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覇眼戦線2 Story2

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2016/4/13 ~ 5/16

目次


Story8

Story9

Story10

最終話





story8



自分でも思いがけない行動だった――。

君は、ほんの一瞬、自分のソレを振り返る。


  ウィズ   

「キミ……!」


突然現れた冥い何かに、君は渾身の魔法を放った。

戦いに戦いを重ね、既に魔力がほとんど残されていない、この状況で。

“あろうことか”リヴェータの敵であるルドヴィカを守るために――魔法を撃った。


ゲルデハイラに目を向けると、彼女は静かに頷き獣をポンッと叩いた。

飛ぶように走りだした獣がルドヴィカに近づき、君は必死に手を伸ばして彼女を抱え上げた。



  ジミー   

「……魔法使い、お前。」


逆脇からルドヴィカを抱えていたのは、ジミーだった。

どうして……と君は呟く。

「わからない。でも……咄嗟に動いてた。そうしないといけないと思ったんだ。」


 ゲルデハイラ 

「全くどいつもこいつも身勝手な奴らじゃ。お人好しどもめ。」


そういうゲルデハイラも、意図を汲んでくれた、と君は言う。

「仲間を見殺しにはできんじゃろ!たとえ敵の長を抱えていようとも!」


 ルドヴィカ  

「……ッ、くッ。」


苦悶するルドヴィカの頬には、顔にそぐわない、熱を帯びた汗が一滴。


「ルドヴィカは俺の馬に乗せろ!ここから少し距離を取るぞ!」

そうだ、とにかく距離をおいてどうするべきか、しっかりと考えなければ……君はそう思った。




  ハクア   

「魔法――この世界では、亜人しか使えないはずですが……。」


耳元に届く囁き。

君は目を見開き、それを見た。


冷たい瞳。固く結ばれた口。そして――。

“あまりにも濃い死の匂い”



