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【白猫】蒼き炎のテンペスト Story2

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最終更新者:にゃん


目次


Story8 勝利に酔わず

Story9 激震

Story10 惨劇と暗躍

Story11 別の形で……

Story12 引けぬ想い

Story13 リアクションタイム

Story14 決断の時



登場人物


魔幻獣の巫覡
エマ・イングラム

ロイド・イングラム

グラハム・オウガスタ
ウルド・第三公女
アンジェラ・ベイリアル
ウルド・公爵
デクスター・ベイリアル
ウルド・兵士
ザーラント
島長
エイブラム
島民
グンナル





story8 勝利に酔わず


囲みを抜けたぞ! ザーラント! 兵の半分を連れて左翼に展開し、私の合図で転進せよ!!

転進!? 逃げないんですかい?

ウルドの兵が畜生風情に遅れをとるものか! 残りは私とともに右翼へ回れ!!

いや、包囲殲滅するにしてもこっちは小勢です! 囲みきれませんぜ!!

この先の広場で突出してきた一部を囲ってつぶせばよい! それを繰り返してれば瓦解する!

突出したー部って……こんな森のなかで見えるんすか?

考えればわかるだけだ!! 今後、そのような問いをしたら閑職に飛ばすぞ!

申し訳ございません! 行くぞ、てめえら!!

「「「おおおおおっ!!」」」


!!


ハッハッハ!囲み返してやったぞ!

全軍転進! 畜生どもに蒼炎騎士の刃をくれてやれ!!

「「「うおおおおおっ!!」」」


…………

……



残りは逃げたか……まさか、記念すべき初陣が獣相手とはな……

これはこれは、鮮やかな指揮振りでしたな。

しぶとい男だ。生きておったか……

護衛の者たちが優秀でしたので。

キャトラたちも無事であったか。なによりだ。

姫様、どうしますか? 負傷者も出ていますが……損失覚悟で進みますかい?

それともブルーフレアで森ごと目標を焼きますか?

ブルーフレアってなんなの? ロイド、知ってる?

ウルドでしか作られない焼夷弾だ。着火用のルーンを使い、特殊な液体に火をつける。すると、その炎は周囲のソウルを喰らいながら延焼していくのだ。

厄介なことに水では鎮火できず、場合によっては大爆発を起こす。ウルドが蒼炎の島と呼ばれる所以だ。

……森を焼くのはダメだ。島民に敵意を抱かせるし、損失が大きすぎる。

とはいえ、これ以上の被害がでれば私はエマとやらを許すわけにはいかなくなるな。穏便にすませたい。

しかし、脅し諭そうにも居場所が知れませんぜ。

では、説得は私が請けおいましょう。仮にもエマは私の姪。叔父を殺しはしないでしょう。

…………

……わかった。貴様に任せる。




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story9 激震



グラハムさん、手伝ってくれて、ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?

気にしないでいい。エマには世話になっているからね。

それにウルドとは昔、剣を交えたことがあってなあ。奴らに手を貸す理由もないよ。

ありがとうございます。本当に……

自分の大切なものを守りたい気持ちはワシにもよくわかる。それこそ騎士の魂だからね。

……ありがとうございます。


やはり、ここにいたか、エマ。

なんの用ですか?

エマ、実は……


そこから先は私が話そう。

ついてきていたのか!?

姫様ではございませぬか!! 近衛隊長のグラハムです! グラハム・オウガスタです!

グラハム……貴殿は、あのガリウスの護剣か? 政変で死んだとばかり……

こうしてピンピンしておりますぞ。ああ、姫様、お美しくなられましたなぁ……

いや、待て。ガリウス家は数年前に一族まとめて……

この人は姫様じゃないよ! グラハムさん!!

あ、ああ……そうだ。私はアンジェラ・ベイリアル。ガリウスの姫ではない。

姫様じゃないのか……そうか……それは、すみませんでした……

みんなも、あなたたちが森にいることを望んでいません。早く帰ってください!

待て、エマとやら、私は話し合いに来た。

こっちには話すことなんてなにもありません! 私は幻獣様の巫覡! 幻獣様を守るのが使命です!

落ち着け。私が死んだり、刻限までに隊へ戻らなければ、島民が何人か死ぬ。

だが、それは私の望む方法ではない。話し合わないか?

