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【黒ウィズ】アシュタル&ルミア編(クリスマス2016)Story

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アシュタル&ルミア編



目次


Story1 剣を捨てる理由

Story2 剣をとる理由

Story3 大切なものは



登場人物


アシュタル
ルミア

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story1 剣を捨てる理由


剣っていうのはな。そのー、なんだ。こう、振りかぶってだな……ええっと……なんつーんだ?振り下ろすって感じか?

それでな、んー……こういう感じで、あのー、剣とかきたら弾くんだな。たぶん。うん。

さっきからなに言ってるの?

うるせえな!わからねえんだよ!こういうの!

お前は甲斐性もない上に剣も教えられんのか。

あのな……こういうのは普通、上手い奴に教わるもんなんだよ。

もしくは戦ってたら勝手にどうにかなってんだ。俺はそういう風にして剣を学んだ。

アシュタルはバカ。

おいちょっと待てこら。剣を教えてやってんのになんて言い草だ。

 アシュタルは剣を鞘に収め、面倒くさそうに髪の毛をかきあげた。

だいたい剣を習いたいなんて、どんな風の吹き回しだ?ん?

 ルミアの頭を押さえつけながら、何か探るように言う。

私も強くならなくちゃいけない。

ルミアは、戦わなくてもいいんだ。無理して剣を握ることはない。

ううん、私は剣を覚えたい。

 頑なルミアを前に、セリアルは嘆息する。

あの日、イリシオス・ゲーを殺したアシュタルは、己の復讐に終止符を打ち、剣を置いた。

勉強したいならどっかの国で、見習いとして騎士団にでも入りゃいい。

面倒見の悪いやつめ。

お前らの面倒を見るために剣を置いて働いてんだ。ごちゃごちゃ言われる筋合いはない。

 アシュタルは今、壷なんかを作ってみたりしている。これがまた都市では評判がいい。

己の剣は指南には向かないし、騎士団でやっていくには協調性がない。

この歳になってはじめて、アシュタルは自身が“その程度のもの”だと実感していた。


アシュタル、剣を教えて。

……私は知らんぞ。剣なんてからっきしだ。

まいったな……。

 戦場で生き残れれば、勝手に強くなる――なんてことはさすがに言えなかった。

ぶっ倒すことだけで言えば、それなりに自信がある。

でもやはり教えるというのは、また違ったスキルが必要になる。

ルミア。お前が剣を学びたいってのは、まあ理解してやる。

でもな。一朝一タでどうにかなるもんじゃないし、覚えたら覚えたで面倒なもんでもあるんだ。

それでも強くなりたい。アシュタルより強くなりたい。

それは無理だろ。俺はあれだぞ。すげえ強い。

なんかバカっぽいな、その台詞……。

 何より、アシュタルは剣を教えることに対し、否定的だった。

それはルミアの母――ミツィオラを殺したことにも起因していたし、いつその剣が覇眼を目覚めさせるとも限らない。

ま、強くなりたいだけなら、ルドヴィカのとこでよろしくやるんだな。

 そう言ってアシュタルは歩を進める。

とりあえず街につかなけりゃ飯もないし、寝泊まりもできない。

全く……本当に甲斐性のないやつだ……。


 ***


さむい。

もう少しの辛抱だ。すぐつくさ。

世間様はすっかり冬の風情だ。どこかの国では鍋を囲むって聞いたことがある。

戦乱の中でも平和なところは平和なのか。

 セリアルが苦笑する。

そんなところがあるのなら、見てみたいものだ、とでも思っているのだろう。

冬も過ぎればすぐ暑くなってくるさ。

……夏はきらい。

 ルミアがぼそりと呟く。

その声をアシュタルは聞こえないフリをして、大きな布ぶくろを持ち直した。

意気地のない男だ。

 セリアルのやっかみも、聞こえなかった風で押し通すことにする。

今向かっている街は、比較的落ち着いているみたいだぜ。

じゃあ、アシュタルに剣を教えてもらえる。

人の顔を窺うな。そして俺は暇じゃない。

……いつ教えてくれるの?

