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幻魔特区 RELOADED Story2【黒猫のウィズ】

最終更新日時 :

白猫ストーリー

黒猫ストーリー


2017/00/00

目次


Story1

Story2

Story3

Story4

Story5

最終話




story 上級 想いの体現



君たちは6号ロッドに到着した。

同じ小ロッドといえども、レグルたちの700号ロッドのような3桁ロッドとは違い、1桁ロッドは重要拠点になっているのだという。


「あれを見るにゃ! ひとが倒れてるにゃ!」


居住区の入口で、少女が地面に横たわっている。

君たちは急いで駆け寄る。


少女には息があるようだ。

いや、それどころか、なにやらぶつぶつとつぶやいている。

「うーん、よく聞こえるでないことです。」


君はそのおかしな喋り方に懐かしさを覚え、思わず笑みをこぼす。

「にゃー!ミュールにゃ!」

ミュールは地面に横たわったまま顔だけこちらに向ける。


「まほつか! おひさし! とってもおひさしぶるので!」

とりあえず君は手を差し伸べて横になっているミュールを起こし、頬についている泥を指で拭った。


「え、ちょ、ちょっと待って!本物!?本物のミュール!?」

タイシはわなわなと震えている。

「ミュールのにせものがありましてか? ふとどき? ふとどきのもの?」

「本物のミュール……ってことは、え!? 魔法使いも本物!?

「そうだよ。おれはもう握手してもらった。」

「レグル! そういうことは早く言ってくれよ!」

「いちいち大げさね。別に本物でも偽物でもそんなに変わらないわよ。」


「魔法使い……いや、魔法使いさん!」

さんはつけなくていいよと君は苦笑する。

 「やっぱり、本物だったんだ……。」

「握手してください!」

君はタイシと握手してから、指先にミュールの頬から拭った泥がついていたことを思い出した。


「ミュールさんも……握手、いいですか?」

「よきよき!」

ミュールは頬だけでなく手にも泥がついていたようで、タイシの手は泥だらけになった。


「英雄ふたりと握手……もう、手洗えないな……。」

「きたなく! ふけつきわまりまして!」



「ところで、ミュールはどうして倒れてたにゃ?」

「カリュプスの声、聞いてたのす。カリュプス、つちなかうまってるゆえ!

だんだん声聞こえてきててです。カリュプス近い、たぶん、あっちにいるです!」

ミュールはガルデニアロッドのほうを指さした。

「……たぶんじゃなくて、あっちにいるにゃ。カリュプスを封印するために大ロッドがあるんだから、大ロッドを目指せば済む話にや。

「かしこさ!」


「この子、すごく馬鹿なのね。」

「なんか、逆に英雄っぽいな。」


それから君はミュールの拙いながらも熱っぽい近況報告を受ける。

ミュールは自分の『母』以外のカリュプスたちとコミュニケーションをとるために、世界各地を回っているようだ。


「それよりこのロッド、おかしくあるので。」

「なにか異常があるの?」

「成長したましたんミュールのこと、見てくだりませ!」


ミュールはすっと口元を引き締め、目を閉じる。なにやら集中しているようだ。

ミュールの身体が光を放ったかと思うと、なんと、ミュールの姿が変わっていた。


「このロッドのいずこからか、看過すべからざる不穏な空気を感じります。

波長はカリュブスの本能が発する破壊衝動に似ていますが……別の生命体によるものと思われです。」

「にゃにゃ……ミュールの変わりようにびっくりして話の中身が入ってこないにゃ。

次の瞬間には、ミュールは元の姿に戻っていた。


「集中、つづかなし。おとなになれるよう、がんばるのとちゅうですんです。

とにかく、よくなしのくうき! こっち!」


ミュールは相変わらずミュールにゃ。

君もあれから成長したにゃ?

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story3-2



魔物はいるが、人の気配がない。

6号ロッドは緑豊かな場所だ。建物の間に、木々が生い茂っている。

しかしそれは廃墟を自然が侵食したという印象ではなく、都市と自然が共存している印象だった。

だからこそ、人の気配がないことに強い違和感を覚えた。


「あれは……。」

いち早く気づいたのはテーラだった。

厳重に守られているかのごとく木々に囲まれたロッドが、折れている。


「なんてことだ……魔物たちがやったのか?」

「おかしい。重要拠点には、相応のガーディアンが配備されているはずなのに。」

「自警団にしたって、あたしたちとは比べ物にならないくらいの規模のはずでしょう?」

「人がいないのは避難したからだと思いたい……。」

「殺戮の匂いはしないわね。というか死体が転がってない。つまらない空気が漂ってるわ。」


「つまらないとは言ってくれるじゃないか。」

声は、折れたロッドの陰から聞こえた。


「確かにつまらない。つまらないものを壊したところで、面白いものになるわけじゃない。」


包帯にくるまれたアバターを連れた男が、ゆったりとした足取りで君たちの前に現れる。

どこかくたびれたような印象を受けるが、その目は炯々と怪しく輝いていた。


「人間、ガーディアン、人間、人間……。」

男はレグル、テーラ、フアルサ、タイシと順番に指さしていく。

「ちょっとした特技だ。当たっているだろ?

