Gamerch
白黒wiki

【黒ウィズ】空戦のドルキマス4 Story5

最終更新日時 :
1人が閲覧中
最終更新者:にゃん


目次


Story1

Story2

Story3

Story4

Story5

Story6

Story7




TOP↑

story


陛下。予定どおり、反ドルキマス同盟軍の主力が、首都近郊に接近しております。

第3王子。第4王子。そろって私を討伐しにきたか。

ふふふっ……。

これも、作戦どおりだな?

フェルゼンからドルキマス軍が退いたのは、こちらの手だとは、気付いていないでしょう。

このドルキマスには、第1親衛艦隊。第2親衛艦隊。そして、第4艦隊がいます。

我らが反ドルキマス同盟軍を王都に引き付けている間に――

大陸各地に展開していた第5から第9艦隊が、反ドルキマス同盟軍を包囲するように集結します。

気付けば、四方八方すべてがドルキマスの艦隊。奴らに逃げる場所などございません。

向こうは、誘い込まれたとも思っていまい。その手際。さすがといえよう。

王都を餌にするというアルトゥール陛下の大胆なお考えに私めが、乗らせていただいたまでのこと。

お褒めの言葉は、もったいのうございます。

 満足げなアルトゥールは大仰な仕草で髭を触っている。

カミルは、玉座に座る前王グスタフの姿と、の前にいる若き王の姿を重ね合わせていた。

包囲の援軍が到着するのは?

はい。夜が訪れるまでには。おそらく、あと2時間程度で、先発隊が奴らの背後を突くでしょう。

いくら軍事的才能があったとしても、2時間で10倍もの戦力をひっくり返せるものだろうか?

無理でしょうな。ただひとつ気がかりなのは……。

聖なる石の〈原石〉を用いた殺戮兵器の存在だな?

奴らとて、無差別な虐殺は選ばないでしょう。この王都を焼き払ってしまえば、得るものはなくなります。

 反乱軍の目的は、ドルキマスの王位を簒奪すること。アルトゥールはそう見ていた。

しかし、追い込まれれば、躊躇うことなく使用する可能性があります。

そこで、特務戦隊の出番となります。

 手を払って彼女を招き入れた。

ローヴィ・フロイセ参上いたしました。

特務隊の編成は、すでに終えております。ご命令あれば、いつでも出撃できます。

ディートリヒ・ベルク探索の任務を果たした直後に奴の暗殺を命じるのは、心苦しいが……。

あやつの傍にいて誰よりもディートリヒ元帥を知るそなたこそ適任だ。

あのお方は、もう元帥ではありません。反乱軍の首謀者のひとり。

そして第3王子テオドリク殿下を名乗り、殺戮兵器を有して王都を恐怖で支配しようとしている大罪人。

私は、ドルキマスに刃向かう賊を討伐するだけです。

ローヴィの腕に国家の命運が掛かっている。よろしく頼む。

お任せください。

大量破壊兵器が搭載されているとおぼしき魔道艇は、すでに捕捉してあります。

陛下は、殺戮兵器の破壊を優先せよ、と仰せになられてます。

乗員の命は――?

生かすも殺すも、少佐次第です。


TOP↑

story


zローヴィ・フロイセ少佐に敬礼!

 特務戦隊のメンバーは、親衛隊の中でも特にアルトゥール王へ忠誠の高いものたちから選ばれていた。

彼らは、いわばアルトゥール王の切り札。もちろん、ローヴィもそのうちのひとりだ。

これより、反乱軍を討ちに向かう。反逆者どもをドルキマス国民の頭上から追い落とせ!

zドルキマス王国とアルトゥール陛下のために、命を捨ててこの任務に挑む所存。

 ローヴィも含め、彼らは生粋のドルキマス国民である。

彼らの故郷がここであり、家族も先祖の墓も、ドルキマスにある。

愛すべき祖国が、反逆者によって踏み荒らされようとしている。奮い立たないわけがなかった。

目的はただひとつ。殺戮兵器を搭載している魔道艇の破壊。

ドルキマスを脅す反逆者を速やかに討ち、国民の命と王都を守る!出撃だ!


