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【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード2 Story2

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ゼウス区――オリュンポリスの中心に存在するこの地区に、英雄庁総本部はそびえ立つ。

その巨大な建物のー画に、余人は入ることの許されない部屋がある。

選ばれし12人のトップヒーロ――ーゴッド・ナンバーズが集う作戦会議室、通称〈神卓の間〉である。

全員に招集をかけて集まったのは3人か。いつものことではあるが、足並みが揃わんな。

 アポロンⅥ。峻烈なる光明神。実績、人気、経験、すべてがー流。英雄庁の顔と言われるヒーロー。

仕方あるまい。プロメトリックが活動を再開したのだ。呼んですぐ集まれるほど、どのナンバーズも暇ではなかろう。

 アテナⅦ。悪を許さぬ冷血なる戦女神。その凄烈な戦い方から、最強の座にもっとも近いヒーローと噂されている。

そうは言っても、本当に忙しいのはⅢとⅤくらいでしょ~?ⅠやⅩなんてどこでなにをしているのやら。

 魂麗なる鍛冶神、ヘパイストスⅪ。ヒーローにして天才工学者。彼以上に人造神器を知悉した人物はいない。

あらゆるヴィランが震え上がる、そんな3人のヒーローを前に、ひとりの女性が昂然と胸を張り立っている。

あんたらが全員揃うことなんてないだろ。こっちもヒマじゃねえんだ。ウチに文句があるならとっとと始めてくんな。

では手早く伝えよう。ゾエル、貴様が創設したヴァンガードなる部隊、不要であると私は判断する。

あれは規律を破り、市民を惑わすだけのもの。オリュンポリスの平穏を乱す異物だ。

ルール大好きのアンタならそういうだろうね。で、Ⅶ、Ⅺ、結局、アンタらもⅥの側についたってわけだ。

Ⅵの主張の正否は知らぬ。だがヴァンガードが必要な存在であると主張するのならば、証明してもらいたい。それだけだ。

僕はどっちでもいいんだけどね?アテナⅦが言うなら、その意見に賛成だなあ。

ご立派な意見をどうも。で、どう証明しろってのさ。考えがあるんだろ?

先日、貴様らの妨害によりアキレラレウスなるヴィランを取り逃がしたそうだな。これを捕まえてみせろ。

ただし、本件には越境捜査権をもつヒーローも参加させてもらう。つまり――

私とアテナⅦだ。我々が先にヴィランを捕まえれば、ヴァンガードの必要性はないと判断する。

つまり「ゴッド・ナンバーズより先にヴィランを挙げてみせろ。できなけりゃヴァンガードをぶっ潰す」って言いたいわけだ。

上層部の承認は得ている。無理だというのならいまこの場で解散を決定させてもらうだけだ。好きな方を選ぶといい。

ごちゃごちゃ言っても仕方ねえだろ。いいさ、博打は嫌いじゃねえ。やってやるよ。

了解した。ではアポロンⅥの名において、現時刻をもってヴァンガードの特殊権限をー時凍結する。

はい、りょ~かい。ヘパイストスⅪ、見届け役として両者の合意を確認しましたよ、と。

なに?おい、ちょっと待て!なに勝手なこと言ってやがる!

勝負を対等にするため、我らと条件を同じにしたまで。それぞれの区のルールを守ればいいだけだ。問題ないだろう?

安心しろ。黙って守るとは思っていない。ジャッジをつけさせてもらう。

なにがジャッジだ。監視だろ。だれだよ。まさかⅥにやらせるなんて寝言は言わねえよな?

ジャッジはもっとも相応しいヒーローに頼んだ。ここにはいないが了承はとりつけてある。

……なるほど、Ⅸか。

 アフロディテⅨ。厳正なる美闘神。公正無私で知られる彼女の裁きには、何人たりとも逆らえない。

異存はあるまい。

で、Ⅺはサポート兼見届け役ってところか。ナンバーズが4人も出張ってくるとは、高く見積もってくれたね。嬉しくて涙が出らあ。

アレス零――存在しない神の力を宿し、パワーだけなら我らにも匹敵するという謎のヒーロー……見極めさせてもらう。

OK……と答えるしかないんだろ?やってやるよ。覚悟はとっくにできてる。ヴァンガードの力、見せてやるよ!


