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【黒ウィズ】ぽっっ!かみさま Story1

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最終更新者:にゃん

story1 再会の焚き火



「ウィズ。ウィズ……大丈夫、ウィズ?」


耳を撫でるような優しい声が聞こえた。

反面、頬や体は刺すような冷たさを感じる。

体が重たいのは微睡みのせいか、それとももっと深刻な何かなのか?

ウィズは目を開け、体を起こさなければと思った。だが体が重い。鉛のように重かった。

「だ、ダメにゃ……体が動かない……。」

自分の体が雪の中に埋もれていくようだ、と思った瞬間、ウィズは冷たい世界からすくいあげられる。

「よかった。生きている。」

その声は聞き覚えがあった。



目が覚めたのは、暖かさに頬を舐められたような気がしたからだった。

雪の上で眠っていたはずが、今は焚火の前にいた。

見たこともない奇妙な生物が、恐る恐るウィズの前に木の実を置いた。食べろということだろうか。

「ココの実だよ。食べると元気が出るよ。」

聞き覚えのある声と見覚えのある顔。

リュディ。魔界で育った少年だ。

最後に会った時、彼は別の世界に旅立つと言っていた。

ウィズは木の実をひとつ食べる。体が少しだけ熱くなったような気がした。

「雪の上に黒い生き物がいて、なんだと思ったら、ウィズだったから驚いたよ。

声をかけても反応がなかったから、もっと驚いたけど。」

「リュディ……ここはどこにゃ? 君たちの目指していた世界にゃ? リザもいるにゃ?」

「目指していた場所とは違うし、リザもいない。事情を説明すると長くなるから、それは明日にしよう。

いまはゆっくり体を休めるといいよ。カヌエ、ソラ。ウィズの体を温めてあげて。」

2羽の鳥、というにはずんぐりむっくりな生き物がウィズに体を寄せる。

「むにゃ?」

やたら柔らかくてぽっかっぽかしているので、疲弊した体に再び眠気を呼び起こす。

それに抗うことも出来ずウィズは眠りに落ちる。

どこかで見たことのある鳥と聞いたことのある名前だと思いながら。


ウィズが眠ったのを確かめると、リュディは焚火の煥を勤かし、火勢を弱くした。

背後の林の中から声がかかる。いつの間にか白い花のような少女が木陰の側に立っていた。


「リュディ……その子、死なない?」

「うん。死なないよ。眠っているだけ。」

「喋る猫。何者?」

「黒猫のウィズ。前に話したことがあるよね、魔法使いの師匠だよ。」

「アルドベリクの話の!?」

「うん。そうだよ。」

「しぶぶぶ……。」

「うれしいの? 悲しいの? どっち?」

「うれしい……。起きたら話を聞いてもいい?」

「明日ならね。今日は疲れているから、休ませてあげて。」

「うん!」

木陰の奥へと消えていく。

「それにしても……魔法使いはどこに行ったのかな。もしかして、ウィズたちも離れ離れになっちゃったのかな?」




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story2



ウィズとリュディは春めいた山の中を進んでいた。ウィズもすっかり回復して、2羽の鳥と跳ねまわっていた。

ウィズが後方を歩くリュディに振り返る。

「リザと離れ離れになったにゃ?」

リュディは隣で羽をばたつかせるカヌエとソラの頭を撫で、答えた。

「うん。色々情報を集めたんだけど、行方はさっぱりわからない。

でも、移動したときは一緒だったからきっとこの世界にはいると思うんだ。

たぶん未来かな。」

「にゃ? 未来? どうしてそんなことがわかるにゃ?」

「子どもの頃に会った時と、その後に会った時のことを覚えてる?

