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ロンフォンフイ・エピソード

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ロンフォンフイのエピソード

元は「覇王別姫」という名の将軍。

将軍から引退後、身を隠すために名を変えた。

自分を傷つけた人よりも、自分の仲間を傷つけた人の方が許せない。

猛将ではあるが智将ではない。

仲間を全面的に信頼している。

Ⅰ春帰

 オレは雄黄酒を伴って、湖畔の近くにある小さな庭へと戻ってきた。


 扉を開けて広場に出るが、雄黄酒が着いてこない。不思議に思ってオレは訊ねた。

「どうした?」

 すると雄黄酒は戸惑った様子で俯いてしまう。そんな彼にオレはため息をつき、サッと手を大きく広げて笑った。


「ここには信用できる奴しかいない。安心しろ」

「そうですか……」

 そう頷きつつも、まだ雄黄酒は足を踏み出せない。


どうしたものかと見守っていると、突然、雄黄酒の後ろにある扉が勢いよく開かれた。


「わっ!」

「おや、失礼しました」

その声と同時に扉から姿を現した食霊は、スッと優雅な仕草で手を伸ばした。


「え……!?」


すると、背後に現れた食霊の手のひらから柳の枝が現れて、転びかけた雄黄酒の体を優しく支えた。


「あなたは……どなたですか?」

子推饅は今自分が助けた男を見て、不思議そうにそう咳く。

「名は雄黄酒。邪教の関係者だ。オレたちと同じようなものさ。そんで今、居場所がないみたいでよ。だからここに連れてきた」


 ロンフォンフイは、彼ら二人に近づいて、そう話した。

 子推饅は、その説明を聞いて深く領き、優しい笑顔を浮かべて雄黄酒の前に出る。


「そうでしたか。では、貴方の部屋を決めましょう」


 雄黄酒子推饅の申し出に、戸惑った様子を見せ、オレを見た。そんな彼にオレは深く領いてみせる。


「ここでオレは待っている。子推饅雄黄酒を頼んだ」

「承知しました。では、こちらへ」


 雄黄酒は軽くオレに会釈してから、子推饅の後を大人しくついていった。


・・・


 がらんとした庭でひとり、オレは目を細めて顎を触りながら考えた。


 ロンシュースーのヤツはたいてい部屋で難しい本を読んでいる。

 西湖龍井(しーふーろんじん)は……また湖の底にある穴にでもいるのだろうか?


(龍井を湖の底から引っ張りだしてやると面白いんだよな。ひっひっひ!)


 そう思うと、またその姿を見たくなった。オレは笑いを堪え切れず、低く唸った。

 足取り軽く湖に近づいて、息を吸い込む。そして、両手をロ元に添えて、穏やかな湖面に向かって大声で叫んだ。


「龍井!外に出て来い!これから酒を呑むぞ!」


 しかし、湖は静まり返っている。


(聞こえてない筈はない……無視してやがるな?だったらこっちにも考えがある!)


 オレは眉を吊り上げ、ニタリと笑って、龍井の住む洞穴がある湖の中心を見た。


「おい!聞こえてるんだろ!オレが帰ってきたぞ!ただいま!!」

オレは大声で何度か叫んで、穏やかな湖面を見つめる。まるで変化のない様子に手応えを感じて、より一層楽しくなる。


「龍井さん、龍井さん、これ以上出てこなかったら、遠慮しないぞ!?」

 オレは湖の傍にあった大きな石を手に取った。そして、それを思い切り湖の中心に向かって投げた。


ーードボン!!


