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MARELESS 夢現の蝶 Story5

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2017/00/00


息を切らせながら、ロザリアは夜の街を走っていた。


エリンが工房にいない。夜になっても帰ってこない。

エリンの〈命の刻限〉を確認したが、〈存在〉が随分滅っていた。

〈ナイトメア〉に直接手を下されたのかもしれない。

そしておそらく、エリンはそのバケモノが〈ナイトメア〉だと気づいていないだろう。


 ***


果たしてエリンは、〈ナイトメア〉と一緒にいた。連れ去られたというふうではなく、自ら寄り添っている。

「あ、ロザリアさん。紹介します、私の師匠のフリーダさんです。」

「エリン、寝ぼけてないで! そいつは〈ナイトメア〉よ!」

どこかで見覚えがあった〈ナイトメア〉の女。

初めてエリンを占ったときに視たのだとロザリアは思い出す。

「悪夢に惑わされないで! エリンは師匠の遺志を継ぐためにこの街に来たはずよ!」

「はい、私はフリーダさんの遺志を……あれ? フリーダさんが亡くなったという報せを聞いて、この街に……え?」

エリンは混乱した様子で、くナイトメア)の女を見つめたまま固まっている。

「お前がロザリアか。どれだけの夢を消し去ってきたのか知らないが大した〈存在〉じゃないか。」

〈ナイトメア〉の女――〈フリーダ〉はロザリアを見て笑みを浮かべた。

〈フリーダ〉がエリンの〈存在〉を奪い尽くさなかったのは、ロザリアをおびき寄せるためだったのかもしれない。

まとまった〈存在〉を奪い取り、一気に現実化するつもりなのだろう。

「ここは現実。あなたのいるべき場所じゃない!」

「自分の居場所は、自分で決めるよ。」

〈ナイトメア〉特有の禍々しい気が強まる。

ロザリアはぞわりと寒気を感じ、ああ、〈ナイトメア〉と対峙しているのだなと改めて実感する。

「あたしは幸せさ。〈魔匠技術を極める夢〉が叶ったんだ。

それで終いにしろってのかい? 馬鹿言うんじゃないよ。技術を極めて、何をするかが本題さ。」

「遺志を継ぐ立派な弟子がいるんだから師匠は安らかに眠りなさいよ!」

エリンを庇うようにしてロザリアは〈フリーダ〉と睨み合う。

「弟子? さっきからつきまとってくると思ったら、そいつがあたしの弟子なのかい?

ずいぶんとろくさい弟子がいたもんだ。まるで教育がなっちゃいない。」

「そんな……フリーダさん……。」

「エリン、うまく飲み込めないと思うけど、あいつはフリーダじゃないの。あなたの師匠の姿を借りたバケモノよ。」

ロザリアは魔力を身にまとい、臨戦態勢に入る。

それを見た〈フリーダ〉は外套の内から1本のナイフを取り出す。

「挨拶代わりだ!」

投げられた間色に輝くナイフは、ロザリアに命中することなく足元に刺さる。

外した――わけではなかった。

刃に刻まれた呪文らしき紋様が不気味な光を放つと、魔法陣が出現。光の渦がロザリアを呑み込む。

すると、身にまとった魔力が霧散してしまった。

「呪文をとなえることなく、魔力を身にまとって戦う。そういう流派も当然識っている。」

ロザリアは再び魔力をまとおうとするが、うまくいかない。

「魔匠技術を極めるとはどういうことか。魔匠技術ってのは魔道が基礎だ。

あたしはこの世に存在する魔道を識り、そのすべてに対抗する魔匠具を生み出した。

門外不出の秘術から、魔道と呼べないような野蛮な代物。何から何まで、しらみつぶしにな。」

「そんな夢みたいな話……。」

「ああ、あたしは夢さ。それでいて、現実なんだ。」

「フリーダさん! やめてください! ロザリアさんは私の命の恩人なんです!