 ***



「いいだろう……俺も覚悟を決めた。アンタを倒す!

ネクタルよ!すべての力をここに顕現しろ!神剣ザグレウス!」

「……すまない。」

「謝る必要はない……。あとは……頼んだぞ……。!」

「クリュメノス……!うぉぉぉぉぉぉ!」


……夢か。

……お兄ちゃん……プロメトリック……エウブレナ……そして、アレイシア……時は近い、か。


 ***


でも、驚きました。ヴァッカリオ隊長がアポロンⅥ様の弟だったなんて。

おいおい、そりゃこっちのセリフだよお。エウちゃんがハデスⅣの娘だなんて聞いてないっての。

なんでふたりとも言わなかったにゃ?

知名度の高いヒーローの家族はヴィランに狙われやすいからな。トップヒーローの個人情報は秘匿されてんのさ。

ま、そういうのがなくてもおいらはお兄ちゃんに嫌われてるからさ。言いふらしたりしたら殺されちゃうって。

家族なら仲良くした方がいいにゃ。

おはよ~……。

 アレイシアはあからさまに元気がなかった。

あ、朝ごはん食べてくるの忘れてた。まだ時間あるよね?ちょっとエリュマ行ってくる……。

あ、待っ……。

 言いかけたエウブレナが途中で言葉を止め、君の耳元でそっと囁いた。

魔法使いさん、ごめんなさい。よければいっしょに行ってあげてくれないかしら?私より、貴方のほうがいいと思うの。

 事情はわからないが、エウブレナは真剣だ。任せて、と君はいい、外に出ていくアレイシアの後ろを追った。


アレイシア、らしくないにゃ。昨日の男が気になってるにゃ?

そりゃボクだって気にするよ。相手はアポロンⅥだぞ?……って、君は知らないんだっけ。

 そんなに立派な人なの?と君が問うと、アレイシアは深くうなずいた。

あんなに人を救ったヒーローはいないよ。ボクが生まれるずっと前からナンバーズで、いまもだれより活躍している。

ボクとは少し考え方が違うけど、尊敬してるヒーローなんだ。ー番じゃないけどね。

 アレイシアのヒーローに対する想いは真っ直ぐだ。それだけに、尊敬している人物と対立することになって悩んでいるのだろう。

万がーにもウィズと対立することになったら……と、考えると、君にも彼女の気持ちがよくわかった。

悩みながらも君とアレイシアはエリュマにたどりつき、無事に朝ごはんのエリュマバーガーを買ったのだが……。

あれ?イートインの席がひとつしか空いてないや。どうしよう。帰って食べる?

アレイシアちゃ~ん。席探してるんでしょ?こっちこっち~。

あ、リベッさん。どうも。でも、そこも席、ひとつしか空いてないよね?

大丈夫だって。いいから来てみ。

 アレイシアが首を傾げながら近づくと、リベルティーナはアレイシアをひょいと持ち上げ、自分の膝の上に座らせた。

リベッさん、ボクは子供じゃありませんので。

いいじゃん。みんなで食べよ。それとも、あーしは帰れってこと?

そ、そんなことは言ってないけど。

じゃあ、こうするしかないんじゃない。あ、魔法使いさんだっけ?隣の席どうぞ~。

 君は隣の席に座り、ウィズを膝の上に乗せた。

キミ、私をアレイシアと同レベルに扱ってるにゃ?

 立派な師匠だと思ってるよ、と君が答えると、リペルティーナは楽しそうに笑った。

あーしも、アレイシアちゃんのこと、立派なヒーローだと思ってるって。いつもお仕事、お疲れちゃん。

 そう言って、リペルティーナは眼の前にあるアレイシアの頭をぐりぐりと撫でた。

う~……食事中だぞ。

ごっめんごめ~ん。目の前にあったからつい。でもアレイシアちゃんさ~、もしかして、なんか悩みごとでもある?

