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【黒ウィズ】アシュタル編(黒ウィズGP2017)Story

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最終更新者:にゃん


2017/08/31




Story 曇らない剣はない


あー、なんだ。剣ってのは、そんなに難しく考える必要はねえ。

相手がこう向かってきたら、ザッとかわして、ズザッと斬りつけるだけでいい。

そして、向こうがガガッと迫ってきたら、ズバーとやって敵の攻撃を受け流す。

まあ、こんな感じだ。やってみろ。

 成り行きとはいえ、剣の師になることを承諾してしまったのは後悔している。

師弟の関係を綸んでしまった以上は、弟子の成長にある程度責任を負わなければいけない。

その面倒さを嫌って、ずっと誰かの師になることを避けてきたのだが……。


言ってることが全然わかんねえよ!なんだよ、ズザッとかガガッて?

 心変わりしたのは、弟子入りを希望していたアリオテスの強くなりたい理由を聞いてしまったからだ。


「オヤジを斬ったこと、申し訳ないと思っているなら俺に剣を教えろ父の仇、アシュタル・ラド!」


アリオテスの父を斬ったのは、アシュタルだ。

仇に弟子入りを志願するというぶっ飛んだ発想は、気に入っているが、いざ師になってみると、やはり面倒なことが多い。

(宣言どおり俺を斬れるぐらい強くなったら、ちっとは面白いんだがな)

アシュタルを仇だと憎んでいるからこそ、アリオテスには強くなるためのー―はっきりした動機がある。

そして若さゆえの期待もある。

教えてくれるのは嬉しいけど、もっとわかる言葉で教えてくれよ。頼むぜ、師匠。

わからないのは、お前に理解力がないからだ。心を無にして素直に受け止めろよ。俺はそうやって強くなった。

そ、そうなのか?じゃあ、ズ……ズザッ!こうでいいか?

全然違うだろうが!教えたとおりにやらねえなら、二度と教えねえぞ!

だから、わかんねーんだよ!?そんな雑な説明で、理解できるわけないだろうが!

口うるせえ弟子だぜ。最初から言ってるだろうが、俺は人に教えるのは、死ぬほど下手だって。

ともかく、難しいことは考えずに打ってこい。お前に剣の才能があれば、打ってるうちに自然と強くなるだろうぜ。

 事実、アシュタルはそうやって強くなった。

若い頃から、死線をくぐり抜け、いくつも戦場を渡り歩くうちにいつの間にか強くなっていた。

真に“強い”ということは、そういうことなんだとアシュタルは理解している。

たあっ!

 アリオテスが、木の棒を横薙ぎに振り払う。

棒先が腹部をかすめる寸前のところで、アシュタルはうしろに飛び退いて避けた。

しかし、それを逃さないとばかりにアリオテスは棒の先を翻して、追撃の一手を繰り出す。

持っていた木の棒で、なんなくその一打は払ったが、アシュタルの胸には驚きが広がっていた。

(実戦経験をしたからか、前より剣の振りが鋭くなってやがる)

以前は、素手で対処できたのだが、さすがにそれではアシュタルの手が持たなくなってきた。

その辺の木の枝でもなんでも構わない。とにかくアリオテスの一撃を受け止める得物が必要になっていた。

(これが、若いってことなのかねえ。とはいえ、俺の相手をするのは、1000年早えけどな)

いてっ。なんだいまの。全然見えなかった。いいぞ!それでこそ、俺の師匠だ!


弟子のくせに偉そうじゃねえか。さっさと来いよ。その減らず口、叩けなくなるぐらい打ちのめしてやるぜ。

望むところだ!師匠の本気を俺に見せてくれ!

 ふたたび剣を交えようとするふたりの間に、ルミアが割って入る。


……1時間たったわ。そこまでよ。仕事に戻って。

嘘だろ?これから、いいところなのに。もうちょっとだけいいだろ。な?

