中華フェス・ストーリー・サブⅢ
Ⅲ海神祭
来訪の理由
物語 北京ダックが訪ねてきたわけ
小葱「みぃ!」
麻婆豆腐「もうすぐ出発するのに、どうしてまだお客さんが増えてるの……?」
魚香肉糸「あら、増えちゃまずいのかしら?」
北京ダック「早く麗しい『海神娘々』に会いたいと思ったからですよ、麻婆豆腐。」
麻婆豆腐「……」
魚香肉糸「フフッ! 確かにそれもあるけど、佛跳牆にも会いたかったから……ごきげんよう、佛跳牆。」
佛跳牆「二人とも、よく俺がここにいるとわかったな。」
北京ダック「麻婆豆腐のところに行けば、そなたに会えるかもと思いましてね。予想的中でしたね。」
佛跳牆「……行動が読まれている。困ったものだ、ハハッ。それで? どこで話をしようか。」
北京ダック「では、静かな場所へ移動しましょう。相談事をするには、ここは騒がしい。」
麻婆豆腐「ちょっとアンタたち! 何を相談する気? 何か悪いことをしようとしてるんじゃ……」
北京ダック「……そんなに険しい顔をしたら勿体無いですよ、『海神娘々』。そなたには笑顔が似合います。魚香肉糸もそう思うでしょう?」
魚香肉糸「もう……北京ダック、貴方は佛跳牆と話があるんでしょう? 早く行ってください。」
北京ダック「ふふ……失礼しました。少しだけ、楽しんでしまいましたね。では麻婆豆腐、またあとで。」
竹飯のよき友
麻婆豆腐「ねぇ魚香肉糸、一緒に来たのは北京ダックだけなの?」
魚香肉糸「他の奴らも来てるけど、今は祭りを楽しんでるじゃないかしら?」
麻婆豆腐「こんなに賑やかなお祭りは滅多にないからね。楽しめてるなら嬉しいわ。」
魚香肉糸「酸梅湯も来てるから、タンフールーも面倒を見てもらえるし。仕事でもあるけれど、海神祭りに来られて、少しだけみんな浮かれているわね。」
魚香肉糸「……そうそう! 竹飯も来てるんだけど、叫化鶏を探してるみたいでさ。さっき別れたんだ。」
松鼠桂魚「竹飯が飼ってる二匹の竹鼠がすごくかわいいんだって叫化鶏に聞いてさ。会えたらいいなって! 叫化鶏って竹飯の話ばっかしてるからさ~。」
魚香肉糸「そういえばそうね。竹飯もよく叫化鶏の話をしていたわ。そうそう、叫化鶏と言えば――彼、佛跳牆のところに行ったのよね。ちょっと意外だったわ。」
松鼠桂魚「叫化鶏さ、ここんとこ、毎月定例会に来てる竹飯と、毎回お酒を飲みに行ってるみたいなんだ。ホント、仲良いよね、あの二人!」
魚香肉糸「あら、松鼠桂魚から見てもそうなの? ふふっ、あの二人って実は……」
麻婆豆腐「……。」
魚香肉糸「……松鼠桂魚、彼らのことはあとでまた話しましょう。いろいろ教えてあげるわ。」
松鼠桂魚「ああ、わかった!」
年獣のうわさ3
物語 年獣の誕生。
麻婆豆腐「ねぇ、魚香肉糸。アンタ、年獣に関してはどれくらい情報を持ってる?」
魚香肉糸「そんなに多くはないわ。噂話程度よ。あとは本で読んだことがあるくらい……。」
麻婆豆腐「へぇ、どんなことが書いてあったの?」
魚香肉糸「その本には、年獣は伝説の獣だったと書いてあったわ。私たちが知っている堕神とは違うものだって。」
麻婆豆腐「……それ、どういう意味?」
魚香肉糸「年獣は堕神とはまた別のものの可能性があります、つまり、年獣は、堕神とはまた別のもの――」
麻婆豆腐「……年獣が堕神じゃないですって!? そんなバカな!」
魚香肉糸「私も馬鹿らしいと思ったわ。でも、この世界にはまだわからないことがたくさんあるから。」
餃子「確かにそれは……そうだと思うけど。」
