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【黒ウィズ】アンダーナイトテイル Story3

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最終更新者:にゃん

目次


Story1

Story2

Story3

Story4

Story5

Story6

Story7

Story8

Story9

Story0



登場人物




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story


wこ、こいつが欲しけりゃやるよ。だから、許してくれ。

 ー方、そのころピノキオは、目に止まった演人たちから、童話石を片っ端から奪っていた。

童話石を失った演人は、設置された魔法結界の影響で、絵本に変わってしまう。

じっ……。

違う。なんかぬくぬくが足りない。温もり不足ぎみ~。

今回も外れ……。ざんねーん。

 足元には、無数の童話石が転がっていた。すべて、別の演人から奪ったものだ。

手当たり次第に童話石を集めるのはやめなさい。人に迷惑を掛けちゃいけないわ。

もっと、欲しい。人間になるための“こころ”を……。新しいぬくぬくを……。

 ピノキオの探している“ぬくぬく”が、なんのことなのかケットにはわからなかった。

あなたの望みどおりに、してあげたいと思うけど……。


 ピノキオは、ただの木にすぎませんでした。

「ようやく村に着いたわね。」

村にやってきたピノキオとケットは、そこで人形師のおじいさんに出会ったのです。

『意思があるとは、不思議な木だ。どこか行きたいところがあるのなら、動きやすい身体にしてやろう』

そして、人形師のおじいさんの手によって生まれたのが、ピノキオです。

「随分、人間らしくなったわね。」

 ピノキオは、感謝するということを知りません。心がないからです。

でも、身体は動くので、いつもどこかに行きたくて焦ってます。ただ、どこへ行けばいいのか、自分でもわかりません。

「人間は、それぞれ心という司令塔を持っているのよ。きっとピノキオには、それがないから迷うのよ。」

「こころ……?”こころ”欲しい……。」

 自分の心を探すために、ピノキオは旅に出ることにしました。

おじいさんは、まるで本当の子どものように愛情を注いでくれました。だから行くな、と言ってくれました。

しかし、心のないピノキオには、おじいさんの愛情が伝わりません。

「いってきます。」

 ピノキオは、自分の手足から伸びていた操り糸を大きなハサミで断ち切り、旅に出ました。

「安心しておじいさん。私がピノキオの保護者になるから。」

 そして、ふたりは旅をはじめたのでした。


こころ……どこにあるんだろう?

 ぼんやりと噴水の縁に腰掛けるピノキオ。そのポケットから、童話石がこぼれた。

運悪く童話石は、噴水の中に落ちてしまった。

あなたの大事な童話石が!早く拾わなきゃ、絵本になってしまうわ!


あなたが、落としたのはこの銀の童話石ですか?それとも、金の童話石ですか?

な……なにこの人!?

さあ、答えなさい。あなたの童話石は、金と銀。どちらですか?

選んだ方を、あなたに差し上げましょう。



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story


待てー。リコラの童話石を返せー。

ガラスの靴も返してください!

ヴィラード様に忠誠を誓った演人たちよ。奴らを足止めするぞよ!

 わらわらと演人たちが群がってくる。

任せて!〈ツヴェルク・クリガー〉!邪魔する奴らを退けるんだ!

 スノウが、あみぐるみの戦士たちを放った。

wくそっ。なんだ、この人形は!?

wこのぬいぐるみ、勝手に動くぞ!?お、おい!近づくな、あっちいけ!

ぬいぐるみじゃなくて、あみぐるみね。今度間違えるとお仕置きだよ。

いまです、思いっきりぶっぱなすのです!

 君がカードを抜いて魔法を放ち、メメリーは爆弾を投げた。

なんとっ!?

 ヘンリーは、衝撃で後方に吹き飛び、噴水に落下する。

やったね!

チームプレイの成功は、作戦の達成確率を跳ね上げる、とばっちゃんが言ってました!

 スノウの掲げた手に、君たちは右手を合せた。ハイタッチというやつだ。

僕たちの相性って最高みたいだね?

あ、見てください!噴水の中からなにかが出てきます!


ようこそ。女神アリアの湖へ。

どうみてもただの噴水にゃ。

それは言わない約束です。それよりも、あなたはいま落としましたね?

あなたが、落としたのは、この普通のヘンリーと、少しくすんだヘンリーのどちらでしょう?

