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【黒ウィズ】神都ピカレスク2 Story3

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最終更新者:にゃん

目次



登場人物




story



 君は試着室の扉を開け、外で待つ仲間たちに着替えた姿を見せた。

お、なかなか様になってるじゃない。可愛い可愛い。

ええ、とってもよくお似合いですわ。

それでようやく記者らしくなったな。いや、この世界の人間らしくなったというべきか。

 君はいま、アベニューDにあるASデパートの洋服店に来ていた。

クエス=アリアスの服では目立ち過ぎるので、ギャスパーに服を買ってもらうことになったのだ。

とても丁寧に作り込まれた服ばかりで、これまで通りの荒っぽい動き方をしていいものかと迷ってしまうほどだ。

破れたらまた買ってもらえばいい。ギャスパーさんは金持ちのご子息だからな。金なら腐るほど持ってるさ。

ああ、そうだ。金と才能と気品だけは腐るほどある。安心しろ。他に欲しいものはあるか?

 君は雨避けの帽子と目についた黒いローブのような服を指差した。

この時期にあれを着るんですか?

 いろいろ道具をしまうのに便利そうだし、これくらい厚みがあれば、ちょっとした刃物なら通さない。

と、店員に手渡されたトレンチコートを羽織りながら、君は説明する。

考え方が軍人と変わらないな。だがトレンチコートは元々、軍隊で用いられていたものだ。機能性なら申し分ない。

 ウィズが君の肩に飛び乗る。

あと、このコートならウィズの爪で破れることもない。ウィズが君に囁いた。

にゃは。これなら爪を立てても平気そうにゃ。

さ、次はリーリャの番ね。

は、はい。どういうものがいいんでしょうか。わたくし、そういうことに疎くて……。

 そして今回のもうひとつの目的がリーリャに外の世界を見せることだった。

彼女は生まれながら、太陽の光に弱い体質だったこともあり、あまり街に出たことがなかったという。

それは体質だけの問題ではない。彼女の出自が問題をもっと複雑にしていた。

けれど、あの事件後、彼女は少しづつ変化しようとしている。ヴィッキー日く、よく笑うようになったという。

それにしても、なんでこの服屋は10番目の試着室が使用禁止になってんだ?

ケネス、そんなことも知らないの?それは〈トカゲ〉の都市伝説のせいよ。


Bねえねえ、せっちゃん。トカゲの都市伝説って聞いたことある?

Yあー、知ってるー。この前、とし君とお洋服買いに行った時に聞いたよー。

Rなんか、10番目の試着室に入った友人が忽然と消えてしまうって話らしいね。

Bそうなんだよ。いま、すごく流行ってる都市伝説らしいね。というかまたボク抜きでデートかい?ひどいなー。

Yえ?なんで?なんで、でん君にいちいち許可取らなきゃいけないの?ホント、意味わかんない、この蝶ネクタイ。

B開き直りがひどいな。それと、蝶ネクタイに悪い属性は何ーつないよ。むしろフォーマルだよ。

Rなんでもいいから、とりあえずやってみよー。ボク店員やるから、せっちゃんお客さんやって。

Yすいませーん。試着いいですか?

Rでは、その10番目の試着室をどうぞう。

Rお客さまー、如何ですかー?サイズは合ってますかー?

Yキャアアアーッ!!

Rお、お客さまー!

Yキャー、この服、超かわいいー。

B絶対そういうことすると思ったよ。もうボクが代わるよ、せっちゃんは見てて。

Yいや。でん君と代わるくらいなら、死ぬ。

Rそしてそれを見て、ボクも死ぬ。

Bそこまでなの……じゃあ、遠慮しておくよ。

Yすいませーん。試着いいですか?

Rでは、その10番目の試着室をどうぞぅ。

Rお客さまー、如何ですかー?サイズは合ってますかー?

Yキャアアアーッ!!

Rお、お客さまー!

R……どちらさまですか?

よくいる眼帯モブ男です。ちなみにこの眼帯の奥は……ものもらいです。正確に言うと麦粒腫です。

B誰?