 ***


「お父上様が、戦死なされました。

「……なぜですか?

「詳細は、わかりかねます。戦場でのことは、機密とされておりますので。

 私が生まれた家〈テレジア〉に生まれた者は、ドルキマスにその身を挿げなければいけない。

かつてドルキマスを守った伝説の提督テレジア。彼女の血を受け継ぐ我が一族は――

その命を国家に捧げることで、ー族を繁栄へと導いてきた。

「そうですか……。軍人になられる決意をされましたか。

「父の遺志を継がねばと思いまして。せっかく縁談の話が進んでいたのに、お断りして申し訳ありません。

「お父上は、立派な軍人でした。あなたにも、その血が受け継がれているのでしょうね。

実を言うとこの縁談、私もあまり気が進まなかったのです。家族が結婚しろしろとうるさくて……。

「まあ、どこも似たようなものなのですね?

「せっかくの人生ですから、生き方は自分で選ばせて欲しいものです。

「ええ……。

「 父上や兄上たちに続いて軍人になりたいと思うあなたの決意。きっと本物だと思います。

その決意が、あなたにふりかかるこれからの苦難を乗り越えるための薬となるでしょう。

ドルキマスヘの愛をいつまでもお忘れなく。

「父も……同じ思いだったのでしょう。祖国のために戦う。巴リその志は、絶対に消さないようにいたします。

「それでは、これでお別れです。あなたは、とても素敵な人でした。

花嫁衣装を着たあなたも見てみたかった……。

「もったいなきお言葉。レオナルト様こそ、お元気で……。


 ***



空ー面。見渡す限りのドルキマス艦が、君たち反ドルキマス同盟軍を待ち構えている。

あわわ!さっそく被弾したにゃ!

ダメージは、軽微だ。航行に支障はない。そのまま進みたまえ。

 進めといわれても、目の前には分厚い壁のような敵艦隊の隊列が聳えている。

また被弾したにゃ!

今日……私たちはここで死ぬんだにゃ……。

 諦めるなと、君はウィズを励ます。

とはいえ、ドルキマス軍はさすがに王都を守護する精鋭部隊だけあって付け入る隙がない。

それに壁のように隊列を組まれては、得意の機動力で敵を翻弄することもできない。


うあああああっ!やられちまったー!

大げさね。ちょっと甲板に砲弾が命中しただけじゃない。まだ飛べるわよ。

いや、それ大事だから!


 どの艦も苦戦している。

この状況を打破する策は当然あるんだよね、と君はテオドリクに訊ねた。

思い出すな。昔を……。

ディートリヒがクーデターを起した戦いにゃ?

 あの時も、君はディートリヒと共にドルキマス王都目指して進んでいた。

しかし私は、ドルキマス軍の主力と正面からぶつかるのを避けた。

 艦隊を囮に使い、ディートリヒ本人は地上を進み、王都への侵入を果たした。

あの時も、ギリギリの戦いだったよね、と君は感慨深く答える。

まさか、あの時のように艦隊を見捨てて、地上を進むというつもりにゃ?

それもおもしろい。されど、今回の戦いは、アルトゥールひとりを殺せば終わる戦ではない。

醜悪な世界を造り出しているドルキマス軍を根底から否定するために私はここにいる。

そして、そのための手は、すでに打ってある。

 突然、正面の敵艦隊が爆発し、隣接する艦を誘爆させて墜落していく。


ライサ姉さんじゃねえか!

 竜騎兵が、翼を広げてこちらに向かってくる。

フェリクス。あんたの言う通りね。勝てる戦に従ってても旨みは少ない。

負け戦を勝たせてこそ私たち竜騎軍の価値はあがるってものよ!

ようやく気付いたか!おっせえんだよ!

いくよドラコ!この戦いに勝てば、新しいおうちが手に入るかも!

 機動力の高い竜騎兵は、巨大戦艦が密集するドルキマス艦隊の隙間へと潜り込んだ。

駆逐艦が動き出す前に、竜騎兵たちはドルキマス艦に吸着爆弾を貼り付けていく。

まずはー手。そして、もうー手必要だな。

テオドリク様。こちらも準備が整いました。

クラリアたちの艦隊は、どう動かすつもりにゃ?