「魔法使い、逃げろッ!!」

君の魔法を正面から受けたにもかかわらず、大鎌を携えた女性は無傷だった。

「あの魔法を受けきるなんて。とんだ化物じゃのう……。」


「――覇眼に関わるものは、全て殺します。

たとえあなたが、“別のところから来た”者であろうとも。」


頭の奥に響くその声は、まるで死への誘い。

女性が鎌を振り下ろすのを、君はルドヴィカを抱えたまま見ていた。

避けられない。防げない。逃げられない。

金属の交わる音がするその直前まで、君はここで死んでしまうことを覚悟していた。


だけど――生きている。



「やるじゃないか。」

男が、見えないほどの速度で振り下ろされる鎌を横から打ち払っていた。

「かっこいいぜ、お前。」


「おい、セリアル。ルドヴィカ死んじまうぞ。助けてやれ。」

「応急処置ぐらいしかできんぞ、私は。」

亜人の子が近づいてきて、ルドヴィカに触れる。


「――覇眼。」

冥い女性がゆらりと動く。



 アシュタル  

「ハクア、悪いが今はこれより先には進ませない。」


  ハクア   

「あなたも執念深い男だ、ラド。裁かれず、そして生かされたことを忘れましたか。」


「俺を生かした? 馬鹿言うなよ、クソ化物。俺にボコられて逃げ帰った――の間違いだろ。」

「相も変わらずよく喋る。虚勢が透けて見えるようです。」


 君はただならぬ殺気に、声をかけられない。


「行け。どこの誰だか知らないが、お前にはやることがあるんだろ?」

 意識を君に向けたまま、大鎌の一撃をいともたやすく受け止める男。


  セリアル  

「これでとりあえず血止めはした。あとは好きにやれ。」


 ゲルデハイラ 

「感謝するぞ、セリアル。」


  セリアル  

「そんなものはいらん。早く行け。この怪物は私たちが引き受ける。」


 君は咄嵯にありがとう、とだけ口にした。


 アシュタル  

「変わってるな、お前。戦場でありがとうだなんて、初めて聞いた。」


その言葉を残したまま、君はゲルデハイラ、ジミー、そしてルドヴィカと共に城へと急いだ。



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story9



漆黒の兵団は、“その主”が現れたことで、さらに暴威を振るう。

1つ1つは、アマカドにとっても、ガンドゥにとっても、大した敵にはならない。

しかし激化する戦場において、物量は圧倒的な暴力となりうる。

正規軍だろうと傭兵団であろうと飲み込まんとする黒い波を押し留める防波堤は、ここにはないと言っていい。


ハーツ・オブ・クイーンも、グラン・ファランクスも、濁流に抗う余力がなかった。


「後を追う――行くわよ!!」

リヴェータの号令とともに、残った兵が駆けていくのが見えた。



だがガンドゥ、アマカドはあまりにも距離がありすぎた。



「これはガンドゥたちも、いよいよ終いか。リヴェータだけでも城内に進めてよかったと、そう思うべきか……。」

「あら、ガンドゥさん。諦めるなんて、らしくないですよ。」

「むぅ……だがなぁ……。」


砲撃は効いている。

斬撃も効いている。


だが――減らない。


退かず耐えることだけが精一杯で、奥に見える門を乗り越えられるとは思えない。

可能なら、リヴェータの後を追いたかったが……。


 オーリントール 

「おう、大猫! こんなとこにいやがったか!」


  ガンドゥ  

「まだ追いかけてきてたのか……。」


ガンドゥは溜息をつく。

大猫狩りのオーリントール。

つい先ほど戦ったばかりなのに、また一段と厄介な敵である。


「アマカド。ガンドゥはこいつを叩く!何とか粘っておいてくれるか!」

「早まるな大猫。」

「む?」

“お前とやりあうつもりはない”それを示すようにオーリントールが両手を広げる。


 オーリントール 

「ここは俺とイスルギくんが任されよう。足止めしてやるから、お前たちの指揮官を追え。」


「……何を言っているのか、わかっているのか?」

「それがな、俺にもわからん。だがまあ、仕方なかろう。」


  イスルギ  

「我々は可能性の高いものに賭ける。ルドヴィカ様を救うためには――。」

イスルギがアマカドを眸睨する。

幾つもの感情がその内にわだかまるが、それでもイスルギはアマカドに“背を晒すことを選んだ”。


「ぬう……! 大猫!言っておくが、そう長くは持たんぞ!」

 漆黒の兵団を受け止めたオーリントールが、苦悶に表情を歪める。

「お前らの指揮官は、よほどお前らのことを信頼しているように見える。

 置いて行かれたと思ったか?ふん、そうではないことぐらい、お前らならわかっているだろう。」


 そうだ。見捨てて行ったのではない。

 リヴェータは、ガンドゥ、アマカドたちが必ず来ると信じて先へ進んだのだ。


「大猫。お前なら突破できるだろう!ひとつ貸しだ。早く行け!!」



  アマカド  

「ふふ、お前もそうなの? イスルギ。」


  イスルギ  

「……ルドヴィカ様が助かるのなら、たとえ裏切り者のあなたにだって縋る。」


 オーリントール 

「そういうことだ。後は頼むぞ、ハーツ・オブ・クイーン。」



アマカドもガンドゥも、口にしようと思ったことは幾つもあった。

だがグラン・ファランクスの背を見てしまっては、そんなくだらない野暮を言えようはずがない。



「行きましょう、ガンドゥさん。」

ガンドゥは固く決意する。

振り返らず、あの門をぶっ壊して、リヴェータたちの元へ駆けつけると。


「オーリントール、この大猫ガンドゥの首が欲しくば、必ず生きてここを切り抜けろ!」


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story10



 何故ルドヴィカを助けたのか、君は考えたが答えは見つからなかった。

 ただ助けなければいけないと思った。

 救わなければ、絶対に後侮すると思った。

 だから奔った。


 ルドヴィカを必死に抱え上げ、奥へ奥へと進んだ。



 ルドヴィカ 

「……余計なことを。」

 ルドヴィカが荒い呼吸のまま、ぼんやりと呟く。


  ジミー  

「……ルドヴィカ。」


 ルドヴィカ 

「貴様ら、リヴェータの配下だろう……。

……ッ、ちぃ。貴様らは見るからに誘導されている……

兵の動きは明らかにこの城内へ引きこむよう統率されていた……。」


 亜人女性の魔法によって、傷口は確かに塞がりかかっているが、出血止まった――その程度だ。

 君は慌てて、喋らないほうがいいよ、と告げた。


「敵を救うなど、忠臣とは程遠い行為だ……。」

 リヴェータの配下じゃないから、と君は言う。強いて言うのなら……仲間だろうか?

