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【黒ウィズ】黄昏メアレス4 Story4

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最終更新者:にゃん



目次


Story16 偽りの夜を破るすべ

Story17 鋼輪疾走

Story18 黄昏を駆ける

Story19 願いと覚悟

Story20 漸進dearless

Story21 戦意を秘めて




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story



 コルティーナとの戦いを終えた君たちは、一度〈巡る幸い〉亭に戻った。

アーレスの居場所を突き止めることができたわ。〈ロードメア〉と〈魔輪匠〉のおかげでね。

おおーそれは良かったえええええええええ!?ちょ、なんでこいつがここに――あいたたた……。

〈ミスティックメア〉――生きていたのか。

 事情を知らないふたりに微笑んでみせてから、〈ミスティックメア〉は話を続ける。

いくら〈園人〉とはいえ、3人だけでは、これだけの秘術を維持することはできないわ。なんらか

の増幅物(ブースター)が必要となる。

あなたが、都市に魔法陣を敷いたみたいに、ですか?

そう。ただ、今回そういうものはない。代わりに別の仕組みで、常夜の結界を作っている。終わらない夜をなす円環をね。

回りくどい野郎だ。わかってんならさっさと言え。

列車だ。

 〈ロードメア〉が端的に答えた。ゼラードと同感だったのかもしれない。

奴らは即席の魔匠を施した列車を走らせ、それによって疑似的な魔法陣を形成し、結界を維持している。

円環構造による魔力の凝縮。ウィールと似た原理だ。

あ、あれノリで回してるんじゃなかったんすね。

ねー。あれ回すの、テンション上げるためかと思ってた。

そんな酔狂な話があるか。

列車で結界を維持しているのなら、列車を壊せば解けるということね。

〈園人〉を倒しても意昧なかったんですね。

道理でシードゥスの野郎が、ガンガン前に出てきたわけだぜ。

コルティーナが子供たちをさらったのも、こちらを返り討ちにするためであると同時に、囮となるつもりもあったんだろうな。

こちらの戦力を削りつつ、〝本命〟に目を向けるのを遅らせる。そういう策か。

 実際、こちらの戦力は大きく消耗している。コピシュ、ミリィ、セラード、ラギトは、とても本調子とは言えない。

時間を稼げば、それだけ人々から奪える〝願う力〟の量も多くなるにゃ。早く列車を壊して止めなくちゃいけないにゃ。

と、お猫様はおっしゃるけどね。走ってる列車を壊すって、簡単なことじゃないわよ。

刻まれた魔匠さえ破壊できればいい。

 言って、レッジは懐から弾丸を取り出した。

〈墜ち星〉。これを使え。

え、あたし?

魔力の破壊に特化した、対〈ロストメア〉魔匠弾だ。想定外の用途だが、即席の魔匠を剥ぐのにも使えるはずだ。

あ、これあれね。前に頼んでたヤツ。

そういえば、そんな話をしていたわね。ハロウィンの時に。

俺の弓でも同じことができる。俺と〈墜ち星〉で魔匠を破壊し、結界を破る。

できれば、黄昏までにね。

あ?なんで黄昏だ?そりゃ早い方がいいのは確かだろうが――

〈夢の繭〉を成長させるのは、敵の目的の第一段階でしかないわ。

彼らの最終目標は、〝世界を平和にする夢〟を植えつける魔法を使うこと。

今回、危険を冒してまで〝願う力〟を集めたのは、その計画を早めるためだったはずよ。

もし、すでに十分な力が集まっていたら、〝夢を植えつける魔法〟の儀式を始めているかもしれない。

それを止めるには、〈絡園〉に乗り込み、ディルクルムを倒すしかない。

でも、またあの森から〈絡園〉に行ってたら、間に合わないんじゃないですか?

