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【黒ウィズ】ロレッティ編(ザ・ゴールデン2019)

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最終更新者:にゃん

開催日:2019/04/30 ~ 05/31


目次


Story1 炊事班の空賊見習い

Story2 記録的なスピード出世

Story3 間諜はどこにいる?






story1



蒼天を行く、戦闘艦。オイルの匂い。そして、複雑な機械とエンジン音が響き渡る。

戦艦内には、真新しい軍服に身を包んだ軍人たちが、慌ただしく駆け回っていた。


「全速前進だ! 総員! 配置につけ!」

「ヨーソロー。今日も元気に、空賊艦が空を飛ぶよ!」

「空賊艦だと?」

「あ、ヤバい。間違えちゃった!」

「貴様~。栄光あるドルキマス戦艦に乗り込んでおきながら空賊気分か!?」

「はい、曹長殿! 今のは、ちょっと間違えただけであります!」

「ドルキマス軍人が言い訳などするな! その弛んだ心を修正する! 眼をつぶれ!」

「あたしみたいな女の子にも容赦なく鉄拳制裁!? 旧時代的すぎない?」

「そもそも、なぜ貴様のような小娘がいる!? ここは保育所か!?」


「小娘とは私のことか?」


その娘の登場で、周辺の軍人たちの間に、鋭い緊張が走った。

小柄だが、彼女の胸元を飾る勲章と階級章は、眩く輝いていた。


「だらしない兵がいたので、教育中でありました!」


歴戦の強者といった風体の空軍曹長も、その“小娘”の前では、直立不動になる。


「だらしない兵とは、貴様のことか? 見ない顔だな?」

「ドルキマス空軍第3艦隊所属、炊事班のロレッティ2等兵であります!

お目にかかれて、光栄に存じます。クラリア・シャルルリエ司令官殿!」

「ロレッティとやら。貴様、年はいくつだ?」

「正確にはわかりませんが、多分、12歳にはなってません!」

「ほう。私よりも、若いのか?その年で軍艦に乗り込もうとは度胸がある。だが、あまり上官の手を煩わせるな?」

「もちろんであります! ……あの、せっかくお知り合いになれたのですから、ひとつ質問していいですか?」

「なんだ?」

「みんな噂してるんですけど、クラリア司令官殿は、親の七光りで第3艦隊の司令官になったって本当ですか?」

一瞬にして周囲の空気が凍り付いた。

「こいつは勇気のあるお嬢ちゃんだ。勇気だけなら、十字勲章ものですな。ははははっ……。」

「そういう雑音は、武勲を立てることで跳ね返してきたつもりだった。

だがしかし、まだそんなことを言う輩がいたとはな。」

 「失礼いたしました。すぐさま、この2等兵を上官侮辱罪で、軍事法廷に……。」

「バカか貴様は?」

そんなことをしていては、私はこの艦隊の半数以上の兵を処罰しなければならんだろうが。」


(悪口も陰口も、織り込み済みで、その地位にいるってわけね。ローヴィさんの言うとおり、性根の据わったお人だね~)

「この小娘は勇気がある。勇者には、勇者の役割を与えるのが、いい兵の活かし方だ。そうは思わんか?」


にやりと悪巧みめいた笑みを浮かべる。それに釣られて、周りの軍人たちも口角をつり上げた。


「ロレッティとやら! 貴様のような勇者にパンを配らせるのは惜しい。我が軍の損失だ。

よって、これからは突撃隊の一員になれ! ついでに昇進もさせてやろう。頑張りたまえ。1等兵どの。」

「突撃隊って、敵艦に乗り込んで戦う兵士でしょ?戦死する兵が、格段に多いって噂の。」

「なんだ貴様、先ほどのでかい口はどうした?栄誉ある突撃隊の一員になれたんだぞ。もっと喜ばんか!」

「うーん。パンを配るのにも飽きたし、ちょうどいいかもね。

それにこんなに早く昇進できるとは思わなかった。いい上官に恵まれて幸せだな~。」

「……驚いた。全然、堪えてないようですよ?」


(ふふふっ。みんなぽかんとしてる。あたしが、落ち込むとでも思ってたの?