 少し荒っぽく、かなりキツい言動で、だけど弱さを知り、挫けそうな心を切り抜けた、大切な仲間だ……と思う。


「……馬鹿げている。」

 馬鹿げているかもしれない。

 つい今しがたまで争っていたリヴェータの敵を、この状況下で救おうなんて、馬鹿を通り皿して、愚か者も甚だしいほどだ。



「貴様らが旧知の輩でなければ、領地を侵す前に殺していたところだが。」

 やにわに城内で響く低い声。



 イリシオス 

「お前も諮めが甘い。

隊長クラスは削っておけと言ったはずだがな。なァ、ヤーボよ。」


  ヤーボ  

「申し開きのしようもございません。……イリシオス・ゲー。」


 君たちを見下ろしていたのは、ゲーと呼ばれる男だった。

 そしてルドヴィカの片腕と言われていた、あのヤーボも……。



 ルドヴィカ 

「……そういうことか。

そういうことだったのか、ヤーボ……ッ!!」


  ヤーボ  

「裏切りはいつだって心苦しいよ、ルドヴィカ。

苦楽をともにした愛すべき主君を殺さねばならないと思うと、俺は……俺は胸が痛くなる。」



 ゲルデハイラ 

「なるほどのう。要するに、わしらとグラン・ファランクスがここに来たのは偶然じゃなく――。

貴様の差金だったというわけじゃな、ヤーボ。」


 イリシオス 

「理解が早いな、亜人の女よ。」


  ヤーボ  

「借り物ではあるがな……漆黒の兵団を使えば、お前たちはいいように動いてくれた。」

 この城へ誘い込むように動いていたのは、そういうことだったのか……。

「冥界の死神……あの方は、人智を超越している。」


 イリシオス 

「イレの娘は健在か?」

「今ごろ、あの方とやりあっていることでしょう。」

「ふむ。だかまァ、覇眼をここまで集めたのだ。片っ端から暴走させれば、混乱は招けるだろう。

あの死神と殺し合うなど正気の沙汰ではない。」


 ルドヴィカ 

「裏で何かをやっていると泳がせておけば……。」

 ルドヴィカが憎悪に瞳を揺らす。


 ルドヴィカ 

「私の戦いを邪魔した罪は重いぞ。」


  ヤーボ  

「戦闘狂が……その傷で何が出来るッ!」



 イリシオス 

「悪いがな、ロアの娘。貴様はここで死ね。覇眼を暴走させれば用済みだ。

この右眼を使い、イレの当主と、貴様の父君の覇眼を暴走させたのだがな。

あのときは失敗してしまった。はは、カンナブルが漬れたのは笑えただろう?」


「貴様………」

 ルドヴィカは静かに言葉を漏らす。


「ロアの娘よ、余興としては、比較的楽しめたぞ。

闇の気配を感じたことで抱いた、不安、恐怖、焦燥……それらから覇眼が覚醒めたのだろうな。

ヤーボと冥界の死神を使い、漆黒の兵団を待機させていたからな。それも必然であったか。

……ふふ、今度はミツィオラのときと同様、眼を壊してやる。」


「そうか……合点がいったよ、ゲー。」

 君の肩に手を回し立ち上がったルドヴィカが、おぼつかない足取りで一歩前に出た。

 多量の出血と痛みで動けないはずなのに……だが、君の心配をよそにルドヴィカが言う。


「わかった。この眼はくれてやる。」

「ほう。嫌に物分りがいいな。グラン・ファランクスの長も、いよいよ死に場所を決めたか。」

「だが――。」


 傷つこうと、死の淵に立たされようと……。

 再び闘志の、冷たく蒼い焔を瞳に宿す。


「私とあの子の――あの子の決闘を穢した貴様らは殺すッ!!」


「……良い心構えだ。ではやってみろ。できるものならな。」


 ゲーの兵が一斉に群がり、君たちの道を塞ぐ。



 ***




 既に戦うだけの体力を持ち合わせていないのか、肩で息をするルドヴィカ。

 何とか前へと進むが、このままでは立ちゆかなくなる。

 君の魔法だって無限に使えるわけではない。


「……やはり貴様の、いや、貴様の眼は、危険因子となりうるな。」


 没落して、怪物だけがひとり息を潜めるラド。

 和を尊び多くの信頼を集めたスア。

 そして崩壌したカンナブルにおいて、特異な立ち位置を守り続けたゲー。

 ゲルデハイラが教えてくれた情報だ。


 ルドヴィカ 

