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【黒ウィズ】ジャスクス

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最終更新者:にゃん
水竜ジャスクス







水竜ジャスクスは、おそろしく荒い気性で知られていた。


彼は、己が縄張りを侵されることを何よりも嫌っていた。

棲みかたる湖の周辺に不用意に立ち入る者には、苛烈な制裁を加えてきた。

やがて、湖の周辺ば蒼竜の聖域、と呼ぱれ、誰も踏み入ることはなくなった。


――にも関わらず、ひとりの女が現れた。

それも、うっかり縄張りに入ってしまった、という風ではなかった。

堂々たる足取りで、まっすぐにジャスクスのいる湖を目指して歩んできたのだ。


水面を割って姿を現したジャスクスは、憤怒にまみれた惘喝を放った。

『女――その不遜、己が命であがなわねばならぬと知っての所業か?』

「よほど縄張りが大事と見ゆるな、蒼き竜」

女は唇を歪めて笑った。

「それでよい。それでこそだ。そんな貴様の力こそ、私の求めるものなのだ」

『戯れよるわ!』

赫怒に駆られたジャスクスは、魔力を以って湖の水を練り上げ、女へと放射した。

岩盤すら砕き散らす波濤の一閃を、女は軽やかにかわし、剣を抜いた。

それを皮切りに、ふたりの戦いが始まった。


ジャスクスの猛攻は、当たりさえすれば女を一撃のもとに絶命させるはずだった。

しかし、女は身軽な動きで、ひらひらと攻撃をかわしてみせた。

一歩間違えれば死が待ち受けているという状況にありながら、その動きに乱れはなかった。



「私は契約を望んでいるぞ、蒼き竜!」

飛来する水流の矢をかいくぐりながら、女は叫んだ。

「我は王族! 強者を正義とするこの世界において、国を守るためには力がいる!」

『ゆえに我が力を欲すと言うか!』

「そうとも! 縄張りを守るおまえの力、それをこそ望むのだ!」


幾度めかの水流をかわすと同時に、女は鮮やかな跳躍を見せた。

地を蹴り、ジャスクスの身を駆け上がるようにして、高々と舞う。

そして――ジャスクスの鼻の上に降り立つと、ぴしりと剣の切っ先を突きつけた。


静寂が訪れた。どちらも動きを止めていた。神話を描いた壁画のようだった。

『……斬らぬのか』

怪冴そうにジャスクスが告げると、

「このなまくらでは、貴様の鱗に傷もつけられまいよ」

女は、あっさりと告げた。

「私が欲するのは、縄張りたる国を守る力であって、外敵に攻め入る力ではない」

『貴様……その意を示すがため、我が攻撃を避け続けてみせたのか?』

「語るより、わかりやすいかと思うてな」


平然と言う女に、ジャスクスはあきれた。

同時に、どこかおかしみを感じ始めている自分に気づいた。

『クク――短小なる人の身に留めておくのが、惜しいほどの肝よ』

「自分でもそう思う」女は笑った。「だからここに来たのだよ」

『いいだろう』

ジャスクスもまた、喉の奥で笑った。

『汝の気概、我ここに認めり。汝と契約し、我が力を授けよう――』


    * * *


――数百年の時を経て、ジャスクスは女の子孫と避遁することになる。

身に余る力が宿った竜腕を、必死に制御するか弱き少女。

あの女とは似ても似つかぬはずながら、なぜか目を離さぬ何かがあった。

彼女が何を守り、何を見出すのか。

その答えを見極めるべく、ジャスクスは、少女に過酷な試練を授ける――






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