紫陽花と雨宿り・ストーリー・2-8・3-2
クエスト2-8
雨降る午前 紗良御侍の家
うな丼:そうか、わかった。では、今日は拙者がひとりで行ってこよう。
水信玄餅が紗良の不調を伝えると、うな丼はそう言って出て行った。
流しそうめん:何かあったか?
そこで水信玄餅は今朝あったことを二人に伝える。
猫まんま:ふむ、やはり吾輩にはそんな風には見えないが……。
そんな反応に水信玄餅は項垂れる。どうしたらいいかわからない……その葛藤を素直にふたりに伝える。
流しそうめん:でも、そんな話聞いたことないぞ。食霊が御侍の生気を奪うなんて。
猫まんま:吾輩も聞いたことがない。
水信玄餅:だったら何故私の御侍様たちは亡くなってしまったんだろうか?
水信玄餅:私が化け物なら……説明がつく。
流しそうめん:うーん……そもそも料理御侍って危険な職業だからな。俺の御侍もやはり戦争で命を落とした。
猫まんま:この時代、死は背中合わせだ。いつどうなってもおかしくない。まして料理御侍ならな。
そんな流しそうめんの言葉に、納得したいとは思うものの、どうしても水信玄餅は頷けない。
それはあの『記憶』だ。忌まわしい、あの声。脳裏にこびりついて、今なお水信玄餅を苦しめる。
静:『お前は……! 化け物だっ!!』
御館様には、結局その話をできないままだった。そんなことを知られるのが怖かったし、それが事実だと認識したのが、そもそも御館様が死んだときだったから。
流しそうめん:じゃあ、調べてみるか?
水信玄餅:え?
突然言われた言葉に、水信玄餅はきょとんとしてしまう。
流しそうめん:食霊でそういう奴がいたかってこと。
水信玄餅:そんなこと、可能なのだろうか?
流しそうめん:やらないよりはマシだろ。そうやってずっと訳わからない話でお前が苦しんでるのは、見ていて辛い。
水信玄餅:すまない……。
流しそうめん:違うって! ここは謝るところじゃない。お前だって俺が何かで悩んでたら相談に乗ってくれるだろ?
水信玄餅:それは、勿論そうだが。
流しそうめん:だったら、ここは俺に任せてくれ!
流しそうめんが、爽やかな笑顔でドンと自分の胸元を叩く。
水信玄餅:流しそうめんは、すごいな。私は、そんなこと考えもしなかった。
流しそうめん:ハハッ! 悩んでるだけってのはどうにも性に合わなくてさ。動いてる方が俺にはあってる!
そして流しそうめんは、頼まれた用事を終え、猫まんまと帰っていった。
こうやって、損得関係なく友達のために動いてくれる。自分だったら同じようにできるかわからない。
彼は突然御館様が連れてきた食霊だった。
そのときの彼は契約していた御侍様が亡くなったばかりで、今よりもずっと暗い表情を浮かべていた。
彼はいつでもとことん納得の行くまで考えて、そして行動する。水信玄餅とは違ったタイプで、御館様に少し似ていた。
彼は自分を飾らない。そんな流しそうめんは水信玄餅にとって、信用できる存在だった。
だが、今回の件については水信玄餅は懐疑的だった。
水信玄餅:(確固たる証拠もない話。ただ、脳内の声に苦しめられているだけだ)
この足と同じだ。精神的なものにすぎない。だが、だからこそ、水信玄餅は囚われている……。
水信玄餅:(この呪縛から解き放たれる日は来るのか)
わからず、水信玄餅は溜息をついた。
雨降る午後 桜の島 郊外
うな丼:さて、こんなものか。
うな丼は、集めた食材を袋に詰めて、グッと伸びをした。
紗良の体調は悪化する一方だ。もう良くなることはないだろう。
本来なら、弟と共に死んでいてもおかしくない状況だった。
彼女が料理御侍として優れていたから、ギリギリ命をこの世に繋ぎとめたに過ぎない。
うな丼:(それももう僅かの時間か……)
うな丼:(拙者があの姉弟にしてあげられることは、もう殆どない……)
人間と食霊の生きる時間はあまりに違い過ぎる。これは、うな丼にとって、僅かな時間だ。
うな丼:(だが、拙者はこれからもこの姉弟のことは忘れないだろう)
それだけはうな丼にとって確かなことだった。
うな丼:(一日でも長く……彼女が生きられるように)
そんなことを切実にうな丼は願った。
(その願いは……。)
・<選択肢・上>叶う。流しそうめん+5
・<選択肢・中>叶えたい。うな丼+15
・<選択肢・下>叶ったらいい。流しそうめん+15
クエスト3-2
雨降る午後 桜の島 郊外
紗央:あーもう!! 次から次へとキリがねぇ!
うな丼:そうだな。まぁ、拙者たちならこの程度、問題にはならないだろう。
紗央:でも! 疲れはするだろ!
うな丼:そんなことを言われても困る。拙者、お主の疲れにまで責任は取れぬからな。
紗央:別にそんな責任を取れなんて言ってねぇ! ただ、もうキリがねぇなって話!
戦闘が一段落し、三人は暫しの休憩することにすることにした。
紗良:……確かに、紗央の言う通り。最近堕神の数が増えすぎだな。
紗良:この程度の堕神なら私たちの敵ではないが……大物が出てきたら、さすがに持ちこたえられない。
紗央:山奥ならともかく、こんな山のふもとにまでそんなヤバい堕神は出てこないだろ。
紗良:……これからのことはわからないってこと。
紗良:いろんな組織が力をつけてきてる。どんなことが起こるかわからない。
紗央:それは、そうだけどさ。
紗央:ま、心配ばっかしてても仕方がないよ。今は――この日常が一日でも長く続くことを祈るだけさ。
雨降る夜 紗良と紗央の家
紗央:はー。今日も疲れたな!