あの時、俺たちは成長していたのに、ウィズたちはそうじゃなかった。

それで気になって、ヴェレフキナ、ほらあの短パンの子。あの子に聞いてみたんだ。」


 ***


「まあ、ボクはその筋の専門家ちゃうから、詳しいことはわからんけど。

ボクが死界から今の魔界に移動しても、10年後の魔界に移動しても、ボクが年を取ることはないね。

どちらに移動してもボクが移動に使う時間は一瞬や。 10年後に行くからと言って、10年かかるわけちゃうからね。

だからボクはいまでも10年後でも、こうやって短パンのまま現れるってことやね。]

ぴしゃりと青白い太ももをひとつ叩いて、ヴェレフキナは高説をしめる。

「へえ……やっぱりそうなんだ。」

「そもそもヴェレフキナは年をとるのか?」

「とらへんね。見た目はいくらでも変えられるけど。」

「おっさんにもなれるのか?」

「なれるけど、キミ、おっさんの短パン姿見たい?」

「見たくないやで。」

「せやろ。」

「お前の短パン姿も飽き飽きしてるけどな。」

「あら、そう……。」


 ***


「だから、恐らくあの時、俺とリザは同じ世界の別の時間に移動してしまったんだよ。」

「リザが過去に行った可能性はないにゃ?」

「この世界に住むエルフという人々は魔族みたいに長命なんだ。彼らの話ではリザを見たことがないと言っていた。

だから過去にいる可能性は低いんじゃないかな? ね、シーヴル。」

リュディは木陰の方へと声を投げる。木々の間から、白い花のような少女が現れる。

「おじいさまもおばあさまも知らないと言っていた。リザはいない。きっと未来にいる。」

と、言ってまた木陰に消えていった。

「ところで、あの子は一体なんにゃ? 今朝からずっと背筋に視線を感じるにゃ。」

「あの子は、シーヴル。森のエルフの少女だよ。彼女は俺の案内役なんだ。」

「リザを探す旅をしているにゃ?」

「違うよ。いま俺はエルフを説得するために旅をしているんだ。その案内役。

神様から依頼されてね。」

「神様!?」








ウィズとリュディが山の中腹の集落に到着する。

人の気配はなかったが、かといって廃墟というわけでもなかった。

「たぶん皇帝の軍隊がここに来たんだろう。食料なんかを徴収したあとだと思う。

あるものすべてを軍に取られるから、自然と村を離れる人も現れるんだ。」

「戦争でも起こっているにゃ?」

「以前戦争があり、いま再び起こりかけているというのが正確なところ。

だから神様はエルフを避難させるよう、リュディにお願いしたの。」

「避難というか移住だね。エルフの中には強硬な意見を持って、人間と戦おうとする者もいるんだ。

そういう事をさせないために、争いの無い場所に移住するんだ。」

そんな話をしていると、冷たい風が吹いた。

リュディがちらりと目線を風上にやる。小屋の壁に霜が降っていた。さっきはなかったはずだ。

「リュディ、北風の同志だよ。……怒ってる。」

やけに冷たい風が、中空に吹きだまった。風使いのリュディにはそれが自然な風ではないとすぐにわかる。


『出て……いけ……。』

「話は聞いてくれそう?」

「……駄目だと思う。」

「それならなるべく傷つけないように、追い払うか。」

リュディは剣を抜き、構える。

「リュディ。気をつけるにゃ。あいつから強い魔力を感じるにゃ。」

ウィズがリュディの肩に飛び乗り、注意を促した。ところが。

「うわゎ! なになになに!?」

思わずリュディは肩をすぼめる。ウィズもしまったという顔をして、リュディの肩から降りた。

「あ、ごめんにゃ。ついいつもの癖で……。」

「びっくりしたぁ……。ごめん、ウィズ、戦う時は離れていて。」

「ごめんにゃ。弟子の時の癖にゃ。」

「ウィズを肩に乗せて戦うって魔法使いってけっこうすごいよね……。」

「リュディ、来るよ。」

リュディは再び剣を構え、相手を見据える。

『ころ……殺! す!』






