中華フェス・ストーリー・メイン第九話〜第十二話
第9話 海神の祭典
物語 みなが首を長くして待つ祭典とは。
蘇盛二日
朝
湯圓「女神様みたい♪」
獅子頭「『みたい』じゃなくて、女神そのものだな。海神娘々だし。」
小葱「みぃ!」
獅子頭「へへっ! 小葱もそうだって言ってるぞ!」
麻婆豆腐「お世辞はいいから。おだてても何もあげないし。それより、松鼠桂魚、このびらかんざし、刺し直してくれない?」
松鼠桂魚「お、そのままだと髪に巻き付いちゃいそうだね。どれどれ……。」
餃子「すごいきれいだね、麻婆豆腐! でもどうしてそんな格好をしているの?」
獅子頭「麻婆豆腐が『海神娘々(かいじんにゃんにゃん)』だからだよ。海猫娘々は、海神祭りで町娘が交代で演じる役のことだよ。」
獅子頭「お芝居だけじゃない。本番当日、海神娘々に選ばれた娘は、町をぐるりと一周回る……それを『娘々招福(にゃんにゃんしょうふく)』と言うんだ。」
獅子頭「おっと! 最大の見せ場は別にある。海神娘々は、最後に歌劇をするんだ。『娘々救世(にゃんにゃんきゅうせい)』を演じるんだ!」
餃子「『娘々救世』? それって何?」
獅子頭「娘々は海難の予見ができるっている伝説があるんだ。漁夫の娘で、海でたくさんの人を助けたこともあるらしいよ。その伝説を物語仕立てにした歌劇ってことさ。」
餃子「そうなんだ、ありがとう! えっとね、ほかにも聞きたいことがあって……。まだこの町のこと、よく知らないから!」
餃子「でも、今一番気になってるのは、夕さんのこと! どうして夕さんを探しに行くのが、海神祭りの後なの?」
麻婆豆腐「この町の大部分は、海面漁業で生計を立てている。だから、海神を招きいれて、一年の収穫と平穏を保証してもらうんだ。」
麻婆豆腐「生活の基盤に繋がる大事な儀式をほっぽり出したら、みんな不安になっちゃうでしょ?」
麻婆豆腐「年獣のことで、既にみんなかなり動揺してる。これ以上の不安を煽るような行動は控えたいってところかな。」
佛跳牆「今年は麻婆豆腐が海神娘々に選ばれた。一度決まった海神娘々を変えるのは不吉なこととされている。だから、予定の変更はできない。そんなことで、町の人たちを動揺させたくないからな。」
佛跳牆「町の周囲に包囲網を張ってきた。祭りが始まるまでは様子見だな。」
佛跳牆「年獣が海神祭りの最中に待ちに侵入しようとしても、私の部下が全力で阻止してくれよう。」
佛跳牆「だが、油断は禁物だ。昨日のからくりを突破したくらいだからな。年獣は怪我をしたようだし、そこまで用心する必要はないだろうが――それより。」
小葱「みぃ!」
佛跳牆「小葱、誰か来たのか?」
麻婆豆腐「あら、おばあちゃん。もう出る時間?」
老人「出発まではもう少し時間がある。何か足りないものがないかい?」
麻婆豆腐「大丈夫! 安心してて、おばあちゃん! 急いで準備しちゃうね!」
第10話 降り立った神
物語 まもなく始まる海神祭、一体何が起こるだろう。
老人「麻婆豆腐、そろそろ出る時間だよ。」
麻婆豆腐「ええ、準備はできてるわ。行こう、おばあちゃん。」
松鼠桂魚「『海神娘々』、しゅっぱーっつ!!」
獅子頭「しゅっぱーつっ!!」
湯圓「ぱ~つ~!」
餃子「わぁ! オイラも行くよ! 待ってぇ~!!!」
佛跳牆は、皆が出て行くのを静かに見届ける。そして、一人になった佛跳牆は長い息を吐いた。
佛跳牆「……良いタイミングで私の話を遮ってくれたな。助かった。」
佛跳牆「――さて、今日の祭りも嵐が起こるかもしれんな。これから何をするつもりか、篤と見せてもらおう。」
本日は海神祭りでメインとなる歌劇『娘々救世』が上演される。そのため、観客の数も増え、町は異常な盛り上がりを見せている。海神娘々が町の南西にあるメインステージまで、華麗な花車(はなぐるま)と共に練り歩く。
獅子頭「交差点はすごい人だな……『邪を払い、神を迎える』って意味でラッキークラッカーを鳴らすためにいるらしいけど。」