うっ……実はちょっとだけ……。

やっぱ?ちょっと話してみ。話せる範囲でいいから。

尊敬する先輩と仕事でぶつかっちゃって……。ボクは絶対に間違ってないんだけど……。

ちょっとだけ、自信なくなっちゃった感じ?

本当に尊敬できる先輩だから、ちょっとね。エウさんには言つちやダメだぞ?心配しちゃうからね。

 リベルティーナはくすくすと笑い、アレイシアの腰に回した手にギュッと力を入れた。

ひやっ、いきなりなんばしよっと!?

まあまあ。アレイシアちゃんは頑張りすぎなんだから、たまには甘えときなって。

ヒーローは、がんばって当然でありまーす!

はいはい、肩の力抜いて抜いて~。

 アレイシアの頭をポンポンと叩き、優しい声でリベルティーナは言う。

ぶつかった後悔よりも、ぶつからなかった後悔の方が、あとでずっと大きくなるから。ぶつかれてよかったじゃん。ね?

 その言葉に、アレイシアはハッとしたように目を見開く。

そうじゃった……。ワシとしたことが呑まれとったんじゃな。

こんなチャンスは滅多にないやろがい!

うおおおおお!燃えてきたああああ!

アレイシアはバーガーの残りを口に放り込むと、膝の上からぴょんと飛び降りて、拳をあげた。

リベッさん!ありがっと!魔法使いさん!早く戻ろう仕事じゃ仕事おおおおお!

お仕事、がんばってね~~~。


 ***


 君とアレイシアがヴァンガード本部へ戻ると折よくゾエルが顔を出した。

おう、いるな。いまから大事な話すっから耳かっぽじってよく聞けよ。

 ゾエルはアポロンⅥたちと交わした勝負の内容を説明した。

そ、そんな……ゴッドナンバーズのおふたりよりも早く、ヴィランを捕まえないといけないなんて……。

おまけにウチの特殊権限も使えないなんて、ひひ、ヤバヤバじゃん、ヤバヤバ。

でも、特殊権限なんて、ボクは使ってないぞ?

使いまくってるよ。テメエの力は詳細不明だ。普通の法規に従ってたら使えねえ。変身なんざもってのほかだ。

え!そうだったんだ!

そうだったんだよ。アンタが変身するたぴ、アタシがどんだけ頭さげて回ってたと思ってんだい。

ともあれ権限は制限されるが越境捜査権は残ってる。あとは各地区のルールを守ってなんとかするっきゃねえ。

そうは言ってもさあ、お兄ちゃんの捜査は厳しいよぉ?ボス、おいら出ようか?

寝言は死んでから言え××××××××テメエは待機だ、待機。

ハルディス、例のヴィランがいそうな場所、見当はついているかい?

ひひ……任せとけよぉ。どさくさにまぎれて回収したバイクのパーツから身元は割れたぜ。あんな大型、購入者は限られてっからな。

アキレラレウスの本名はプリセイス。カレッジの学生さ。住所はアポロン区。捜査するんならまずここだろうな。

よりによってⅥのお膝元かい。仕方ないねえ。ならアレイシア。お前はとりあえず待機だ。

了解じゃあぁぁぁぁぁ!すぐに見つけるぞおぉぉぉぉぉぉ!

待機だっつってんだろうがエウブレナ!魔法使い!悪いがすぐに追つかけてくんな!

了解しました!魔法使いさん、行きましょう!


 ***


 ヴィランが潜むと思われるアポロン区へ行き、捜査を開始した君たちだったが、まずしなくてはいけなかったのは――


うおおおおおおお!ヴィランはどこじゃあああぁぁぁい!

アレイシア!止まりなさい!ストップ!ストーーーーップ!

 暴走するアレイシアを止めることだった。

なんでじゃあああああ!ヴァンガードは負けられんですたい

だからよ!ルール!ルール違反!アポロン区でのヒーロー活動は速度制限が厳しいのよ!

