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【黒ウィズ】大魔道杯 in ARES the VANGUARD Story

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最強のヒーロー?ー昔前なら「ディオニソスⅫ」と答えていたところだが、さて、いまはだれになることやら。

だが、もっとも恐ろしいヒーローならわかる。――アテナⅦだ。


こんな話がある。

ひとりの悪党がドジった。悪事の現場を押さえられて、ヒーロー部隊に追いかけ回された。

ところがヒーロー部隊もドジった。そのヴィランに、学校に逃げ込まれちまったのさ。

あとはお決まりの立て寵もり。子供たちの命が惜しければ逃亡手段を用意しろ、ときた。

その現場に、英雄庁はひとりのヒーローを向かわせた。ゴッド・ナンバーズのひとり――アテナⅦだ。


事情はわかった。私に任せるがいい。


アテナⅦは単身で校内へと向かった。

言うまでもないことだが、ゴッド・ナンバーズは本物の神器を使うことのできる選ばれし12人のヒーロー。

英雄庁の広告塔として顔が知られている奴も多い。当然、すぐにヴィランに気づかれた。


zそれ以上、近づくな。人質の命が惜しいならな。

惜しいさ。だから私が代わりに人質になろう。捕らえている人々を解放して欲しい。

zゴッド・ナンバーズがただの市民の代わりに?そんな戯言を信じるとでも?

恐れているのはこれだろう?受け取れ。

 ヴィランの足元に転がったのは盾――神器だ。ゴッド・ナンバーズの象徴にして力の源であるそいつを、アテナⅦは手放したってわけだ。

ヴィランは驚いた。けど、こいつはアテナⅦにとっちゃ、当然の選択だった。

――トロッコ問題は知っているよな?

制御不能のトロッコの前に5人の人間がいて、黙っていれば確実に轍かれて死ぬ。自分はそれを見ている。

その自分の目の前に、別の人間がいる。その人の背を押してぶつければ確実にトロッコは止まる。しかし当然、その人は死ぬ。

1人を犠牲にして5人を救うべきか否か……。要するに、多数のために少数に犠牲を強いることは倫理的に許されるか、という問題だ。

正しい答えなんかありはしない。答えは人の数だけある。

アテナⅦが最初にこの問題にぶち当たったのは彼女がまだヒーローになる前、10にもならないころだ。

アテナⅦ――いや、ヒーローになる前だから、本名でネルヴァと呼ぶべきか。少女時代、彼女はヴィランの立て箭もり現場に居合わせた。

犯人にはなにか政治的な主張があったらしいな。立て箭もりは数時間にも及んだそうだ。

犯人も人質も疲弊していた。そんな極限状態が原因か、その時、ネルヴァ少女は神の力に目覚めた。そして気づいたんだ。

(いまの私ならば、犯人を殺し、みんなを救うことができる)

――迷わなかったらしいな。

ー瞬の隙を突き、アテナ神の権能によって発現した刃を犯人の背に突き立てた。

それで、立て籠もり事件は終わり。ネルヴァはその功績を讃えられ、ヒーローとなるべく政府に育成された。

そして数年後、神器に選ばれ、見事アテナⅦとなったってわけだ。

そんな彼女だ。多数の人質と自分ひとりの交換。迷う余地なんてどこにもない。

z……いいだろう。手をあげたままこっちへ来い。お前と交換に、人質は解放してやる。

 アテナⅦは指示に従い、ヴィランに近づいた。そしてあと3歩の距離まで近づいた時――

アテナⅦの首に、ヴィランの髪が無数の蛇のように巻き付いていた。

半蛇のように生きた髪で、狙った獲物を絞め殺す連続猟奇殺人鬼。市民の命を自らの欲を満たす嗜好品としか捉えない怪物。

その神話特性と、獲物への審美眼を自ら喧伝したことから、ついたヴィランコードは〈グルメドゥーサ〉。

追跡した若いヒーローを何人も返り討ちにし、ついには大部隊での捜査網が組まれた正真正銘の凶悪ヴィランだ。

zせっかくの獲物だが、猛毒をゆっくり味わう趣味はない。死ね。

 グルメドゥーサは、殺す時に躊躇をしない。巻きつけた蛇髪でー息に首を折る。油断はしないタチだった。だから――

梟。

 突如として舞い散った羽根によって生きた髪が切り裂かれたのは、純然たる実力差によるものだ。

zなっ……神器は手放したはずじゃ……。なぜ力を使える!