 反ドルキマス同盟軍の主力と言っていい荒鷲の艦隊は、君たちと共にドルキマス軍と向かい合っている。

彼女たちが動けば、戦力がごっそり削られる。動かしようがないように思うが……。

やっぱり、魔法使いさんも騙されてる?敵を騙すにはまず味方からってね。

まさか!?ダミーにゃ!?

 遠目から見れば立派な艦に見えるが、荒鷲の艦隊の半数は、巨大な風船を膨らませて見せかけているだけのダミー艦隊だった。

クラリアが率いる半数は、どこにいるのかといえば――


wあ、あんな間近を飛ぶなんて……。

 ドルキマス王都市街。建物にギリギリぶつからない高度で飛び続ける艦隊があった。

地上すれすれの低空飛行ならば、敵のレーダーにも引っかからなくて楽勝だね。

このまま、低空で移動しつつ敵主力艦隊の背後に回る!

ブルーノ・シャルルリエが残した荒鷲の艦隊の戦い!とくとご覧いただこう!

あいさー!

やれやれ。提督も大分、お嬢ちゃんに毒されてきたな。




 ドルキマス艦隊は、後方から荒鷲の艦隊別働隊の奇襲を受けた。

艦隊を低空飛行させて我々の背後に回り込ませたか……。なかなかユニークな奇策ですね。

z後方の艦隊が攻撃を受けております。いかがされますか?

第2艦隊は、別働隊への対処を。第1艦隊は、このまま正面の反乱軍を叩け。

 第3艦隊を分けたということは、正面の主力は見せかけ。

実際には、半分の戦力しか存在しないということになる。

圧倒的少数の戦力をさらに分散するとは。奇襲も結構ですが、発覚してしまったらそれまで。

テオドリク王子……いえ、ディートリヒ・ベルクとあろうものが……軍を離れている間に衰えましたかな?


 ドルキマス第2艦隊は、後方に回り込んだ荒鷲の艦隊に狙いを付けた。

クラリアたちの艦は、必死の抵抗を見せる。だが、第2艦隊は倍以上の戦力がある。

あなたの奇策もこれまでです。お休みなさい。テオドリク王子。


予想どおり、敵の半数が背後を向いたにゃ!

鉄壁だったはずの防衛ラインを、むざむざ引き裂くとは。

どうやら敵の司令官殿は、空戦のなんたるかを知らんようだ。

 敵は、テオドリクの策によって動かされた。半分をクラリアたちの対処に回し、みずから動いたように思っているだろうが――

君たちからすれば、王都上空を完全に封鎖していた敵が、むざむざ壁を崩してこちらが付け入る隙を与えてくれたように見える。

ジーク、フェリクス、魔法使い。これより機動戦へと移る。準備はいいかね?

 鉄壁だった防衛ラインが崩れたとなれば、こっちは得意の機動力を活かせる。

”待っていろアルトゥール。貴様への恨みのツケ。いまこそ払わせてやる。

”冷静にな。勝利への道は、まだまだ糸のように細い。こいつを手繰り寄せるのは厄介そうだぜ。

”心配は無用だ。敵艦隊の懐に潜り込んでしまえば、いかようにも料理できる。

 漆黒のナハト・クレーエ号は、敵の第1艦隊に向けて突き進む。

z撃てえっ!

それがドルキマス空軍の砲撃か?遅すぎてあくびが出そうだ。

 ー斉射撃の弾幕を置き去りにして、瞬く間に第1艦隊の隊列の隙間へと潜り込んだ。

ほう?命知らずだな。

 ジークの躊躇いのない突撃に君も同様に目を見張った。

無鉄砲さはよく似てるにゃ。さすが兄弟というところにゃ?

私には、あれほど無茶なことはできんよ。

それよりも魔法使い。弟のあとに続け。勝利は、目の前だ。

 山のように聳える艦隊に向けて突き進むのは、勇気がいった。

それでも、いまはテオドリクを信じて艦を前進させた。


z総監殿!敵が、我が艦隊に侵入。艦列を混乱させております!

……。

z総監殿?