あとジャンプもしすぎ!高さ制限もあるんだから!3階以上の跳躍には申請がいるのよ!

 アポロン区はもっとも規律の厳しい地区だという。見ると、確かに周囲の通行人も車も、規則正しく移動し、混雑がない。

それだけではない。どの人も背筋を伸ばし堂々と歩いており、どこかアポロンⅥを連想させる。

神話還りはだいたい親和性の高い神の地区に住むからな。ルールはなしで考えても、各地区で雰囲気はずいぶん変わるぜ。

ぐぬぬ……いまルールを破ったら、勝負の前に負けじゃあ……ガマンガマン……。

まだヴィランもあらわれていないんだから、そんなに焦らないで大丈夫でしょ。まずは地道に捜査しましょう。

うわあ!またロボットが暴走しただれか助けてくれえ!

任せろぉい!いまヒーローがいくぞぉぉぉぉ!

走っちゃダメだってば!いま非常事態による制限解除の申請をするから、ちょっと待って!

ぐ……ぎぎぎ……!すぐそこなのに……!

wふっふっふっふ……お困りのようね。わたくしにお任せなさい。

ハッ!?だれじゃ!

こんなこともあろうかと、わたくしはあらかじめこの地区での遠距離武装の申請を済ませておきましたの。

さあ、とくとご覧なさい!このポセイドンⅡの娘。ネーレイスの実力をね!


 ***


君は魔法を放ち、遠距離にいたマシンセントールを倒した。

ちょっ、魔法使いさん

ダメじゃないの!

 え、なにが?と思っていると、震え声が聞こえた。

え?え?あれ?倒しちゃったの?わたくし、まだなにもしてないのに……。

 ……なんかごめんなさい、と君は謝った。

……どんまい、わたくし。敵はいなくなったんだから大丈夫。予定通りにいきますわよ。

ホーホッホッホッ!どうかしら?このポセイドンⅡの娘、ネーレイスの力がおわかりになったかしら?

出足がくじけると、後の予定を立て直すの大変になるんだよなあ……と君の心に罪悪感が芽生えた。

ネーレイス?どうして貴方がここに?

話は聞きましたわ。ゴッド・ナンバーズと勝負をしてらっしゃるとか。助けをもとめているようね。

仕方ありませんわ。そこまで言うのでしたら、このわたくしがヴァンガードに人ってさしあげてもよろしくてよ。

 やっぱり段取りがぐだぐだになってるなあ……と、君の心の罪悪感が増した。

3人とも、適当に話を合わせてやんな。その嬢ちゃん、ウチの預かりにすることにした。

え?でもネーレイスはポセイドンフォースに配属されているはずじゃあ……。

ちょうどそのポセイドンフォースから匙をぶん投げられてたんだよ。

なんにも言うことを聞かずワガママ放題。普通ならクビだが、ナンパーズの娘を辞めさせちまったら、Ⅱが怖いってね。

おじさん、遅くに生まれた子供だからって、ネーレイスを猫可愛がりしているものね。

で、ウチで預かってくれってさ。本人も希望してんなら、話が早いさね。

わかりました。そういうことでしたら……。

 小声での通信を終えて向き直ると、ネーレイスはわりと涙目だった。

は、入ってあげてもいいけど……だ、ダメ?

ふふ……わかった。歓迎するわ、ネーレイス。

そう……やっぱ……え!いいの!?

今日からはおなじヴァンガードの仲間ね。

……そ、そう!当然よね!わたくしを断るわけないものね!いいですわ。特別に今回の作戦のリーダーをしてさしあげますわ。

よっしゃああ!ネーさん、ついてこおいヴィランを見つけるぞぉぉぉ!おっと、速度制限は守って守って……と!

だ、だからリーダーはわたくしですわよ!


 ***


ゆっくり歩く……ゆっくり歩く……。走らない……ジャンプしない……。

その調子よ、アレイシア。貴方は我慢できるはずよ。がんばって!