だーめ。約束でしょ?1時間アシュタルに剣を教わる代わりに3時間うちの仕事を手伝うって。

 仕事とは、もちろんアシュタルの陶芸の仕事のことだ。

よし、休憩はおしまいだ。出発しようぜ。アリオテス、うしろから押してくれ。


 脇に停めてあった荷車に戻る。

荷台に載っているのは、アシュタルが丹精込めてこしらえた陶芸品である。

それをこれから依頼主のところへ納めに行く予定だった。


アリオテス……。もっと力一杯押して。

押してるっての。そもそも、荷物、乗せすぎなんじゃないのか?

荷車は、荒れた道を少し進んでは、車輪が轍のくぼみに嵌まって止まるを繰り返していた。

戦争が終わって、はじめての大口の取引だから多少無理しても運はなきゃいけないの。

すっかり、商売人だな。

その言葉がルミアの気に触ったのか、アリオテスの足を思いっきり踏んづけた。

こら、チビども。ふざけてないで押せよ。息を合わせていくぞ、せーの!




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story2



 仕事が終わって、アシュタルは部屋でひとりミツィオラの形見の剣を磨いている。

剣を捨てると決意してからは、自分の剣の手入れなど、ほとんどしなくなった。

だが、ミツィオラの剣だけは、時々思い出しては、こうして入念に磨いていた。

心配するな。ルミアはいまじゃ、俺よりもしっかりしてる。

戦争がはじまる前よりも、元気になったっていうのかな?なんにでも、積極的に関わるようになったぜ。

昔はずっと無表情で、まるで人形みてえだったのにな。

 剣に話しかけても、当然返事はない。

けど、なんとなくミツィオラと話しているような気になって心が安らいだ。

よし、鏡みてえに、ピカピカになったぞ。

 磨き終えた剣を鞘にしまう。

以前は、頻繁に引っ張り出してきては、手入れを行っていたものだが。

いまでは半月やそこらしまったままにしておくこともざらだった。

いましまえば、当分、ミツィオラの剣を引っ張り出すこともないだろう。

それだけ、あんたの記憶が薄れちまってるってことなのかな?

 忘れることは、決してないだろうが、心に占める存在の大きさは、間違いなく滅っていくだろう。

こんなものなのかねえ……。

 ミツィオラは、初めて敵意を抱かずに手にかけてしまった相手――

それだけに特別な存在だった。

だから、ミツィオラの死は、一生引き摺ると思っていた。

……考えてもしょうがねえか。

 ミツィオラの剣を剣掛台に置いて、アシュタルは工房へ向かう。

心が晴れないときは、土を弄ることにしている。

無心で器の形を整えていくうちに、頭のなかが空っぽになるから、陶器を作るのは好きだった。


アリオテスとルミアが、ろくろを前にして粘土と格闘していた。

あっ!

あ~あ。

 ろくろに乗った作りかけの陶器が、ふとした弾みで崩れる。

初心者には、ありがちな失敗だった。

はあ~あ、チビ。お前は、ほんとうにチビだな?いつになったら皿のひとつも作れるようになるんだ?

チビなのは、アシュタルがそうやって俺の頭の上に肘を乗っけるからだろうがさっさと退かせよ!

剣を教わるより、陶芸を教わるべきね。そのほうが、将来役に立つわよ。

俺は腐ってもゲー家の領主だ。陶芸なんかにうつつを抜かして民と家臣たちを守れるかよ。

……いまは、うちの居候なのに。

う、うるせえ!なあ、アシュタル……じゃなくて師匠!ルミアはほっといて、剣の稽古に行こうぜ。

 アリオテスといるとルミアの表情がいつもより多彩なことに気づいてしまう。

年が近いこともあるだろう。アシュタルには見せない一面をアリオテスには見せているのが、嬉しいやら寂しいやら。

(俺といるより、年の近いアリオテスといたほうが、ルミアにとっては、いいんだろうか?

