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【黒ウィズ】イザーク&ミカエラ編【クリスマス 2018】

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開催期間:2018/12/15

クリスマスストーリーズ イザーク&ミカエラ編

目次


Story1 再会

Story2 真意

Story3 姉と弟





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story1 再会



聖王の執務室では、毎朝ペン先が紙の上を滑る心地よい音が響くのが、常であった。

ところがこの日は、せかせかと忙しない足音が部屋を占有していた。


はあ……なんだかドキドキしてきました。ううー、緊張する。

どうしたのですか、クリネア。まるで貴方の待ち人が来るみたいではありませんか。

はっ! すみません。私が緊張しても仕方なかったですね……。

でも、ミカエラ様は待ち遠しくないんですか? その……お会いするのは久々ですよね?

……そうですね。聖王降誕祭も、もう何度目でしょうか。ずいぶん時を重ねた気がします。

何の心境の変化かわかりませんが、今年は式典に参加すると言ってきたのは、少し驚きました。

でも……うれしいですよね?

複雑です。むしろ不安の方が強いです。時を重ねるというのは、そういうことだと思います。

ミカエラ様……。

執務室の扉を叩く音がする。ミカエラが促すと、クリネアがその扉を開けた。

ゴ報告致シマス。先ホド、魔界ノ王ヲ僣称スル輩、イザーク・セラフィムトソノ賊徒共が天界二到着致シマシタ。

如何致シマショウカ?

ミカエラ様のご令弟に対してその物言いは失礼でしょう。

ハ、ハア……シカシ、軍デハ魔族共ヲ敬ウヨウナ発言ハ禁止サレテイマス。

クリネア、私は気にしていません。では、その魔界の王を僣称する輩を客人として迎えなさい。

今日は降誕祭です。戦いも憎しみも罪も、何もかもに赦しが与えられる日です。魔族といえどです。

案内しなさい。挨拶くらいは必要でしょう。魔族といえど。

ペンを置き、立ち上がるミカエラを見て、クリネアは慌てて、天界兵を急きたてる。

は、はい! ほら、早く案内してください。ミカエラ様がお会いになられますよ!

ハ、ハア……。


 ***


門ひとつ開けるのに、規則が必要か。つくづく煩わしい場所だな、天界と言うのは。

引き連れてきた軍勢と共に、イザークたちは長々と門が開くのを待っていた。

そのために、術兵から術兵長へ、さらに天使長。

最終的には、聖王本人まで確認に向かっていたとは彼らもさすがに想像していなかった。

門が開くまでに、飯食って昼寝して、また飯食って、歯あ磨いて、寝るぜ、こりゃ。

よくまあ、こんなところで暮らしていられたな、イザーク。

同感だ。……ん?

ようやく、重たい門が音を立てて開き始めた。ゆっくりと隙間から見える懐かしい光景が広がっていく。

そして、懐かしい顔もそこにあった。

久しぶりですね、イザーク。いまは魔王イザークと呼ぶべきでしょうか?

残念ながら、いまだに魔界の全てを手に入れていない。道半ばの魔王だ。久しぶりだ、聖王ミカエラ(・・・・・・)

降誕祭への参加を許可して頂き、感謝する。

全ての争いを無くすことが降誕祭の趣旨です。魔界の者であっても、歓迎致します。

儀礼的な挨拶を重ねるふたりの間に、クリネアが慎ましさを示しつつ入る。

私はミカエラ様にお仕えしているクリネア・マキアと申します。

おふたりともつもるお話もおありだと思いますので、お部屋を用意しました。ご案内致します。

必要ない。

へ?

我々は降誕祭の参加のために来ただけだ。それ以外の用はない。式典を楽しみにしている。

連れは主に酒宴の方を楽しみにしている。がっかりさせないでやってくれ。

と、言って、イザークは天使たちの横を通り過ぎていく。

天界のメシは初めてだから、期待してるぜ。

肉の焼き方はレアだ。たっぷりと血を滴らせてくれ。

クィントゥスとエストラがそれに続いた。

……。

ミ、ミカエラ様……。

しばらく進んだところで、イザークが振り返る。

我々が滞在する場所はどこだ? 野宿か牢か? それとも立派な屋敷が用意されているのか?