 石が湖に落ちると、その勢いで中心に大きな波が立った。


「はっはっはっ!オメェが悪いんだぜ?」


 湖の中からひとりの男が姿を現した。そして、あからさまに不機嫌な様子で、オレを睨みつける。


ロンフォンフイ。 何度も言っていますが、私の洞府に石を投げるな。特に今投げたような大きな石!!」

 そんな龍井にオレはずい、と顔を近づけて、口端を上げ意地悪く笑った。


「わっはっはっは!そうでもしねぇと、オメェは出てこないだろ?久しぶりにオレが帰ってきたんだぜ?」

ロンフォンフイ……」


 眉を寄せて龍井は不機嫌であることを態度で表す。


「うまい酒を買ってきた!新しい仲間も連れて帰ってきたから一緒に飲もうぜ!そいつのことも紹介したいしよ!」

「……そんなことのために石を?」

「よくそんなことが言えるな。月を肴に兄弟たちと飲む酒がどんなにうまいか、知らねえわけじゃねぇだろ?」

「それとこれとは話が……!」

「いいからいいから!行くぞ!」


オレは、強引に龍井の手を引いて歩き出す。


(今日は楽しい日となるだろう)


久々に戻ったこの庭園で、オレは自然と笑顔になるのだった。


Ⅱ 夏聞

オレの御侍は、国の重要人物として重宝されていた人物であった。

 彼は国に忠誠を誓った年若い将軍で、彼の仕えた君主も賢明な名君であった。

 彼らは互いに信頼し合っていて、まるで兄弟のように寄り添って成長した。


 外敵は御侍の威名に恐れをなして、たまに辺境で暴れている馬賊のような輩を除き、裸足で逃げ出した。

 これは、この国の土地に休養時間を与えてくれた。

 御侍は、多くの時間を新兵の訓練に使っている。

そして、新兵たちを連れて街に出かけていき、助けを必要とする孤立した後家の老人たちのために家を建てたり、料理を運んだりしていた。

有名な大将軍である御侍は、少しも威張っていない。そんな彼は、たくさんの人に慕われていた。

将軍としてではなく、熱い近所の兄貴として捉え慕っている者が多いと思う。彼はその中でも特に一緒に育った兄弟たちを大切にしていた。


そんな御侍は、たまに得た貴重な休暇の時に、同じように休暇中の兄弟を何人か連れて学校の広場に出て行く。そして、月光の下で力いっぱい笑い、歌を歌って場を沸かせながら酒を飲む.....そんな時間を彼は何より大切にしていた。