当然じゃあ!……っとと、返事の勢いで、ついジャンプしそうだった。危ない危ない。

ただ歩くくらいで大げさな……。それで褒められるなら、わたくしも褒めてほしいものですわ。

ネーレイスもよくやってると思うわ。ごめんなさいね。突然、ヴァンガードのノリに巻き込まれて、困ってるでしょ?

しょ、しょんなに急に褒めないでくださるわたくしにも心の準備というものが……。

ふふ……変わってないわね、ネーレイスは。昔、いっしょに遊んでいたころを思い出すわ。私のパパと、貴方のパパと、みんなで……。

……あなたは変わりましたわね。ここ何年かのあなたは、もっと張り詰めていましたわ。いまのあなたときたら、まるで子供のよう。

そう?自分ではあんまりわからないけど。

ぜんっぜん違いますわ!わたくしのライバルということをもっと自覚していただきたいものです。

はいはい、気をつけます。

にゃはは。さすが幼馴染みにゃ。まるで姉妹みたいにゃ。

あら、そうね。エウブレナときたら、手のかかる妹みたいなものですわ。

 ……ツッコんでいいのだろうか、と君が悩んでいると、通信がつながる。

へいへいヘーい!ビンゴビンゴオ!例のヴィランが出やがった。そこの近くだぜい!

さすがね、ハルディス!それで、ヴィランはどこなの?

ひひ、1本隣のストリートに移勤しな。ちょっと待ってりや、イノシシみてえにツッコんでくるはずだぜ。

しゃああああ!突撃じゃああああ!あ、でもゆっくり、ゆっくり、歩いてです!


 ***


 プリセイスは生まれつきの神話還りだった。その神話特性は、かの名高き無敵の英雄アキレウス。

だが長じるにつれ、周囲の人々はこう噂した。「アキレウスの神話還りじゃなくて、アキレウスの腫の神話還りだろ」と……。

なにせブリセイスは気が弱かった。いつも人の視線を気にし、顔色をうかがって生きていた。全身すべて、弱点だった。

だから人と争わず、ぷつからず、それだけを考えながら育ってきた。

だがカレッジに入りしばらくした頃、通りかかったバイク屋で1台のマシンを見た時に、彼女の中に衝動が生まれた。

「この子に……乗りたい!」

 なぜそう思ったのか、自分自身でもわからない。戦車を愛したという英雄アキレウスの気質が甦ったのかもしれない。

それからはウェイトレスのアルバイトをし、苦手な接客で客のセクハラに耐えながら必死に稼いでお金を貯めた。

そうして大型バイクのライセンスを取り、1年後、ついに愛しのバイクを購入した。名前はもう、決めていた。

「今日からあなたが私の恋人だよ、ペンテシレイア。」

 それはアキレウスが深く愛しながら、ついに結ばれることのなかったアマゾネスの女王の名。このマシンになにより相応しい名前だと思った。

そしてペンテシレイアにまたがり、アクセルを回した瞬間に――彼女の世界はー変した。

「風……。私……風になってる……。いまの私は……無敵だ!」

 目に映るすべてがちっぽけに見えた。前を遮るすべてが邪魔なゴミに思えた。

彼女を嘲笑ったクラスメイト。セクハラしてくるバイト先の客。口うるさいだけの店長。すべてが塵芥にも等しきもの。

「どけ……どけどけどけどけー最強無敵の公道レーサー、アキレーサー様のお通りだ!」

それはまさしく、無敵の英雄の視座。ペンテシレイアに乗るあいだ、彼女はまさにアキレウスの化身となっていた。

「もっと……もっとだ!もっと走りてえ!もっとペンテシレイアとひとつになりてえ!どんな奴にも走りを邪魔させたくねえ!」

 連日連夜、叫びながら走り続け――

「君の希望、この私が叶えてあげよう。」


 ***


……んん……あれ?ここは……。

見知らぬ場所で目覚め、戸惑い、しかしすぐに思い出す。ヒーローに敗れたことを。

そうか、私、ヒーローさんに止められて……。

 襲いかかってきたのは激しい後悔と羞恥の念。神話還りの力に溺れ、明らかに正気を失ってしまっていた。

だがそれを上回る想いが、すぐに湧き上がる。

ペンテシレイア!ペンテシレイアはどこ!?

