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ザ・ゴールデン2017 スローヴァ&ルルベル編 Story

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最終更新者:にゃん
2017/08/31





story1



清く正しい魔界乙女の通う聖サタニック女学院。


「ルルちゃん、悪魔コオロギの丸焼き食べる?」

「いらん。お前、そんなもの食べるのか?」

そこは毎日がハチャメチャである。

「ううん、食べないよ。」

「だから、自分でも食べないものを食べさせようとするな!!」


2「ミィアちゃん、ハブロ先生知らない?」

3「さっき校舎の外に吊るされてるの見たよ。今頃もう死んでるんじゃないかな。」

1(なにがあった……)

2「そっか。それなら、しばらくすれば甦るね。」

ハチャメチャ過ぎた。だが、そんな学校にも休みはある。

特にこの時期は、魔界の祝日である〈神代の日〉〈イザーク法記念日〉〈赤い血の日〉〈首なしこどもの日〉が並ぶ連休となる。

それらが、女学院で定められた休日と重なることで、さらに大型の連休となった。

それを女学院の者は、〈死せる黄金虫の日々〉と呼んでいた。

2「シルビーさんは、連休はどうするの?」

4「私はサキュバス科の特別合宿があるわ。せっかくの休みなのにね。」

3「いいじゃん、外に出られるだけ。私なんて休みの間、ずっと弟妹の世話しなきゃいけないんだよ。」

1「ん……? 何の話だ。」

2「そうか。ルルベルさん、連休は初めてなんだね。明日から長い連休になるんだよ。」

1「その「連休」になると、どうなるんだ?」

3「休みになって、生徒がいなくなるよ。」

1「ふーん……。ん?あたしはどうなる?」

邪神ルルベルは憎しみ合う魔族たちが生み出す邪悪な毒気の淀みから生まれた存在である。当然、親もなければ家もない。

それは『かわいそう』という理由で、女学院に通うにあたり、理事長のクルスが特別に女学院内のー室をルルベル専用のものとした。

現在、邪神はそこに居候している。

3「ルルちゃんは休まなくっていいんじゃない。ずっと学校にいるんだから。」

1「それもそうだな……。でもみんないなくなるのか。」

2「私は休みでも学校にいるよ。地下に。でも、勝手に外には出られないけど………。」

1「ウリシラは留学生(捕虜)だもんな。ということはやっぱりあたしはひとりか……。」

教室の窓から霧が忍び込むように入ってくる。その霧は人の形のようになると、はっきりとした実体を持った。


5「やあ、君たちもう連休のお話かい。」

3「あ。ハブロ先生もう甦ったんだ。」

5「はっはっは。先生、死ぬのも早いけど、甦るのも早いんだぞ!」

1「厄介な生き物だな……。」

5「で、みんなはどんな連休を過ごすのかな?」

3「私たちじゃなくて、ルルちゃんのことだよ。連休中は、学校に誰もいないから、ルルちゃんが寂しいんだって。」

1「あ、あたしは寂しいなんてー言も言ってないだろ。ちょっと「ふーん」と思っただけだ。「ふーん」だぞ。」

5「あ。なるほど……。そうだなあ。それならルルベルさんのために、連休中は先生が友達になってあげよう。」

4「なるほど、その手があったか。」

3「よかったね、ルルちゃん。」

2「よかったね、ルルベルさん。」

1「……なんかいや!!」



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story1-2



女学院の生徒たちが明日から始まる連休の話題で浮かれ騒いでいる中――

生徒会長のアリーサ・ベルゴンは生徒会室を無断で改造した研究室に閉じこもっていた。


「ふっふっふ。時は来たようだな。」


「フォッフォッフォ。」

「チッチッチ。」

「ついにあの憎きルルベルを始末できるぞ。フォゲット、アレを……。」

言われ、前に進み出るカボチャ型の魔人がアリーサに布包みを渡す。

ミィア・ヤガダの毛髪でございます。フォフォ。」

「うむ。今からこれを使い、ミィア・ヤガダの複製魔人を作る。」

「連休中、いなくなったミィアと入れ替わり、そやつがあのルルベルに近づき、その寝首を掻くのですね。

さすがアリーサ様。やることがえげつない。」

「褒め言葉と受け取っておこう。」


「エグイ!ズルい!卑怯!」

「最低!」

「小物臭がすごい!」

「チビ!」

「色気がない。」

「ちょ……ちょっと待て……。」

「バー力!」

「アホ!」

「アホ!」

「お前ら!!