ゴッド・ナンバーズを舐めてくれるな。神器や人造神器の助けなどなくとも、この程度の力ならば自在に扱える。

 そこでヴィランのとった選択は、立て寵もり犯として当然のものだった。すかさず距離を置いて宣言したのさ。

zやってくれたもんだね、ヒーローさん。よーくわかった。人質のガキどもは「視」させてもらうよ。

 ヴィランの宣言は、力の解放を意味している。神話の怪物メドゥーサ。その真の恐怖たる能力。そう――石化だ。

もっとも、実際に石になるわけじゃない。石のように麻庫しちまうだけだ。心臓までも、な。

zたいした英雄だな、ゴッド・ナンバーズ。お前のせいで、大里のガキが死ぬ。

貴様を野に放ったままではより多くの被害者が出る。多少の犠牲はやむを得まい。もっとも――

 最後まで聞かず、グルメドゥーサは魔眼を子供たちに向け、宝石のように光らせる。だが、その邪悪な視線は届かなかった。

今回の犠牲者は最少で済む。

 盾だ。アテナⅦの盾がいつの間にかヴィランの視界を塞ぎ、神の力ですべてを遮断していた。そして――

覚醒せよ、神器。

 次の瞬間、まばゆい輝きに包まれて、ヴィランの肉体は石のように硬直した。

〈アイギスの盾〉――あらゆる邪悪を払うといわれる最強の防具。アテナヒーローの神器。

その中心には、英雄ペルセウスより捧げられたメドゥーサの首の力が秘められている。

皮肉なもんだ。メドゥーサの神話還りが、メドゥーサの力にやられたのさ。

我々は選ばれたのだ。この手から離れた神器を操るなど、造作もない。――さて。

起動せよ、人造神器。

 アテナⅦには〈アイギスの盾〉の他に武装がある。人造神器の最高傑作と呼ばれる人造神剣エリクトニオスだ。

神器と人造神器の同時発動。そんな芸当ができるのは、ゴッド・ナンバーズにもアテナⅦしかいない。

その手に造られた神の刃を発現させ、無慈悲に、無感情に、アテナⅦは告げる。いつものように。

死ね。


 ――アテナⅦには癖がある。数字をかぞえるんだ。

なんの数字か?決まっている。関わった事件で死んだ人間の数さ。そこには老若男女の区別はない。

偉い大人も無力なガキも。ヴィランも、ヒーローも。アテナⅦにとっては、どの命も等しく「1」だ。

……もっとも恐ろしいヒーローといった意味がわかったかい?

アテナⅦには迷いがない。ただ機械的に、数だけで判断する。5人を救うためなら、迷わず1人を突き飛ばす。

あの時もそうだったって言うぜ。奴がヒーローに目覚め、ヴィランを背後から刺したあの時――

立て龍もり事件の犯人であるテメエの母親を殺したあの瞬間も、奴はただ静かにかぞえていた。

――1。

 ……ってな。


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 さて、最強のヒーローだったか……?そいつは知らねえが、最低のヒーローなら知っている。

よく知っているんだ。

ご存知の通り、ヒーローってのは公務員だ。給料は悪くないが、収入には限界がある。

にもかかわらず、オリュンポリス1の豪邸に住んでいるヒーローがいる。俺はそいつにインタビューを申し込んだ。

ヘパイストスヒーロー、アイスキュロスにね。


ようこそ記者くん。なにか飲むかい?飲まない?遠慮してもいいことないよぉ?