前線にいた方がドルキマス軍の武装とか、調べられるから、その方が、あたしにとってはありがたいのにね)


 ***


ロレッティは、みずからの空賊団が消滅したあと、一からやり直すために、ケーニギン号で下っ端の空賊として修行を積んでいた。

持ち前の要領の良さと明るい性格で、順調に周囲の信頼を勝ちとっていた矢先。


「ロレッティ、ブルンヒルトさまがお呼びだぞ。」


 ***


「なんでしょうか、お頭?」

「あなたに、少し厄介な任務を与えなければいけません。」

「消えた巨大〈原石〉の行方を追うんですね?」


グラールという超高濃度のエネルギー物質が、凝縮されている鉱石。

その巨大な〈原石〉が、ある遺跡から発見され、一時は、空賊や他国の軍人たちの間で奪い合いとなった。

だが、旅の途中の黒猫を連れた魔法使いが、それを責任もってあるべき場所に返すと預かったのち……。

何者かによって、再び奪われてしまった。いま、〈原石〉の行方を知るものはいない。


「いま、どこにあるんでしょうね?お頭は、見当ついてるんですか?」

「私にもさっばり。ただ、ドルキマス国に行けば、手がかりが、つかめるのではないでしょうか?」

「わかりました! ついでに、ドルキマス軍の戦力も調べて来ます!」


「こら、まだ話は終わってないぞ! ……慌ただしい娘だ。」

「ふふふ……。いつ飛び出すかわからない砲弾のような子ですね。

ミラディア。ロレッティを助けてあげてください。」

「はっ! お任せください。」





「みんな整列!これから、軍曹殿のありがたいお話があるから、心して聞くように!」

「我々突撃隊は~。え~、大陸最強であるドルキマス軍の~、え~、尖兵であるからして。え~。」

「つまり、軍曹殿は、もっと頑張れって言いたいわけだよね?」

「そうだ。そのとおりだ。」

「じゃあ、頑張って戦力になれるように、元気に訓練開始だね!

整列! 腕を腰につけて、駆け足はじめ! そ~れ、わっしょい! わっしょい!」


「あのロレッティって子が来た時は、可愛そうに島流しかと思ったが……。」

「来てくれてから、うちの隊の雰囲気はがらっと変わったよな。」

「そこ、遅れてるよ~。あたしより遅れたら、夕飯抜きだからね?」

「こいつは、とんでもなく厳しいチビ軍曹どのだぜ。」


どっと笑いが起こる。

常に前線に配属され、いつ命を落とすかわからない兵たちが、訓練中に笑うことなど滅多にない。


 ***


「あのロレッティってお嬢ちゃん、突撃隊の空気を変えちゃいましたね。思った以上に、有能な娘のようです。」

「なぜあんな子娘が、志願兵としてドルキマス軍に入ってきた? ……どう思う?」

「他国から送り込まれた間諜の可能性もあると仰りたいので?」

「そんなものをー々気にしてられるか。我が国の周りは、敵だらけなんだぞ?」

「確かにそうですね。もうしばらく様子を見ましょうか。」

「いや、それよりもな……。」


 ***


「ええ!? もう昇進ですか?」

「お前は生意気だが、小さいのによく頑張っている。だから伍長に昇進させる。」

「はは~。ありがたき幸せ。」

(まずいなぁ。こんな急に偉くなったら、目立っちゃうよ。スパイ活動もやりづらくなるよ)


「浮かない顔だな? 昇進が嬉しくないとでも?」

「実を言うと、軍人を真面目に務める気なんてないんですよ。

適当に過ごしたあと、除隊して気楽な生活を送るのが、あたしの夢ですから。」

「不真面目な奴だ。そういう愛国心のない兵には、罰を与える。」

「お慈悲を~。降格だけは、お許しください~。」

「降格などさせん。むしろ、昇進させる。今日から伍長ではなく曹長だ。気楽な軍隊生活など、決して送らせんぞ。わかったな?」

「はあ~。どうして偉くなるの? 意味わかんないよ~。」

「くくくっ。これは、私からの罰……いや、褒美だ。よく噛みしめろ。」

「ブーブー!」

(さすが、司令官になるだけあって、ひとの心を読むのが上手いね)


「よかったな、ロレッティ曹長。突撃隊の曹長は、兵の先頭に立って戦う役目だ。勇気の示しどころだぞ。

あと……ご愁傷様。」

「人でなし~。」

「ざまあみろ。その悔しがる顔が見たくなったら、また昇進させてやるぞ。」


「失礼します! ドルキマス王より、入電です。」


「アルトゥール王直々の? 厄介な任務を押しつけられそうですね。」

「兵の前だ。口を慎め。」


(第3艦隊は、ドルキマス空軍の主力だ。こいつが動くとすれば……他国との戦争になる?

