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【黒ウィズ】リュオン編(黒ウィズGP2019)Story

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最終更新者:にゃん


2019/08/30



目次


Story1 騎士団長の仕事

Story2 つかんだ真実

Story3 断罪




登場人物


執行騎士団長リュオン・テラム
執行騎士シリス・アロキア
執行騎士ラーシャ・ルツス
審判獣クロノス



story1 騎士団長の仕事



サザ・ヤニタが戦死した。大聖堂の教主たちは、執行騎士の団長を新しく決める必要に迫られた。

第1の聖域の執政を代行する大教主は、周囲の反対を押し切って、子飼いの執行騎士リュオンを推挙した。


 ***


……真理の守護者となり、戒律の執行者となりましょう。

聖域の繁栄が永久に続くよう、騎士の務めを全うし、聖堂への忠節を望む。

よるべなき民のために、この磔剣を揮います。

 騎士団長叙任の儀式の最中、大教主はリュオンの耳元でささやいた。

お前を騎士団長に推したのは、この私だ。くれぐれも、その恩を忘れるな。

……はっ。

騎士にしてやった時から、なにかとあれば、お前に目をかけてきた。すべては、私の手駒とするためだ。

……忘れるな?

 じっと大教主を見つめるリュオンの瞳。その奥に隠された感情は、誰も読み取れないほど深い。

失礼いたします。

期待しているぞ。


 ***


リュオンが、次の騎士団長だと?

なんでも、大教主様の後押しがあったとか。

 若輩のリュオンが、騎士団長になったことに反感の色を潜ませる者は、少なくなかった。

俺はあまりリュオン・テラムという男を知らん。いったいどういう男だ?

ケラヴノスさんは、あのお方と懇意でしたわね?どのような人か、説明してくださる?

一言で言うならば、口数が少なく、感情表現が下手な男だ。

あらまあ。

だが、根は優しい男だ。優しすぎるとも言えるかもしれないがな。

聖堂への忠誠はどうなのでしょう?

噂によると、リュオン・テラムは孤児で、元は福音生成のための素材(・・)として聖堂に拾われたとか?

……それはあくまでも噂だ。

 噂が本当ならば、聖堂に忠誠を誓う理由などないに等しい。

そんな人に執行騎士の長が務まりましょうか?

資格があるかどうかは、これから見極めればいい。

もし、なければ……。俺たちの誰かが、とって代わるべきだな。

 ケラヴノスは、呆れたように息を吐き出す。

無用な懸念だ。

リュオンの審判獣ネメシスは最強の審判獣。我々が裁かなくとも、ネメシスが裁くだろう。


 ***



 騎士団長となったリュオンには、専用の個室が与えられた。

聖堂内に部屋を持つまでになったか。元は孤児だった男が、たいした出世だ。

 これほど、運に恵まれた男もいないだろう。

ドブの中を這いずり回っていた子どもの頃の記憶は、あまり思い出したくない記憶だ。

そして、騙されて聖堂の地下プラント――福音精製施設に連れて行かれた。

目の前で年の近い子どもたちが、次々に素材として消費されていく様は、筆舌に尽くしがたいものだった。

あの時のことを思い出すつもりはなかった……。

 心臓が高鳴り、汗が渉む。

執行騎士の衣装に身を包んでいる現在の自分が、欺瞞の塊のように思えてくる。

(――子どもを贄にするなどと……。決して許してはならぬ行為だ)

 大審判獣エンテレケイアによって大聖堂は守られ、第1聖域の住人たちは安寧に暮らしている。

その代償として、エンテレケイアに挿げる生け賢が必要なのだ。

(だが、あそこで逃げ出さなければ、今頃俺はここにはいない)

 人類がこの大地で生き抜くための必要な犠牲だと聖職者たちは説明する。

(欺瞞だとわかっている。わかっていながら、なにもできない自分に腹が立つ)

 執行騎士の騎士団長は、聖職者たちと聖域を守る存在。

生き延びるためにリュオンは、大教主にひざまずき、この道を選んだ。

(罪深いのは、俺も同じか……)

今更、正義感ぶって聖職者たちを責める立場にはないのだと、何度も自分に言い聞かせてきた。

そしてこれからも、嘘で本心を糊塗(こと)しながら、生きていくだろう。

w失礼します。

騎士団長様。私めは、この執務室の改装を請け負ったものなのですが……。

聞いてないな……。大教主が気を利かせてくれたのか?