動かされていたのは私の方でしたか。これは、参りましたね。いや、さすがです。

w報告します!戦艦オーデム撃沈!巡航艦グロル機関損傷により、航行不能!

軍を率いて敵を打ち破るというのも難しいものですね。

zそんなのんきな……。

そう不安になることはありません。そろそろ特務隊が、彼らを始末してくれるでしょう。


 ローヴィの眼前で友軍の艦が炎上している。

ナハト・クレーエ号を含め、反乱軍の魔道艇は、その速さから、肉眼で捉えることすら難しい。

それでも、ローヴィは全神経を集中させて対象となる魔道艇を追跡する。

ナハト・クレーエ号は、いまは標的ではない。同じドルキマス艦が沈められていく口惜しさをぐっと飲み込んだ。

見えた。

 ディートリヒのクーデター。対イグノビリウム戦。

それらの戦いを共に戦った魔法使いが操縦する魔道艇。それをこれから撃墜する――

くっ――

 ー瞬だけ、彼のことが頭をよぎった。だが、忘れろ、と自分に言い聞かせた。

いまは、敵だ。彼はドルキマスに背いた。反逆の意思は、今回の戦で明らかになった。

立場が変わった。今は、戦場で討つべき対象だ。

胸に迫るあらゆる感情を抑え込みながら、ローヴィは艦の指揮を執る。

zフロイセ艦長。3時の方角。目標艦航行していきます。

尻に張り付け。絶対に逃すな!

 魔道艇の機関部をー撃で破壊し、航行不能にする。

向こうに殲滅兵器を使用する隙を与えない。それが役目だ。

z正体不明の艦隊が接近中です!

 アルトゥール陛下が呼び寄せたドルキマス艦隊か――とー瞬、喜びが走ったが、味方艦が到着するのはまだ早い。

その正体は――

まだ、反乱軍に味方するものがいたか。


「空賊には、空賊の生き方ってものがあらあ。それを否定する奴は、絶対に許さねえ。

 各地に潜んでいた空賊たちがー斉に集まってきた。それを指揮しているのは、あのケーニギン・ブルンヒルト。

「空賊たちから、空を奪えるものなら奪ってごらんなさい。

あら、ケーニギン・ブルンヒルトのお嬢ちゃんじゃない。

「誰かと思えば、竜騎兵のライサさん。お元気そうね。

あんたとの勝負、まだつけてなかったわね。この空の支配権。空賊が制するのか、竜が制するのか――

「いまここで決めても構いませんよ。

言ったわね?そのすまし面、絶対に歪ませてあげるから。

「ふふっ。相変わらずですね。空賊たちの参戦。


 空賊たちの参戦。

これも、テオドリクの作戦のうちなのか。

戦況はー気に混沌としてきた。敵味方の艦が入り乱れ、せっかく捉えた魔道艇を見失いそうになる。

z特務戦隊2番艦、撃沈!

w”申し訳ありません!ご武運を――うわあ!

 ローヴィの特務艦を護衛していた艦も、次々に砲弾に巻き込まれていく。

ドルキマスの将兵の命がまたしても失われた。これが、あなたの望んだことなのですか!

 あと少し。射線上に魔道艇を捉えて砲撃を命じれば、この戦は終わる。

テオドリクを討てば、この戦いは終わる。

撃てえ!

 砲弾を放った。その直後、魔道艇は方向を変えて咄嵯に回避した。

2発、3発と繰り返し砲撃しても、結果は同じだった。

zな、なぜあたらない!奴は後ろに目があるのか!?

操縦者は並の人間ではない!このぐらいは、想定の範囲内だ。

 魔法使い――そう呼ばれるだけあって、危険を察知する能力は、並外れたものがある。

だが、私こそドルキマスの軍人。絶対に逃したりはしない。

”魔道艇を狙う小型艦。暗殺者か……。”

 その声に聞き覚えがあった。ジークユーベル第4王子だ。




何者かは知らんが、ドルキマス空軍は空の塵となってもらう――死ね。

 ナハト・クレーエ号の主砲が、ローヴィが乗る特務艦に狙いを定めていた。

回避だ!

z避けられません!