 視線を彷徨わせると、それは静かに部屋の片隅にあった。

捻じ曲がったハンドル。外れた前輪。割れたヘッドライト、歪んだフレーム――変わり果てたペンテシレイアの姿が。

ペン……!

 息が詰まった。この世の終わりだと思った。自分が死んでいた方が、よほどマシだった。

彼女を殺したのは自分だ、と思った。英雄アキレウスのように、愛する者をその手で殺してしまったのだ、と。

だから――

安心したまえ。君の恋人は甦る。私ならば甦らせられる。

ほ、本当ですか!?

私は嘘を吐かないよ。君たちとは違ってね。ただし、甦ったこの子に乗れば、君はもう止まることはできないだろう。

これまで以上の速度で、最後の瞬間まで走り続けるだけだ。それでも君は、このマシンの復活を望むかな?

そ、そんなことしたら、いままで以上にみなさんに迷惑をおかけして……。

そう思うのなら。この子を諦めればいい。私は強制しないよ。選ぶのは君自身だ。さあ、どうするかね?

 その甘い言葉に逆らうことなど、彼女にはできるはずもなかった。その想いは、悔恨も羞恥も超えていたのだから。

の、乗ります!どこまでだって!だから……私にペンテシレイアを返してください!

いいとも。君の希望、何度でも私が叶えてあげよう。


 ***


来たわ!みんな、油断しないで!

ええ!わたくしの実力、今度こそ見せてさしあげますわ!

 道の彼方から、轟音と爆煙をあげ、ヴィランの駆るマシンが近づいてくる。

なぜだか君にはその光景が、悲槍な叫びをあげる1匹の獣の姿に見えた。

アアァァアアァァァァァァァァァアアァァ!!行こうぜ、マイラバー・ペンテシレイア!リミットを越え、エンドマークの向こう側まで!


 ***


ケルベロス・オニュクス!

軽い軽い!軽がイキってんじゃねえ!

情けないですわよ、エウブレナ!

アポロン区は人造神器の制限がきつくて、ランクが低いのしか使えないのよ!

ハデスフォースならBランクまでは解禁されているはずでしょう!?

ヴァンガード隊はDランクまでなのよ!?

よし、ボクの出番だね!

ダメよ、アレイシア!神器の無断使用なんてもってのほか!ちゃんと英雄庁を通して区に申請しないと!

う……そんなのやったことないぞ。

 大丈夫だよ、と君はカードに魔力を込める。君は神器も人造神器も使っていない。魔法に制限なんてないのだ。

さあ、力を示せ……超越の金剛龍――

待って、魔法使いさん!その力、無認可でしょ?さっきは運良く気づかれなかったけど……いま使ったら逮捕されてしまうわ!

 え?と動きを止めた君の脳裡に、この異界にはじめて訪れた時のことが甦る。

「逮捕します。」

 あ、これダメなやつだ、と君は思い、カードを引っ込めた。

ホーッホッホッ!わたくしの出番のようね。人造神器、起動よ!

さあ、喰らいなさい!カリュブディス・プフェス!

 水流が巻き上がり、渦を成す。何本ものそれが、爆走するマシンに向かって、ー斉に襲いかかり――

イィィィィィィヤッハァァァァァァ!

なっ……!わたくしの全力が!

い~い洗車タイムだああああ綺麗になったぜマイラバー!さあ、ハネムーン続行だあああああ!

いけない!突破されたわ!このままじゃ逃げられちゃう!

まだじゃ!まだ間に合う!ボクが追う!

神器を使う気!?だからルール違反だって……。

ルールなんか知らぁぁぁぁぁぁん!さあ神器、ヒーローの……!


そーゆーの、認めてないんだけど?

リベッさん!?なんでここに?

