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【黒ウィズ】キワム編(Christmas stories 2015)Story

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最終更新者:にゃん

2015/12/15





story



収穫者――タモンとの激闘から月日が経ち――。

どこからか現れ、そしていつの間にか姿を消した魔法使い。

あの不思議な者の力を借りて、彼らは答えをひとつ見つけだした。

心に傷を負うことになった彼らだが、誰かを守りぬいたその誇りは、間違いなく糧となった。


「ほらクロ。散歩の時間だぞ!」

『ワン!』

「キワム、あまり遠くに行ったらダメだからねー?」

「わかってるって。すぐ戻るよ。」

『ワンワン! ハッハッハッ……。』

「おお、嬉しいか! 全くクロは散歩好きだなあ!」


キワムの周りを駆けながら、クロが尻尾を振っている。


「さ、行こうぜ、クロ。」


日課となっている散歩に出たキワムとクロは、肌寒さを感じ立ち止まった。


「すっかり冬だなあ……。

そういえば、あれからもう1年か……時間が経つのは早いな。」

『ワン、ワンワン!』

「んー……どうしたクロ?」


キワムはフォナーを取り出し、それに目を向けた。

「早く散歩に行こう!」


「はは、わかったよ。時間はまだあるんだから、焦らなくても大丈夫だって。」


クロはとにかく好奇心旺盛だ。

ときにキワムも、そんなクロに振り回されることがある。


「おおい! 待ってくれよ、クロ!」



クロが勢いよく前へ前へと進んでいく。

キワムは追いかけるのが精一杯だ。


「はぁ……はぁ……。

……どんだけ散歩したかったんだよ、あいつ。」

『アンタ、クロだけにして大丈夫なの?』

「お、おお……シキ……。」


どこからか現れたシキが、キワムに並んでいた。


『仮にも自分のがーディアンなんだから、ちゃんと見てなきゃダメよ。』

「わかってるけどさ。クロのやつ、今日に限ってはしゃいでるんだよ。」


『親の心子知らずね。』

「いや、それは違うんじゃないか。」

『……っていうかもうこんな時期だし、はしゃいじゃう気持ちもわかるわ~。』

「時期? どういうことだ?」

『教えてあげなーい。』


そう言ってシキがどこかへ飛び去ってしまった。

いったい何なんだよ、と思いながら、キワムはクロの後を追う。


「ふう、ようやく追いついた……。」

『はっはっはっ……。』


クロは気にした素振りを見せず、やはり尻尾を振り続けている。


「あんまり走り回ると腹減って動けなくなるぞー?」

『ワンッ!」 


わかっているのかわかっていないのか、クロはひとつ大きな返事をした。

それにしても、冷たいけれど穏やかな風だ、とキワムは思う。

傷つき疲れ果てた体を癒やすには、こういう日が最適なのかもしれない。

絶望や恐れを抱きながら、それでも果敢に立ち向かったことは確かだ。

仲間も増え、今は新たな道を探しながら、各々が模索している最中……。


「クロ、今日は帰ったら美味いものでも食おうな。」


心に暗い影を落とした収穫者との戦い。それはきっとクロも例外ではないはずだ。


「みんなもようやく落ち着いてきた頃だし、許されるならどこかでパーッとやりたいよな。」


もちろん、それが出来ないことは誰よりもキワムがよくわかっている。


『くぅ~ん……。』


擦り寄ってきたクロの頭を撫でたキワムは、小さく溜め息をつく。


「だけどな……俺に何ができるんだって話だし。」

『ワンッ、ワンワン! ワン!』

「そうは言うけどさ。俺だってつらいんだ。」

『ハッハッハッ……ワン、ワンワン!』

「まあ……確かにそうだよな……。

俺がみんなにしてやれることを考えないとな……。」


せめて少しでも仲間のために何かできないか……キワムはそれを考えていた。

それは、守られていたことへの恩返しでもあり、ともに進む仲間への感謝でもあった。


「よーし、クロ! 俺らに何ができるか一緒に考えてくれよ!」

『ワンッ! ワンワンッ!』

「そうかそうか! クロはいいやつだなあ、ホントに!」


キワムは満足げに頷いて、クロとともに再び歩き出した。



「ああ、キワム。どこに行ってたの? 探してたのよ。」

「どこって……散歩だよ。」

「トキオさんとスミオが戻ってないの。どこに行ったか知らない?」

「……いや、見てないけど。」


さっきばったり出会ったシキは、もしかするとトキオとスミオを探していたのかもしれない。

しかしスミオはともかく、トキオが何も言わず出てしまうなんてことがあるだろうか?