この際だからはっきり言っておくぞ、ルミア。

俺はそういうのは教えられない。あれもひとつの才能だ。俺にはない。

何より剣は――人を殺すものだ。斬ったり刺したり、結構痛えんだぞ。

剣に必要なのは覚悟だ。そして覚悟なんてものは、持たないほうがいいもんだ。

殺すだの殺されるだの、そういう覚悟はな……持っていないほうがずっといい。

 突っぱねるように、アシュタルは言う。

自分のようになってほしくはない、そんな思いも少なからずあったかもしれない。

でも……。

でもじゃない。ガキはガキらしくしてろ。リヴェーダやルドヴィカみたいなアホになっちまうぞ。

もしくはアシュタルみたいな、だな。

もうそれでいい。ルミア、お前に剣はあわん。まだ言い続けるなら没収するぞ。

だめ。でも言う。

くっ……。

教育のたまものだ。諦めろ、アシュタル。

何なんだ、お前らは。


 ***


 世界には大小問わず、争いが溢れている。

奪い奪われを繰り返し、今なお多くの人が死んでいっている。

こういう街が生きているのは、かなり珍しいな。

でかい国の息がかかってるのさ。

でかいとこってのは物資やら戦力やら、ほかのところとは比べ物にならないからな。

ここは疎まれちゃいる街だが、踏み込めば言い訳の間もなく開戦さ。

わざわざ喧嘩ふっかけるほど体力のある国はそうそうないしな。

なるほど。つかの間の安全か。

なんでもいいよ。早く泊まるところ探さなきゃ。

 守られているがゆえの安寧だが、しかしそのおかげで落ち着いて宿を取れる。

腹も減ったな……。

どこからもらってきたかわからない芋はもう嫌だぞ、私は。

煮たら美昧いだろ、芋。

ちゃんとしたもの食べたい。

お前まで……。

人の子は、こういう時期にいいものを食べなければ育ちも悪くなると聞くぞ。

なんだいいもんって。

 生まれてこの方、自分の力を頼りに生きてきた男にとって、他人を鑑みることの難しさたるや……。

それは計りきれない重しとなって、彼にのしかかっていた。

芋だって貴重な食物じゃねえか。俺がお前ぐらいのときは、芋食いながら人斬ったりしてたぞ。

そうなの?

こいつの言うことは信用するな。

アシュタルは頭がおかしい。

そうだな。そのとおりだぞ、ルミア。

お前ら、養われてる自覚持てよ。いいから行くぞ、宿の目処があるんだ。


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story2 剣をとり理由



 剣を扱うのが、人より上手かった。

言葉を覚えるより早くそれを握っていたし、計算を学ぶより早く人を斬り殺した。

親父はどこぞの戦場で野垂れ死に、おふくろもその後を追うように死んだ。

親のありがたみを感じて生きたことはなかった。

アシュタル・ラドにとって、家族というものは、あってなかったようなものだ。

彼は戦場に育てられた。戦うことでしか自分の存在を認識できなかった。

強くなければ喰われてしまう。弱ければ生きる価値すら得られない。

だが戦場には、そこにはおかしな連中もいた。


その眼を、使ってはなりません。

 静かな声で、にじり寄る闇のような存在。

それはアシュタルと剣を交えながら、息も切らさずに言った。

あなたは狂気の徒ではない。正しき道を歩みなさい。

 それは死の匂いをまとっていた。

人を斬り殺して、血が拭えなくなったとき、それはたびたび姿を見せた。

それとは何度か斬りあったが、決着はつかずじまいだった。

生きていたのが不思議なぐらい相手は強かった。


もしかしたらまじで死神だったのかもな、あれ。

 この眼の力をくれてやって以降は、まるで見かけなくなった。

覇眼……か。

 眼には特別な力が宿っていた。

カンナブルの連中はその眼に踊らされ、運命を狂わされてしまった。

アシュタルの眼もまた、そういう力を宿していた。

ふん、くだらねえ……。

 眼の力に頼って戦おうなんて、馬鹿げているにも程がある。

たかが眼ごときに左右されるなんて――

だからあいつは死んだ。

 アシュタルは静かに目を伏せる。

死んだやつのことを、今さら思い出してしまった。

w寝られないの?


なんだよ、起きてくるな。

 アシュタルを見上げるルミアの瞳が静かに揺れる。

寝ないの?

