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【黒ウィズ】幻魔特区スザク3 Story5

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最終更新者:にゃん




story ミュールとカリュプス



月での収穫者たちとの戦いが終わって、3日。

スザクロッドに戻ってきたキワムたちは、疲れきった身をしばし休めた。

その間に、アーノルドを通してのスザクロッド側の交渉や、タモンたち収穫者の引き渡しが行われた。


kごめんな、アサギ。ややこしいこと、みんな任せちゃって。

O構いませんよ、キワム・ハチスカ。事が終われば、心おきなく、クロの散歩に打ち込めますからね!

Kワンワン! ワフゥン!

「散歩」というワードに反応して興奮するクロを、キワムは苦笑しながら抱え上げる。

kそのときは全力で接待させてもらうよ。でーー

彼は、困ったように眉を寄せた。

kあのさ……ミュールの話。カリュプスのことって、その……どう?

Oああ、あれでしたら、ミュールと話をしましたよ。

どうやら彼女は、自分で言っていたとおり、カリュプスが生み出したガーディアンアバターのようです。

その言葉に、集まっていたキワムたち一同は、顔を見合わせる。

Sアバター、ってことは……ヤチヨやキワムみたいなっていうより、アタシやクロみたいなもんつてこと?

mのです、のです! シキとクロとおそろいでありまして!

Kクゥン?

tなら、ミュールはカリュプスの心なのか?

sあれっ、てことは、カリュプスってけっこういいヤツ……?

O正確には、カリュプスの心そのものではなく、カリュプスの「理性」が生んだ、特殊な分身体……ですね。

カリュプスは、当然ですが、C資源の塊です。

ただ、カリュプス自身は、そのC資源が、心――ソムニウムに呼応して特殊な力を発揮すると、気づいていなかった。

bへえ。自分の身体のいちばんの特徴なのにね。

y先に人間に気づかれて、利用されたわけだ。こういうのも灯台下暗しって言うのかね。

Aでも、ミュールを生み出したってことは、使い方がわかるようになった、ってことだよね。

アッカの姿になったロッカが手にしたフォナー。そこから現れたアッカのホログラムが言う。

O分身体がガーディアンと戦ううちに〝そういうことができるらしい〟と理解し、ミュールを生んだようです。

mおかあさん、人間しらずゆえ! 人間しるに、ミュールうまれる、いちばんなり!

k人間のことを知るために、ミュールを生み出した……。

「カリュプスなりに、コミュニケーションを試みたのか。

Oミュールの話では、カリュプスは本能的に、あらゆる生命をエネルギーとして吸収したがっているそうです。

Yって、やっぱヤベェ奴じゃねっすか。

Oあくまで本能の話です。理性を以って制御すれば、その欲求を抑えることもできる。

bはあ。そんなの、普通に我慢したらいいじゃん。

mがまん、むりのです。おかあさん、食べるの大好きでして。

Aカリュプスは根本的に我々とは異なる生命体のようです。本能を理性で制御することができない。

というよりも、本能と理性が、ほとんど別の人格として確立しているのに近いようですね。

kなんか、すげー生き物だな、それ……。

でも、ミュールがいるってことは、なんとかする気があっちにもある、ってこと……だよな?

mもちろんです!

Oミュールを通じてソムニウムの使い方を覚えれば、自分の肉体を自在に制御できるようになり……。

t他の生物を喰らわなくてもいいようになる、かもしれない……か。

Yそうしたら、カリュプスとも共存できるかな。

=人間がカリュプスを受け入れるかどうかは、厳しいところだな……。

カリュプスヘの恐れもあるし、今のスザクロッドの生活はC資源に頼りすぎている。

kでも、根気よく話し合ったら、いつかはなんとかなるかもしれないだろ。

ミュールとも、こうやって仲良くなれたんだしさ。

mえヘヘ! ミュール、キワムたちともっと、仲良くしたいでありまして!