謎の人物乙「おっと、ワリィな!」
獅子頭「あ! こっちこそすみません!」
獅子頭「……ん? お兄さん、どっかで見たような……?」
謎の人物乙「いや、人違いだろ。じゃあな!」
獅子頭「そっか……っと、すごい勢いで走ってちゃったな。海神娘々を見るために、待ってたんじゃないのかな?」
松鼠桂魚「ちょっとちょっと! ここ、すごいよく舞台が見えるよ! 一等席じゃない!?」
餃子「ここなら麻婆豆腐の舞台にかぶりつきだね~。えへへ、楽しみ~♪」
『海神娘々』を乗せた花車は、もう少しで目的地に到着する。最後の交差点を通り過ぎ、目前に歌劇をやる舞台が見えた。舞台前の観客たちは盛り上がりも最高潮に達している。ラッキークラッカーの音がひっきりなしに響いた。
餃子「いよいよ海神娘々の舞台だなー! 楽しみ~♪」
獅子頭「……ああ。それより餃子、ラッキークラッカーの音、すごく大きくないか? まるで霊力を爆発させたみたいな――」
年獣「煩いぃぃ!! なんだ、その音は!?」
餃子「え!? 夕さん!? どうしてここに夕さんが!?」
年獣「その音をやめろおぉおっ!! ぐわぁあああああぁっ!!!」
松鼠桂魚「ぎゃっ!? 年獣!? まずい、行列に飛びかかるぞ!」
湯圓「夕さん! やめて!」
餃子「湯圓! 今行ったら危険だよ! 夕さんの様子がおかしいっ!」
湯圓「だからこそ、湯圓たちが止めなきゃなの! そのために一緒に来たんだよね!?」
餃子「……その通りだ! オイラと一緒に行こう!!」
麻婆豆腐「待って! 年獣の相手はあたしよ!」
年獣「貴様はあのときの……! あれは私の物だ! 返せぇっ!!」
第11話 娘々救世
物語 熱烈な歓声が響き渡る。
麻婆豆腐が顔を覗かせると、カッとなった年獣が花車の前に飛び出した。驚きの声が観客からあがる。だが麻婆豆腐は、恐怖心をおくびにも出さずに、唸り声をあげる年獣の前にひらりと舞い降りた。そんな麻婆豆腐の凛々しい姿に、観客は熱い歓声を送る。
工匠「海神娘々! そいつをやっつけてくれっ!!」
村人「麻婆豆腐は、昨日も勇ましい獅子になり、年獣を追っぱらってくれた! 今回もきっと大丈夫だ! 頼りにしてるぞー!!」
謎の人物甲「……まいったな。麻婆豆腐だったか、厄介な奴だ。」
謎の人物乙「佛跳牆は今回も出てこないつもりだろう。共倒れさせるのは難しそうだ。こうなったら、奥の手を使うしかないな。」
謎の人物甲「奥の手? なんだ、それは。」
謎の人物乙「シッ! 詳細は後だ! 一旦引くぞ。」
怪しげな男たちは、素早くその場を離れた。誰ひとり、彼らのことは気にも留めない。それよりも、麻婆豆腐と年獣がどうなるか、それが観客の関心を引いていた。
年獣「クソッ! 貴様の顔は覚えたぞ! 今は引いてやるが、貴様の取ったもの、後で必ず取り戻しに来る! 覚悟しておけ!」
麻婆豆腐「……何の話?」
年獣は麻婆豆腐を一瞥し、ヒラリと身を翻し立ち去っていく。麻婆豆腐はその様子を見ながら、肌身離さず持っていた角を取り出した。そして、これまでのことを思い出す。何か――引っかかる。だが、その正体はまだ掴めない。
観客は年獣が現れても、まるで怯えた様子を見せない。どうやた麻婆豆腐と年獣のやり取りを、歌劇の一幕だと思っているようだ。歓声はより一層激しくなっていく。
村人「海神娘々が年獣を追い払ってくれた! さすが、海神娘々だ! 例年の舞台より、遥かに良かったぞー!!」
工匠「これこそ真の『娘々救世』だ! 麻婆豆腐は現世に蘇った海神娘々だー!!」
麻婆豆腐「……勘弁してよ、もう。年獣も去ったし、早く舞台を始めましょ。」
老人「舞台はもう終わったさ。」
麻婆豆腐「え?」
老人「使い古されて黴の生えた脚本より、本物の救済劇が人々の心を打った……。さぁ、最後の仕上げだよ、麻婆豆腐。」
老人は一歩前に出て、スッと手を上にあげた。
老人「皆の衆、頭を下げい!」
老人「控えおろう――」