あちらの儀式も時間を要する――とはいえ、2週間もかけていたら、当然、終わってしまっているでしょうね。

だから、ここから〈絡園〉に行く必要がある。

黄昏時に――あの門を通ることで。



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 揺れる車上に、君はいた。

アフリト翁を通じて駅に要請し、発車してもらった列車の屋根の上である。

蒸気機関で動く巨大な鉄の塊は、黒々とした雲を吐き出しながら、凄まじい勢いで線路を驀進する。

前方に、別の列車の後部が見える。離れていてすら、強い魔力の波動を感じた。

〈ディテクトウィール〉。

 レッジが車輪を回転させる。

魔力の流れが、先頭車両の真上に集まっている。狙うならそこだが――削りにくい位置だな。

乗り移って、先頭を目指すしかないわね。

ある程度近づいた段階で、俺が〈魔輪匠〉と〈墜ち星〉を導く。

当然、敵も迎え撃ってくる。最後の〈園人〉――アーレスが。

それは私たちで止めるしかないわね。

 〝夜の領域〟の外――本来の空。黄昏が、深まりつつある。


〈園人〉たちは、門の存在を警戒していた。あれは、〈オルタメア〉のせいで異界にすら通じるようになってしまったから。

うまくすれば、あの門から〈絡園〉に跳ぶこともできる。

だから執拗に門を破壊しようとしていたのか。

〝夜の領域〟を作ったのは、〝願う力〟を奪うためだけじゃなく、門を聞かせないためでもあったんですね。

黄昏が終わる前に魔匠を破壊し、門から〈絡園〉に跳んで、ディルクルムを倒す。それが、この戦いの最善よ。


 君たちの乗る列車が加速する。

君は、いつでも魔匠列車に乗り移れるよう、身を低く構えた。



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リピュア特製、はつらつスープ、お待ちどーう!

 〈巡る幸い〉亭のテーブルの上に、どん、と大きな鍋が置かれる。

列車の戦いに同行しなかった面々は、そろってうろんげな顔を見合わせた。

……おい。だいじょうぶなんだろうな、これ。しゃべりだしたりしねえだろうな。

あれは……さすがに食べられなかったですからねえ……。

ああ……いろいろと、ためらわれたな……。

いやー……魔法使いさん、よくあれ食べられましたよね~。

 かつてリピュアが作ったシチューは、結局、黒猫の魔法使いが完食したのだった。

だいじょぶじょぶじょぶ、今回はしゃべんないから。

元気の出るもの、いっぱい入ってるよ。たくさん食べて良くなってね☆

手!なんか手工出てんぞ!手が!!

しゃべんないから。

しゃべらなきゃいいってものでも!!

元気だねえ、おまえさんたち。戦いについていっても良かったんじゃないかね?

無茶言うな。気力も体力も空つ穴だ。列車の上で跳んだり跳ねたりしてられるか。

下手に落ちたら命がないですもんね。

…………。

ラギトさん?どうかしました?

〈ロストメア〉の力を使えば飛べる。やはり俺も合流して――

「「「「どうどうどうどう。」」」」

 椅子から立ち上がりかけたラギトを、アフリト以外の面々が無理やり押しとどめた。

だめっす。ラギトさんはだめっす。ドクターストップっす。

そうですよ。今は回復に専念してください。

〈園人〉はあとひとりなんだろ?あいつらに任せときゃいいって。

……そうだな。

でも、あのアーレスって人、けっこー強かったよね。リフィルたち、だいじょうぶかなぁ。

加えて、〈オプスクルム〉の能力が不明だ。向こうも策を練っておるだろうし、楽な戦いにはなるまいよ。

黄昏までに決着をつけられればいいんですけど――

やはり今からでも横槍を叩き込みに――

「「「「どうどうどうどう!」」」」



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 現れる〈悪夢のかけら〉を倒しながら、君たちは車上を疾走する。

先頭車両に近づいてきたあたりで、前方から雷撃が飛んできた。

おでましね。

〈ミスティックメア〉が笑い、指先を動かした。あらかじめ準備していたらしい魔法陣が、障壁となって展開し、雷撃を食い止める。

現れたアーレスは、魔法を使う〈ロストメア〉の存在に驚くでもなく、押し殺したような声を発した。

Lあともう少しで、我らの大望が成る。

 身体を、異形の装甲が覆っていく。

その形状に、君は既視感を覚えた。

どこかで見たことがある。あれは――あの〈夢〉は――

あれ――あの子の!?

貴様――〈レベルメア〉を〈オプスクルム〉にしたのか!