まあ……。

 うまい言い訳のひとつも思い浮かばず、アシュタルはルミアから目を逸らした。

風邪ひいちゃうよ。

すぐ戻るから、お前は部屋に戻ってな。

うん。

 ルミアの背中を見ながら、アシュタルは恩人の姿を思い出していた。

預かり物は、まっとうに育っている。

これがまた可愛くない女だ。

妙に達観した風情で、泣き言を漏らさない。

辛い旅路にもしっかりとした顔で向き合い、自分の頭で考えて行動も出来る。

そんなルミアが、剣を覚えたいと言ってきた。

珍しく――いや、3人で旅をするようになって初めて、何かを望んで、そしてそれを口にした。

……俺はどうすりゃいいんだ。

 残念ながら学はないし、普通の生き方なんて教えられそうにもない。

もう少しまともな奴のところに預けられたのなら――

アシュタルはそう考えてしまう。

はあ……参ったな。

 寒空を見ながら、剣を置いた男は呟く。

ミツィオラ、俺はお前にはなれないみたいだ。


 ***


 この都市では、その平和を象徴するかのように、市が開かれることがあった。

アシュタルもまた、慣れないながらも間借りして店を開いた。

雪の降る、寒い日だというのに。


見よう見まねだが、意外といけるもんだ。

wふうむ、確かにこいつはなかなか……いやしかしアンタ、柄じゃないように見えるが?

そうか?

wだってアンタ、子どもと獣人連れて来たばっかりの流れもんだろう?

普通、壷やらを作るやつはどっかに腰を据えるもんだ。

 アシュタルは首をひねる。

よく見てるもんだな。

w金目のものは、つい、な。特にそうだ。アンタの娘か?あの子が持っていた剣。随分と高そうだったな。

流れもんなのに、いいものを持ってるな、と思ったものだ。

どうだっていいだろ。お前には関係ない。で、どうするんだ?買うか?

w10枚もらおう。

見る目あるぜ。伊達に太っちゃいないな。

wそういやアンタ知ってるかい?このへん、最近物騒になってきているみたいだ。

物騒?

wいやなに。野盗が出るって噂だ。そういう奴らがいるのもおかしくはないんだがな。

そうか。

 街について数日。アシュタルは陶器を売るのに精を出していた。

自分自身、意外に感じていた。

見よう見まねと言ったが、どこかで勉強したわけではない。

皿とか壷ってもんは、案外、売れるな。

 残り物をさっさとしまいこんで、アシュタルはその場を後にした。


ねえ、セリアル。

ん?どうした?お腹が空いたか?

どうしてアシュタルは、私に剣を教えてくれないの?

んー……そうさなぁ。お前には、血なまぐさいものを覚えてほしくないのかもしれないなぁ。

 セリアルは少しばかり悩みながら、ルミアに対してそう答えた。

私は強くならなくちゃいけないの。もうアシュタルに迷惑はかけられないよ。

なにを達観したこと言ってるんだ、お前は。ルミア、お前は子どもなんだ。

子どもっていうのは、大人に頼るものさ。それはアシュタルも理解してる。ああいう性格だからわかりにくいだろうけどな。

アシュタルの伽にはなりたくない。あの人は、ひとりで生きたいのかも。

アシュタルは悲しい目をしてる。きっと私がいたらダメだと思う。

うーん……そうか……。

 そういうことを考えていたのか、とセリアルは再び頭を悩ませる。

この子は感情を表に出さない子だ。

そういった思いを全て内に溜め込んで、どこにも吐き出そうとしない。

(この子は目の前で親を失っている。

……危ういな)

 セリアルには、ルミアが生き急いでいるように見えた。

言葉にはしない。態度にも出さない。

でももし……アシュタルが一緒にいていいって、そう言ってくれたら……。

そう言ってくれたらどうするんだ?

……なんでもない。

アイツは馬鹿かもしれんが、少なくともお前といたくないなんてことは、言わないと思うんだがなあ。

ううん、でも剣を覚えたい。……お母さんより、強くならなくちゃ。


 ***


 日が暮れた街並みは、それでも静かに息づいている。

外では今も、争いが行われているだろう。

アシュタルは、そういうのに飽き飽きしていた。

戦うしか能のない男が、今や少女を養っている。


わからないもんだな……。

 怪物だの化物だと恐れられていた自分が、食い扶持を稼ぐために奔走している。

それは心地よくもあったが、あまりにも虚しい日々にも思えた。

アイツが生きてりゃ、もっと上手くやってただろうか。

考えるだけ無駄なことだよな。

 剣を置くことに躊躇いはなかった。

俺の戦いは終わったのだ、と初めて思えた。

あとは大切な友人から預かった子を、まっとうに育ててやることだけ。

それができれば、野垂れ死ぬのも悪くない。

 そんなことを考えていた。


ミツィオラはいい女だった。

恋だの愛だの、そういった感情ではなく、ただひたすらに憧れた。

気高く、そして強いミツィオラは、アシュタルにとっての光だった。

きっとルミアも、数年もすれば成長して、そういう立派な道を歩み始めることだろう。

それを見届けさえすれば――。


まあ、約束は守るさ。受けた恩は必ず返す。

そんなもんだろ?なあ、ミツィオラ。


 ***


おかえり、アシュタル。

ああ。悪いな、遅くなった。……ていうか、お前。剣を持ち歩くなよ。

お母さんのだから。盗まれたら大変。

いやまあ、そうだけどよ。

アシュタルと違ってもらったものは、大事にするほう。

俺だってもらったものは大事にしてるほうだ。

本当に?