 確かにこの部屋は、少し手狭だ。

w此方の壁をぶち抜いて、隣の部屋と繋げて広くするようにと仰せつかっております。このように。

 職人は図面を広げて見せてくれた。

俺にはよくわからない。任せる。

wへえ……。

リュオンさん……いえ、リュオン団長。お話したいことが。

 珍しくシリスが慌てていた。なにかが起きたのだと、すぐに察知した。


 ***


 第3聖堂のある聖域。リュオンが守る大聖堂とは、隣り合う聖域同士。

その聖域にいま、危機が迫っている。

bきゃあああっ!


 聖域の民に襲い掛かっているのは、審判獣クロノス。

審判獣の森で静かに暮らしていたはずだが、今や神の怒りの代行者のように聖域に鉄槌を振り下ろしている。

審判獣クロノスよ、鎮まりなさい!なぜ、あなたはそのようにお怒りになる?

b執行騎士ラーシャ様!あなた様もお逃げください!

 瓦解する建物。踏み潰されて圧死する人々。審判獣クロノスの狙いは無差別だった。

今まで森で大人しくしていたはずの審判獣が、なぜ突然?

 審判獣による裁きは、理不尽なものと決まっている。

しかし、怒り狂うその様は、裁きの次元を既に越えていた。

させないっ!

 白い光が、建物をなぎ払った。

崩れ落ちる瓦礫にラーシャは押しつぶされそうになる。瞬時に死んだサザの面影が、脳裏に浮かんだ。

どうやら、ここまでのようね?

 絶望に染まった直後、救いの神が降り立つ。

ラーシャさん、無事ですか!?

シリスは、手当を。審判獣は俺が抑える。

 新たな敵に対し、審判獣クロノスは、獣のような咆吼をあげる。

リュオンの放った十字の磔剣が、風を切って、クロノスの身体をなぎ払った。

審判獣よ。ここは人が住まう聖域。直ちに、立ち去れ!

リュオンは、心臓と結合した鎖を握りしめ、契約している審判獣ネメシスと同調する構えを見せた。

その気配におののいたのか、審判獣クロノスは、聖域から静かに姿を消した。


……怪我は?

かすり傷よ……。

私のことなんて、見捨ててくれてよかったのに。

馬鹿なことを言うな。ラーシャまで失うわけにはいかない。

ありがたい一言ね。涙が出るわ。

しかし、審判獣が、あれほど荒れ狂っていた理由はなんだ?

予兆なんて、なにもなかったわ……。

きっと原因がありますよ。それを探るのも、騎士団長様の仕事です。頑張ってくださいね。

まずは、聖域の人間たちに話を聞くとしよう。お前も手伝え。

そういった面倒な仕事、僕には……。いきます!だから、お下げをひっぱらないで!


 なぜ、いままで静かにしていた審判獣が、とつぜん怒り狂ったのか。

次の襲撃までのわずかな時間の中で、原因を探るしかなかった。

すまない。話を聞かせて欲しいのだが……。

wああ、執行騎士様。お願いです、子どもが熱を出してしまって。

すぐに毛布を持ってこさせよう。熱に効く煎じ薬も用意させる。

z執行騎士様……。私は膝の関節が……。

怪我か?そうじゃない場合は、加齢による神経痛かもしれん。見せてみろ。

zありがとうございます……。

 執行騎士は戦闘するだけの存在ではない。医学、薬学などの知識も身につけており、なにもないときは聖域の民を診て回っている。

お優しいなリュオン団長は。こんな上司の下で働けてシアワセだな一。

……って、一々相手してたら聞き込みが進まないです!もう行きますよ!?

火傷を負った場合は、水辺に生えている青い植物の粘液が利く。探し出して塗りつけろ。

団長!

おっとすまん。聞き込みだったな。

聖域の民に向ける優しさの100分の1でも、部下に注いで欲しいんですけどね……。

……考えておこう。

 リュオンは身内には厳しいが、民に慕われているのは昔からだった。

今回の捜査を行なうにあたって、そんな日頃の積み重ねが役に立った。

聞かせて欲しいことがある。話をさせてもらっていいか?

bはい。執行騎士様になら、なんだってお答えします。



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story2 つかんだ真実



w大勢の聖堂兵の部隊が、聖域の外に派遣されました。

聖域の外を調査するためだな?

wでも、戻ってこない兵も多くて……。家族を失った人たちは、毎晩嘆き悲しんでいます。

そんな犠牲を払ってまで、なぜ聖域の外に兵を送り込む?