傷つくわ!!」

「それに最後はただの悪口になってたぞ!!」

「チチチー……。」


「まあ、いい。とっとと魔人製作に取り掛かるぞ。」


アリーサはミィアの毛髪を調合窯に放り込み、魔術の方陣を指で描く。

窯の中身が激しく沸き立った。ふふん、満足そうに笑い、アリーサは釜に背を向けた。

「それにしてもフォゲット。よくミィアの毛髪を手に入れたな。」

「確かに。あの娘、頭は悪そうだがなかなか勘が鋭い。」

「フォッフォッフォ。簡単でございます。悪魔体操の授業中に、更衣室に忍び込み、制服に付着している毛髪を採取したのでございます。」

「え?」

「ついでに、女生徒たちの日記らしきものも盗み読みし、弱みを握つてまいりました。あと、財布からお金も抜きました。

フォッフォッフォ。軍資金としてお納めくださ……。

「……。」

「おや?」

「「それはだめだろ……。」」

「フォ?」

「「それはやり過ぎだろ……。」」

「フォフォ?」

「自分で造っておいて、アレだけど、お前最低だな……。ちゃんとお金は返して来い。

「じゃないと絶交なッ!!

「フォゲェー……。」



「さて、そろそろだ。」

アリーサは再び沸き立つ釜の中を覗きこんだ。

「よおし! 充分だ。さあ目覚めよ、魔人!仮初の体、仮初の命を以って、我に仕えよ!」

釜に水柱が立ち、魔人が姿を現した。



「なにこれ?」

「ミィアには……見えませんな……。」

製造に慣れているアリーサは、いつもやっていることと変わらないと高を括っていた。

だが彼女は甘く見ていた。太古の血脈ヤガダの血を。

その血の力は、アリーサのなんとかなる精神とフィーリングを越えて、想定以上のものを現世に生み出してしまった。

怪物スローヴァ・ヤガダである。


「おい、ギブン。ちょっと話しかけてみろ。」

「え、俺? ……まあ、わかりました。」


「やあ、そこの君。俺のこと誰だかわかる?ギ・ブ・ン。君のパイセン。わかる? パ・イ・セ・ン。」

「うおおおおおー!!」

「チチチチー――!!」


それは呼び覚ましてはいけない者であった。


 ***


「あら? 何の音かしら?」

「ふふ……きっと妖精さんのいたずらね。」

(絶対違う……)



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story1-3



放課後を知らせる音が聞こえると、生徒たちは帰り支度を始めた。

この時間になると、ルルベルはいつも憂鬱だった。

「シルビーはもう帰るのか?」

「うん。合宿の準備全然してなくって。今から大急ぎでやらなきゃいけないのよ。」

「じゃあね!」

「じゃあな……。」


  