ああ。

ふーん。

 ルミアは唇を尖らせて、アシュタルを見上げた。

彼女はすっかり笑わなくなった。

元々、愛想のいいほうではなかったが、日に日に仏頂面が張りついてしまって、剥がれなくなってきているようにも思えた。

なんだ?何か用か?

アシュタル、暇なの?

いや、暇じゃないな。これから酒を飲もうと思ってた。

アシュタル、お酒飲めない。

…………。

あのね、アシュタル。

私、やっぱり強くなりたい。

……そうか。

 ここは戦いとは無縁の街だ。恐らくこれからもそう簡単には揺るがないだろう。

この街に腰を据えて、ふたりを養うのも悪くないと思っていた。

しかし――ルミアは、それでもなお強くなりたいのだという。

何のためだ?

えっ?

何のために剣をとるんだ?

それは……。

そういう理由がないのに、ただ剣をとるだけならやめておけ。

俺が教える間もなく、ルミア、お前は剣を抜くこともできずに死んじまう。

……死にたくないから強くなりたい。

そんなのは誰だってそうだ。死にたいなら勝手に死ねって話だろ。

私は――!

なんだ?

 アシュタルは、ルミアが声を荒げるのを久しぶりに見た。

感情的になった彼女が、もうー歩踏み込み、アシュタルは知らず壁を背に追いやられていた。

私は……。

言わなきゃわからないこともあるだろ。なんだ?

わ、私、アシュタルと……あの……。

…………。

……もういい。

 ルミアはアシュタルに背を向けた。

おい……!

 もういいってことはないだろ――その言葉を続けようとしたが、既にルミアは遠く離れてしまっていた。

……何なんだよ、アイツ。



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story



 誰よりも強い人の、誰よりも強い戦い方をこの目で見てきた。

ルミアにとっての剣とは、アシュタルのことだった。


物心がついた頃、彼はとてつもなく怖い人間だった。

何かに苛立ち、何かを恨むような眼差しが、今も記憶の底に残っている。

…………。

 血にまみれて帰ってきたアシュタルは、すごく怖かった。

たくさんの人を斬ってきたのだと知ったのは、もっと後のことだった。

ルミアの母は言った。

“まるで獣だ”

“そんなことを続けていたら、人の道に戻れなくなる”

“あなたがあなたであるために、もう人を斬るのはやめなさい”

アシュタルは、それでもなお、多くの戦場に向かっていった。

怖かった。

 狭い世界で生きていたルミアにとって、恐怖の対象は何より彼だった。


 初めて彼と言葉をかわしたのは、ルミアがもう少し大きくなってからだった。

カンナブルの当主会談にいった母を探しに外へ出たときのことだった。


どうしたんだ?

 彼の目は、どこか物憂げで何かに疲れているかのように見えた。

そんな彼の、優しげな声音が、ルミアは忘れられなかった。

ただのー言。たったそれだけ。でもたかがそんな言葉ひとつで、彼から目を逸らせなくなってしまった。

瞳と、鼻と、口と、すらりとした輪郭が、その言葉で浮き彫りになって、初めてアシュタルという人を知った気がした。

……何でもない。

何でもないってことはないだろ。ミツィオラか?はは、そうだろ。わかりやすいな。顔に出てるぞ、お前。

何でもないの!

 そう言って突っぱねてしまったからか、ガラの悪い彼に絡まれてしまった。

でも……嫌じゃなかった。


「こんな男に引っかかっちゃダメよ、ルミア。」


(お母さんは、そう言ってた)

あの暑い日のこと――母は、笑いながら言った。

でもダメみたいだ。

ぶっきらぼうで軽薄そうでやる気もなさそう。なのに偉そうで私を見ようとしない。

時折寂しそうな顔をしてるのに、そこから先に踏み込ませてくれない。

そんなアシュタルが大きらいだ。

戦うことをやめ、働くなんて言わせたことも――。

大事な剣を捨ててしまうのに、悩むことなく決断させてしまったことも――。


そして、そうさせてしまった自分の弱さも全部。私は……大きらいだ。

強くならなくちゃ……私は、アシュタルを守るんだ。

 決意を新たにしたその瞬間だった。

大きな警鐘が鳴り響いた。

……なに?

