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【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story2

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ほう。わざわざ戻ってきたのか。

<君は抜け穴を通り、ヴィタのところへ来ていた。ヴィタの服は昨日よりもボロボロになっている。また鞭で打たれたのだろう。>

気にするな、数日に一度は服を替えてもらっている。破れると色々と使いみちができてしまうからな。

使いみち……ってなんにゃ?

ヒモ代わりにして首を吊る、とかだな。ここは脱出不可能を謳っているんだ。あの世に逃げられるわけにもいかないだろ?

<反応しにくいヴィタの言葉はとりあえず流し、君はラガッツとパスパルに会ったことと、ふたりの様子を報告した。>

ほう、ドジッた私には従えない……パスパルがそんなことを……。

ククッ……いいことだ。

<命令を聞かないのがいいことなの?と君は訊ねた。>

パスパルはパスパルのやり方で、獣を狩るつもりなんだろう。

私たちバビーナはきたねえ獣を狩る狩人だ。従うだけの腑抜けはいらない。

でも、それじゃどうやって、ヴィタを助けて脱獄するにゃ?

さあて、な。

<君はもうひとつ、気にかかった事を訊ねる。キルラという看守は何者なの?と。

瞬間、周囲の間が濃くなったような感覚に襲われる。>

私は言いたくないことは言わない。――ガキだからな。

<その言葉は、ほとんど物理的な力でもって君を圧迫した。>

まあいい。しばらくは様子を見てろ。間違っても、余計な騒ぎを起こすなよ。




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<その後、数日のあいだ、君は囚人生活を続けた。

わずかな間に、君は刑務作業に慣れ、石を積むのも穴を掘るのもずいぶんと上手くなった。

もっとも、どんなに上手くなっても、石はすぐに崩されるし穴は埋められる。それでも――>

はー、マホーツはなんでもできるなー。私なんて全然慣れないってのに。

<というラガッツの素直な称賛を受けると、なんとなく嬉しかった。>

あーあ、こんなところに放り込まれる前にマホーツと会っていたら、一緒に大暴れできたんだけどなあ。

獣になってないマホーツなら先輩たちも認めてくれたはずだしさ。あ、ウィズはだめな?

ホント、失礼な娘にゃ。……ラガッツは、ここから出る気はないにゃ?

おいおい、なに無謀な話をしてやがんだ?この監獄から逃げようなんて、考えるだけ時間の無駄だぜ?

まさかこの監獄の警備の厳重さを知らないってわけじゃないだろうな?

看守は一見いい加減だが、なにか問題があればいつでも銃をぶっ放すつもりでいるぜ。

仮に看守の隙を衝いたところで、外に出られないのはビスティアの住人なら知ってるだろ?

え?知らないけど。

……そういやアンタ、おのぼりさんだっけか。やれやれ、また説明が必要かね。

<うんざりしているのか喜んでいるのかわからない顔でルポーティは解説をはじめた。>

いいかい?まずこの建物から出られたとしてなにがあると思う?

壁だよ、たっか~い壁。どんな獣でも飛び越えられず、どんな獣も爪を立てられない絶壁だ。

もちろん、電気を走らすのも忘れちゃいねえ。毎朝、小鳥がかかってうまそうな匂いをさせているもんさ。その壁を抜ければ安心かって?そんなわけはねえ。その先にあるのは、波の荒れ狂う海ときたもんだ。

飛び込んで泳ぐ?小舟のひとつも用意する?馬鹿言っちゃいけませんぜ。この海にゃサメがうようよ泳いでいやがる。

わかったろ?魔都ビスティアの沖に浮かぶ、絶海の孤島にして絶望の監獄。それがこのスロータープリズンなんだよ。

<ルポーティの言葉は嘘ではないのだろう。同室にいた囚人たちは現実を再確認したように、一斉にため息を吐いた。

ブザーの音が鳴る。夕食の時間だ。>

なんかクサクサしちまったな~。メシ食って発散しようぜ。

<おいしくないけどね、と言いながら、君は食堂へと向かった。>


 ***

>ラガッツはいつも元気にゃ。


<君たちがたどり着いた時、すでに食堂には緊迫した空気が流れていた。>

遠慮なんて、子供らしくないですよ。さあ、どうぞめしあがれ。

<シャシャがまた、囚人にまずい食事を食べさせようとしていたのだ。>

wお、お許しください……どうか……どうか……。

<囚人はまだ少年だ。震えながら許しを乞うている。だがシャシャは笑みを浮かべ、退こうとしない。>

ん~。君は確か、食べ物を盗んで、ここに投獄されたのでしたねえ。食いしん坊のくせに、ガマンしないしない。

wあ、あれは……弟と妹のために……。

え、たったそれだけでこんな場所に!?