 聖域内は、執行騎士や守護審判獣などによって守られているため安全だが、その庇護は聖域外には当てはまらない。

wさあ、聖職者様たちのお考えまでは……。

それもそうだな。……参考になった。話を聞かせてくれて感謝する。

wあ、あの……。

なんだ?

wリュオン様は、こ……恋人とかいらっしゃるんですか?

……いない。

wあ、あの……。もし、お暇な時間がありましたら――

俺は審判獣と契約した身だ。個人的に親しい人を作るつもりはない。

あなたはとても魅力的な人だ。俺なんかより、ふさわしい人がいるだろう。

ほ~ら。さっさと次行きますよ!?まだ聞き込みが終わってないんですから。

すまん。行こう。

wまた、いらしてください!


 ***


bなんでも、聖職者様が森を調べるために、聖堂兵を派遣しているそうで……。

どのぐらいの兵が、犠牲になったかわかるか?

b……実は、そういった話題は、聖堂の方で一切禁止されているんです。

ただ、森に連れていかれたまま戻ってこなかった兵は、相当な数いるはずです。


予想どおり、住人たちには箱口令が敷かれてるようですね。

ならば、聖職者たちに直接話を聞こう。


 ***


B聖域の外の調査についてですか?

正確な数は不明だが、戻ってこない兵が多数いると聞く。

それだけの犠牲を払って、なにを調べているのです?

B執行騎士様ともあろうものが、おかしなことを言われる。

森で眠る審判獣たちの動向を調べるのは、当然のことです。調査部隊は、今までも定期的に出しておりました。

多数の犠牲を払ってまで行なう意味があるのか?

B聖域の外ですから、予想外の危険に遭遇するのはしょうがないことです。

あ、そうそう。我々に恨みを持つ、インフェルナ人に襲われた可能性もありますね。

多数の犠牲と仰いましたが、正確に何人死んだのか、ご存じですか?

……それも調べている途中だ。

Bいいでしょう。執行騎士様のお手を煩わせたくはありません。保管している記録をご覧に入れましょう。

 聖職者は、分厚い台帳をリュオンたちに見せた。

そこには、これまで聖域外に派遣した部隊に関する記録がすべて記されていた。

第890回派遣部隊。総員300名。そのうち帰還した兵、299名。犠牲者1名……。

第925回派遣部隊。総員250名。帰還した兵、248名。犠牲者2名……。

Bいかがでしょう?

(ほんとかなあこの記録……。こんなのいくらでもでっち上げられますよ)

 住民たちから聞いた話と記録の数に、食い違いがある。

しかし、そこを追求しても、しらを切られたらそれまでだ。

ご協力感謝する。


 ***


z派遣部隊の人員ですか?それは言えません……。

聖職者たちから、口止めされているからですね?

z……っ!?ええ……。

審判獣が次にこの聖域を襲ってくるまでに、俺たちは、原因を突き止めなければいけない。

罪のない聖域の民が、さらに死ぬことになる。聖域の中には、お前の家族もいるのだろう?

zもちろんです……。

ならば、頼む。話してくれ。聖職者たちは、明らかに俺たちに真実を隠している。

z……。

次の犠牲を防ぐためだ。彼らが怖いのならば、俺たちが、お前を守ろう。だから……。

 見張りの兵は、リュオンの熱意に押されて口を開きかけた。しかし――

z……っ!?

 誰かの視線を感じ、開きかけていた口は、再び貝のように閉ざされた。

z私は、なにも知りません。これ以上、話すことはございません。

そうか……。


んも一。あとちょっとだったのにー。よっぽど、聖職者たちの監視が怖いんでしょうね。

行き詰まっちゃいましたね。どうします?リュオン団長?

心配するな。まだ手はある。


 ***


調査派遣部隊が、定期的に送り出されていることは知っていたわ。

私が護衛として同行すると言っても、彼らは頑として受け付けなかった。

派遣部隊が出払っている間、聖域の守備を頼むと言われていたんだな?

 出発した人数。被害者の数。これらは厳格に情報統制されている。

気づかなかったラーシャを責めるのは酷な話だ。

聖域の外に兵を派遣してなにを見つけようとしていたのかしら?