 守られている街に、何かが忍び寄った。

そんな音だった。


 ***


 怒号が飛び交う。

人々は逃げ回る。まるで波のようだった。

絶叫が響く。

斬られたか貫かれたか撃たれたかは知らない。

ただ悲痛な声が届いてきた。

ルミアは――抵抗していた。

悪い奴だと、ひと目見てわかったからだ。


ダメ……絶対に渡せない。

お金なら持ってる。それを持って早く消えて。

wそれはできないんだ。悪いなお嬢さん。

 彼の周りには、10人程度。それぞれ武器を手にした男たちがいた。

w私がほしいのは金じゃあない。陶芸家の兄さんに聞かなかったか?

その美しい剣を見せてくれまいか。

ダメ。

 ルミアは肥え太った商人を睨みつける。

これだけは、あげられない。

w……殺すのは忍びないが。

それでもダメ。剣は、絶対に渡せない。

w…………。


――ああ、こんなところにいやがったぞ。おい、セリアルこっち来い。

お前、人使いが荒いんじゃないか。――ってなんだこいつらは。

アシュタル、セリアル……。

 アシュタルとセリアルが武装した男たちをかき分け、ルミアの元へとやってくる。


お前、マジでふざけんなよ。勝手に出歩くなっていつも言ってるだろ。

いや待てアシュタル。なんかいるぞ。これ。

ガキが勝手なことしやがって。お前のせいで朝飯とれてねえんだ。戻るぞ。

w面倒な手合が増えたな。獣人までいるじゃないか。

アシュタル……あの……。

心配かけさせやがって。お前が危険な目に遭ったら――。

 発砲音。

その音にアシュタルの言葉が遮られる。

……あ、アシュタル!

ちっ、そう急くなよ……。

 腹部を撃たれ、よろめきそうになる。

背後からの攻撃は予期していたが、苛立ち焦った奴が撃ち込んできたようだった。

w勝手なことはするなッ!

このやろう、ルミアに当たったらどうしてくれてたんだ。

セ、セリアル……傷を……。

あ、ああ……。

 撃たれたところが悪かったか、血が溢れ出てきて止まらない。

アシュタル、あの……私……。

いつまでも心配かけさせて。すぐ俺を呼べよ、お前。

おい動くなアシュタル。傷口がいつまでたっても塞がらないだろ!

皿売ってやったってのに、余計なことしやがって……。

wちッ……。

 アシュタルはほんのー瞬、彼らに目を向けた。

剣を抜けば、軽く斬り殺すことはできる。

だが――それは今、持ち合わせていなかった。

再びの発砲音。

くッ……。

無駄撃ちするなよ。なんだよ、お前ら……。

 しびれを切らしたように、数発の銃弾が撃ち込まれ、さすがのアシュタルも膝を折る。

わざわざ店を出すために剣を置いて出たせいで、銃弾を弾くこともかなわなかった。

アシュタル――!!

 剣を投げ捨て、ルミアがアシュタルに走り寄る。

ああ、痛え。死ぬほど痛え。

ごめん、アシュタル。私のせいで……。

謝んなよ……この程度じゃないか……。

いや……だから動くなって、アシュタル。お前は死にたがりか……。

wふうむ……見れば見るほどいい剣だ。

 商人の男がルミアの剣を拾い上げ、舐め回すように見つめていた。

ミツィオラの形見だ。

……アシュタル。

 消え入りそうな声で、ルミアが呟く。

弾が埋まってるな……取り除くのも面倒くさそうだ。

ちっ……。

私が弱いから……。

強くならなきゃいけないのに……。


……守らなくちゃ、いけないのに。


 ***


――ッ、邪魔だッ!!

 アシュタルが声を荒げて、大きく踏み込み武装した男を蹴り飛ばした。

どけッ!!

 そしてもう1人、2人と殴り倒した。

もとより相手にならない連中だ。

何もしてこなければそのまま帰すつもりだったが今はそうも言っていられなくなった。

ルミアの眼に――紫の光が宿っているのを、見てしまったから。


おいルミアッ!

 腹部から血を流しながら、アシュタルはルミアの肩を揺らす。

ちィッ――!!