 〈ロードメア〉を助けるため、君たちを誘導し、アーレスに討たれて散った〈レベルメア〉。

その魔力――彼女の亡骸とも言うべき力を、これ見よがしに身にまとっている。

挑発のつもりか、と君は思ったが――

L彼女と戦い、俺は知った。

 獣の唸るようなアーレスの声に、それらしい色はまったくなかった。

あるのはただ、鬼気迫るほどの覇気。どこか手負いの獣にも似て、かつてはなかった荒々しさに満ち満ちている。

〈ロストメア〉の願いの強さは、我ら〈園人〉の願いと比して、決して劣るものではないのだと。

そうと知ってなぜ利用する!

Lだからこそだ。願いの強さが同じなら、覚悟で勝る方が勝つ……!

 強烈な魔力の風が、こちらに向かって押し寄せた。

狂おしいほどの渇望、闘志、そして殺意に、異形の瞳が爛々と輝く。

別人のようだ、と君は思った。何か――何かが違う。目には見えない、だが決定的な何かが。

L〈園人〉の大望を成すために――世界を平和にするために!俺は、いかなる手段も選びはしない!

大義だ理想だとうるさい分、〈ロストメア〉よりタチが悪い。

 前に出たレッジが、魔弓を構える。その手はすでに車輪に添えられていた。

時間がないんだ。一気に走り抜けるぞ!


 ***


修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!

Lはあっ!

 〈抗う力〉が発動し、すべての雷を跳ね返した。こちらに牙をむく雷は、君が防御障壁で阻み止める。

今だ!行けっ!

 〈ロードメア〉が腕を振るい、〈導く力〉を解き放った。

レッジとルリアゲハの身体が、アーレスの向こう側へと転移する。

ふたりは、そのまま振り返らず先頭車両を目指すが――

その足はすぐに止まった。

駆け抜けるふたりの前にもまた、アーレスの姿があった。

何っ!?

ちょ、これどういう――まさか双子なんて言わないでしょうね!

なるほど。魂を、ふたつに割っていたのね。

 感心したように、〈ミスティックメア〉が言った。

〈園人〉だからこそできる芸当だわ。もっとも――

どんな気分なのかしらね。自分をふたつに裂くというのは。

 生身の身体を持つ君には、想像しようもないことだった。

何かを願うのも、何かを望むのも、結局は自分だ。願いとは本来、どんな形であれ、自分に還元されるべきもののはずだ。

その願いがあまりにも肥大化したことで、アーレスの中で価値の逆転が起こったのだろうか。

〝自分〟など、〝願い〟を叶えるために使い潰す道具にすぎないのだと。

L俺は――俺は平和な世界を作る!

 もうひとりのアーレスが叫んだ。手負いの獣が破れかぶれに吼えるように。

L誰もが優しくしてくれる――誰も悲しみながら死ななくていい――そんな世界を!俺が作る!!

Lおまえたちが何を思おうが、関係はない――

L俺は俺の意志を徹す!なんとしてでも!!邪魔させるものかぁっ!!

 ぞっとした。

静かなるアーレスと、猛り狂うアーレス。それはきっとどちらも彼の一面だったのだ。

魂を強引に割り裂いた代償。自らを半分ずつ失うという痛み。

彼はすでに、彼であろうとすらしていないのか。

……あたしは、ゴメンよ。

 ルリアゲハが言った。細い指先で、わずかに帽子のつばを下げながら。

よかれと思ってしたことで、相手が傷つくこともある。

あたしは、あの子の夢を奪い……あの子の優しさは、あの子の命を消そうとしてる。

世界中の誰もが優しくなったら、どうなるかしら。みんながあの子みたいになったら――

 細い面がスッと上がり、黄昏を受けた瞳がきらめく。

地上に墜ちてなお、輝きを失わぬ星が、そこにあった。

誰かのために死に合うような、そんな優しさ――あたしは絶対ゴメンだわ!!

Lくそったれが!!!

 アーレスが叫んだ。すでに悲鳴のようだった。

Lわからないのはおまえらが幸せだからだ!優しくされて生きてきたからだ!