なにをいまさら。魔都ビスティアだぜ?まともな理由で投獄してたら監獄がいくつあっても足りねえよ。

本物のワルほど捕まえるのは骨が折れる。ポリスは弱い奴にばかり因縁つけてここにぶちこむんだよ。

聞き分けのない子ですねえ。私が食べさせてあげましょう。はい、あ~~~ん。

<部下の看守に少年を押さえつけさせ、シャシャがその口元にトロトロとした料理を運ぼうとする。

……ヴィタは「騒ぎを起こすな」と言っていたが、これを見過ごすことは、君にはできそうにない。

肩の上のウィズにうなずき、君は懐に手を入れてカードに触れる。そしてシャシャに向けて一歩を踏み出す――

まさにその寸前、少女の声があがった。>

所長さま、私、お腹ペコペコです。そのとても美味しそうなお料理、私にくださいませんか?

<パスパルはニッコリと笑いシャシャの前に歩み出る。>

おやおや、いいですとも。子供は自分に素直なのが一番ですからねえ。

はい、あ~ん。

<シャシャが差しだした、異臭の漂う料理が乗ったスプーンを、パスパルはためらうことなく口に入れた。>

どうですか?美味しいでしょう?

<よく噛み、ゴクリと飲み込んだ後、迷う様子もなく答える。>

ハイ、とってもおいしいです。

そうでしょうそうでしょう!私の料理はね、とっても美味しいんです!さあ、どんどん食べなさい。

<パスパルは次々と差し出されるスプーンをゆっくりと味わう様子で、淀みなく食べ続けた。

トレイが空になると、シャシャは満足したようにうなずいた。>

うふふふふ。子供はね、やっぱり素直が一番です。みんなも見習うんですよ?

<ごきげんな様子でそう言って、シャシャは去っていった。>

wだ、大丈夫ですか、パスパルさん?僕なんかのために……。

<周囲の囚人が、人も獣も隔てなく、パスパルの周囲に集まってくる。>

zすまねえ、姉御。おいら達がいながら……。

ううん、いいのよ。変な騒ぎになってもよくないし、ご飯を粗末にしないで済んだもの。

z決めた……次は俺が食う!二度とボスをこんな目にあわせやしねえぞ!

<おしとやかな少女に見えるパスパルだが、どうやら囚人たちに慕われているらしい。>

なにを集まっている。散れ。それとも鞭を打たれたいか。

ごめんね、キルラちゃん。すぐに静かにするから……あっ!

<パスパルの頬を、キルラの鞭が容赦なく打った。>

なれなれしいぞ、罪人。

……申し訳ありません、看守様。

<頬から流れる血をそのままに、パスパルはおとなしく頭を下げた。

だが、おさまらない少女もいた。>

なんでだよ!なんでそんなことするんだよキルラさん!アンタ、本当に変わっちまったのかよ!

<ラガッツの魂の叫びは、しかしキルラの心にさざ波ひとつ起こさなかったらしい。>

愚者と話す言葉は持たない。ゆえに一度目は許す。だが二度目はない

死体になってこの監獄から出たいのなら、話は別だがな。

<冷徹に言い放つと、キルラは背を向けた。その背を、ラガッツの言葉が追う。>

なんでなんだよ……キルラさん……。アンタ、ウチの――バビーナファミリーのN0.2じゃなかったのかよ!

信じてたのに!アンタとヴィタさんの絆は絶対だって、そう信じて田舎から出てきたのに!

<返事は、鞭が空を裂く音だった。鞭はラガッツのつながれた鎖に絡みつくと、少女を床に引き倒す。

倒れたラガッツを一瞥すると鼻で笑いキルラは去っていった。>

チクショウ……チクショーーーーー!!

<少女の哀しい叫びは監獄内に響き――晩餐の終わりを告げるブザーに掻き消された。>



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イィィィィヤッハアアァァァァァ!