という感じで、10番目の試着室を使うと行方不明になる、と噂されているのよ。

 どうして10番目だけなのか。君は感じた疑問を尋ねてみた。

ある狂った大富豪が9人のゲストを呼んだのですが、手違いで10人来てしまった。

その大富豪が最後にゃって来たゲストを殺して席を確保した、という都市伝説があります。

こちらは〈十影の尻尾切り〉というのですが、どこかでこの話が試着室の噂とー緒になったのではないでしょうか?

 十影。10番目の試着室。なんとなくモチーフが似ている気はした。

そこまで詳しく調ぺているということは、次の小説の題材にするつもりのようですね。

ええ、少し興味があって調べていますよ。〈トカゲ〉のことはね。


w皆さんとのお買い物はどうでしたか?

ええ、とっても楽しかったわ。ほら、こんな服、わたくしらしくないでしょ。

wまあ……いいんですか?そんな服?

でもヴィツキーさんがこういうのを着て、自分を内面から変えないとダメって仰ったの。

wそうですか。おや?何か落ちましたよ。

 床を見るとー通の封筒だった。拾い上げ、薄く糊付けされた封が自然にほろりと溶けた。

中には、ひとつのダイスと紙片。文字が書かれていた。

”答えはあくび”

……ッ!!


「おじいさんの口からくびが出てきました。それ、なんて「くび」?」

 その紙片の端には、謎の王と記されていた。




謎の王




story



 帰社したケネスはギャスパーとふたりきりなのを確認すると、切り出した。

何かわかったのか?秘宝か、煙か、怪人のことが?

引き続き調べさせているが、かんばしくないな。あの女もいまはまだ話せる状態じゃない。ヴィッキーがやり過ぎた。

だが、相手も我々のことに気づき始めているはずだ。何らかのアクションを起こしてくるかもしれない。

 ソファーにどすんと腰を下ろすケネス。やれやれだ、と言葉もなく悪態をついているようだった。

 ふとギャスパーがソファーに置いてある奇妙の面を見つける。

それはなんだ?その赤い面だ。長いのはなんだ?鼻か?

こりゃ、今久留主の故郷の何とかっていう、化け物だろ。どっかで見たことがある。

 ケネスから面を受け取り、ギャスパーはまじまじと見つめる。

気持が悪いな。赤い顔もそうだし、長い鼻もだ。そういえば、長い鼻の騎士の戯曲があったな。その主人公のように醜い。

そうか?かわいいじゃねえか、愛嬌があって。

これがか?これのどこがかわいい。お前のセンスを疑う。

 と、ギャスパーが突きつけるように、面の鼻をケネスに押し出す。

そう、ぐいぐい来られると気持ち悪いけどよ……。

 そんなタイミングでドアが開いた。

 今久留主だった。ドアを開ける手が途中で止まっていた。

 今久留主が見たのは、赤くて、鼻の長い面を突き出すギャスパーと突きつけられるケネスである。

Ohoo……!TENGUuuu……!

失礼しました。続けて下さい。僕はこのあたりをぐるりとー回りしてきますよ。出来るだけ、ゆっくりね。

待て待て待て!お前は何を想像した。

何って……「ナニ」ですよ。てっきりおふたりが我が国の伝統的なスタイルを勉強されているのかと思いました。

そんな伝統はさっさと捨てた方がいいですよ。

 君が会社に戻ると、ギャスパーたちが何やら楽しそうに話していた。

 何を話しているのかと尋ねたら、ケネスに嫌な顔をされた。どうやら楽しんでいたわけではなさそうだった。

ところで天狗のお面なんてどこで手に入れたんですか?

オフィスに置かれていたんですよ。なぜか。

 何やらお面について話しているようだった。そんな時、オフィスの奥にある会議室から誰かが出てきた。

ちゅうちゅうねこしばく。ちゅうちゅうねこしばく。なんやこれっぽっちかいな。

しっかし、けったいなところやな。新聞社のくせに金目のモン何ひとつあらへんちゅーのはどういうこっちゃ。

 君とケネスの今週の給料袋を手に持っていた。少女は不意にこちらを見る。

 全員と目が合った。

 少女は再び給料袋に視線を戻す。

はあ、せっかく空き巣に入ったのにこれっぽっちじゃ……ちゅうか!うわあああぁぁぁ!

