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【黒ウィズ】フェアリーコード Prelude story2

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story


 かちゃかちゃと、食器の鳴る音だけが響<。

ソウヤは、向かいに座る娘の様子を注意深く見つめた。

…………。

 黙々とムニエルを切り分け、口に運ぶ。その瞳はどこを見ているともつかず、ただ茫洋とさまよっている。

ムニエルを食べ終わると、今度は横のサラダにフォークが向いた。レタスを突き刺し、ぱくりと食べる。

おいしいかい?

答えはない。事務的とさえ言っていい動きで、また新たなレタスを突き刺し、食べる。

サラダのドレッシングを変えてみたんだ。知り合いに勧められてね。前と比べてどうかな?

 やはり、答えない。そもそもソウヤを認識しているのかどうか。

食事にしても、必要な栄養分が目の前に提示されたから摂取しているだけ、という風にしか見えない。

ソウヤは、深い嘆息を吐きたくなるのをこらえた。自分のせいでため息を吐いている――などと娘に思わせるわけにはいかなかった。

たとえ、今の娘に、そんな情緒が微塵たりとも残っていないのだとしても。



でさー。朧車先輩がさー。実はアイロニストなんだってー。

アイロニストって?

エクストリームなとこでアイロン掛けするスポーツの人。こないだなんて自転車に乗りながらやったんだって。

そうなんだー。朧車感あるねー。

 そんな会話を交わしていると、ルミスがふわっとトヨミの後ろに現れた。

ひょいひょいと、トヨミの髪をつかみ、本人に見えないところで勝手に三つ編みにしていく。

リレイは思わず周囲を見回したが、誰もルミスに気づく様子はない。

ほんとに誰にも見えないんだ……。

そうよ。だからこんな悪戯もし放題。

 ルミスが、取り出したフィドルを軽く弾く。

すると、トヨミの顔が一瞬で「へのへのもへじ」に変化した。

ゴフウッ!!

 あまりのことに心臓を噴きそうになった。

どうしたのリレイちゃん何かあったの!?なんでも言って!!!

ま、待って!ステイ!そのままステイ!それでアップになられるとちょっとヤバいから!!

 ルミスはゲラゲラと笑った。

そのとき、クラスメイトがひとり、教室に入ってきた。

おっ、サキちゃんおはよー!

待ってトヨちゃんその顔で行くとアレだから!!

 リレイは、あわててトヨミを止めようとした――が。

「へのへのもへじ顔」の友達が迫ってきても、サキは驚くばかりか見向きもせず、黙々と机に向かった。

(あれ!?ド無視!?ヤバ、あたし何かしちゃった!?)

えーと……いや……何かって言うか……。


リレイ。あの子、友達?

(え?うん。サキちゃん。バレー部でね、大活躍してるの。新聞に載ったこともあるんだよ)

ふうん……。

 ルミスは、まじまじとサキを見つめ、ぽつりと言った。

あの子、音を喰われてる。

え?

心の音を、喰われたの。だから、心が動かなくなってる。何があってもね。

 リレイは、茫然とサキを見やった。

サキさは、ぼうっと虚空を見つめている。まさに、心ここにあらず、という感じだった。

それに。

(ほんとだ。サキちゃん、いつもはすごくいい音がするのに、今はぜんぜん――)

 聞こえない。何も。彼女の気持ちをあらわす音が、かすかにも。

リレイは、ぞっとなってルミスの方を向く。

(ルミちゃん。音を喰われた、って……それ、もしかして――)

 ルミスは、不機嫌そうにうなずいた。

十中八九、妖精の悪戯――でしょうね。


 ***


近所の妖精仲間に聞いてきたわ。

あの子だけじゃない。どうやらいろんな人間が、音を喰われてるみたいよ。この街で。

それって治せるの?

自然治癒するって話は聞いたことないわ。音を喰った妖精に吐き出させるしかないわね。

わかった。こんなの、もう悪戯ってレベルじゃない。犯人を見つけて、音を取り返そう!

いいの?

いいの、って?

まちがいなく戦いになるけど。

え?あ、そっか。うーん……でも、しょうがないよ。そうしなきゃ、音、取り返せないんでしょ?

