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謹賀新年2016 クィントゥス&レノックス編 Story

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最終更新者:にゃん
開催期間:2016/01/01

数多の魔族が争い合う、群雄割拠の魔界――そんな世界でも、年は明ける。

年明けを控えた魔界の一画――商業の要衝として栄えることで争いを逃れてきた、ドラク領。

その主クルス・ドラクは、城を訪ねてきた友人の盃に赤い液体を注ぎながら、苦笑を浮かべていた。


「年明けの日は、妹さんが里帰りしてくるんだろう。それが近いのに、こんなところにいていいのかい?」

「うーん、なんつうかなあ……どういう話をすりゃいいんだか、わかんねえんだよな。」

「意外だな。」

「なにがだよ。」

「君ほどの猛者にも、悩みなんてものがある、ってことがさ。」

「そりゃ、多少はな。つうか、逆におまえは悩みが多すぎんだよ。もっと、どっしり構えてろって。」

「はは。未来の魔帝殿と比べられてはね。」


クィントゥスは魔界の支配者――魔帝を目指し、並みいる魔界の強者と戦ってきた男だ。

魔帝というのは遠い昔の覇者の称号であり、彼の家――ジルヴァ家はその直系に当たるらしい。

再び魔帝を輩出するのはジルヴァ家の悲願であり、クィントゥスはそのために帝王学を叩き込まれた。

魔帝の帝王学――すなわち、ただひたすらに強くあり続けるための修練と心構えを。


「確か妹さんは、君の覇道の助けとなるべく、名高い武術師範の下で修業を積んでいるんだったかな?」

「おう。小せえ頃はいっしょに遊んでたんだけどよ、すーぐ引き離されちまってなぁ。

そっからは、年1回、年明けに会うくらいでよ。だから里帰られても、話すことがなぁ……」

「君は、話し合うより殴り合うタイプだしね。」

「それだ!」

「え?」

「考えてみりゃ、あいつとは殴り合ったことがねえ。そうだ、殴り合やぁ、話す必要もねえじゃねえか!

助かったぜ、クルス! さっそく、年明けに備えてちょっくら武者修行でもしてくらぁ!」


「…………やらかしてしまった気がする。」


 ***


揚々とドラク領を出たクィントゥスは、いつものように、手頃な魔王を探すことにした。

「そういや、アルドベリクの野郎が帰ってきたんだっけか。あいつとは手合わせしてねえんだよな。

よし、一丁ぶん殴りに行くか! あいつも嫌たぁ言わねえだろ!」

魔族にとって、強さはプライドそのものだ。戦いを挑まれて受けて立たない理由はない。

「あいつの国に行くなら、この樹海を突っ切るのが早えか。そらよ、っと。」

うっそうとした不気味な樹海に、ためらいもなく入り込み、常人の数倍の速度で進んでいく。

邪魔な木々を適当に薙ぎ払いつつ、一直線に歩みを進めていると……

突如、「背後で」盛大な金属音が響いた。

「ん? なんだ? こいつは……オリ? 上から、降ってきやがったのか?」

クィントゥスの足があまりにも速すぎたせいで、通り過ぎた後に降ってきたものらしい。

「んー、なんか変な魔力が宿ってんな、これ。下手すりゃ魂とか吸われちまうんじゃねえの?」

しげしげとオリを眺めていると、樹海の奥から、明るく調子っ外れな行進曲が響いてきた。

ほどなくして、ぬいぐるみの楽団を従えた小柄な魔族の少女が姿を現す。



「あぁぁ~ら♪ あなたが、新しい『お友達』ね? 私はエル・メルフェゴール。よろしくねぇ~♪」


「あ? エル……メル、メゴ、メルゴ……?」

「魔王並みの魔力の『お友達』なんて初めてだわぁ。だから『お近づきの印』が効かなかったのね?」

「『お近づきの印』って……このオリのことか?」

「そうよ。他にもあるけど。引っかかるとね、魂を抜かれて、私の『お友達』になれるの♪」

「へー。なんか、罠みてえだな。」

「人聞きの悪い。そんな『お友達』とは、力ずくでお近づきになるまでだわぁ! キャハハハッ!」

エル配下のぬいぐるみがいっせいに躍りかかる!