マ?聞いてない?勝負のあいだ、あーたたちがルールを破らないように、ジャッジがつくってさ。

ヴィランが逃げるにゃ!

いかん!リベッさんの話はあとで聞きますので!神器――

だから~。

 次の瞬間、リベルティーナのレイピアの先端が、アレイシアの喉に突きつけられていた。

認めないっていってんだけど?減点1だよ、いまの。

 速い。いや、速さだけではない。その切っ先には明確な殺気が込められている。

その気迫に身動きを封じられたように、アレイシアは額に汗を流したまま、ー歩も動かない。

あ、あ~……。ヴィランが行ってしまいましたわ。

あ~そ~?おつかれちゃ~ん。あとはⅥかⅦがなんとかするんじゃない?

リベッさん、あんたぁいったい……。

だから言ってんじゃないの。あーたたちが好き勝手しないように見張っているジャッジだって。

それともなに?こう言わなきゃわかんない?あーしはゴッド・ナンバーズのひとり、アフロディテⅨだ、ってさ。



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そ、そうだよ……アフロディテⅨだ……。映像で何度も見たことあるのに、なんでわかんなかったんだろ……。

サングラスのおかげ、って言いたいとこだけどぉ、これこれ。

アフロディテ神の神器……〈ケストス〉!

そ。世界が恋する宝帯〈ケストス〉ちゃん。これでちょいちょいって周囲の認識を変えさせてもらってたわけ。

じゃあ、エリュマにいたのは、アレイシアを監視するためにゃ?

あ~ね、それはぜんぜん関係ないし。あっこのイートインが好きなだけだし。アレイシアちゃんも単に可愛がってただけだし。

そ、そうなんですか。

そそそ。アレイシアちゃんって、ぎゃんかわじゃない?やばいっしょ。

だったら、見逃してくださってもよいじゃありませんの!

あ~ムリムリ。あーしはさ、そーゆー曲がったこと、できないんだよね。私情交えるとかマジありえないんですけど。

だからヒーロー同士のもめごとって、たいがいあーしがジャッジすることになってんの。つーわけで、アレイシアちゃん。

つぎ勝手に神器使ったら失格にすっから。

んじゃ、そゆことでヨロ~。姿が見えなくてもちゃんと見張ってるから、油断しちゃダメだかんね~。

 ー方的に言い終えると、アフロディテⅨはふわりと跳び上がって、去っていった。

な、なによあれ。自分だってあんなに高く跳んで、ルール違反じゃないの。

あの様子じゃ、きっと申請済みよ。それにジャッジには特権が付与されてるものだし。

ぐぬぬ……。リペッさんの動き、全然見えなかったぞ。あれがトップヒーローかあ。

はあ……この勝負、勝ち目あるのかしら……。ヴァンガードが解散になったらどうすれば……。

……ハデスフォースに戻ればいいじゃない。いえ、いますぐ戻るべきですわ。

はいはい、いざとなったら、ハデスフォースにお願いしてみるわ。

茶化さないでちょうだい!なんであなた、ハデスフォースを辞めてしまいましたの?

わたくしはポセイドンフォースを、あな)ハデスフォースをのぼりつめ、ふたりでナンバーズになると誓ったはず!

だから、別にあなたと誓ってないでしょう?

だったら!あなたのお父様の……亡くなったハデスⅣの意志を、継がないでもいいと言いますの!?

 そのー言で、場に沈黙が落ちる。

エウブレナのお父さん、亡くなられていたにゃ?

ああ、そっか。魔法使いさんとウィズさんは知らないわよね。

パパは……ハデスⅣは死んでしまったの。10年前のあの事件――ティタノマキア事変でね。

 ティタノマキア事変。それはかってプロメトリックが起こし、オリュンポリス中を混乱に陥れた大事件だという。

その最中に命を落としたヒーローも少なくはない。ハデスⅣもそのひとりだった、とエウブレナは語った。

あんな大事件だもの。仕方ないじゃない。パパはゴッド・ナンバーズの名に恥じない勇敢な戦いをして死んだって聞いたわ。

だから、なにも特別なことではないのよ。ね?