「……右眼に覇眼を宿したゲーは、

ギンガ・カノンに連なる覇眼の一族において、最も不気味な存在とイレの当主が言っていた。」


  ジミー  

「……あの眼が何なのか、俺たちにもわからずじまいだった。」


  ヤーボ  

「煌眼、凛眼、烈眼、惶眼、昏眼……

ギンガ・カノンに植えつけられた覇眼だが、主の眼はそのどれらとも違う。」


 イリシオス 

「この眼はな。覇眼にしか作用しないのだ。

だがお前たち覇眼持ちを操るにはちょうどいい具合でな。

人間を駒にすることは出来なくとも、強力な眼を持つ者を扱えるのだ。」


  ウィズ  

「それで眼を暴走させて、この場をめちゃくちゃにさせる気にゃ。」


 イリシオス 

「我らゲーは、待っていたのだ。

数十年、数百年のときを、ただ伏して待ち続けていた。」



 ギンガ・カノン――それが何かはわからない。

 だが、その眼を持つことの重みは、何故か君にも理解できた。


 イリシオス 

ギンガ・カノンより受け継いだ、原初の覇眼。それがゲーの眼だ。」


 ルドヴィカ 

「受け継いだなどと……。」


 ゲルデハイラ 

「呪いの眼と言われておるからのう。」


 イリシオス 

「自滅因子だというあの与太か。

ふふ、あんなものを信じているのか、愚か者め。

覇眼が何を意味するのか、身を持って教え込んでやろう。」



 ここにはルドヴィカ、そしてリヴェータがいる。

 少なくともふたつ覇眼があって、それを暴走させたとなると……

 眼を持たない人間にも大きな影響がある。



 イリシオス 

「ギルベインでも利用しようと思ったのだがな。

今にして思えばミツィオラの眼を暴走させたのは、俺の唯一の失態であったか。

人間の心を屈服させる惺眼は、役立つ玩具だったろうに。勿体無いことをしたよ。

まあいい。ロアの娘を押さえつけろ、ヤーボ。その眼に、我が覇眼の力をくれてやる。」


  ヤーボ  

「仰せのままに。」


  ジミー  

「魔法使い……!」


 ほんの一瞬の隙をつき、ヤーボとその兵がルドヴィカヘ接近する。

 そして……



 ルドヴィカ 

「――雑兵風情が、殺すと言っただろうッ!!」



 肩で息をしていたルドヴィカが、力強く剣を振るった。

 それほどまでに彼女は強壮で、息も絶え絶えだったことが嘘のようだ。


「ぐッ、ルドヴィカァ……!?」

 ヤーボが、まるで糸が切れた人形のように頽れ、群がった兵も同様に、一閃で吹き飛ばされてしまった。


 しかし、それがルドヴィカの限界であった。膝をつき、額に汗をにじませる。

 押し寄せるゲーの兵が、彼女を取り囲む。



 普段のルドヴィカなら、ごんなものすぐに跳ね除けただろう。

 だが今は、やられた傷のせいで、動くこともままならない。



「さあ……我が眼を見せてやろう。

凛眼の力を膨れ上がらせて、兵に死の味を覚えさせてやってくれ。」


「……ゲー、貴様……ッ!!」


「ふふ、ははは……楽しくなるぞ。

カンナブルの崩壊など足下にも及ばぬほどに、楽しい楽しい悲鳴が聞けるぞ。」



 ――考えるよりも先に、君はカードを取り出していた。


 どんな関係性があるうと、たとえルドヴィカがリヴェータの敵であろうと、

 この非道を見過ごすわけにはいかなかった。


  ジミー  

「魔法使い、お前………」

 ぶん殴ると言ったリヴェータの、あの熱い闘志が今も君の胸に宿っている。



「そう、いい心がけよ、魔法使い。

アンタも少しはわかってきたじゃない。」



「――どきなさい、三下。人の獲物に何してくれてんのよ。」


 強く煌々と輝くような声音。


 城へと入ってきたリヴェータが、君たちに笑いかけた。

 その横にはガンドゥ、アマカドもいる。


 ふたりは有無を言わさない力で、ルドヴィカから兵を引き離す。



「あの死神から逃れ得るとはな。

まさかとは思うが、冥界の怪物を殺したのか?」


「ふん………」

 リヴェータは、イリシオス・ゲーを無視して、君に向き直った。


「魔法使い、へばってるんじゃないわよ。アンタがそんな体たらくでどうすんの!?