いきなり押し寄せて、脅して、強引に踏み込んできた人たちと話すことなんてありません!

幻獣様は兵器なんかじゃない! 帰ってくださいっ!!

なら、聞くが、兵器じゃなければ、なんだと言うのだ?

……私の友達です。

お前が魔幻獣のそばにいたいと言うのなら、私が便宜を図ろう。私の侍従としてとりたててもいい。

……友達が人を殺す光景を近くで見ろってことですか?

本気のようだな……わかった。友を守りたいというお前の気持ちは理解したよ。

交渉が不可能なことも把握した。ならば、私はお前と戦う。

好きになさってください。私も全力で行きます。もう手加減はしません。

…………

ちょっと二人とも……ロイド、止めなさ……って、ロイドがいないわ!

ソウルが……



もしかしてアレ、動いてるの!?

<魔幻獣を覆っていた岩や土が剥がれ落ちてきた。>

ぎにゃー!




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story10 惨劇と暗躍



ぎにゃー!

キャトラ、大丈夫!?

!<なにかが降ってきた――>

このソウルは……<闇>の――



みんなの様子がおかしい……?

<※十●■!▲%?…………>

(クラービス テネブラリウス クアドゥルテス レディウス ジュペーレ )

鎮まれ!!

私の言葉が聞こえてないの!?

!!

あなた……どうして私を……

私にもわからんっ! おい、魔獣の様子が変だぞ! その上、数が多い!


『――』


逃げて!


……

…………



…………

……


アイリス、大丈夫!?

ええ、どうにか……主人公は?

「」

二人は!?

わからない。爆発に巻き込まれて……

!<魔幻獣が停まっている――>

「ひぃ!」

今の、ロイドさんの声!!



誰か助けてくれぇぇ!


大丈夫!?

なにをしていたんだ! きちんと守ってくれないと困る!

アンタが勝手にいなくなったんでしょーが!!

必要があったからだ。これで魔幻獣の恐ろしさはわかっただろ?

まさか……

アンタ、なにかしたの?

私も巫覡の血筋だ。先ほどのように一時的な起動なら可能なんだよ。

これでアンジェラやエマも魔幻獣が危険なものだと理解してくれただろう。

アンタ、そんなことのために動かしたって言うの?

話しても無駄なら直接見せるしかあるまい?

そのせいでエマとアンジェラが爆発に巻き込まれたのよ!

それは運が悪かったな。だが、こうでもしなければ理解してもらえなかった。

あなた、本気で言ってるんですか?

ああ、本気だとも。本気さ。冗談でこんなことはしない。

君は私が狂ってると思ってるんだろ? ああ、たしかに私は狂っている。

だが、逆に問おうじゃないか、アイリス。

世界が滅ぶことを知ってる人間が果たして正気のままでいられるものなのか?

避けられぬ滅びを声高々に訴えても! 誰も信じてはくれない! だが、その時は必ず来るのだ!

それを止めようと! 一人で戦う私に正気でいろと!? 当事者でない君には理解できないだろう!

四魔幻獣は闇の王が作った兵器だ! これが彼奴のものになり、すべて起動したらどうなると思う!

すべて終わりだ。ご破算だ! それがどうしてわからない!!

…………

私を責めたいのなら、好きに責めたまえ。罰を受けろと言うのなら、あまんじて受け入れよう。

それで全ての滅びを回避できるのなら! この命だってくれてやる!

私は目的のためなら、なんだってする。そう、なんだってするのだ!!