でも、あなたはおじさまの神器と名を継ぐと、そう言っていたじゃない!そのためにハデスヒーローを目指していたんでしょう!

それは……。

ちょっと待つにゃ。神器を継ぐって、どういう意昧にゃ?

ふひひ……神器を継ぐ――それがゴッド・ナンバーズの条件なのさ。

わっ。急に出てきたらびっくりするにゃ。

わりわり。 Ⅸに認識されたくなくて、な。でも神器と聞いたら黙ってらんねえよお。専門バカの血が騒ぐぜえ。

 ハルディスは通信画面の向こうで手をわきわきさせながら解説をはじめた。


神器ってのはヒーローの力を飛躍的に高める神の道具さ。それを人造物で再現しようとしているのが人造神器な。

本物の神器ってのは12個あって、こいつを使えるのは神器に選ぱれた奴だけなんだ。

それが12人しかいないトップヒーロ――ゴッド・ナンパーズってわけだ。

ちなみにナンバーズの名前の数字は、強さとか偉さの順じゃなくて、神器が覚醒した順な?

だから最初の覚醒者のゼウスがⅠで、最後の覚醒者のディオニソスがⅩⅡなんだよ。勉強になったろぉ?

けどさ、ヒーローって戦うじゃん?当然)怪我して引退したり、おっちんじまったりするわけさ。ひひ、そんな時どうすると思うよ?

ビンゴ、継承さぁ。同じ神話特性をもつ奴から新しく神器に選ばれた奴が後継者になるって寸法なんだ。

けどこの継承がまた厄介で、な?強いのは当然として、神器ごとの相性とか適性とか、いろいろあってよお、よくわかんねえんだ。

それでもま、たいていはうまく継承できてんだ。いまのゼウスⅠは7代目だし、アポロンⅣだって4代目だ。

ところが10年前に死んだハデスⅣの神器はまだだれも後継者を選んじゃいねえんだ。だから死んだのにまだハデスⅣのままなのさ。

ハデスⅣと行方不明のディオニソスⅩⅡ。このふたつの欠番が英雄庁の頭痛の種なのさ。ふひひ、解説お・し・まい。

あ、オレ、キモくないよ?ギーク特有の早口になったりしてないからね?大丈夫だよ?


な、なんかあの子、変ね……。まあいいですわ。そういうわけで、エウブレナはおじさまの後を継ぐためにハデスヒーローになったはず。

なのに気がついたらハデスフォースを辞めていて、こんなよくわからない部隊に所属しているなんて……どういうことなのよ!

いろいろあったんだから、仕方ないじゃないそれに、神器をあきらめたわけじゃないわ!

該当するフォースに所属していないヒーローが神器を継承した前例はないはずですわ!あなたもわかっているでしょうに。

それは……そうなんだけど……。

わかっているのなら、ヴァンガード隊なんて早く辞めて、ハデスフォースに戻るべきよ。Ⅳの娘なら、なんとかなるはずですわ。

 エウブレナはちらりとアレイシアに視線をよこす。そして下唇を軽く噛むと、意を決したように言った。

……いえ、やっぱり私は、ヴァンガード隊に居るわ。私の探す答えはここにあると思うから。

ん~~~~~にゅにゅにゅにゅにゅ!アレですの?あの小娘に惑わされてますの?

だったらいいですわ!わたくしはヴァンガード隊とやらを見極めさせてもらうまでです!

 なるほど、と君は納得する。どうやらネーレイスは幼馴染みを心配して、ヴァンガード隊を探るために入隊したようだ。

それを理解しているのか、エウブレナも苦笑いを浮かべて幼馴染みを見ていた。

みんな、ヴィランの行き先がわかったよ。アテナ区に向かったみたい。急いで向かってね。

よっしゃあ!こんな走ることもできない区はとっととおさらばじゃあああい!

あ、でも減点されないように、ゆっくりと歩いて向かいます!





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