エルフが生み出す看の混じった風に、リュディは自分の風をぶつけて、防御する。

「無理だよ。君の攻撃は、俺には届かない。同じように風を操るんだ。言葉が無くてもわかるだろ。」

その光景を見て、相手もたじろいだ。

言葉の通り、いまの一合で、自分の力と同等以上だとはっきりと示された。

それでも抗うよりほかないとばかりに、エルフの体が魔力で発光する。

『クァアア!』

だが、それは戦いの中では隙でしかない。

幼い頃から獣並みの俊敏さで動くクィントゥスとかいう男を相手していた。

そんなリュディからすれば、止まっているようなものだった。

対クィントゥス用に編み出した最速の風の指弾〈ジルヴァ玉〉を相手の胸に打ち込む。

殺さない程度に手加減したつもりだが、そもそも対クィントゥス用だ。不死身の体を想定した威力は、異常かつ強力。

エルフの体は思った以上に吹き飛んだ。

「しまった。やり過ぎたか……。」

エルフは空き家の壁を吹き飛ばし、その奥にある暗闇に消えた。

「生きてるにゃ?」

「生きてるけど、逃げた。」

 「おい! 何の音だ。何があった?」

「人だ……。」

「にゃ?」

「しー……。ウィズも人の前では口を聞いちゃだめ。」

そう言って、ぽてぽてぽてと小走りに草むらに駆けこんだ。どうやら隠れているようだ。

重たいブーツの音をさせて、リュディの前に現れたのは、使い込まれた鎧を着こんだ兵士たちだった。

「おい、あんた。いまの騒ぎはなんだ? もしかしてエルフに襲われたのか?」

「ええ。もう逃げちゃいましたけど。でも、どうしてエルフが暴れていたんですか?」

リュディが尋ねると、兵士たちの後ろから、その答えが聞こえてきた。

「その人たちのせいだ。その人たちがエルフの祭壇を破壊して、供物も捧げたらいかんと言うんだ。」

「黙れ! あんな野蛮なことは金輪際禁止だ。皇帝陛下の命令だぞ、従わんというなら、どうなるかわかるだろうな?」

「どうしてダメなんですか。それでエルフと円満に過ごしていたんでしょう?」

「自分たちの耳や指、挙句の果てには子どもの頭をエルフに捧げて、それで円満だというのか?

そのような因習はひねり潰せと言うのが、皇帝陛下のご命令だ。」

話を聞いてリュディも一歩退き、村人たちを見る。不揃いな指。耳が失われた者。兵士の言うことは本当なのだろう。

「ですが、もう何十年もそうやって我々はエルフと共存してきた。供物を捧げる者もそれを名誉だと思っている。」

離れた所で、赤ん坊を抱える女が兵士と村人のやり取りを見守っている。

その表情は不安そうだった。

「その赤ん坊を供物に? それが名誉なことなんですか?」

突然声をかけられて、驚いた様子で女は答えた。

「は、はい……。」

「本当に?」

促すような優しい声が女の本音を引き出した。

「いえ……いえ、嫌です! 上の子ふたりも戦争のせいで死んでしまったんです。それなのに、またこの子を失うのはいやです!」

その答えを聞いて、リュディはにこりと笑った。

「皆さん、この件は俺に任せて頂けませんか?

俺の名前はリュディガー・シグラー。帝国領下のサンバノのハイネフ公爵閣下から騎士の称号を頂いた者です。

「おお、あの吸血鬼殺しのリュディガーか。いや、こんなに若いとは思わなかった。ぜひ、お願いします。」

リュディが村人を一瞥する。まだ戸惑いは残っているようだが、静かに頭を下げた。

リュディはウィズと鳥たちに『おいで』と指先で合図を送る。自分もまた歩き始め、兵士たちに背を向けた。

側にやって来たウィズが、リュディに尋ねる。

「この世界で騎士になったにゃ?」

「ここに来てからいろいろあってね。」

「吸血鬼殺しなんて、たいそうな通り名まであるにゃ。

「大したことないよ。吸血鬼には慣れているし、彼らよりもっと低級な吸血鬼だったからね。

リュディは草むらに向けて続ける。

「シーヴル。北風のエルフと何とか話は出来ないかな?