案内がないなら、勝手に使うぞ。

い、いますぐご案内致します!!

聖王の城をぞろぞろと魔界の兵が闘歩する様は異様であった。

それを見て、天界に生を受けた者なら眉をひそめぬわけがなかった。

おい。魔界の賊どもを城の中にいれるな。一体誰の差し金だ。

ソ、ソレガ……ミカエラ様ノゴ令弟ダト……。

イザークか……。そうか。それなら構わない。

ハ? ヨロシイノデスカ?

ミカエラ様が許したのだろう? 仕方がない。何が起こってもな。

おやおや、珍しく寛容ですね、マクシエル。らしくないですよ。

マクシエルの背中に声がかかった。

アクサナ……。これは軍の問題だ。退役したあなたには関係ないだろう。

ずいぶん……偉そうに言うじゃねえか。泣きべそかいていたガキがよ。

……貴様。いまの私にもそんな口を利いていられると思うなよ。

おっと。喧嘩をしに来たわけじゃねえ。忠告だ。魔族よりも注視すべき奴らがいるんじゃねえか?

それか……。もちろん注視していた。だが、魔族どもが閲入してきたせいで、それも難しくなってしまった。

残念ながらミカエラ様ご本人の判断だ。それは尊重しなければなるまい。

なるほど。……反吐が出そうだな。

けっこう。それならどこかへ行って、吐いてきてくれ。


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story



式典は滞りなく進み、夜には盛大な晩餐が行われた。

クリネアの配慮からミカエラの隣席にはイザークが配置されていた。

しかし、彼らの交わす会話は聖王と魔界の覇権を狙う者という役割から外れることはなかった。


「魔界は騒乱が続くと聞きます。ずいぶんと長いですね。」

「ご心配なく。ようやく戦いを終わらせる目処が立ったところだ。天界は……大きな混乱もないようだな。」

「そう見えますか?」

「表面上はな。しかし、マクシエルを登用しているとは思わなかった。あれは良くない噂があった。」

「ですが有能な人材です。魔界にとっては嫌な相手になるでしょうね。」

「魔族を心の底から蔑んでいる。そういう奴は、たしかに厄介だ。しかし、内側から蝕む毒でもある。」

晩餐の席から興奮の声が上がった。

中央に剣を握った天使が躍り出たのである。天使は剣を振り、体を回転させ、踊り始める。

振るう剣、体の回転の速度は踊りに合わせて上がっていく。

「珍しい余興だな。」

「私もこういう催しがあるとは知りませんでした。」

見ている者は皆、喝采を上げた。

来賓の歓声に飲み込まれ、見逃すところだったが、イザークはその剣の鍔が緩んでいることに気づいた。

振るうたびに緩みが拡大していく。やがてそれはあらぬ方へと刃を飛ばすことになるだろう。

問題は、舞っている天使の力量なら、敵対する魔族の王イザークの胸へと飛ばすのも不可能ではないことだった。

「クィントゥス、あれを何とかしろ。」

「何の話だ?」

ご馳走を頬張るクィントゥスは顔を上げて、イザークを見た。

イザークの視線が目の前の天使の舞に向かっているをの確かめると、クィントゥスは快男児らしい笑いを浮かべた。

「なんだよ。殺気がプンプンしてるじゃねえか。」

「貴公、こういう席での振る舞い方は心得ているだろう?」

「任せとけって。祭りと喧嘩は魔界の華だぜ!」

と、言い捨て、クィントゥスは卓の上に飛び乗った。並み居る天使も踊る天使もポカンと卓上の男を見上げた。

「おいおい。ここは天界だぞ。恥ずかしい奴だな。」

呆れるエストラを気にも留めず、クィントゥスが続けた。

「おい! 踊りなら俺も得意だ。魔界流のヤツを見せてやるぜ!」

卓から飛び降り、ずかずかと歩いて来るクィントゥスに対し応じるように天使は舞を始めた。

振るう剣が風を切り裂き、唸りを上げる。にもかかわらず、クィントゥスは近づいて来る。

この男、馬鹿なのか?

