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【黒ウィズ】Abyss Code 07 Story

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最終更新者:にゃん





魔女のおかしのいえ



あるところに、ひとりの、こどくな魔女が、いました。

やまおく、ふかくで、くらす魔女は、せかいを、かわいい(・・・・)もので満たしたい、とねがっています。


「せかいは、戦そうや、ききんや、えきびょうで、とてもたいへんそう。

目にするのもおぞましい、みにくいもの、きたないもので、満ちあふれているわ。

きたないものは、みたくないわ。きたないものをうみだす、にんげんたちもみたくないわ。」


戦そうで血まみれになって、死んだへいし。泥にまみれた、はっこつ死たい。

痩せほそった、にんげんのこども(・・・)もそう。えき病にかかり、ひふが爛れた、おとなもそうです。

こころやさしい、魔女にとって、せかいには、目をそらしたいものばかり、ありました。


「ほねと、かわだけになって、死んだにんげんなんて、みたくないわ。

血だまりにうかぶ、にんげんのなま首も、みたくないわ。

せかいには、かわいいものが、すくないわ。きれいなものが、すくないわ。

このままじゃ、めがくさりそう。ああ、くさりそう、くさりそう。」


よのありさまを、なげいていた魔女は、せかいを、じぶんのいろで、染めたいと、思うように、なっていきます。


「せかいが、変わらないのなら、わたしが、せかいを、変えればいいのよ。

どうして、そんな、かんたんなことに、きづかなかったのかしら? わたしは、なんて莫迦(ばか)なのかしら。

せかいを、すべて、わたしのいろに、染めぬいて、あげるわ。」


魔女は、よのため、ひとのため、目にうつるげんじつを、どんどんどんどん、塗りかえていきます。

そのようすは、まるで藝(げい)じゅつ家でした。


「だれだって、すてきないろの、おようふくをきて、おきにいりの、くつをはいて、そとにでたいと、思うでしょ?

かわいいもので、彩られた、きれいなおうちに、すみたいと、思うでしょ?