<正直、私は調子に乗っていた。

だってしょうがないだろ?あのティターノファミリーに、ガレオーネに勝ったんだぜ?

ビスティア中の悪党が、ビビった目でウチらを見たんだ。調子に乗んなってのはムチャな話だよ。>

あんまはしゃぐんじゃないよ、ラガッツ。敵はまだまだ多いんだから。

浮かれてチェチェの足引っ張りやがったらどうなるかわかってんだろうな、新入り。

<そういう先輩のチェチェさんもマチアさんも、明らかに機嫌が良かった。>

でも、ケンカなんて嫌ね。早く片付けて、みんなでご飯にしましょう?

時間はかからないだろうな。私の調べじゃ小さなファミリーだ。

<腐っても魔都ビスティアだ。まだバビーナファミリーに逆らう奴らも少なくなかった。

その日はそんな奴らのアジトのひとつをキルラさんが見つけたってんで、ファミリーが集まってたんだ。>

油断はするなよ。私たちだって5人なんだ。

ちょっ、ヴィタさん!6人!6人っす!自分も入れて6人っすよ!

お前はまだ見習いだろ。〈奴隷の鍵〉も使っちゃいねえんだ。

だから、早くやってくださいって、お願いしてるんじゃないすか。頼んますよヴィタさ~ん!

フッ……この件がうまく片付いたら考えてやるよ。

ジーマーっすか!?おっしゃー!ダンゼンやる気出てきた!バビーナが怖くなけりゃかかってこーーーい!

うるせーぞ、新入り!カチコミの前にてめえ黙らせっぞ!

<そんな先輩方の言葉も耳に入らないほど、私は舞い上がってたんだ。>

オラ、ここかよ!バビーナに逆らうクソどものねぐらは!

<扉を斧でぶち破って、マチアさんが敵のアジトに入っていった。

異変には、すぐに気づいたよ。>

え……もぬけの空?

おうち間違ったんじゃないかしら?

いや、そんなはずはない。キルラ、心当たりは……。

<次の瞬間、ビスティアでは聞き慣れない音が、周囲に鳴り響いたんだ。>

ポリ公のサイレン!?この街であいつらが働くことなんて……。

これは……ここに向かってきてる。

……お前たち、出るぞ。

<ヴィタさんの言葉に、ファミリーのみんなは急いで外に出た。けど、もう遅かったんだ。

私たちのいた建物は、完全武装した無数の警官隊に包囲されてたんだ。>

しくじったな……私としたことが……。

どういうこと?

私の掴んだ情報は罠だったんだ。ポリ共にウチらを捕まえさせるためのな。

ティターノと違い、ウチは構成員が少ない。数に物を言わせりや公権力でも潰せると判断されたんだろう。

チッ!舐めんじゃねえぞ!チェチェには指一本触れさせねえ!

でも、あの数にあの装備……。こっちは弾が足りないわよ。


wバビーナファミリーに告ぐ!諸君は包囲されている!武装を解除し、おとなしく出てきなさい!

……どうします、ヴィタ?無茶を承知で特攻か、それとも……。

……キルラ、お前はどう思う?

分の悪い賭けは嫌いじゃありません。が、絶対に勝てない勝負は、ギャンブルですらないでしょう。

……わかった。お前ら、武器を捨てろ。

相手はポリスなんだ。命までは取られないだろ?――投降する。

<その言葉をきっかけに、先輩方は武器を床に捨てた。……半人前の私が逆らえるわけもない。

こうして、私たちバビーナファミリーは逮捕された。

そこからはめちゃくちゃ早かった。次の日には裁判とは呼べないような一方的な決めつけがあって――

私たちはここ――スロープリズンに投獄されることになった。

ただ、思ってもいなかったことがひとつ。監獄に着くとキルラさんだけが別室に通された。

しばらくして出てきたキルラさんは――>

zお見事でした、キルラ様。これでバビーナファミリーもおしまいですね。

キルラ……テメエ、その格好は……。

どうしたお前たち、呆けた顔をして。少し考えればわかることだろう?

誰があそこが敵のアジトだと教えた?誰が投降を促す発言をした?

そもそも、ガレオーネがバビーナに興味を持つよう、情報を流した者がいると考えたことはなかったのか?