=そうだな。道は遠いかもしれないが、辿り着けないわけじゃない。私も、説得材料を探してみるよ。

Aにしし。いつか、ロッドなんていらない日がくるかもね。



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story 収穫者たちの処遇




スザク大ロッド、収監区――

集められた4人の収穫者を前に、アサギは告げる。


O……貴様らは、キワム・ハチスカ同様、体内のC資源の過剰消費に対するリミッターを失っていた。

そして、カリュプスの体液がもたらす破壊衝動に呑まれ、いつしか精神の破綻にすら至っていた……。

z…………。

x…………。

h…………。

U…………。

O貴様らを治療するにあたって、C資源による精神汚染も除去されている。

C資源に由来する破壊衝動は、鳴りを潜めているはずだ。

zで――俺たちを、元通りの、「人類を守る機械」に直した、ってわけかね?

皮肉げなタモンの言葉に、アサギは首を横に振る。

O「人類を守る」ペース人格プログラムに、手は加えていない。あくまで破綻した精神を調整しただけだ。

=君たちの暴走に間しては、身勝手な人間のやり方にも非がある。

アサギの隣で、アーノルドが言う。

=今さら、「人を守れ」というプログラムを植えつけるつもりはない。

O今の貴様らは、持って生まれた使命感でも、暴走した心でもなく、自分の意志で判断を行える。

hだからって……過去が消えたわけじゃない。

ヒミカが、うめくように言った。

hかつて感じた痛みや……苦しみや……絶望がなくなったわけじゃない。

xそれに、私たちのしてきたことが帳消しになるわけでもないでしょう。

試すようなトキモリの視線を、アサギは平然と受け流す。

O当然だ。貴様らはひとまず、このアサギの管理下に置かれることになる。

今後、さまざまな混乱の発生が予測される。貴様らには私の命令に従い任務に就いてもらう。

――いずれは、貴様ら自身の意志で身の振り方を決められればいいのだが。

その言葉を残し、アサギはきびすを返した。

アーノルドもその背について部屋を出ていく。

残されたタモンたちは、重苦しい沈黙のなかで、それぞれ吐息した。

zやり直せ、ってか? 今さら……。

全部壊すしかねえって、そう決めきったあとによ。

Uいいじゃないですか、タモンさん! やり直しましょうよ! 世のため人のため、生まれ変わるんです! んんー!

zウシュガちゃん、変わったねえ……ま、いっちゃん破綻が激しかったからな。

タモンは、ヒミカとトキモリに視線を送る。

ふたりは何も言わず、ただ目を伏せていた。

z俺たちは、まあ……そうも行かんわな。

やれやれ……これなら、壊れたままの方が、気が楽だったかもな。



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story



そういえば、案の定、移送用ロッドが敵に襲われたと聞いたが……。

Yおう。ま、軽くノしといたぜ。

b私たちにかかれば、あんなもんよね。


ロッドの中からガーディアンを操って戦ったんだっけ? すげー難しそうだけど……。

Yははは、まあ、そこは年の功ってヤツでな……。

Oそのときの様子が戦闘記録に残ってますよ。せっかくだからここで再生しましょう。

Yお師匠さん!? それは待っ――




「鎖をちぎれ、砕け伽、我が道塞ぐものを断て! ”リベルタス″’!

「一ツ目射るは我が心、穿ち貫き敵を討て! ”エクサエクオ”!

アトヤとコベニは、移送用ロットに残ったまま、ロッドの外にガーディアンを展開した。

ガーディアン製造施設付近の地表に埋まったロッドヘ、機械兵たちが群がりつつあった。

「あーもー! やっぱロットの中から遠隔操作とか、無理あるっての!

「しょーがねーだろ、外に出られねえんだからよ!

「宇宙服とか着てったらダメなの!?

Y生半可な宇宙服なんざ、連中の攻撃であっという間にぼろぼろだっつーの!

