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スーチャ・ヨゥン

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力こそがすべて――とされるこの世界において、スーチャは、しいたげられるべき弱者であった。


身体が弱い。気が弱い。魔法も使えず、武術も修めていない。

こと戦闘という分野において、スーチャはまぎれもなく最下層に位置する存在だった。


スーチャは、両親とともに辺境の街で仕立て屋を営んでいた。

常に強者の顔色をうかがい、媚びへつらいながら過ごす日々だった。

そうしなければ、スーチャのような弱者は生きてはいけなかった。


「ウチの一族もな、昔、ご先祖さまが竜と契約して、強ォーー大な竜力を

手に入れてな、それこそ一国を治めるほどで……」

酔っぱらうと、父はよくそんな話をした。

しかし、その力は世代を経るにつれ失われてしまったらしい。

今は、名残として背中に翼が生えているだけだ。


ある日、粗暴な客が、店で売っている衣服の値段に文句をつけた。

見るからに強そうな相手だった。父は平謝りしたが、相手は怒りを収めることなく、とうとう剣を抜き放った。


「だ、だめえっ!!」


スーチャは、覆いかぶさるようにして父をかばった――

――次の瞬間、彼女の腕から膨大な魔力が吹き荒れたかと思うと、粗暴な客を勢いよく吹っ飛ばした。

それが、スーチャの“竜腕”の目覚めたきっかけだった。


どうやら、失われたと思っていた竜力が、スーチャの身に先祖返りしたらしい。

それも――スーチャの体質と相性がいいのか、並みの竜人をはるかに上回る力が発揮されていた。


ただ、スーチャ自身があまりにもひ弱であるために、あふれ出る竜力をまともに制御できなかった。

 “竜腕”は、スーチャの防衛本能に敏感に反応し、自動的にその力を発動させた――

臆病な少女は、ことあるごとに竜腕の威力を詐裂させてしまうこととなった。


街の人々はスーチャにひれ伏し、貢ぎ物を捧げさえした。

スーチャの機嫌を損ねるまいと、あるいはスーチャに気に入られようと、

誰もが媚びた笑みを浮かべて、顔色をうかがってきた。かつてスーチャがしていたように。

スーチャが竜腕を制御できない以上、人々は、彼女を刺激しないように努めるしかなかったのだった。


正直――制御できない、そもそも自分の実力ですらない力のために畏れ敬われるというのは、

とてつもなくいたたまれない気分だった。

弱いくせに、人々に貢ぎ物を捧げさせてしまう自分が、ひどく邪悪な存在に思えてならなかった。


「このままじゃだめ……私、この竜腕を制御できるようにならないと!」


スーチャは一念発起した。旅に出たい、と告げると、優しい両親は笑顔で送り出してくれた。

自らの力で竜腕を制御するため――スーチャは、決意を胸に旅立った。


――なお。

その後、「臆病な弱者にしか見えない態度を装っておいて、

襲いくる狼籍者たちを強烈に叩きのめす猛者少女」の噂が、世界中に流れることになる。

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