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【黒ウィズ】メインストーリー 第10章 Story5

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story 絶望、それから……



君は目の前の光景に、愕然とする。

「そんな……。」

それは隣に立つルベリも一緒だった。

クォたちの計画を止めるため、大水晶の停止に奔走してきた。

いくつもの犠牲を費やし、なんとか全てを停止させた。その結果――。

「零世界にゃ……。零世界が広がっているにゃ。」

〈ノクトニアの柱〉の崩壊が始まると同時に、柱が突き刺さる空は、まるで栓が抜けたように昏い闇の色に侵食され始めた。


「フフフッ……。」

振り返ると、笑いをかみ殺すように、顔を歪めたクォが立っていた。

「やめろと言ったじゃないか……。あんなにやめろと言ってあげたじゃないか。フフッ……。

もっとも、こう言ってあげた方がよかったかな?

大水晶を停止させれば、世界の釜の蓋が開く、と。零世界が世界を侵食してしまう、と。

言ってあげればよかったかなあ……あは、あはははは!」

「どうしてにゃ……! どうしてこんなことになったにゃ。」

「あははは……あー、笑い疲れた……。まだ分かりませんか?

最初から、あなたたちを止めようなんて、これっぽっちも思っていませんよ。

坊ちゃん。むしろ私はあなたがその〈鍵〉を使って、大水晶を止めて欲しかったんですよ。

そうすれば、〈ノクトニアの柱〉に眠る最後の宝珠の封印が解かれる。」

「なに……?」

「あなたのお父上は、柱を再建しようとしていたのではないです。

最後の宝珠を封印、あるいは護ろうとしていたんですよ。坊ちゃん。」

ルベリは震える右手を見つめながら、力なく呟いた。

「私は、その封印を解いた……のか……。」

「そういうことになりますね。

護っていた宝珠も、隠していた〈鍵〉も、私たちの前に「どうぞ」と差し出してくれました。

せっかく魔法の使えないあなたに、お父上がくれた大切な贈り物をね。……お坊ちゃん。

では私はそろそろ失敬します。これから興味深いことがたくさん起こるのでね……。」

「ま、待つにゃ!」

去りかかるクォをウィズが呼び止める。クォはゆっくりと君たちを見返す。

「待ってもいいですが、私と戦っていて、いいのですか?」

とクォは崩壊してゆく〈ノクトニアの柱〉を指差す。

「零世界が開くのに……。」

再び歩き去るクォに、君たちは言葉も無かった。何かを考える余裕すらない。


ーーーーーーーーーーーーー




=仲間を探せ!
<にゃ。
 にゃ。


「…………。」

君は、肩を落とすルベリにかける言葉を見つけられなかった。だが、君が黙っていると……。

「何をしているにゃ……。どうしてずっと下を向いているにゃ!

いまここでキミたちが諦めたら、世界が終わってしまうにゃ!

キミたちがもし過ちを犯したのなら、やり直せばいいにゃ!

