恐怖の遊園地・ストーリー・メイン第五章〜第八章
第五章-こどもたちの願い
物語 彷徨うこどもたちの願い。
三人の一斉攻撃にも、怪物は弱る様子もなく、三人がチャージを完了し、いざ再び攻撃しようとしたその時、怪物はキーンと耳に刺さるような叫び声をあげ、三人は耐えきれず耳を覆った。
が、怪物は興味を失ったかのように、突然傍らへ飛び跳ねると、闇の中へと消えていった。
チーズは、震えながら迷宮の出口に隠れている子供を体でかばった。女の子の仲間たちは駆け出してくると、女の子の手をしっかり握った。
カッサータ「ちぇっ、勝ち目がないと逃げやがったか?」
チーズ「大丈夫、大丈夫、もう行ったよ…」
女の子「ううう…」
チーズ「いい子ね、ねぇ、お姉ちゃんに、どうして捕まったのか教えてくれる?」
女の子「ううう…」
男の子「ぼ…ぼくがおしえてあげる…。ピエロさんはきっと、僕たちが勝手に入ってきたから起こってるんだ。ピエロさん、前はとってもやさしかったんだよ…うううぇ~ん…」
チーズ「ピエロさん?」
チーズは驚き止まない子供たちを慰めていた。一方、さっきまで怪物のいたところにはキラキラ光る丸いコインが落ちていた。カッサータとピザは互いに不可解の色を見せながら、顔を見合わせた。
カッサータ「なんだ、これは…」
ピザ「わからない…さっきのあの怪物のからだから落ちたんじゃないか。あの子供にきいてみよう。お、チーズ、何か聞き出せたか?」
チーズ「うん、あの子が言うには、サーカスの団長のピエロがこの遊園地の主人らしいよ。あの子たちは、遊園地が閉園になってから、こっそり入ってきちゃって、それでピエロが随分怒って、捕まえて懲らしめようとしているんだって。」
ピザ「でも、だったらなんでここを離れようとしないんだ?」
チーズ「あの子たちがいうには、試してみたけど、なぜか出られないらしいよ。ピエロが許してくれていないからだって、子供たちは思ってる。」
ピザ(ここに縛り付けられている霊か?…まだあんなに小さいのに…はぁ…)
ピザ「じゃ、これからどうっすか?あの怪物も逃げちまったが。」
男の子「ねぇねぇ、おにいちゃんたちは、ピエロさんを探しにいくの?」
ピザ「そうだよ。キミ達、ピエロさんの居場所、知ってる?」
女の子「…ピエロさんは…多分、お友達の手品師さんのところだよ。」
ピザ「手品師?」
男の子「手品師さんはいつもティーカップの近くで、マジックを見せてくれるんだ。おにいちゃんたち、あそこ行くの?危ないよ…」
チーズ「うん、でもピエロさん、罪のない人を連れて行っちゃったから。おにいちゃんとおねえちゃん、その人を助けなきゃならないんだ。」
ピザ「あ、そうだ。君たち、これ、なにか知ってる?」
ピザはポケットから、さっき拾ったばかりのコインを取り出し、しゃがんで二人の子供に見せた。
女の子「あ、これ…遊園地のコインよ。遊園地にはガチャガチャがあってね。たからものがい~ぱっいあるの!」
ピザ「宝物?」
男の子「そう!宝物、い~~ぱっいだよ!」
ピザ「面白くなってきたな。」
ピザ「――そうそう、後でピエロさんに会ったら、もう怒らないでってつたえておくよ。そうすれば、キミたちもここから出られるだろう?」
女の子「ほ、ほんとう?…ありがとう、おにんちゃん、おねえちゃん!気を付けてね!」
ピザ「うん!」
子供たちは鏡の迷宮へと戻り、入口から顔を出して用心深く三人に手を振った。女の子が顔を引っ込めると、真っ黒だった出口が七色の光を反射する鏡で閉じられた。
ピザ「…行くぞ、ティーカップだ。」
チーズ(ピザったら、何だって急にやる気出したのかな?さっきまであんなにこわがってたのに…)
第六章-マジックショー
物語 サーカス団のトップ手品師が魅せるマジックショー。