じゃあ、アンタが裏で……。

厄介なティターノを潰せるファミリーを育て、互いをぶつけ合わせた後、生き残った方を罠にかけて消す。

時間はかかったが、成果は充分だったな。

zさすがコルテロのご令嬢。市長もお喜びになられましょう。

コルテロ?それって、このビスティアの市長の……。

そうか、ヴィタ以外には伏せていたんだったな。

私の名はキルラ・コルテロ。名家コルテロを継ぐ者だ。

信じていただいたのに悪かったですね、ドン・バビーナ。なにかおっしゃりたいことはありますか?

……そうだな。お前の勝ちだよ、キルラ。

引き際が良いのは大変よろしいことかと。さて、それではバビーナファミリーの諸君。……いや、違ったな。

囚人番号#Sp-8 5、86、87、88、89。スロータープリズンヘ、ようこそ。



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<投獄の経緯をひと通り語り終えると、ラガッツは握った拳を震わせた。>

それからキルラさんは、ファミリーが結託しないように、看守として見張ってる。

まだ信じらんないんだよな……。私にとってさ、ヴィタさんとキルラさんは憧れのスターなんだよ。

誰かが道端に捨てていた三文薙誌(パルプフィクション)。そこに載ってたヴィタさんとキルラさんの噂が私をビスティアまで連れてきたんだ。

あのふたりの絆が嘘だったなんて、頭ではわかっても心が納得しねえよ。

俺もガキの頃、噂に聞くビスティアの悪党に夢を見て上京してきた口だ。気持ちはわかるぜ。つれえよな。

お前、意外と優しいのな。

ワルってのは女に優しいもんなのさ。ま、アンタはまだまだガキだがね。

うわ~、余計な一言で失敗してそ~。

とにかく、大体はわかったにゃ。キミもわかったにゃ?

<悪者を倒したのに、仲間に衷切られちゃうなんて、災難だったね、と君は言った。>

……なんかお人好しな感じに解釈してる気がするけど、まあいいにゃ。

ラガッツは、どうしたいにゃ?

……私、バカだからよくわかんないけどさ。ヴィタさんを助けたいよ。

半人前だって言われても、私もバビーナファミリーの一員なんだから。

おーおー、泣かせるねえ。ここはひとつ、俺も協力してやるか。ガキと女は泣かせちゃいけねえよ。

……やっぱり胡散臭いにゃ。

ま、金の匂いがするからってのが、最大の理由ではありますがね。

<だと思ったよ、と君は肩をすくめる。それでも、協力者がいるのは心強い。>

でも、結局なにをするにゃ?

……もう一度、パスパルさんと話してみたい。あんなパンダにいいようにされてるの、パスパルさんらしくない!

<翌日、君たちはいつものように日中の刑務作業をこなした。

そして、日が暮れ、晩の食事を告げるブザーが鳴る。>

よし、行こうぜ、マホーツ今日こそパスパルさんの――本当の気持ちを聞き出してみせるんだ!


 ***



パスパルさん!

<食堂に飛び込んたラガッツは、まっすぐにパスパルのもとへと向かった。>

なあに、ラガッツちゃん。食事中に騒いじゃダメって言わなかった?

あんなパンダにやられっぱなしでいいんですか!

ちょっと、聞こえちゃうわよ?

ご安心を。所長は今日は別の棟を訪問しているそうでしてね。

<パスパルは深いため息を吐いた。>

狼さん?これは私たちファミリーのお話なの。首を突っ込まないでくれるかしら?

いま、ファミリーって言ったっすね!やっぱりまだ仲間だと思ってるんスよね!?

言葉の綾よ。どっちにしろ、見習いのラガッツちゃんが、私に口出ししないで欲しいな。

自分はあんなのにゃられて黙ってるパスパルさんなんか見たくねーんすよ!

しかたないじゃないの。私たち、ただの囚人なんだから。

心まで縛られちまったんですか!

ええ、そうよ。だから、放っといてちょうだい。

<にべもない答えにラガッツはギリと歯を鳴らす。

君はパスパルのことはよく知らない。だが、このおしとやかな少女が、あの所長に逆らうのは無理に思えた。

君はラガッツの肩を叩き、この人を巻き込むのはやめよう、と告げた。

ラガッツは悔しそうにうつむいたが、すぐに顔をあげ、叫ぶ。>

わかったよ!もうアンタにゃ頼らねえ!ヴィタさんは私が助けるし、あの所長も私がぶっ潰してやる!