曲者ーッ!

お前だ。

 なぜー度、何事もなかったようにスルーしようとしたのだろうか、と君は思った。

おいおいおい。このガキ、空き巣だぜ。

そのようだな。私は盗まれるのが嫌いだ。子どもといえど、しっかり罰を与えるぞ。

まだ子どもじゃないですか。罪を憎んで人を憎まずでいいのでは?

なんちゅーか、子ども扱いされて、ごっつ腹立つわ。こう見えてもウチ……。

ボーボーやでッ!!

僕もですよッ!!

張りあうんじゃねえよ。

 君が盗人を捕らえようと前に出る。少女がハッと反応して、目の前の机を叩いた。

捕まるわけにはいかんちゅーねん!超大音量!バーン!!

 小さな手のひらが机を打った瞬間、ものすごい音の圧が君たちを襲った。

 あまりの大きな音に怯んだ君たちは思わずよろける。

 何とか体勢を戻しオフィスを見回すが、少女はいなかった。

まだ遠くには行っていない。追うぞ!

 君はギャスパーとケネスに続いてオフィスを飛び出した。

 ひとりオフィスに残った今久留主は周囲を簡単に調べて、結論付けた。

なるほど。あれが噂の〈力〉ですか。


 ***


いたにゃ!!

 先行するウィズが声を上げる。空き巣に入った少女がすばしっこく屋根の上を駆ける姿が見えた。

ゲゲッシ!なんちゅーしつこいヤツらや。

 その先は屋根が途切れていた。前に広がるのは自動車の行き来が激しい道路であった。

あわわ……。ちゅーか、これ、袋の鼠やんか。

 追いついた君たちが少女を囲む。

さてと、盗んだものを返してもらおうか。それとさっき使った妙な力。それについても詳しく話してもらおう。

 少女はちらりと背後を見る。まるで川の流れのように自動車が走っている。

 ー台、背の高いバスがやってくるのを確かめ、少女はチュチュチュっと小さな笑いを上げた。

はあ……こらもう観念した方がええなあ。大人しくお縄につきます……と見せかけて、ジャァーンプ!

 少女がバスの屋根に飛び移る。不格好な着地で2、3度屋根の上をはねたがなんとか留まった。

ほななー。そう易々と捕まるちゅーわけにはいかんのやー。

 君は、ギャスパーたちに後で追いついて、と言い残して、ウィズを抱えビルから跳んだ。

 交通標識を経由して、さらにもうー度跳んだ。少女のいるバスの屋根に着地し、師匠直伝の受け身を取る。

 立ち上がり、君は少女に大人しくするように言った。

ゲゲゲッシ……人間技ちゃうやん……。

くっそー。窮鼠猫を噛むちゅーことわざもあるんやで。ましてや相手が猫飼ってるヤツやったら、負けるわけにはいかへんで!

 何だかよくわからない理屈だったが、相手が戦う気を見せてきた。

キミ、猫の強さを見せつけてやるにゃ!鼠に負ける猫はいないのを教えてやるにゃ!

 戦うのは人同士なんだけどね、と思いながら、君は戦いの構えを取った。


グレン・ヤニングス?あー、聞いたことはある。サイレント時代の超美形俳優だよね?

 撮影所での昼の撮影が終わり、同僚の若手女優たちと昼食の時間。

 会話は当然のように、仕事や恋やファッションなどの噂話へと広がった。

wヤニングスさんって銀幕の貴公子と呼ばれるほど人気だったのに、突然引退して表舞台から姿を消したんだよね。

zそうなのよ。で、そのヤニングスさんがいま神都に来てるらしいの。

w本当?何をしに来たの?