ジミーじゃないんだから根性見せなさい!」

「……いや、俺は。」


「戦いは――まだ始まったばかりじゃない。」



 煌眼の力が――君に再び大きな気力を与える。

 ギルベインの前で植えつけられたソレよりも暖かく強い思いが君の中で膨れ上がる。

 そう思わされる覇眼ではなく、戦って勝とうという自分の意志。


 ――勝とう。そしてここを切り抜けよう。

 君はリヴェータに言った。


「だがここで俺が貴様らを終わらせるのだ。その雑兵どもと共に、な。」



「こんなに戦いがいがある敵なんて久しぶり。心踊るわね。」

「リヴェータの敵はガンドゥたちの敵だ。ここで全部倒すぞ。」



「……殺されるのがオチだ。リヴェータ、貴様に何が出来る?」

「ふん、刺されたアンタに言われたくないわね。」

「兵もなく、力もない貴様に……ッ! 子どものまま傭兵という遊びに耽る貴様に――!」

 ルドヴィカの言葉を待たず、リヴェータは身を翻し、あろうことか彼女をぶん殴った。

「ぐッ……。」


 リヴェータの猛る思いが爆発した。



「何が出来るかなんて知らないわよ!遊びだというならそうなんでしょ。

――だけど遊びだっていいじゃない。ただアンタに追いつきたかっただけ。それでも私は――。

ううん、ハーツ・オブ・クイーンは強くなった。その背中に届いたし、こうしてここに立ってる!

だいたいいうまでもガキ扱いしてんじゃないわよ!身を隠して覇眼に怯えているゲーなんて、すぐにぶっ飛ばしてやるわ!

それにね、ハーツ・オブ・クイーンは万全よ。負ける理由が何一つとしてないわ。ねえ、ジミー?」


 リヴェータの言葉にジミーが頷く。

「ああ……ああ!もちろんだ!」


 仲間を失い、傷だらけになり、気息奄々としようとも、負けるとは思っていない。

 いや……欠けたものがあり、消耗があるからこそ、ハーツ・オブ・クイーンは十全なのだ。

 獰猛でいて凶暴でいて、だけど弱さと負けを知るからこそ、“ここで負けるわけがない”。


「魔法使い。よくやったわ。

あとは、あいつをぶっ飛ばすだけ。

もちろん、まだやれるわよね?」


 君は首肯する。

 この程度のことで退くわけにはいかない。



 あの日――リヴェータが“甘っちょろい”と言ったあの日。

 その時の思いはまだ変わっていないけれど、これ以上話さなくても、思いを伝えることは十分にできると君は知っている。



 さあ、戦おう。

 眼の力も、ハーツ・オブ・クイーンの力も、全てを君の魔法に乗せて――。



 ***


 BOSS イリシオス・ゲー


 ***


「ぐぅッ、貴様らァ……!!」


君の魔法がゲーを捉える。

だが、それでもゲーは倒れない。



「父様が言っていたわ。右眼のゲーと、怪物ラドには気をつけろってね。

ま、それでもあの程度ってことなら、笑い話にしかならないわ。」


「貴様らごときに……覇眼の力で劣るなど……。

この眼を見ろ、リヴェータ……ッ!!」


君は咄唯にリヴェータに、“あの眼は”と伝えようとした。

だが……。


「どうってことないわよ、アンタの眼なんて。」

しっかりとゲーの眼を見据えながら、リヴェータが面倒くさそうに吐き捨てる。


「憎しみと怒りは覇眼の力を増幅させ、暴走に至らしめる……。

さあ、見ろ。カンナブルを崩壊に導き、ルドヴィカ・ロアを利用したこの眼を……ッ!