<異変が起きたのは、その瞬間だった。>

……なんだと、オイ……。

<目の前の少女が、一瞬にして豹変していた。>

おい、テメエら!

<細い腕が、テーブルを叩く。驚くほど大きな音がし、周りの囚人たちが一斉に気をつけの姿勢をとる。>

壁だ。早くしろ!

<号令一下、囚人たちが食堂の中心に整列し、幾重もの円を描いた。>

zお、なんだ揉め事か?なんだよ、見えねえじゃねえか。

<看守たちは締め出され、円の内側は見えない。そこに立っているのは、君とラガッツ、そしてパスパルだけだ。>

ここの看守は囚人のケンカなんざ止めねえが、念のためだ。お望み通り、お話の場を作ってやったよ。

で、なんだって?誰がナニを殺るだって?

え……あの……自分がパンダ野郎をぶっ飛ばそうかな、なんて……。

半熟野郎がナマ言ってんじゃねえよ!

<パスパルがテーブルを蹴り上げる。テーブルは天井にぶち当たり、派手な音をたてて落下した。>

アイツを殺るのは私だ!やるってんなら私を倒してからいけよ、ああ!?

相手はどっちだ?ラガッツか?それともそこのアンタか?

<突然の変貌に君は戸惑う。だが、パスパルは止まらない。>

まどろっこしい!どっちも潰せばいい話だな!まずはアンタからだ!

<有無を言わさず襲いかかってくるパスパルに君は已むを得ず戦いの構えをとった。>


 ***


<見た目に反し、パスパルは恐ろしい相手だった。>

オラ、どうした!

<鎖に繋がれた不自由さなど、まるで感じない。それどころか鎖を巧みに使い、君を牽制し、行動を制限する。

だが、もっとも恐ろしいのは――

オラオラ、殺(と)ったぞ!

<避けた拍子に滑った君の一瞬の間隙をつき、首のまわりにぐるりと鎖が巻きつく。

危ない、と君はすかさず鎖を両手で掴んだ。>

ハッ!腕力でこのパスパル様に勝とうなんざ、百億万年はええんだよ!

<鎖は万力のような力でどんどんと締められていく。

そう、もっとも恐ろしいのは、その単純な腕力だった。>

やべえ……どんな銃も軽々あつかうパスパルさんの力はハンパねぇんだ!

見た目で舐めたか?良かったじゃねえか。ガキぃ舐めると痛い目え見るって学べてよ!

<確かに油断していたかもしれない、と君は反省した。君の力では、鎖を外せそうにない。

だが、君にはたくさんの力が――精霊がついている。

あらかじめ右の袖にしのばせていたカードに触れ、魔力をこめる。>

な……こいつ、急に力が……!

<強化魔法だ。精霊にかけるより効果は弱く時間も短いが、わずかな間なら力を増強できる。

君は瞬間的に腕力を増加し、強引に鎖から抜けだした。

君の突然の変化に焦ったのか、パスパルは背後に跳び、距離を空けようとする。

だが、君はそれをさせない。左袖に隠していたカードに触れ、ふたたび魔法を唱える。>

うわっ!なんだ!?

<風の魔法。瞬間的に、突風が足元に吹く。それがパスパルの着地の姿勢を崩した。

君は強化された脚力で前方に跳躍する。その勢いを使い、姿勢を崩したパスパルを冷たい床に押し倒す。

あとは片膝をみぞおちに押し当てて、動きを制すれば君の勝ち――のはずだった。>

……っぶねえなあ、オイ。

<パスパルの両手をつないだ鎖が、体重をかけた君の膝を受け止めていた。

そして、息がかかるほど目の前にあるパスパルの口が開き、告げられた言葉は――>

もうやめましょっか?お互い、ケガなんてしたくないじゃない?

<ニッコリと笑うパスパルの顔には、もうどこにも狂気はなかった。>

大丈夫よ。あなたがまだ本気じゃないの、わかってるから。

<君は目立たないように派手な魔法の使用を控えていた。強化魔法を選んだのもそのためだ。>

負けでいいわ。あなたたちに協力する。それに――

このままじゃ私も奥の手を使っちゃいそうだもの。

<君とパスパルは構えを解いて、立ち上がる。>

まったく、ラガッちゃんの強引さも困ったものね、よその人まで巻き込んで。教育間違っちゃったかしら。

パスパルさん、それじゃ……!