そうしないで、俯いているのは、卑怯者のすることにゃ! ……私の言っていることが……。

間違っていると思うなら、ずっと下を向いていればいい。」

ルベリの背中がわずかに動いた。


「ウィズの言うとおりだ。……さすが四聖賢といったところか。」

ルベリは君を見る。その眼は元の彼の眼だった。

「……やるしかないな。」

君は力強く頷いて、同意をする。

「だが道は険しいぞ。まずは大水晶を復活させよう。少しは零世界の拡大を防ぐことが出来るだろう。」

どうすればいい? と君はルペリに訊く。

「簡単だ。大水晶に魔力を流し込めばいい。ただ……。」

その先を言うのをルベリはためらった。

「膨大な量の魔力が必要なんだにゃ……。」

「ああ。でもこの場で魔法を使えるのは、君だけだ。」

君は、仕方がないと笑いながら答えた。

「本当なら手練の魔道士が数人がかりで行うようなことだ。」

でも他に誰もいないのなら自分かやるしかないと、君が大水晶に手をかけた時、

「うおおおー―!!」

外からものすごい勢いで、何かが飛び込んできた。思わず敵かと身構えたが、そこにいたのは……。


「イタタタ……。オルネの奴め、手加減を知らんな。」

「……バ、バロン!」

と予想外の出来事に、ウィズも声を上げてしまい慌てて、猫のふりをする。

「にゃ……。」

ウィズは、バロンには自分が猫だということがバレていないのを思い出したようだ。

ウィズって意外と律儀なんだな、と思いながら、君はバロンの元に歩いていく。


「バロン? トルリッカのバロンか……。どうしてこんなところに?」

困惑するルベリをよそにして、バロンは君を見て喜んだ。

「おお! お前か! これは一発必中だな。」

どういうこと? と君は聞き返す。

「はは! 助っ人参上だ! もうすぐ他のみんなも来るぞ。」

と言った矢先に、どこかで衝突音が二度、三度聞こえてくる。

外の様子を見ると、街の中に何かが“落ちた”ようだった。

「うむ……。百発百中というわけにはいかんか……。」


 ***


「さー、次はアレクよ!」

「ちょっと待ってよ。 君の風で中央本部まで、飛ばすのはいいけど、どうやって着地するの? その辺りのことがすごく気になるんだけど?」

「そんなことアタシが知っているわけ無いでしょ。」

「やっぱりそうなんだね……。」

「ほら? 次が詰まっているんだから……早くしてくれませんか?」

「きっと大丈夫ですよ。」

「まいったな……。」

とアレクが頭を掻いていると、

「それなら先に僕が行ってもいいかな?」

「……ルシェ……どうして……。」

「ロレッタ、君が言っただろう。運命には逆らえないって。

これが僕の運命だ。ワダツミ家のルシェではなく……。

ギルドマスターのルシェだ。」

「…………。」


 ***


「とまあ、方法はそんなところだ。……そんなことよりも、」

とバロンは街を見下ろして言った。

「まずはバラバラになった仲間を集めることが先決だな。

お前に頼むしかなさそうだ。頼んだぞ。」

君はわかった、と返事する。なんだか懐かしい感じがした。それは、バロンも同様だったらしい。

「トルリッカにいた頃を思い出すな。……さあ、行って来い!」



クエスト

①仲間を探せ!
 
 
②集う力
 まさか空から降ってくるなんてにゃ……。
 ぶっ飛んだ考え方にゃ!
③一致団結
 ベルナデッタも飛んできたのかにゃ?
 
④ギルドマスター集結
 
 これで全員揃ったかにゃ?

・にゃは! みんなとんでもない方法を考えたにゃ。



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story



散らばったギルドマスターたちは、君が奔走したことで、ようやく一箇所に集まることができた。

久々に会う顔も、ついこの間まで一緒にいた顔もある。

彼らがこうして危機に駆けつけてくれたこと。それだけでも嬉しい。

w頼もしい味方がキミにはこんなにいるにゃ。まだまだ諦めるわけにはいかないにゃ。

と、ウィズは君の耳元で囁く。その言葉に小さく頷くと、君は言った。

大水晶を復活させよう、と。

その言葉にルベリは首を振った。

lそれは我々の役目だ。

bお前はあっちだ。

バロンは〈ノクトニアの柱〉を指差した。その空は零世界と混じりあい、さらに広がりつつあった。

A僕らは楽をさせてもらうよ。あっちの方が大変そうだからね。

r君が言うと、本心に聞こえるから、不思議だね。

dお前にばかりこんな役目をさせて悪いがお前以外には出来ないことだ。頼んだぞ。

tまあ、そういうことだ。さっさと行け! 負けて帰って来たら許さないぞ!