でも、どこと戦うんだろう? シュネー国? まさか、空賊退治なわけないよね?)


 ***


「ふむ。これは厄介な命令だ。」

「王制をひっくり返そうとしている共和派の拠点を、我々第3艦隊で潰せとのご命令ですか?」


電文が書かれた紙を無造作に机の上に置く。


「ドルキマス国内では、いま共和派と王制派に二分されているのは知っている。

我々軍人は、ドルキマス国とドルキマス王の両方に忠誠を誓った立場だ。どちらにも加担しないつもりだった。」


共和派の拠点を討つとなると、第3艦隊は王制派とみられるだろう。


「元帥閣下の後ろ盾を失った我々には、アルトゥール王の命令を跳ね返すことなどできませんね。」

「ディートリヒ閣下のことは今は言うな。きっとお考えがあって、姿を隠されているのだ。」

「もしくは、国内のいざこざに巻き込まれたくないから、雲隠れしているのかもね。」

「貴様、聞いていたのか!? 上官の話を盗み聞きするとは、あきれた奴だ。即座に射殺されても文句は言えんぞ?」

「うちの司令官どのは、そんな些細なことで、部下を殺すお人じゃないと信じてますので。えへへっ。」

「ならば、ちょうどいい。この命令、どう思う? 意見を聞きたい。」

「うちの突撃隊を変えたロレッティ曹長殿のご意見を伺いましょう。」

「あたしなんかの意見なんてたいしたことないですよ。」

「構わん聞かせろ。」

「第3艦隊は、これまでの戦争で多大な勲功を積み上げてきたと聞いてます。だから、国民からも人気がある、でしょ?

もし、第3艦隊の砲門が、国民の方に向いたら、国民からの人気どころか、栄光も栄誉も、すべて吹き飛んじゃうでしょうね。」

「私と同じ意見か。つまらんな。」

「でも、ロレッティ曹長の言うとおりです。今回の命令、どうも筋が良くないですね。」

「国民に砲門を向けたら、我々が恨まれる。かといって王様の命令に逆らったら処罰される。軍人って大変ですね。」

「そんな他人事みたいに言いなさんな。これでも、窮地に立たされてるんだ。」




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story2 記録的なスピード出世



「陛下へのお返事はどうします?時間を引き延ばすなら、言い訳を考えませんと。


小さな司令官は、難しい顔をして考え込む。

命令を拒否するなど、軍人としてはありえない。しかし、命令に従えば、国内の情勢がさらに悪化する。


「革命なんて成功するわけないのに。ドルキマスが混乱して一番喜ぶのは、誰なんだろうね~?」

「少なくとも、真面目なドルキマス国民は、喜ばんだろうな。」

「だったら、わざと物事をややこしくさせている奴らが、どこかにいるってことじゃない?」

「貴様の言うとおりだ。我々の敵は、共和派ではない。奴らの陰から糸を引いているものたちだ。」

「わかってるなら、真犯人を捜したら?」

「貴様……さすがに口が過ぎるぞ。」

「おおっと! 失礼しました司令官どの! 隊に戻ります。お邪魔しました。」

「……待て。隊に戻ることは許さん。貴様の数々の暴言を見過ごしていては、私の浩券に関わる。」

「まさか、罰ですか? お手柔らかにお願いしますね?」

 (最前線に送られる前に降格させて欲しいよ。このままじゃ、本当に死んじゃうもの)

「罰として、貴様を少尉に任命する。そして、私の副官となって仕えよ。いいな!?」

「なんでそうなるのよ~!?

あたしみたいな小娘に、栄光あるドルキマス空軍の少尉なんて務まりませんよ。

それに、昇進するには試験とか、手続きとか、必要なんじゃないですか?