 彼は、人生とは愉快であるべきと考えており、だからこそ積極的に休暇を楽しんでいるように見えた。

 そんな御侍は、どんな難題を前にしても、怯むことはなかった。

 彼は、自分が笑顔を見せれば、頼ってくれる人に希望を与えることはできないと言う。

 しかしあることがあって、彼はいつも思い出した時には顔を曇らした。そうしたときはどのように接するべきか、大層に悩んだ。


・・・


 その日は、妙な天気だったことを覚えている。空がいつものように暖かいオレンジ色ではなかった。


 展望塔に登ると、遠いところに山の峰があり、煙がもくもくと立ち上っていた。

 そのとき、フラフラの兵隊が突然関所に飛び込んでくる。


「将、将軍......た、助けてください......!」


 その男は息苦しそうに身を縮こまらせていた。オレは驚いて展望塔から飛び降りて、倒れかけた男を支える。


すると男は苦しそうに顔を顰めながら、掠れる声でオレに訴えた。抗れる

「将軍に会わせてください!お願いですから、私を将軍に会わせてください……!」

オレは周りの兵たちを見て、一瞬躊躇をしたが、彼の必死な様子を見て、急いで御侍の前に連れていった。


ロンフォンフイ、彼は.....?」

 御侍がそう俺に聞いた。その答えを持たないオレは、連れてきた男に振り返る。

すると男は、その場に跪いて、号泣しながら叫んだ。


「将軍様、この手紙をお納めください!その手紙は貴方の弟が書いた絶筆です!どうかお願いします!ご助力を......!」

彼は深々と頭を下げ、己の訴えについて語り始めた。


Ⅲ 秋侮

 ボロボロの兵士が御侍に語った話に、その場にいたすべての者が驚いた。


 その男は、滔々と邪教の悪事について語った。邪教のした行為は、到底許せるものではなく、オレたちは義憤に燃えて御侍を見た。

 そのときの御侍の顔は酷く歪んでいた。御侍のような明るい人でさえ、このように変えてしまう――邪教は恐ろしい存在だ。


 オレを含めたこの場にいた者たちは、口々に邪教に対する不満や侮蔑の言葉を吐いた。だが、御侍はオレらと同じように興奮することはできない。


 彼は国を背負っている。この国が乱れることなく機能するために尽力しなくてはならない。彼は今すぐにでも捕えられた弟分を助けに行きたいと思っているだろう。


 だが、彼はこの国の将軍だ。勝手な行動をすれば、オレたちの国が隣国に宣戦布告することになってしまう。


 彼の食霊として、御侍の焦燥を感じたのにも関わらず、オレはどうすることもできなかった。そんな自分がどうしようもなく不甲斐なく、いたたまれなかった。


 オレらの隣国は豊かな国家で、兵力は強大だ。人民は聡明で友好的である。

 彼らの君主は、オレの御侍と盟友だ。


 しかし隣国の領土は広すぎる。君主が己の土地で何が起こっているかをすべて把握しているとは限らない。


 御侍は黙って筆を執った。そして彼は、感情を抑えて、怒りで震える手を制御し、隣国の君主へと伝える手紙をしたためる。


 その手紙の内容は、邪教が生みだした惨劇についてだ。

 オレはこれを読めば、きっと隣国の君主も思いとどまってくれると思った。


 しかし、事態は御侍もオレらも思いもよらぬ方向へと向かった。隣国の君主の返事は、拒絶の手紙だった。


 (御侍の言葉は、隣国の君主には届かなかった……!)


 その返信に、オレらは自分の衝動を抑えなければならなかった。


 隣国でのことに口を出せば、戦に発展するかもしれない。そうすれば、せっかく手に入れた平和の繁栄を壊すこととなる。


 御侍は、誰も責めなかった。ただ、己の守るべき者たちのため、忍道を選んだ。


 オレは御侍の肩をしっかりと掴み、オレは強いまなざしを向ける。そんなオレを見て、彼は力なく笑って、肩を落とした。


 その日から御侍の表情から笑みが消えた。作り笑いはするが、それはかつての『人生とは笑顔であるべき』と楽しい時間を過ごしていた者とはまるで違っている。



 最近、御侍はひとり大隊長の前に座って、遠くの白い雲を眺めることが増えた。



 遅かれ早かれ、彼はこの事態を落ち着かせることができると思っていたようだった。


 オレはそんな御侍を心配していたが、彼はオレを失望させるようなことは決してしない。

 彼は次第に笑顔を取り戻していった。


 そんな御侍にほっとして、オレは手に持っていたお酒を彼に渡した。

 すると御侍はそれを受け取り、兄弟たちの首に腕を回し、愉快そうに酒を飲んで豪快に笑っていた。


***


あの日から、御侍の周りの者たちは変わった。

以前は御侍に、無鉄砲なことをやめるように、と文官たちは口々に言っていた。


 今では笑顔を浮かべる御侍に、彼らはため息をついて、将軍が大きくなったとその文句を言わなくなった。



――それから数年後のことだ。

御侍に恋い焦がれる女性ができた。


 嬉しいことに、その女性も出会ったときから武勇溢れる心の優しい御侍を好きになってくれた。


 とても美しく可憐な女性で、御侍とはお似合いであった。


 二人は密時を重ね、結婚に至った。

 その後、二人は愛らしい子どもたちを授かった。


 長男の善文は、君主の後継ぎを補佐する。次男の善武は、君主のために家を守り、また母に似た美しい娘は思いやりの心に溢れていて、四方から賛美の声があがり、縁談の話が絶えない。