君は、ひとつ頷いてみせた。

pあなたに精霊の加護がありますように。

r……きっと……大丈夫。

k姉さんをお願いね。

w……もちろんにゃ。

か細い声だったが、ウィズはキーラにそう答えた。

君は崩れてもなお、浮遊し続ける〈ノクトニアの柱〉の欠片の上に足を踏み出す。

ひとつ、ふたつ、と飛び移って、上ヘ昇ってゆく。しばらく上がってから後ろを振り返る。

もうそこには誰もいなかった。みんなそれぞれの戦いの場所へ行ったようだ。

w私たちの戦いを始めるにゃ……。

君はもうひとつ、上へと飛び上がった。


崩れゆく塔

君に任せる。頼んだ。


story



「いままでのものとは違う。」

アナスタシアは禍々しい淀みを放ち続ける珠の前で口角を歪める。

くノクトニアの柱)の中枢にその珠はあった。崩壊によりその場所が露出され、ようやく手に入れることができたのだ。


「順調ですか、アナスタシア。」

「この宝珠を魔力で制御することで、〈ノクトニアの柱〉自体が巨大な魔力の増幅器となる。

大穴が開けられるわね。……世界に。」


大きな音がしたかと思うと、柱全体が激しく揺れる。すぐに揺れが収まったが、


「クォ。あなたの方は順調じゃないみたいね。

邪魔が入ったみたいね。

クォ……。私は役立たずが嫌いなの。」

彼女の言葉はまるで鋭利な刃物のように、鋭かった。

だが、まったく動じずクォは返した。

「フッ……なんとかしてきましょう。」

と言って、躇を返す。ニ、三歩進むと彼はふと立ち止まった。


「ああ、ひとつだけ。二度とこのようなことが起きないよう、邪魔者は排除しますが。

ウィズも始末してしまってもいいでしょう?」

「私に訊く必要はないわ。」

「ふふふ、いや。念のためですよ。念のため……。」

ようやくクォはその場をあとにする。


クエスト

①上を目指す!
 みんなが力を貸してくれたにゃ。
 みんなの期待に応えるにゃ!
②崩壊する塔と世界
 瓦礫に飛び移って上を目指すにゃ。
 その調子にゃ。
③零の異形
 零世界の存在が混ざってるにゃ。
 少しずつ零世界の解放が始まってるにゃ。
④天空の使者
 かなり昇って来たにゃ。
 でも、まだ上があるにゃ! 行くにゃ!



振り返ることはないにゃ。上へ上へ、行くだけにゃ。



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その場所に踏み込んだ瞬間、君はある違和感を覚える。

君は辺りを見渡すが、浮遊する柱の石塊があるだけで、特に他の場所とは変わりない。

「どうしたにゃ?」

何か変なんだ、と君はウィズに返す。

「私には何も感じないにゃ。でも君がそう思うならそれを信じるにゃ。」


君はもう一度、周囲を見渡す。やはり見た目には何も変化はない。

君はふと、後ろを振り返る。しばらく何もない空間を見つめ、そこへ手を差し出す。

沼へ手を突っ込んだ時のように、手首は何もない空間の中に呑み込まれる。その瞬間、君は察した。

素早く手を引き抜き、後ろへ飛び、身構える。


「……よく気づきましたね。」

「この声……!」


何もなかったはずの空間が湖面の如く揺らいだ。浮き上がるように、クォが君の前に現れる。

「危うく死ぬところでしたね。……もっとも――。

何も知らずに、死んだ方が幸せだったかもしれませんよ。

少なくとも、恐怖を感じることはないですからね。」

クォは叡智の扉を出現させる。その隙間からこちらを覗くのは見たこともない精霊である。

「どれほどの力を秘めているか。私もよくわからないのですよ。

零世界はね!」

「零世界が開きかけていることで、未知の魔法が使えるようになっているにゃ。」

ウィズの言う通り、いままで味わったことのない圧力を君は感じる。


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君は石塊の影に隠れながら、追ってくるクォの魔法をかわし続ける。

「チョロチョロと逃げ回るのが得意ですねえ。」

屈辱的な言葉だが、いまはこうしているより他ない。

逃げ回って機を窺う。それしかない。だが、逆転の気配は全くない……。

その間にも、頭上の零世界はどんどん広がっている。

「いつまでも逃げ回っているわけにはいかないにゃ。」

時間がない──。君は胸の中でそう唱えた。

「早くしないと……取り返しのつかないことになりますよ。世界が……。

まるで君の考えを見透かしたように、クォが言った。彼はさらに続ける。

「あと、アナスタシアもね。」

「…………!」

どういうこと? と君は思わず聞き返す。

「いくら宝珠の力があると言っても、これほどの大規模な零世界の解放です。

たったひとりの力では出来ませんよ。出来たとしても代償は大きい。

仲間じゃなかったの? と君はクォに言う。

「仲間ですよ。お互いの力を利用しあうという意味ではね。

どうせ彼女とはどこかで道を違えるのは目に見えている。何も問題はありませんよ。

ウィズ、君はどうする? 大切なアナスタシア姉さんが力尽きるのを放っておくのかい?

