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st.Valentine2017 エリス編 Story【黒猫のウィズ】

最終更新日時 :

白猫ストーリー

黒猫ストーリー


2017/00/00

目次


Story1 エリスの憂鬱

Story2 とある本との出会い

Story3 エリス、一生の不覚



story1 エリスの憂鬱



エリス=マギア・シャルムは悩んでいた。


「ふう……。」


イーニアの突然の隠居宣言の後、事後を託されたエリスが魔道士協会理事の筆頭となった。

実質、魔道士協会のトップに立ったという意味でもある。


しかし、エリス自信は自分が多くの魔道士たちの頂点だとは思っていなかった。

いや、思えなかった。


「この後はハーネット商会の代表……つまりソフィさんですね。彼女との新薬開発の打ち合わせがあります。

その後は、魔道士評議会理事との会食。その後は……魔道学園の卒業式の挨拶の打ち合わせですね。」


以前はイーリアの助手を務めていたメリィ・ミツボシ。

彼女はいま、エリスの助手を務めていた。


ごく自然に、さも当然とばかりに、エリスの助手を務める彼女を見て、エリスは尋ねてみたいことがあった。

粛々と予定を読み上げるミツボシに、エリスは声をかける。


「メリィ。」

「はい。何でしょうか?」

「あなたはこの状況に違和感はないの?」


エリスはかつてイーリアが仕事場としていた場所を示し、自分が感じている違和感を表明してみせる。

中に書かれた魔道メモから目を離し、ミツボシは周囲を見渡す。


「特に何も……。」

「そんなことはないわ。あるじゃない。」

といって、エリスは大きく手を広げる。

「ここに私が座っていることに違和感はない?」

「……それは違和感というよりも、新鮮さを感じますね。」


穏やかな調子で答えるミツボシを見て、エリスはそれ以上言わないことにし、広げた両手を下ろした。

言ったところで、何もかわらないのは、間違いなかった。自分にとっても、彼女にとっても。


「私はここから見る風景に違和感がある。」

とだけエリスは呟いた。

それが聞こえたのかはわからないが、ミツボシは終わった会話の続きを始めた。


「どう思うかは、あなたの自由です。

でもいまそこに座っているのはあなたです。

イーニア先生が全てを託した、あなたです。

わたくしは、そこに違和感はありません。」


軽く手を振って、ミツボシは目の前に浮かぶ光を消した。


「……。」


イーリアの助手を務めていたミツボシが、そのままエリスの助手に就いたのは、それがイーニアの意思だったからである。

イーニアに絶対の信頼を置くミツボシにとって、今の状況は疑うべくもなく、正しいのである。


あるいは彼女を怒らせてしまったのだろうか。

エリスはそう思った。だが、エリスにとってはイーリアの正しさに疑いしかなかった。


漏れそうになった謝罪の言葉をエリスは飲み込む。


「そうね、先生の意思を継がないとね。ところで、アリエッタの方は大丈夫?」


これまでエリスが担ってきたアリエッタの監督業務は、エリス直属の魔道士たちに託されていた。

エリスは不安で仕方なかったが、現状ではそうせざるを得ないのだ。


「報告によると、最近は森に入って、植物などを見て回っているようです。」

「相変わらず自由ね……。」


今ではそれがうらやましくも思う。

そして懐かしくも、戻りたいとも思いもした。


そんな思いを振り払うように、エリスは立ち上がる。


「少し早いけど、ハーネット商会との打ち合わせに出発しましょう。」

「はい。承知しました。」


少し、この部屋から離れたい。

そんな気持ちもあった。



 ***



「そうね、では研究を進めるための優秀な魔道士を協会から派遣するわ。」

「うん。費用に関しては、これまで道りハーネット商会が持ちますね。」


魔道士協会とハーネット商会は、互いが持つ資産を活用し、協力関係を築いていた。

それはイーニアの頃から始まり今も続いていることである。


「ありがとう。決してハーネット商会にとって、利益がある計画ではないのに。」


特に現在、協会と開発しているのは、魔道士向けの新薬である。

万人向けではないものを開発するのは、ハーネット商会としての金銭的な旨味は少ない。


「いいえ。ハーネット商会は人を癒す薬を作る組織ですから。

人のためになることは率先せて行うのがモットーですから。」


だが、それもその計画を推し進めているのはイーリアの薫陶を受けたソフィの考え方によるところが大きい。

くんとう【薫陶】すぐれた人格で感化し、立派な人間をつくること。

「それに協会の魔道士を動員できるのは、ハーネット商会として大きな利益になってます。

あ。そうだ。魔法学園の奨学金の話も進めてもらっても大丈夫ですよ。」

「ええ。わかったわ。こちらも理事たちの承認を取るだけよ。まあ、それが一番大変なのかもしれないけど。」


そして新たな計画として進めている魔道学院の奨学金制度も、イーリアが立案したものである。

エリスはそれら先代の計画を粛々と実行しており、偉大な初代の仕事を引き継ぐ二代目としては非常に優秀ではあった。

だが、どうしても彼女の中で、それではいけないという気持ちが芽生えてしまった。


イーリアの仕事を受け継ぎ、立派に成したところで、それはイーリアの仕事なのだ、と。


「……。」


その感情は、新薬の開発から商会の設立までを行った偉大な初代である、ソフィー・ハーネットに対してある種の羨望を抱かせた。


「ソフィ、少し時間ある?」

「ん?そうですね……。」


ソフィは自分の秘書の方を見た。

その顔は渋い表情である。

それはエリスにも、もちろん見えていた。


「難しそうね。じゃ、またいつかに。」

「あ。待ってください。それなら私のほうきで送ります。」


引き下がるエリスをソフィは慌てて止めた。

本来自立したエリスがソフィに何かを頼むことは稀であった。


こう見えても、世界最大の商業組織であるハーネット商会の代表である。

その辺りの人心の機微はソフィも心得ている。

引き止めなければいけない。そう思うのも無理はなかった。


「それならいいですよね?」

「ええ……。お願いするわ。」


エリスとしても断る理由はなかった。



 ***



黒塗りの巨大ほうきが魔道都市の空を進んでゆく。

窓から都市を見下ろすと、人々が豆粒のように小さく見えた。


そのひとつひとつに命があり、想いがあり、悩みがある。

空から見ていると、とてもそう思えないほどちっぽけだ、とエリスは思った。













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