鏡の迷宮の中では全くわからなかったが、三人は外に出て初めて、空が重く、一点の曇りもない黒色で覆われ、ほんの数個の星さえも注意してみなければよくわからないほどだった。
どうにも拭い難い重苦しい空気が満ちていた。
チーズ「さっきは昼を過ぎたばかりだったわよね。チーちゃんたち、そんなに長く、中にいた?これじゃ、もう夜みたい。」
ピザ「あ!オレたちまさか、マジで異次元に来ちまったか!」
ピザ(今んとこ、奴の影も形もないが、まさか奴と関係ないよな)
カッサータ「着いたぞ!あれがティーカップだ。」
三人の目の前には一角獣が軽快なリズムで走り、色とりどりのティーカップがゆったりと回り、汽車が汽笛を鳴らす、どの遊園地でも見るような光景が広がっていた。
真っ白なハトが空を旋回しながら飛び回っていたが、かと思うと、ゆっくりとティーカップの真ん中におりてきた。
ピザはうずくまり、地面をゆったりと歩くハトたちに手を伸ばす。
ピザ「チッチッチッチッチッ。」
チーズ「何やってるの?」
ピザ「可愛いと思わないか?」
カッサータ「昨日は旅館の主んとこのジョーンが可愛いとか言ってたな。」
チーズ「あ!そういえば、昨日、チーちゃんにくれるはずだった食べ物、ジョーンに食べさせちゃったでしょ。」
ピザ「なんで知ってんだよ?!」
カッサータ「こっちを見んなよ。俺は何もいってねぇよ。」
紅い風船が地面からゆっくりと膨らみ、段々と大きくなっていった。一匹のハトが風船のてっぺんに泊まり、くちばしで今にも割れんばかりの風船をつついた――
パンっ!
ピザ「うっわぁ!びっくりしたぁ…なんだ、ハトか。スゲーな。」
カッサータ「だ、だ、だ、だからぁ、マフラー、引っ張んなって。ごほっごほっ…」
チーズ「アンタたち…先が思いやられるんだけど…」
風船が割れた瞬間、無数のキラキラした破片が空中に飛び散り、流星のように線を描いた。飛び散った破片を追っていくと、視線の先の風船のあった位置に、突然手品師姿の人間が現れた。
手品師は気味の悪い仮面をかぶり、白い手袋をした手を高く上げ、指を鳴らした。その響きと共に、まだ地についていない破片はまるで指揮に従うかのように、手品師の指の動きに合わせて空中でリズミカルに揺れていた。
ピザ「面白そうじゃないか!教わりたいな!」
チーズ「まったく、ただ目立ちたいだけでしょ。」
チーズ「あ――」
指先が空中に小さな輪を描くと、手品師の意志のまま、破片が二人にかばわれているはずのチーズを取り巻いた。
チーズ「来ちゃ駄目!うううう――!」
カッサータ「まずい!はやく引き出さないと!」
ピザとカッサータがチーズを破片の取り巻きから助け出すのも待たず、またもや高いキレのいい音と共に、風が吹きおこり、二人は腕で目を守らずにはいられなかった。再び目を開けた時には、後ろにいたはずのチーズの姿はもうそこにはなかった。
カッサータは飛び出そうとするピザを引き留め、重い表情で、仮面をつけた手品師に視線を向ける。
手品師「Ladies and gentlemen!ようこそエデン遊園地へ!人生で最も素晴らしい一日をお楽しみください!本日マジックショーをご覧に入れる手品師でございます。」
手品師「マジックはそれを知らない人にとってはごまかし、まやかしかもしれません。ましてや詐欺だという人もいます。」
手品師はそう語りながら、何もなかった手のひらに白いハトを出して見せ、真っ白な、可愛らしいハトは肩、そして頭へと静かに上っていく。
手品師「しかし、最高の境地に達したマジックは何と呼ばれるか、ご存知ですか?」
ピザ「…魔法か?」
手品師「Bingo!その通りです。魔法――マジックの最高境地、それは魔法です!」
手品師「魔術の原理を追求する術も、隠されたカラクリを知る術もなくなった時、マジックはもうマジックでなく、魔法に替わるのです。」
ピザ(この手品師、一体何を言ってやがるんだ?!畜生、チーズを一体どこに隠しやがった!)