 彼らは『叔父さま』と、御侍の弟かのようにオレを慕ってくれた。

 柔らかな子どもの手でオレの指を掴んでニコニコしながら一緒に歩いていると、幸せというのがどんなものか実感できる気がした。


 彼らと御侍の周りには、理想的な世界が広がっていた。

 君主は誰を疑うこともなく、家族は争うことなく仲良しで、妻は賢明で、子どもたちは親孝行で他人の気持ちを慮ることができる優しい子らであった。


 そんな家族や周りの人たちと笑顔で過ごした御侍は、白髪まじりの老人になった。


 オレは御侍を含めた、彼の一族がその一生を終えるまで、ずっと傍にいようと思った。


 理由は簡単だ。

 御侍に召喚されて良かったと、彼らを見ていると常々思うからだ。


 そうしてオレは、年老いて床に臥した御侍の傍で、流れゆく時を共に過ごしていた。


 そこで話すのは、これまでの何という事もない日常。だが、それはとても心があたたかくなるとっておきの物語でもあった。


「ロンフォンフォイ」

不意に御侍がオレに声を掛ける。どうしたのかと、オレは御侍を見る。すると彼はオレに手を伸ばした。

オレはその手を取り、御侍を見つめる。


(御侍の満ち足りた人生には、もう思い残すことなど何もない筈だ)


 すると御侍は強くオレの手を握り返してきた。そんな力があったのかと驚いて彼の顔を見ると、その表情には後悔と悔しさが満ち溢れていた。


「僕には命がある。門下生がどこにいても、同門の遺志なら必ず全力で完成させねばならない。僕の世界には、君がいてくれたおかげで幸せと美しさがあった。もし君が僕の願いを聞いてくれないのなら、僕は死んでも死にきれない……!」