「キャハハハハハハッ!!」

ぬいぐるみたちは、怒涛の勢いでクィントゥスに群がり、携えた楽器を叩きつけてくる。

後退してラッパをかわし、肘打ちでドラムを迎撃。迫るシンバルを回し蹴りの一閃で吹き飛ばす。

(こいつら、あのガキの魔力で強化されてんな。それも、それこそ魔王並みの魔力だ)

「となりゃ、とっとと本体をブチのめすに限らぁ!」

ギロの一閃をかいくぐり、バチの二刀を受け流し、ピアノを踏み台に鳴らしながら、エルへと跳躍。

「波動・黒極炎地獄ッ――」


「きゃはははははははっ。おに~いちゃあ~んっ♪ こっち、こっち~♪」


「ハッ!?」

いっしょに遊んだ幼い頃の妹の幻影が(なぜか今の姿で)エルにかぶり、思わず拳を止めてしまう。

「おーいでーませっ♪ キャハッ♪」

ぞっとするほどの速度で手を伸ばしてくるエル。クィントゥスは反射的に後方宙返りで逃れる。

いや。腰につけていた袋が、逃れられなかった。

「ッ! しまったッ!」

「あら? なにかしら~……お菓子? あむっ。」

「あーっ! こら、おいガキ、あっ、あーっ!!」

「!! なにこれ、おいしい……新・食・感だわ!」

やわらかな黒い丸菓子を、エルは、夢中になって、はぐはぐと平らげていく。

これぞ、ドラク領名物〈ダークサンブラッド〉。ドラク家の奥義の名を冠する銘菓である。

煮詰めた血色の豆に甘味を加えて黒い衣を作り、それで、もちもちとしたライスを包んでいる。

「強えヤツと戦う前の景気づけに食おうと思って、とっといたのに……」

「はぐはぐはぐ……おいしいわ! これおいしい!」

「…………」

すっかり意気消沈したクィントゥスは、がっくり肩を落とし、その場を後にした。

「ふう、ごちそうさまっ……って、あら。あの『お友達』、どこに行ったのかしら。」

口の周りにつけた黒い衣をぬいぐるみに拭き取らせ、エルは軽く首をかしげた。

「それにしても、妙な魔族ね。あれだけ強いのに、どうして最後、攻撃を止めたのかしら?」


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story レノックス、悩む



「まさか、君が我が城に来てくれるとはね。歓迎させていただくよ――レノックス・ジルヴァくん。」

「兄がご迷惑をおかけしていると、風のうわさに聞いたもので……ごあいさつにうかがいました。」

「恩があるのはこちらさ。以前、我が領が粗暴な吸血鬼たちに襲われた際、彼が助けてくれてね。」

「大方、通りすがりに強そうな相手を見つけ、嬉々として乱入した……というところでしょう。」

「助けてもらったことに、変わりはないよ。だから、我が城には自由に出入りしてもらっている。

彼ほどの猛者が頻繁に訪れてくれるとなれば、他国の侵略に対するけん制にもなるしね。」

「……したたかな方でいらっしゃる。」

「大切な友人であろうと、利用できる部分は利用する。それが、魔族のやり方というものさ。

もっとも……君の目は、魔族にしては澄み過ぎている。僕の物言いも、お気に召さぬようだ。」

「我が流派は、怒りや憎しみを捨て、無我なる心眼の境地に達することを是とします。

その心眼を得た私には、負の念すら力に変える魔族の流儀は、けがれたものと思えます。」

(……兄さんも、そうだ)

「幼い頃の兄は、どんなものからもレノックスを守ってくれる、強く優しい存在だった。

しかし、年1回再会する今の兄は、破壊衝動に任せて戦う、残虐粗暴な男になり果てている。」

その姿に、レノックスは失望すら覚えていた。

(それに……今の私は、きっと、兄さんよりも……)

「耳が痛い、とは言うまいよ。僕も争いこそ本意ではないが、民を守るためなら手段は選ばぬ主義だ。」

(争いを嫌う、という話は本当のようね。魔族らしい残虐さをまるで感じない……

兄さんもこうなってくれれば……いえ、でも、魔帝としては、逆に覇気がなさすぎるか。

そういう人だから、兄さんも戦いを挑もうとは思わないのかしら……?)

「ところで茶菓子はいかがかな。兄君は、我が領の〈ダークサンブラッド〉がお気に入りでね。

吸血鬼向けの味つけだから、きっとお口に合うだろう。あ、〈フェニックスブラッド〉もあるよ。」

(……ひょっとして単に餌づけされてるだけ?)


