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【黒ウィズ】神殿のお掃除大願の巻 Story

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最終更新者:にゃん

目次


Story1

Story2

Story3




story1



ここは、光を司る神々によって治められし異界。

その下界にある古い神殿のひとつ。



「聖女さまも、粋な計らいしてくれますね。」

「図書館の仕事の代わりに、こんな広い神殿の清掃を任されるなんて。信頼されてるよね!」

「きっと、わたしたちを下界に馴染ませようという、ヒカリさんたちのありがたいご配慮ですよ。」

「ありがたくって全力で走りたくなるよ。空に向かって。」

「ダイナミック里帰りですか?リアラもお供したいです。」


ふたりはモップを握ったまま動かない。

神殿内には、ちらほら参拝客はいるが、仕事の邪魔になるほどではない。いつでも仕事に取りかかれる状態だ。

なのにふたりの重たい腰は、なかなか上がらなかった。


「そろそろはじめましょう!これも、聖女になるための試練のひとつです!」

「リアラは、良い子だねぇ。良い子良い子。私は不良でいいや~。」

「いまのは、ソラナさんのありかたいお言葉ですよ。」

「優しい先輩の心遣いにうっ……思わず涙が。」

「その涙が、乾かないうちに掃除終わらせちゃいましょう。」

「やっぱり、やらなきゃダメか~。やるか~。掃除やるか~。」

渋々、神殿の床を磨きはじめる。

見習い聖女の立場では、先輩聖女からの頼まれごとは、断れないのだった。



神殿内には、人間たちが作った女神や天使たちの像がいくつも建てられている。

下界に幸福をもたらしてくれる女神たちは、下界の人々から崇拝の対象になっている。


「ふぅ~。リアラさんや、ここらで一服しようかね?」

「まだ1時間も働いていないのに一生分働いた気がします。」

「広い神殿だから、まだ10分の1も掃除が終わってないという事実。」

「がーん!それは衝撃です。」

「日が暮れるまでに終わるのかな~?きっと終わらないな~。」

「次のステラの祝祭が、はじまるまでには終わります!」

「ハハハッ、ナイスジョーク。」

クレディアは、露骨にげっそりした顔を見せる。



「おっと、参拝者がいらっしゃったようです。お祈りの邪魔にならないように像のうしろに隠れてましょう。」

「気取られないように息とめてようか?」

「クレディアがしたいなら、どうぞ。」


「豊穣の女神シャクティ様。今年こそは、実りの良い作物をお授けください。」


「……んぐっ。ぷはー。」

「その意思の弱さ、なんのごとしなのでしょう?」

「どうかこのとおりです。去年は、お供えものが少なかったせいか、あいにく豊作とはなりませんでしたが……。」

「今年はこのとおり、お供えものをたくさん用意してきました。

今年は、豊かな実りをお授けください。」

シャクティ様はたしか去年、エークノームを飛び出して気ままな旅をしていたのでした。

「あの参拝客も可哀想だね。シャクティ様の気ままに振り回されるなんて……。」

「今年こそ、豊作になって欲しいね。」

「そうですね。」

クレディアは、子どもっぽい笑みを浮かべる。いたずら心が、むらむらと沸いた証しだった。


「うむ!その願い聞き届けたぞー!」

「クレディア!?」


「お……おお!? 今の声はまさか……?わたしの願いが、女神さまに通じたのか?」

参拝者は、驚き半分、喜び半分といった様子でシャクティの像に何度も頭を下げていた。


「よけいなことしちゃ駄目ですよ!」

「ごめんごめん。つい、勢い余って。」

けど、あそこまで真剣に拝んでるんだから、せめて希望は、持ち帰ってもらいたいじやない?