草むらからポンとシーヴルが飛び出し、とてとてと先を歩く。

「たぶんいまなら大丈夫。さっきの戦いで、リュディには勝てないとわかったと思うから。

ついてきて。案内する。」

先を行くシーヴルの後に、どこからか現れた小人たちが続く。どんどんとその隊列に加わる。

長い隊列はまるで道しるべのように先へ先へと伸びていった。



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story3 凍える風の声




途中、妨害はあったが、リュディとウィズは北風のエルフの下にたどり着いた。

さっそくシーヴルを介してこちらの提案を伝えた。

この場所を離れて、戦争が終わるまで安全な場所に避難するという提案である。

「嫌だって。ここに来る前も何度も人間のせいで移動を繰り返したけど、意味がなかったって言ってる。」

シーヴルの言葉を継ぐように、エルフが何かを呟く。

『…………。』

「ふんふん。ふんふん。……鷲の時代の一団に加わってもいいって言ってるよ。」

「鷲の時代ってなんにゃ?」

「人の戦争に加わろうとしているエルフたちのこと。彼らはエルフの国を手に入れようとしているの。

一番やっちゃダメなことって、おじいさまも言っていた。

「あ、でも供物を変えるのは構わないみたい。自分たちから望んだわけじゃないって言ってる。」

「どうするにゃ、リュディ。」

「……うーん。少し方法を考えようか。」


 ***


「エルフはどうして住処を変えるのが嫌にゃ?」

「エルフは自分たちの体に合った場所が好きなの。体にいいから。

わたしも、―番好きなのは森の中のちょっとじめじめした所。湿った土や木の皮の香りが好き。

でも、自分たちの体に合った場所は少ないの。それに人が環境を変えたりもする。

移動したくないのはわかる。

「にゃー……エルフは移動したくないけど、このままだと戦争に巻き込まれるにゃ。

移動はしないで……どこかに行く……にゃ?」

「どうしたの、ウィズ?」

「クエス=アリアスの魔法にいいのがあるにゃ。本の中に隠す魔法にゃ。

それなら、移動はしてないけど、エルフたちは避難することが出来るにゃ。

私もその方法で、大事な物を故郷の図書館に隠しているにゃ。

「でも、本の中に入ったエルフはどうなっちゃうの?

「大丈夫にゃ。本の中は別の世界が広がっているにゃ。術の組み方次第で、この辺りの環境をそのまま再現できるにゃ。」

「それなら、エルフも納得してくれるかもしれないね。交渉してみる必要はある。

「ウィズ、まずはエルフたちにその魔法を見せてあげてほしい。それで……あれ? どうしたのウィズ?」

「……忘れていたにゃ。私はいま魔法使えないにゃ。

にゃ? 何にゃ? 怒ってるにゃ?」

「怒ってるの? 悲しいの?」

「悲しい……。」

「わかりづらいにゃ……。でもごめんにゃ。ぬか喜びさせたにゃ。」

リュディは腕組みをし、何かを考えていた。

「ねえ、ウィズ、その魔法って俺じゃ使えないのかな? その魔法をウィズが俺に教えるんだ。

そうすれは出来るんじゃないかな?」

「難しい魔法だけ………いまの私よりはリュディの方が可能性は高いにゃ。

リュディ、私の魔法を教えてあけるにゃ。」

「よし、決まりだ。よろしくね、ウィズ。」

「ダメにゃ。ちゃんと師匠って呼んでほしいにゃ。」

「あ、ごめんごめん。お願いします。師匠。」

「しぶぶぶ……。」

「なんで悲しんでるにゃ?」

「うれしい……。」

「わかりづらいにゃ……。」




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story4 魔法使いの修行


「まずはクエス=アリアスの基本の魔法を教えるにゃ。

魔法を使うのに必要なのはカードにゃ。クエス=アリアスの魔法はカードを介し、契約した精霊の力を借りて使用するにゃ。」

「ウィズ……まずカードがないんだけど。どうすればいいの?」

「大丈夫にゃ。カード自体は大したものじゃないにゃ。それに作り方も知っているにゃ。

でも、それだけじゃただのカードにゃ。精霊と契約して、初めてクエス=アリアスの魔道士が使うカードになるにゃ。

シーヴル。頼んでいた場所は見つかったにゃ?」

「あったよ。魔力がどよ~んってしてる場所。この子たちが教えてくれた。」

コロコロとシーヴルの足元に小エルフたちが現れる。何も話さないがどこか自慢げである。

「ありがとうにゃ。精霊との契約は、空間や魔力が淀んでいるところで行うにゃ。」

「案内するね。」


 ***


「ここ、すごくじめじめしてる。とてもいい所。」

「魔力の淀みがじめじめと関係しているなんて初耳にゃ。たぶん気のせいにゃ。」

ここに来てから魔王に貰った短剣が反応していた。リュディは手にとり、その震えを確かめる。

「ナイフが震えている。別の世界の力が干渉しているんだろうね。」

「そのナイフは淀みに反応するにゃ?