踊る天使はそう思いつつも、恐れを抱き始めていた。

そして切っ先が届く間合いにクィントゥスが入った瞬間、天使は恐れがら彼の額に向けて剣を振り下ろした。

「おらあっ!!!」

砕けた。

のは剣だった。正確にクィントゥスの頭に振り下ろされた剣は、飴細工の如くもろく砕け散った。

「あ……あ……。」

「天界の剣ってのはヤワなんだな。」

頭をさすりながら、クィントゥスは額から垂れる血をなめとる。

その傷はそうしているうちに消えてなくなっていた。

彼の吸血鬼の血が起こした奇跡である。

「魔界ではこういう催しが行われるのですか?」

「魔界のごく一部の地域、主にあの男がいる所でのみ行われる、変わった催しだ。」

会場はざわめきと同時に異様な緊張感が漂い始めていた。

踊り手が腰を抜かしたのを見て、他の天使たちが、殺気混じりの目をして宴席に現れ始めたのだ。

その気配を吹き飛ばすような声が響き渡る。

「面白れえじゃねえかよ、オメエ! どうだ、今度はこのアクサナ様と飲み比べってのは!」

「へえ。喧嘩は禁止だって話だし、そっちで勝負ってわけだな。」

「そうだ。まずは一杯目だな。」

ふたりがなみなみと注がれたジョッキを手に取ると、先ほどまでの緊張感もどこかへ消え、客も天使と魔族の対決に声援を送る。

「アクサナか……。天界ではああいう催しが行われるようになったのか?」

「あれは天界のごく一部の地域、主にアクサナがいる所でのみ行われるものです。」

「はは。そういう地域はどこにでもあるものだ。」

その後――

杯を重ねた数が250を超えた頃、クィントゥスがいままで飲んだ酒と食ったご馳走を不本意ながら食卓に返却した。

このまさかの行為に激怒したクリネアがクィントゥスを殴りつけたところで、この夜、最大の歓声が起こった。

後にも先にもクリネアが激怒したのは、この時をおいて他になかった。



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story2 真意





酒宴も終わり、イザークたちは滞在する館のサロンにいた。

いてて……あの天使、意外といいパンチ持ってやがったぜ……。

本当に女子供に弱いんだな。まあ、いい。お前は顔を洗って、服を着替えて来い。

それにしてもよお、イザーク。宴会は終わったんだ、急ごうぜ。アルドベリクだけに楽しみを取られるのは嫌だぜ。

そうだな。少しはあいつも我々のことが待ち遠しくなっている頃だろう。


イザークたちが天界で降誕祭に参加している最中にも、魔界ではイザークたちと旧主派の貴族たちの戦いは続いていた。

特に、敵対する8大貴族のひとり、血塗れニコラウスことニコラウス・ゴリアルとの戦闘が激化していた。

「難攻不落と呼ばれるだけのことはあるな。」

「四方を山に囲まれるゴリアル卿の要塞に向かうには、狭い峡谷の一本道を突破するしかありません。

しかし、両側の峡谷には敵が控えていますので、通ろうとしても、雨あられのごとく槍や矢が降って来ます。」

「バカ正直に攻めても、被害が増えるだけだ。やはり奴らの背後に回り、兵姑線を断つしかない。」

「無論、ゴリアル卿はそれも想定しているようです。前面からけん制し、我々の動きを封じています。」

「伏兵の可能性もあるので、容易に迂回も出来ん。このままでは兵姑線が間延びしている俺たちの方が不利だ。」

「打つ手なし、ですね。」

「ああ。野蛮人のニコラウスならそう考えているだろうな。

だが……まさか魔界の外から兵が降ってくるとは思わんだろう。」


 ***


エストラ、全軍に行動の指示を送れ。これより全速力で天界を進み、ニコラウスの要塞の背後に降下する。

作戦はこの一晩のうちに終わらせるぞ。速度こそがこの作戦の肝だ。

それくらい理解している。しかし勝利のために姉すら利用するとは、中々魔族らしくなったじゃないか、イザーク。

日々努力している。

ぬかせ。

よっしゃ! こっからが本番だぜ。いいか、要塞に乗り込んだら、ニコラウスと一騎打ちさせろよ。

そのために、ここまで来てんだからな。

クィントゥス。

なんだ?