だからといって、アリオテスのチビにルミアの将来を任せようなんて、これっぽっちも思わねえけどな)

なあ、師匠。表に出ようぜ。今日はいい天気だぜ? 外に出て身体動かすほうが楽しいって。なあ、なあ?

だーめ、まずはお仕事終わらせてからよ。納期まで時間がないんだから。

師匠になった以上、弟子の俺を強くする義務がある。そうだよな!?

家計は火の車なんだから、働かないと食べるものも買えなくなる……。

それとも、明日からアリオテスのご飯は無しでいいの?

うぐっ……それは、いやだ。

 などとやりとりをつづけるふたりを見ていたアシュタルは、突然、堪忍袋の緒が切れたように――

あーうぜえ。どけ、チビ。俺はいま土を弄りたい気分なんだ。仕事の邪魔、するんじゃねえよ。

アリオテスとルミア、ふたりのうしろ襟をつかんでその場から退かす。

そして、ろくろの前に座り込むと心を無にして粘土をこね始めた。

(やっぱいいな、土を弄るのは。チビどものうるせえ声も、集中してるときはまったく気にならねえし)

アシュタルのざわざわしていた心が、徐々にまとまりはじめる。

ろくろの上の粘土は、アシュタルの指先によって絶妙に形を変えていく。

おお~?凄いな、どんどん器の形になっていくぞ。

仕事の邪魔。向こうに行ってて。

(頑丈な造りの陶器は、街の市場では売れるが、それほど値がつかねえ)

 日常的に使う食器などより、美術品にもなる繊細な造りの器にこそ高値がつく。

そういう器を造れれば、ルミアにもっと楽な生活をさせてやれるのに、とアシュタルの心に雑念が混じっていく。

 (いまの俺の腕では、まだそういう器は造れねえ。ちっ、思いどおりには、いかねえものだぜ)

ろくろの上にある作りかけの陶器は、アシュタルの心の複雑さを表わすように、歪な形をしていた。

お?完成か?完成なんだな?それを窯で焼くんだよな?焼く間は暇だよな?だから、剣の稽古だよな?

 目を輝かせるアリオテスを一瞥してから――

アシュタルは作りかけの器を手で押しつぶして、元の粘土の塊に戻した。

工房にアリオテスの悲鳴が響いたのは、言うまでもない。



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story



 戦の傷跡は、そこかしこに残っている。

帝国の残党は、まだ各地に点在しているうえに、その一部は山賊に落草し、根城まで集いていた。

彼らが暴れ回っているせいで、ケルド鳥は、現在も平和とはほど遠い状態だった。

それでも今日明日の食い扶持を稼ぐために人々は集まって市場を開き、…経済活動を細々と再開させている。

露店じゃ、やっぱり売れゆきはよくねえか。

いつもの場所にささやかな店を出して、売り物の陶器を並べているが、売れ行きはさっぱりだった。

戦争で家財道具を失ったものは大勢いる。

彼らが食器や陶器を必要として買いに来るのでは、というアシュタルの読みは外れた。

商売の才能なんてねえ……。そんなのはわかっていたさ。

 まだルミアのほうが、世間の空気を読む能力に長けている。

商売人としての才能も、アシュタルよりも数段マシだろう。

……にしても遅いなふたりとも。俺ひとりに店番させるなよな。

 小さな広場の片隅でアシュタルのような美丈夫が、ひとり店番をしている。

そのさまは人目を惹くには十分だったが、かといって目立てば陶器が売れるというものでもない。

(ダメだ。ダメだ。暗い顔してたら、余計に客がよりつかねえ。気持ちを入れ替えろ)


よお、そこの若いの!皿や花瓶は必要ないか?水入れに使える壷もあるぜ!

……なんだよ?走って逃げることねえだろうが。取って食おうってわけじゃねえのによ!

 店番なら、ルミアのほうが向いている。

それはアシュタルもわかっているのだが、ルミアには、家のことをすべて任せている。

これ以上、ルミアに負担をかけたくない。

こうも売れねえと心が折れそうだ。どうせなら、両手で皿でも回しながら呼び込みしてみるか?