かわいいものが、たくさんあったら、こどもたちは、よろこんでくれるわ。おとなたちは、よろこんでくれるわ。」


魔女は、魔ほうをつかいます。

魔ほうをつかって、魔女のきらいなもの、目にしたくないものを――

つぎつぎに、かわいいおかしや、すてきなアクセサリーや、きれいなほうせきに、かえていくのです。


「血の川は、ぶどうのしぼり汁に、かえてあげるわ。はつこつ死たいは、白いチョコレートに、かえてあげるわ。

わたしが、魔ほうをつかえば、ふこうなひとは、いなくなるの。かわいそうなひとも、いなくなるの。

ああ、なんて、すてきなことを、しているのかしら。」


魔ほうは、りそうを、げんじつに、うつし出します。

かわいいもので、溢れたせかい。

きれいなもので、洲たされたせかい。

おかしのおうちが、そこかしこに、建ちならび。

ヘドロで、よごれた川は、うつくしい、紫いろにかわり。

干からびた、だいちは、おうごんの砂の、じゅたんに、かわります。


「すてきなことを、すると、おなかが空くわね。」


魔女のつかう魔ほうは、たいへん、すばらしい、ちからです。

だけど、魔りょくは、むじんぞうに、あるものでは、ありません。


「ぼりぼり、むしゃむしゃ。ぼりぼり、むしゃむしゃ。」


ふたたび、魔りょくを満たすために、魔女はいっしんふらんに、えいようを、ほきゅうします。


「ぼりぼり、むしゃむしゃ。ぼりぼり、むしゃむしゃ。

ちょっと、すじがはってて、たべづらいわね。そうだ、やわらかい部位だけたべて、あとは、捨てればいいのよ。

そうだ、そうすればいいのよ。わたしは、なんて莫迦なのかしら。なんて莫迦なのかしら。

だって、えいようのみなもとは、たくさん、やってくるもの。とうぶん、こまることは、ないわ。

さあ、たくさんたべて、えいようつけて、せかいを、もっともっと、かわいいもの、きれいなもので、満たさなければ。

ああ、いそがしい。いそがしい。」


魔女は、おかしでできた、おうちを、どんどん建てていきます。

やねは、ロールケーキ。まどはあめざいく。

ゆかには、さとうと、キャラメルが、しきつめられ。

となりの、井戸からは、とかしたチョコレートが、汲めるように、なってます。

とても、かわいいおうちです。

とても、すてきなおうちです。

たちまち、きんじょの、こどもたちの、ひょうばんに、なりました。

やがて、おとなたちが、さわぎはじめました。


「遊びに出かけた子どもが帰ってこない!」


しんぱい、することは、ありません。

こどもたちは、全部、なくなった(・・・・・)わけじゃ、ありませんから。

ほら、川の、じょうりゅうから、ながれてきますよ。

あなたたちの、こどものいちぶがね。








あるところに、とても仲のいい兄妹がいました。

ふたりは、双子でした。生まれてからずっとー緒です。片時も離れたことはありません。

でも、この双子は、ただの双子ではありません。

とある研究所で創り出された特別な双子でした。


「トルテは、さがっていろ。お前は必ず俺が守る。」

兄のストルはしっかりもの。


「なんでそんなに偉そうなの? 今日こそは、私の足を引っ張らないでよね。お兄ちゃん?」

妹のトルテは、お転婆娘。


この双子は、小さな国がひとつ傾くぐらい大規模な予算を投じて創り出されたそうです。

なぜなら、研究所の大人たちや、国の偉いひとたちは――

次元の深淵(・・・・・)からやってくる異形なるものとやらをとてもおそれていました。

そこで、その異形なるものを裁き、地上から抹殺してくれる『処刑人』が必要だと感じたのです。

だから研究所の大人たちは、この双子を創ったのです。


「今夜も仕事だ。悪い奴らは、すべて処刑する。それが、俺たちの役目。」

「処刑する相手は、私が決める! だから、お兄ちゃんは引っ込んでなさいよ!」

「処刑する相手は、トルテが選んで構わない。トルテは、誰を処刑したい?」


双子は人類の最終兵器です。

このふたりが、異形なるものに敗れてしまうと、人類には、もう打つ手がありません。

だから研究者たちは、祈りをこめて双子を創り出し、そして世に送り出したのです。

けど、双子を創り出した研究者たちは、とても重大な過ちを犯してしまいました。


「もちろん、私が決めるわ! 今日処刑するのは、このひとたちよ、お兄ちゃん。

私は、この研究者たちを処刑したい! いや、必ず処刑するのよ、お兄ちゃん!」


それは、この双子に他人を愛したり(・・・・・・・)、思いやったり(・・・・・・・)する心(・)を組み込むのを忘れてしまったのです。


「ここの研究者たちは、俺たちをモルモット扱いした。たくさん、ひどいことをされた……。」

「お兄ちゃんをモルモット扱いしていいのは、私だけなの。だよね、お兄ちゃん?」

「ああ、俺を虐めていいのはトルテだけだし、俺が虐めて欲しい相手もトルテだけだ。」

「変態兄貴、生きてる価値なし。でも、お兄ちゃんを虐める前に、この研究者たちを――」

「「処刑しなきゃね。」」


産みの親を処刑した双子は、仲良く手を繋いで、世界に羽ばたいていきます。

自分たちの使命は、もちろん理解しています。

だけど、世界は無垢な双子にとって、とても危険で、とても刺激的なところでした。


「世界は、なんてかわいいもの、きれいなもので満ちているのかしら? お兄ちゃん?」

「トルテが、この世界のなにを好きになろうと、誰を好きになろうと俺は、構わない。君を支え続ける。」

「その台詞、最っ高~~~に気持ち悪いわ。いっぺんその口閉じたらどう、お兄ちゃん?」

「最高の罵倒だな。俺のことをもっと、見下してくれ。もっと罵ってくれ。

それが、俺たち兄妹の絆を深めることになる。思いっきり殴ってくれたっていい。」

「とっても気持ち悪いわ……。そんな、お兄ちゃんなんて、お望みどおりこうしてやるわ。」

(拳の一発一発に君の愛が込められてやがる。なんて……なんて、幸せなんだ)



街に出たふたりは、衛兵と名乗るひとたちに遭遇しました。

衛兵は、街の治安を守るためにいるそうです。


「市民を守るのが役目なのに剣を持って武装しているなんておかしいとは思わない? お兄ちゃん?」

「そうだな……。トルテが言うんだから、きっと間違っているんだろう。」

(それはそうとトルテになら、俺は剣で斬られたって構わない。ご褒美に、一太刀浴びせてくれないだろうか?)


そんな兄の願いには、気づくはずもなく、トルテは意気揚々と衛兵たちの前に立ちます。

そして、剣で武装し、国民を威圧している彼らを――

衛兵ですら歯が立たない双子に、街の人間たちは、おそれを抱きました。

怯えた国の王様は、軍隊を派遣します。もちろん、双子を捕まえたり、殺したりするためです。


「この国の王様は、私たちが怖いんだって。お兄ちゃんが怖いのは、私だけだよね?」

「ふっ……当然だ。トルテに気持ち悪がられたり、ウジ虫見るような目で見られた時こそ、最高に興奮……いや、絶望する。」

「お兄ちゃん、まさか興奮って言いかけた?