アトヤとコベニは、ロッドのモニターを見ながら、外に展開したリベルタスとエクサエクオを操る。

リベルタスの剛腕が敵の布陣を崩し、エクサエクオの矢が各個撃破していく。

「ったく。まさか月で防衛戦やるなんてな。200年前にゃ考えてもなかったぜ。

「ねえ、アトヤ。

「なんだよ?

「あのときさ。200年前。なんでいなくなっちゃったのよ。

「はあ!? おまえな――なんで今それ聞<よ!?

「だって、あれからいろいろあって、ふたりっきりで話せなかったじゃん!

ねえ、なんで! なんで出て行ったの!

アトヤは帽子で目元を隠し、口をとがらせてそっぽを向いた。

「そりゃ……おまえがいなくなったからだよ。

「え?

「だから! みんなどっか行っちまって、おまえまで消えちまったから、見捨てられたと思ったんだよ!

「はあ!? 何ソレ! 私、ほんのちょっと出てっただけじゃん!

「だから、おまえの「ちょっと」は半年もかかんのかっつーんだよ! 半年待ってた分、偉いだろ! 俺!

ガーディアンを操作しながら、ぎゃんぎゃんとわめき合って――

不意に、コベニが、ぽつりと言った。

「……ごめん。

「え。

「アトヤがそんな風に思うなんて、考えてなかった。……ごめん。

「え、あ、いや、まあ……もういいだろ、それは。今はそんなに気にしちゃいねぇし。会えたし。ほら。

つーか今そういう話してる場合じゃねーんだって!

『いちゃついてないで戦え、アトヤ・ハクザン

「ほーら来たー! 絶対言われると思ったー! はいはい戦いますよ戦ってますよー! なあコベニ!?

「ねえ、アトヤ……。この戦いが終わったらさ……。

「続けんなよ!! エアを読めよエアを!!

『んんー!? 終わったらどうするんだい!? 気になってしょうがないよぉ! んんんー!?

「なんでてめえが出てくんだー!!



k…………。

y…………。

Yなんだよ!!



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story



tわかりました。では、その件はこちらで対処します。

担当官に一礼し、トキオはスミオを伴い、スザク大ロッド内部の通路を歩いていく。

sまたガーディアン絡みの面倒事か。尽きねーな。

t無理もないさ。真実を知らないガーディアンの方が多いんだ。

少しずつとはいえ、彼らに情報を開示すれば、混乱するのは当然だ。

s……そうだな。俺らも、最初は頭ン中、真っ白になったもんな。

tああ。だからこそ、彼らに道を示すのは、先に苦労した俺たちの役目だ。

冗談めかした物言いをして、トキオは笑う。

と。

=トキオ、スミオ! こっちに来てたのか。

通路の向こうから、アーノルドがやってきた。


t我らがスザクロッド自警団リーダーのご命令でな。


キワムも、指示出しが板についてきたかな。


思わず滅入るような仕事を押しつけられてるよ。あいつ、俺ならできると思いやがって。


できるから、押しつけられているんだろ。

冗談を交わし合いながら、並んで廊下を歩く。


tそういえば、アーノルド。小ロッドヘの移民計画が進んでいると間いたが。

sえ? マジで? それ、人間が、ってこと? なんで小ロッドなんかに?