お前の父を殺し、多くの仲間を失わせた、私の覇眼を――ッ!!」


「ああ、もううるさいわね。どうだっていいのよ、そんなこと。

くだらない……そんなことでわめくんじゃないわよ。」


辟易しているのか、リヴェータが肩を竦める。

それは本心であり、いつだったか、ギルベインに向かって言ってみせた、あの時のリヴェータそのものであった。


「私はね、父親が殺されたとか、カンナブルがなくなったとか、そういうのどうだっていいの。」

指揮杖を振り、リヴェーダは溜息をつく。


「だけど……私の邪魔は許さない。

眼の力がどうだなんて理由で、私の道を……

私たちの道を阻もうなんて馬鹿は許さないッ!」


「このガキが……生まれ持っての力を……

この眼がもたらす支配力を……貴様は……ッ!」


ゲーが全てを口にする直前に、その背後から冥い穴が闘く。

ルドヴィカを突き剥した大鎌が姿を見せ、次いで漆黒の女性が現れた。



「――見つけた。」

ぐるりと鎌を回転させ、ハクアが地に降りる。



 イリシオス 

「ちィッ、馬鹿どもめ。ハクア・デスサイスの侵入を許すなと言っていたのに、この体たらくか。」


 ルドヴィカ 

「――冥界の死神。私を、殺しに来たのか。」


 リヴェータ 

「アンタが黒いのを引き連れてきた奴?それなら話が早いわ。」


ゲーを倒したばかりだというのに、決して心が休まらない。


目の前に立つ強大な威圧感……。

相手にしなければならないと思うだけで、自然と及び腰になってしまう。



「……死神相手じゃ、分が悪い。撤退だ。」

ハクアを見たイリシオスが、即座に撤退命令を出した。


「逃がさないわよ――ッ!!」


「またお前たちを利用するため、必ず戻る。

楽しい悲鳴を聞くためだ。カンナブルよりも、俺を興奮させてくれ、なァ、同郷の者たちよ。」


ただそれだけを言い残して、イリシオスが姿を消す。

もはや万全とは言い難かったが、君は最後の力を振り絞って追いかけようとした。



「追うだけ無駄です。」

大鎌をどこかへしまいこんだ死神が、その表情を崩すことなく囁く。


「待ちなさいよ。あいつもあんたも逃がすとでも思ってんの?」


「ラドからの言伝です。“生き抜け”と。」

ハクアは静かに目を伏せる。


「私を見逃すのか? 貴様、いったい何をしに来た?