御侍は皺だらけの手を震わせて、懐から手紙を取り出した。


 彼は最後に隣国の君主に手紙をしたためたのだ。

 友であった男に。

 何が書かれているのかはわからない。

 だが、それが御侍の最後の願いならば、オレは再び手紙を届けに行こうと思った。


 何故ならば、オレは御侍の食霊だからだ。

 彼の望みを叶えることが、オレの存在意義なのだ。


 迷いなく、オレは慣れ親しんだ村を後にした。


Ⅳ 冬行

 御侍はオレを召喚してから、まるで実の弟かのように接して、傍に置いてくれた。


 これまでオレは命の危険に晒されても、死に至らずに済んでいる。そのことを、十分に理解していたが、彼はオレの盾になることを望んだ。


 戦場で危険な目に出くわせば迷わずオレの前に飛び出してくる。


 その攻撃で己が死ぬかもしれないのに……オレはその度に驚かされる。


 だが、そうしてオレを守ることこそ御侍の幸せのようだ。


 御侍はいつも言っていた。

 ――僕の願いは、お前がここにいてくれることだ、と。


 そんな彼の最後の願いを聞かない訳にはいかない。オレは御侍から受け取った封書を手に、隣国へと旅立つことを決めた。




この国を出る前、オレは御侍の子どもたちが住む家に行き、彼らに別れを告げた。


そして、御侍から預かった手紙と君主への贈り物と巻物を持って国を出た。



 旅の途中で、オレは何度もその壮大な邪教に襲われる。勿論、御侍からの頼まれごとがある。よもや、やられる訳にはいかない。


 だが、邪教の奴らは手練れが揃っており、人数も多く、さすがのオレも無傷ではいられなかった。


 幸いにも、オレは道中で西湖龍井子推饅と出会い、彼らの力を借りられた。


 そしてオレは御侍に頼まれた封書を隣国の君主へと届けた。彼らがそれをどうするのかまではオレの預かり知れぬことだ。


 御侍の頼みは、隣国の君主に封書を届けるまで――ということは、その後どのような展開になろうと、そこにオレが首を突っ込むのを御侍は望んでいないということだ。


 これで、オレはいよいよ身軽になった。行く先も行きたい場所もない。


 こうして路頭に迷った食霊がどうするかは――本当に、それぞれだった。


 オレはと言えば、道中で偶然出会った龍井と子推饅のことを思い出し、彼らが住む庭園へと行くことにした。


 何があるかわからないが、彼らには世話になった。幾ばくか恩返しができたらいい……という心づもりだった。





 そうして辿りついた庭園には、西湖龍井子推饅以外にも逗留している者たちがいた。


 オレは暫くその庭園に身を置いて、邪教について調べることにした。

 御侍にあれほど大切にされたオレを傷つけた責任を奴らに取らせるためだ。


 御侍がいなくてこの点は良かっただろう。オレが傷つけられたことを知ったら、彼は何を差し置いても、そいつらに報復をしただろうから。



 そして暫くオレは邪教について調べる日々を重ねた。情報収集をするには、ここはなかなか良い場所であった。


 そんなある日、ついにオレは奴らの拠点を突き止める。そうなれば、もうここに長居する必要はない。オレは邪教の奴らと共倒れ覚悟でここから出て行こうと決めた。


 そんなとき、ロンシュースーから相談される。鋭い彼女はオレの異変に気付いて、力を貸してやると言ってくれた。だがオレは、その申し出を丁重に断った。


 彼女は納得いかない様子で、その理由を聞いてくる。だからオレは正直にそう告げる。ロンシュースーは見た目は厳しそうに見えるが、その実、心穏やかな食霊で、邪教のように他者の心を弄ぶのに長けている連中と戦うのには向かないだろうと思ったからだ。


 彼女は何か言おうと口を開くも、それを溜息に変えて、肩を落とした。


「……必ず生きて帰るように」

 彼女は、珍しく笑みを浮かべ、そう言ってくれた。


 さて、残りは子推饅西湖龍井の二人である。


 子推饅はやっとのことで邪教の奴らから逃れてきたのだ。西湖龍井に至っては巻き込まれただけである。


 いずれにしても、オレは壮大になった邪教を見逃すことはできない。


 この庭で心地よく月見をしながら生活するのが、彼らには良いだろう。


 そう考えて、オレは彼らには声をかけることなく、この庭園から去ることにした。


 それなりに居心地の良い場所だった。もし生きて戻ってこられたら、またここに来たいとオレは思った。





 オレの旅は順調に進み、目的地まであと少しとなった。

 そんな道中、オレは男と女、互いに寄り添ってフラフラと歩く、ふたりの食霊に出会った。彼らは全身傷だらけで、そのまま消えてしまうのではないかと思ったほどだ。


 気になりつつも、オレには目的があったので、黙って彼らの横を通り過ぎた。


 そのときだ。

 男の食霊が、オレに声を掛けてくる。


「そなたはもしや、邪教の拠点へ行くつもりではありませんか?」


 ハッとしてオレは振り返る。


 ――何故それを?