 「そもそも兵卒は、推薦がない限り、士官にはなれない決まりです。」

「私が推薦する。めんどくさい手続きも省略だ! なぜなら、ここは戦地だからだ。

戦地では、指揮官に人事権がある。ロレッティが少尉になったのは、戦地昇進という奴だ。」

「入ってまだ間もないのに、こんなスピード出世しちゃうなんて。ちょっと前例がなくないですか?」

「ぶつくさ言うな。いまから、私の副官として働いてもらうぞ! さっそく私とともに来い!」

「もー、わかったよー。わんっ! わんっ!」


 ***


「ロレッティ! これから会議がある。ついてこい!」

「持っていく資料はこれだけですか?」


「ロレッティ! 本国に送る手紙を書くから、貴様が清書しろ!」

「あたし、字下手なのに良いの!?」


「ロレッティ! 飯の時間だ。一緒に来い!」

「わ一い。一日で一番楽しみな時間だ。」


「ロレッティ……明日の会議の打ち合わせをする……ぞ……。むにゃむにゃ。」

「遅くまで、お疲れさま。」


 ***


「はー、忙しい。忙しい。」

「おチビちゃん、まだ起きてたのか? 頑張るねえ。」

「あたしは、気楽な兵卒でいたかったのにさ。偉くしたそっちの責任だよ?」

「昇進させてもらって文句言うのは、おチビちゃんぐらいなもんだ。」

「クラリア閣下が、手当たり次第に仕事を押しつけてくるから、もうてんやわんやだよ!」

「ドルキマスが誇る第3艦隊の司令官ともなれば、ひっきりなしに案件が舞い込んでくるからな。」

「共和派を粛清しろって命令も、そのひとつなの?」

「……それを言うな。クラリア公爵さまも、ああ見えて悩んでいらっしゃるんだ。」

「バカじゃないといいね。あんたの所の公爵さまは。」

「言うねえ。おチビちゃん。」

「自国の民に大砲を向けるようになったら、この国もおしまいだよ。

そんなこともわからない愚か者が、司令官じゃないことを祈るよ。」

「そうならないように、クラリア公爵さまを支えてやってくれ。

ああ見えて喜んでるんだ。軍には、年の近い女の子なんていなかったからな。

急な昇進でビビっただろうが、クラリア公爵さまの頼みだと思って、我慢して仕えてあげて欲しい。な?」

「なんだ。友達が欲しかっただけなの? それならそうと素直に言えばいいのに……。」

「ふっ。素直じゃない所は、父親ではなくて、きっと元帥閣下から受け継いだんだろうな。」

「ねえ、元帥閣下ってどこに行ったの?」

「あまり大きな声で言うな。元帥閣下の失踪は、軍外部には秘密になっているんだから。」

「え一。どうして隠すの? 正直に話せばいいのに。」

「大人の世界ってのは、そう簡単なものじゃないんだよ。」

「なんだか、ややこしいんだね。

でも、わかったよ。お望みならば、このまま副官の役目、務めてあげてもいいよ。」

「頼むな。ふ一、これで俺も少しは、肩が軽くなったぜ。」





「じ~。」


その日、ロレッティは朝から、通信室を覗いてばかりいた。


「おチビちゃん。こんなところにいたのか。クラリア公爵さまが呼んでいたぞ。

なにを見てたんだ? ああ、通信室か。なんだ、通信兵の仕事に興味があるのか?」

「うん。偉くしてもらったけど、あたし、まだ軍のことなにも知らないでしょ?

だからせめて、通信ぐらいできるようになろうと思って。

ねーねー。これってなんのボタンなの?」


通信機の前に座る兵たちに、無邪気に近づいていく。

相手は、ロレッティの襟元の階級章を見て、即座に背筋を伸ばした。


「こ……これは、副官どの。どういったご用件でしょうか?」

「通信兵のお仕事を勉強したいの。あたしも、そのうち電報とか、打てるようになりたいな一って。」

「でしたらまず、通信用の符号を覚えることです。」

「符号ってどんなのがあるの?」


子どもの無邪気さで、………次々に質問を浴びせていく。

その強引さに戸惑いながらも、兵たちはひとつひとつ丁寧に質問に答えていた。


「あ、なにか鳴ってるよ? これが、今届いた電子符号ってわけだね?」


ロレッティは興味深く。そして辛抱強く。あれこれ聞いて回った。


 ***


「なに? ロレッティが間諜(スパイ)だと?」

「通信兵に色々聞いて回っていたんですがね。その質問のポイントが、やけに的を射ていたんですよ。」

「我が軍の符号を覚えてなんになる? 頭の符号は、周期的に変えているから、そのうち無駄になるだけだ。

万が一、通信を傍受されていたとしても、我々は別に痛くもかゆくもないぞ。」


現状、この大陸において、ドルキマス軍に対抗できる戦力はいない。

先の大戦で、ディートリヒがイグノビリウムと他国を争わせ、戦力を削り取った結果そうなった。


「それに今更、間諜が1匹入っていたところでなんになる?