「……心配だな。」

「心配って……いや、私は別にどこに行ったのか知らない? って聞いただけで……。」

「わかった。俺が探してくる。」


言うが早いか、キワムは走りだしてしまった。


「もう……心配性は相変わらずなんだから……。」


トキオたちを探しまわって見たものの、そうそう簡単には見つからない。

少し離れたところに見えるスザクロッド――あの周辺にいるのかと思い、向かったが……

アテが外れてしまった。


『……くぅ~ん。』

「ごめんな、クロ。夕食までには帰るから、もう少し付き合ってくれるか?」


さすがのクロも、疲れがたまっているようだ。

だがそれにしても、いったいトキオとスミオはどこに行ったのか……。

そればかりが気がかりだった。


「だけど闇雲に探したところで見つからないだろうし……。」


スザクロッドを狙う収穫者の手先が現れないとも限らない。

そうなればロッドを守るため、トキオたちは戦うだろう。

そこで傷つき、倒れてしまうことだって――。

しかし、トキオとスミオのふたりがいて、あんな連中に負けるとも思えない。

だが仮にそれが思いもよらない集団であったり、彼らを上回る強さであったら……。

いや――


「うおおお、ダメだ! 悪い方向に考え出してどうするんだ、俺!」


とにかく、今はトキオたちを探すことを優先させなければ……。


「クロ、お前の嗅覚で見つけることってできないか?」

『ワンッ!』

「おお! そうか、いけそうか! さすが! すごいな、クロ!」


じゃあ、頼んだ――それを言った瞬間、クロは脇目もふらず進んでいった。


クロの後を追って走り、辿り着いたのはつい先ほどヤチヨと別れたところだった。


「…………。

なあ、クロ……?」

『ワン! ワンワン! ハッハッ……。』


キワムの周りをぐるぐると回りながら、クロは再び尻尾を振る。


「もしかして、腹が減ったから帰ってきた……?」

『ワンッ!』


よくわかってるじゃないか――まるでそう言いたげなクロの瞳。

キワムは盛大に嘆息して、その場にへたり込んでしまった。


「はあ……そうか。腹減ったよな、そりゃ。」

『ハッハッ、ハフッ……ワンッ!』


「おい、キワム。何してるんだ、こんなところで。」

「散歩にしたって、そんな汗だくになるもんじゃねえだろ……。」

「……と、トキオさん。」


その隣には、スミオの姿もあった。


「ん? どうした?」


探していたトキオは、思いがけないタイミングで現れた。


「お前、どこに行ってたんだ。ヤチヨが心配していたようだぞ。」

「い、いや……俺のほうこそ、トキオさんがいなくなったって聞いて……。」

「俺は食料の調達にでていただけだ。スミオを連れてな。」


トキオは、当然だと言わんばかりの表情で、キワムを見据える。


「お前がいきなり走っていったから、ヤチヨが心配していた。早く戻ってやれ。」

「ああ……うん……。

けど食料って、まだ備蓄があったはずだけど……。」

「ああ、たまにはな。」

「たまには……?」


キワムは未だ要領を得ず、首を傾げた。

だがそれを知ってか知らずか、トキオはキワムに背を向けて言う。


「先に戻ってる。お前も早く帰って来い。」


冬が、やがてスザクロッド付近を覆い尽くしていく。

まるで幻想的な白色は、静々とした空気感に新たな装いを与える。


「すっかり冬だな……。」


この時期、恐らくどこもそうなのだろう、とキワムは思う。


『ワンワンッ! ワンッ! ハッハッ、ワンッ!』

「ん? クロ、朝からどうしたんだ?」

『ワンッ! ワンワンツ! ハッハッハッ……くぅ~ん!』