 不思議に思い、オレは男を睨んだ。


「……そんな怖い顔をしないでください。この先には、彼らの拠点くらいしかありませんから」


 フフッとその食霊は優雅に笑った。


「そなたは、邪教の仲間ですか?」

「だ、誰がっ!あんな奴らの仲間なはずないだろうが!」


 よもやそんな疑いを掛けられるとは思わなかった。オレはたまらず、歯軋りをする。


「そうでしょうね。いえ、念のためにお伺いしておこうと思っただけですよ」


 そこで男は、目に強い意志の光を灯し、オレを睨み返してきた。


「もしそうであるなら――ここでそなたを滅ぼさなければなりませんし」

「……お前ら、いったい何者だ?」



 オレが剣に手を掛けると、男は高笑いで目を細めてそれを諫めた。


 その男の名前は、北京ダック

 奴は、先ほど睨みつけてきたような脅威はそうそう感じさせない優雅で優しさを漂わせた、底の知れない面白い男であった。


 だが、間違いなく彼の目には強いプライドが宿っていた。


「ここでお会いしたのも何かの縁。そなたにお願いしたいことがあります」

「……オレに?オレはこれから邪教の奴らをぶっ飛ばしに行く。暇じゃねぇんだよ」

「ご安心を。邪教の者たちはすべて吾らが滅ぼしました。もしそなたが良ければ、ある者を助けてあげてはくれませんか?」


 その男は、そなたが望むなら彼を助けてあげてください、と……そう言い残して去っていった。




 その男は去り際に、断壁まで行くようにと告げた。言われるままオレはそこに向かう。すると、倒れている食霊の姿が目に入る。


 更に、倒れている食霊の横に立っている男がいた。あれは邪教のメンバーで、高い地位にいたのだろうと推測される。


 ――残党だろうか?


 ここに来るまでに邪教によって滅ぼされた村のことを思い出した。あの悲惨な無辜の民たちは薬で操られ、食い物にする邪教に後悔することもできないまま、その命を終えたのだろう……


 オレは拳を強く握りしめた。

 このまま立ち去ることはできない。オレは剣を握り、その者たちの前に降り立った。


Ⅴ ロンフォンフイ

 ロンフォンフイは、国から信頼の厚い料理御侍の元に召喚された。


 彼は将軍の地位に就いており、勝利の女神として食霊の召喚を試みた。そうして手に入れたロンフォンフイを神からのプレゼントであると喜んだ。


 ただひとつ御侍の願いと違ったのは、ロンフォンフイが男であったことだった。


 だが、細かいことを気にする男ではなく、ロンフォンフイをとても丁重に扱った。


 彼はロンフォンフイを何よりも大切にし、自身の弟かのように可愛がった。


 周りの者もそれに倣い、ロンフォンフイは大変恵まれた日々を御侍の元で過ごした。


 御侍と共に過ごした日々は、ロンフォンフイにとっても大切なものとなった。

 年老いた彼の代わりに将軍として暫く働いたのもそのためであった。




 ロンフォンフイは、御侍が亡くなる直前、隣国の君主に思いの丈を綴った封書を届けてほしいと頼まれる。一も二もなく、ロンフォンフイは御侍の願いを聞き入れた。


 隣国に着くまでに、ロンフォンフイは何度も悪い奴らに狙われた。

 そんな困難を乗り越え、ロンフォンフイは隣国の君主に封書を届けた。


 ロンフォンフイは、御侍の最後の願いを達成し、その後生きる術を見失った。


 御侍がいなければ、食霊は道を示されることはない。


 何故自分はまだ生きているのか――何のために生きているのか……そんなことを、徒然とロンフォンフイは思う。


 思案の末、ロンフォンフイは御侍が最後まで果たせなかった『打倒・邪教』について、思い出したのだ。


 隣国の君主に手紙を届けるときにさんざん邪魔してきた奴ら。

 きっと御侍の手紙には邪教について、何か記されていたのだろう。


(オレは、奴らについてあまりにも何も知らない)


 そこで彼は、自分をたびたび狙ってきた悪い奴ら――邪教について調べることにした。


 そしてロンフォンフイは、邪教の拠点を突き止め、奴らをぶっ飛ばすことを決めた……それが、初めて彼が自らの意思で定めた道であった。


 そう決めたものの、まだ彼には不安があった。邪教を倒せば、また彼は目標を失う。


(だが、邪教は壮大だ。そう簡単に倒れないだろう)


