時詠みのエターナル・クロノスⅢ 魔道杯 Story【黒猫のウィズ】
ストーリーまとめ
大魔道杯〈ネイキッド・ティータイム〉 |
2017/00/00 |
目次
主な登場人物
story1
ステイシー・マーキュリーは気づいてしまった。
しまった。
ティーソーダーのグラスについた水滴が、自分の手を濡らした瞬間――
彼女の中で全ての事実が結束し、ひとつの結論を導きだしたのだ。
ステイシーは落ち着きを取り戻すために、グラスを満たす琥珀色の液体で唇を湿らせた。
舌の上で、心地のよい刺激が踊る。
どうしたのですか、ステイシー?
呆然とするステイシーを見て、イレーナが心配そうに赤髪の女神に尋ねる。
ウチたち……遊んでない。
声は溺れるような、大きさだった。イレーナは思わず聞き返す。
は?
イレーナの方へ向き直り、今度ははっきりと発言した。
いや、だから。せっかくエターナル・クロノスを離れて、こういう所に来ているのに、やってることはいつもと変わらないじゃない。
ええ……まあ、そうですね。
良くないと思わない?
いいえ。思いません。
マジでか!
ワゴンを押して、エイミーとセリーヌがやってくる。
ついでに、鼻をくんくんさせながら、ワゴンの上のパンケーキを覗きこむカヌエもいた。
つまり、パンケーキととびきりのんき者の登場である。
バァナァナァ……。
ふたりとも、パンケーキの到着だよ☆
だが、ステイシーにとってはそんな場合ではなかった。一大事である。個人的な一大事であった。
パンケーキとか食べてる場合じゃないよ、セリーヌ。私たち、遊んでないんだよ。
せっかくエターナル・クロノスを離れたのに!
パンケーキを食べている場合じゃない?
そう! そんな場合じゃない!
つまりそれって……ティータイムを否定している? つまりそういうこと?
あ。
しまった、とステイシーは思った。
セリーヌはティータイムをないがしろにされると、ものすごくメンドクサイことを言い出すのである。
それって酷くない? 時計塔で働くみんなはティータイムをどれほど楽しみにしているか……。
そういう下の意見を聞かない女神って、ちょっと古いと思います。
あ、ステイシーは未来の女神だけど、なんかそういうの過去っぽいと思います。そういう古さ? ステイシー、たまにそういうとこあるよね。
そうだねえ。そういうところあるよねえ。
ごめん、ごめん。ティータイムを悪く言うつもりはなかったのよ。
ほんと?
ほんとよ。
じゃ、謝って。
ごめんなさい。
私じゃなくって、ちゃんとティータイムに謝って! ティータイムの方向いて!
(ティータイムの方ってどこ?)
怒りの収まらぬセリーヌに応じて、ステイシーはティータイムの方に向き直り、謝罪する。
ごめんなさい。……これでいい?
オッケー☆
なら、ちょっと、私の話を聞いてほしいのよ。私たち、全然遊んでない。それって良くないと思うの。
ですが、貴方はけっこうお祭りを満喫していたのでは?
いや、あれは一応時間を取り戻すという名目があってのお祭りだから……なんかちょっと仕事感があるじゃない? だから、だめ!
なら、またお祭りの日に戻る☆
それは冗談でも言わないで!
ごめん……。
時の女神たちの不毛な議論に割って入ったのは、カヌエだった。
それならもう一回祭りをやったらいいんでないかい?
え? いいの?
神様がやりたいって言ったら、だいたいは出来るから。
ま、だーいじょうぶだから。じゃ、ちょっとソラも呼んで相談すっからー。
言うと、カヌエの指先に球体の光が出現する。
それは徐々に具体を持ち始め、何やら奇妙な鳥の形を取った。
鳥キュー! キュー!
おお! なんか神様っぽい!
翼を大きく2度羽ばたかせると、その鳥は太陽だけがギラギラと輝く青空へ飛んでいった。
カヌエさん、そんなことも出来るんですね。
飛んでいった鳥を見送り、イレーナは感嘆しつつ、カヌエを見た。
……。
アレが本体だったッ!?
story
7ああ、確かにアレ出すと、くらぁってなるな。
そう。便利なんだけど、すごぉいくらぁぁぁってなるからねえ。
1それを最初に言ってほしいのですが。
3いきなりあんな風になったらちょっと驚いちゃうね。
彼女たちが話題にしているのは、いま木陰でピーチクパーチクしている謎の鳥のことである。
2で、アレなに?
7さあぁ……?
2いやいや。何で知らないのよ。
みんなが思ったことが、力になっちゃうわけだからね。
誰かが鳥とか出せんじゃないかなあって思ってるんじゃないかな?
2他にも何か些細な能力とかあんの?
7あるよ。えーと。カキに当たらないようになるおまじないとかかな。
2絶妙に使えるような使えないようなおまじないね。カヌエにもあるの?