カッサータ「それじゃ、教えてくれないか?俺たちのお姫様をどこにやったんだい?」
ピザ「ん?…お姫様?」
カッサータ「あ、そうだった、忘れてた。お前もお姫様だったなぁ~~。」
ピザ「こんな時に…からかうんじゃない!」
カッサータ「わかったわかった。…ところで手品師さん、こいつが泣きださないうちに早く答えてくれないかなぁ。」
既に武器を構え手品師に向けるカッサータを前に、手品師は笑みをこぼした。
ハトが次々とその腕を埋め尽くし、カッサータの脅しにはお構いなしだ。
手品師「そう焦らないでください!まだ私の質問が済んでいませんよ。では、魔法の最高境地は一体なんでしょう?」
手品師はピザとカッサータに満足いく答えなど期待しておらず、両手の親指を中指に擦ってキレのいい音を鳴らすと、肩にいた白いハトがことごとく落ちていった。
まるでプラスチックのおもちゃの様に地面に落ちていき、鈍い音をたてた。羽一本動かさずに。それをただただ眺めていた手品師は首をひねったが、その角度から見る仮面の笑顔はことさら不気味であった。
ピザ「魔法の最高境地だって?」
手品師は器用に指先を合わせ、10本の指で一つの三角形を作りだす。
手品師「ああああ…幻に真実を、苦痛に喜びを与え賜え…」
そして両手を荒々しく広げた途端、地面に落ちていた白いハトが突然羽をはばたかせ、空中に舞い上がった。
手品師「終結に再生を与えたまえ!」
ピザ(「終結に再生を」か…奴もそう言っていたな。本当に、お前と関係あるっていうのか…)
遠くへと飛んでいく白いハトはゆっくりと隊列を成し、不気味な深紅と白い色が絡まり合って、鳥肌の立つような渦をつくり、まるで空間さえも歪んでいくようだった。
ピザ「うっ!!!」
カッサータ「うっ!」
ピザとカッサータは目の前の光景を疑わずにはいられなかった。白いハトたちは彼らの目の前でそのまま歪み続け、一匹の不明な奇怪な怪物に変化した。
しかし次の瞬間、その奇怪な塊となった生物は、空中で風船のように破裂し、夢から醒ますような大きな音を立てた。何の痕跡も残っていない地面を前に、二人はただただ沈黙するしかなかった。
悪夢のような光景を目の当たりにし、背中に冷や汗をかいていた。
ピザ「これは…夢でもみていたか…」
カッサータ「……」
手品師は悪魔にとらわれたような二人をそのままに、両側に手を広げると、それまで静かに止まっていたティーカップが大きな音を立て始めた。
手品師「今日ここに来て下さったからには、ティーカップのマジックをご覧に入れましょう。魔法とは言えないまでも、このマジックで私は一回たりとも気を抜いたことはありませんよ。」
そういったかと思うと、重たいティーカップがコンクリートの束縛を脱し、宙に浮かびあがった。行方のわからなくなっていたチーズも突然手品師の後ろに浮かびあがった。
チーズ「うう!?」
ピザ「彼女を放せ!!」
ティーカップは空中で位置を変えながら、物凄いスピードで残影を残しながら動いていた。もがくチーズもそのうちの一つのカップにつかまってしまったが、一体何色のカップにつかまっているのかさえも分からない。
カッサータ「お前こそ、武器をしまえ!チーズに怪我させる気か!」
ピザ「うっ!」
手品師はピザとカッサータの攻撃をうまくわかわして飛び上がると、傍らのメリーゴーランドのてっぺんに立った。そして両手を開き、まるで観客の拍手を仰ぐようなしぐさをして見せた。
手品師「それでは、この世界を回転させてご覧にいれましょう!観客の皆様、御姫様は一体どのカップの下にいるか、当ててみてください!」
手品師「正解すれば、あなた方のお姫様は戻ってきますよ!不正解の場合は、私の言うことを聞いて頂きますよ~~。」
カッサータは武器でピザの前を遮り、その表情はいつになく冷静だった。
カッサータ「お前を打ち負かしさえすれば、チーズは同じように戻ってくるさ。」
手品師「まぁまぁまぁ、そんなことしたら、あなた方の可愛いお姫様がどこにいったか分からないじゃないですか。」
カッサータ「……」
手品師「さぁ、当ててみてください。時間もありませんよ~。」
そう言い終わったかと思うと、奇妙なピエロ型の砂時計が手品師の傍らに現れた。
第七章-予期せぬ襲撃
物語 再び現れた巨大な怪物。襲われたのは……?