で、僕になにを語ってぽしいの?ファッションのこだわり?モテる秘訣?ー般人が僕の真似しても無駄だと思うよぉ。

 俺は早速、用意していた質問をぶつけた。訊くべきことはいくらでもあった。

副業不可の公務員でありながら、現在もなお、かって在籍したヘパイストス重工の、実質的な経営者であるという噂の真否は?

ヒーロー活動をまともにしていないという疑惑については?戦闘中、市民に被害が出るとわかってて兵器を使ったという疑惑は?

人造神器研究の第ー人者であるゆえに、数々の不正を見逃されているのではないかという噂についてどう思っているか?

俺がいくつかの証拠をあげながら、矢継ぎ早に質問をするあいだ、アイスキュロスはつまらなさそうに掌中のグラスを弄んでいた。

よく調べてるねえ。僕のことが好きなのかい?だれであれ、好かれるのは悪い気はしないよ。いいよ、ちょっとばかり教えてあげよう。

けど、さて、どこから話したものだろうね。僕に娘がいたことから話そうか。

僕がヒーローになるのが遅かったことは知っているね?その前はヘパイストス重工で人造神器の研究をしていたことも。

けどね、それ以前の僕はなんの力もない小さな工場で働くー介の技術者に過ぎなかったんだよ。もう何十年も前だ。

ヘパイストス神の神話還りではあったが、ヒーローなんて務まる力はなかったよ。

貧しくてね、酒を飲む余裕なんてなかった。けど、満たされていたなぁ。大切なものだけは持っていたんだ。――家族さ。

妻は決して美人ではなかったけど、優しかった。いつも僕のことを気遣ってくれてね。いい女だったよ。

娘は可愛い盛りでね。休みになるといつも僕の後をついてまわっていた。パパ、パパってね。

もちろん、パパのお嫁さんになるとも言われたよ。あの時は妻と娘が喧嘩してねえ。ハハハハハハハ!

……その、3日後だったね。娘が殺されたのは。

娘が選ばれたことに、意味なんてなかった。ただそこにいて、ただほんの3分、妻が目を離していた。それだけ。

それだけの理由で、娘はガラスに襲われたゴミ袋みたいにされてしまった。

犯人は捕まらなかったよ。いいや、ちょっと違うか。英雄庁は犯人を捕まえなかった。

容疑者はいたんだ。だが、政府に太いパイプのある大企業のCEOでね。手が出せなかったんだよ。

僕は必死に調べて、それを知った。そして妻に伝えたんだ。悔しさを分かち合いたくてね。

……その日の夜に、妻は自殺したよ。絶望したんだろうね、英雄庁に裏切られて。

僕が人造神器の研究をはじめたのは、それからさ。

理解するのに、1年かかった。構造的欠陥に気づくのにそれから2年。それを克服するのにさらに3年だ。

人造神器の革命、だなんて当時は言われたよ。まあ、事実、いまでも人造神器のぽぼすべてが僕の発明の延長線上にあるからね。

その成果をもって、僕はヘパイストス重工に特別待遇で迎えられた。それからのことは、君も詳しいんじゃないかい?