 君は、どちらでもないと答えた。

私たちは、そんな変な人を落としたつもりはないにゃ。そいつが勝手に吹き飛んで落ちただけにゃ。

なんと欲のないお人。あなたの謙虚な姿勢。女神として賞賛を送りましょう。

欲のないお人には、この普通のヘンリー・クロックを差し上げましょう。

もらって欲しいぞよ。

 いらない、と君は答える。

いらなくても、もらっとけや!ちったあ、こっちのことも考えろや!

怒っちゃいやです。

なんだか、この人も演人っぽいね。演人としての役割を無視されて、気に障ったのかも。

女神を敬わない罰当たりなあなたたちには、お仕置きが必要なようですね?

 お仕置きとはいったい……。

出でよ!破壊の衝動に狂わされし、狂戦士よ!

 噴水の泉が、渦巻きはじめた。


水面に上がってきたのは、行方がわからなくなっていたピノキオとケットだった。

ふたりとも、無事だったにゃ?

 待ってと、君は師匠を後ろに下がらせた。

ううっ……。

 ピノキオの様子が明らかにおかしかった。

……みんな、下がって!?

目に付くものは、すべて消す……。私の前から、みんな消え失せろ!

 以前は、無邪気な子どものような、あどけない瞳をしていたピノキオだったが、その瞳からは、明確な殺意が放たれている。

その子は、選んだのよ。私が、差出した銀の童話石をね。

 選んだ?まさか……。

うっかり、童話石を噴水に落としちゃって……。

 胸の辺りに本来のものではない、銀色の童話石が埋め込まれている。


人間になることを求めるあまり、童話石に狂わされてしまったんだね。

心配しないで。君のことは、僕が救ってあげる。


 ***


 ピノキオの大バサミは、ー見、毛糸で編まれたあみぐるみの大敵のように見える。

お人形遊びだなんて、子どもっぽい~。

 ハサミで断ち切られてしまえば、それまでの儚い存在――のはずだった。

そりゃあ、悪かったね。昔から、友達が少ないものでね。

 すかさず、ハサミで切断されたあみぐるみを毛糸と編み棒を使って復元する。

あみぐるみは、切られても切られても、何度も生まれ変わった。

ぬぐぅ~。

スノウの毛糸を操る技術は、まるで魔法にゃ。

「鏡よ鏡。この国でー番美しいのは誰かしら?」

わけありでね。昔から命を狙われることが多かったんだ。

だから、僕はこの毛糸を使って、身を守る方法を編み出すしかなかったんだよ。

さあ、行け。勇敢な〈ツヴェルグ・リッター〉。可愛そうな傀儡人形を正気に戻してあげるんだ。

 7体が息を揃えて、ピノキオに襲いかかる。

ピノキオは大バサミを振って、まとわりつくあみぐるみから身を守るので精いっぱいだった。

そんな雑魚人形など、相手にせずとも、本体を直接狙えば良いではないか。

ピノキオ、そんな奴の言う事を聞いちゃ駄目よ。

そんな大振りの攻撃、防ぐのは造作もないね。

 放った毛糸が、大バサミの柄に巻き付いた。これではハサミを開くことができない。

卑怯……。

そう思うんだったら、ハサミに絡まった毛糸を解いてあげる。

たとえ勝っても、君が納得してなきゃ、勝利した意味がないからね。

むざむざ、敵に自由を与えてやることなんてないにゃ!

安心して黒猫さん。もう、すでに次の手は打ってあるから。

勝つのは、私……。この新しい“こころ”が、そう言ってる。

 駆け出したピノキオ。しかし、すぐさま地面に突っ伏すことになる。

 ドワーフの戦士たちが、ピノキオの両足に毛糸を巻き付けていた。


僕の戦闘術は、攻撃力は弱いけど、こういう戦い方ができるんだ。

意地が悪いというか、抜け目ないというか……。

やだなー。これも作戦のうちだよ。でしょ?魔法使いさん。

負けた……。やっぱり、これじゃない……。

 ピノキオは、起き上がるなり、胸に埋め込まれている銀の童話石をつかんで投げ捨てた。

おいおい。せっかく女神様から頂いた”こころ”ぞよ。捨てるのは、罰当たりぞよ。

前より弱くなった。だから、いらない。

ならば、もうひとつの“こころ”が、正解だったのではないかぞよ?

 選ばなかった、もうひとつの選択肢。それが、金色の童話石。

もう、やめなさい!ねえったら!?

 ピノキオは、何かに取り憑かれたように、金色の童話石を手に取り、それを胸に埋め込んだ。

さっきよりも、苦しくない。やっぱり、こっちが正解だった。

それは、重畳(ちょうじょう)ぞよ。

 突然、ピノキオはヘンリーにハサミを向けた。


さっきは、よくも騙したな?絶対に許せない。

我が輩に逆らうぞよ?つまり、この城の主、ヴィラード様に逆らうのも同然ぞよ?