ヴィタを助けたいんでしょう?いいわよ。いっしょにやりましょう。私だって、考えてなかったわけじゃないもの。

zおい、お前らいつまでもなにをしているケンカや殺し合いならかまわねえが、変なことしてねえだろうな!?

――看守がざわついているわ。ちょっと騒ぎすぎたみたい。詳しい話は明日にしましょう?

オーキードーキーっす!パスパルさんさえいれば、もう全部バッチリっすよ!

ふふ……あんまり期待しないでね。それに、これだけは言っておくわよ。

あのクソパンダだけは、私がこの手でブッ殺す!邪魔するなら容赦しねえ!いいな!

<一瞬だけ狂気を垣間見せたパスパルだったが、すぐに笑顔に戻り、君たちから離れる。>

そうそう、協力の代金として、これ、もらっておくわね。

<離れていくパスパルの掌には、君が隠し持っていたはずの岩塩が乗っかっていた。>

ああ!?キミ、なにをボーっとしてるにゃ!これでまたご飯が虚無味に逆戻りにゃ……。




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失礼いたします。

<キルラが室内に入ると、マディーロは膝に乗せた残饅をさすっていた。>

おお、キルラ。あの小娘はまだ吐かないようだの。

はい。拷問方法を変えることも検討すべきかと。

あわてることはない。毎日少しずつ、鞭を打つ数を増やせばいい。

明日は今日よりも痛い。吐かぬ限り、それがいつまでも続く。そう理解すれば、人は耐えられぬものよ。

この街は性根の据わった悪党が多いでな。肉体ではなく心を砕くほうが肝要よ。わしのやり方をよく学ぶことだ。

ハッ。勉強させていただきます。

それに、あの小娘が吐かずとも、どうせこれはわしの手中にあるのだ。焦ることなどなにもない。

<マディーロの足元には、不思議な鍵のかかったカバンがあった。>

この中にあやつらの〈命の人形〉がある限り、バビーナファミリーとやらは逆らえん。

……おっしゃる通りです。

安心せい。カバンが開いたら、お前の人形の呪いは解く。そのためにも鍵を手に入れねばならん。

〈奴隷の鍵〉……。あれが手に入れば、わしの……コルテロの悲願まであと一歩よ。

マディーロ様の大願が叶うこと、私も心待ちにしております。

ふむう……のう、キルラ。ふたりきりの時くらい、昔のように「お祖父様」と呼んでくれんかの。

一度コルテロの家を捨てた私に、そのような資格など……。

だが、戻ってきてくれた。昔のささいなすれ違いなど、この年寄りはもう忘れたよ。

ありがとうございます。マディーロ様のお心に応えられますよう、精進いたします。

それでも祖父とは呼んでくれぬか。ま、焦るまいて。――ふむ、地下のほうも順調そうだの。

はい、明日に向けて客人も集まっております。

あのふたりの教育はどうなったかの?

それは実際にその目でお確かめいただければ。――おい。

<キルラに呼ばれ、控えていたふたりの少女が室内に入ってくる。>

チェチェ・ウルラーレ。マディーロ様にお仕えさせていただきます。

マチア・ジェローシェ。同じく、なんでもお命じください。

ふむ、見た目は万全だが……どれ、そちらの桃色のほう、こちらへ来なさい。

<呼ばれたチェチェが一礼をしてそばへ行くと、マディーロはしわだらけの人差し指で、彼女の肌を撫でた。

触れるのは指一本だが、その指先は品定めをするように粘っこく、長い時間をかけてチェチェの上を行き来した。

その間、マチアはしとやかに目を伏せ、微動だにせず待機していた。

ホッホッホッ。よう躾けられておる。

これなら下に連れて行っても問題はあるまい。どれ、上はシャシャの阿呆に任せて、わしらもそろそろ降りるとしょうかの。

ハッ、マディーロ様のお心のままに。

ファミリーだの裏社会だの、所詮は児戯よ。真にビスティアを動かすのは、我ら選ばれし民。ホッホッホッホッホツ!

<老人のしわがれた笑い声が室内に響きわたり、3人の少女はただ押し黙って、その足元にひざまずき続けた……。>




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