 覇眼を――欲していたのだろう?」


「退かねばならない理由が出来ました。」


つい先ほど、ルドヴィカを剌した者とは思えないほど淡白な声。

まるで興味を失ったように、ハクアと呼ばれた女性が口走る。


「根源を討つまで、その覇眼は優先するべきものではなくなりました。

ルドヴィカ・ロア

次にその眼が暴走に近づいたときが、あなたの最期となる。努々忘れぬことです。

理解し、考慮し、容認し、そして力を行使しなさい。

闇は――いつもあなた方の傍にある。」


それだけを残し、ハクアは再び現れた冥い影の中に消えていく。



「キミ……。」


「ああ、もう。疲れた。何だったのよ、あれ。」

君はリヴェータの溜め息を聞き、我に返った。


ゲーを逃してしまった。

ゲーの兵も、漆黒の兵団も、闇の気配も――。

いつの間にか、この城から消え失せていた。



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最終話



 リヴェータ  

「はぁぁ……。」


 再び、リヴェータが盛大な溜息をついた。


 外に出ると、そこにいたはずの漆黒の兵団は消え失せていた。

 何かに飲み込まれたように、ゲーの兵も……。


 いや、これは考えないようにしよう。君はそう思った。



「……これからどうするんだ?」

「考えてないわよ、そんなの。

 勢い余って、あいつのことぶん殴っちゃったし。」

「…………。」

 それを俺に言われても……という表情だ。



「さっきラドと呼ばれてた男はどうしたにゃ?」

「知らない。」

 もしかして、ハクアという漆黒の女性に……。

「有り得ない。“アレ゛か殺されるところなんて、誰も想像できないわよ。」


 ゲルデハイラ 

「ラドは我らの軍勢で挑んでも勝てるかどうか……。」


 君はそれを聞き、ぞっとした。

 確かにあの鎌をいなす動きは、相当な手練ではあったか………


「キミは、これからどうするにゃ?」

 どうすると言われても……と君は言葉を濁す。



「く……。」

ルドヴィカが君を突き飛ばして、剣を支えに立ち上がった。



「邪魔者は消えた……続きだ、リヴェータ。」


「続きがしたいなら傷を癒してからにしなさい。

これでさっきの借りは返したし、それに……。

今のアンタとやりあうつもりはないわ。“弱い”アンタとは、ね。」


「…………。」



「……ふ、ふふ。」

思いがけない笑みを見てしまった。

それはルドヴィカの隣に立つ君にしか見えてなかっただろう。


「そうか……“見逃された”のか、私は……。」

そしてその呟きもまた、君にだけ聞こえるほど微かなものであった。


ほうっと息を吐いたルドヴィカは、痛みも苦しみも乗り越え、あの強壮な面持ちへと戻っていた。



 ルドヴィカ 

「貴様には借りが出来たな、魔法使い。

 ハーツ・オブ・クイーンに嫌気が差したらいつでもグラン・ファランクスに来い。

 貴様の力は利用するに足る。この傷が回復したら、貴様をもらいに来よう。」


 君は苦笑して、これからどうするの?と問う。


「一時帰陣する。態勢を立て直し、我らグラン・ファランクスはゲーの軍、そして漆黒の兵団を追う。」


 まだ戦は終わっていない。

 彼女の眼はそう語っていた。


 そうして君たちに背を向け、イスルギたちの元へ戻るルドヴィカ。




「本当によかったのかのう?」

「ぶん殴った――私の目的は果たした。」


 ……本当にそれだけでよかったの?

 君はリヴェータに尋ねる。


「いいわけないじゃない。」

 リヴェータが静かに、怒りを堪えて言う。



「納得してると思ってんの!? あんなので!? 私が!?

 たった1発が――傷だらけのあいつにしか届かなかったのよ!?

 もう少しだった。あと1歩だった……

 邪魔者が入って出来なくて、死にかけのあいつにしか届かなかった!!

 グラン・ファランクス騎士団の回復を待って、もう1回ぶっ叩く!今度は――。

 …………。

 今度は、そうね。さっきは右の頬を殴ったから、次は左を殴る。

 それで……話をしてみるわ。ね、魔法使い?」


 君は、できるかぎり満面の笑みを浮かべて頷く。

 話でどうにかなるものではない。その言葉もよくわかる。

 だけどきっと……リヴェータとルドヴィカのわだかまりは、解決できると信じている。


「ジミー、馬を寄越しなさい。出来るだけ早くね。」

「……わかった。」


「ハーツ・オブ・クイーンも撤退するわ。

 兵力が戻ったら、グラン・ファランクスを――今度こそ徹底的にボコボコにする!」



「で、魔法使い。アンタはどうすんの?」

 君は逡巡したあとで、小さくかぶりを振った。


「そ。ホント、アンタって神出鬼没――猫のように気ままなのね。

 どう? ウィズちゃんぐらいは置いていってもいいのよ?」


 それは無理だよ、と言った。

「そうにゃ。キミは私がいないと何もできないにゃ。」

 そこまで言われるものでもないけど……と思ったが、口にはしなかった。



「リヴェータ、馬を持ってきた。」

「様をうけなさい、様を。

アンタ、ちょっとわかってないみたいだから、もう1回かき氷でも食べさせてあげるわ。」

「ひっ………」


 困惑を露わに、ジミーが君を見る。

 だが君にはもう何も出来ない。

 かき氷とやらを食べさせてもらえるなら、とりあえずお腹いっぱいもらっておくといい。


 じゃあ、行こう――と君はウィズに伝える。

 君はリヴェータたちとは反対に歩き出した。

「全く……今回も散々な目にあったにゃ。」


「魔法使い。」

 君は振り返り、騎乗のリヴェーダを見上げる。


「なんていうか、その……。」

 リヴェーダは一呼吸置いて、言う。



「助かったわ。ありがとう。

ルドヴィカを助けた時のアンタ――何だかすごくかっこよかったわよ。

じゃあね、魔法使い。どこかで会えたらまた会いましょ。」


 それだけを言い残して、ハーツ・オブ・クイーンは遠くへ去っていった。




「きっとリヴェータなら大丈夫にゃ。今なら話し合いだって出来るはずにゃ。」

 君は、そうだね、と言った。


 視界が白に包まれる。


 君も――ウィズと共に戻る時が訪れたようだ。

 争いだらけのこの場所を離れ、クエス=アリアスヘと。


 優しく包み込むような“闘志の炎”を持って。





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