=相互理解に、コミュニケーションは必要不可欠だ。特に、「日常を共に過ごす」という経験はな。

ガーディアンヘの偏見は根強い。それを取り去るには、共に暮らし、互いの心に触れあうしかない。

tそれはわかるが……よく小ロッドに住もうなんて人間がいたな。魔物――カリュプス分身体の襲撃もあるのに。

=大ロッドの土地は高いんだ。貧富の差の拡大もあって、貧民層の居場所が年々失われつつある。

小ロッドの開墾に参加すれば、政府から助成金が出る……となれば、飛びつく者も多い。

スミオが、大仰に天を仰いだ。

sキワムが言ってたとおりだな。どこの誰でも、人生はすげー難しい、って。

=おまえたちほどではないかもしれないがな。

アーノルドは苦笑した。

=小ロッドに人が根づけば、やがて街ができる。各地に街が築かれれば、それを繋ぐ商路が生まれる。

100年もすれば、人間がC資源に頼ることなく生きていくすべも見えてくるだろう。

s100年、って……おいおい、遠大すぎんだろ。

=私の代では、さすがに無理だな。だが、君たちがいてくれる。

信頼に満ちた言葉に、トキオは小さく笑ってみせた。

t長すぎる寿命を呪いもしたが……こんなところで役に立つとはな。

長生きも、してみるもんだ。




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story



Y……ヒミカ。

スザクロッド収監区、独房。

訪ねてきたアトヤとコベニを見て、ヒミカは小さく鼻を鳴らした。

hおまえたちか……どうして来た。

bその……治った、って聞いて。お見舞いに……。

h〝治った。〟それは、身体の話か。それとも私の人格のことを言っているのか?

確かに、カリュプスの破壊衝動とやらは、除去されたようだ。

だが、何も変わりはしない。私にとって、この世界が絶望に満ちているという事実は――

吐き捨てるように告げるヒミカを、アトヤはしばし、じっと見つめて――

Y俺さ。夢があんだよ。

唐突に、そう切り出した。

bアトヤ? ちょっ、こんなときに、いきなり何?

Yずーっと昔……俺たちのロッドがあった頃からの夢だ。何百年も経っちまったけどまだ錆びついてねえ。

hどんな夢だ。

言葉とは裏腹に、ヒミカの声には、何に対する興味の色もなかった。

hこのどうしようもない世界に、おまえはどんな夢を見た。

Yスターになる。

hは?

ヒミカが、ぽかんと口を開いた。

Yスターさ。このどん底の世界に輝く一番星。みんなを勇気づける、みんなのための星だ。

いろいろあったけどよ。その夢だけは捨てられなかった。今は……捨てなくて、よかったと思ってるよ。

h…………。

Yなあ、ヒミカ。キワムたちは前に進んだ。

俺たちと同じように、このろくでもない世界に絶望してた後輩どもがさ。顔上げて、歩いていくって決めたんだ。

俺たちの人生は、クソみてえに長えけどよ。逆に言や、いつだってまた立ち上がれるってことだろ。

h私にも……そうしろと言うのか。もう一度……やり直せと……。

Y言わねえよ。

スターってのは背中で人を動かすもんだ。しろとは言わねえ。させてやる。

見せてやるよ。本当の星ってヤツを。おまえがどんなに絶望しようが、見上げたくてたまんなくなる星を!

待ってな。まずは放送局だ。スザクロッド初のガーディアンのスターになって、後でサインをくれてやる!

言いたいことを言うだけ言うと、アトヤは勢いよくヒミカに背を向け、独房の外へと駆け出した。

bあっ、待ってよ、アトヤ! もう、なに熱くなっちゃってんの!?

コベニもそれを追いかけて、あわただしく独房を出ていく。

後にはただ、呆けたような顔をした、ヒミカだけが残された。


ヒミカは、しばし、なんと言っていいやらわからない、という顔で悩んだのち――

小さなため息とともに、つぶやいた。

h……変わってないな。あのバカは。

そして、ふと気づく。

h変わってない……。そうか。あいつ、200年も、バカのままなのか。

200年もの時を経て、変わらぬままでいられる。

ひょっとしたら、それは、とてつもなくすごいことなのではないかと――そう思ったのだった。




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story 魔法使いとガーディアン



yまさか、あの魔法使いが、他の世界から来てたなんてねー……。

Aにしし。道理で、浮世離れした格好してたわけだよね~。

k俺は、なんとなくそうなんじゃないか、って思ってたぜ。

ほら。前に俺も、別の世界に行ったしさ。

sそれ、10何年か前に言ってたアレか? おかしな島に行った夢を見た、ってヤツ。

kだからさ、アレやっぱ夢じゃなかったんだよ! 魔法使いにだって、そこで会ったんだ!

sいや~、それは夢だろ。夢夢。絶対夢。

kそんなことないって! クロもいっしょに行ったんだぜ? な、クロ! 行ったよな!?