 激しい揺れが起き、艦橋の目の前は熱風と黒煙に覆われた。

損害を報告しろ。

 艦はまだ動く。ドルキマスのために、なんとしてもこの任務やり遂げる。

z損害……。ありません。

そんなはずはない。冷静になれ。

砲撃を受ける直前、味方艦が身代わりになってくれました!

w”……こちらは、第10艦隊旗艦。

その声は、レオナルト殿……!?

反逆者などにあなたを殺させたりはしない。私はまだあなたの婚約者だと思ってますから。

ですが、その話は――

 軍人になると決めた時に破談になったはず。

男心というものは、そう簡単に割り切れないものなのですよ。

兵は、すでに退避させました。私のー存で、あなたへの思い。貫かせていただきます。

 ナハト・クレーエ号の主砲が、再びレオナルト艦の機関部を撃ち抜いた。

構わず行ってください。あなたを守って軍人として散る。

ドルキマスの男として、こんな幸せなことはありません。

必ずや……逆賊テオドリクを討ち果たしてみせます!

あの世から、見ています。さらばです。アリエス・テレジア――

 また1隻、ドルキマスの艦が空に散った。

レオナルト・ビューゲル。戦死。

レオナルト様。

 すぐに、あとを追う。その覚悟を胸に秘めて、ローヴィは、魔道艇を追撃する。


これで終わりにする……。

 捉えた。すぐさま、魔道艇の背後を取った。

魔法使いとテオドリクが乗る艦は、ドルキマス第1艦隊の旗艦へと向かっている。

戦場を混乱させ、その隙に敵の首――旗艦を落す。それがディートリヒの手口だった。

砲撃では、また避けられてしまう。どうすればあの魔道艇を落とせる?

考えろ……。

考えるまでもない……か。総員退艦!操舵手もだ!あとは私が舵を取る!

 戸惑う部下たちを避難艇へと乗せた。半数以上は、艦に残ると言って聞かなかった。

ならば、最後まで私と戦ってくれるか?

 ローヴィは舵を握りながら、少しずつ魔道艇と距離を詰めた。

長い航行で、向こうの艦は速度が落ちている。

……ディートリヒ・ベルク

 迷うな。突き進め。

レオナルド――彼の面影ですべてをかき消した。

距離200。150……。

 魔道艇が眼前に迫った。ローヴィは、機関の速度を上げた。

艦首を引き上げ、魔道艇そのものに狙いをつけ――特攻をかける。

さらばです。テオドリク・ハイリヒベルク。

 衝突。そして爆轟。

ローヴィの視界は、黒に染まった。

思ったことは、ただひとつ。敵を落とせたのか――


敵艦が突っ込んで来るにゃ!

 先はどからしつこく背後を取って離れないドルキマスの高速艇。

君は、懸命の操縦で引き離そうとしたが、ついに肉薄されてしまった。

体当たりするつもりか……。自らを犠牲にして、我々を落そうなど――

何者かは知らんが、おもしろい……。

避けられないにゃ!

 ドルキマス艦が君たちの頭上に覆い被さる。ぶつかる――

激しい衝突が起きた。終わりだと思った。

だが、君たちの魔道艇には傷ひとつなかった。

身代わりになって守ってくれた艦があった。その艦は、荒鷲の旗を掲げていた。

”テオドリク様、ご無事ですか……。

幸いなことにな。だが、無茶をする。

”ご無事ならばよかった。私はふたりも父を失いたくはありません。

 無線から聞こえる声は明るい。だけどドルキマス艦の体当たりをまともに受けたクラリア艦は――

艦体が真っ二つになるほどの損害を受けていた。

その旗は……クラリア・シャルルリエ邪魔をするなああああっ!

やはり、ローヴィだったか。貴様とは、なにかと縁があるな。

ここでテオドリクを落とせなければ、私はなんのために……!

 ローヴィは高速艇を強引に前進させる。盾となっているクラリアの艦が、激しい音を立てて割れはじめた。

はやく、脱出するにゃ!