 「アタシ、明日からワクフェス行くんだ。4回目~!」

 「ホントに? すごいね。あれって会場でクドラくん見つけたら、腹パンしていいんだよね?」

 「うん。アタシもう3回も腹パンしたよ。」

 「まぢ?苦しむの?」

 「ううん。全然効かない。チョー無事。」

 「ウソー!私も腹パンしてみた一い。」


「連休か……。」

とりわけ今日は憂鬱だった。今日が終わると、当分みんな学校に来ないのだ。

口には出さないが。これからの日々が少し不安だった。

「ウリシラは門限までいるよな。」

「うん。いるよ。」

同じく学校で暮らしているウリシラもいたが、彼女の場合は厳しい門限が課せられていた。

あまり自由には行動できなかった。

「じゃあ、夕食でも食べに行くか。ミィアはどうする?」

「ん何か何か?良くわからないけど、サンセー、行く行く。」

「お前は相変わらず自由だな。」

ルルベルには親もいなければ家もない。食事を作ってくれる人も、お金を払ってくれる後ろ盾もないのだ。

だが、それでは「かわいそう」ということになって、学院のカフェテリアを自由に利用できるようにしてもらっていた。


丁度その頃、アリーサの元を逃げ出したズローヴァは食べ物の匂いに誘われて、カフェテリアに向かっていた。

邪神とその従僕。最凶で最悪のふたりが、何の偶然か、太古の時を越えて、女学院のカフェテリアで出会った。


「……ッ!?」

「……。」

「ズ、スローヴァ……。ズローヴァじゃないか!」

主である邪神の声を聞いても、怪物は黙ったままだった。

「ズローヴァ?」

「あの大スローヴァ?」

「ほら、あたしだ。ルルベルだ。わからないのか?」

「……。」

そこまで言ってもズローヴァは反応しない。


「ルルちゃん、私ならなんとかできるかもしれない。」

「そうか……ミィアちゃんなら同じヤガダのー族だもんね。」

「そうか。……じゃあ、ミィア頼む。」

こくりとひとつ頷き返し、ミィアは怪物を見やる。そして、一歩一歩と前へ進んでいく。

少女は怪物に対峙すると、おもむろに声を変えた。


「うっしー?」

「うし。」

「うしーうしーうしし?」

「うしうし。」

「うしうしうししうしうしし、うしうし。」

「うしうしうしうしし。」

「うし!? モー、うしうしうし! うしうしうしー。」

「うし、うしうしうしうっしうししし。」

「うーしー? うし、うしうし、うしし。」

「うし、うししうしうし。」


「何を話しているんだろう。」

「さあ? あ、戻って来た。」

戻って来たミィアにルルベルは前のめりになって尋ねた。

「ど、どうだった?」

「うしうしうししし……。」

「普通に話せ……。」

「あ、ごめんごめん。つい……。」

「で、なんて言ってた?」

「うん。「うし」って言ってた。」

「一族郎党皆殺しにするぞコノヤロー。」


なぜかミィアともコミュニケーションを取ることができずにいると、突然ルルベルの体が宙に浮いた。

ズローヴァであった。

彼がルルベルを抱え上げたのだ。そして、ルルベルはスローヴァの肩の上にちょこんと座ることになった。


「な、なんだ。スローヴァ下ろせ!た、高い! 怖いだろ!」

「いやだ……。」


飾り気のない言葉であったが、それでもルルベルたちにはわかった。

彼に敵意がないこと。そして、主従の関係は時代を超え、生死を越えても変わっていないことを。


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story2



ベッドから半身を起こし、体を伸ばす。連休初日の朝である。

鏡くらい持っていないと「かわいそう」という理由で、シルビーから譲ってもらった錆で自分の顔を見る。

「むくり。じゃしんきしょー……ふわわわあ。」


今日も立派な邪神とは言えない子供の姿である。

前日売店で売れ残ったパンとミィアの好意で届けられるヤガダ乳業のミルクで、簡単な食事を済ます。

そして一張羅の制服に着替えて部屋を出た。


向かったのはウリシラのいる学院の地下である。


「なんだぁ、邪神の嬢ちゃんかい。」


「ウリシラに会いに来た。通してくれ。」

「本当は良くないんだが、まあ、いいだろう。ただし学院の外には出るんじゃねえぞ。」

「わかっている。」

ウリシラの外から鍵がかかっている部屋の鍵を、番人であるドボスに外してもらう。


「お待たせ。行こっか。」

「と言っても、学院の外には出られないけどな。」

ふといつもは空室のはずの隣の部屋に誰かがいた。


「……。」

小さな格子窓の向こうには、じっと壁を見つめているスローヴァ。何を考えているのだろうか。

その様子を見て、ルルベルはウリシラに尋ねた。

「なんてミィアはズローヴァを連れて帰らなかったんだ?