フリーダさんは教えてくれました。魔匠師として大事なのは、知恵と技術と理性だと。

そして、人として大事なのは、恩を忘れないことだと!」

「恩を忘れない? 知らないねえ、そんな眠たいこと。」

〈フリーダ〉の吐き捨てるような言葉に、エリンは目を伏せる。

「……フリーダさんはそんなこと言いません。やっぱり、フリーダさんじゃないんですね。」


ロザリアはエリンからもらった魔匠具の短剣を構える。

魔力を注ぎ込むと、それに応えるように刃が光を放つ。

地面を蹴って〈フリーダ〉に接近。

〈フリーダ〉は飛び退りながら赤い光を放つナイフを投げる。

迫るナイフを、魔匠短剣で弾き落とす。瞬間、刃が粉々に砕け散った。

「基礎的な魔匠具への対処は簡単だ。魔力を滞留させてやればいい。

さあ、他にどんな手段がある? 詠唱は無駄さ。どんな流派でもな。

この街の魔道士もいろんな流派がいたけど、詠唱を封じるのに造作もなかったねえ。」

エリンは球体の魔匠具に手をかけ、呪文が刻まれた真鍬の輪を勢いよく回転させる。

「お願い……〈ホムンクルス〉!」

エリンの手から、〈ホムンクルス〉が〈フリーダ〉目がけて飛んでいく。

一瞬虚を突かれたように固まった〈フリーダ〉だったが、ぞんざいにナイフを振るって〈ホムンクルス〉を叩き落とした。

「なんだその魔匠具は……。魔力効率が悪いったらねえ。ガキのおもちゃじゃねえんだよ。」

「ヤバいね……エリン、逃げよう!」

「ここで逃がす馬鹿がどこにいるんだい!」

〈フリーダ〉がエリン目かけて青白い光を帯びたナイフを投げる。

咄嗟に、ロザリアはエリンを庇って前に出た。

ナイフが腕に剌さる。しかし走ったのは鋭い痛みではなく、がくんと力が抜け、意識が遠のくような虚脱感だった。

「対〈メアレス〉用の魔匠さ。〈存在〉はいただくよ。」

あっという間に追い詰められてしまった。虚勢を張って笑おうとしたが、うまくいかない。

ここで消滅するのかもしれない。

そんな未来は、もはや可能性という生易しい言葉では済まない。

まるで、いつか幻視した悪夢のような光景――


「苦戦しているようだな。」

声のほうを見上げると、月光を背に佇むノクスがいた。

「見たらわかるでしょ。これが苦戦じゃなかったらなんなのよ!

「約束したからな。ここは退け。」

「ありがと、ノクス! 恩に着る!」

ロザリアはエリンの手を引き、走る。


行く手を阻むくフェノメア)は、障害であると同時に貴重な〈存在〉の供給源だ。

ロザリアとエリンは〈フェノメア〉を狩りながら夜の街を駆け抜けた。


<〈存在〉が消えてしまうにゃ!<〈ナイトメア〉は異様にゃ。





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「フリーダさん、この設計図を見てください。私が考えた最強の魔匠具です。まずは双剣です。それぞれ、まったく違う性質の魔匠を施します。」

「なるほど、戦いながら右と左を持ちかえて相手をかく乱するってんだな?」

「そういう戦い方もできます。でも、それだけじゃないんです。剣同士をドッキングさせて弧を描く弓の形にします。そして、魔力をー気に解放するんです。そうすると……相反する魔力同士がぶつかって、圧縮された魔力が矢のように飛んでいくんです。」