z『魔術王の指輪』の企画を買い取ったらしいわ。そしてその主役として復帰するとかしないとか。

『魔術王の指輪』って予算が膨大すぎて、制作中止になったやつよね。あのセットだけが残っちゃった。

zそう、それ。しかもヒロイン役を探してるみたいよ。

wでも、本場の女優さんでしょ。私たちはぽら、金髪じゃないから……。

zそれがそうでもないのよ。妖艶でオリエンタルな美女を探してるみたいよ。

ヘー、そうなんだ。

Aヘー、じゃないわよ。あなた、興味ないの?超大作のヒロインよ。

興味がないわけじゃないけど、あたしに妖艶な魅力はないから。

zそんなことだから、いつまでたっても吸血鬼映画で叫んでばっかりいるのよ。なにあの「少年吸血鬼王の紅き黄昏」って映画。

wこの前はなんだっけ?「腕っこき吸血鬼喧嘩で候」だっけ?ぷぷ。もう吸血鬼関係ないじゃない。

いいじゃない。斬新な企画でしょ。あなたたちも「魔術王の指輪」に出たいなら、あたしみたいに大声で叫べないとだめよ。

z大丈夫よ。「魔術王の指輪」はサイレント映画らしいわ。

いまさらサイレントなの?このトーキー全盛の時代に?変なの……。


 ***


ちゅー……。

 君は向かってきた少女を怪我をしない程度に懲らしめた。何かすごい力を持っているかと思えばそういうわけでもなかった。

 バスの運転手に謝り、屋根から下りると、追って来たギャスパーたちと合流する。

堪忍やー。堪忍やでー。ご勘弁お願いしますー。

 給料袋を取り返して、ギャスパーに渡した。

盗まれたものは取り返せたが、お前には聞きたいことがある。まずお前は何者だ。

ウチですか?ウチは先祖代々続く由緒ある盗人の家系、根津家のモンです。根津ちゆう、ちゅーます。

皆さんは知らんかもしれませんが、帝政T国で「鼠ぽんちの弥太郎はん」ちゅーたら、芝居の演目になるほどの大義賊ですわ。

ウチはその末裔ちゅーことです。元をたどれぱ、萬田十勇士の忍者のひとりやったちゅー話ですから、すごい人なんです。

大義賊の末裔というのはわかったけど、それがどうしてこんなところにいるんだ?それも空き巣なんかして。

あー、そらええこと聞いてくれはりました。座布団ー枚ですわ。そこ、そこが重要なんですわ。

かつては大義賊の末裔らしく根津家も笑逗の宣さんを狙ってましたが、環境が悪かったんか、それとも怠けの虫が騒いだんか。

気づいたら、ここ三代の根津家は空き巣を専門にするこそ泥に落ちぶれてましたんや。

おじいはんからお父はん、兄、姉、ウチ、しまいには飼ってる鼠まで。あ、これ鼠の甚八ちゅーます。

ま、みーんなこそ泥です。

 誰かひとりくらい大物になろうとは思わなかったのだろうか、と君は思った。

そんなある日です。ー通の手紙が届いたんです。送り主は世界泥棒連盟ですわ。

 そんな変な団体があるのか、と君は思う。

ああ、あそこか。

 有名なところだった。

 よく考えれば、魔道士ギルドもこの世界の人からすれば変な団体だろうな、と君は思った。

 ギルドマスター、バロンだし。と、君はウィズを見た。

なんにゃ?

 四聖賢はいま猫になっちゃってるし。

手紙の内容は根津家を除名するちゅー話ですわ。ここ数年、大泥棒らしい華々しい仕事をしていないからちゅーことです。

そこでー念発起して、根津家ー同、体の弱いおじいはんを残して、世界中を飛び回っとるちゅーわけです。

そう言いながら、やっていたのは空き巣じゃねえか。

日銭も稼がなあきまへんからねー。商売ですから。ええ、商売ですから。

まあ、それはいい。次はお前の力だ。どこで手に入れた。

これですか?

 言って、ひとつ手を叩いた。

 響いたのはやたら気の抜ける音だった。ただ手を打っただけではこんな音は出ない。

これはウチが前にねぐらにしていた場所で、変な煙を浴びた時にこんなことが出来るようになったんですわ。

ウチがたてる音を思い通りに変化させることが出来るようになったんです。これで音もなく家に入れるんですわ。

ギャスパーやケネスと同じような能力にゃ?