先祖なんだろ?連れて帰ってやればよかったのに。」

「前に野良マパパを拾って帰った時に、両親に怒られたらしいよ。

マパパでもダメだったのに、いきなりご先祖様はハードルが高すぎるんだって。

時期を見て相談するって言ってた。」

「ふーん。そのマパパはどうなったんだ?」

「まあ、みんな魔族だから。」

学院で見つかったズローヴァは、その後安全上の理由から地下の部屋に入れられていた。


ルルベル同様、身寄りのない存在である。学院としても扱いに困っていた。

「……ねえ、ドボスさん。ズローヴァさんも出してあげて下さい。」

「なんでえ、天使の嬢ちゃん。突飛なこというじゃねえか。」

「一日中部屋に籠っているのも大変だと思うんです。だからお願いします。」

「ルルベルさんもその方がいいよね?」

「あたしはどっちでもいい……。」

ルルベルのズローヴァに対する感情は複雑だった。

スロ―ヴァそっくりで、匂いや発する魔力の質から、間違いなくスローヴァであると言えた。

だが、その性格や雰囲気は……スローヴァと少し違った。

それがルルベルを困惑させていた。知っている人物のはずなのに、まるで初対面なのだ。

話が通じず、それでいて、自分に対して全幅の信頼を寄せてくる。

どう扱っていいものか、わからなかった。


「誰だ。」

扉が開くと、ズローヴァはこちらを確認した。

ウリシラとドボスの後ろに立つルルベルの姿を確かめると、ズローヴァはこちらに歩み寄ってきた。

それを見てルルベルはぷいと踵を返す。

ズローヴァは彼女に黙ってついて行く。ウシエラとドボスは眼中にすらないようだった。


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story2-2



連休の初日の校舎はがらんとしていた。

勉学に勤しむ日々から離れられる良い機会だ、と考え、学院に来ることはなかった。

華やかな魔界乙女たちの声が途絶えた学び舎は寂しかった。


学院を見守る邪神像も、いつもより寂しげな表情に見える。

そんな邪神像の頭上に、絶妙なバランスで立つティーテーブル。

さらに絶妙なバランスで置かれている椅子に腰かけるふたりがいる。


「連休ね……イーディス。」

カナメ・バルバロッサと。

無言の少女は、イーディス・キルティである。

「せっかくの休みだというのに、私たちはこうやって学院に来ている。

悲しいことだと思わない?」

「……。」

「同意ってわけね。でも私たちが他の女生徒たち同様に休んでいてはいけないものね。

私たちには大きな目標がある。だから、休んでいる暇なんてないわ。

どうしたの、イーディス?さっきからずっと黙って。

貴方が黙っているということは、何か考えがあるということね。違う?」

「……カナメ。」

「なに?」

「……。」

(呼んだだけ?)

「カナメ。」

「なに?」

「……。」

(何か言え……)

「カナメちゃん。」

(ここにきて唐突なちゃん付け……)

「カナメちゅあん。」

(ちゅあん……)

「カーナメちゅあーん。カナーメちゅあーん。カナメーちゅあーん。」

(何かのスイッチが入ったな……)

「キャナメ……。キャナメちゃん。ちゃんキャナメ。ちゃんキャナ……。」

(壊れた……あ、いや、これは!)

カナメは素早くイーディスの後ろに回り、彼女の後ろ髪をかき上げる。

案の定、うなじには縫い付けられた跡があった。カナメはそれを引き裂くと――


「あわわ! バ、バレたデシ!」

中にはイーディスの使い魔たちが詰まっており、腹話術の如く、イーディスの傀儡を操っていたようである。


(や ら れ た)