鯛の骨の中に、ほら、ちっちゃい鱗みたいなのあるよねえ。アレを見つけられる。
2絶妙過ぎるね。
7だが、この世界ではあの骨は縁起物だからな。幸運のお守りでもある。
3そうだ☆ それを探すお祭りにするのはどう?
7だめだめ。あの骨はカヌエのお守りだ。お祭りは平等なものじゃないとだめだ。
3そうかぁ……。
時計塔の3女神と太陽を司るふたりの女神。彼女たちはいま悩んでいた。
ステイシーの祭りを楽しみたいという提案を受けて、新たな祭りを開催することに決めた。
決めたのはいいが、一体どんな祭りをすればいいのかわからなかったのである。
1やっぱり競争する方がいいんですよね?
とイレーナはカヌエとソラに確認した。
7そうだな。そうじゃないと、盛り上がりに欠けるからな。
祭りっつったら、競争っしょー!競争してなんぼっしょー!
2で、やっぱりこの気候とか海に相応しいものじゃないとだめよね。
そら、サンザールつったら、太陽と青空っしょー!
1太陽、青空、海、競争……。
と条件を上げた所で、新しい祭りは、なかなか見つかるものでもなかった。
〈洗濯祭り〉というのは、どうでしょうか。とてもいい天気ですから、捗りますよ。
2エイミー、それはちょっと……。
7ああ、それはだめだ。前に一度やって、誰が誰のものか分からなくなって大変なことになったんだ……。
なるほど、残念です。
2前にやってみたんだ……誰か止めなかったの?
1〈あつあつシュー祭り〉というのはどうでしょうか?
この暑さの中で、熱々のシチューを食べ続けるのです。意外と面白いかもしれませんよ。
その意見を聞いて、カヌエは即答した。
正気かい?
1……す、すいません。
そんな中、唐突にソラが呟く。その表情は真剣そのものである。
7……釣り祭り。
街中総出で釣りをして、魚を釣りまくるんだ。一番釣った人が勝ち。
どうだ。なかなかいいんじゃないか?
街中の人でやったら、それもうただの漁になっちゃうねえ。
7そうか……。地曳網は? みんなでやると楽しいぞ?
それもう完全に漁だねえ。それに網を仕掛けて、待ってる間、何するんだい?
7……釣り?
漁だねえ。効率良くなっちゃったねえ。
憂いの多い午後。
話し合いは暗礁に乗り上げ、他愛もないアイデアが取り留めなく出て来るだけだった。
そんなとき、どんな者もそもそもの始まり、事の原点に立ち戻ろうとする。
この話し合いの始まり。つまり、ステイシーが遊びたいという欲求に立ち戻った。
すると、みんなの心のどこかに、「別にもういいか」という感情がむくむく芽生えてきた。
2ちょっと待って、勢いが無くなって来てない? だめだめ!祭りするよ!ちゃんと考えて!
ええ~。
そんな時、黒猫の魔法使いが散歩から帰って来た。
一同は、ぎろりと魔法使いに目を向けた。なにやら助けを求めるような、そんな視線である。
1魔法使いさん。何か良い祭りを知りませんか?
Wにゃにゃ?
君は祭りと言われて、反射的に魔道士ギルドのお祭りイベント〈トーナメント〉を挙げた。
9おお!いいんじゃないかねえ。それ、いいんじゃない。
2うん。盛り上がりそうだね。
3うんうん。
君の発言によって、暗礁に乗り上げていた議論が一気に解決へと向かった。
ひとえに〈トーナメント〉の新しさと、女神たちの「もう早く決まってほしい」という本音が、強力な勢いを生み出したのである。
ところが、それに異を唱える者がいる。
7太陽と青空と海はどうする? サンザールっぽさは?
「「「「……。」」」」
7な、なんだよ。
女神たちの絶望的な視線が、助けを求めるように、ソラから君に向けられた。
Wにゃにゃ、なんかやばいにゃ。
君は苦し紛れに言った。水着でやれば、と言った。
「「「「それ採用!」」」」
というわけで、サンザールの街で始めてのトーナメントが行われることになった。
水着で。
story
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サンザール初の〈トーナメント〉は終わった。
約4日間続いた戦いは、真っ赤な太陽の光が優しさに傾き始めた頃、終わりを迎えた。
光は、まるで君たちの戦いを讃えるようだった。
にゃは。たまにはこういう〈トーナメント〉も良い物にゃ。
ええ、すごく楽しかったですね。
まさかエイミーが飛び入り参加してくるとは思わなかったです。
ふふふ。実は最初からそのつもりでございました。魔族の血が騒いで仕方がなかったのです。
君はとてもいい戦いだったと、皆を讃えた。
じゃあ、ちょっくら結果でも見に行くっしょー!
Sでは参りましょう。