「聖なる夜……。

そうか! ああ、なるほどな!」


なるほどようやく合点がいった。

戦いに明け暮れる日々、ようやく一時の平穏が訪れたため、そんなことをすっかり忘れていた。


「そうか。だからクロはちょっと舞い上がってたんだな!」

『ワンッ!』

「俺にもできることがあるじゃないか。こういう日は、みんなにプレゼントってのが相場だよな。

よしよし、そうと決まればクロ! 早速、プレゼント選びだ!」


街を抜けて、一通りのものを集めた。

今日ぐらいは、とトキオが言っていたように、今日は特別な日でもある。

疲れや傷を癒やすに至るかはわからないけれど、自分にできることは何でもやっていきたい。

キワムは、そう思った。


「ええっと……これだけあれば……大丈夫かな。」

『ワンッ! ワンワンッ!』

「ま、待て待てクロ! クッキ一はまだ食べちゃダメだ!」

『ワンワン!』

「いや、ダメだって……! えっ、うそクロ……力強すぎるぞ……っ!」


クッキーが入った袋を哩えたクロが、キワムの言葉を聞かず引っ張り続ける。


『グルルルル……ッ!』

「くっ……。」


何とか持ち帰らなければならないのに、まさかこんなところで苦戦するなんて……。


「わ、わかった……こうしよう。クロがみんなのもとに先に帰れたら、これをやる!

それでどう――」

『アン! ワンワンッ!』


言い終わるやいなや、袋を咥えたままクロが走りだした。


「――って最後まで聞いてくれよ、クロ!


……どのみち、キワムが追いつけるとは思えないが。


「……ってキワム、あんたクロになんて格好させてんのよ。」

「いやほら聖なる夜だから……。」

「あのねえ……。」


カ強く袋を噛んでいたせいで、いぬクッキー(チーズ味)は見事に道々に落ちていった。

帰ってきた頃には、クロは、それに群がったどこかの犬たちを引き連れていた。


「わあ……すごいね~、どうしたの、これ?」

「俺も何がなんだか……。」


たくさんの犬たちがクロの周りを囲んでいた。


『ワンッ!』


当のクロは楽しげに尻尾を振って、舌を出している。


「ま、まあ……たまにはいいんじゃないか。」

「それはそうだけど……。

それにみんなにもプレゼント買ってきたんだぜ。」


そう言ってキワムは、いくつかの箱、袋を取り出した。


「すごーい。キワム、どこで買ってきたの?」

「ああ、ちょっと向こうのほうで。」

「でもわざわざこんな……。」

「たまには俺もみんなに恩返しっていうか、感謝の気持ちを伝えなきゃなって思ってたしさ。」


照れくさそうに頭を掻いて、キワムはクロに近づいていく。


「クロー、食べ過ぎると太っちゃうからなー、気をつけろよー?」

『ワンッ!』


本当に理解してくれているのか……キワムは苦笑いを浮かべてしまう。


「お前たち、こっちを手伝ってくれ。」

「おーい、早くこっち来てくれよ!」

「ふふ、トキオさんまで少し浮かれてるみたい。」


訪れた平穏な一日……こういう日があってもいいかもしれない。


「よーし、今日は俺も羽を伸ばすかな。」

「調子に乗って、羽目を外し過ぎないようにね、キワム。」

「ぐっ……わ、わかってるよ……。」


そうは言ったが、やはり羽目を外してしまうかもしれない。

今日ぐらいは……きっとみんな許してくれるだろう。

束の間に訪れた聖なる日は、こうしてキワムたちを包み込んでいった。





キワム編(Christmas stories 2015)―END―





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