僕はあらゆる手を使って社でのし上がったんだ。あらゆる手を使って、だよ。

自分の研究と会社の設備を合わせて、限界まで神話還りの力を強めもした。その力でライバルを潰しもした。

それでも結局、10年ほどかかったよ。当時のCEO――つまり、あの事件の犯人を追い出すのにはね。

時間がかかった分、身ぐるみは念入りに剥いであげたよ。

おかげで、地位も権力もなくしたあいつが、過去の行状を洗いざらい調べられてヒーローに始末されるまではすぐだったよ。

……意外と虚しかったね、15年以上かけ、何人もの人生を踏み潰して成し遂げた復讐の感慨ってものは。

ヒーローになろうと思ったのは、それからだよ。僕にはもう、なにもしたいことがなかったからね。せめて力の使い道が欲しかったのさ。

記者くん。君は僕を断罪しに来たんだろう?僕の手は汚れている。自分でも自身が正しいとは思わないよ。

けれども、間違っているとも思わない。ただの正義では裁けない悪もいる。僕のようなヒーローも、時には必要なのさ。

 静まりかえった応接室に、空になったグラスの中で溶けかけた氷が立てるかすかな音が響いた。

その氷に指先で触れながら、アイスキュロスは静かに言った。

まあ、全部ウソだけどね。

ハハハハハハ~!信じた?信じた?即興にしてはよくできた話だと我ながら思ったよぉ。

ヒーローになったのは、暇つぶし。ほら、僕って超金持ちで天才だからさ、やることなくなっちゃったのよ。

で、なんだっけ?僕にかかってる疑惑?そりゃ仕事はサボりもするし、いろいろなことはしてるよぉ。

ヒーローとはカッコいいものだろお?ちまちまパトロールしたり市民に媚を売ったり、ルールに縛られたり、カッコよくないじゃない?

だから好きにやらせてもらっているのさ。不正?ま、してるけどさあ、バレなきゃ問題ないない。だろぉ?