「空間の歪みに反応する石があるんだよ。俺たちが故郷から持って来たものをアルドベリクがナイフにつけてくれたんだ。

歪みを見つけ、正しい場所に移動するための石だよ。故郷の人たちが持たせてくれたんだ。

「ではリュディ、契約の方法を教えるにゃ。シーヴルは悪いけどこの場所から離れていてほしいにゃ。

契約の最中に強い魔力を持った人がそばにいると、失敗することもあるにゃ。」

「しぶぶぶ……。」

「悲しいんだろうね……。」

「うん。これはわかりやすいにゃ。」


 ***


森の奥からリュディとウィズが帰ってきたのを見て、シーヴルはふたりに駆け寄る。

「契約終わった?」

「うん。バッチリだよ。」

「リュディ、せっかくだから魔法を使ってみるにゃ。さっそく実践にゃ。」

言って、ウィズがリュディの肩に飛び乗る。

「おわあ! また?」

「駄目にゃ。弟子は師匠を肩に乗せる決まりにゃ。これも修行のー環にゃ。」

「これってそんな意味あったの? 確かに修行にはなるけど………。」

「嘘にゃ。でも私はここが落ち着くにゃ。」

「わたしもリュディの肩に乗りたい。」

突然、飛び上がったと思うと、空中でくるりんぱとちんちくりんな姿に変身。

そして、リュディの肩に着地する。

「うわ! シーヴルも?」

それを見て、ピーチクパーチク遊んでいたカヌエとソラも羽をばたつかせて、リュディの頭と背中に飛び乗った。

そうするものだとでも思ったのだろう。


「ごめん……さすがにこれじゃあ戦えないよ。それにしても……動物が多いね。」

「それは私も思ったにゃ。」

「わたしは動物じゃないよ、エルフだよ。」

「私だって違うにゃ!」





本の上で小エルフがコロコロと体を動かしていた。

「リュディ、修行の成果を見せるにゃ。」

「うん。行くよ。」


リュディはカードに魔力を込める。体に自分以外の何者かの力を感じる。声が聞こえてきた。

お前の答えを聞かせろ、と言ってくる。リュディが応じ、答えを呟いた。

瞬間。

精霊の力が解き放たれ、本へと力が流れ込む。

小エルフが本の中に吸い込まれると、最後にパタンと本が閉じた。

「成功にゃ! なかなか飲み込みが早いにゃ。」

「あの子はどうなったの? 死んじゃった?」

「大丈夫にゃ。リュディ、解除するにゃ。」

リュディが本を開き、何かを書き込むと再び本が光り始めた。

すると何事もなかったように、小エルフが本から出てきて、コロコロとシーヴルの方へ歩いていった。

「最初に解除の条件さえ決めておけば誰でも解除出来るにゃ。でも普通は、自分にしか出来ないことを指定するにゃ。

ともかく、これでエルフの避難先は確保できたにゃ。」

「北風のエルフもわたしたちの提案を受け入れてくれるって。移動するわけじゃないからいいみたい。

それに、リュディに逆らうのは良くないって思ったみたい。」

「それなら、あとは本番を待つだけにゃ。」

「うん。ありがとう、ウィズ。あ、ごめん。師匠だね。」

「にゃははは。久しぶりに師匠扱いされるとちょっとむずがゆいにゃ。」

「リュディ以外にも弟子はいるんでしょ?」

「いるにゃ。でも最近ちょっと私のことを下に見ている気がするにゃ。ただの猫扱いする時があるにゃ。

いつか痛い目に合わせないといけない気がするにゃ。」

「ウィズ、怖い。」


 ***



修行の日々がさらに幾日か過ぎた。

細い枝の焚き木が燃え尽きて、残った太い枝だけが燃え続けていた。次第に炎が緩やかに小さくなっていく。

エルフと鳥たちが体を寄せ合って眠っている中、リュディは仰向けになって、夜空を見ていた。


黒色の空に穴が空いたように、星が瞬いていた。

にゅっと何やら黒い物体が夜空も星も覆い隠す。夜に溶け込むそれは、ウィズだった。


「何を考えているにゃ?」