人間からは、吐き気がするような気配を感じるんだ。」


それから男は君、ウィズ、ミュールを凝視する。

「お前たちは……難しいな。妙な連中だ。ただの人間という感じがしないし、ガーディアンというふうでもない。」

「ミュールはカリュプスのうみだしのやつです。」

「この前会ったあいつといい……俺も焼きが回ったか。」

男はくつくつと笑いだす。

「あるいは、人間もガーディアンも関係ないのかもな。

今の世界を肯定する輩は、どんな存在だろうと始末するべきなんだ。」


「答えなさい。あなたがロッドを折ったの?」

テーラは射抜くような鋭い視線で男を睨みつけている。


「同じガーディアンだというのに冷たいな。

いや、人間とつるむ愚かなガーディアンとは分かり合えないというものか。」

「にや……?人間とガーディアンは和解して共生してるんじゃなかったのかにや?」

君も、人間とガーディアンの対立は解消されたものだと思っていた。しかし、問題は根深いようだ。

テーラのように人とあまり馴染まないガーディアンがいるばかりか、いまだに復讐心を抱いているガーディアンもいるとは。

「千年もの間、ガーディアンを道具として利用してきた人間がそう簡単に変わるはずがないだろう。

共生というのは、ガーディアンを引き続き道具として利用するための方便に過ぎない。俺は騙されない!」

すべてを拒絶するような男の瞳に、積年の恨みを見た気がした。


「おい、テーラ。おれらはそんなこと思ってないからな。」

「別に。そんなの気にしたこともない。

人間からどう思われようが関係ない。私は私の仕事をこなすだけ。」


テーラは表情ひとつ変えずに言う。強がりではなく、本当に気にしていないようだ。


「あんただって勘違いしてるだけだよ。人間とガーディアン、力を合わせて戦おう。

今は魔物が凶暴化してるし森に異変があるしでヤバい状況なんだ。

おれはレグル。あんたは?」

「……俺はモルブ。おっと、勘違いするなよ。友好のあいさつじゃない。

お前らのうちの誰かは生かしておく。俺の名を広めろ。俺は人間に復讐する。」

「そんなことはさせない。おれは、守りたいんだ!」

叫んだレグルはしかし、その先を言いよどむ。


「なんか、こう……世界を?

そう、世界を。うん、それだ。そのためには、人間とガーディアンが力を合わせなくちゃだし、お互いを信頼しないとだろ?」


「お互いを信頼、だと?いかにも上辺だけの想いだな。」

モルブからは、通常のガーディアンとは異なった雰囲気が漂っていた。

どちらかといえば、魔物と相対しているときの感覚に近い。

「心の一面がアバターとなり、抱く想いが力になる……素晴らしいと思わないか?

俺の復讐心と、お前の綺麗事。力をぶつけてみれば、どっちか本物かわかるというもの。

人間とガーディアンで共生しようという想いが強いものならば俺を倒せるはずだ。」

「いやー、それとこれとは話が違うんじゃないか?」

「ふん、所詮は出まかせということか。それともお前たちにとっての真の想いは、薄っぺらで非力だということか。

まつろわぬ我が影よ、人を憎み、孤独を愛せ!¨ソリトゥード¨!」


モルブが詠唱すると、巨大化した包帯男がガーディアン・アーマーとなってモルブを覆う。


「どっちが本物か、証明しようじゃないか俺はお前たち人間を、許さん!