 突然の仲間割れ。君たちにとって、予想外の展開だった。

けど、これはチャンスにゃ。向こうの隙を突いて、奪われた童話石を取り戻そうにゃ。

メメリー、頑張る!

お手伝いします!

 ピノキオの振る大バサミを、ヘンリーは巧みに避けていた。

遅い、遅いぞよ。ハサミが止まってみえるぞよ。

避けるな~。

 ヘンリーは、相手の攻撃を見計らって腕時計に手を伸ばそうとしている。

時を止めるつもりです!



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時間は、止めさせません!

 君は、魔法を唱えた。ここで、時を止めさせはしない。

邪魔しても無駄ぞよ。ほーれ、ぽちっと……ん?

 ヘンリーは、人差し指に弾力を感じた。

……あんたが、ピノキオをそそのかして、あんな風にしたのよ。許せないわ!

なんだ、この変な虫は。邪魔するなぞよ!

 ほこりでも払うように手を払うと、小さなケットの身体は、軽々と吹き飛ばされた。

ごめん……。無力で……

魔法使いさん!あなたはケットを!

この時計のおじさんは、メメリーとスノウちゃんでなんとかします!

おじさんとは、なんぞよ!?我が輩は、まだ20代ぞよ!

 君は、ケットに駆け寄った。

……。

意識を失っているにゃ。キミ、治癒魔法を。

 ケットの傷は、すぐに癒えた。けど、ケットは目を覚まさない。

傷は治っているはずにゃ……?

ピノキオ……。

 ピノキオは、胸を押さえて苦しんでいた。金の童話石を胸に埋め込んだ副作用だろうか。


こころを手に入れたはずなのに……。どうしてこんなに苦しいの?

あなたは、人間になるために、心を求めていた……。でも、胸にあるそれは、あなたの心じゃないの。

 ケットの言葉に、ピノキオは反応しなかった。まるで聞こえていないかのように。

すぐに、それを捨てるのよ……。じゃないと、あなたは、人間どころか、ただの木に戻ってしまうわ。

助けてケット……。おじいさん……。

 ピノキオには、君の手にいるケットの声は聞こえていない。姿も、見えていないようだった。

魔法使いさん。お願いが、あります。私を、ピノキオの肩の上に……。

万がー、彼女が暴れ出したら危険にゃ。

どのみち、ピノキオの心が死んでしまうと、私も消えちゃうから……

どういうことにゃ?

 君は、ケットの願いを聞き届け、そっとピノキオの肩に置いてあげる。

実は私は、森の妖精なの。


 ケットは、深い森で生きる妖精だった。しかし、人間の世界に興味を持つケットにとって森での生活は退屈なものだった。

ある日、私は森で迷っている人の魂と出会ったの。死んだばかりの子どもの魂よ。

 その森の妖精には、迷いこんだ魂をあるべき場所に導く役目があった。

でも、その魂からは、人間に戻りたいという強い意志を感じた。

その子を不憫だと私は感じたの。助けてあげたいと強く思ったわ。

 ケットはピノキオを救おうと決意した。

妖精の力を使い、その浮かばれない小さな魂を、森にあるケットがねぐらにしていた木に宿らせた。

元の身体を取り戻すのが無理なら、せめて木で出来た身体を与えてあげたいという思いだった。

だけど、ピノキオはとんでもなく元気だったの。

 不自由な木の身体を、ぴょんぴょん弾ませて、人間の里まで、動きはじめた。

これにはケットも困った。とにかく、彼女のあとを追いかけた。

そして、ピノキオは人間の住む村で、人形師のおじいさんと出会い、その身体を手に入れた。



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この子の魂を生かすと決めたのは私……。

私には最後まで、この子の行く末を見守る責任があるの。

だから、ピノキオ。目を覚ましなさい……。そんな偽物の心なんて、さっさと捨てちゃいなさい。

あなたの魂には純粋な心が、きっと宿っている。それに気づいていないだけなのよ。

ケット……?ケットの声が聞こえる……?

どこ?どこにいるの?

どこと行っても、君の肩に乗っているにゃ。

嘘だ。ケットは、どこにもいない……。

 ケットの姿が見えなくなった理由は――やはり、金の童話石だ。

君が、宿している偽の心を捨てるにゃ!そうしないと、本当に大切なものは、いつまでも見えないにゃ!

や……やだ。これは私の……。やっと手に入れた、本当のこころ……。

まだそんなこと言っているにゃ!?いい加減に目を覚ますにゃ!