アシュタルは、相変わらず頭がおかしい。

なんだ、いたのかよ?

また、お客さんに逃げられたの?

まあな。なかなか上手くいかねえものだぜ。

 剣を捨てるまでは、戦場ほど厳しい場所はないと思っていたのだが。

アシュタルにとって、世間というもうひとつの戦場のほうが、よっぽど生きづらい場所だった。

私が店番するから、アリオテスと遊んでたら?

そういえば、チビはどうした?

……さあ?

 喧嘩でもしたのか、アリオテスのことは、なにも言いたがらなかった。



その後アリオテスは、ルミアと買い出した品物を持って戻ってきたが……。

ふたりの間に、喧嘩のあとのような険悪な空気は、別段感じなかった。

(もっと頑張らねえとな。もっと稼いで、ルミアに新しい服の一着でも買ってやりてえぜ)

戦場で剣を振るって戦場を渡り歩いていたときは、他人のことなど、一度も考えたことなかったのに……。

ひとは変われば変わるものだと、アシュタルは自嘲する。

(ミツィオラが生きていたら、今頃ルミアに服の一着でも、こしらえてやったのかねえ?)

壁際にあるミツィオラの剣を見つめながら、そんなことを考える。

すると、ルミアとアシュタルが、揃ってやってきた。


なんだ?

ふたりとも意味ありげな表情で横に並ぶ。後ろ手になにかを隠していた。

今日は、特別な日……。なんの日だか、わかる?

唐突にそんなことを言われても、とっさには思い当たらない。

まさか、自分の誕生日忘れたの?アシュタルは記憶喪失の疑いがある。

誕生日?俺の?そうだったか?

お母さんが生きてた頃に調べたらしいからきっと間違いない。

きっと、ねえ……。


というわけで、師匠!これは俺からのプレゼントだ。

(アリオテスが寄越すものって時点で、予想はついてたけどな)

師匠が剣を捨てたって聞いたから新しいのをプレゼントしてやるよ!どうだ嬉しいだろ?

アリオテスは、”捨てた”の意味を完全にはき違えている。

(市場で様子がおかしかったのは、これを買いに行ってたからか……)

とはいえ、そんなに安いものではないだろうから、ここは素直に受け取つておくことにした。

……ありがとうよ。

お、受け取ったな?じゃあ、その剣を使って明日からたっぷり稽古しようぜ!な、師匠!?

(しまった。受け取るべきではなかったか……)


ルミアもプレゼント用意してくれたのか?

 アリオテスと同じく、ルミアも背中になにかを隠しているような仕草をしている。

でも、恥ずかしいのか、なかなか背中のものを見せようとしない。

本当は、アシュタルに服を作ってあげたかったけど、お母さんのような裁縫の腕はないから……。

そう言っておそるおそる差し出したのは、ルミア手作りの人形だった。

(これはまた……反応に困るプレゼントだな。ルミアが懸命に作ってくれたんだろうし)

ありがとうな、ルミア。そこにいるチビが寄越したものよりも、よっぽど気が利いてるぜ。

ほんとう?

どういう意味だそりゃあ?

軽口を叩いたものの実際にふたりからプレゼントを受け取ると、意外にもずしりとした重さを感じる。

実際の重さ以上のなにかを、アシュタルは感じていた。

(このふたりに慰められた形になるのか。まったく俺としたことが、情けねえ)


こういう経験、ほとんどないから、なにを言えばいいのかわからねえ。でも、ありがとうな……ルミア。

うん。

あと、アリオテスも。一応、礼を言っとくぜ。

おう!


悩んだり迷ったりは、性分ではない。

戦場では、剣を振って誰よりも先に敵を斬ることだけを考えていた。

そしてこの先は、ルミアを幸せにすることだけを考えればいい。

だから、立ち止まっている暇などない。

(……ってことだよな、ミツィオラ?)




曇らない剣はない ―完―

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