老人「海神娘々のお通りだ――」
老人の声に、観客たちは麻婆豆腐にひれ伏した。その様子に戸惑う麻婆豆腐だったが、場の空気に飲まれ、大人しく流れに従った。
麻婆豆腐「ちょ、ちょっと! こんなの脚本にはなかった……!」
老人「海神娘々様、花車へどうぞ。それともこの場で民に何かお言葉をかけますか?」
麻婆豆腐「じょ、冗談っ! 勘弁してよっ! おばあちゃんの言う通りにするから、このまま帰して……!」
花車に乗る前に、麻婆豆腐は手に持ったままになっていた角を獅子頭に渡した。
麻婆豆腐「獅子頭、これを佛跳牆に渡してくれる? 年獣はきっとこれを取り返すために襲ってきたと思う。最初に町を荒らして回ったのも、きっとこれの為だったんだね。」
松鼠桂魚「え? 何これ……角?」
湯圓「ひゃっ!? これ、夕さんの角なの! どうして麻婆豆腐がこれを持ってるの!?」
麻婆豆腐「……拾ったの。誰が落としたかはわからないわ」
獅子頭「そっか! 佛跳牆なら何か知ってるかもしれないね。わかった、麻婆豆腐! 僕に任せて!!」
麻婆豆腐(この事件の真相は……もしや……)
第12話 花灯会
物語 盛り上がる花灯会、隠された危険。
蘇盛四日
夜
海神祭りの目玉である歌劇『海神救世』が終わり、町は落ち着きを取り戻し始める。だが、まだ海神祭りが終わった訳ではない。蘇盛四日から『花灯会(かとうかい)』が始まる。町が灯火に照らされ、その様子を楽しむためのイベントだ。
更に海神祭りの最終日には、町民が海神娘々から守護を得るために祈る儀式――『打鉄花(だてっか)』が行われる予定だ。
『打鉄花』は、溶かした鉄を空に放つパフォーマンスで、海神祭りの締めとして催される。麻婆豆腐たちも、祭りの最後に立ち会うために、花灯会の会場へと向かっていた。
松鼠桂魚「あれから年獣も町に来てないし、花灯会を存分に楽しめそうだね! あの角を佛跳牆に預けたのがよかったのかなー。」
湯圓「佛跳牆さんは角を夕さんに返すって言ってたけど、もう返してあげたのかな?」
麻婆豆腐「年獣が角のために町にやってきたのなら、角を返せば一件落着よね。ただ……」
餃子「ただ? なにか問題があるの?」
麻婆豆腐「……ううん、何でもない。気にしないで。」
麻婆豆腐(角は鋭利な刃物で切り落とされた跡があった。角を落としたあの人……わざと落としたんじゃないかな。あまりにもタイミングが良すぎる、まるで仕組まれたみたいに)
麻婆豆腐(これくらい、佛跳牆なら当然気づくはず。でも、彼は動かなかった。やっぱりこの話には、何か裏があるな……)
麻婆豆腐「あ……本当だ。」
麻婆豆腐が湯圓の指す方向を見ると、そこにはラッキークラッカーを持った無邪気なパンダの姿があった。間違いなく、あれは小葱だ。何故こんなところに……? 麻婆豆腐は不思議に思う。
麻婆豆腐(この前、年獣はラッキークラッカーの音でおかしくなった――角が佛跳牆のところにあれば、年獣はまた町に現れるはず……)
麻婆豆腐「ねぇ、みんな。ちょっとお願いがあるんだ。小葱を連れて、先に『打鉄花』の舞台まで行っててくれない?」
麻婆豆腐「あたしは佛跳牆に確認したいことがあるから、後から行く。」
松鼠桂魚「佛跳牆に用があるの? だったらあたしも一緒に行こうか?」
麻婆豆腐「大丈夫。松鼠桂魚はこの子たちと一緒に行ってあげて。何かあったら頼むね。」
松鼠桂魚「うん、わかった。任せて! ……って、麻婆豆腐!?」
湯圓「……行っちゃった。麻婆姉さんは、足が速いね。」
餃子「ねぇ湯圓、あれ……ちまきじゃない? おーい、ちまきー! こっちだよー!」
麻婆豆腐は人の流れを遡って、佛跳牆の景安商会に向かう。嫌な予感が脳裏にこびりついて離れない。
麻婆豆腐(この事件は、佛跳牆に任せれば終わるような、そんな単純な事件じゃない。きっと何か裏がある……!)
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