えた姿を見て、


深く悲しみ、怒り狂った。


計り知れないマイナスの感情が亀苓膏の心に押し寄せてきた。


彼はひとり、森の中で彷徨う。すべてを失った彼の悲しみが溢れ出し、その霊力が次々と堕神を引き寄せた。


彼は、まるで森の堕神を殺し尽くす勢いで、来る者を殺し続ける。


森を出たときには、彼はもう満身創痍だった。


意識が散漫な彼は人間の村に戻らず、ただ無感情なまま歩き続けた。


いつの間にか、彼は一面が桃の木の桃林にやってきた。体力が尽きた彼はそのまま倒れた。


気を失いかけた際、少女が死に間際に残した最後の言葉が、まだ彼の耳元に残っていた。


「ごめんね」


「あなたと一緒に……家に帰りたかった……」


それは、もう二度と、戻らないぬくもり。このまま消えてしまえたらいいのに、と亀苓膏はその意識を閉ざした。



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