顔は洗ってきたか?

いや。

洗って来い!

魔族たちが、いざ出発とばかりに気持ちを高めていたら、サロンに来訪者が現れた。

イザーク坊ちゃん。お久しぶりです。

アクサナか……それと、クリネアだったか?

はい……。

何の用だ?

ご相談したいことがあります。

ミカエラ様のことです。

なに?



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story



今夜の宴席で、不穏な動きがあったのはご存知ですよね。

もちろんだ。命を狙われたからな。

あれは、貴方を狙ったのではありません。刺客が狙っていたのは、ミカエラ様です。

……不思議な話だな。詳しく説明してくれ。

待て。話を聞く必要はない。我々は色々と忙しい。先を急ぐ必要もある。そちらのことに興味はない。

イザーク、貴様も姉の話であろうが、聞く耳を持つな。お前はもう魔王のはずだ。

俺もエストラに賛成だ。急がないとニコラウスが逃げちまう。

御用がおありなのは承知しております。ですが……。

くどいぞ、小娘。

怒気の混じった声がぐわんっと部屋に響き渡ると、静けさが訪れた。それを、イザークが破る。

エストラ。話を聞くだけだ。すぐに終わる。

聞くだけならな。

納得のいかない表情のまま、エストラがそっぽを向くと、イザークはアクサナたちに話すように促した。

続けろ。

私が説明しましょう。実は、私の古い友人の中に軍の内部に精通している者がいます。その友人が言いました。

軍の中に、ミカエラ様に反旗を翻そうとする者がいると。

マクシエルか? あまり評判の良くない人物だ。

あれは違います。あれは融通が利かないだけです。病的なほどに。天界のことにしか目を向けていない。

では、一体誰が、聖王を害そうというのだ?

貴方ですよ。

俺だと?

正確には貴方が残した者です。ミカエラ様が聖王の座に就いた後、少なからず不満を漏らす者がいたのはご存知でしょう?

耳の端には聞こえてきたな。下らん戯れ言だ。

そうした影屈した言葉も貴方がいなくなったことで、はけ口を失った。それがミカエラ様への私怨になりかわった。

それを俺のせいだというのか? わざわざ聖王の座をくれてやったんだ。それくらいはそっちで処理してくれ。

そして今日、貴方が来た。それを見て、奴らはどう思うでしょうか? イザーク様が来たその日に、ミカエラ様を……。

そう考えるのが妥当では?

傍らのクリネアが口を真っ直ぐに結んだのを見て、イザークは話の終わりを悟った。

どう思う?

答える必要があるか? 馬鹿馬鹿しい。天界の事情など知るか。

クィントゥスはどう思う?

あ? 途中から何の話してんのか全然わかんなかったけど、そいつらがお前が悪いって言うんなら、お前が悪いんじゃねえか?

バカめ。

おい。いまなんつった……。

バカにバカと言ったんだ、何が悪いか!? それよりお前、顔は洗ってきたのか!?

洗ってねえよ、バカやろう! 忘れてた。洗ってくる。

クィントゥスがボウルに入った水でバシャバシャと洗う音を背中で聞くと、エストラは話を戻した。

イザーク、お前はもう魔王だ。魔王として振る舞え。

そうだな……。エストラ、出立の準備を進めろ。

当然だ。

……イザーク様。

ただし、少数の手勢と共に俺は残る。

イザーク!! そんなに姉を救いたいか! ならば一生天界に残っていろ! 愚か者め!

勘違いするな。俺の威を借りて下らんことを行っている奴らが気に食わないだけだ。そいつらを片付ける。

兵の大部分はお前に託す。我々の目的には支障はないはずだ。

それだけが理由とは思えんな。

気に食わないものは気に食わない。それ以外に理由はないし、他の理由も必要はない。

気に食わないものを片付ける。充分、魔界らしいやり方だと思うが?