それをこれから調べるんです。

これから、審判獣の森に向かうつもりだ。

私も連れて行って。こんなことで、罪滅ぼしになるとは思えないけど。じっとしているよりはマシよ。



 聖域の外には、なにもない荒野が広がっている。

枯れて作物もろくに育たない貧弱な大地。インフェルナ人たちは、そんな場所で細々と暮らしている。

荒野をさらに進むと、緑に満ちた自然の森が広がっている。

だが、そこは審判獣が眠る森。人が足を踏み入れることは許されざる界域。


知ってます?審判獣の森に足を踏み入れて無事戻ってきた人は、いないそうですよ?

森の奥深くにまでいかなければ大丈夫よ。

 シリスが小枝を踏んだ。

眠っている彼らを起こさないようにそ一っとね?

怖いから、僕は木の上を移動します。なにかあったら、多分教えます。


 リュオンたちは、不気味に静まり返る森のさらに奥へと進んだ。

至る所に、人が歩いた痕跡があった。調査部隊がここまで来た証しだった。


いったい、なにを調べさせていたんだろうな?

見て。

 指さした先にあったのは、放置されている聖堂兵の鎧や武器だった。

どうやら、ここで審判獣に襲われたようだ。

向こうに、もっとエグいものがありますよ。

 さらに先に腐乱した死体があった。戻ってこなかった聖堂兵たちだろう。

ただ審判を受けさせるためだけに送り込まれた訳じゃないわよね?

聖職者たちによる口減らしの可能性もあります。どこの聖域も、食料問題は深刻ですから。

……結論を出すのは早い。

まだ先に行くんですか?これ以上は、やめといた方がいいような~。僕の勘って当たるんですよね~。

 リュオンは無視して先に進んでいく。シリスは、仕方なく木に登って追いかけた。



調査部隊が進んだ痕跡は、あるところでぷっつり途切れていた。

ここで、止まったということは、この周囲になにかあるはず。

リュオンは、大樹の根の分かれ目に置かれているものに目をつけた。


これは……卵の殼か?

 透明な粘液が、まだ殻の内側に残っていた。

割れてそんなに時間が経っていないようね。なにかの動物の卵かしら?

 爬虫類の卵にしては大きな殻だった。

……なるほど。そういうことか。

なにかわかったの?

 リュオンは、小さくうなずいた。その表情は、どことなく青ざめていた。

その時――リュオンたちに覆い被さる影があった。

見上げると、上空を飛行していたのは、審判獣クロノスだった。

どうやら、聖域の方に向かっているようです。

戻るぞ。

 審判獣が向かっているとなれば、調査を中断するしかなかった。

ここまで来たのに引き返すなんて残念ね。

もういい。おおよそのことは掴めた。

本当?凄いじゃない。

……とても喜べる気分ではないがな。


 ***


B審判獣が、またしてもこの聖域に攻め寄せようとしているとか?

こんなところで、油を売っていていいんですか?

森に行き、すべてが判明した。審判獣がなぜ、この聖域を襲うのかが……。

Bほう?聞かせてもらいましょうか。




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story3 断罪


 どの時代。どの世界にも、悪人はいる。

リュオン自身、執行騎士の身でありながら、己を善人だとは、思ったことは1度もない。

仲間を斬って騎士になった男だ。まっとうな死など迎えられるはずがないと思っている。

 だからこそ、己の悪を自覚していないもの。それが許せない。

審判獣を崇める立場にありながら、それを利用し、多くの人間を巻き込んでいる。

自分たちの悪行を自覚していながら、のうのうと聖衣に身を包んでいる奴ら。

俺が、許せないのは、そういう奴らだ――

Bそれがなんだというのです!用がないなら、出て行きなさい!

 リュオンは、聖職者の右手首をつかんだ。

前から気になっていたんだ。その手にある聖典のことが。

 聖職者の誰もが、肌身離さず持っている聖典には聖域の戒律や歴代の聖皇が残した聖句などが収録されている。

俺の知っている聖職者は、みんな、同じ聖典を持っている。

しかし、あんたの持っているその聖典は、表紙はすり切れているのに背表紙がやたらときれいだ。

 真面目な聖職者なら、何度も聖典を開くため、背表紙に開いた跡がいくつも付く。

だが、その男の持っている聖典の背表紙は、新品のように折り目がひとつもなかった。

Bそれがどうしたというのだ!?お前には関係ないだろ!?