Kハグハグハグハグハグ……!

kあ、オヤツ中でしたね……スミマセン……。

tあの魔法使いにも驚きだが……。

魔法使いを呼んだカムラナの、時間と空間を操るというガーディアンアバター。あれも相当とんでもないな。

y未来や過去の情報を収集できるなんて、ちょっと、理解を超えてるよね。

Aさすがに、なんでもかんでもわかるわけじゃないみたい。カリュプスがどうして来たのか、とか。

はた、とキワムは手を打った。

kそうだ。ミュールなら、知ってるんじゃないか? カリュプスの正体!

mんふー、かわいしかわいし……ハッ!? 呼ばれでありましてか!?

クロを愛でていたミュールが、あわてて振り返る。

そして改めて話を聞いて、力強く言った。

mカリュプス、おかあさんです!

kじゃ、なくてさ……。

O彼女は何も知りませんよ。カリュプス自身も、自分が何者なのかわかっていないのでしょう。

ですが、おおよその推測はつきました。

カリュプスは、おそらくガーディアンです。


アサギの言葉に、一同は固まった。


kカリュプスが……ガーディアン!?

O正確には、かつてどこかの文明で造られた、C資源で構成されている人造生命体、でしょう。

tそういう意味で、俺たちと同じということか。だが、なぜそう推測した?

アサギは、キワムに鋭い視線を向ける。

キワム・ハチスカ。月での戦いで、あなたはC資源を暴走させた。まるでカリュプスそのもののように。

おそらく、〝そうなってしまった〟のがカリュプスです。暴走の末、すべてを喰らう存在になり果てた。

k俺も……みんなや魔法使いがいてくれなかったら、カリュプスみたいになってたってことか……。

Oですが、長い時間が、暴走したカリュプスの心に失われかけていた理性を呼び覚ました。

その証が、ミュールです。

mなのでして!

kなら、ますます共存できそうな気がしてきたな。

会ってみたいよ。本当の心を取り戻した、カリュプスに。



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story 心、晴れ晴れ



キワムは、街を見ていた。

スザク大ロッドの通路。そこからは、ロッドの街並みを一望できる。

多くの人が生き、多くの人が笑う街並み。それを、目に焼きつけるかのように、見つめていた。


yキワム、トキオさんから連絡。明日には、124号ロットに向けて出発できそうよ。

kそっか。サンキュー、ヤチヨ。

背後からの声に振り向き、キワムは笑った。

kそこのガーディアンたちは、まだ、本当のこと、知らないんだよな。

yうん。ヴィルゴに襲われる前の私たちと同じ。ずっと、小ロッドを守り続けてるみたい。

ヤチヨが隣に並び、見上げてくる。

キワムはわずかに目を細め、街並みに視線を戻すと、ぽつりとつぶやいた。

k……辛いだろうな。本当のことを知ったら。

y……そうだね。

kでも、伝えなきゃいけない。そうしないと何も変わらないし……本当の自分にだって会えないんだ。

ヤチヨは、目をぱちくりとさせて、キワムを見た。

その唇が、わずかに緩む。

y……キワム、変わったよね。

kえ? そうか?

y本当は、何も変わってないんだろうけど。でも、そっか。そうなんだよね。

やっぱり、それがキワムなんだ。

kああ。これが〝俺〟だ。今なら、はっきりそうだって言える。

yふふ。

kなんだよ?

yわかっちゃった。

kなにが。

きょとんとなるキワム。ヤチヨは晴れやかな顔で、思いっきり伸びをする。

yんんーっ……あー、すっきりした。

kあの。ヤチヨさん?

y明日。がんばろうね、キワム。

kお、おう……って、だから! どれの何の話!?

yおやすみー。

kぅおーい!