これまた、勝手な言い草ね。不幸自慢に付き合う趣味はないけど、世間の厳しさぐらいは知ってるつもりよ。

 艶やかな手つきで銃口を向け、ルリアゲハは笑った。

優しさの怖さも知らない、世間知らずのお坊ちゃん。

お灸代わりに、これでもどうぞ!



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L刻め雷陣、果てどなく!

 宙に浮かんだいくつもの魔法陣から、鎖状の雷条が伸び、レッジとルリアゲハを狙う。

あいにく見慣れた術なのよ!

〈クラッシュウィール〉!

 迫りくる雷条を、ルリアゲハは踊るようにかわしざま発砲し、レッジは魔弓で撃ち払ってアーレスに突撃する。

L喰らうかぁあああっ!

 銃弾と魔弓を、〈抗う力〉が食い止めた。

レッジはそのまま魔弓を押し込もうとするが、〈クラッシュウィール〉の力でも押し切れない。

さらにアーレスはすばやく魔法を練り上げた。

L古雅(こが)なる雷火(らいか)、躍り咲け!

 扇状の雷撃が車上に咲く。レッジたちは倒れ込むようにして雷火から逃れた。

〝あの子、の能力、やっぱ反則だわ!

狭い足場で防御に徹するには最適だな!

切り札とかないの?困ったときの秘策!

ない!今の俺たちの地力がすべてだ!

頼もしいお言葉だこと!

Lうぉぉおおおおおおおおおおおっ!

 アーレスを中心に、魔力が激しく渦を巻く。獣が苦しげにのたうち回るように。

Lなぜわからない!なぜ受け入れない!個人の夢を――さもしい欲望の塊を捨てなければ、人は永遠に他者を思いやる存在にはなれない!

誰もが誰もを愛する世界!そこに至って初めて、人の持つ夢は純粋なものになるんだ!!

俺の友達は、みんな、みんな倒れるまで工場で働かされて死んだ!工場長に優しさがあれば、あいつらが死ぬことはなかった!

奴は金が欲しかったんだ――安い賃金、辛い仕事、それでもいいから仕事を欲しがる、そんな子供を次から次へと使い潰して、笑ってたんだ!!

金が人を殺す!欲望が人を殺す!俺は肉体を捨てて初めてわかったんだ――そんなものがなければ人は清らかでいられる!

今ある夢など肉体に依存した欲望にすぎない!だから人は、そんなもの捨て去って、本当にきれいな夢だけを見るべきなんだ!

そうすれば、みんな死なない――誰も――誰かの夢のために殺されたりはしない!!

 血を吐くような絶叫は、ほとんど泣きじゃくるような慟哭に変わっていた。

(こいつは、子供のまま死んだのか)

 今の時代には、よくあることだ。

蒸気機関を始めとする機械技術の発達は、手工業を主とする人々の職を奪い、都会を富裕層と貧民層に二分した。

貧者や、その子供たちは、日々を食つなぐため安い賃金で工場に雇われ、劣悪な環境下で延々と働かされ、薬も買えず病で死んでいく。

アーレスも、そんな子供のひとりだったのだろう。幼いまま死に、〈絡園〉に至った。彼の知る「世界」は、そこで止まっているのだ。

(道理で、言うことが幼いわけだ)

 それは、かつての自分を評する言葉でもあった。

だが、今は。

〈墜ち星(ガンダウナー)〉。もう一度仕掛けるぞ。

あら。何かいい手が閃いた?

いや。

ああいう奴には、正面突破だ。


 ***


L目覚めよ神雷!空の静寂打ち砕き、あえかな夢を千切り裂け!

 列車の横幅にも等しい極太の雷撃が、君たちを呑み込み、消し炭にしようと迫る。

君が障壁を張ろうとするよりも早く、〈ロードメア〉が前に出た。

アーレスを見据えて、ゆっくりと歩き出す。

その眼前で、迫りくる雷撃がふたつに裂けた。

Lなんだと……!?

 真ん中から引き裂かれた雷撃は、〈ロードメア〉の左右を通り過ぎ、そのまま天へと昇っていく。

〈ロードメア〉は進む。稲妻の狭間に築かれた道を、悠然と。

あんなことができるにゃ!?