うな丼:紗良は?
紗央:もう寝た。なんだかんだ俺より姉貴のが強いもんなぁ。
それがもっぱらの紗央の悩みだ。姉は料理御侍としての才能も、何もかも紗央を上回っていた。
紗央:なんで俺には料理御侍の才能がなかったんだろう。同じ兄弟なのにさ、差別じゃないか?
うな丼:天賦自然と言うからな。そればかりは仕方がない。
紗央:夢のないことを言うなよ。冷たい奴だ。
そこで紗央はテーブルの上にうな丼を置く。
紗央:また作ったのか。
紗央:ああ。これはさ、想い出の料理なんだ。
うな丼:何度も聞いている。行き倒れになったとき、助けてくれた料理御侍が食わせてくれたんだろう?
紗央:すごくうまかったなぁ。あのとき助けられなかったら、今こうしていられなかっただろうしな。
うな丼:そうか。
紗央:感動が薄いな。
うな丼:うな丼の食霊として、そこまで愛されるのは嬉しい……とでも言えばいいか?
紗央:まぁ、そんなのはお前らしくないか。
そこで、紗央は手を止めて、うな丼の目を真っ直ぐに見つめる。
紗央:なぁ、うな丼。俺はいつか立派な料理御侍になれるだろうか?
うな丼:お前は、俺の御侍であろう? もう立派な料理御侍だ。
紗央:……だったら、いいけどね。
力なく笑って、紗央は再びうな丼を食べ始める。
その様子をうな丼は黙ってみている。
紗央:うな丼。
うな丼:今度はなんだ?
紗央:俺になんかあったらさ、姉貴のこと頼むよ。
うな丼:それは、命令か?
紗央:俺に命令なんかできないの、知ってるだろ。
紗央:ただのお願いだ。強制力はない。
うな丼:わかった。考えておこう。
雨降る午後 桜の島郊外
そんな懐かしい話を思い出しながら、うな丼は紗良の家まで戻ってきた。
水信玄餅:ありがとう。御侍様が起きたら渡しておく。
うな丼:では、また明日。
水信玄餅:あ……っ!
うな丼:なんだ?
水信玄餅:その、あなたは御侍様とどういう関係なのだろうか。
うな丼:どういう、とは?
水信玄餅:あなたは御侍様の弟の食霊だったと聞きました。
うな丼:そうだな。
水信玄餅:だったら何故御侍様の面倒を見ているのですか? もしや……その、御侍様の恋人とかなのだろうか。
うな丼:ハハッ! 何を言い出すのかと思えば!
たまらず、うな丼は吹き出してしまう。
うな丼:紗良は御侍の姉だ。それ以上でも以下でもない。
うな丼:紗央から、頼まれたのさ。自分に何かあったら、姉のことを頼む、と。
水信玄餅:御侍様の弟は、やんごとなき立場のお人だったのか?
うな丼:料理御侍は、いつ死んでもおかしくない。
うな丼:紗良と紗央はふたりだけの家族だ。両親は、亡くなっていたしな。
水信玄餅:……そうですか。急な質問失礼しました。
うな丼:いや……まぁ、そうだな。何かあるとすれば――御侍の最後の願いだからな。
うな丼:御侍に対して、忠誠を誓う食霊としては、従わざるを得ないだろうな。
水信玄餅:なるほど。確かに、そうです。契約は……重い。
うな丼:紗良はもう長くないだろう。最後にお前のような食霊を召喚できてよかったな。
水信玄餅:……そ、そうだろうか?
うな丼:あれがあんな風に笑えるようになるなんてなあ……。
うな丼:食霊と御侍の関係を、少しでも良いと思えるようになれるかもしれぬな。
そんなことを言いながら笑って、うな丼は帰っていった。
紗良:水信玄餅?
水信玄餅:あ、御侍様! お体は大丈夫ですか?
紗良:うむ。今日一日寝ていて、大分落ち着いた。
紗良:今、うな丼が来ていただろう。挨拶を出来たらと思ったが……もう帰ってしまったか。
水信玄餅:何か用事がありましたか?
紗良:いや。まぁ、また明日来るだろうしな。そのときでいいだろう。
水信玄餅:あの、御侍様。ひとつ、聞いても良いでしょうか。
紗良:なんだ?
紗良:うな丼のことを? そうだな、あいつには面倒をかけているからな。嫌いな訳がない。
水信玄餅:それって……好きってことですか?
紗良:何が言いたい?
水信玄餅:恋愛感情を抱いているのかな、と。
紗良:あははっ! 冗談はよせ、水信玄餅!
紗良:前にも言ったが、あいつは『家族』みたいなものだ。
紗良:感謝はしているが、そんな甘酸っぱい感情は抱いてはいないよ。
水信玄餅:そうですか、失礼しました。
紗良:いや、謝ることじゃないさ。
紗良:それより、今日は流しそうめんと猫まんまのふたりが来てないな。どうした?
水信玄餅:彼らは今日用事があるようです。
紗良:そうか、寂しいな。
水信玄餅:はい、寂しいです。でも、明日はふたりとも来てくれるようなので……。
そして水信玄餅と紗良は久しぶりにふたりでごはんを食べた。それはそれで楽しくもあり、でもやはり寂しくもあり……。
水信玄餅:(早く明日になるといい……)
水信玄餅はそう思って、眠りについた。
その日水信玄餅は……。
・<選択肢・上>いつもより早めに眠りについた。うな丼+15
・<選択肢・中>明日が気になってなかなか眠りにつけなかった。流しそうめん+15
・<選択肢・下>いつも通りの時間に寝床に入った。うな丼+5
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