ぬかせ。無責任な男だ。

言い捨て、エストラは出発の準備を進めた。そこヘクィントゥスが帰ってくる。

あー、さっばりした。あ、なんだ? もう行くのか?

ああ、そうだ。だがお前はいらんぞ。お前の指揮能力は子供以下だ。何の役にも立たん。

ここに残って、イザークと遊んでいろ。

扉が激しく閉まり、思わずクリネアが体を屈める。

何だよ、イザーク。何怒らせてんだよ?

あれが怒っていると思うなら、女の扱いも下手だな、貴公は。一体何が得意なんだ?

あ? 暴れるのは得意だぜ。

悪くない。それなら、そうすることにしよう。クリネア、案内しろ。

お待ちかねのイザークが来てやったと奴らに紹介してくれ。

は、はい!

イザーク様は魔界に行っても何も変わっていませんね。相変わらずのやんちゃ小僧です。

教師が悪いのだろうな。アクサナ、お前は来ないのか? 暴れるのは嫌いじゃないだろ?

私は遠慮します。教え子の成長を肴に、少し飲み直したいんでね。

冗談は止せ、とばかりに手を払い、イザークたちは部屋を出た。




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story3 姉と弟



こちらです……。

そこは屯所のひとつであった。扉の前に立つクリネアに離れていろ、と指示を送り、イザークが扉を押した。

む?

何だよ、いねえじゃねえか。

ここにいないということは、考えられることはひとつだ。

もう、計画を実行している……!

姉さんはいまどこにいる!!


 ***


晩餐の後でも執務室に帰り、仕事を続ける。それがミカエラにとっての日常であった。

ペンが滑る音に紛れて、扉の向こうから靴音が聞こえる。

「……?」

靴音は徐々に近づいて来る。その響きから激しく急いたものだとわかる。

「まさか……。」

ミカエラは傍らの短剣を手に取り、扉を睨みつける。

靴音が扉の前で止まる。一拍おいて、扉が激しく押し開けられた。

無事か、姉さん!

閲入したイザークが見たのは、考えていた光景とまるで違ったものだった。

ええ、私は無事ですよ。

ミ、ミカエラ様っ! あれ? 何事もない……? どうして? 賊は?

賊? クリネア、貴方、アクサナから何も聞いていないのですか?

へ? ミカエラ様を狙う賊がいて、今日にも行動を起こすと聞いたので、こうしてイザーク様と……。

では、その賊を、私か囮となってこの部屋で一網打尽にするという計画は教えられましたか?

そ、そんなことは……私は……。

どうやら、貴方も、イザークもアクサナにまんまと騙されたようですね。

おい、さっきからあっちこっち行くのはいいけど、いつ暴れられるんだよ?