〈窮天神雷槍(フルグラーティイ・アストリー)〉は、〈下天暴雷槍(フルゴル・クルエントゥス)〉の発展系。千々の雷条をひとつに束ねて放つ魔法よ。

雷条ひとつひとつに干渉し、導けば、バラバラにすることだってできる。そんなことができるのは、彼だけだろうけど。

でしょうね。そんな破り方が横行したら、こっちは商売あがったりよ。

L来させるか……!

 アーレスは〈抗う力〉を解き放つ。攻撃だろうとなんだろうと、〝来る、ものすべてを拒絶し、撃ち払い、跳ね返す力を。

魔力の颶風(ぐふう)を叩きつけられ、〈ロードメア〉はカッと双眸を見開いた。

無駄と知れ!

 進む。なおも。〈抗う力〉の中を止まることなく。

L馬鹿な――!

おまえは、〈レベルメア〉ではない。

 導いている(・・・・・)のだと、君は気づいた。どれだけ拒絶され、跳ねのけられようとも。延々と、自分自身を導き続けている。

ゆくべき道の、その果てへ。

〈ロストメア〉は、〝自我を持つ魔法〟。〈ロストメア〉の能力の強さは、その〝願い、の強さに比例する。

〝反抗の夢、たる〈レベルメア〉ならいざ知らず、その力を借りたおまえでは、俺の〈導き〉には抗えない!

Lく――

舐めてくれるなよ――〈園人〉!

 拳が届く。

強烈な一打が、アーレスを打ち抜いた。

Lが――

おおっ!

 さらに〈ロードメア〉はアーレスを持ち上げ、背後に降り落とした。

列車の屋根に叩きつけられたアーレスヘ、待ってましたとばかりに魔法が躍る。

八十葉をなして、天霧らせ――地より逆撃つ雷霆樹!

 樹状の雷撃が同時にふたつ、屋根の上からほとばしり、アーレスを焦がし抜く。

L…………!

 声もなく、震えたところへ。

最後に君が、渾身の魔法を叩き込んだ。

〈ブラストウィール〉!!

 無数の光の矢がアーレスヘと殺到する。

アーレスは当然のごとく〈抗う力〉でこれを止め、まとめて跳ね返した。

散り咲け!

 レッジは続けざまに魔輪を跳ね返る光の矢に新たな命令(コマンド)を送った。

光の矢が一斉に砕け散り、万華鏡のようにきらめき踊る。

Lそんな小技で――

 吼えるアーレスの頭上に、影が差した。

ごめんあそばせ。

 ルリアゲハ。蝶のように舞うその足が、アーレスの頭上の虚空(・・)を踏んでいる。

〈ブラストウィール〉の目くらましに乗じて、〈ゲイルウィール〉の力でアーレスの真上まで跳んでいたのだ。

Lな――

 〈抗う力〉。それはアーレスを中心として、一定範囲内に接近したものすべてを食い止め、跳ね返す力である。

なら、上から落ちれば、上に跳ね返される。まったくもって単純な理屈だった。

ルリアゲハは、〈抗う力〉に跳ね返されつつ、前方へ跳躍。空中で銃を構える。

普段は使わない予備の銃だ。今は魔匠弾だけを詰め込んである。

右手を引き金に、左手を撃鉄にかけて、落ちながら狙いを定める――先頭車両の上に浮かぶ魔法陣へ。

はッ!

 放つ。

引き金を引いたまま、連続で撃鉄を叩く。込められた6発の弾丸が間断なく吐き出され、ほぼ一瞬のうちに目標へ着弾した。

突き刺さる弾丸が魔力の流れを破断――魔法陣が痛みに悶えるように明滅する。

ファニング6連、〈星墜とし〉――ってね。

 優雅に着地し、振り向きながら、ルリアゲハは婿然と微笑んだ。

Lやめろぉぉおおおっ!

 アーレスは必死の形相でそちらを向き、すべての魔力を雷撃に換えようと印を結ぶ。

その背に、硬いものが押し当てられた。

借りは、返させてもらう。

 レッジ。すでに、車輪に手を添えている。

〈抗い〉ようもない、完全なる不意打ち。戦闘経験に乏しく、かつ激情に駆られて視野の狭まったアーレスに隙ができると見越しての。

Lくッ――

〈ブラストクラッシュウィール〉!!