まつろわぬ我が影よ、人を憎み、孤独を愛せ!」


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story3-3



モルブのガーディアン・アーマーであるソリトゥードは、まさに攻防一体の役割を果たしていた。

包帯によって幾重にも覆われたモルブには容易に攻撃が届かない。

モルブが自在に操る幾本もの包帯は、君たちの四肢に絡みついて絞め砕こうとする。


それでもガーディアン・アーマー同士の相性が、こちらに軍配をあげた。

レグルがまとうサルヴァトルの鈎爪とタイシがまとうフォルティスの刃の羽が包帯を次々に切り裂いていった。


それを潜り抜けてきた包帯は、フアルサのリススレニスが放つ茨によって防がれる。

包帯を生み出すのも無尽蔵とはいかないようで、モルブは次第に消耗していった。


「はぁ……はぁ……。」

「まだやるっていうのかよ。降参しろって。」

「まだまだ……こんなものじゃないッ!俺は……俺の想いはッ!」


モルブから叫びと共に放たれた禍々しい毒気が辺り一面に広がる。

すると、これまでの戦闘で細かく引き裂かれた無数の包帯の一片一片が、それぞれ執念を持っているかのように蠢く。

「死ねええええええ!」

無数の包帯の切れ端がレグル目がけて殺到する。

「げ、マジか!」


レグルは鈎爪を振るって迫りくる包帯の切れ端を切り裂いていく。

モルブの執念と正面からぶつかり合ったレグルはその攻撃を防ぎきれない。

包帯の切れ端がレグルの身体に巻き付き、骨肉を絞め砕こうとする。


「まずいにや!」

君は2枚の力―ドに魔力を込める。

レグルに防御魔法をかけた後、炎の攻撃魔法を放った。

君の狙い通り、レグルに巻き付いた包帯だけが燃えた。


「きれはしも武器になるでしたか! レベリオー、ヤムヤム!」

地面に残っていた包帯の切れ端を、レベリオーが食らい尽くす。


「俺の復讐の邪魔をするなア! オオオオオオッ!」

モルブの感情が昂り、瘴気が一層濃くなる。

今までの倍以上の包帯がソリトゥードから伸び、君たちに襲いかかろうとした瞬間――


「そこ!」

モルブの防御が薄くなった一瞬の隙を、テーラが突いた。

放たれた銃弾のすべてが、モルブの身体を正確に穿つ。


「がああああああッ!」

モルブは力なくその場にくずおれた。

「感情によってガーディアン・アーマーの力が増したとしても、想いに振り回されれば、結果的に戦闘能力が落ちる。」

やがて、モルブのガーディアン・アーマーソリトゥードが消滅する。


「殺せよ。殺してくれよ。」

「そういうの、興ざめなのよね。でもまあ、どうしてもっていうなら……。」

「フアルサ。こいつを裁くのは僕たちじゃない。ガルデニアロッド評議会に引き渡すべきだ。

場合によっては、かつての収穫者たちのように、社会の役に立つことがあるかもしれない。」

「なんだ、死にかけの屑を、まだ道具として使おうっていうのか?」

「道具だと思ってたら、さっさと処分するよ。だって危ないじゃん。

ガーディアンが人間と共闘してくれる仲間だと思ってるから、お前を殺さずに評議会に引き渡すんだ。」


モルブはくつくつと、力なく笑った。

「俺が変われなかったから、人間も変わってないと思い込んでいたのかもな。

俺だって本当は人間と信頼関係を築いて、共生したかったよ。でも、無理だった。

俺は自分が人間じゃないって偶然知っちまった口だ。

今から400年前だ。それ以来、ずっと人間を恨み続けていたんだ。

全部水に流して共生しようなんて言われたって、簡単に変われねえよ。変われねえって。

心の中で人間を恨んだまま上辺だけの共生なんてしてたら、そりゃ頭もおかしくなる。

信頼してないやつらを守るためにずっと戦い続けたら、いかれるって。」


慟哭のようなモルブの独白に、―同は黙り込む。

やがてミュールがおそるおそるモルブに近づき、頭をそっと撫でた。


「ロッド壊すしたらダメです。でも、つらいの、わかりまして。」

「400年……確かに長い。同じ立場にあって正しい道を歩めたかと問われたら、わからない。」

「10年ちょっとしか生きてないおれらがどうこう言えない部分もあるかもな。」

みんな、モルブに対し同情的だった。

しかし、テーラは違った。


「私たちは人間を守るために作られた。それ以外に存在意義はない。

その任務をこなすのに、余計な思いなんていらない。

道具だと思われてるとか、関係ない。信頼がなくても、任務はこなせる。」


それは、モルブを諭しているというふうではなかった。

淡々と、彼女なりの事実を述べている。君はそんな印象を受けた。


「テーラは心が強すぎるのかもしれないな。

人間にしても、ガーディアンにしても、そんなふうに割り切って戦い続けるのは難しいって。」

「そういうレグルは、腑抜けすぎる。だからさっき、死にかけた。」

敵にも仲間にも、テーラは容赦がない。

「そうそう。おれみたいな肺抜けは、仲間がいないとダメなんだ。さっきは助かったよ、魔法使い。」


「レグルにはもう少ししっかりしてほしいけど、仲間を信頼しているからこそとれる戦術もあるにや。

でも、戦術の問題だけじゃないにゃ。それをテーラにはわかってほしいにや。」


そっぽを向いて立ち去るテーラが、少しだけ悲しそうな顔をしたように見えた。


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story 〈声〉



想いを伝えるのは大変だと思う。

オレは自分で言うのもなんだが結構すごい存在だ。けどなんでもできるってわけでもない。

そうだな、人間で喩えるなら米を食うのは簡単だけど米粒に文字を書くとかなるとなかなかできるもんじゃない。


そういう感覚で、オレはレグルやテーラにうまく想いを伝えることができない。

同じように、オレはガーディアン・アバターを生み出すってのもなかなかうまくできない。

オレ、わりとなにもできないな……。


オレに出来ることと言えば見守ることくらいで、見守るっつっても実際は見てるだけなんだけど、これもこれでもどかしい。