 激しい揺れが起きた。

審判獣クロノスが、到着したようです。

審判獣は、私たちで食い止めるわ。リュオンは、早く真相を――

まかせろ。

 聖典を無理矢理奪い取る。

開いてみて気づいた。外見は、本のように取り繕っているが、ありがたい聖句が書かれたページなどなかった。

本に偽装した小箱だと?

 小箱の中には、鍵がひとつ入っていた。どこかの部屋を開ける鍵だろうか。

この鍵はどこの扉を開く鍵だ?言え!

B知らん。私は、そんな鍵など……!

時間がない……。優しい騎士団長の仮面を外すしかないか……。

 そう呟くリュオンの口元には、嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

Bひぃっ!?

 恐れおののく聖職者は、後ろにあった本棚にぶつかった。その時、リュオンはこの部屋の異変に気づいた。

この部屋は、騎士団長室としてあてがわれた部屋によく似ているが、どこか違和感があった。

最近、部屋を改修することがあってな……。

俺は建築のことなどわからないが、素人なりに図面を見る機会があった。その経験が役に立った。

B……なにを言っている?

この部屋、外壁に面している割りには、やたらと壁が分厚い。俺の部屋には、こんなおかしなことはない。

Bそんなこと、いまはどうでもいいだろ!?審判獣が迫って来ているのだ!執行騎士ならなんとかしろ!

だから、審判獣の怒りの真相を突き止めようとしている!

 本棚を片っ端から倒していく。

Bま……待て!

 案の定、外壁側の壁に、隠し扉があった。鍵穴に先ほど手に入れた鍵を差し込む。

どうやら、正解だったようだ。よかったな、残酷な目に遭わなくて。


 ドアを開ける。中はまっ暗だった。地下に続く細い階段を下りていく。

生臭い血の匂いが漂ってくる。リュオンは、自分の推理が外れてくれることを願った。

が――その願いは、虚しくかき消えた。

地下室には、解体されたとおぼしき生き物の残骸が、一面に散らばっていた。


これはいったいなんだ?言え!?

Bか、家畜をさばいていたのだ……。ここで……。

嘘をつくな。こんな奇妙な家畜はみたことがない。

これは、審判獣の子どもだな?森から奪って、切り裂いて解体したのか?

B……。

……なんのためだ?

 破壊された審判獣の殻衣。その内側にある肉は、きれいにさばかれている。

それこそ、動かざる物証。ここで許されざる儀式が行なわれていた証明。

B血肉をむさぼるためだ……。

魂ともいえる福音を吸って生きる審判獣。その血や肉を口にすると、この世のどんな食べものでも得られない無上の恍惚が味わえる。

崇めるべき、審判獣を食らうという背徳的行為そのものに痺れるし……。

なにより、柔らかい肉は、歯ごたえがあって大変美味だ。

私は、こんな美味しいものを食べたことがない。1度食べれば癖になって止められなくなる……。

だから、森へ兵を使わして、子どもの審判獣をさらわせたのか?

それで何人が犠牲になった?

Bそんなこと私は知らん。ただ、私は己の快楽のためにやっただけだ。

救いがたい奴だ。

 しかし、それでも聖職者だ。捕らえて審判獣による裁きを受けさせる必要がある。

B執行騎士ごときが偉そうに!私には、後ろ盾があるのだぞ?お前の思い通りにいくか!

残念だったなぁ!!!?

もういい。黙れ……。

Bぐはっ!?


 ***


 審判獣がこの聖域を襲うのは、さらわれた子どもを、取り戻したいからだ。

そう思うと、おぞましい咆吼も、子を思う親の悲鳴に聞こえなくもなかった。

その様子では、力夕がついたんですね?じゃあ、手伝ってくれません?大変なの、見てわかるでしょ?

聖職者の身柄は、憲兵に引き渡してきた。

 あとは、大聖堂の裁きに任せるしかない。

あとで聞かせてもらうわ。とりあえずいまは――

 第3聖堂を守り、聖域で暮らす無実の民を救うこと。

この世に、守るべき価値のない人間など山ほどいる。

 心臓に繋がった鎖を握りしめる。

それでも、執行騎士である以上、俺は人間の側に立って戦う――

審判獣ネメシス。契約に従い、我が身を依り代とし、災厄を退けよ。

 リュオンの肉体は、ネメシスと同化する。人の意思を持った審判獣の誕生――

審判獣クロノスは、呻きをあげてネメシスに襲いかかった。

どれだけ哭こうとも、ここに探している子どもはいない。

悪に食われた。

その残酷な事実――いくら審判獣相手とはいえ、胸が痛む。

だが、真実は告げなければ。

暴れられなくしてから、人の犯した過ちを言葉にして審判獣クロノスヘ流し込む。

当然、さらなる怒りの爆発があった。それでも、大勢の人間には罪がないことを告げた。

クロノスの悲しみが膨らみ、リュオンの中にも流れ込んできた。身を引き裂かれる思いだった。



戦いは終わった。審判獣クロノスは大破した肉体を引き摺りながら、何処かへ消え去った。

まるで、泣いているみたいね……。このままで終わるかしら?