湯圓「ねぇねぇ! よくわからないけど、それって夕さんが特別ってことだよね?」
湯圓「やはり夕さんってすごいんだね! えへへっ、夕さん早く元気になってくれないかなぁ……また一緒に遊びたいよ。」
松鼠桂魚「君たちはよく、その夕さんって人と遊んでるの?」
湯圓「うん、夕さんは湯圓と餃子をいろんな場所に連れていってくれたの! それだけじゃなくて、いろんなことを教えてくれたよ!」
松鼠桂魚「なにそれ! いいなー! あたしもいろんなとこに連れてってほしー! 夕さんに会えたら、お願いしてみよっと!」
兎灯のなぐさめ
物語 湯圓の兎灯
湯圓「夕さん、今どこにいるのかな……。」
松鼠桂魚「夕さん、怪我してるんだっけか。」
湯圓「うん……夕さん、怪我は治ったかな? 湯圓はとても心配なの。」
佛跳牆「湯圓、心配はいらない。今の彼は、ある問題のために感情のコントロールができていないだけで、自己治癒に関しては問題ないだろう。年獣はとっても強いからな。」
松鼠桂魚「そうだよ。年獣ってすっごく頑丈にできてるよ! 夕さんは大丈夫たよ、湯圓。」
獅子頭「湯圓、元気出して。兎灯(うさぎとう)を作ってあげるからさ! 兎灯はね、動いたり跳ねたり可愛いんだ!」
湯圓「え? 動く兎灯? すごい欲しいの! どうもありがとう!」
湯圓「湯圓は夕さんのこと信じてる。みんなが夕さんを元に戻してくれると信じてるから!」
佛跳牆「……ああ。年獣は数年前に行方知れずになって、今回再び姿を現したんだ。湯圓と餃子は、行方知れずになる前の知り合いだな。」
麻婆豆腐「それで?」
佛跳牆「君が年獣と出くわしたとき、彼の体に不自然なところがあっただろう?」
麻婆豆腐「……確かに、角に痛々しい瑕があったわ。」
佛跳牆「これは私の推測だが、彼は失踪した数年で拷問を受けたと思う。」
麻婆豆腐「誰がそんなことを!」
佛跳牆「ただの推測だ、深く考えなくていい。」
湯圓と話して笑っている松鼠桂魚を見て、佛跳牆は苦笑いで肩を竦めた。
佛跳牆「信じられないことだがな。そういうことが当たり前に起こるのが俺たちの生きている世界だ。」
神の答え
物語 それは真に正しいのか
餃子「ねぇねぇ、海神娘々っていったいなんなの?」
餃子「本物の神様? ティアラみたいな感じ?」
餃子「それとも海神娘々は、ティアラの一部?」
餃子「気になるから質問するの。ダメだった?」
佛跳牆「いいや。ただ、質問しても欲しい答えがもらえない事もある。それを覚えておくといい。」
餃子「どうして教えてもらえないの?」
佛跳牆「誰もが熱心に答えてくれるとは限らない。答えを持っていないときもあるだろう。」
佛跳牆「……そうだな。」
佛跳牆の困った表情を見て、麻婆豆腐は扇で顔を隠して笑ってしまった。なんだかんだ人がいい――そんな佛跳牆を好ましく思った。
佛跳牆「……まず『海神娘々』についてだが、ティアラとは違い、想像と願望の象徴だ。」
餃子「ええ!? 海神娘々は想像のものなの? じゃあ海で危険な目に遭ったら……!?」
佛跳牆「当然、自分の力で何とかするしかない。海神娘々は助けてくれないからな。」
餃子「やっぱり海は怖いね……海神娘々がいなくても何とかできるように、オイラもっと強くなるよ!」
記された歴史
物語 海神祭の由来
老人「麻婆豆腐、今日は賑やかだね。どうしたんだい?」
麻婆豆腐「みんな海神祭りに来たんだよ。」
老人「はは、やっぱりね。今さっき門のところにいた二人も、あんたの友達かい?」