そうかもしれないな。

ギャスはんとケネはんも同じように煙を吸いはったんですか?同じ場所ですかね?あの、映画セットの?

 ギャスパーたちは首を振って否定した。

ん?ちょい待ち。いま誰が喋りはったんや?もしや猫が喋ったんか?

そうにゃ。

はー……、猫の癖に生意気やなー。

ちゆうとか言ったな。お前も我々の仲間になれ。なんなら、雇ってやろう。

おっと、ウチは腐っても大義賊の末裔やで。金で買える思たら大間違いやっちゆーねん。

世界泥棒連盟に口を利いてやってもいいぞ。あそこの理事は我々ポワカールー族の思いのままだからな。

ポ、ポワカール!?ポワカールっちゅーたか、いま?ギャスはん、大泥棒のー族やないですか~。

ちゅーか、そういうことははよ言うてえや。それならウチかて逆らうつもりもありませんよ。

なんやったら、ウチ、ギャスはんの女になってもええんよ。

突然、手のひら返してきやがったな。

チューしてもええんよ。チューしても。

そうだな。もう少し大人になったら考えておこう。本物の恋ってものを知ったらな。

あらー、そういうジェントルなところも素敵やん。女を夢ちゅーにさせるいけずなお人やわー。

 そんなこんなで新たな仲間兼後輩社員が出来たところで君たちはカイエ社への帰路についた。

 そこで君たちを待っていたのは、リーリャが行方不明になったという報だった。



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story



 謎の人物を追いかける君たちは、路地へと行きあたった。

 左右に分かれる道を見つけ、ケネスが指示を送る。

ギャス、ちゆう!右に行け。俺と黒猫は左だ!

よし。合流地点で挟み撃ちにするぞ。ついてこい、ちゆう!

は~い。もちろんですやん、ギャスは~ん。

 どうやらこの街の地理に関してはケネス以上に知る者は少ないのかもしれない。

 君もケネスに追随する。

 君のすぐ下を走るウィズが話しかける。

キミ。少しおかしいと思わないにゃ?

 と問われ、君も小さく頷いた。

 あの逃げた男は確かに怪しい。

 しかし、それとは別にリーリャはー体どこにいるのか、という問題がまだ解決されていない。

そうにゃ。リーリャの居場所がわからないままにゃ。

そんなもん、あいつをとっ捕まえれば、何かわかるだろ。

 楽天的過ぎるが、それしかなさそうだ、と君は踏み出す足に力を込めた。


 ただひとり、部屋に残った今久留主は懸命に脳細胞を働かせていた。

 リーリャの不在。それだけが解決していない問題だった。

不審な男は出て行ったが、部屋の中にリーリャさんはいなかった。では彼女はどこに行った?

部屋から持ち出されたものは……何かあるようには見えない。

 初めて見た時と変わらぬ様子だった。

思考は暗中模索。どろどろとした沼の中を進むようだった。

今久留主は右手に持ったリーリャの下着を握りしめる。捜査中に見つけたものである。色は白だった。

それを顔の前に持ち上げる。

だが、いまいち興奮しない。

そもそもりーリャは高貴な生まれの女性。それが白。

普通じゃないか。普通過ぎた。普通過ぎだ。

イメージを外すという初歩も出来ていない……。

 今久留主は歯噛みした。自分は何としても興奮しなければいけない。

これも捜査の為、ひいてはいまにも命の危険にさらされてるかもしれないリーリャの為である。

下着のー枚くらいなんだ。命を救う為である。きっと彼女だって喜んでくれる。ー枚くらい失敬したっていいじゃないか。

そんなことよりも、いまは心を捜査の鬼にして興奮しなければいけなかった。

停滞する脳細胞に性的興奮の信号を送り、脳細胞をひとつ残らず勃起させねばいけなかった。

これは白ではない……黒だ。リーリャさんは黒だ!

 ここに来て、今久留主は跳躍的な思考に挑戦した。リーリャが白だという事実を捻じ曲げ、黒であると思考した・..