オレはこういうもどかしさを実感することで、1000年以上前の人間の心が理解できたように思う。

人間は今でこそアバターを召喚して戦えるようになったけど、当時は違った。


自分じゃ戦えない。

ガーディアンに任せるしかない。

守りたいのに守れない。


オレ的にこの「守りたいのに守れない」という想いはなかなか興味深い。

守りたいという想いが守れないという現実を浮き彫りにして、それをもどかしく思い、守りたいという気持ちが膨らんでいく……。

そういう意味では、守れなかったという残留思念は強い。

スザクロッド統治域3号ロッドのあいつみたいに、純粋で、悲痛で、むき出しで――

だからこそ1歩間違えたらとことんヤバいみたいなやつ。


――守ル……俺ガ………。守ル……!!――


テーラも、そうなっていたかもしれない。

命を落として、残留思念になっていたかもしれない。



テ一ラは元々重要拠点のロッドを守るガーディアンで、死を恐れず淡々と戦闘任務をこなしていた。


――えっ……この時計をくれるの? ありがとう、大切にする。――


だけど人間と交流を深めて生きる希望を見出した途端、戦死への恐怖心を抱くようになった。

精神が不安定になった結果、ガーディアンを安定して扱えなくなってしまい、そんなタイミングの悪いところで魔物の襲撃があった。


――我が心の正義よ……惑わず……ただ其れを……

お願い……出てきて……ユースティティア……。――

守りたい。でも、守れない。


純粋で、悲痛で、むき出しな想いを前にして、オレもまた見守るだけの存在。

守りたい。でも、守れない。


……だけど見守るだけだったはずのオレは見事奇跡を起こして、テーラを守ることができた。

テーラが残留思念にならずに、生き延びることができたのは、オレのちょっとした誇りだ。


しかし、片手落ち。

テーラは自分のミスで守るべき人間を死なせちまったと思い込んでる。

よく守った。そう言ってるのに、信じない。

そのときの状況を詳しく説明してやりたいけど、オレは基本見守るだけの存在。

なんとか〈声〉を届けるにしてもひと言ふた言しか届けられない。


ふがいなく思いつつも、オレは見守り続ける。

もう一度、奇跡を起こすために。


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story封魔級



君たちは大ロッド自警団にモルブの身柄を引き渡し、故郷の森で起きた異変や魔物の凶暴化、通信障害について簡潔に伝える。

そして、案内された大ロッド中枢部で君たちを出迎えたのはー―


「お久しぶりですね。魔法使い。

その落ち着きはらった態度と声音には、どことなく覚えがあった。しかし見覚えはない。

「……にゃ? どちら様にゃ?」

「ああ、私はアサギです。高度戦略用拡張型ガーディアンインターフェースのアサギです。」

「声は似てるけど見た目が違うにゃ。」

「私は、かつてあなたたちと共闘したアサギとは別の個体。大ロッドの統治域ごとに仕様が異なるのです。」

「見た目が違うと別人に見えるにゃ。変な感じにゃ。」

「私としましては、あなたたちに会えて非常に懐かしい気持ちです。一緒にクロの丸いお尻を追いかけ回したしゃないですか。」

クロのお尻を執拗に追いかけまわしていたのはアサギだけだったと君は記憶している。

「あのお尻があったからこそ、私たちは頑張れた。そう言っても過言ではないくらい、魅惑のお尻でした。」

アサギは感慨深げに嘆息する。


「あっ、その犬……お尻が丸いですね。」

目ざとく、シロの尻に目を付けたようだ。

『……あう?』

「アサギ、お尻のしか興味なしので?」


「オシリさんは……。」

「アサギです。」

「―文字も合ってないよ。」

「アサギ、私たちは世界の異変について報告に来たの。お尻はどうでもいい。」

「失礼しました。テーラは相変わらず、真面目ですね。」

「あら、あんたたち知り合いなの?」

「……700号ロッドに来る前、ちょっとお世話になった。」

テーラの言葉は、どこか歯切れが悪かった。


「そちらのお三方は初めましてですね。私はアサギと申します。」

アサギはレグルたち700号ロッドの人間に頭を下げる。

「大ロッドをはじめとする、カムラナ技研工業の施設を管理するガーディアンです。

全世界の端末同士で情報を共有していますので、私はここで施設管理を続けながらも、ミュールや魔法使いと共闘した記憶も保有しているのです。」

「つまり、姿は違えど英雄のひとりということですか。握手してください!」


それからレグルたちは簡単に自己紹介し、故郷の森での出来事について説明する。


「なるほど。森に変化があったというのは興味深いですね。

魔物の凶暴化についてはガルデニアロッド周辺でも起きていますが、自警団の対応によって事なきを得ています。

カムラナは、カリュフスに対して何らかの外的な刺激が加わっていると考えているようです。


カムラナ。

フォナーによって君を呼び出した人工知能。

この異界の過去現在未来を見通す存在。


「しかし、カムラナを以てしてもその詳細は不明。カリュプスのように、この世界の外部からやってきた何者かが関わっているのかもしれません。

その何者かを止めるため、再び魔法使いの力を拝借したく、呼び出しました。

「私たちがここへやってくることは想定済だったの?

「いいえ。私が把握していたのは、今回の異変を解決するために、黒猫の魔法使いがこの世界にやってくるということだけです。

テーラやみなさんを連れて私のもとへ来るということについては、把握していませんでした。

魔法使いがここではなく700号ロッドに呼び出されたことには、きっと何らかの意味があるのでしょう。


君はかつての冒険を思い出す。

最初に333号ロッドに呼び出されたときには右も左もわからない状態だったが、今にして思えばあの場所から始まることに意味があった。

ということは、700号ロッドから冒険が始まったことも、偶然ではなく何らかの意味があるのだろうか?