させないぞよ……。

その娘は、我が輩の操り人形ぞよ。ヴィラード様のために、遊戯(ゲーム)を盛り上げるためのキーパーソンぞよ。

ピノキオをそんなことに利用しないで!

うるさい虫ぞよ。

 激情して、ケットに手を上げようとする。しかし、寸前で君が止めに入った。

遊戯なんかのために、ふたりの絆を断ち切るのは、やめろと君は怒りを抑えながら言う。

うるさいぞよ!邪魔するつもりなら、まずお前から、絵本に変えてやるぞよ!

覚悟を決めるのは、そっちの方にゃ!


 ***


 ヘンリーを撃破した君たちだったが……。

ピノキオ……。あなたは生きるのよ。魔法使いさん、あの子をお願いしていいかしら?

 ケットの姿が、先ほどよりも透明になっている。存在が消え去ろうとしているのだ。

どうして、ケットが消えてしまうにゃ?

禁忌を破って、ピノキオの魂を救った代償よ。

実は、森の木に彼女の魂を宿した時に、妖精の力を使い果たしてしまったの。

 力を使い果たした妖精は、消滅する。

今まで消滅しなかったのは、ピノキオに移した妖精の力が、ケットの存在を支えていたからだ。

可愛い娘ができた気分だったわ。短い間だったけど、あなたとー緒にいられてとても幸せだった。

 ケットの姿が、さらに薄くなっていく。

私に、生きる意味を与えてくれて……ありがとう。

 消えゆくケットを引き戻す術は、君にはない。

それができるのは、ただひとり……。

少しだけケットの声が聞こえた……。ケット?どこにいるの?

さっきから、君の肩に乗ってるにゃ。どうして気づかないにゃ?

 偽物の心を持ったままだと、ケットの姿はずっと見えない。それでいいのかと君は問う。

そんなのやだ!

 ためらうことなく、金色の童話石を投げ捨てた。

ケット……。そこにいた……。

 ピノキオは、ようやく見えたケットを両手で包み込む。

……。

やだ!消えないで!

おのれ……ピノキオ!せっかく与えてやった心を捨てるとは、人間になりたくないのかぞよ?

あいつ、まだ生きてるにゃ。

 ほんとしぶとい奴だね、と君は指の関節を鳴らした。

それは、もういらない。ケットが見えなくなるぐらいなら、人形のままでいい!

せっかく目を掛けてやったのに、我が輩とヴィラード様の親心を無にしおって。

許せん!者ども、こやつを成敗するぞよ!

ケットは、誰にも手を出させない!

 ピノキオはヘンリーたちに反撃しない。手の中にいるケットを必死に守っている。

こころが、欲しい……。人間になるために……。

だけど神様。ケットがいなくなっちゃうのは、嫌……。

これからも、ずっとー緒にいたい。そのお願いさえ叶えてくれるのなら……。

もう“こころ”なんて手に入らなくてもいい。だから、ケットを連れていかないで――

 その時、ピノキオの胸の中にこれまで感じたことのない、温もりが宿った。

胸が温かい……。すごくぬくぬくする。

ケットさんを失いたくないという必死の思い。ピノキオさん、それが心というものです。

心は、はじめからあったんです。ただ、それに気づかなかっただけではないでしょうか?

これが、私のこころ……?

……ようやく、気づいたのね?

ああ、ケットの声が聞こえる……。

どこか遠い場所に連れていかれそうだったけど、ピノキオの声が聞こえたから、無理矢理戻ってきたの。

よかった!

 手の中のケットを抱きしめる。

ちょっと……く、苦しいってば。

もう、離れたくないの。

まったく。いつまでたっても子どもなんだから。



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 ふたりが、互いの絆を確認しあっている間に、君たちはヘンリーが放った雑魚を片付けていた。


僕たちに掛かれば。

メメリーの拳があれば。

こんな敵なんてチョロいものにゃ!

狼じゃない人たちを攻撃したせいで、メメリーちゃんの童話石が曇ってしまいました。

そういう時は、私にお任せ。ちょちょいの、ちょい!

 手早くメメリーの童話石を浄化する。その手並みは慣れたものだ。

ありがとう!アーシュちゃんがいれば、メメリーは最強なのです。

最強コンビの誕生です。

ふたりがコンビを組むなら、僕は、魔法使いさんとコンビを組むもん。ねー?

 雑魚は、片付いた。あとは、親玉を残すのみ。


ヘンリーさん。奪ったリコラさんの童話石と、私のガラスの靴を返してください。

うぬぬぬ……。

リコラのためなら、メメリーは手段を選ばないのです!