「自分のすぐ近くで魔力同士をぶつけるなんて危ねえだろうが。」

「危なくないです。柄の部分に刻んだ呪文がドッキング時に発動して飛んでいく魔力の指向性を完璧に制御します。」

フリーダはじっと設計図を睨みつける。

「……まあ、理屈の上では、そうか。いやでも、エリン、お前……。想定する魔力が魔道±20人分くらいになってるぞ。これは計算ミスじゃねえのか?」

「いえ、計算ミスではないです。それくらい魔力が必要なので。ちなみに〈永劫機関〉の上級魔道士が使う〈邪炎〉で計算しました。」

殴られた。

「なんで殴るんですか……。魔道±20人が同時に攻撃魔法を放つよりも強いんですよ?」

「どこにあるんだそんな魔力! こんな夢みてえな魔匠具、作ったところで誰も使えねえよ。ちったあ現実見ろってんだ。」

それはまったくの正論だった。エリンはうなだれる。

しょぼくれながら、夢でしかない設計図を折りたたんでいると、わしゃわしゃと頭を撫でられた。

「……でもな、そういうところがお前の魅力だ。

お前はとろくておとなしいくせに、発想は馬鹿みてえに大胆だからな。そういうのも大切だ。」

「えへへ……。」

「だけど、程度ってもんがある。夢を見るのも大事だが、しっかり地に足つけていかねえと、生きてけねえぞ。」

「はい、精進します!」

「なんか喰いてえもん、あるか?」

「はい、お肉が食べたいです。」

「おい、あたしの喰いてえもん言わなくてもいいんだよ。自分の喰いてえもんを言え。」

「じゃあ、ケーキが食べたいです。」

「よっしゃ、肉とケーキを喰うぞ!」


 ***


「フリーダさん……。」

夜の路地裏で息を潜めながら、エリンは静かに泣いた。


ロザリアは自分の蝶を見つめ、夢を視ていた。

相変わらずの、悪夢だ。

最初に視えたのは、過去。小さい頃から何度も視ている夢。

草原の中で蝶を追いかけていたら、崖に気づかず転落し、死んでしまう。

そんな過去はないはずなのに、どういうわけか何度も視る悪夢だ。


次に視たのは、未来の悪夢。何度も何度も、繰り返し自分が消滅する様を視る。

〈フリーダ〉に根こそぎ〈存在〉を奪われてしまい、夢と消える自分が諦観を思わせる儚い笑みを浮かべる。

らしくないと思う。

死ぬならせめてもっと悔しがれと思う。


目を開ける。状況は最悪。寝ても覚めても悪夢といったところだ。

それでも――


「あー、生きてるなー。うん、生きてる。」

絶望的な夢から覚めたロザリアの胸にあるのは、生の実感だった。

〈存在〉が薄れ、死の肌触りを感じ取った。それゆえに、まだ生きている自分を強く感じる。

こんなところで終わるわけにはいかないと、獰猛に未来を掴み取ろうとする自分に気づく。

自信に満ち溢れた瞳が、ガラスの蝶に映った。

自分が消滅するという悪夢を消してやろうという想いが溢れ出す。


「さあ、〈存在〉を勝ち取らないとね。何回も死ぬとこ視たから、あいつの攻撃大体わかったし。」

ロザリアは立ち上かって伸びをする。

隣からは、すすり泣くような声が聞こえてきた。

「エリン、大丈夫?」

弱気になっているかと思いきや、赤く腫らした目には、力強い意志が宿っているように見えた。

「フリーダさんには恩がありますから。フリーダさんそっくりの〈ナイトメア〉は絶対に倒さないといけません。」

「そうだ、エリン。無限に魔力が湧き上かってくる魔匠具ない?剣を2本つなけて、弓みたいにするやつ。」

何度も〈フリーダ〉に敗戦する悪夢の中で、ロザリアは見覚えのない弓型の魔匠具を使っていた。

その魔匠具を構えると、自分の内から滾々と魔力が湧き上がってきたのだ。

攻撃前に懐に潜り込まれ剌されてしまったが、あの膨大な魔力による一撃が決まれば、〈フリーダ〉を倒せるのではないか。

「実は、ロザリアさんなら使いこなせるのではと思って作っていたんです。

でも、あの魔匠具には魔力を生み出す効果なんてありません。むしろ起動させるのに膨大な魔力が必要で……。」

ならば、夢の中で感じた魔力が湧き上がる感覚はなんだったのだろう。

「……私はロザリアさんの夢を、いえ、ロザリアさんを信じます。ロザリアさんには特別な力があるんです! ロザリアさん。私の〝夢〟を使って、〈ナイトメア〉を倒してください。」