麻婆豆腐「門のところに? 誰がいたの?」
老人「もう行っちゃったよ。私がここに来るのと入れ替わりでどこかに行っちゃったよ。」
誰のことだろう――麻婆豆腐は不思議に思って眉を顰める。そんな麻婆豆腐を余所に、老人は話を続けた。
老人「毎年この時期になると、海神祭りに参加するために、隣町の人たちもこの町に来るんだよ。」
餃子「え? どうして? 隣町の人たちは自分たちの町でお祭りをしないの?」
老人「海神娘々はこの町出身だからねぇ。彼女は人から神になった存在なんだよ。それを一目見たくて、みんなこの町に集まってくるのさ。」
餃子「えぇ!? 海神娘々がもともとは『人』!?」
老人「ああ。海神娘々の名前と住所は、海神祭りの記録帳に載ってるよ。」
魚香肉糸「あの、おばあさま。ちょっとよろしいですか? その記録は今どこにありますか? また、拝見することは可能でしょうか?」
老人「最近のものならともかく、昔のものはねぇ……不完全な拓本しか残ってないよ。それでも良ければ見ることはできるよ。」
魚香肉糸「ありがとうございます! 私は歴史学者でして、拓本で勿論構いませんわ! 是非とも読ませてください!!」
老人「ほおぉ! なかなか聡明なお嬢さんじゃないか!」
老人「拓本から読み取れるものは、とても深い……わかった、私が手配をしよう。んー……今、海神祭りの拓本はどの家にあったかな。大切な記録だからね。近年は、特定の家が独占しないように、五年ごとに新しい家で管理するようになったんだよ。今は確か……どの家にあったか――」
魚香肉糸「急がなくても大丈夫ですよ、おばあちゃま。よろしくお願いしますね。」
謎の影の計画3
物語 彼らは年獣を見つけ出した
謎の人物甲「見つけたぞ、これだ。」
謎の人物乙「シッ……声を抑えろ。起きたらどうする。」
謎の人物甲「なんでこいつ、こんなところに隠れてるんだ?」
謎の人物乙「……だが、ここは確かにいい場所だ。舞台の下にある大きくて暗い空間――誰もこんなところに年獣が隠れてるとは思わないだろう。灯台下暗しってやつだ。」
謎の人物甲「なるほどな。」
謎の人物乙「それに、ここに隠れているのは、俺たちの計画にも好都合だ。」
謎の人物乙「ここは海神祭りの終点……奴らは町を一周してここに集まる。その時に年獣が現れたら……どうなると思う?」
謎の人物甲「それは面白いな。だったらボーっと突っ立てんじゃねぇよ。ラッキークラッカーを交換するぞ!」
謎の人物乙「……引霊砲はどれくらい持ってきた?」
謎の人物甲「たんまり持ってきた! 全部交換しちまおうぜ。年獣が起きないと計画が台無しになるからな。」
謎の人物甲「足元には気をつけろ! そのラッキークラッカーを踏んだら、音が響くぞ!」
謎の人物乙「おい! 静かにしろよ! こんなに近くにいるんだ、叫ばずとも聞こえる!」
謎の人物甲「叫んでるのはお前だ! ヤバい! 年獣が動いた! 起こすなよ!」
謎の人物乙「シーッ!!」
謎の人物甲「シーッ!!」
彼らの取引
物語 年獣対処は何のために
佛跳牆「これを君に渡しておこう。」
佛跳牆「これは元々、麻婆豆腐から君に渡させるつもりだった。」
北京ダックは受け取った封筒を開けた。中には、北京ダックが求めていた情報と、とある組織の名が書かれた紙切れが一枚入っていた。
北京ダック「『承天会(しょうてんかい)』? 大仰な名前ですね。」
佛跳牆「その組織について、新たに依頼をしたくてね。」
北京ダック「……依頼したいのなら、直接伝えてくださったら良いものを。なぜこんな回りくどい真似を?」