「クッ……。」

「だったら出てきて私と戦うんだよ。」

君はウィズを見た。その瞳は真っ直ぐクォに向けられていた。

「挑発に乗っちゃダメにゃ……。

ウィズは感情を押し殺して、そう呟いた。君にはそんな風に見えた。

君は岩陰から身を出す。

「何してるにゃ!」

「お出ましお出まし……。」

「相手の思うつぼにゃ。この際、アナスタシアのことは無視するにゃ。」

だめだよ、と君は即答する。

キーラに言われた。"姉さんをお願い"と。

君はウィズにその言葉をそのまま伝えた。ウィズは……。

「分かったにゃ……。」

大丈夫、絶対勝てる。と君は言う。

「それは師匠の私が言うセリフにゃ。」

と少しうれしそうな顔を見せた。

「さあ、来なさい。」


 ***


君は痛む肺を抑えつけて、乱れた呼吸を精一杯整える。

「勢いよく出てきた割には、やっていることは前とあまり変わらないですね。

私に触れることすら出来ない。」

余裕の表情でそう語るクォ。君は膝をついて、それを見続ける。

黙って息が整うのを待っていた。あっちがしゃべり続けるのに任せた。

「少しでも回復するにゃ。」

もう少し、クォの無駄なおしゃべりを聞いている必要がある。あと少しだけ……。

「もしかして……回復しようとしてます?」

ギロリ、とクォが目を剥いた。それと同時にこちら目がけて魔法が放たれる。

君は慌てて別の足場へ飛び移る。

「くだらないことはしないで下さいよ。」


「このままじゃ勝てないにゃ。」

どうすればいい? 君は頭を目いっぱい振り絞り考える。だが、そう簡単に方法は見えてこない。

ふと君は風を感じる。下から上への風。見上げると、巨大な零世界の口は君の真上まで迫っている。

小石程度のものは、零世界の口に吸い込まれていくようだった。

零世界から帰って来たのは、アナスタシアだけ。それの周到な準備の上でだ……。

君の視線を追い、ウィズも真上の口を見る。君が何を思いついたかも、理解したようだった。

「やってみる価値はありそうにゃ……。」

君は上へ跳び上がる。目指すのは零世界の間近だ。

「また逃げるんですか。」

やれやれといった様子でクォも君を追ってくる。

零世界の目の前まで来たところで、君は再び岩陰に身を隠す。

「今度は隠れましたか。もうその遊びにも飽きたから、終わりにします。」

クォが魔力を高める。そして、一気に解き放つ。

「ふん!」

君はこの瞬間に賭ける。クォがしびれを切らして、隙を作った瞬間に。

君は足場を蹴り、クォの真後ろに回る。そしてクォの背後に向けて、渾身の体当たりを入れる。

…………。

……おかしい。


「にゃ!」

クォの体と衝突したと思った君の肩は、空しく虚空にのまれる。

これは……。クォの魔法!! そう思ったのと同時に君の背中を冷たい言葉が這いまわる。

「見つけましたよ……。」

腹部を熱い何かが貫通してゆく。その熱さはすぐに激痛へと変わり、さらには凍えるような寒さが全身を支配する。

「さよなら。黒猫の魔法使いさん。」


為す術も無く、君は零世界の口に向かって、飛んでゆく。

指先ひとつ動かない。

君はウィズを探した。かろうじて動く瞳を弱々しく動かし。ウィズは君の先を飛んでいた。

ウィズは衝撃で気を失ったようだった。君は力を振り絞り、ウィズに手を伸ばす。そんなことをしても何の意味もない。

この期に及んで、逆転など無理だ。それでも、君は体半分が零世界に入り込んだウィズの手を掴む。

引き戻そうとするが、半ば意識を失いかけた君の力ではどうすることもできない。すでにウィズの体は全て零世界の口にのまれた。

自分もこのまま……。と君が考えていると、ウィズの手がこちらを握り返す。その感触は、猫のそれではない。

君は最後の力でその手を目いっぱい引く。零世界の向こうからやってきたのは……。


「キミ、まだ終わりじゃない。」

言うと、ウィズは君の傷を魔法で癒す。

「どういうことだ……!?」

「クォ、お前を倒すために帰ってきた! キミ……!

私も手伝う。反撃開始だよ!」

君はウィズに握られたその手を、力強く握り返した。


 ***


「ぐううぅぅ……! なぜだ…なぜなんだ……!