……また聖域を襲う場合、俺は人間の側に立って戦うだけだ。

まるで、いまは違う立場だといいたそうですね?

少し、心が揺らいでいる……。それほど今回の事件は、吐き気を催すほど最低な事件だった。

あまり言うと、異端審問に掛けられますよ?言葉を慎んでください。僕たちの団長さん。

ふっ。団長と呼ばれるのにも、ようやく慣れてきた。



 大聖堂は、審判獣の子どもを切り裂き、その肉を食らうという禁忌を犯した罪で――

第3聖堂の聖職者ひとりを審判獣の森へ追放という結審を下した。

その男の裁きは、審判獣に委ねるという意味だ。おそらく、森から戻ってくることはないだろう。


裁かれたのは、ひとりだけか……。

ひとりで食べる分だけを調達していただけならば、あのような規模の地下室は必要ない。

後ろ盾があると言っていた――審判獣の肉に魅了されたものは、他にもいるはずだ。

しかし、そのものたちが裁かれたという情報は入ってこない。


きっと共犯者がいる。他の聖職者たちは、なぜ裁かれないのです?

この事件は、すべて終わった。すでに判決は下っている。

そんな言葉で、誰が納得できます?

反抗的な目だ……。執行騎士が、聖職者に逆らうというのかね?それこそ大問題だ。

……あんたが、そのつもりなら、俺は俺で好きにやらせてもらう。

待ちたまえ。君が、職務に熱心なのはわかった。だが、根掘り葉掘り掘り返すのはよくない。誰も得しない結果になる。

 大教主のこの反応。おそらく顧客の中に、身分の高い聖職者も含まれていたのだろう。

なにもかも腐っている――とリュオンは、暗澹たる気持ちになった。

わかりました。大教主様がそこまで仰るのならば……。こちらも怒りを収めましょう。

わかってくれたか?それでいいんだ。これからも期待している。

……。



 審判獣の肉を食らった他の聖職者たちの名前が記されたリストは、その後秘密裏に処分された。

末端の聖職者ひとりを追放して、この事件はすべての幕引きが図られた――はずだった。

Bな、なぜここに審判獣が……!?

わかっているはず。貴様、審判獣の肉を食らったな?

Bそんなことは知らん。わ……私をどうするつもりだ!?

 ネメシスの手が、聖職者の喉元をわしづかみにする。

このまま喉を握りつぶしてもいい。しかし、それではなんの解決にもならん。

犯した罪を告白し……裁きを受けろ。

そ、そんなことができるわけ……!?

逃げ切れると思うな?誰も裁かないのならば、この俺が裁く。

Bわ……わかった。手を離してくれ……。く、首が折れ……るっ!?

約束は守れ。


 ***


またしても告白状だと?なにが起きている?

 彼の手元には、何名かの聖職者たちから送られてきた罪の告白状があった。

告白状を送ってきたのは、処分したはずの顧客リストに、名前が載っていたものたちすべてだった。

なぜ、奴が知っていたのだ……?リストは見ていないはず……。

大教主様。お呼びでしょうか?

リュオン・テラムの監視を命じる。

……は?

聖堂に逆らう予兆がないか厳しく見張るのだ。そして、なにかあれば、すぐに報告しろ。

……わかりました。

リュオンめ。私に逆らうというのならば、それもいいだろう。

逆らったこと必ず後悔させてやろう。

 監査役としてシリスが、リュオンの動向を探るようになったのは、この事件からだった。


(顧客リストが処分される前に盗み見して、リュオン団長にそれとなく教えたのは、僕でした!ざんね~ん!

なんて言えるわけないよ。いまはまだ大教主様には、逆らえないけど……

いつか見てろ。きたねえジジイの皺首、いつかねじ切ってやるからな……!)






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