俺に聞くな。

残念ながら、その機会はないと思いますよ。荒っぽいことは先ほどすべて終わりました。


 ***



鎖に繋がれながら。ぞろぞろと歩く兵士たちを見ながら、アクサナが言う。

「上手くいったじゃねえか。」

「私の兵が上手くやった。それだけだ。」

「自ら囮を買って出たミカエラ様の胆力が重要だと思うけどな。」

「……それもある。だが、アクサナ、約束は守ってもらうぞ。

これ以後はこそこそと軍のやることに口を挟むな。その条件でお前の計画に乗ってやったんだ。」

「軍のやること? お前のやることだろう。いいさ、もうミカエラ様に教師は必要なさそうだからな。」

「では、私はミカエラ様に報告する。」

「待て待て、まだ俺の計画は終わってねえんだ。お前が辛気臭い顔を見せて台無しにすんじゃねえよ。」

と、アクサナはマクシエルの肩に手を回して引き留める。

「たまには一杯やろうぜ。」


 ***


「貴方も騙されてそのまま部屋に帰るのは、胸のつかえがとれないでしょう。

少し話でもしましょう、イザーク。」

ミカエラの提案に、イザークは意外なほどすんなりと従った。

弟の性格を知る彼女ならではの間があったのだろう。

イザークが部屋の椅子に腰を下ろしたのを見て、クリネアは慌てて、それに続こうとするクィントゥスの袖を引いた。

「お、おいっ? なんだよ。」

「私たちは向こうに行きますよ!」

「なんでだよ。」

「どうしてもです!」

強引につっぱねることも出来ず、頭を掻きながらクィントゥスが部屋から押し出される。

最後に一礼してクリネアが出て行くと、部屋が静かになった。静けさがそれを埋めるための声を促した。

「何か話でも?」

もたれかかった肘掛けで頬杖をついて、イザークが言った。視線はどこでもない場所に向けられている。

ふとミカエラが微笑む。その光景にかつての弟の姿を見たからだ。

「貴方は……昔と何も変わっていませんね。成長していないといった方が正しいかも。」

「人を騙すのが上手くなることを成長と呼ぶのか? 親父が聞いたら悲しみそうだ。」

「その口の利き方、貴方らしいわ。とても懐かしい。」

長くふたりを隔てた時を超え、この狭い一室にたったふたりでいる。

数奇な運命が運んだこの瞬間に、ふたりの距離はより親密になる。

懐かしいまだ何者でもなかった頃のように。

ただの似てない双子だった頃に。

「囮になったのか?」

「ええ。そうする必要があったから。」

「姉さんまで危ない真似をする必要はないだろう。」

「認められる王になるためには、聖王が率先して戦わなきゃ。貴方も同じでしょ?」

「俺と同じというのは、無鉄砲と言うんだよ。いまも兵を連れずに天界をうろついている。誉められたことじゃない。」

「昔もそうでしたね。貴方はひとりで出て行った。全然成長してないわね。

でも、いまは楽しそうだったわ。いまはひとりじゃなかった。良い友に出会えたのね。」

「楽しい? 良い友かどうかは別として、まあ、楽しいかもしれないな。」

「今日見たように、私も良き人々と一緒にいる。」

「よかったよ。」

「ええ、私もよかったわ。」

その言葉を交わした時に、夜を使い切ったことが、ふたりにはわかった。

イザークは静かに立ち上がる。

「もう行く。次会う時は戦場かも知れないな、聖王ミカエラ。」

「お互い、それまで生きていることを願いましょう、魔王イザーク。」

扉が音を立てて、イザークの背中を覆い隠すと、再び姉弟は天界と魔界へと別れた。

ほんのわずかな姉弟の邂逅だった。



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story



降誕祭の翌朝だろうと、聖王の執務室では、毎朝ペン先が紙の上を滑る心地よい音が響く。

いつも通りミカエラの傍らで紙葉の束を抱えるクリネアが言いにくそうに切り出した。

「ミカエラ様……。イザーク様がご出立されるそうですよ。」

「そうらしいですね。何事もなく送り出すようお願いします。」

視線を上げずに答えるミカエラに、クリネアはさらに切り出す。今度はほとんど呟くようにである。

「お見送りされなくてもいいのですか?」

「私がですか?」

ペンの音が止んだ。

「必要はありません。かつては魔界まで見送りにいったのですよ。少しは楽をさせてください。」

最後に少し微笑んで、再びペン先が滑る音が始まった。

「それにいつまでも姉に見送られたら、弟も恥ずかしがるでしょう。」


 ***


駐屯地にイザーク到着の報が届いた。

それがアルドベリクの耳に入る頃には、イザークが駐屯地の真ん中を兵が作る壁を穿ちながら進んでいた。

「首尾は?」

「お前たちが遅かったので、すべて片付けさせてもらった。」

「おい、ニコラウスは生きてんだろうな? 俺がぶっとばすって決まってたんだぜ。」

「ニコラウスなら奴の部下が降伏の手土産に持ってきてくれた。」

「おし。さっそく勝負と行くか!」

「残念ながらそれは無理ですよ。彼らはニコラウスの首から上しか持ってこなかったんです。」

「は!? ……ったく、つまんねえ土産よこしやがって。」


「そうか。皆、俺無しでよくやった。」

「おい。お前の部下になった覚えはないぞ。お前に誉められてもうれしくない。」

「俺も部下にした覚えはない。戦友だろう? 違うのか?」

「いまのところは、それでいい。」

「同感だ。」



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