「たぶん、零世界が広がり過ぎたんだろうね。

そのおかげで、私は体を具現化することが出来た。

そうか、と君は納得する。サイオーンの時と同じだと思った。

あの時、零世界でウィズは人の姿を取り戻した。でもあれは──。

君の言葉を制するように、ウィズは言った。

「こんな時に、出し惜しみしても仕方がないよ。

「こんなところで、こんなところで……。

膝をつき、傷ついた体を必死で抱えている。すでにいつもの余裕や野心は微塵も見受けられなかった。

そんな彼の背後の空間が歪む。ぼんやりとした闇の中から……。


「こんなところで、やられてしまうなんて……がっかりだわ、クォ。

「アナ……スタ、シア……。

「……姉さん。

「クォ、どうしたのそんな顔をして?

私が力を使いきっていなくて、残念かしら?

「あ、あ、あ……。

「それと──。何度も言っているでしょ。

無能は嫌い、と。

消えなさい。

アナスタシアが杖を一振りすると、クォの体がゆっくりと宙に浮く。

「あ、ああ……。ああ!

クォの体は零世界にのまれてゆく。

「ぐおぉぉ! うあ! 嫌だ! 嫌だぁぁぁ!

クォが消えてゆくのを見送ると、アナスタシアはウィズを見据えた。

「殺してあげる。……ウィズ。いまのあなたにはその価値があるわ。

「…………。



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「姉さん……もうこんなこと、止めてほしい。」

「こんなこと? こんなに、面白い事をどうして止めるの?

零世界が開き、この世界を呑み込めば、全ての予定調和が崩れ去る。

とても楽しそうじゃない。」

「なぜそんなものを求めるの? そんな世界の何がいいの!?」

「……この世界の何がいいの?」


それは彼女の芯の部分から出た言葉のようだった。

本当に、彼女はそう思っている。

全ての調和を失った世界で、彼女は生きたいと願っている。

そう確信している。それを覆すことは難しい。


「…………。」

たぶんウィズも同じことを感じている。

君以上にアナスタシアという人格を知っているウィズなら、なおさら痛感しているはずだ。


「始めましょう。」

とアナスタシアは杖を振るう。

零世界が浸食した世界は、その一振りで君たちに牙を剥く。

湧き出てくる異形の者たちが君たちに襲い掛かってくる。

「殺し合い、を。」


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アナスタシアがけしかける異形の者を撃ち落としながら、彼女との距離をジリジリと詰める。