佛跳牆「その名を見たとき、お前がどんな反応をするか見たかった。やはり、承天会を知っているのだな、北京ダック。」
北京ダック「ふふ、勿論知っていますよ。承天会のやり方は、吾が知っているあの邪教と比べて……もっと悪どい。」
佛跳牆「では、承天会の依頼も受けてくれるか?」
北京ダック「私は、一つしか依頼は受けませんよ。しかし、そなたの態度次第では、もう一つ受けることもやぶさかではありませんよ。隠さず、すべてお話ください。」
佛跳牆「相変わらず、慎重な男だな。」
佛跳牆「……今回の年獣騒ぎ。その黒幕を捕まえたい。その手伝いをしてほしい。報酬として、俺はお前が憎んでいる『邪教』の根絶に協力しよう。」
北京ダック「ふむ、危険な取引ですね。さすがやり手の商人、計算高いことだ。」
北京ダック(この依頼を受けると、必ず承天会と関わりを持つことになり、面倒なことになる。だが、佛跳牆の協力を得られれば、邪教の勢力を根絶する事ができる……)
北京ダック「引き受けましょう。年獣についてはどれくらい知っていますか?」
佛跳牆「承天会の奴らが、年獣の角を餌に彼をこの町に呼び寄せたのだ。私たちはまずその角を見つけなければならない。」
北京ダック「年獣の角? ふむ……噂では聞いたことがあります。年獣はその角で自身の力をコントロールしているそうですね。角を失ったら、力の制御が効かなくなり、精神に影響が出るのですよね。」
佛跳牆「ああ。もしその噂が本当なら、年獣に角を返せば済む話だ。だが、新たな計画を立てる必要がある。そのためのからくりはもう作った。俺に喧嘩を売った奴らを、易々と許してはやれないからな。」
小葱の大好きなもの
物語 意外にも、佛跳牆が好き。
北京ダック「この計画を、麻婆豆腐に伝えるつもりはないのか?」
佛跳牆「そうだな。彼女は平穏を望んでいる。そんな彼女を俺は巻き込みたくない。だからその手紙は、俺からお前に直接渡したんだ。」
北京ダック「一般人である麻婆豆腐を巻き込みたくないということですか……どうやらそなたも、人並みの優しさを持ち合わせていたようですね。」
北京ダック「けれどその理屈でしたら、吾も『一般人』だと思うのですが……。」
佛跳牆「自分の願いのためなら手段を選ばない奴は『一般人』とは程遠い存在だな、北京ダック。」
北京ダック「さて? 少なくとも吾らには邪教の根絶という、共通の目的がある。そこは間違いありませんね。」
小葱「みみぃ!」
北京ダック「おや、小葱ではありませんか。何故ここに?」
小葱がコロコロと転がって、二人が話している部屋に現れた。北京ダックがひょいと小葱の肉体を抱えた。すると、小葱は身を捩って、佛跳牆へと手を伸ばした。
佛跳牆「は、はぁ……。」
北京ダック「おや、吾は嫌われているようです。どうやら吾に懐くのはうちの子らだけのようですね。」
北京ダック「どうしました? 抱きたくないのですか?」
佛跳牆は小葱を抱くのを躊躇している。その様子に軽く笑って、北京ダックは小葱を強引に佛跳牆へと押しつけた。小葱はすぐ佛跳牆に抱きついて、その頭を擦りつける。
佛跳牆は不本意ながも、小葱が落ちないように受け止めた。
北京ダック「小葱はそなたのことを本当に好きなようですよ。」
佛跳牆「私が好かれているとは、確かに意外なことだ。」
北京ダック「さて、それはどうだかね。」
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する