…………

……でも、やり方はまちがってるわ。

手段を選んでいる暇はないのだ。闇の勢力より早く四魔幻獣を見つけ、破壊しなければならない。

さて、どうするかね? 私の護衛をやめるかね? 引き止めはしない。

続けます。私たちも魔幻獣は破壊しなければならないと思うから……

でも、あなたのやり方がまちがってると思った時は止めます。

好きにしたまえ。私も好きにやる。




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story11 別の形で……



「ここは……」

「気がつきましたか?」

「そうか……そういえば、お前に庇われたな……助かったよ、ありがとう。」

「借りを返しただけです。」

「ハハッ、お前は面白い女だな。怪我までして敵を助けるなど行動が読めん。」

「……そうですね。自分でもバカだと思います。」

「足を見せてみろ。骨は……大丈夫なようだな。」

「治癒魔法、使えるんですね。」

「この程度のルーン、貴族であれば用立てられるさ。ほら、肩を貸す。」

「……放っておいてください。私は一人で平気です。」

「お前がよくても、私は困る。

そうだな……助け合うためには相互理解が必要だ。お互いの身の上話でもしようじゃないか。」

「あなたに話すことなんて……」

「私の一日は自分の死を思うことからはじまる。

私が生まれた嵐の国は常に戦乱状態。当然、戦、戦、戦の連続だ。

戦上手だった父が死に、暗愚な長兄と聡明な次兄が家督をめぐって争った。

その際、私は長兄に暗殺されかかってな、次兄のデクスターに助けられた。

次兄は長兄に家督を譲ると言って白旗をあげた。そして相続の儀式が終わり、祝宴の場で次兄は敵をまとめて毒殺した。

自分も毒のはいった酒を飲んで、長兄を油断させてな。いや、それだけじゃない。

その祝宴の場には、私の姉二人とその夫、次兄の妻、息子もいた。皆殺しだ。

参加者で生き残ったのは毒消しを飲んだ次兄だけ。兄上自身、生死の境をさまよったがな。」

「ひどい……」

「人を欺くために家族さえ殺す。そんな兄上のもとにいれば、いつ自分が殺されるかわかったものじゃない。

だから毎朝、目覚めた瞬間、頭のなかで自分の死に様を想定する。無様な終わりは御免だ。」

「嫌なら反抗したらいいんですよ。そんなの。」

「……兄上に私心はないんだ。常に民のことを第一に考えている。非情に映るが賢君だよ。」

「お兄さんのこと、好きなんですか?」

「好きとは言い切れないな。だが、あの方の行動はともかく、ただ民の嘆きを滅らすというその信念は美しいのだ、本当に……」

「……私にはわかりません。」

「ハッハッハ! それでかまわんさ。兄上は嫌われ者だからな。

だが、最後の身内として、私だけは兄上の罪を許してやらねばならん。

この任務を失敗すれば私は兄上に殺されるだろう。それでは、あの人を許してやれる者がいなくなってしまう。

だから、私は死ぬわけにはいかんのだ。これが私の動機と目的だよ。理解してくれたか?」

「……はい、理解はしました。受け入れるかどうかは別ですけど。」

「それでいい。私もお前を理解したい。話してくれないか?」

「…………

……私が生まれる前に、幻獣様が島を焼いたそうです。

たくさんの人が亡くなって……全部、幻獣様の巫覡である母さんのせいにされました。

その時、母さんをかばってくれたのが父さんです。父さんと母さんは人目を避けるように森の奥で暮らしていました。

物心ついた時から、島の人たちに避けられてることは気づいていました。

会話の相手は父さんと母さんだけ。でも、流行り病で二人とも亡くなって、私は本当に一人になって……

……話し相手もいなくなって、気づけば幻獣様の前でいろいろ話しかけるようになってました。

寂しさで押しつぶされそうになった時、幻獣様だけが私のぞばにいてくれたんです。

最初は私が一方的に話してるだけでした。一日のできごととか。昔の思い出とか。そんなある日、はじめて幻獣様の声が聞こえたんです。

その時からです。森の獣にも私の声が届くようになりました。一人になった私に幻獣様が。この力をくれたんです。

それから、寂しくなくなりました。島の人とも少しずつ話せるようになって……

今でも腫れ物扱いは変わらないけど、もう寂しくありません。

私にとって幻獣様は。とても大切な友達なんです。救われた恩義があるんです。

だから、守ります。幻獣様の本質がなんであれ、私には関係ありません。」

「死ぬことになるとしてもか?」

「命より大切なものってあるはずです。毎日、死を思っているのはそれを守るためなんじゃないですか?」

「ハハッたしかにそのとおりだ。お前と私はよく似ている! 気に入った! 気に入ったぞ!