 アシュタルは眉根を寄せる。

覇眼――その力がこんなにも早く目覚めるとは、さしもの彼も焦りを隠しきれない。

――眠らせるか?

いや、駄目だ。

 アシュタルはかぶりを振る。

若くして眼の力に目覚める奴はいた。

だが――その力に飲まれ、廃人同然になった者も多くいる。

悲痛な叫びとともに、その覇眼を呼び起こすなんて――。

ルミア!そんなもの、今のお前には必要ない!戻ってこいルミアッ!!

……アシュタル……私……。

 か細く弱々しい声が聞こえた。

そうだ。俺だ。いいか、俺から目を逸らすな。俺を、しっかり見ておけ。

 力に飲まれてしまえば、どうなるか。アシュタルは痛いほどわかっていた。

だから意識させた。目の前の人間を。そしてこの世界を。

使うな。そんなものに負けるな。お前は強くなるんだろ!?

たかだが覇眼に負けるんじゃねえぞ!

ああ……。

アシュタルの声……聴こえる……。

痛むか、ルミア?

……痛くない。全然、痛くない。

よし、いいぞ……そうだ。俺を見ろ、ルミア。

アシュタル……みえる……。

あまり眼を見続けるなよ、アシュタル。お前が取り込まれたら、私はお前たちを殺さなくちゃいけなくなる。

させるか――絶対にさせるか。

 ルミアを抱き上げたアシュタルが、下唇を強く噛む。

あんなクソみたいな思いは、1度きりで十分だ。

大切なものを失うなんて経験は、もう懲りごりだ。

アシュタル。私、迷惑かけてばっかり……。

いいじゃねえか。それぐらいのほうが可愛げがある。

……アシュタルとセリアルのこと、守ってあげたいと思ってた。

強くならなくちゃ……捨てられると思った。

お母さんみたく、強くならなくちゃ……。

足手まといはもう嫌……私、何もできないのはもう……。

 ルミアから吐露される本音が、少しずつ紫の光を取り込んでいく。

眼の奥へと消えていく光を見て、アシュタルは安堵の息を漏らした。

親子揃って馬鹿だよ、本当に。お前までなくしたらどうすりゃいいんだ、俺は。

……アシュタル?

お前は――お前は俺の光だ。

強くなりたいなら道は俺が探してやる。ひとりで生きたいのなら背を押してやる。だけど今は――。

俺にお前を守らせてくれ。俺の、光でいてくれ、ルミア。

――うん。


 ***


 雪の降る、寒い夜だった。


お前、腹に穴あいてたんだぞ。少しは休んでおいたほうがいい。

横になってるってのは、性に合わないんだ。

ルミアはどうだ?

寝てたな。

それにしてもお前、覇眼の力をよく押さえられたな。

……ああ。

 あんなものは、偶然そうなっただけだ。

眼を――どうにかしなければいけないと私は考えていたよ。

お前なら痛みもなく眼のひとつやふたつ、引っこ抜けただろうがな。

お前のことを馬鹿だと言ったが、私も疎いんだ。そういうことには。

 セリアルは自嘲気味に笑って、アシュタルを小突いた。

何だよ?

お前の告白。しかと聞き届けたぞ。

あ?

お前は小さい子が好きなのか?

……首を斬り落とされたいのか、お前は。

ふふ。いや、なかなかに情熱的だった。

アイツは、俺の心を抑制してくれる。

殺したいとか、斬ってやりたいとか、そう思う俺の心を理性の鎖で繋いでくれる。

役に立たないとか、足手まといとか、そんなことはただの1度も感じたことはない。

俺が人でいられるのは、あの柔らかな光があるからなんだ。

あの強さは、俺にはないよ。だから俺は剣を置くことに躊躇いがなかった。

ふん、そう思っているならはっきりと言ってやれ。

あの子はまだ子どもだ。言葉がなければ不安にもなる。

わかっているんだろう?

機会があればな。

 布ぶくろを抱え上げて、アシュタルは街に消える。

今日も今日とて、食い扶持を稼がなければならない。

そんなアシュタルを見ながら、セリアルは問いかける。


ちゃんと聞いていたか?ルミア。

……うん。

でも、嘘をつくのはいけないと思う。

嘘はついてないさ。寝てた、と言ったんだ。

 ルミアが外に出て、遠く離れたアシュタルを見つめる。

アシュタル、行っちゃったね。

すぐ戻るさ。

うん。

 ルミアは静かに息を吐いて、雪降る街に溶けていったアシュタルに向かって、小さく呟いた。

ありがとう――。


 

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