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story



収穫者たちとの決戦から半年。

人間とガーディアンの架け橋として活動していたキワムたちは、ある日、アーノルドに召集された。


kいったいどうしたんだ、アーノルド?

=緊急事態だ。スザク大ロッドに進行中の、巨大なカリュプス分身体が確認された。

sそれ、どっかの小ロットが突破されたってことか!?

=突破というか……無視された。この画像を見てくれ。

アーノルドがホログラムで表示したのは、大きな山……。

……の影から姿を現す、同じくらいの大きさの魔物だった。

s……え。これ? ……マジに、これ?

=マジに、これだ。小ロッドになど構わず、まっすぐ向かってきている。

yって――ええっ!? こんなのが来てるの!?

tなるほどな……確かに小ロットのガーディアンが止められるレベルじゃない。

m食べたら、おなかぱんぱんなるますね!

A突然変異、っていうか……他の分身体を共食いして、おっきくなっちゃったみたい。

kこんなのが来たら、街が無事じゃすまない!

=だから、緊急事態だ。それで君たちに来てもらった。

tとはいうが……こんなバカでかい敵、俺たちがいくら攻撃したって、焼け石に水だ。

Oええ。ですので、C資源から精製した極めて強力な爆薬を、大量に列車に乗せて――

この分身体に突撃させ、爆破します。


yさらっとすごい作戦ですね……。

=君たちに頼みたいのは、列車の護衛だ。他の分身体に襲われて、途中で爆発したんじゃたまらない。

kやるしかないな……。

=頼む。逆にこの一件がうまくいけば、君たちを正式にスザクロッド自警団として認定できるかもしれない。

Yやっと〝非公認〟の熔印とはおさらばか。

b街の危機を救うんだもんね。ひょっとしたらヒーロー扱いされるかも!

Yお、いいねエ。スター街道まっしぐらだ!

tハクザン兄貴のスター計画はさておき、今後の活動がやりやすくなるのは確かだ。

sよっしゃ! やる気、出てきた!

=その意気だ。ついては、彼と協力して当たってほしい。

kん? 彼?


U決まってるだろこのウシュガ様だよ! んんー!?

kうわぁ……。

Uなんだいその顔!!!


 ***


キワムたちは、ウシュガの操る縫合列車に爆薬を乗せ、巨大分身体めがけて移動を開始した。


y索敵に反応! 敵が来てるよ、キワム!

kよし、ウシュガ、列車は任せ――ごあっ。

Uひー! ひー! 爆発するー! 襲われたら爆発しちゃうー! やめて止めて助けてんんー!!

涙目のウシュガがキワムに抱き着く。

kひっつくな! こっちでなんとかするから! おまえはちゃんと列車を操縦してろ!

Uぐすぐす……こういうの、苦手なんだよ~。元々さ、僕ってさ、研究者肌だしさ、後方支援特化型っていうかさ……。

もともとさ、だぁーれもいなくなったロッドでさ、みんなのためになると思って、ずっと研究して……。

yあの、今はいいから。そういう話。

そのとき、列車が大きく揺れた。

sなんだ!? 外の敵はまだ近づいてねーぞ!

y待って……違う! これ……そうか、地中を潜行してきたのね!

デバイス状態のシキを操作し、ヤチヨは敵の位置を割り出した。

yやばっ! 列車の下部に取りつかれてる!

tくっ、やりにくいところにつかれた!

Y近づく奴らは俺とコベニで迎撃する! ネジヅカブラザーズは、お客さんを叩き落としてやんな!

bんじゃ、行きますか!

コベニのエクサエクオが、アトヤのリベルタスの翼となった。2人はその上に乗って、列車に接近する敵の迎撃に飛ぶ。

t了解だ! スミオ、行くぞ!

sおう、兄ちゃん!