 俺は訊いた。3年前のヘパイストス区での事件。市民に被害が出るとわかっていて戦闘を行ったというのも、事実なのか、と。

ああ、あれね。だってさあ、面倒じゃない。こっちはヒーロー様だよ?市民の10人や20人、気にしてらんないよぉ。

 その答えを聞かずとも、わかっていた。けれども俺は、本人から直接聞きたかった。聞けて、最後の決断ができた。

3年前、俺の恋人を戦闘の巻き添えにして殺したヒーローに、復讐をする決断をだ。

3年間、ずっと調べていた。ヒーローとはなんなのか、ずっと考えていた。ナンバーズに詳しくなったのはそのついでだ。

そしてアイスキュロスヘの復讐を決意した。俺はインタビューしに行ったんじゃない。暗殺をしに行ったんだ。

奴を恨んでいるものは、他にもいた。その中のひとりの神話還りと俺は手を組んだ。

遥か彼方の標的を射抜く狙撃の天才。百眼の英雄アルゴスの力を持つヴィラン――〈アルゴスナイパー〉とだ。

ヒーローは神や怪物の力を持っている。だが、それは神器や人造神器によって力を引き出せばの話だ。

普段の奴らは、少し頑丈だったり腕力が優れていたりするだけの、ただの人間だ。

ゆえに、意識の外から命を刈り取る狙撃には、存外に弱い。アルゴスナイパーは3マイル先から俺たちのいる応接室に銃口を向けていた。

ただの銃じゃない。戦車の装甲をぶち抜くアンチマテリアルライフルだ。

ただし、窓から奴の姿は目視できない。直接は狙えない。それははじめからわかっていた。

だから、俺だ。ミリ単位で計測できる高精度のGPSを身につけた俺が、アイスキュロスとライフルの射線上に立つ。

あとは、俺めがけて撃てば、俺ごと奴を仕留めることができるというわけだ。

作戦は完璧だった。必要だったのは、俺の最後の決意だけ。そしてそれもできた。

僕に不正があるかどうかなんて、ちっぽけなことだ。みんな僕を認めている。市民も、英雄庁も――

 得意げに語るアイスキュロスの言葉を遮るように、俺はアルゴスナイパーに合図を送ろうと手を動かし――

だが、遅かった。

神器もね――さあ、起きる時間だよ。

 奴の手の中で、輝きが満ち、拳銃を形作った。それが目にも留まらぬ速度で構えられると、間断なく銃声が轟く。

ばぁ~~ん。

 全面ガラスが派手に飛び散るなか、俺は暗殺の失敗を悟った。気づかれた時点で、終わりなのだ。

アイスキュロス――いや、ヘパイストスⅪの神器〈鍛冶神の撃鉄〉。それは距離を無視し、狙った敵を確実に射抜く。

3マイル先のビルの屋上で、アルゴスナイパーは狙撃姿勢のまま、くたばっていることだろう。

安心するといい。君は殺さないよ。テロリストとして特別刑務所送りだ。英雄庁にも点数を稼が世てあげないとね。

僕と英雄庁はWINーWINの関係だし、なにより僕は、ほら――

 奴は、最低の笑みを浮かべて、言った。

国家公務員(ヒーロー)だからね。



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wんなわけで、俺はいま、この特別刑務所にいるってわけだ。なんかの参考になったかい?

もちろんさ。ありがとよ。約束の礼だ。とっときな。

wありがてえ。ムショん中じゃモクなんて手に入んねえからな。

しかし、本当にいいのかい?Ⅲの懐刀と言われたヘラ101にとっちゃ、わかりきった話ばっかだったろうに。

ソースやエビデンスは多けりゃ多いほどいいんだ。んじゃ、アタシは行くよ。元気でな。

 ゾエルは面会室を出ると、足早に愛車へと戻り、ストリートを走り出す。

トロッコ問題、か……。やなこと思い出させやがる。

 そしてフロントガラスを流れていく街を眺めながら、物思いへと沈んでいった。


ヘラ101。それがヒーローとしてのアタシの名前だ。

だが実際はアタシにはヘラ神の力なんざない。それどころか、神話還りですらありゃしない。ただの人間だ。

アタシにあったのは、小狭い頭とクソ度胸くらいのもんだ。ところがそれがない奴がいた。


ヘラⅢ。あらゆる情報収集能力に長けた、神々の女王にふさわしい能力の持ち主。けれど集めた情報をうまく使えなかった。

情報ってのは薄汚れているほど使いでがある。そいつをドス黒くできりゃなお良い。そんなものを扱うには、アイツは優しすぎたんだ。

だから、アタシが代わりに使ってやった。そうやって、英雄庁でのし上がっていったんだ。

アタシらは互いを必要としていた。アイツが情報を集め、アタシが使い方を考える。最高のコンビだった。

おかげでヘラ区の治安はもちろん、英雄庁の地位もずいぷんと向上した。なにもかもがうまくいくように思えた。

――あの日、アイツの息子がヴィランどもに誘拐されるまでは。

当時、アタシはあるヴィラン組織を追い込んでいた。アイツは心配していたが、アタシは徹底した。

奴らはその報復として、アイツの家族を誘拐しやがったんだ。

アタシはヘラⅢ(アイツ)の影。アタシの仕事は全部、アイツのやったことになっていた。だから、恨まれたのもアタシじゃなくアイツだった。

人質解放の条件に、ヴィランは特別刑務所にぶっこまれた仲間の解放を要求した。――できるわけがない。

いかなる理由があろうと、テロリストの要求を呑まない。アタシはアイツの名でそれを徹底していたんだ。

アタシはそれを破るべきだとアイツに言った。ゴッド・ナンバーズなら特別扱いも許されるはずだ、と。

アイツは断った。トロッコ問題だ、と。自分たちは5人を救うため、1人を犠牲にすることを強いた。それがルールだと言ってね。

なのにその1人が自分にとって特別だから、なんて理屈でルールを覆すのは裏切りだ、ってな。

――で、アイツの息子は死んだ。おかげでクソッタレなシンジケートは跡形もなくぶっ潰せたさ。

そしてアイツの心もぶっ潰れた。

アイツはヒーローを引退した。幸い、すぐに次のヘラⅢは選ばれて問題なく神器を引き継ぐこともできた。

いまのヘラⅢはバランスの取れた奴だ。アイツほど能力は高くないが、情報の使い方を知っている。アタシはお役御免になった。

……アイツを壊したのはアタシだ。ルールで感情は縛れねえ。歪み、軋み、いつか壊れる。

だから、アタシはルールの先をいく先駆者――ヴァンガードを設立した。

アテナⅦ。ヘパイストスⅪ。こいつらは英雄庁のルールに縛られちゃいない。独自のルールで生きている。

奴らを後ろ盾にできれば、他のナンバーズもそうそうヴァンガードに手出しはできねえ。だったら、やってやるさ。

どんな手を使おうとも、ヴァンガードは成立させてみせる。もう二度と、アイツのような想いをだれかにさせてたまるもんか。


 ***


いまの英雄庁は危険なんだよ!