エマ、下心も策謀もなく、一人の人間として純粋な願いがある。

なあ、私の友になってくれないか?」

「い、いきなり変なこと言わないでください! 私たち、戦うんですよ。」

「ああ、だからだよ。今、この瞬間はお互いの立場など関係ないだろ?」

「それは、まあ、そうですけど……」

「実は私にも友と呼べる者はいないんだ。こういう性格だからな。なかなか話が合わん。」

「本当に変な人ですね……」

「お前だって充分に変わってる。いわば似た者同士だな。どうだ? 友になってくれないか?」

「……別にいいですけど。ただ、その、一つだけお願いがあります。

島の人たちにひどいことをしないでください。アンジェラ、あなたの敵は私だけです。」

「……なぜ、島民を庇う? お前を傷つけてきた者たちだろ?」

「私が傷つけられたからって、あの人たちが傷ついていい理由にはなりません。」

「傷つけるのはお前ではなく、私だ。」

「尚更ですよ、アンジェラ。私は自分の友達に、ひどいことをしてほしくないんです。」

「ハッハッハ! 実にお前らしい! わかった! 友として誓おう! 私の敵はお前だけだ。島の者に被害は出さん!」

「よろしくお願いします。……というのも、なんか変ですけど。」

「……言っても詮無いことではあるが、お前とは別の形で出会いたかったよ、エマ。」




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story12 引けぬ想い



アンジェラとエマ、どこにいるのかしら?


おお、お前さんたち! 無事だったか!

グラハムさん! 大丈夫ですか?

ワシはどうにかな……エマが無事だといいのだが……

魔獣が暴れてるようだ。気をつけなさい。

今、アンタが斬ったの?

そうだが?

ぜんぜん見えなかったです……!

昔取った杵柄だよ。それより急ごう。姫様が心配だ。


あの、ロイドさん……グラハムさんのお姫様って……

数年前にとある島の政変で、処刑されている。私もその場にいたから覚えているよ。

結果、彼の心は壊れたらしい。今でも救えなかった姫を探しているそうだ。

若い娘を姫と間違えること以外、害はない。


おお! 姫様とエマ! 無事だったか!

グラハムさん、アンジェラは姫様じゃないよ。

ああ、そうか……そうだったな……

これはこれは! よく無事でしたな、アンジェラ様!

アレは貴様の仕業か?ロイド。

ええ。魔幻獣の恐ろしさをお教えしようと思いまして……

本来ならこの場で斬り捨てるところだが、私の敵はエマだけだと約束した。

今回は見逃すが、次はないぞ。

そんなことはどうでもよいのです。さあ、早く魔幻獣の破壊を……

破壊などしない。あの力、私が有効活用する。

まだ、そんなことをっ!

おじさん、絶対に破壊なんかさせないから。

なぜだ? なぜだ、エマ! なぜなんだ! なぜ魔幻獣の恐ろしさを理解しないっ!

仮に幻獣様が兵器だったとしても私にとって大切な友達なのは変わらない。

だから守る。それだけは絶対に譲れない。

ちょっとどこ行くのよ!

猫ちゃん、幻獣様には近づかないほうがいいよ。私、今度は本気で戦うから。

エマ、待ちなさい。ワシも手伝おう。

でも……死んじゃうかもしれませんよ?

世話になった娘を一人ぼっちにできないよ。お前さんを見捨てたら、姫様に叱られる。

アンジェラ様、老兵ですが、エマに助太刀いたします。ガリウスの護剣の冴え、とくとお見せいたしましょう。

ハッハッハ、楽しみだ! 貴殿の亡骸は蒼炎で弔ってやろう!



本当に戦うの? なんか、仲よさげだったじゃない。

ああ、私はエマと友になった。その上で、お互いに譲れないものがある。

だから明日戦う。それだけの話だよ。



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story13 リアクションタイム



<そして――

――夜が明けた。>


本当に戦うの?

ああ、口出し無用だ。

なんと愚かな……どうして魔幻獣の恐ろしさを理解しないのだ……

アンタだって、昨日の見たでしょーが! あんなの、どう考えたってコントロールできないわよ!

……かもしれんな。だがな、キャトラよ。私は兄上の命令で、この場に来ている。

わかれとは言わない。理解も求めん。だが、これ以上の邪魔はするな。

わかんないわ! わかんないわよ!!


伝令! 伝令っ!

どうした!?

沖合に艦隊が出現。飛行艇20! 艦船35! 総数50を超える大艦隊です!