 もとより奴らとの抗争が原因で、この身を失うかもしれない――それほどの相手だ。


 だがむしろそれこそが、ロンフォンフイの願いであった。


 今のように、何もないままのうのうと生き続けるよりは、このまま消えて、再び新しい御侍の元に召喚される方が良いだろうと、彼は考えた。


 御侍と共に、我在り――

 それが、ロンフォンフイの信念であった。





 だが、そんな彼の想いとは裏腹に、事態はまるで想定しなかった方向に動き出す。


 彼が墓場と決めた倒すべき邪教の拠点は、北京ダックによって滅ぼされてしまった。


 こうもあっさり目標がなくなると思っていなかったロンフォンフイは愕然とする。


 行き場がなくなったロンフォンフイは、激しく狼狽する。

 これからどうする――それを考えるのは、それなりの苦痛を伴った。




 そんなロンフォンフイに、何故か北京ダックは『頼み事』をしてきた。


 今思えば、彼は見抜いていたのかもしれない。ロンフォンフイが、邪教と共に死のうとしていたことを――そして、その道を自分が潰してしまったことを。


 だから、北京ダックは決して無理強いしなかったのだろう。『そなたが望むなら』と、彼はロンフォンフイを促したのだ。


(いや、そこまでは奴を買い被りすぎか)


 苦笑し、それでも他にすることもなく、ロンフォンフイ雄黄酒を邪教の者たちから救い出した。


 傷だらけの雄黄酒は、邪教の手先だった男だ。ロンフォンフイにとっても敵である。


(こいつを救い出して……オレは何をしたいんだ?)