 翌日、ゾエルはとある会議室で熱弁をふるっていた。その前には、ふたりの人物が腰掛けている。

アテナⅦとヘパイストスⅪ。ゾエルは協力体制を取り付けるため、ふたりとの面会にこぎつけていた。

風に揺れる木は折れねえが、風に逆らう木はいつか折れる。いまの英雄庁はそれとおなじだ。だれかが変えなきゃならねえ。

これだけのデータがそれを示してるんだ。アンタたちならわかるだろう!?

そこでゾエルは言葉を切る。ヘパイストスⅪは口ひげを撫でながらアテナⅦへと視線を送った。

貴様の理念とやらには興味はない。が、ヴァンガードとやらには興味がある。

アレス零――存在しないはずのナンバーズ。強いらしいな。私とどちらが強いかな。

ネルヴァちゃんの方が強いに決まってるって。ネルヴァちゃんは最強!ネルヴァちゃんが最高!

確かめねば、わかるまい。

だったら、協力しておくれ。そうすりゃいくらでも確かめる機会はあるさ。

ふむ。私も英雄庁のやり方に全面的に賛成をしているわけでもない。悪い話ではないな。

ネルヴァちゃんがそういうなら、僕も協力しちゃおっかなあ。

 ゾエルは内心で拳を握る。話は存外にすみやかにまとまろうとしていた。だが――

いやいや、でもその前に?もうひとりにご意見をうかがってみましょう。

 ヘパイストスⅪが指を鳴らし、ほとんど同時に、扉がひらく。あらわれたのは――

……アポロンⅥ!なんでここに……。

そりゃもちろん、僕が呼んだからさ。ゴッド・ナンバーズの代表格といえば、彼をおいて他にいないからね。

……やってくれるじゃねえか、Ⅺ。


話はじっくりと聞かせてもらった。

 その視線はあまねく地を照らす輝く光。その声音は悪を灼き尽くす極限の熱。その姿はだれもが眩く仰ぐ天上の日輪。

そこに立っているのは、「ヒーロー」という概念が、人の形をとった存在であった。

陰でこそこそと動いていると思えば、くだらないな。ヴァンガード?そんなものに正義がありはしない。

だが、道は自分で選ぶもの。Ⅶ。Ⅺ。君たちが奴らにつくというなら止めはしない。だが、私の敵に回ったと理解させてもらう。

その覚悟があるのなら、好きにするといい。言いたいことはそれだけだ。

 それだけを告げると、アポロンⅥは踵を返す。遠ざかっていくその背にすら、太陽が燃えているようだった。


いやいやいや、残念残念残念。Ⅵの旦那に弓引くわけにはいかないよねえ。そんじゃ、ま、そういうことで。

零の実力を確かめるなら、協力するよりも、もっと手っ取り早い方法があるようだな。

ディオニソスⅫに伝えておけ。最強のヒーローはもう貴様ではない、とな。


……やれやれ、裏目に出ちまった。衝突は避けられそうにねえか。こうなったら……。


 ***


あ、ボス、おかえり~。お土産のパワフルワンは?

アレイシア!拳だ!

え?そんなこと急に言われても、よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

ちょっ、なにやってるんですか、ボス!アレイシアと殴り合うなんて!

こうなりゃウチの流儀しかねえよなあ!さあ、忙しくなるぞ!拳と拳の語り合いとしゃれこもうじゃないか!




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