「思ってたより大変なことになってるわね。で、あたしたちは誰を殺せばいいのかしら?」

「敵は、カムラナが出現を感知できなかった存在。そして、この世界における不確定因子である魔法使いが関わった以上、未来は予測不能。

つまり、今はロッドの治安を維持しつつ、何か起きても対応できるよう備えることしかできないのです。」

「こんな部屋の中で犬のお尻を撫で回してるなんて退屈極まりないわね。」

「テーラ、ふらっと魔物を殺しにいきましょうよ。あんたもそっちのが好きでしょ?」

「―緒にしないで。」


「そういうことであれば、自警団に協力していただけると幸いです。」

「大ロッドの自警団と共闘か……。ちょっと緊張するな。」


君たちは、大ロッド居住区周辺の警らをすることになった。


アサギが猫のお尻に興味なくてよかったにゃ。


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story3-2



君たちは二手に分かれてガルデニアロッド居住区の警らをしていた。

君はフアルサとタイシと共に、居住区の南側を受け持った。


往来を歩く人影はほとんど見られない。

魔物が居住区付近にまで出現するようになったため、一般市民は外出を控えているのだという。

タイシはまぶしげに目を細めて、ロッドを見上げる。


「しかし、大きいロッドだなあ。臨時とはいえ、これを守る日が来るなんて。」

「田舎者みたいでいやね。出てくる魔物は700号ロッドと大差ないじゃない。」

「それはそうなんだけどさ。立派なロッドを守ってると、誇らしい気持ちになるというか。

もちろん、700号ロッドの任務もやりがいはあったけど。」

「まあ、気持ちはわからなくもないわ。倒した魔物の悲鳴も、ちょっと都会的よね。」

「それは気のせいだと思うにゃ。」

「猫には機微というものがわからないのね。魔法使いにはどう聞こえたかしら?

魔物の悲鳴、ちょっと気取ってる感じがしない? するわよね?

今まさに死ぬって瞬間に気取るなんて都会の魔物は救いようのない馬鹿ね!」

そうだね、と君は話を合わせた。

居住区まで侵入してくる魔物の数はさすがに少ない。君たちは時折現れる魔物を倒しながら歩を進める。



「あら、お尻の人がいるわ。」

ファルサが指さした先に、アサギがいた。

ひとりでいるにも関わらず、なにやらだらしなく頬を緩めている。

「さっきのアサギとは別のアサギなのかにゃ?なにしてるにゃ?」


「はぁ~。」

アサギは両手を伸ばして珍妙な動きをしている。まるで、目には見えない犬の尻を撫でているようだった。

心配になった君は、大丈夫?と声をかけた。


「あ、みなさん。失礼しました。

今ちょうど、シロのお尻を撫でている個体と同期していたんです。」


「レグルたちのところにもアサギさんがいるということですか。

「ええ。本来、戦闘用の個体は地下施設で待機させているのですが、今は有事ですから複数体、地上に配備しているんです。」

治安維持しか取れる手段がなく、敵の勢力も脅威というほどではない。とはいえ、少々気が緩んでいるように思えた。

「有事にしては、みんな危機感が足りないにや。キミ、英雄としてガツンと言ってやるにゃ。」


柄ではないけど、ガツンといってもいいかもしれない。

君が握りこぶしに力を込め、今まさにガツンといこうとした瞬間、


「お前たち!あれを見ろ!」

別人のように様変わりしたアサギの鋭い声が響き渡った。

アサギが指し示すその先には、奇妙な生物が飛んでいる。


長い髪に、線の細い身体。

人間、あるいはガーディアンの少女なのかと思ったが、禍々しい怪物のような両腕が存在感を放っている。

見慣れない生物。魔物か、あるいは誰かのガーディアン・アバターか。

やがて、少女のような生物も地上の君たちに気づいたようだ。


君たち目がけて、ものすごい勢いで降下してくる――

君は構えていたカードの力を解放して、咄嵯に防御障壁を展開する。

しかし、少女のような生物が狙っていたのは君たちではなく――


「メロウはまものを発見したよー!」

その背後に迫っていた魔物だった。

「メロウが発見したまものはメロウが倒すのが道理なんだよ!