するとどうだろう。脳細胞がむくむくと起き上がるのがわかった。

こうなるともはや実物など思考の邪魔者でしかない。今久留主は手に持った下着をかなぐり捨てる。

そこまでする必要はないな、と思い、拾って懐にしまう。

しかし跳躍的思考の結果、今久留主の脳中に黄金の推理が訪れた。

変な意味はない。比喩である。

部屋から何も無くなっていないのは、最初は何もなかったからだ……。

 リドル王からの封書を手に取り、今久留主はその表面を鉛筆でこする。

こする。こする。こする。

こすった。こすったんだ。

浮き上がったのは、小さな四角い跡だった。サイコロのようなものだろうか?

今久留主は部屋を飛び出し、ヤロスキ夫人に訊ねた。

この封書の中に、手紙以外のものが入ってませんでしたか?例えばサイコロのようなものが……。

 少年の血走った虹彩異色症の瞳に圧倒され、ヤロスキ夫人は数度うなずくだけだった。

僕の推理は間違っていない。だが、あまりに現実離れしている……。

少女が体よりも小さな箱に入れられて、持ち出された……。

 今久留主少年は己の野放図な思考に恐怖した。そして、それが現実に起こったとしか言えないことにも。

今久留主はただ溢れる汗を拭った。自分に出来ることはそれしかない、とでも言うように。

リーリャの下着で。

wあの、それは……。

ああ、失礼。捜査の為にお借りしていました。お返しいたします。ありがとうございます。とても役に立ちました。


 ***


 先を行く男を追って、君とケネスは駆ける。

男が君たちの道を遮ろうと、立てかけられた梯子や瓶を倒す。

君は素早く魔法でそれらを吹き飛ばし、道を確保する。

っと、走る男の足が止まる。先回りしたギャスパーたちが狭い道に立っていた。

さて、話を聞かせてもらおうか。

嫌とは言わないでくれよ。せっかく、ここまで来たんだ。

 じりじりと男との距離を詰める。男は逃げ場を探すが、当然ない。すると。

もういいよ……アタシ相手する。

 それを聞き、男は内ポケットから何かを取り出し君たちの方へ投げた。

コロンコロンと転がったのは四角いサイコロのようなものだった。

そこから、腕が出た。そして、足が出る。また腕が出る。

ゲゲッシ!!なんちゅーこっちゃ!

 呆然とその様子を見るよりなかった。あまりの出来事に動けなかったというのが正しい。

小さな箱から出てきたのは、少女だった。

外……だいっきらいなんだよ。

 少女はじろりと男を見ると、その頭を手に持った小さな箱の中に入れてしまった。

なんでアタシが……外に出なきゃ……いけないんだよ……カス。

 明らかに質量の法則が捻じ曲げられている。異様な光景。

怪人さんのお出ましかよ。

 ケネスの声は絞り出すようだった。

首から上が小さな箱に収まった男は崩れ落ち、足をばたつかせていたが、やがて止まった。

カス……お前らもだよ。


「魔術王の指輪」。サイレント映画の巨匠または映画の父と称されたD.W.ガーフィーが悲願とした企画であった。

しかし、時代はトーキーの登場によってあっという間にサイレントを、映画の父を過去にした。

それでも諦めきれなかったガーフィーは極東の僻地に渡り、制作を企図した。

だが、それも夢半ばで終わり、最後は酒浸りの人生を自ら引き金を引いて終わらせた。

ここは夢の残滓であった。


さすがに夜に来ると気味が悪いわね。

 夜の闇の中に浮かび上がる悪魔たちがヴィッキーを見下ろす。

木組みと合板で作られた魔術王のしもべたちは、金という魔力を失い、不完全な形で佇立していた。

ヴィッキーは周囲を見回した。

何が来ようとも不足はないが、嫌な予感だけはあった。

宮殿の奥から魔術王の如く、ゆっくりと近づいてくる人影が見える。

男。グレン・ヤニングス。

男の影がヴィッキーの足元まで迫る。

遅いじゃないですか、ヤニングスさん。で、どういったご用件ですか?