四聖賢同士の高度な戦いに、君もついていくのが、やっとだ。

「にゃは。大丈夫?」

何とか、と君は冗談めかして答える。

「その様子なら、まだ戦えそうにゃ。

君は笑顔で首肯する。

「ここからが本番だね。

このまま、戦うの? と君は改めてウィズに訊ねた。

「姉さんを助けたい……。でもまだどうすればいいのか分からない。

たぶん本音なんだろう、と思った。君自身もどうすればいいか、分からなかった。

けれど、それは──。

アナスタシアも同じなのかもしれない。

「……それで終わり? ウィズ。」

詰めが甘い。

もちろん気を抜けば、一瞬でやられてしまうほどの猛攻であるのは、間違いない。

けれど、どこか迷いがある。

「まさか。」

「なら、次で終わりよ。」

またしても、アナスタシアの杖が振られる。

零世界の奈落が再び開く。

そして、姿を現したのは……。


「……お前がね。」

「クォ……!」


振り向いた時には、すでに遅かった。

命を刈り取る一撃はアナスタシアを捉え、彼女の体は、何もない空へ投げ出される。


「姉さん……!」

そのまま、アナスタシアは下へ下へと滑り落ちてゆく。

「姉さーーん!」

ダメだ! アナスタシアの行方に気を取られるウィズに呼びかける。

「クッ!」

君の言葉に反応したウィズは、間一髪でクォの一撃をかわす。


「チィ……。」

改めて、クォを見て君は小さく声を漏らす。

半ば人、半ば異形のその姿は本能的に人を恐れさせる。

「フフフ……。私はここでは終わらない。まだ、まだ……。」

声が徐々に認識できないほど、くぐもったものになってゆく。

『……終わらない!!』

と、言ったような気がする。

もはやその姿も声も人であった頃の名残はない。

その声はただの怨嗟の塊であり、その姿は人の業そのものであった。


「…………。」

怒りを握りつぶして、ウィズが言う。

「あいつを……やっつけよう。」

その声は冷静でいて、鋭かった。君は促され、戦いの構えを取った。


 ***


『終わらない!!』


君の攻撃が、クォとの長い戦いに終止符を打った──かに思えた瞬間、あり得ないことが起こった。

零世界の禍々しい魔力が、倒れたはずの異形の身体に収束して、その体を復活させた。


零世界で戦う限り、異形は復活し続ける……。事実は君の背筋に痺れを走らせる。

諦めかけた君の背中を、暖かく、力強い手が押す。


「キミ、まだ終わりじゃない!」

ここで、諦めるわけにはいかない! 視界の端に、揺れる金色の髪が見えた。

君は、最後の力を振り絞る。


 ***


『ぬおお……あああ……。ああ……あ。」

戦いを始めた時とは違い、徐々にその声は人らしさを取り戻してゆく。

君は落下していくクォを見送る。

「さすがにもう次はないだろうね。」


アナスタシアを……! という君の言葉にウィズは首を横に振る。

「それよりも……零世界を閉じるのが先だよ。

〈神託の指輪〉を。」


君は指輪を取り出す。ひとつはヴェルタで手に入れた〈スプレンティア〉をウィズに渡す。

「これを使うのも、あの時以来だね。……今度は失敗しない。」

その言葉に、君は息をのむ。ふと別の指輪を見ると、失われたはずの輝きが戻っていた。

「おそらく零世界の影響かもしれないね。さあ、キミも指輪を……。」

君はふたつの指輪を両手に握る。


「ヴェルタのときのように、ここを閉じるんだ。私はやり方が分からないから……。」

と言って、ウィズは君の手を取った。

「キミに合わせる。」


君は魔力を高め、意識する。零世界を閉じるように。元の世界を取り戻すように。

浸食されていた世界は徐々に元に戻り始め、零世界の口も小さくなっていく。

「その調子……その調子だよ。」

と同時にウィズの体が光に包まれる。光は淡く、儚く、輝いていた。

君が驚いてウィズを見ると、


「零世界が閉じたら、たぶん元に戻ってしまうんだろうね。」

ウィズは事も無げにそう言った。せっかく体を取り戻したのに、彼女の言葉に寂しさの素振りはなかった。

その理由が君には分からなかった。

……分かりたくなかった。

このままでいてほしいと言う気持ちが、君の中で溢れ出てくる。

これまでの旅の思い出と共に、君に喉元まで、口先まで、「嫌だ」という言葉として。

君の目が何かを訴えたのを見て取ると、ウィズは言った。

「……それじゃあ、クォたちと一緒になっちゃう。私たちは、そうじゃないはずだよ。」

ウィズの言葉に、思わず君の指先に力が入る。

わずかな変化だったが、たぶんウィズも気づいたはずだ。

どう思われただろうか。そして、自分はどう思っているのだろうか。

……君の想いは変わらない。どんなことがあってもウィズを取り戻したい。その想いは、変わらない。

何を代償に払っても、それがたとえ世界を失うことでも構わないとすら思える。

まるでクォやアナスタシアたちのように。

でも──。

「私たち」は、そうじゃない。

それがウィズの教え。「私たち」が進むべき道だ。

君は、今度こそ、はっきりとウィズの手を握り返す。

強く……。

ウィズは、優しく笑顔を返してくれた。

「さあ、集中して……。世界を取り戻そう。」