自分が幻視した未来を、そしてエリンの〝夢〟を信じるしかなさそうだ。

「いいね。エリンの〝夢〟、聞かせてよ。」


 ***



かつてフリーダであった〈ナイトメア〉はノクスと戦いながら、奇妙な感覚にとらわれた。

自分は〈夢現〉の存在だ。しかし、目の前の男は、一体何者か。

現の存在という感じはしないし、夢ともまた違うように思える。〝何者でもない〟が一番しっくりきた。

「……お前は〈メアレス〉なのか?」

「さてな。今ここで貴様を狩るという意味では、そうなのかもしれない。」

苛立ちを抑えきれない〈フリーダ〉は、力任せにナイフを投げる。

五月雨の如く殺到するナイフを、ノクスはしなやかな身のこなしでかわしていく。避けきれないものは、杖で打ち払う。

そんな膠着状態が、先刻からずっと続いていた。

すべての魔道への対抗手段を持つと言えど、相手の正体がわからなければ話にならない。

こちらから仕掛けるしかないようだ。

〈フリーダ〉は身体強化の魔法を詠嘆。

両手に加速の魔匠を刻んだナイフを携え、ノクスに接近。

最初の一閃はかわされる。

すかさず間合いに踏み込んで放った次の一閃は杖に弾かれる。

そこで生じたわずかな隙を見逃すことなく――

胸部に衝撃。

立ち上る硝煙で理解する。

ノクスが杖から引き抜いた銃を撃ったのだ。

「仕込み銃とは……小賢しい手だ。そんなものを隠し持ってるなんてねえ!」

胸元を押さえながら、フリーダは吐き捨てるように言った。

普通の銃というわけではないようだ。魔法で身体強化をしていなかったら、斃れていたかもしれない。 

「不意打ちで決めたかったっつうとこかい。残念だねえ、次はもう食らわねえさ。」

「〝奥の手〟が通用しないとはな。」

ノクスは銃を手放した。

それを見た〈フリーダ〉はナイフを投擲。

「〝更なる奥の手〟を使うしかないようだ。」

ノクスがそっと撫でるように左手の革手袋を外す。

現れたのは、禍々しい異形の手。

放ったナイフが、吸い込まれるようにして異形の手の内に消えた。

「な、何だそれは!」

「問われても困るな。俺自身、よくわかっていない。魔力を啜る〝何か〟だ。」

ノクスの左手。

異形の手。

魔力を啜る〝何か〟。

本能にも似た嫌悪と恐怖を覚えた〈フリーダ〉は手当たり次第にナイフを投げつけた。

しかし、すべてが異形の手の内に吸い込まれてしまう。

「ナイフだけじゃない。貴様のような身体が魔力でできているバケモノも、吸収できるというわけだ。」

「そりゃおっかない。あんたとはやれないねえ。」

果たしてこの男から逃げきれるかどうか。考えを巡らせていた〈フリーダ〉は、目を疑った。

ノクスは異形の手を革手袋で覆い、杖を拾い直して身なりを整えていた。

「風向きが変わった。」

ノクスはゆったりとした足取りで、そのまま去っていった。


事情は知らないが、厄介な相手がいなくなったのだから、変わった風向きは〈フリーダ〉にとっての追い風になりそうだ。

安堵して、深く息を吐き切った瞬間、背後から声をかけられた。


「私はよく、フリーダさんに怒られました。もっと現実を見ろと。だけどフリーダさんは私の夢みたいな設計図を、褒めてもくれました。」


〈フリーダ〉は何も答えない。

エリンは〈フリーダ〉をまっすぐ見つめている。最後のお別れをしたいのだという。

〈ナイトメア〉がフリーダではないと頭ではわかっていても、踏ん切りがつかないところがあるのかもしれない。

ロザリアはその様子を、陰からそっと見守る。


「そして、私の〝夢〟は叶いました。

本来、私の〝夢〟は叶うはずのないものだったんです。この世には、存在しないはずだった。

だから、この世に存在する魔道と魔匠の全てを識って〈魔匠技術を極めた〉あなたであっても、私の〝夢〟には敵いません。」

エリンの言葉を黙って聞いていた〈フリーダ〉がようやく口を開く。

「眠てえこと言うガキだ。講釈垂れても始まらねえんだよ。とろくせえお前になにができるってんだい?」

「悪夢ばっかり視てうんざりしてる夢占い師に素敵な〝夢〟を授ける、とかかな?」

ロザリアは目で合図して、エリンを後ろに退かせる。

「〈悪夢〉を消し去るのにぴったりの〝夢〟だよ。」

ロザリアはエリンの〝夢〟の魔匠具である双剣を構える。


「さあ、〈存在〉を賭けて戦いましょう!」



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ロザリアの足元に青白い光を放つナイフが飛来する。大きく横に跳んで回避。