トキオとスミオは、列車の両側から飛び降りた。

同時にガーディアンを展開。ライティング形態で、列車と並行するように走り始める。

そのまま、列車下部に取りついた敵を撃ち落とすつもりだ。

kよし。そいつはトキオさんたちに任せよう。ヤチヨは索敵を継続。俺とミュールはここで待機。ウシュガは――

Uごふ。

kごふ?

振り返ると。

ウシュガが、全身をガクガクとけいれんさせ、奇怪極まるへんてこな踊りを踊っている!

Uんけけけけけけ! んんー! んんんー! ひょー! なんだろう世界がすばらしく輝いて見えーる!

kウ、ウシュガ? いきなり、えっ、どう……どした?

mカリュプスのえき、入ってますからゆえ。

kへ?

mウシュガに、カリュプスのえき。ぞくぞく流れてますのでして。

Rねえ、みんな。なんかアッカが呼んでる~。

ロッカがフォナーを操作すると、アッカのホログラムが浮かび上がる。

Aまずいよ、キワム! 列車に取りついた分身体が、ウシュガの心をハッキングしてる!

kなんだって!?

Aこのままじゃ列車を止められちゃうよ!

kお、おお、ええっと……どうすりゃいいんだ!?

Aウシュガを殴って!

yあ、それでいいんだ。

kいや、でもさすがにそれは――


Uボクを殴る? あはははは、なーに言ってんだい、こーのウルトラトウヘンボク野郎!

僕は列車! 列車なんだよ、んんー!? わかるかなーこの列車度、列車感! しゅしゅぽぽ、しゅしゅぽぽ、んけけけー!


k……殴ってやった方がいい気がしてきた。

yそうね。叩けば元に戻るんじゃないかしら。

mてきとー!!


 ***


そんなわけで、ウシュガを殴った。

Uぐすぐす……ヒドいよキワム<ん……このウシュガ様が何をしたっていうんだ……。

Aあ、戻った。

kごめん。

Kクゥーン。

yキワム、列車が突撃コースに乗ったわ! そろそろ離れないと、私たちも危険よ!

t取りついていた奴は撃ち落とした!

Yこっちも、近づく奴は蹴散らしといたぜ!

kよし、飛び降りるぞ! みんな、準備はいいな!?

Uギャー! 足くじいたー! もう無理だー! 僕はここで死ぬんだー! んんー!!

k何やってんだよおまえもおおおおお!! いいからつかまれ!

Uどうせならヤチヨちゃんにつかまりたい。

kおまえなあ!

yお先ー。

Rギシシー。

kお、置いていくなよ! あー、アウデアムス! ウシュガくわえて!

Uんんー!? んひー! 食・わ・れ・るー!!

mとー!

キワムたちは、ライディング形態で列車から飛び降りた。

列車はそのまま、荒野を行く巨大な分身体へ向かって、線路を驀進し――

数分後、すさまじい閃光と爆音が、荒野を満たした。



kな、なんとかなった……。

荒野の片隅に伏せていたキワムが身を起こす。

kなんか、異様に疲れたけど……。うん……勝てたな……。

Uキワムくううううんんー!!

kごはっ。

涙と鼻水をまきちらしながら、ウシュガがキワムに絡みつく。

U怖かったあああああ! んんー!! 怖かったよおおおおお!! んんんんー!!

kあーもー、大丈夫だから落ち着けって! というかおまえ、前よりダメになってないか!?

泣きわめくウシュガと、懸命にそれをなぐさめるキワム。

そのふたりを見て、仲間たちは顔を見合わせる。

sあのふたりの組み合わせって……なんか、アレだな……。

yこう……合わせると。どっちもダメになるタイプっていうか……。

tそもそも、ウシュガと相性のいい人間は、なかなかいないような気もするがな……。

Kガウ。




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story



「敵襲ー!!

