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【黒ウィズ】ミルドレッド

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ミルドレッド cv.朝井彩加





劫初を萌す英雄



雨が。

降っている。音高く。砕け、荒れ果てた大地を盧げるように。


そのなかを、少女は進む。

決然と。粛々と。無惨に半壊した神殿への道のりを進んでいる。


(あそこに、いるはず。あの怪物……。すべての神を薙ぎ散らした怪物が)

討たねばならない……わたしが。英雄として……)


杖の柄を、強く握り――自らの使命を、改めて心に刻む。


(あの怪物を倒せるのは、”英雄”だけなのだから……)


長い時を経て、革新に革新を重ねてきた魔道科学――人はついに、その極みと呼べる階梯(かいてい)に達した。学問・芸術などを学ぶ段階。また、物事の発展の過程。

それでも人は、飽くなき革新を求めた。

”人”の上位なる存在――”神”の領域に達することを欲し、努力を続けた。


(その結果が、神話の解明と、運命の解析……。”神話の神々の運命”を移植する、”神話手術”の確立……

人は、ついに神となるすべを手にした。

誰もが人類の進化を疑わなかった。神となった者たちが、人類の支配を宣言するまで……)


人の身では、神には勝てない――という摂理、”運命”そのものを移植された相手だ。どんな手段を以ってしても叶いはしない。


(だから――母さんは、あの怪物を造った。)


母、レスリー。魔道科学の第一人者であり、”神話手術”にも携わった、賢者のなかの賢者。

神話において神々は怪物に滅ぼされる”運命”が話られている。だから、神を滅ぼすために、その”運命”を移植した怪物を生み出した。


果たして、神は滅びた。怪物との壮絶極まる戦い――まさに神話的な天変地異の闘争の果てに。

レスリーを初めとする多くの人々や、世界の地表のほとんどを巻き添えに滅ぼして。


(神が滅んだ今……あの怪物はあってはならない。ただ人に害なすだけだ。

だからこそ、母さんは、わたしに託した。怪物を倒し、人々を救う、英雄の”運命”を――

わたしが、討つんだ。あの怪物を。母さんの願いを果たすために……)


人の未来。人の平和。人の幸福。人の自由。

そのために魔道科学の発展に寄与することこそが、母の抱く志だった。ミルドレッドはそんな母の背を見て育った。

母の誇り。母の願い。母の償い。母の想い。そのすべてが誇らしかった。愛し、あこがれ、受け継がねばと心を燃やした。


(だから……わたしがやる……!!)


英雄が怪物を討つ。そうして初めて、神話が終わる。滅びかけた人の世が、新たに始まる。


(ただ……)


一度だけ、怪物の姿を目の当たりにした。

神々を襲う怪物――あまりに醜悪で、あまりにおぞましく、あまりに凶暴で、あまりに残盧な獣。


(だけど、確かに”決意”があった。)


神と戦う瞳には、気高い誇りの光があった。ミルドレッドにはそれがわかった――同じく、確かな決意を宿す者として。


(ひょっとしたら、あの怪物も、わたしと同しで、”神話手術”を受けた人間なのかもしれない。

だとしたら――救わなければ。まだ、人の心があるのなら……人に戻さなくては。

それが、”英雄”の役目だ。人を救い、人の未来を拓くことこそが……

そのためには、より”英雄”に近づかなければならない。わたしという”個”を消してでも)


身に宿る英雄の”運命”を完全に受け入れ、”人を助ける英雄”そのものへと変質する。

それは、”ミルドレッド”ではなくなるということだ。


(それでも……やるんだ。

すべてを捨ててでも、すべてを守る。やるんだ。母さんが、そうしたように……!)


神殿が見えてきた。おそらくそこが決戦の地となるだろう。


同時に、”ミルドレッド”の終わりの地ともなる。

その未来を受け入れるために、少女は進む。


ふと、口のなかに、何かが広がった気がした。


帰りの遅かった母とよくいっしよに食べた、お手製のスープの昧――

すぐに、それも思い出さなくなるだろう。

英雄には、不要な昧だ。


ただ、せめてしばらくは、思い出した味を噛み締めていたかった。


”ミルドレッド”が、消えるまで。









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