その着地点に向かって、ナイフを逆手に握った〈フリーダ〉が猛然と向かってくる。

ナイフが間色に光る――効果は身体の魔力剥離。

息もつかせぬ早業で刃が舞う。しかしついていけないスピードではない。闇の刃をすべて双剣で受け止める。

攻めきれない〈フリーダ〉は一旦退いて得物を投げ捨て、外套の内から新たなナイフを取り出す。

刃に刻まれた呪文は赤く光っている――効果は魔匠具の魔力滞留。

「おおおおおおおっ!」

猛然と迫る〈フリーダ〉の赤い刺突を、ロザリアは魔力をまとった左腕で受けた。

「痛ったい! けど痛いだけ!」

そのまま〈フリーダ〉の手を斬り飛ばそうと右の剣を振るうが、刃は空を切る。

「しぶといねえ。わざわざ戻ってきただけのことはあるじゃないか。」

再び大き〈距離を開けた〈フリーダ〉は肩で息をしている。

「当たり前よ。私、同じヘマはしないの。」

夢の中で、未来の自分は散々ヘマをし続けた。

その屈辱と〈フリーダ〉の攻撃手段のすべてを頭に叩きこんだのだ。

一方的にやられただけの先刻とはまったくの別人と言っていい。

遠距離からの投擲も、近接格闘も、易々とは食らわない。

「ちくしょうめ……。不条理な世界もあったもんだよ。」

〈フリーダ〉はロザリアを恨めしげに睨む。

「せっかく願いが叶ったと思ったら、自分が消えちまうっていうじゃねえか。

この世に生きる限り……生き続けたいと思うのは当たり前だろ!」

いずれ消滅する不完全なものとしてこの世界に産み落とされ、〈存在〉を奪うことを半ば宿命づけられた。

〈ナイトメア〉からしても、その状況はまさしく悪夢だろう。

「だから、誰彼構わず〈存在〉を奪い取るしかないってんだよ!」

「そうね。私らもあんたらも、半分夢で半分現。生まれは違っても、今の立場は一緒。」

元々現だからこの世に存在する権利があるという主張など、通るはずもない。

「私たち、戦うしかないのよ。まったくふざけた宿命ね。」

戦い続けて、勝ち続けて、存在を示し続けるしかない。

そんな必死の羽ばたきも、傍目には憐れな悪あがきにしか映らないだろう。

「……でも、今、すっごく生きてる感じがする!」

「聞くに堪えないねえ。死にかけが粋がっても滑稽でしかねえってんだ。」

半分強がりかもしれない。でも、残りの半分は本気だ。

それに、とロザリアは思う。

無我夢中で生きる日々が、いつか報われるかもしれない。

悪あがきにも似た羽ぱたきが、巡り巡って未来の幸せにつながるかもしれない。

それは、夢というものだろうか。

わからない。

夢はもっと具体的で、もっと強く願うものだろう。

「まあでも、今を生きるにはそれで充分!」

「今を生きる? ここで死ぬの間違いだろ!」

「私が今を生きれば、あんたはここで死ぬ。さあ、そろそろね。」

魔匠具に魔力を込め続けるというのは、思いのほか難しかった。

自分が持っている魔力はすべて込めた。

〈魔剣弓〉を起動させるには、更なる魔力を自分の内から引き出さなければならない。

半信半疑ではきっとうまくいかないだろう。

根拠に頼っている余裕はない。自分を信じて目を閉じる。

夢占いをするときの感覚を、一層研ぎ澄ます。

夢の中にいる自分を意識する。夢の世界に溶け出し、夢と一体化して、再び自己を形成するイメージ。

魔力の泉となった自分を、今、ここに顕現させる――