”行ってください。ここは、私が防ぎます。

でも――

……魔法使い。前を見ろ。敵は、目前だ。

 クラリアのことをー瞥もせず、テオドリクはただ敵の方だけを見ていた。

大きな音がしてクラリアの艦から、激しい爆発が起きた。

我々にできることは、勝利をつかむ。それだけだ。

 君の傍にいる人物は、すでにテオドリクではなかった。

眼帯をしていなくてもその男は、君がよく知るディートリヒ・ベルクだった。



 ディートリヒは、艦を進めろといった。そうしたいのは、山々だが――君の魔道艇は、急速に推進力を失っていた。

機関部の故障かしら?ちょっと見てみるわね。

 これまで数々の戦いを共にくぐり抜けてきた君のもうひとつの相棒ともいえる魔道艇は、あちこちにガタがきていた。

旧魔法文明の生き残り。この時代の技術で直せるかどうかも怪しい。

でも、あと少し。あと少しで、ドルキマス軍の中枢へと届く。

だからもう少し飛んで欲しい。君は祈る思いで舵を握った。

”敵の目の前で、なにをもたもたしている的になりたいのか?

 それは、君たちにとって救いの声だった。

”まるで蜘蛛の巣に掛かったハエのようだ。俺が、牽引する。

どういう風の吹き回しかね?

”敵の司令官が乗る艦は、もう目と鼻の先だ。だが、ナハト・クレーエだけでは火力が足りない。

お前たちを牽引するから、砲台となって俺を援護しろ。いいな?

いいだろう。いまだけは、貴君の力を借りよう。

”素直に礼も言えないのかよ。

 敵第1艦隊の旗艦。君たちは、装甲を砲撃で打ち破り、艦内へと侵入した。

さっそく、ドルキマス兵が群がってきやがった。

 襲い来るドルキマス兵を薙ぎ倒しながら、奥へと進む。

この先に指揮官がいるはずだ。奴を倒せば、戦は終わる。

待て。

これは、テオドリク殿下……そして、ジークユーペル殿下。王子ふたりがおそろいで。

参謀総監カミル・ゼーゼマン。

これだけの大艦隊を率いておきながら、むざむざ旗艦に侵入された無能な指揮官は、貴君かね?

これは手厳しいお言葉。どうやら私には、空軍を率いる能力はなかったようです。あなたとは違ってね。

簡単に言うな。この戦いで失われた命は、どれだけある?

意外でした。あなたが怒るとは。私も、あなたがたと同じく、目的は、ドルキマスヘの復讐でしたのに……。

才能のない無能を祭り上げて国家の根幹を揺るがす……。アルトゥールはグスタフと同じように扱いやすいお人でしたよ。

 ディートリヒは、なにかに気付いた。

前グスタフ王の傍にいた時から、貴君はなにも変わっていないな。あれから何十年もたっているはずなのに……。

若いままだと仰りたいのですね。

どういうことにゃ?

 カミルの肌に紋様が浮かび上がった。この反応は――

その姿は――

古代魔法文明の生き残りは、あなただけではなかったのです。

 ドルキマスによって滅ぼされた古代魔法文明の生き残りは、ジークだけではなかった。

このカミルも遠い昔、弾圧によって滅びたー族の生き残りだった。

よく覚えている。私が王宮を追放された時にも、貴君は、前王グスタフの傍にいたな?

あなたは、当時まだ幼く。母の腕に抱かれていたはず。よく覚えていましたね?

人を操り、国を破滅へと導いていた。その男の顔を忘れることはない。

佞臣ラードウィック。当時は、そう呼ぱれていました。

あなたの父は疑り深く人を信じない男でした。だから私は、彼の心の支えになってあげたのです。

そして、グスタフ王を思いどおりに操ったと?

なんのために?ドルキマスヘの復讐のためか?

ドルキマスを滅ぼす――それは私の目標のひとつでした。でもね、それよりも楽しいことを見つけたんです。

私は、この体質ですから寿命では死ねないんですよ。長く生きていると退屈なんです。

退屈を癒やす方法を探すうちに、私は唯ー喜びを感じる瞬間を見出しました。

それは、絶望に喘ぐ人を見ることです。小国のドルキマスを戦乱に突き落とし、暗君によって国民が嘆き悲しむ。

混迷するドルキマスは、私にとってのいい見世物。極上の暇つぶしになりました。

 ディートリヒの手には拳銃が握られていた。まさかその銃で撃つつもりか?