少女は落下の勢いそのままに禍々しい腕を魔物めがけて叩き込んだ。

その一撃で、魔物を仕留めてみせた。

「メロウ、まもの倒しちゃったよ。すごいかな?すごいよね!」


「該当データなし。味方……なのか?」

「メロウだよ!」

「……メロウ?」

「メロウの名前はメロウっていうんだよ。メロウって呼んでね!」

メロウと名乗った少女は、一体何者なのだろう。


「君は、自警団に協力してくれるのかい?」

「……ん?」

タイシの問いかけに、メロウは首を傾げる。

「魔物殺しを一緒にしてくれるのかって話よ。」

メロウは足元に転がっている魔物をわしづかみにして、掲げる。

「これのこと?これは、あげないよ。メロウのものだよ。」

「君のものっていうのは――」

突如、メロウは、魔物をむさぼり食い始めた。

「んー、おいしー。メロウが殺した魔物をメロウが味わうよ。それが道理なんだとメロウは思う!」


君たちは凄惨な光景を前にして絶句する。

「メロウがおいしいと感じることこそ、メロウの幸せなんだって。そうメロウが言ってた。」

やがて魔物を食べ尽くしたメロウは街路樹にかじりつく。

何度かかじってから顔をしかめ、今度は建物の外壁をはがして食べる。

「うええ、メロウにとってはおいしくない。やっばり、動くやつがおいしい傾向にあるよ。これ、メロウの法則。」


メロウはくりくりとした目をぎらぎらと輝かせ、君たちをじっと見つめる。

「お前らは動くやつ!傾向と対策はばっちりだよ!」


君は再び防御障壁を展開する。そこにメロウが突進してくる。

したたかに障壁にぶつかったかと思うと、なんと障壁を食べ始めた。


「我が心のしもべよ、夢を喰らいて立ち上がれ!¨セルウス!

メロウの言動に動じることなく,アサギが素早く詠唱する。

「お前たちもガーディアン・アーマーを展開しろ!


アサギに急かされ、ファルサとタイシもアーマーを展開、戦闘準備を整える。 

「あたし、メロウって子嫌い。節操ないやつってー番腹立つわ!慎みの心を持ちなさいよ!」

「どの口が言ってるんだよ!」


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story3-3



タイシとメロウが空中戦を展開する。刃の羽と禍々しい腕が何度も交錯する。

「お前速い。速いやつはかみごたえがあっておいしい傾向にあるってメロウは分析してるよ!

メロウは高速機動を誇るタイシのフォルティスと互角のスピードを誇っていた。 


「タイシ!自分で決めようとするな!こちらにおびき寄せろ!

「はい! アサギさん、いきます!

タイシが急降下してアサギのほうへ向かう。


タイシを追ってきたメロウに対し、セルウスをまとったアサギが渾身の拳を見舞う。

しかしメロウはそれを片手で受け止めた。力と力がぶつかり合い、措抗する。


「小さいやつは、味が濃くておいしい。これも、メロウの法則!


「なによアイツ!タイシのスピードとアサギのパワーを持ち合わせてるっていうの!?

「まさかあたしのリススレニスより大食漢ってんじゃないでしょうね!?

いいじゃない! 勝負よ!可愛さはこつちか勝ってるんだから!


「意地を張るなファルサ!魔法使いとの連携だ!

「もう! 犬尻撫子のくせに偉そうに!

不満を噴出させつつ、フアルサは君とアイコンタクトを取る。

「さっき魔法使いが言ってた作戦、いくわよ!あんたが合図しなさい!

君はタイミングを計り、今だ! と叫ぶ。

「喰らいなさい!

フアルサのリススレニスが□をがばりと開いてメロウに襲いかかる。

「お前はまずそう!でも食べる!

メロウはリススレニスの□を両手で抑え、自らの□を開いて食らいつこうとする。

その瞬間、リススレニスが吐きだしたカードがメロウの□の中に入った。


一拍置いてから、メロウの口腔内で大爆発が起こる。


「あはは!あいつほんとに喰らったわよ!ざまあないわね!

ファルサが君の肩をぱしばしと叩く。

「魔法もなかなかいいじゃない。あたしもカードで魔物を殺してみたいわ!


しばらくおいて、爆煙が収まる。そこにメロウの亡骸はなかった。


「逃げられた!?

「いや、僕は空から見ていたけど、逃げてないよ。

「さすがに跡形もなく吹き飛ぶような魔法ではないにや。

「消えたのでしょう。魔物ではなく、何者かのガーディアン・アバターなのかもしれません。

戦闘を終えたアサギは、元のおっとりとした喋り方に戻っている。

「よくわからないけど、また殺し直せるってことね。

「ファルサ……いい性格してるな……。

「それにしても、アサギって戦いになると性格変わるのね。

「そうか。見た目は違っていても中身はあの英雄アサギだもんなあ。さすがです。勉強になりました。


アサギはくすぐったげにはにかむ。


「ガーディアン・アーマーもかっこよかったわ。あたしは搦め手タイブだから、ああいう力で真つ向勝負みたいなやつに憧れるのよ。

オシリスだったかしら?

「セルウスです。私はともかくセルウスはお尻関係ないです。

「とうとう自分がお尻関係者って認めたわね。

「お尻関係者ってなんだよ……。


「大丈夫だったか、シロ。守ってやれなくて、ごめんな……。

『あうう……あう!