目を開けると同時、魔力の激しい脈動を感じる。

確信を持って、双剣を握り直す。

魔力が己の内側からとめどなく湧き出してくる。

「はあああああっ!」

ロザリアは気合いの雄叫びをあげ、双剣に魔力を注ぎ込む。

刃に刻まれた呪文にどんな意味があるのかなんてわからない。

それでも、魔力に応えて力を湛えているのが伝わってくる。

双剣の柄頭同士を合わせると、光を放ちながら新たな呪文が浮かび上かって、弓の形となる。

「……なんつう魔匠具で、なんつう魔力なんだよ。それがあたしを斃す〝夢〟の正体か!」

ロザリアは〈魔剣弓〉を構える。

実際には弦も矢もないが、弓を引くイメージを作りながら集中力を高める。

エリンから教えてもらった起動呪文(キースペル)を頭の中で何度か唱えてみた。

大丈夫。勝つ未来しか視えない。

「見よ、悪夢を消し去る瞬間を!〈夢現の射手(トランスシューター)〉!

起動呪文に反応し、〈魔剣弓〉が滾らせた魔力を一気に解き放つ。

爆発的な衝撃と共に魔力の矢が走る。

〈フリーダ〉はありったけのナイフを放って魔力の矢を撃ち落とそうとする。

魔力の矢はそれを寄せ付けることなく――

「くそおおおおおおおおおおォ!」

そのまま〈フリーダ〉を貫き、その身を焼き尽くした。




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命の恩人に、ぜひお礼がしたい。

ロザリアを介して、ノクスは食事会に招待された。

魔匠師のエリンがそう言っているらしい。


そんなものに行くはずもなかった。

昨夜の、あの強力な一撃を見ていなければ。


膨大な魔力を扱うロザリアはバケモノだが、その潜在能力を活かす魔匠具を作ったエリンもまたバケモノだ。


「このろくでもない街は、バケモノばかりだな。」

ノクスは左腕をさすりながらつぶやいた。


 ***


「ようこそいらしてくれました。ノクスさん、あなたは命の恩人です。この御恩は一生忘れません。

ささやかながら、食事を用意させていただきました。あと、魔匠具なんかも、作らせていただければ。」

エリンは微笑みを浮かべながら、テーブル狭しと料理を並べていく。

料理自体は、根菜のスーブ、ライ麦パン、羊のソテーといった特に変わり映えのしないものだが、器が独特だった。

「この食器、全部魔匠が施してあってですね、なんと、料理が冷めないんです。何よりもアツアツの料理がお好きだと伺ったものですから。」

エリンの後ろで、ロザリアが噴き出すのを堪えている。

「ロザリア、お前……。」

「あれ、違った? 無能の夢占い師だから、よく覚えてないなー。」

ノクスはこの場で〝奥の手〟を引き抜いてやろうという気持ちを抑える。


こいつらは使える。

あれだけの力があれば、狭間の地で〈ロストメア〉と戦い、いずれは……。


皿から立ち上る湯気の向こうで、ロザリアは底意地の悪そうな笑みを浮かべている。

ノクスも、含みのある笑みを返した。





MARELESS 夢現の蝶 -END-

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MARELESS 夢現の蝶 Story2

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