 魔術王かと思われた男は、口の端を歪める。

Uさて、第1問目です。

その男は、謎の王であった。


 ***


 陰気な少女は、舌打ちをひとつ打ち、小さな箱を取り出した。

その小さな箱の中から、それよりも大きな箱を取り出す。常識外の技だ。

臭い……外はなんで、こんな臭いんだ?色んな匂いがして……混ざり合って……なんでこんなに……複雑で、臭いんだ?

ギャーギャー……ギャーギャー、うるせいし。何が楽しくって……バカみたいに……下らない話してんだ?

頭がクラクラするし……目はチカチカするし……耳はグチャグチャだ。どうして……くれんだ。どうして……くれんだ?

お前らが……うるさいからだ……。

 少女は陰気な獣のような視線で君たちを睨みつけ、激しく恨みを叩きつけた。

ちゅーかウチらなんもしてへんけどな。

そうだぜ。世の中が騒がしいのは俺たちのせいじゃねえ。勘違いすんなよ。

 陰獣の目が鈍く光った。

ケネスに向って箱を投げつける。と、同時に自分も跳んだ。そしてするりと箱の中に滑り込んだ。

うわっっと。なんだ?何が起こった?

 受け止めた箱をケネスは怪厨に見つめる。すっと箱に添えた手に細い手が重ねられる。

どこから出てきた?箱の中から。手だけが出てきて、ケネスの手を掴んだ。

かと思うと、ー瞬でケネスは箱の中に引きずり込まれた。

ゲゲゲッシ……!!

 言う間に隣にいたちゆうも引きずり込まれた。

地面に落ちた箱の中から陰気な少女が出てくる。箱を踏みつけ、君たちを見据えた。

少しは……静かになった。

箱の中に出し入れする力か?

 相槌代わりににやりと笑って、再び箱を投げつけてくる。今度はふたつ。

君はすぐに魔法で箱を迎撃する。粉々に砕けると同時に白い煙が周囲を覆った。

囮にゃ!

 反射的に君とギャスパーはその場から飛び退いた。

やはり相手も消えている。だが、どこに行った?

 周囲を見回すギャスパーの視線は頭上で止まる。

矩形の提灯がぶら下がっていた。

少女が逆さになって、提灯から出てくる。ギャスパーの胸倉をその手が掴み、上へと引き上げる。

びぃい!!

 ー瞬、少女が凍り付いた。視線はギャスパーの後ろ、窓ガラスにあるようだった。

君はそれを見逃さず、魔法を放つ。だが、陰気な少女は提灯の中から飛び出し、魔法の矢をかわした。

路地の向こう、大通りの手前に少女は降り立つ。

まあ、もう面倒……臭いや。

 と、呟いて、大通りを走るトラックの荷台にあったコンテナに飛び移った。

逃げられる。すぐに動いたのはウィズだった。

キミ!私をあそこに向けて投げるにゃ。

 君はウィズを抱えると、そのトラックに向けて、投げつけた。

ウィズは猫らしく、見事な着地を決めて、雑然とした荷台の影に潜んだ。

ギャスパーは呆然と窓ガラスを見つめている。

君がケネスたちを救おうと提案すると、小さく頷いた。

そして箱の中では。

なんちゅーか、どうせやったらギャスはんとー緒に入りたかったわー。

なんやったら、箱の中で既成事実作ってもうてもええのになー。

うるせー。俺だってお前なんかと入りたくねえよ。おーい、ギャスー?黒猫?どっちでもいいから出してくれよ。

頼んますー。ギャスはんのと違うてケネはんの香水、えらい安物で鼻が曲がりそうですわ。お願いしますー。

うるせえ。お前なんてもっと貧乏臭え匂いをさせてるじゃねえか。鼠のションベンでもつけてんのか?

れ、レディになんちゅーこというねん!しばきまわしたろかっちゅーねん、このチンピラがっ!

 これはこれで大変そうだな、と君は思った。

助けてやろう。……というか、聞くに堪えん。

 君もこの意見には同意した。

それはともかく、今回は相手のいいようにされてしまった。

ウィズがなんとか尾行を成功させてくれることを願うしかなかった。





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