妹に向かって、内に秘めた願望をつまびらかにしていくスタイル。勇気あるよね~。」


トルテは、兄のストルに殴る蹴るの暴行を加えます。


(いまのは、わざと口を滑らせたんだ。気付かなかったのか? ふっ。まだまだ甘いな)

「お兄ちゃんをじっくり虐めたいところだけど、その前に偉そうにふんぞり返ってる奴を処刑したいよね? お兄ちゃん?」

「ああ、働かないで、偉そうにしてる奴こそ、この世の悪だ。処刑しよう。」


双子は、ついに王様を処刑しました。

でも、強すぎるふたりに逆らえるものは、誰もいません。

人々は、双子のことを『天が遣わした処刑機関』と呼んで怖がり、関わろうとはしませんでした。

そして、次元の深淵という場所を目指して旅をつづける双子は、とある場所にたどり着いたのです。


「お菓子の家ね。それにジュースの川。そしてチョコレートを汲み出せる井戸まであるわよ、お兄ちゃん?」

「不思議な場所だ。そしてとっても素敵な場所だ。」

「素敵と言ったかしら? こんな“虚飾”に塗れた家のどこが素敵なのよ、お兄ちゃん!?」

(やはり怒ったか。計算通りだ。いいぞ、もっと殴ってくれ! 俺を責めてくれ!)

「表面だけのかわいさや、きれいさになんの価値があるのよ!?」

「価値なんてないな。トルテが言うんだから、きっとないんだろう。だが、世界は虚飾だらけだ。」



お菓子の家の上辺だけのかわいさは、この森を中心に少しずつ少しずつ、世界に広がっています。

世界中を塗り替えようとしているものが、どこかにいるのでしょう。

このままでは、やがてすべてが覆われてしまいます。


「私には、そんなかわいいものに覆われた世界なんて耐えられない。

だって、私の目には、この家も森も、とても醜く見えるもの。反吐が出そうよ、お兄ちゃん。」


このお菓子の家や飾られた森が、なにを犠牲にして生み出されたのか、トルテにはしっかりと見えているようです。


「怒りは、すべて俺にぶつけろ。そして世界を塗り替えている元凶を見つけたら、ふたりで処刑しよう。」

「もちろん、鬱憤は全部お兄ちゃんにぶつけるわ。

殴って蹴って、引っ掻いて、泣き叫ぶお兄ちゃんの声をまた聞かせてよ。」

「もちろんだ。トルテになら、泣き顔を見られて構わない。俺は、それすらも楽しめるからな。」


妹のトルテは、世に対する不満を暴力という形ですべてストルにぶつけ――

兄のストルは、その暴力に愛を感じ、満たされた心は、悪い人を処刑するための力に変換されるのです。


「妹に殴られて悦んでるなんて、なんて俺は愚かな兄だ。

……という自己嫌悪すら、喜びに変換できる俺の精神構造に隙はない! さあ、もっと俺を殴ってくれ! 罵ってくれ!」


トルテのいらだちに終わりはありません。

でも、その不安定な哨神は、すべてストルが吸収して互いを補い合う。

奇妙ですがしっかりとした絆で、ふたりは結ばれているのでした。


「お兄ちゃん、探しましょう。この世界を虚飾で溢れさせている元凶を。」

「ああ、探そう。そして処刑しよう。」

「こんな世の中に生まれてくるんじゃなかったわ。」

「なぜだ? 俺が兄貴だからか?」

「それもあるけど………もっと楽しいことがあると思ってたのに……なにもないもの。

お兄ちゃんを虐めるぐらいしか、楽しいことがないなんて……もう絶望よ!」


トルテは、泣き出しました。兄のストルは、当然彼女を慰めます。

やがてトルテは気付くのです。

ストルという兄がいてくれるから、この世界はまだ、多少はマシなんだと。


「だったら、もっとマシにしないとね。いくわよ、お兄ちゃん。なにぼさっとしてるの? ほらほら!」

「さっきまで泣いてたのに、もう元気になったか……。でも、トルテの涙の味はもう覚えた。」

「きもっ!」


最悪最低な世界ですが、ストルにはトルテがいて、トルテにはストルがいます。

おかげで幾分、世界はまともに見えました。


でも、そのふたりの世界を薄っぺらい虚飾で覆い尽くそうとしている元凶は許せません。

必ず処刑すると誓いあって、トルテとストルは旅を再開させるのでした。








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