 〈抗う力〉が放たれるより早く、ふたつの車輪が同時に回転し、魔弓が猛々しく咆陣した。

破壊の力を帯びた矢の雨が、アーレスの身体を喰い荒らす。

Lがあぁああああああああっ!

お、俺は――俺は、世界のっ!シ、死んだ、ァい、あいつらのためにイッ!!

俺も同じだ。俺が戦うのは、死んだ者のためでもある。

だからこそ――たとえどれほど正しかろうと、命や心を勝手に捻じ曲げるようなやり方だけは、断じて許さん!!

 〈ロストメア〉が門を通り、願いを叶えることも。〈園人〉が人に夢を植えつけ、平和をなすことも。

レッジにとって、それは――自分を門の管理者にするためユイアを殺した父のやり方と、なんら変わるものではない。

死に直せ!

Lアアアァァアアアアアァァアアアアーーーー!!

 ウィールに込められた魔力のすぺてが、アーレスを呑み込み、喰い尽くしていく。

長い断末魔の余韻を遺し――死してなお死にきれなかった魂は、ついに微塵と砕け散った。


力を出し切り、回転の止まった車輪を回収しながら、レッジは虚空に告げる。

〈メアレス〉を、侮ったな。

アーレス本人にそんなつもりはなかっただろう。〈メアレス〉も〈ロストメア〉も侮ることなく、打てる手をすべて打った。そんな印象だった。

だが、悲しいかな、彼は経験が乏しすぎた。戦いの経験も、人生の経験も。

願いや覚悟さえ強ければ勝てると思いこんだ時点で、自分が世界を侮つていることに、気づいていなかったのだ。

うまいこと行ったじゃない、〈魔輪匠〉。

 さらなる弾丸を撃ち込んで、魔法陣を完全に破壊し、ルリアゲハが笑う。

うまくいったのは、レッジが咄嵯に思いついた戦術に即応できる、ルリアゲハの柔軟な判断力あってのことだ。

頭でわかっていても、身体がついてくるかは別だ。〈ロストメア〉との戦いに慣れている彼女だから、見事にあんな真似をやってのけることができた。

レッジにしても、体術の訓練をしていなければ、最後の一手を打つことはできなかっただろう。

〈クラッシュウィール〉と〈ブラストウィール〉の併用は光の矢すべてに破壊の力を与えられるが代わりに射程距離がごく至近に限定されるのだ。

(気持ちだけ先走っても意味はない。すべての歯車が噛み合わなければ、真の強さは得られない)

 そのためには、とにかく経験を培う必要がある。この戦いで、改めてそれを強く感じた。

ゼラードに次いで豊富な戦闘経験を誇るルリアゲハを見ながら、思わずつぶやく。

年の功だな。

んん?

あ。

もっぺん言ってみ?

いや。

 冷や汗を流しながら、やはり世の中経験が大事なのだと、レッジは肝に銘じ直した。



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 列車が、緩やかに減速していく。

……間に合わなかったか。

 列車の背から地平の彼方を見つめ、リフィルが苦々しい表情をした。

陽は、完全に没しつつある。今からどう急いだところで、門に着く頃には黄昏が終わっているだろう。

まだ終わりじゃないにゃ。〝夜の領域〟は解除できたにゃ。

 ウィズの言うとおり、都市中央に目をやると、先ほどまであった暗闇が消え去っている。

ディルクルムの儀式とやらが、明日の黄昏までには終わらないことを祈るしかないわね。

〈ミスティックメア〉。おまえはどう見る。

儀式をどれだけ早められるかは、集めた〝願い〟の量次第。

ネブロに聞いた情報と合わせて考えると、ぎりぎり間に合う……くらいじゃないかしらね。

つまり、次の黄昏を逃したら、もう打つ手なしってわけね。

完敗ではないが、瀬戸際は瀬戸際だな。手間を取らされすぎた。

あの男なりの、意地の一矢か。

明日の黄昏は、確実に勝つ。

 人形を魔法陣にしまいながら、リフィルは言った。

――絶対に。





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