 ***


樹海を出たクィントゥスは、ドラク領へと引き返す道の途上にあった。

「明日にゃあ新年だし、あいつんトコ寄って、あの菓子を補充してから、里に帰るか。

やっぱ、あれがねえと気合入んねえからなぁ……まったく、うめえもん作りやがるぜ。

そうか。あれがあるから他んトコから攻められねえんだな。たまにゃ頭も使ってみるもんだ。」

ひとりでうなずきながら、クィントゥスは、エルとの戦いを思い返していた。

「しっかし……俺、なんであのガキを殴れなかったんだ……? 昔のアイツがカブるからか?

とすると……俺、あいつと殴り合うとか無理なんじゃねえの? やっべ、計画狂ってんじゃん!」


「これ、そこの貧相な魔族!」

「あん?」


道ですれ違った豪奢な馬車が突然止まった。そのなかから、魔族の少女が飛び出してくる。

「そなた、わらわの妹を知らぬか?」

「ああ? ンだよ、ガキ。てめえの妹なんざ知ってるわけねーだろ、バーカ。」

「バ、バカじゃとう!?

おのれ、そこに直れ! ニル・メルフェゴールの恐ろしさ、骨の髄まで刻んでくれる!!」

ニルの手元から放たれたぬいぐるみが、鋭い牙をむいて、クィントゥスの首筋を狙ってくる。

「ケッ! 吸血鬼が首ィ噛まれるなんざ、笑い話にもなりゃしねえってんだ!」

バックステップで噛みつきをかわした直後、流れるような後ろ回し蹴りを浴びせ、地に叩き落とす。

「例によってェ――

本体をォ――

叩くッ!」

ぐしゃりとぬいぐるみを踏み潰し、炎をまとって急激に加速、一気にニルへと肉薄していく――


「あはははは♪ おにいちゃ~ん♪ 骨の髄まで、刻んであげちゃ~う♪」


「くそっ、またか! やっぱダメか!!」

降り上げた拳を、どうしても叩き込めない。

「キャハハハハッ! 意気地のない魔族よ! どうじゃ、許しを請うなら聞いてやらんでもないぞ?」


「あたしのケーキ、勝手に食べたでしょ~! 許しを請うなら聞いてやらんでもないんだからあ~!」


「す、すまねえ! 許してくれ! この通りだっ!」

「うむ、許す。」

「あん?」

「品性下劣な下郎じゃが、素直なところもあるではないか。うむうむ、苦しゅうないぞ。

して、下郎。そなた、本当に我が妹のことを知らんのじゃな?」

「だから、知らねえって――

ん? そういや、昨日会ったガキも、確か、メルなんとかって名乗ってやがったな。」

「なに、まことか! どこじゃ、どこで会うた!?」

「あっちの樹海の奥。なんか、すんげえ罠あんの。」

「そうかそうか! うむ、よい働きじゃ、下郎!

わらわは急いでおるゆえ、褒美は後で取らそうぞ。では、さらばじゃ!」


「あいつ、行っちまいやがった……なんだったんだ? つうか、俺ぁ、ゲロなんて名前じゃねえっての。

しかしあいつら、そろいもそろって、ぬいぐるみなんざけしかけて来やがって……

……ん? ぬいぐるみ……?

そうだ、ぬいぐるみと言やぁ……!」


なお。

この後、第一次「継ぐのはどっち? 私、女王になんてなりたくない!」大戦が勃発するのだが。

今はそれを語るべき時ではない。


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story ジルヴァ兄妹、相対す



ドラク領、クルスの居城前――


「お、レノックスじゃねえか。」

「兄さん!? 武者修行に出られたと聞きましたが……。」

「おう。おやつ食われたから帰ってきた。」

「わけがわからないんですけど。」

「つうかよ、おまえ、なんでここに?」

「兄さんがドラク公にお世話になっていると聞いて、ごあいさつにうかがったのです。」

「そっか! なるほどな! じゃ、殴り合おうぜ!」

「なんでそうなるんですか!?」

「俺、気づいたんだよ。話し合うより殴り合う方が、お互いわかり合えるはずだってな!!」

「まったくわけがわからないんですけど!?」

(まずい……私の方が強いって、兄さんにバレるわけには……!)