どこのだ!?

灼原の島ルバイヤ! 仇敵ゾーリングン家です!

作戦を変える! 今すぐ飛行艇に火を入れろ! 浜辺では狙い撃ちにされるぞ!

ザーラント! ブルーフレアは!?

飛行艇から離してあります。警護の兵はいますが、量が量なので移動には人数が必要です。

すぐさま飛行艇に積みこめ。あの艦隊を蒼炎で焼き尽くす!!

――

……撃ってきたかっ! 私は村へ向かう!!

私たちも行きましょう!


 ***


こ、これはどういうことですか!?

……貴様らの差し金ではないのか?

し、知りませんよ!

(では、なぜ私がここにいると連中に知られた? いや、待て、どう考えてもおかしい。

私がウルドを出立して五日。追ってきたにしては、ルバイヤ軍到着が早すぎる。

私が出立すると同時……いや、出立より早く連中が動いていなければ計算が合わん)

ハッハッハ……なるほど、そういうことか……

ちょっとアンジェラ、大丈夫?

(兄上が情報を流していたか。ずいぶんと手の込んだことを……)

……ハハッ! まあ、そういうこともあるだろう。

アンジェラさん?

(兄上が私をお切りになろうと私はあなたへの忠義を貫く。我が死に様で証明しよう)

伝令! 伝令!! 飛行艇、半数が大破! 残りの半数も中破と小破多数!

……彼奴らを焼くにはいささか数が足らんな。キャトラ!

なに!?

エマに伝えてほしい。お前との戦の約定、果たせなくなった。すまん。とな……


 ***


この音……なに?

砲撃が着弾した音だよ、だが、遠いな。狙いはこちらではない。

おかしい。飛行艇に巨大な砲は積めんはずなんだが……

<指笛>



私をつかんで飛んで!


 ***


(浜辺から煙……? 海に艦隊……どういうこと?)

アンジェラ……



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story14 決断の時


海の艦隊、あれはなんですか!?

エマさん!

おお、エマか……あれはルバイヤ軍だ。ウルドとルバイヤが戦争、おっぱじめやがった。

みんな、落ち着け。下手に逆らわなければ、ひどいことにはならん。

そうとは限らない。特にルバイヤのゾーリングンというのがいけないな。

かの家は傭兵隊からの成り上がり。嵐の国のなかでも、品性下劣な者が多いと聞く。

戦火にさらされた村の人間や、戦に負けた者を捕らえ、売り飛ばすそうだ。グラハム殿もご存知では?

……否定はせん。ルバイヤとウルドならウルドのほうが人道的だな。

アンジェラは?

一人で交渉しに行ったわ……

アンタと戦えなくて、ごめんって伝えてくれって……

…………

断言しよう! ウルド軍は勝てん。奇襲により戦力の半数が瓦解した時点で、敗北は決まっている。

当然、ウルド軍がこの島を守る義理もなければ、我々がルバイヤ軍から温情を賜る理由もない。

私が戦います。

アタシたちだって!

君たちは戦えるだろう。だが、多くの者は戦えない。仮に魔獣がエマに力を貸し、多少の打撃を与えたところで、軍には勝てん。

だがな、エマ。一つだけ全てを救う方法がある。

魔幻獣を起動しろ。あの力があれば、鎧袖一触。ルバイヤの船など一網打尽だ。

そんなことできるわけない!

そうよ! あんな危ないもの起動させたら大変なことになるじゃない!

ああ、たしかに私には無理だった。魔幻獣をコントロールできない。だが、エマ、君なら、あるいは……

まあ、どちらにせよ、略奪され践罰される。

今、この瞬間、なにもしなければ、全てが終わる。

……エマなら本当に幻獣様を操れるのか?

断言はできない。確かに賭けであることは認めるが、確定した滅びを選ぶよりはマシだ。

君にとって、アレは友人なんだろ? そして兵器でもある。

…………

向こうも君をそう思ってくれているさ。君だけが魔幻獣様に仕え、廃れた信仰を守り続けたのだから。

この島の人々を! 孤軍奮闘する気高き君の友を! 救えるのは君だけだ! エマ!

さあ、決断の時だ。エマ・イングラム。

…………



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