手品師の傍らの砂時計の最後の一粒が今落ちようとしていた。雨の様に汗を滴らせる二人はほぼすべてのカップをひっくり返していたが、今だチーズの影形もない。
焦るピザは汗を拭いた。
カッサータ「いない!」
ピザ「こっちも駄目だ、これが最後の一つだ!」
ピザとカッサータはどのカップの下にもチーズを見つけ出すことができなかった。二人はさっと顔をあげ、メリーゴーランドのてっぺんにゆったり座り、お茶を飲む手品師をみやった。
手品師「あらあらあら、まだお気づきになりませんかぁ~~」
ピザ「何をだ?!」
手品師「そもそもあなたがたのお姫さま、カップの下になんて、いないんですよ~~」
ピザ「お前!!」
手品師「最初に申し上げたでしょう。魔術は、詐欺だって。ただ魔術が騙すのはあなた方の目に過ぎませんけどね。」
カッサータ「一体俺たちに何をさせたいんだ?」
手品師「簡単なことです。エデンから出て行って頂きたい。そして二度と来ないで頂きたいのです!エデンの秘密を探ろうなどとなさらなければ、お姫様はお返ししますよ。」
ピザ「な、…なに?ここを出ていく、そんな簡単なことでいいのか?」
カッサータ「どうやら人には言えない秘密があるようだな。では、どうして俺たちを追い出すのか、聞かせてもらえるかな?」
手品師「それはあなた方が知る必要のないことですよ。」
カッサータ「それなら申し訳ないが、ここを出ていくわけにはいかないな。子供たちに約束したんでね。面倒を解決して、ちゃんと成仏させてあげるって。」
手品師に考える暇も与えず、カッサータの言葉が切れるやいなや、あの見覚えある怪物が物凄い異臭を放ちながら襲ってきた。しかし誰もが思いもよらなかったことに、怪物が襲ったのは、なんと親友であるはずの手品師だった。
一瞬で手品師は怪物に突き飛ばされてしまった。
手品師「なぜ…団長…」
ピザ「団長?あの子たちはピエロが団長だって…」
この時の手品師はさっきまでの偉そうな態度とは別人のように打って変わり、ピザとカッサータに向かって慌てて大声で叫んだ。
手品師「はやく逃げて下さい!あなた方のお姫様は足元の石板の箱の中にいます!お姫様を連れてここを離れて下さい、もう二度とここへ戻って来てはいけません!!!はやく!!!」
カッサータが足元のタイルを剥がすと、隠し箱の中に閉じ込められていたチーズは上半身を破片が絡ませている銀の糸で巻かれ、身動きが取れず、慌てて足で箱の壁をけり出てくるしかなかった。二人を見ると、チーズはふぅっと長い溜め息をついた。
チーズ「ええ、平気平気、これしきのことチーちゃんにはどうってことないわ~」
ピザ「危ない!」
あの怪物が手を伸ばし、ピザに向かってきた。ピザは片手でチーズを引っ張り、自身は振り返る暇がなかった。カッサータが攻撃を遮ろうとしたその時、手品師が突然ピザの背後に現れ、ピエロの攻撃をまともに受けた。
ピザ「なぜだ、なぜオレたちを守ろうとする?」
手品師「はやく!早く逃げないと、手遅れになる!」
ピザ(駄目だ、あいつに聞きたいことがある。あの手品師はきっと何かをかくしてる!)