周囲にいるドルキマス兵も、ー斉に息を飲み込んだ。

正義漢ぶるなよ……ディートリヒ。お前も好きなんだろ?戦争が。

戦場でこそ己の生きる場所が見つかる。戦場でこそ自分を活かせる。

だから、追放された母国にわざわざ戻ってきた。戦争を求めて――

私は、戦争を求めたわけではない。ましてや、そこに居場所を感じたことなどない。

貴君のような戦争狂と、ー緒にされては困る。

自分を偽るなよ。お前も人生に退屈した男だ。戦争はもっとも暇を潰せる手段。その程度にしか考えていないはず――

俺たちクレーエ族も、お前の暇つぶしで滅ぼされたのか?

あれはグスタフが勝手にやったことだ。もちろん、私は傍にいて止めなかったがね!

その汚い悪意を吐き出し続ける口を閉ざし、生涯聞けられないようにしてやろう。

そうするにゃ。

 君は、ディートリヒを庇うように立ち、カードを引き抜く。

お前たちを反逆の種として生かしておきたかった。ドルキマスが滅び、この大陸の各地で反乱の火種が立つその日まで。

残念だよ!


 ***


素晴らしい……。だが、抵抗もここまでだ。

 武装したドルキマス兵が、さらに援軍として駆け付けた。君たちに対して銃口を向けている。

いまの私は、ドルキマスの参謀総監。そしてお前たちは、反逆者。

お前たちはここで死に、すべては私の手の上で踊り続ける。この先もずっと――素敵だろ?

どうする?キリがないにゃ。

私は、ドルキマス第3王子テオドリク・ハイリヒベルク。またの名をディートリヒ・ベルク

勇敢なるドルキマスの将兵に告げる。ただちに戦をやめて、私をアルトゥール王のところに案内しろ。

 兵たちは明らかな戸惑いを見せた。

親衛隊の兵ならば、ディートリヒの姿を見たことはー度や二度ではないはず。

zお……王族に銃を向けても死刑。上官に逆らっても死刑だ。俺は……やめる。

 ひとり、またひとりと手にしていた小銃を投げ捨てていく。

なにをしている!?こいつらは反逆者だぞ!?

zディートリヒ元帥には、逆らえません。あの人の元でみんな戦ってきましたから。

元帥閣下、必ず戦争を終わらせると約束してください。

私はただ眠っていたかった。目覚めさせたのは、ひとえに愚かで小心者の兄ひとりの猜疑心によるもの。

もとより、無用な戦争だった。必ず、終わらせる……。

散々人心を操ってきたお前も、兵たちの心までは掌握できていなかったようだな?

終わらせるなよ……こんなおもしろいものを!

俺はもっと見たい!大切な人が死に、泣きじゃくる子どもの姿や、兵たちに略奪され、途方に暮れる農民たちの姿を。

醜悪な世の根源が、ここにあったか。

このような男のせいで、ドルキマスの将兵が傷つき、死んでいく……。

貴君たちは、許せるかね?

 ディートリヒは、目の前にいる兵たちに問うた。誰もが首を横に振った。

魔法使いはどうだ?

 もちろん、許せるはずがない。

ならば、解決方法はひとつだ。

 ディートリヒは、拳銃を握る手に力を込めた。

ま、まて!私を殺すと損失だぞ古代魔法文明の残された遺産。それが私だ!

古代魔法文明の技術は、もう必要ない。この世界にそんなものは必要ないんだ……。

 ジークとディートリヒ。ふたりは同じタイミングで引き金を引いた。

心臓を撃ち抜かれたカミルは、ゆっくりと背中から崩れ落ちる。

ディートリヒは、ドルキマス兵をー瞥する。自分たちの指揮官を失い、戸惑う彼らに向けて告げる。

戦争は終わった。テオドリク・ハイリヒベルクとして命じる。私をアルトゥール王の下へ案内しろ。

あの愚兄と話がしたい。




next





コメント (空戦のドルキマス4 Story5)
  • 総コメント数0
新着スレッド(白黒wiki)
注目記事
ページトップへ