現在、我が国の周囲は敵国だらけだ。機密を探ろうとするものをー々気にしてたら神経が持たんぞ?」

「そうなんですがね……。ま、―応警告はしておきましたよ。」


 ***


ロレッティは、合図となるノック音を耳にした。


「こっちだ。」

その人物は、目の前で輸送兵の変装を解いた。ブルンヒルトの側近ミラディアだった。


「おつかれー。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ブルンヒルトさまから、お前のサボートをするように命令されている。なんでも言え。」

「これ、ドルキマス国の通信符号。お頭に渡して欲しいの。」

「凄いな。もう、そんなものまで手に入れたのか?」

「絶対にお頭にだけ渡してね? ドルキマス国にとっては大事なものだから。」

「任せておけ。」


突如、大きな振動が旗艦全体を震わせた。


『これより、第3艦隊は、作戦目標へ移動する。総員配置につけ』


「作戦目標? まさか、共和派のアジトに向かうつもりなの?」


クラリアは、結局アルトゥールの命令に従うことにしたのだろうか?


「所詮は軍人。お偉いさんの命令には逆らえないってわけ?」


国民に大砲を向けるなんて暴挙だ。絶対に止めないと。

ロレッティは、艦橋に向かって走った。





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story3 間諜はどこにいる?



「反対しに来ると思っていた。この艦で、私に面と向かって逆らうのは、お前ぐらいなものだからな。」

「バカな軍人を演じているだけだよね? まさか、本気じゃないよね?」

「私は、軍人だ。元帥閣下から任命されて、この艦隊を預かっている。それは昔も今も変わらん。」

「だからって、軍艦を1隻も持たない共和派の人たちを皆殺しにしていいわけないでしょ?」

「落ち着け。誰が、奴らを殺すと言った?」

「艦隊を動かすってそういうことじゃん。」

「大砲は、すべて艦内に格納する。出発するのも、この艦だけだ。」


武装していない旗艦だけで、共和派の拠点に乗り込むのだとクラリアは言う。


「相手もまさか、ドルキマス艦隊の司令官が、直々に乗り込んでくるとは思わないだろう。

この私が、共和派の奴らを説得し、アルトゥール陛下への反逆をやめさせる。

虚を突くことこそ、元帥閣下の得意とする手段。元帥閣下ならば、きっとこうしただろう! ぬはははっ!」

 「元帥閣下のマネなんて、ガラじゃないですよ。やめた方がいい。」


「それが、クラリア閣下なりに一生懸命考えて出した結論なの?」

「ついてきたくなければ、ついてこなくてもいい。」

「もちろんついていくよ。副官の私が一緒に行かないでどうするのさ?」

「じゃあ、とっとと準備をしろ。」



王の命令には逆らえない。かといって、自国の民に大砲を向けるなんてできない。

板挟みになったクラリアの心情は、なんとなく察することができた。


「ねえ、オルゲンさんは、アルトゥール陛下が、本当にあんな残酷な命令を出したと思う?」

「さあな。我々軍人が、陛下のお心を推し量るなんてこと、本来、やっちゃあいけないことなんでね。」

「それって、自分の頭で考えてないってことだよね? それでいいの~?」

「軍で育った俺たちには、そういう生き方しかできないんだ。クラリア公爵さまもそうだ。

でも、おチビちゃんには、俺たち軍人では見えないものが、見えるのかもな。」

「まあね。オルゲンさん。実は、あたしに案があるんだ。耳を貸して。」


 ***



「まさか、第3艦隊司令官さまが、直々にお越しになられるとはね。」

「まだるっこしいのは嫌いだ。単刀直入に言う。ドルキマス国への反逆をやめよ。やめなくば、このアジトもろとも吹き飛ばす。」


アジトには、20人ばかりが武装して立てこもっていた。