カッサータ「あんたに、聞きたいことがあるんだ!」
ピエロ「だ、だれ、誰一人として逃がさないぞ。だめだ…僕のショーを見るんだ!この裏切り者、裏切り者!逃がしては駄目だ…これまでも、皆、お前が…この裏切りもの…」
手品師「罪のない人をこれ以上傷つけてはいけません。団長…私が悪いんです…私が責任を取ります。だから、彼らを逃がしてやってください!」
団長の腕が手品師の体を貫こうとしていたその時、大きな衝突の後、すてに目を閉じ覚悟を決めていた手品師は驚いた様子で目を見開いた。
そこにはカッサータが自分の武器を盾に手品師の前に立っていた。カッサータは口元の血を拭きながら、ことさら自信満々に笑った。
カッサータ「こんな風に訳も分からないまま終わらせるなんてナシだぜ。それに、借りを作るのは、俺たち嫌いなもんでね。」
ピザ「そうさ!まずはこいつをやっちまってからゆっくり話を聞くとしようぜ。」
手品師「あなた達…」
カッサータ「そうさ、アンタには今、死んでもらっちゃ困るんでね!さぁ、邪魔だ!チーズ、こいつをちょっとどこかに隠しておいてくれ!」
第八章-手品師の親友
物語 巨大な怪物の正体とは。
強大な怪物も数人の攻撃を受けてどうやら疲れてきたようだ。振り返りもせず、遠ざかって行った。三人が追撃しようとすると、既にかなり弱り切っていた手品師が彼らの前に立ちはだかった。
ピザ「おい!アンタ、さっきあいつに殺されそうになったんだぜ。」
手品師「わかっています…でも、それは彼の本心じゃありません。昔なら、絶対こんなことしませんでした。」
ピザ「昔だって?」
手品師「僕たちがいけないんです…僕たちが彼をあんな風にしてしまった…」
手品師「もし僕が無理やり彼をこの世界に連れ戻さなければ、今みたいな怪物になってしまうこともなかった…遊園地もこんな風にはならなかった…」
手品師「だから、僕はどうなろうと、ここで彼を守っていたいんです。彼の代わりに彼が大好きだった遊園地を守っていてやりたいです。」
ピザ「ちょっと待て!アンタは…アンタたちがアイツを怪物にしたって言うのか?」
手品師「ばかげた願い事のせいで、こんな悲しい結果を招いてしまったんです。僕は触れてはいけないタブーに触れてしまった、神にしかできないようなことをしようとして、だから罰をうけたのです。」
手品師「そのことは、もう話すのはよしましょう。どうか早くここを離れて下さい。ここはあなた方の世界じゃない、あなた方の来る世界じゃないんです。今出ていけば、間に合います。」
チーズ「だから、まどろっこしいやり方で、チーちゃんのこと、閉じ込めたのね。驚かしたのも、チーちゃんたちを逃がす為?!」
手品師「あなた達は面白半分で来たんでしょう?地獄のような光景を目の当たりにすれば、大体の人が言うとおりにここを離れる。あなた達も…僕の言う通り、はやくここを離れて下さい。」
この時、手品師だけてなく、カッサータもチーズも気づいていた。ピザの顔からさっきまでの気楽な表情が消え、空の色とも相まって何とも暗く恐ろしくさえ見えていることに。
ピザ「手品師さん、教えてください。そのタブーって、誰がアンタにおしえたんだい…」
手品師「…手品師は種明かしはしないものです。知りすぎると、不幸なだけですから。」
ピザ「そいつは眼鏡をかけて、可笑しなマークの付いたスーツケースを持った、自称商人っていう奴じゃなかったかい?」
手品師「それは…」
ピザ「そいつは、ウェルテルって名乗った、そうだろ?」
手品師「!!!!!」
ピザは胸元のポケットから小さな精緻に造られたペンダントトップを取り出した。それは双頭の蛇が絡み合った、かなり異様なデザインだった。カッサータは片方の手を指が青ざれるほどきつく、ぎゅっと握りしめた。
手品師はジッとだまったまま、その奇妙なペンダントトップを見つめ、下唇を噛み、何か葛藤している様子だった。長く息を吐きだすと、突然肩を落とし、その強壮な体には似合わず、殊の外つかれた様子になった。
手品師「僕について来て下さい…そのことは、あなただけにお話しします。」
チーズ「え?!なになに?何をそんな、チーちゃん達には聞かせられないっていうの?」
ピザはついてこようとするチーズとカッサータを制止して、一人で手品師と近くの隅へ行った。こんなにも神妙なピザをチーズは初めて見た気がした。
チーズ(ピザ、チーちゃんに一体何を隠しているの?ウィスキーと何か関係が?なぜ、私、何も知らない気がしてならないのかしら?)