「よくわからないんだ。考えることが多くて、何から考えればいいか……。

いまこうやってエルフのために動いているけど、それが本当に自分の目標に向かっていることなのかもわからないんだ。」

「それなら、まずは最後に目指すべき場所を考えるにゃ。それからそこへ行くには、何をすればいいかを考えるにゃ。」

「俺はリザに会うことかな。ウィズは魔法使いと会うこと?」

「そうなるにゃ。」

「未来にいる人に会う方法か……。」

「難しそうにゃ……。」

「でも、俺が何かしなきゃ未来は変わらないよね。何か考えなきゃ。」


リュディは瞼を下ろし、眠りを呼び込む。

まだ見ぬ未来に向けて、為すべきことを為すために、眠りがー日の終わらせる。

そして、また未来への始まりを呼ぶ。



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story5 リュディの答え


リュディは北風のエルフの前に本を置く。

「今から君たちはこの本の中に入ってもらう。この魔法を維持する方法は、年に一度、祭壇に新しい供物が捧げられるかどうかだよ。」

「変わった条件にゃ。どういう意味があるにゃ?」

「色々考えたんだけど、そうすればいつかきっと途絶えると思うんだ。」

「途絶えたら良くない気がする。」

「すぐに途絶えることはないよ。きっとあの赤ん坊のお母さんは毎年供物を捧げてくれるよ。

そして、あの赤ん坊も大きくなったら同じように捧げるようになる。

でもさらにその先はわからない。200年か300年先になると皆忘れているかもしれない。

本当に良くないと思うのは、人がエルフのことを忘れてしまうことだ。

だから、忘れかけた時、あるいは忘れてしまった時にエルフたちがまたこの世界に出てくるべきだと思う。」

「それがいいにゃ。エルフを永遠に封印したいわけじゃないにゃ。いつかまた現れるようにした方がいいにゃ。」

「言ってみれば、これは人とエルフの約束なんだ。約束を忘れちゃったら1からやり直すしかないよね?」

「いいと思う。なんとなくしかわからないけど、すごくいいと思う。」

「それじゃあ、こっちが不安になるにゃ……。」

「そういうことだから、

人が約束を忘れた時……また会おう。」

リュディはカードに魔力を込めて、本に向けて解き放つ。

柔らかい光とともに北風のエルフは消えていった。

「完了にゃ。このことを村の人に説明するにゃ。ところで、リュディ、供物は何にするにゃ?」

「鳳凰の頭っていう食べ物さ。シーヴル、ここに書いてある植物の種をこの地に撒いてほしい。」

紙片を受け取り、シーヴルは小さく頷いた。

「シーヴルはそんなことができるにゃ?」

「うん。森のエルフは色々な植物の種を生み出せる。」

「材料が栽培出来ないと〈約束〉を守れないからね。」

「ぶぶぶ……。」

「うれしい……でいいかにゃ?」

「うん。うれしい。」


 ***


「私も弟子と旅していたけど、この旅はなかなか、大変にゃ。何より時間がないにゃ。」

「そうだね。戦争が本格化する前に、エルフを保護しないとね。」


「ところで、最近何を書いているにゃ。時間があったらノートに向かっているにゃ。」

ウィズはリュディのノートを覗きこむ。そこにはエルフの文字が並んでいた。」

「うん。試してみたいことがあってね。物語を書いているんだ。ちょっとした冒険譚だよ。」

「にゃ? 物語?」

「グレイスっていう女の子が主人公なんだ。」

「どうしてそんなことしているにゃ?」

「それはね……。

いまは内緒だよ。」

「意地悪にゃ。教えてくれてもいいにゃ。」

「グレイスって……すごく変な名前。」

「はは。エルフにとっては、そうかもしれないね。」




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