君は決意を固める。君はただ、目の前の世界を救うことだけに集中した。

もう迷いはない……。


真っ直ぐ前を見て、零世界が閉じてゆくのを確かめた。

世界を覆った黒い闇が、小さくなってゆくごとに……。

握りあった手の感触が少しずつ薄れてゆくのだけが、分かった。


悲しむことはないにゃ。私たちは勝ったにゃ。

……世界を救ったにゃ。



 ***



「……たく、もうー。アイツら中央行ったのはいいけど、何が起こってるか分からないじゃない。行くだけ行って、アタシは仲間外れってわけ? アッタマ来るなあ……。」

と、オルネは空を見上げる。雲がすごい速さで流れてゆくのを見て、彼女はその行方を追った。風の行方を。

その風は仲間たちが飛んだ方向へ流れてゆく。漆黒に覆われていたはずの空は、風の流れと共にいつもの色を取り戻していく。

「ふーん……。やるじゃん。」


 ***



…………。

…………。


平穏な、それもいつも以上の空が広がる中……。

瓦礫に覆われた中央本部の、どこかの片隅……。

ひとり、苦痛にうめく男がいた。


「ぬあ……ぁぁ!! 体が……体が崩れてくる! な、何とか……何とかしないと。」

クォは零世界の力を借りた代償として、崩れてゆく自分の体を、魔法によって必死に繋ぎ止めていた。

もはや視界も闇が覆いつつあった。


「さすが四聖賢ですね、クォ様……。そんな姿になっても、まだ魔法が使えるのですね。」

「ルベリ…………!」

「私は、この魔法が使えない体のせいで、父に多くの迷惑をかけてきた。」

「…………?」

「四聖賢の息子のくせに、魔法が使えない……。とんでもない皮肉だ。どれほど、父は胸を痛めたのか……。どれほど父は恥をかいたのか……。

この右手を見るたびに、私はたまらない思いになる。この父が与えてくれた手を見るたびに。

この、魔法を断つ手を、見るたびに。」

「助……けて……くれますか?」

ルベリは黙って首を横に振る。

「でも父はいま、きっと笑っていると思う。向こうでね。」


ルベリの右手がクォに近づく。

「触れ……るな! 触れるな! ちょ、ちょ、ちょッ! やめ、やめろ! や、やめろおおおーー!!」

「会って確かめて来てくれ。……返事は、後でいい。」

「触、れ……るな。」

「さよなら……クォ様。」



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story



いつの間に気を失ったのか、君は自分が眠っていたことに気がつく。重たい瞼を押し上げると……。


「にゃー。」

ウィズがいる。話しかけないということは……。

君は体を起こして、周囲を見渡す。


「ご苦労だったな。」

君を送りだした顔がそこにあった。


「全部終わったにゃ。お疲れさまにゃ。」

とウィズは君に囁く。君はウィズの言葉に首を横に振る。

「にゃは。私の体のことかにゃ? まあ、それは後で考えるにゃ。」


「手を貸そう。」

君は差し出された左手を握り、立ち上がる。

「君のおかげだ。」

違う、と君は否定し、周囲を促す。

「ああ、そうだった。君たちのおかげだな。」

その場にいるみんなに向けて、ルベリは言った。

「もちろん君もだよ、ルベリ。君は特に、これから働いてもらわないとね。」

と、瓦礫にまみれ、半ば崩壊した街を指さした。

「君はどうする? ここに残るか? 何なら四聖賢にでもなるか?」

君は笑ってその申し出に首を振る。ここに自分の役割はない、そんな風に断った。それに、まだやることがある。と言った。

ルベリは一目、ウィズの方を見た。

「そうだな。確かにやることが残っている。」


「相変わらずだな。今度は四聖賢の地位まで袖にするのか。」

「そのへんは師匠に似ているのかもしれないね。」

「ボクの事じゃないだろうな。」

「違いますよ……。」

「そうだ。ウィズだ。あいつはどこかの異界にいるらしいのだ。まったく弟子を放って、何をしているのか……。」

「え!?」

「バロンには……教えないで……。その方が……面白いから……。」

驚く一同に、ロレッタはこっそりと囁く。


「……でも、その方が色々頑張るかもしれないわね。今回みたいに。」

「…………うん。」


「そろそろ行くにゃ……。何だかこの雰囲気はくすぐったいにゃ。」

君はウィズの言葉にこっそりと頷く。行くよ。とルベリに言い、君は歩き出す。


「ひとつだけ……伝えておく。アナスタシアはまだ生きている。

……かもしれない。少なくとも見つからなかった。何も……。」

君はウィズを見た。

「またいつか会う時があるはずにゃ……。」

その声は、うれしいとも悲しいとも違う声色だった。

君もまた同じような気持ちである。

それは、戦いと運命の予感と共に君の胸に刻まれる。

「決着は、その時つけるにゃ。」

「そうだ。どうせなら君にも魔道士ギルド再建に一肌脱いでもらおうかな? きっと君が適任だ。」

それはどういう仕事? と聞き返すと、


「四聖賢探しだ。……あとひとりのね。」





END

ありがとう。これは強力のお礼だよ。


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