散々アサギに尻を触られていたシロはどこか恨めしげな鳴き声を上げた。

シロの尻に満足したアサギは別部隊に合流していったため、ふたたびレグル、テーラ、ミュールの3人小隊となる。


魔物もぽつぽつとしか出現しないため、街中を散歩するかのような長閑さがあった。

それでもテーラは気を抜かず目を光らせている。

テーラがそんな調子なので、レグルは退屈しのぎにミュールと話す。


「キワムっていまなにしてるの?」

「キワムたち、げんき!でも、いそがし。あちこちでおしごとのことあるまして。」

「やっば生ける伝説は忙しいのか。1回会ってみたいなー。」

「こんど、スザクロッドに遊ぶので来たらよきです。テーラも、いっしょくたに!」

ミュールに微笑みかけられたテーラは、黙ったまま顔をそむける。


「すいませんねえ、ミュールさん。テーラは人見知りで、世間話なんかは苦手で。自分はそういうの好きなんですがね。

「テーラ、しゃべるの苦手でありましてか?ミュールと同じのです。ことば、むつかし。

「……ちがう。

「ことば、まちがえてもよき。つたわればよきのです。さあ、ゆうきだすのでして!


「ミュールさんとお知り合いになれて大変うれしく思いますこうしてお話させていただくのも光栄の極みにございますミュールさんのご趣味は?


「じょうず!じょうず!

「……やろうと思えば、なんでもできるから。

「なんでも、ねえ。ロイド、テーラの苦手なことってなんかないの?

『おうた、ですかな。

「ロイド!?

『自覚があるんでしょうな。人前はもちろん、ひとりでいても歌いません。しかし、鼻歌なんかは歌います。

テーラお気に入りの1曲があるのですが、毎回同じところで、正確に外すんです。

「……ロイドのばか!」

「気にするなよ。テーラが音痴なこと、元々知ってたし。」

「えっ!?」

「森で聞いたことあるよ。鳥のさえずり、サイレンサーをつけた銃の発砲音、魔物の悲鳴、ヘッタクソな鼻歌。」


レグルは思い返す。

言われてみれば、確かに同じ曲を同じ場所で外していた気がする。

「――♪」

射撃は外さないのに、歌は外すのだ。


「んぐ………っ!

テーラは再びそっぽを向いてしまった。

そんな、穏やかな会話をしながら今日の警らは終わると思っていたそのときー―


〈危ない〉


「危ない……って、〈声〉が聞こえた。

「えっ、レグルも?

今のは謎の〈声〉だった気がしたが、テーラも聞いたということは、街中のどこかからか聞こえたのだろうか。

なんにせよ、警戒心を強める必要がある。3人は雑談をやめ、周囲に注意を払いながら歩を進める。

すると――


「ごめん、ちょっといいかな。

背後から、声を掛けられた。

振り返ると、長髪の青年が立っている。


「私のガーディアン・アバターがどこかにいっちゃったんだ。見なかったかな?

実は、最近召喚できるようになったばかりで、うまく扱えなくて。

アバターがいなくなってしまったというのに、男は悠然とした態度で微笑んでいる。

自分も人のことは言えないが、のん気な奴だとレグルは内心呆れる。

そんな男のことを、なぜかミュールは睨みつけていた。


「……あなた、よくなきひとですか?

「よくなきひと?確かに、アバターが逃げちゃうんだ、よくなき主人なのかも。

「ちがいまして。よくなきひとのくうき、でてて。

「悪人面ってこと?あんまり言われたことはないな。ちょっと傷つくよ。


「で、逃げたアバターってのはどんな感じのやつなんだ?

「小さい女の子。

男は、レグル、テーラ、ミュールを、舐めるような目つきで見つめる。

「そう、ちょうど君たち3人みたいにすごくかわいい子なんだ。

「3人っておれ入ってんのかよ……。

「失礼だったかな。ごめんね。でも、本当のことだから。

見てないならいいんだ。あっちを探してみるよ。」


男は焦った様子もなく、軽やかな足取りで立ち去っていく。

その背中を、ミュールは睨み続けていた。


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story ”GUARDIAN”