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story2-3



一方その頃、ルルベルたちはというと……。

「暇だ……。」

「暇だね。人もいないし。」

自分たち以外に誰もいないのに、ふたりは律儀に自分の席に座っていた。

席の無いズローヴァは教室の後ろに立っている。

しばらくは〈MAOH〉の回し続みなどで蒔間をつぶしていたが、それもすぐに飽きてしまった。


ふとウリシラは背後で立ち尽くしているスローヴァを見る。

退屈な時間。持っているものには飽き飽きしていた。

そんな時間と空間の中にたったひとつの不思議がある。

ズローヴァ。甦った怪物。

ウリシラは自らの興味のまま、彼に尋ねる。

「ズローヴァさんは、昔の記憶はあるんですか?ルルベルさんと一緒にいた頃の記憶です。」

それを聞いて、反応したのはルルベルである。ズローヴァの方に向き直り、彼の答えを待った。

「残念ながら、ない。その子が大切な存在である気はするのだが、詳しくは覚えていない。

俺はなぜ、ここにいる?」

「それは……。」

わからない。と紫直に言ってしまっていいものか、ウリシラには判断できなかった。

「そんなこと考えたってどうしようもないぞ。あたしたって自分がどうしてここにいるのかわからないからな。

昔の記憶もぼんやりとしかない。」

「昔の俺はどんな存在だった?」

「あたしの忠実な僕だったぞ。」

「そうか。それならいまもそうするべきかもしれないな。」

「好きにすればいい。」

「ルルベルさん。スローヴァさんに対して、ちょっとそっけないね。」

@そんなことない。」

つっけんどんな言葉と同時にルルベルのお腹の虫が鳴った。

「……お腹空いたね。そろそろお昼だもんね。」


「そうだな。何か食べに行くか……。」

そこまで言って、ルルベルは気づいた。果たしてカフェテリアはこの連休も空いているのだろうか、と。

「やばい……もしかしたら?」

「もしかしたら?」

「なんだ?」

ルルベルは突然駆け出した。


 ***


カフェテリアに到着したルルベルたちは愕然とする。

そこは、入り口が固く閉ざされ、連休中の休業を伝える紙がー枚張り付けられていた。

わなわなと震えるルルベルを見て、ズローヴァが声をかける。


「何か問題なのか?」

「大問題だ……。」

現在の邪神ルルベルは女学院関係者の善意の上に生きていた。

彼女は、売れ残った食べ物の提供やカフェテリアの無料使用などの特別な待遇を与えられている。

それは何も持たぬまま現世に出現したルルベルを『かわいそう』だと思うがゆえの処置である。


衣食住万全の状況だと思われていた。だが、そこに現れた思わぬ落とし穴がこの連休である。


「死ぬかもしれない……。邪神なのに飢え死にするかもしれない……。」

「そんなことないよ、きっと。なんとかしてくれるよ。」

「あたしはウリシラと違い、交換留学生(虜囚)じゃないんだぞきっと忘れられてる……。」

「ちなみに同じように学院の一室(地下)で暮らすウリシラの場合は、天界との交換留学生(俘虜)として、魔王管轄の特別予算が組まれている。」


イレギュラーな存在であるルルベルとはまったく違った。

監視の目が厳しく自由も少ないが、言い換えれば、彼女は厳重に生かされていた。

「いやだ。いやだ。餓死はいやだ……。邪神が餓死はいやだ。」

「餓神ルルベル……。」

「餓神ッ!?」

「どうしようか。何か食べる物を探しに行く?」

「そうしよう。ルルベル……様を餓えさせるわけにはいかない。」

意見の一致を見た一同はカフェテリアから移動しようと、腫を返した。


「……。」

「……。」

「なるほど………。」

ルルベルたちの視線に気づいたマパパが、愛くるしい笑顔をこちらに向けてくる。

「なーんだ、心配して損した。」

「そうだね。」

「良かった……。」

「まぷぅ?」


 ***


暗黒の世界である魔界も夜を迎える。

学院の夜は寂しい。今日は特に日中から人気がなかった。そのせいか、とりわけ寂しさが増していた。

門限を過ぎたウリシラは自室のある地下に戻っている。

教室にはルルベルとスローヴァだけだった。


「帰りたくないから、帰らない。」

「そうか。ふん、あたしには関係のないことだけどな。」

「お前は帰らなくていいのか?俺は……本当にスローヴァなのか?

「みんなが俺のことをスローヴァだという。だからスローヴァなのかもしれないと、思った。

それが本当のことか、俺にはわからない。何も覚えていない。」

「じゃあ、なせ初めて会った時、あたしを抱きかかえた。」

「体が勝手に動いた……。」

「お前はいいな。ズローヴァだと認めてもらえて。あたしはルルベルだと信じてもらえない。

毎朝鏡を見るが、いつもチビの体のままだ。最近は自分がチビなことにも慣れてきてしまった。

慣れというのは怖いな。」

「どういう意味の話だ。」

「お前もそのうち、慣れるって話だ。」

「そうか……。」

「そうだ。」

自信満々に答えたルルベルの腹の虫が鳴った。

その音は、自分たちが夜になってから何も食べていないことを思い出させた。

「腹が減ったな。」

スローヴァが黙って教室を出て行った。ルルベルは何事かと思ったが、―放っておくことにした。


まだ迷いがあるのだろう。自分もそうだったが、ミィアたちに振り回されるうちに迷うのが馬鹿馬鹿しくなった。

いいことか悪いことかは判断が難しい。少し前の出来事を思い出しながら、ルルベルは机に突つ伏した。

今日は静かだ。魔界は騒がしい方が良い。


この学院の騒がしさは、自分の知っている騒がしさとは少し違う。が、無いよりマシだ。

殺戮、騒乱、暴動、憎悪といった自分の知っている魔界はもうない。魔界は変わったのだろう。

休日は嫌いだ。いや、学院が好きなのか?学院の仲間が好きなのか? よくわからない。

また、お腹の虫が鳴った。雑念がぐるぐるしている。ドアが開く音が聞こえた。

たぶんスローヴァだろう。

ルルベルは顔を上げた。

「どこに行ってい……。」


「腹が減るのは良くない……。」

「お前……良い奴だな。」

「でもそれは最後のー匹だから分裂するまでダメだぞ。」

「そうか……残念だ。」


「まぷぅ?」



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ザ・ゴールデン2017 スローヴァ&ルルベル編 Story2


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