クレティアとはこういう子だったと思い返し、リアラは、やれやれと大人ぶって肩をすくめる。

「その心遣いは立派です。

けど、残念なことにシャクティ様は現在、絶賛家出中でして……。いつお帰りになるのか見当がつかないのです。」

「……そりゃまずいね。」

「下手をすると今年は豊作どころか大凶作の可能性もあります。」

「責任とって、シャクティ様を連れ戻すよ……。」

「大きな宿題を背負いましたね?」

「シャクティ様を探せなかったら、……あの人に林檎を送る。」

「林檎狩り頑張ってください。あ、わたしは手伝いませんよ。」

「世間の風は冷たいねえ……。」



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story2



掃除を続けるクレディアとリアラ。だが、神殿は予想以上に広い。

力を使い果たしたクレディアは、うっかり体内に蓄積させた星の力を枯渇させて半透明になりかけたり。

道に迷ったリアラの父親が、神殿に迷い込んできたりといったハプニングもあったが。

神殿の掃除は、おおむね順調に進んでいた。


「ああ、女神さま。今日も、なんとお美しいお姿をしておられるのだ……。」


「見て。像に話しかけてる人がいるよ。」

「もしかして子どもが見ちゃダメな展開に突入するバターンでしょうか?」

「ああ、女神さま。そのお体は、私にとってなににも勝る薬であり、目の毒でもあります。」

「リアラの予想どおり、お子様厳禁な展開になってきそうだね。」

「お子様を卒業したわたしたちは、このままここにいても構いませんよね?」

「そういうことだね。」

「女神さま。あなたのそのふくよかで豊満なお体。死んだ母親を思い出します。」

ふくよかな女神と聞いてリアラとクレディアは、互いに目を見合わせた。

ふくよかな女性を横した姿、そしてその像は弓を掲げている。

つまり、この像は……。


(ここあったのか……)

(ここにあったんですね?)


ステラの祝祭実行委員を拝命した時、たったひとつだけ達成できなかったミッションがあった。

それは、ふくよかに掘られてしまった女神ステラの像を破壊する任務だ。


「こら、あんた!また、こんなところで女神さまの像を眺めていたのかい!?」

「なんだお前か? 邪魔しないでくれ。俺はいま、夢の世界にひたっているんだ。」

「今日の稼ぎはどうしたんだよ?ちゃんと働いてきたんだろうね?

家じゃ、子どもたちが腹空かせて待つてるというのに父親はこんなところで油売ってるなんて……。情けないったら。ありゃしない!」

(修羅場だね)

(修羅場ですね。下手に刺激するのはよくないです。ここは、静観しましょう)

もとより、口を挟むつもりはない。

だけど、このふくよかなステラの像。

これだけは、見過ごすわけにはいかない。


「あれは、俺の子ではない!お前の連れ子だろう!?」

「私と結婚した以上、あんたの子どもさね!」

ふたりの喧嘩はますます激しくなる。


(さすがに暴力沙汰には発展しないよね?)

(もしそうなった場合、セイクリッド聖女パンチの出番です)

(暴力での解決は、よくないよ。それにリアラのパンチは、ステラさまの像を破壊するために使うべきだよ)

(あまりの正論に言葉が出ないです)

「俺だって頑張って働いているんだ!仕事の合間に女神さまに癒やされてなにが悪い!」

「気持ち悪いあんたに祈られても、女神さまはさぞかし不愉快だろうね!」

「なんだと~!?もう我慢できねえぞ!」

「なんだい。やろうってのかい!?」


「にへっ! にへっ!にへにへ~っ。にへっ。にへ!」

「は?」

「にへっ、にへっ、にへっ。」

「な……なんだこの子は?」

「にへにへ~。」(私がこの人たちの目を、逸らしているうちにリアラやっちゃえ!)


「ノインさん!あなたの思い、受け取りました!」

「いけぇ!リアラ!」


「いまこそ、全精力を込めて、聖女になりたい思いを乗せた――

セイクリッド聖女ミラクルバ~~ン~~チ~~!!」


ステラの祝祭準備委員の最後の任務――達成。

見事、―撃でふくよかなステラの像は破壊された。


日は経ったが、リアラとクレディアは、ついに困難なミッションを達成したのだ。


「うわああああ!俺の大好きな像が!?」

リアラは神殿の床に飛び散った破片の前で絶望している参拝客を見て、罪悪感に苛まれた。

「形あるものは、いつかは壊れる。でもこれは、ステラさまからの直々のご命令。ご勘弁を。」

「聖女になる道は、決して平坦な道じゃないってことだね、リアラ?」

「拳、やってしまいました……。骨と筋、痛めたかもです。当分、パンチは打てないです。」

「リアラ……無茶するなってあれほど言ったのに拳、冷やそう!」

「セイクリッド聖女ミラクルパンチをみだりに使うとリアラの身体がもたないと――

お父さんに言われていたのを忘れてました。」

「でも、リアラのお陰で、私たちは最後の任務を達成できた。友達として誇りに思うよ。」


「にへにへっ!」

ノインが、なにか拾ったらしい。

それは、リアラが破壊したばかりの像の台にはめ込まれていた銅のプレートだった。

プレートには、こう書かれていた。


(愛の女神ステラの使徒マーガレット・リルの像)