 だが、第六感とでもいうのか、彼を助けたことによって、これからの己の道が開けるような気がした。


 そうしてロンフォンフイ雄黄酒を伴って、近くの宿屋にしばしその身を隠す。


 雄黄酒は深い傷を負っていた。

 食霊だから、さほど完治するのに長引かないだろうが、それでも暫しの休息が必要だと思われた。


 彼は、雄黄酒の看病をしながら、ずっと荒野でばったり出会った名も知らぬ男――北京ダックのことを考えていた。


 しかし、結局何もわからない。情報が足りなすぎる。

 ロンフォンフイ雄黄酒が目覚めるのを待つことにした。





 それから数日後。

 雄黄酒はやっと目を覚ました。

 ロンフォンフイは彼が起きたことをきっかけに、それまで抑えていた感情が一気に爆発してしまう。


「何故あんな奴らの元にいた!?あいつらは……許されない奴らだ!」

「……わかっています」


 ロンフォンフイとは対照的に、雄黄酒は冷静であった。


 彼は決してそれ以上語ろうとはしない。

 ロンフォンフイは知っていた。

 雄黄酒が邪教に手を貸していたことを。

 そして、悪事に加担していたことを。


 何故北京ダックが自分に雄黄酒を任せたのか、まだわからない。


 その答えを知りたくて、ロンフォンフイ雄黄酒と会話を重ねた。


 邪教に関する質問はのらりくらりとかわしていた雄黄酒は、北京ダックについて語り始める。そこでやっとロンフォンフイ北京ダックについて知ることとなった。


 だが何度問い詰めても、雄黄酒は自分と邪教については語ろうとはしない。だんまりを決め込んだ彼に、ロンフォンフイはいよいよ我慢ができずに部屋から出て行った。






 ――翌日。

 ロンフォンフイは再び部屋に戻ってくる。


 すると、まだ体の傷の癒えていない雄黄酒は昨日とまるで変わらない様子で、無表情のまま、ロンフォンフイを見あげた。


「話す気になったか?」

「……申し訳ありません」

彼は俯いて言葉を噤んだ。昨日と何も変わらない雄黄酒に、ロンフォンフイは痺れを切らせた。


 このままでは埒が明かないと悟ったロンフォンフイは、かつて邪教に蹂躙された村に、雄黄酒の傷が癒え次第行くことにした。




 雄黄酒の傷はそれから数日で癒えた。

 ロンフォンフイはすぐに雄黄酒と共に邪教によって滅ぼされた村へと向かった。


 その村はもう、村としての体を保っていなかった。


 その様子に、これまでずっと無表情であった雄黄酒は、表情を歪めた。



「村西斉姑一家四人、孫娘は祭祀の生贄として選ばれた」


 ロンフォンフイは胸元に入れていた冊子を取り出し、朗々と読み上げる。


「両親は抵抗して殺された。斉姑は無気力となり、自殺した」


 雄黄酒は黙って聞いている。横目でその様子を見て、ロンフォンフイは話し続ける。


「北口洛大伯一家は宗教を信じず、信者によって焼き殺された。一番小さい孫は生まれたばかりで、まだ一歳にもなってなかった」

「……もう、やめて……ください」

 すると、震える声で雄黄酒ロンフォンフイに訴える。


 しかしロンフォンフイはその言葉が聞こえなかったかのように、話すことをやめない。


「城東の豆腐屋の末娘は、生贄として生きながら刺し殺された。まだまだあるぞ?」

「……わ、たくしは……は……っ!」

「目を逸らすな。オメェが作った薬が生んだ悲劇だ」

「も……申し訳、ございません……!」


 雄黄酒はその場に崩れ落ちた。


「けれどもうすべて起こってしまったこと。誰かを不幸にする意志はなかった。わたくしは、ただ御侍様の言う通りにしていただけ。その御侍様も今はもういない――わたくしはどうやってこの罪を償えばよいのか、まるでわかりません……!」

「……オメェは」


 食霊として、御侍は何よりも大切なものである。


 父や兄の如く御侍たちは、この世界に来たばかりの食霊を導く。


 御侍が明るい太陽であれば、その食霊の前には光り輝く未来が提示される。

 ロンフォンフイの御侍は、まさにそんな存在だった。だからこそ彼は真っ直ぐに、道を間違えることなく、堂々とここに立っていられる。


 だが、雄黄酒の御侍はそうではなかった。

 彼を導くべき御侍は、暗い崖へと雄黄酒を導いた。

 ただ雄黄酒は、御侍に示される道をまるで光を求めて蛍のように飛んだ。


 それが正しい道と信じて――きっと、人間のためになるのだと信じて……雄黄酒はどんどんと追いつめられていった。


「チッ……!『だから』か。奴がオメェを殺さなかったのは」


 ロンフォンフイはやっと理解した。なぜ同じように邪教への恨みを抱えている北京ダックが、雄黄酒を見逃したのかを。


 雄黄酒のしたことは、食霊の悲しい習性とでも言えることだろう。

 どんな人間に召喚されるかによって、その者の運命は決まってしまう。

 雄黄酒は不幸だった。何も知らぬまま悪事に身を染めた。

 それは許されぬことだが、食霊としてその罪を問い詰めるのが忍びないことは、ロンフォンフイにも理解できた。


「……償え。生きてるんだからな」

「償う、とはどのように?」

「それはオメェが考えろ。そのために、生きろ」





ロンフォンフイ雄黄酒を連れて多くの土地へと出向いた。

 かつて邪教から被害を受けた村に行くと、雄黄酒ロンフォンフイの隣で、誠実な謝罪をした。


そんな身勝手な謝罪を、受け入れてくれる者は殆どおらず、多くの生存者から手近な石を投げつけられた。


 しかし、雄黄酒は黙って我慢して、その仕打ちを受け入れた。そして彼は決意した。


 自分の能力でできることをしよう、と。

 雄黄酒は、生存者を助けることができると考えたのだ。


 雄黄酒は人間に襲われ、怪我をした。

 村人たちと分かり合うのはもう無理かもしれない……だが、それでも、雄黄酒は痛いとは決して口にしなかった。


 ロンフォンフイは、雄黄酒の傍に行く。そして、地面に落ちた丹薬を拾った。


 それは雄黄酒が開発した薬で、堕神を追い散らす力があった。


(もう少し、時間が必要かもしれない……)

そう思い、ロンフォンフイは、雄黄酒の頭にかかった腐った卵の殻を払い、袖で彼の顔についた血を拭いた。


「……行くぞ。オレたちのいるべき場所に帰るんだ」



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  • 最終投稿日時 2019/08/08 21:48
新着スレッド(フードファンタジー攻略wiki)
ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
    • Android
    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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