小ロッド全体に、サイレンの音が響き渡る。

自警団の長を務める男は、ロッドに迫りつつある敵の数を確認し、思わず、うめき声を上げていた。

「なんて数だ……! これまでの比じゃないぞ!

自警団はアバターを展開して前へ! 市民には避難命令を出せ!」

指示を出しつつ、自身もガーディアンアバターを展開。小ロッドを飛び出し、平原に出る。

黒い濁流が、津波のように押し寄せるのが見えた。途方もない数。思わず、ぞっと総毛立つ。

「だ、団長!

「怯むな! 仕掛けてあるトラップで、ある程度は数を減らせる!

だが、それが限界だろう、と彼は踏んでいた。

到底、勝ち目のある数ではない。最終的にはロッドにこもって簸城戦をやるとして、それでも防げて数日だろう。


「ここが、死に場所ですかね。

「かもしれん。

素直に認めた。虚勢が意味をなす状況ではなかった。

「だが、我々が逃げるわけにはいかない。市民が逃げる時間を稼がねば。

団員たちが、一様にうなずく。

人間たちがこのロッドに移住してきて、4年が経つ。

最初は互いに不信感を拭えず、軋轢(あつれき)や諍い(いさかい)が絶えることはなかった。

だが、苦楽を共にするなかで、いつしか、互いに手を取り合い、笑い合うようになっていた。

真実を知らず、ロッドを守り続けていた頃とは違う。今は、「守る」ことに確かな意味がある。

だからこそ、ガーディアンたちの顔には苦渋の色があった。

「できれば、彼らが逃げきるまで保たせたいが……。この数を相手に、どれだけ持ちこたえられるか……!」


「大丈夫だ。」


声が、響いた。

迫り来る黒の濁流を吹き飛ばす、ただただ圧倒的な力とともに。

敵の群れが、止まった。突然の一撃で前線をあっけなく蹴散らされて、たじろいだように動きを止めていた。

目を見張るガーディアンたちの前に、人影が立つ。

漆黒の獣を伴い、力強い笑みを浮かべた、ひとりの青年が。

「もう誰も泣かせやしない。」

青年が、前に向き直る。たった今、吹き散らした敵の群れへと。その恐るべき数に、いささかも臆することなく。

その背を見つめ、ガーディアンは思わずつぶやく。

「来てくれたのか……! スザクロッド自警団の、キワム・ハチスカが!」

「スザクロッドのガーディアン……あの、キワム・ハチスカ!」

驚嘆と敬意の声を背に受けながら、青年は、ゆっくりと歩を進める。

〝守る〟という決意に彩られた、誰よりも強い眼差しで、敵を見据えながら。

「我が心の化身よ。共に進もう。」

その呼び声に、一片の迷いも恐れもありはしない。

「我と共に挑め――“アウデアムズ!!」




 ***



『伝言メッセージを再生します。』



……魔法使い。聞こえるか? 聞こえてるといいけど……。


あれからいろいろあって、俺たちは今、正式に、スザクロッドの自警団をやってる。

人間と話し合ってさ。認めてもらえたんだ。アーノルドが、がんばってくれてさ。

それで今は、各地のガーディアンと人間との、橋渡し役みたいなことをやってる。

そうそう。俺、成長したんだ。アサギの話じゃ、身体のC資源が心の成長に呼応したとかでさ。

スミオたちは、まだうまく行ってなくって、キワムだけずるい、なんて言われてるよ。


……なあ、魔法使い。

俺たち、やっと、なんとかやっていけそうだ。いろいろあるけど、前を向けてる。……おまえのおかげで。

だから……また今度、遊びに来てくれよ。

見せたいんだ。俺たちの守ってるものを。おまえのおかげで見えたものをさ。


だから――いつかまた――

また――会おうぜ。魔法使い……。




コメント (幻魔特区スザク3 Story5)
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