大ロッド居住区の見回りから帰ったテーラは、戦闘用のアサギではない、以前世話になったガーディアンの心をケアするアサギに呼ばれた。


「その後、調子はいかがですか。」

「良好。ガーディアン・アーマーが展開できなくなったことはない。」

「周りの方との関係はいかがですか。」

「……。」

「いい方々に囲まれているなという印象を受けました。このロッドまで、テーラが仲間と一緒に来たのを見て、私は安心しました。

それだけにテーラの心が今のままでいいのかと、改めて疑問に思いました。」


『それに関しては自分も同感ですな。

複数個体と同期しながら自我を維持する我々と、マスプロダクションタイプのガーディアンの心の在り方は違います。

それを承知の上であえて言いますが、テーラがこのままでいいとは思っていません。』

いつものおっとりとした喋り方だが、言葉のひとつひとつに芯が通っているようだった。

「あなたのソムニウムに蓄積思念削除のカスタマイズをしたのは私です。しかし、未来永劫そのままでいいのかと思うと……。」

アサギに負けないくらい、言葉に芯を通そう。そう思いながら、テーラはゆっくりと口を開く。


「私と同じ立場なのか、自分の意思かはわからないけど、戦うことを放棄するガーディアンも出てきてる。

私は、そうなりたくない。戦えなくなるくらいなら、思い出を捨てて戦い続けたほうがマシ。

「ガーディアンにとって……いえ、ガーディアンと人間にとって、なにが正しいのか、難しいですね。

目を伏せたアサギだったが、ぱちんと手を叩く。

「今ちょうど、ウシュガ博士が来ているんです。地下階層で、別個体の私とカリュフスの研究について、話してます。

激動の人生を歩んだひとりのガーディアンの意見を、聞いてみませんか。

かつて、真実を知り、カリュプスの破壊衝動に呑まれて心を壊してしまった収覗者のひとり。

自分以上に過酷な想いをしながらも、その後社会貢献をしているガーディアンの話を、少し聞いてみたいと思った。


「彼も、今では立派に功績を残していますからね。昔なんて、私に蹴られていたというのに。」

「アサギは昔、ウシュガ博士のこと蹴ってたんだ……。」

「別に私だけが蹴っていたわけではありません。」

「みんなで蹴ってたんだ……。」

今でこそガーディアン研究の分野で輝かしい功績を多数残しているが、英雄譚を聞く限り、蹴られても仕方のない人物ではある。

しばらく待っていると、ウシュガがやってくる。


「アサギ先生、お呼びかな? んん一?こちらのレディはどなただーい?」

ウシュガは無遠慮にテーラのことをじろじろと見る。変人の噂は違わぬようだ。

「わかったぞ!ウシュガ様のファンといったところだろう?サインは4枚までだよ。んんー?」

「さあ、テーラ。博士はなかなかお話しできる相手ではありませんから。この機会に。」


誰かに悩みを相談するのは気が進まなかったが、ウシュガほどの飛んだ相手なら、話してもいいような気がした。

テーラは精神安定のために、ソムニウムに蓄積思念削除のカスタマイズをしている旨を話す。

戦い続けるというガーディアンの使命を、果たすために。


「な・る・ほ・ど!つまり君は、大切な思い出を捨てて、無理をして戦い続けているんだね?

んんー! それはよくない! よくないと僕は思うよっ!

ガーディアンも人間も、自分の好きなことをやるのが一番だよ!

無理して戦うことはない、自分がガーディアンか人間かなんて考えずに好きなことをやっていればそれでいいんだ。」

「でもそれは、ウシュガ博士が研究者として優れているから……。」

「テーラちゃんだって!なにか向いてることがあるかもしれないよ!」


自分にできることは、戦うことだけ。やりがいを感じるし、元々筋だって悪くなかったと思う。   

でも、怖くなってしまった。駄目になってしまった。

自分の気持ちに左右されて戦えなくなるなんて、そんなの、欠陥品だと思う。

欠陥品として生き続けるくらいなら、思い出を捨ててでも、役に立ちたい。


「今は違うって否定されるかもしれないけど、元々ガーディアンは、戦う道具として生まれたわけだし。

ガーディアンは、道具として役に立ってこそ。」

「ふふっ。」

アサギが小さく笑った。

「ごめんなさい。ちょうど、それに関して話したいことかあって。

近頃、趣味を持ち始めたんです。人間とガーディアンの歴史についてあれこれ調べてまして。

重要情報はカムラナを通じて漏れなく共有しているのですが、ちょっとした情報、当時の文化なんかは知らないことも多いんです。」

『それはたいへん興味深いですな。』

「聞かせて聞かせて。アサギ先生の話、僕にも聞かせておくれよ。」

「この曲、ご存知ですか?」

アサギが施設内の機械を操作し、音楽を流す。

聞いたことのあるメロディだった。

「……この曲、知ってる。」

しかし、歌詞があることは知らなかった。知っていたのは、メロディだけ。

『この曲、テーラがよく鼻歌を歌っていますな。レグル氏にはヘッタクソと評されてしまいましたが。』

「千年以上前に、人間の間で流行った歌です。なにかを守ること、その想いを貫くことについて歌ったもの。

時世はちょうど、ガーディアン計画が始動したばかりの頃。

これが、端的な事実です。ここからは私の解釈でしかないのですが――」

アサギは穏やかな微笑みを浮かべ、優しく語る。


「こういった歌が流行るということは、人間はガーディアンを道具として見ていたのではなく、未来への希望を託していたのではと思うのです。

これはガーディアンに向けられた人間の祈りではないでしょうか。

テーラは、遊具としての役誘を全うすることを考えてきた。

しかし、もしも人間が最初からガーディアンを道具としてではなく、未来への希望を託す存在として作っていたのなら。

きちんと心を通わせて、その想いを酌むのも、ひとつの答えなのかもしれない。

ガーディアンに希望を託す千年以上前の人間たちを想像する。

しかし、レグルをはじめとする700号ロッドのみんなの顔が思い浮かんでしまった。

テーラは毎日同じ時間に蓄積思念を削除する。自動削除もできるが、手動で削除している。

きっかりずれずに、午後8時36分52秒。

止まった時計の時間。ガーディアン・アバターを召喚することができず、守るべき相手を守れなかった、その瞬間。

あと1時間7分5秒で、削除のタイミングだ。


……試しに。


試しに、残しておいてもいいかもしれない。

どうしてか、思い出を残しておいても、恐怖に呑まれず戦える気がしたのだ。





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