ど……童話石は、すでにヴィラード様に献上したぞよ。

でも、ガラスの靴は、ここにあるぞよ。

それは、大事なものなのです。お願いします、返してください。

ふぉっ、ふぉっ、ふぉ~。

なにか来るのです!

 上空から、黒いー団が迫ってくる。

さすがはヴィラード様。忠実な家臣を救うために、コウモリたちを遣わしてくれたぞよ!

 大量のコウモリが飛来する。

わっぷ!凄い数のコウモリにゃ!

 君たちの視界は、瞬く間に黒い翼に覆われた。

にょほほほほ。それでは、皆の衆バイバイぞよ。

逃がしませ……痛っ!

コウモリ、あっちにいくのです!

 コウモリの数が多すぎる。視界が、真っ黒でなにも見えない。

早くここから離れるべきにゃ。

身を守る術を持たないアーシュだけでも先に助けて離脱するにゃ!

 君は、傷ついたアーシュを抱きかかえると、急いでその場を離れた。



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私のことはお気になさらずに。

 そういうわけにはいかないよ、と君はコウモリにやられた傷を治癒する。

ずっと、人に幸福を分け与えたくて頑張ってきました。

でも、私がみなさんの足を引つ張っているようでは、シンデレラ失格です。

 アーシュには、童話石を浄化してもらって何度も助けられた、と君は言う。

まだまだです。とてもじゃないですけど、憧れのあの人に近づけたとは言えません。

あの人?

私に、ガラスの靴を与えてくれた人です。私は、少しでもあの人に近づきたいのです。

実は……はじめてお会いした時から感じてました。魔法使いさんは、あの人に雰囲気が似てるって。

どういうところがにゃ?

困ってる人をほっとけないところとか、自分のことよりも、他人のことをまず考えるところとか……。

だから、魔法使いさんといると、私ももっと頑張らなきゃって気分になるんです。

 それは、光栄だと君は言う。

怪我の治療は、大方終わった。先はどの場所に戻って置いてきたみんなの無事を確かめたかった。

ご心配なさらず。私は、ここに隠れて、お帰りをお待ちしています。

スノウちゃんや、メメリーちゃんを、助けてあげてください。

 すぐに戻ってくると君は約束して、小屋を後にした。


 ***


誰もいないにゃ。

 コウモリもいなければ、スノウやメメリーたちもいなくなっている。


魔法使いさん……よかった。無事だったんだね?

君ひとりにゃ?

僕もなにがなんだかわかんなくなって、とりあえず安全なところに身を隠していたんだ。

 でも、運良く合流できてよかった。

メメリーとピノキオたちも、それぞれ、どこかに逃げたのかもしれないにゃ。

ところで魔法使いさん、黒猫さん。これなーんだ?

それは!?

どさくさに紛れて、奪い返しておいたんだ。ねえ、僕って凄い?

よくやったにゃ!

もっと、褒めて褒めて~。

 君は、お礼の代わりにスノウの頭をぐりぐり撫でてあげた。

たったそれだけのことで、スノウは、少し涙ぐむ。

泣くことないにゃ。

ずっと、疎まれて育ったから、誰かに褒められたことってないんだ……。

ねえ、魔法使いさん……。アーシュを絶対に死なせちゃダメだよ?

 当然だ。どうしてそんなことを言い出すのだろうかと、君は戸惑う。

僕は、アーシュには返せない恩があるんだ。

実は、魔法使いさんたちの知らないところで、僕の濁った童話石を何度も、浄化してくれていたんだ。

魔法使いさんにも見せてあげるね。僕の秘密を……。

 スノウは、襟元のリボンを緩めて、胸の辺りをはだけさせた。

それは……。


 肋骨が浮き出た薄い胸板に刻まれた刻印を解除する。

胸の中には、童話石が埋め込まれており、心臓の代りに断続的な明滅を繰り返していた。


見ての通り、いまの僕は心臓がないの。ある人に奪われちゃった。

 童話石の魔力で、命を繋ぎ止めているのだ。君は言葉がでなかった。

いまの僕は、死んでるのも同然なんだ。

ごめんね、驚かせて。でも、大事な人には、知っておいて欲しかったんだ。

これから、戦いはもっと厳しくなるだろうから……。

 スノウの心臓を奪ったのは誰、と君は訊ねる。


魔女マルグリット。僕の継母だよ。





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  • 総コメント数1
  • 最終投稿日時 2020/01/23 21:15
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