「あの、兄さん、新年のお祝の準備もありますし、そろそろ里に帰った方が……。」

「安心しな。兄ちゃん、クルスに頼んどいた。」


「我が領では最近、宴の準備の代行サービスを始めたんだ。ずぼらな魔族が多いから、実に好評でね。」

「…………。」

「レノックスくん、おめめ怖い。」


「そういうわけだ。殴り合おうぜ!」

「いやあの兄さん。」

「おっと、そうだ。その前に、ちょっと、こいつを着てみてくれよ。」

「え? こ……これはッ……!?」


 ***


「…………。あの。兄さん。これは。いったい。」

「似合ってんぞ、レノックス。」

「ケンカ売ってるんですか!?」

「ケンカじゃねえ、殴り合いだ。」

「それもどうかと思いますけど、そもそも、なんで! 私に! 着ぐるみ! 着せるんです!?」

「いや、俺な? どうも、かわいい妹を殴るっての、できねえっぽいんだよ。」

「か、かわいい妹って……」

「だから、着ぐるみ着せときゃ、ふつうに殴れるんじゃねえかって思ってさ!!」

「……あ?」


「また我が民にツケてきたのかい、クィントゥス?」

「へへ、悪ぃけどナシつけといてくれよ、紅き黄昏。」

「こういうときだけ、あだ名で呼ぶんだからな。」


「つうわけで、これでなにひとつ問題はなくなった! 行っくぜえ、レノックスぅー! 

たありゃああー!」


…………イラッ。


ものすごくいい笑顔で突っ込んでくるクィントゥスの拳を、レノックスは――

紙一重でかわしざま踏み込み瞬時に四打をくれて宙に浮かせた所へ強烈な飛び蹴りをぶち込んだ。

クィントゥスの長身が鮮やかに宙に跳ね、落下し、地面をえぐり砕く勢いで吹き飛んでいく。


「ぐはああっ!」


「あっ

し、しまった……あまりにもイラッと来すぎて、つい……!」

辛うじて受け身を取ったクィントゥスは、膝立ちの状態で、茫然となっている。

(俺は……俺は、まちがいなく本気で打ち込んだ。なのに、かすりもしなかった……)

「に――兄さん、あの、これは……」

「レノックス、おまえ……

ひょっとして……俺より全然、強えのか……?」

「兄さん……ええっと……そのっ……」

「レノックスが、俺より強え……

なーんだ! んじゃ、心配なんざしねえでも、俺の攻撃、当たんねえってことじゃねえか!!」

「……え? 兄さん?」

「つまり着ぐるみ着る必要もなかったってこったな! よーし脱げ! 脱いどけ、脱げ脱げ!」

「ちょっ、あのっ、ひとりで脱げますったら!」

「ったく、強えなら強えでさっさと言えよ~。俺、無駄に悩んじまったじゃねえか。

つうか、すげえな! それが武術の成果ってやつか? なめたもんじゃねえな、武術ってのも!」

きらきらと目を輝かせる兄の姿に、今度はレノックスの方が茫然となっていた。

(この人は……

怒りも憎しみもなく……本当に、ただ戦って、強くなることしか考えていないんだ……

それを私は……残虐になってしまったのだと、勝手に勘違いして……勝手に失望して……!)


「なあ、レノ! さっきの技、教えてくれよ!」

「えっ――いいのですか? 兄さん……」

「あ? なんだよ、いいのかって。こっちが頼んでだっつーの。はは、レノはバカだなあ、おい。

な。頼むぜ。俺、魔帝になるにゃ、もっと強くなんなきゃなんねえんだ。当然、おまえよりもな。」

真剣な眼差しで、じっと見つめられ――レノックスは、思わず微笑みを浮かべる自分に気づいた。

とうにいなくなったと思っていた昔の自分が、ふと心の奥から出てきたような気持ちだった。

「……わかりました。もう、兄さんったら、しょうがないんですから!」

ふっきれたように、笑顔で拳を交わし合うふたり。見守るクルスは苦笑を浮かべる。

(彼の拳は、いつもより鈍かった。やはり妹を叩くのは抵抗があったのだろう……

兄妹のしがらみがなければ、どちらが上か……。……いや。意味のない検討だな、これは)

クィントゥスは、とにかく純粋な男なのだ。彼が兄妹の絆を捨てることなど、あるはずもない。

(君がその純粋さを以って魔帝となるなら、僕は臣としてかしずくことさえやぶさかではない)


「さあ、兄さん! キツいのひとつ、行きますよ!」

「おっしゃ来い! しゃーら! うら!」

「天聖拳・覇皇極雷撃ッ!!」

「ぐはぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっははぁ!!」


(ま、それはまだまだ先の話なんだろうけどね)


その日……ジルヴァ兄妹の初めての鍛錬は、日の出まで続いたという――。


 ***


「考えてみりゃ、初日の出とか拝んだことねえな、俺。」

「拝んだら灰になっちゃいますよ、兄さん。私たち、吸血鬼なんですから。」

「そういやそうか。」

「本気で忘れてたんですか!?」

「よくあるだろ。」

「あ・り・ま・せ・ん!」




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