それぞれ、手に持った銃をクラリアに向けている。


「俺たちは愛国者だ。民に重税を課し、不要な要塞を建ててドルキマス国を滅亡へと追い遣っているのは、王族たちじゃねえか!」

「そうよ! ディートリヒ元帥だって、王族のやり方に疑問があったからクーデターを起こしたのよ!」

「卑賤の身から、元帥にまで登り詰めたディートリヒ閣下こそ、我々市民の代表だ!」


「ヘー、そうなんだ。」


ディートリヒが失踪したことは、まだ国民たちには知られていない。

すでに国にいない男を担ぎあげて、自分たちの正当性の論拠としている共和派の連中には、ため息しか出なかった。


「元帥閣下を巻き込むな。お前たちのやっていることは、ただの反乱だ。悪いことは言わんから、私の言うことに従え。」

「断る!」

ディートリヒ・ベルク様こそ、ドルキマス国を新しい国へ造り替えてくださる救世主よ。」

「貧しい俺たちの気持ちをわかってくれるし、貴族や王族たちの圧政を許さない、正義の心を持つお人だ。」

「それにどんな人にも分け隔てなく優しくて、身分の上下を嫌っている高潔な方で、無駄に人を殺さない軍人の鑑よ。」


「ディートリヒ閣下って、そんなお人なの?」

「わ、私に訊くな!」


「ディートリヒ閣下と共に私たちは、王族をこの国から追い出して、革命を成功させる!」

「邪魔するつもりなら、ここで死んで貰うぞ!」


「あなたたちが、そこまで言うディートリヒ閣下って、きっと素晴らしい人なんだろうね。

……で、あなたたちは、ディートリヒ閣下に会ったことあるの?」

「ない。」

「会ったこともない人を、よくそこまで信頼できるね?

それにディートリヒ閣下は、あなたたちと手を組むなんてー言でも言ったかな?」

「ディートリヒ閣下は、私たちと同じ気持ちのはずよ。」

「きっと我々の思いに賛同してくださるはずだ。」


そう話す共和派の男が持っていた銃が、いつの間にか手を離れ、ロレッティに渡っていた。


「ふーん。なかなか、立派な銃だね。」

「なっ!? いつの間に!?」

「おや、この銃。銃身に刻印があるね。もしかして、この刻印つて、シュネー国のものじゃない?」


シュネー国とは、ドルキマスの隣国で、何度も戦争を行なっている国だ。


「ほう? シュネー国の銃をなぜお前たちが持っている?」

「そ、それは……。ドルキマスの王族たちと戦うために借りたんだ。なにか文句あるか!?」


不意に銃声が咄り響く。弾丸は、ロレッティの頭上を通り過ぎた。

撃ったのは、うしろに控えていたドルキマス国民らしからぬ風体の男たちだ。


「おやおや? これ以上話を続けられると、都合の悪い人たちがいるみたいだね?」


再び銃声が轟く。ロレッティは、クラリアを守るように身を盾にするが……。






「せっかく改心する機会を与えてやったのに……。愚か者どもめ!」

「クラリア閣下、先に逃げて。あんたは、ここで死ぬべきじゃないよ。」

「ここで退いたら、なんのために来たのかわからん!」

「じゃあ、絶対にあたしから離れないでね!」


ロレッティは懐に隠していた遠眼鏡を取り出した。


「あ、それひょい。こりゃまた、ひょいっと。」

「まただ。銃が奪われた!」

「その娘、怪しげな術を使うわ!」


扉が勢いよく開く。奥の部屋から出てきたのは、共和派に味方する武装集団。


「ドルキマス空軍第3艦隊提督のクラリア・シヤルルリエだな? ここで死んで貰うぞ!」

「ただの革命派のアジトではないと思っていたが、なるほどそういうことか?」


「ええ、そういうことです。革命を裏で焚きつけている奴らの謎が、やっと解けました。」

ヴィラムがアジトに飛び込んできた。


「ふー、危機一髪だったよ。」


「大人しくするんだな。お前たちの後ろ盾になってる奴らが判明した。証拠も、もうあがってるんだぜ?