カッサータ「一人で行かせよう。」
チーズ「でも……」
カッサータ「大丈夫、何をしようったって、俺がついてるんだから。」
ピザは手品師について暗がりに行き、話の続きを始めた。
ピザ「手品師さん…教えてくれ。アンタにそのことを告げた男は、今どこだ?」
手品師「もうとっくの昔に出て行ってしまいました。団長がこんな風になってしまって、彼を探したんですが、もういなくなっていたんです。」
ピザ「アンタ達が団長を復活させた方法は、そいつが教えたんだろう。錬金術と言う、技術だ。」
手品師「ええ、彼から聞きました。しかし、すべては、私が報いを受けるべきなんです。僕が団長をあんな風にしてしまった。彼もきっと苦しんでいる…」
ピザ「手品師さん、アンタのせいじゃねぇよ。あいつがあんたを利用したんだ。オレが必ず、見つけ出して見せる。アンタ達の為に、そしてオレ自身のために…」
手品師「あなたも何か助けを求めたことが?」
ピザ「話し出すと、長くなるんだが、いずれにしても必ず責任はとらせるさ。」
ピザ「そうそう、で、アンタは奴がどこに行ったか、知ってるか?」
手品師「…おそらく南の方へいったとしか…。」
ピザ「有難う。」
手品師「――ちょ、ちょっと待ってください!助けて頂きたいことが!」
ピザ「何だ?」
手品師「団長を元に戻してくれませんか?」
ピザ「元にもどす?」
手品師「ええ、その人が言っていました。団長の、生前叶えられなかった願いへの執念を利用して、団長の魂をこの世界へ呼び戻すんだと。」
ピザ「だから、今の団長は自分の願いをかなえるために、通りかかった人を捕まえているのか?」
手品師「ええ、以前遊園地改装の為に、大きな借金をしましてね。私たちも団長と一緒に頑張って返していたのですが、団長は歳も歳でしたから、最後のショーを終えたらゆっくり休んでもらおうと思っていたんです。」
手品師「それが思いがけず、ショーの当日、事故がおこって…」
手品師「だから、お願いです。団長のショーを見に行ってやってください。それが団長の執念です。同時に、私たちの願いでもあるんです。」
ピザ(たった一つのたわいもない願いの為に、ここをこんな地獄に変えてしまうなんて。ウィスキー、オレは絶対、お前に自分のやったことのケリをつけてもらうぞ。)
ピザ「――わかった。でも願いを叶えた後…たぶん…」
手品師「有難うございます!わかっています。でも、あんな悲しい姿でこの世に留まることの方が、ずっと悲劇です。団長も、私たちも、だれも好き好んでこんな風になりたいとは思っていなかったんですから。」
手品師「お願いします。私たちにケリを付けさせてください。」
ピザ「ちょっと、止めてくれ、頭をあげて。わかった。願いを叶えてやる。」
手品師「もしよろしければ…最後にこのエデンで存分に遊んで行って頂けますか?ここは素晴らしいところですよ。今ご覧になってる姿とは全然違うんです。あ…お願いのし過ぎでしょうか?」
ピザ「いや!随分遊園地も来ていなかったし、こっちが御礼をいいたいくらいだよ。そうだ…そうだ…あの団長に連れてこられた運の悪い奴は今どこに?」
二人のところに戻ってきた時のピザに、重苦しかった表情はなく、また笑顔が戻っていた。
ピザ「約束するよ、アンタの友達をきっと連れ戻してやる。」
団長「ええ、有難うございます。団長は多分サーカスのテントの中にいます…ここからお化け屋敷を抜けると、テントが見えてきます。」
カッサータ「アンタは一緒に行かないのかい?」
手品師「私は…まだやることがあるので。」
カッサータ「…そうか。ま、アンタの好きなようにするといい。ピザ、チーズ、行くぞ。」
ピザ(ウィスキーの情報は手に入らなかったけど、いずれにしても手がかりはあったな。が、今はともかく、あの人たちの願いをかなえてやろう…)
ピザ「さぁさぁさぁ!!お化け屋敷に出発だ!!!」
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