リアラは、無言のままパンチを放ったほうの拳を押えていた。

「まさかの弓かぶりか~。」


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story



「調子に乗ってすいませんでした。人生のなかで、もう二度と、調子に乗ることはありません。多分。」

「これに懲りて、己の拳を二度と過信することはないと、リアラは宣言します。」

「ほんとうにすいませんでした!」


神殿を管理している大人たちに深々と頭をさげる。

そして、驚かせてしまった参拝者たちにも詫びを入れ、ぷっ壊してしまったマーガレットの像にも一礼した。

バラバラになった破片は、クレティアたちが責任を持って片付けることでなんとか許して貰えた。


「だけど壊れてしまった像は、もう……その場所にはないのです。」

「心臓をえぐる一言。お見事です。」

「ひとりだけ他人事ですか?賢者様って、お偉いんだね~?」

「にへにへっ!」

「にへっ!?」

「にへにへっ~?」

「にへにへっにへっ!!にへにへっ。」

「にへ~……。」


「ノインが「やっばりごめん」だってさ。」

「いつの間にか、にへ語をマスターしてるクレディアの向学心の旺盛さに、リアラは喝采を惜しみません。」

「学ぶことを諦めたら、それは退化を意味する。賢者ノインのありがたい教えです。」

「今度、その賢者ノインというおかたに、会わせてください!」

「にへ?」


なんやかんやあったが、神殿の清掃作業も大詰めを迎えつつあった。


「えっさ、おいさ。えっさ、おいさ。」

人間たちの女神信仰のよりどころとなっている、この神殿には、大勢の人たちが救いを求めてやってくる。

「下界の人たちは、みんなそれぞれ悩みを抱えているんだね~。」

「彼らを救うも突き落とすも、女神さまたち次第です。

そう考えると、気まぐれな女神さまは、罪深い存在ですね。」

「踏み込んだ発言だね~。聖女を目指す者としては、女神さまへの苦言はマイナス点じゃない?」

「おっと、いまのは、わたしのお父さんの発言ということでひとつ……。」

「さあ、どうしようかなあ?」

「あとで、賄賂を送りますので。」

「罪に罪を重ねていくスタイル。嫌いじゃないよ。」


軽口を叩きながら、神殿掃除の締めの作業に入る。

それは、女神の像をひとつひとつ磨いていくという大変な作業だった。


「ねえ、こちらにある像も、女神さまの像なんだよね?」

日頃エークノームにいる女神たちしか知らないため、いまだクレディアがお目にかかったことのない女神たちは当然、たくさんいる。

「それはリタ・バニスターさまの像ですね。お姿を拝見したことはありませんが、お名前は、かねがね伺ってます。」

「説明が書いてあるよ。リタ・バニスターは、とても気まぐれでいたずら好きな女神である……。だってさ。」

「きっと、お茶目な女神さまなんですね。」

「どんな女神さまなんだろう?いつか会うこともあるのかな?」

「リアラたちが聖女になったら、お世話することもあるかもしれませんね。」

「この女神さまが、星好きな女神さまだったらいいな~。」


クレティアたちの神殿の掃除は、ついに終わりを迎えた。


丸一日、この神殿で働けたことは、クレティアたちにとっておおいに勉強になった。

とくに下界の人々が、どれだけ女神を敬っているのかを知れたのは収穫だった。

「聖女になるまで、地道に1歩ずつ進んでいくしかないね。」

「そうです。……まあ、今日はやらかしましたので、2歩ほど後退してしまいましたが。」

「リアラ。2歩下かって、3歩進むだよ。次から頑張ろう。」

「ともに苦労し、ともに切磋琢磨できる仲間がいてこそ、人は成長するのだとお父さんは言いました。」

「いや、照れるね~。」

「ただ……お父さんには、そういう仲間がいなかったから、あんな風になってしまったのだと、リアラは思います。」

「……哀しい現実だね。」

「クレティアがいてくれてよかったです。でも、言っておきますが、負けるつもりはないですから。」

「お、挑戦状を叩きつけられたよ。ならばこちらも20%ばかし、力を解放しようかね?」

「ならばリアラは、25%の力を解放します。」

「ふくよかなステラ様の像を破壊するのは、私のほうが先だよ。」

「受けて立ちます。右の拳が使えなくても、リアラには、左の拳がありますから!」

「おー、じゃあ任せた。」

「やる気あるのか、ないのかどっちです?」

「さあ、どっちだろうねえ。にひひっ。」





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