おら、入れよ。」

「くっ……乱暴に扱うな。ドルキマスの犬め!」


ヴィラムに押し出されて倒れ込む。それは、クラリアの艦にいた通信兵だった。


「クラリア中将閣下。この通信兵が、シュネー国の間諜でした。

アルトゥール陛下が送られた、閣下への命令を“書き換えた”ことを認めました。」


本来のアルトゥールの命令は、共和派を刺激せずに反乱の兆候のみを叩き潰せというものだった。


「共和派のアジトを艦隊で殲滅せよという命令は、その間諜のでっちあげだったか。」

「お前らを動かして、国民に大砲を向けた愚かな王アルトゥールを演出するつもりだった。

ふふっ。残念だ。ドルキマス国民から、そっぽを向かれる愚王が見られなくて……ぐっ。」

「おっと、自殺はさせねえよ。貴様は、大事な証人だ。」

「くそっ。離せ! 死なせろ……くそうぉ!」


「……シュネー国は、このアジトごと我々を殺すつもりだったのか。」

「そうね。残念だけど、あんたたちは、利用されてただけなんだよ。」

「それじゃあ私たち、バカみたいじゃないの。」

「そろそろしまいにしましょう。突撃隊を使って、アジトにいる残りの連中をとっ捕まえます。中将閣下よろしいですね?」

「頼む。」


ヴィラムの合図で、ドルキマスの突撃隊が、アジトを取り囲んだ。

共和派の連中や、武装集団などは、戦闘のプロであるドルキマス兵の敵ではない。


「……降参する。命だけは助けてくれ……。」


 ***


「共和派のアジトを潰し、シュネー国が裏で糸を引いていた証拠をつかんだことを報告してきた。

アルトゥール陛下は、たいそうお喜びだった。」

「おめでとうございます。また、勲功をあげられましたな?」

「通信兵が間諜だったことを見抜いたのは、ロレッティだそうだな? 感謝するぞ。」

「いやー、それほどでもー。」

「まさか、我が艦の通信兵の中に間諜が紛れ込んでいたとは。足をすくわれた思いです。少尉、よくぞ見抜いた。」

「偶然ですよ。ははははっ。」

(ドルキマス軍の情報を探ってたら、偶然、電文を書き換えているところを見ちゃったなんて……とても言えないよぉ)

「クラリア閣下のお役に立ててよかったです!」

 (ボロが出ないうちに、役目を終えないと。次に間諜の罪で引っ立てられるのは、あたしかも)


「これで、ロレッティを引き立てた私の顔も立った。お前には褒美をやらないとな。」

「そんな、いいですよ。副官としてお役に立てたのでしたら……。」

「おい、彼女を連れてきてくれ。」


「す、すまん。下手を打った。」

(な、なに~~~っ!?)


「ぴ~、ぴ~♪ ぴ~♪ ぴ~♪ そ、その人誰? 知らない人だなぁ……あはははっ。」

「このミラディアという娘は、ケーニギン・ブルンヒルトという空賊に仕える女空賊だそうだ。

我が艦に出入りしていたので捕まえさせた。ついでに、この娘が誰と出会っていたか、すでに調べがついている。」

「ああ……終わった。短い春だったよ。」

「ですが、クラリア公爵さまは、心の広いお方だ。このミラディアという娘を無傷で解放していいと仰っている。

ただし……。」

「ただし?」


クラリアとヴィラムは、顔に笑顔を張り付けていた。心から笑っていない。不気味な笑顔だった。


「まさか、今後もクラリア閣下にお仕えしろと仰るので?」

「今以上に私に仕えてくれるのなら、それ以上は追求せん。」

「空賊に腹を探られたところで、揺らぐ第3艦隊ではないですからね。

それよりも、クラリア公爵さまは、少尉を失うことが嫌なんだ。

だから、これからも、クラリア公爵さまのお世話を頼みたい。

一度降ろした荷物を、もうー度背負うのは億劫だしな……。」

「なんだその言い様は!? ロレッティではなく、貴様の方を処罰するぞ!」

「おっと。口が滑りました。」

「というわけで、ロレッティ。今後も私に仕えてくれるな?」


ミラディアを人質にされてしまっては、断れなかった。


「う~。わかりました。これからも、クラリア閣下にお仕えしますよ!」

「よし! 私がこれから手塩にかけて、貴様にドルキマス軍人魂を叩き込んでやるからな! 覚悟しておけ!」


(早く〈原石〉を見つけないと。とんでもなく長い任務になりそうだよー。とほほ。)





ザ・ゴールデン2019 ロレッティ編 Story -END-







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2018
11/30
17. 炊事班の空賊見習い ロレッティ編(GW2019)2019
04/30
18. 新艦長への試練 ローヴィ編(サマコレ2019)07/31
19. 売国(GP2019後半)09/12
20. 決戦のドルキマス ~宿命の血族~
  序章 1 2 3 4 5 6
2020
04/14

コメント (ロレッティ編(ザ・ゴールデン2019))
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