 答えると、ルミスはあきれたように言った。

やっぱり変わってるわ、あなた。



ぜんぜん見つからない……ルミちゃん、何かいい方法ないの?

妖精が関わってるなら、歪んだフェアリーコードが聞こえるはずよ。

 夜になってもルミスは小さいままだった。小さくなる分には、昼夜は関係ないらしい。ふよふよ浮く彼女をリレイは恨めしく見上げる。

それが聞こえるまで、足で探すしかないってこと?骨だなぁ……。

 はあ、と肩を落として歩いていると、ひとりの女生徒とすれ違った。

よその学校の女子だろう。淑女然とした歩き方で、しずしずと通り過ぎていく。

リレイは思わず振り返った。

今の子、すごくいい音してたね。

そうね……あれだけの音が出てるってことは、心に強い思いを抱いている証だわ。

狙われるのって、ああいう子なんじゃない?

可能性はあるわ。つけてみましょう。


 ***


 少女を追って路地裏に入った瞬間、背の高い男性とぶつかりそうになった。

わ。すいません。

wいや。こちらこそ失礼。急いでいて――このあたりで髪の長い女子生徒を見なかったかい?

あっ、はい。すごくお淑やかそうな子ですか?それならこっちに――

 と、少女の向かった方角を指差しかけて、リレイはちょっと考えた。

えっと――あなたは?

ああ、ごめん。僕は、その子が通っている高校の教師なんだ。非常勤だけどね。

 不審者でないことを証明するためだろう。男性は、スッと名刺を取り出し、渡してきた。

(紅鬼(あかぎ)ソウヤ)

この近辺にある、リレイが通っているのとは別の高校の、音楽教師であるという。

彼女がこんな時間に出歩いているのを見かけて、どうしたんだろうと思ってね。

 騙してやろうとか、嘘をついているとか、そんな感じの音はしない。純粋に心配そうな音色が流れていた。

わかりました。こっちです。



 改めて少女の向かった方角に進んだが、その影すら見つけることはできなかった。

ごめんなさい。完全に見失っちゃったみたいで。

いや、案内してくれてありがとう。明日にでも、学校で話を聞いてみるよ。

付き合わせてしまって悪かったね。君も、早く帰った方がいい。近くまで送るよ。

いえ、あの……実はこの後、父と待ち合わせで。時間を潰してるところだったんです。

そうか。予定があるのにすまなかったね。それならせめて、待ち合わせ場所まで送らせてもらえるかな。

 そう言われては、無下にもしがたい。リレイはうなずき、路地裏から出る方向へと歩き出した。

そのギターケース、部活のかい?

そういうわけじゃないんですけど……。


『そうそう。あなた、何か使い慣れた楽器はある?あるなら、普段から持ち歩いておいて。
フェアリーコードを使えば、楽器に干渉して、武器にすることができる。その方が、強い音を奏でられるのよ。』


(――てなわけで楽器を持ち歩いてます、なんて言うわけにもいかないし……)

 嘘をつくことへのうしろめたさを感じながら、リレイは、なぜギターを弾くようになったのか、ソウヤに説明を始めた。

えっと、父がギタリストなんです。それで――


 ――小さい頃、リレイは悩んでいた。

フェアリーコード――”場に流れる旋律”が聞こえるのだと友達に言っても、そんなわけがないと馬鹿にされ、笑われていたせいで。

嘘つき。人気者になりたくて調子に乗ってる。頭おかしいんじゃないの?

そんな風に言われ、落ち込み、泣きながら父に相談すると、父は笑顔でこう言った。

「おまえの言う音は、俺にも聞こえない。たぶん、他のみんなにも。でも、その音は、きっと確かにあるはずなんだ。

人の気持ちは、音色なんだ。俺なんか、それを形にしたくってギターを弾いているようなもんさ。

すごいことだぞ、リレイ。俺が苦労して再現しようとしている音色が、おまえにはばっちり聞こえてるんだから。マジで羨ましい。

もちろん、おまえの心だって音を奏でてる。周囲の音なんて気にすることないさ。うまく合わせて、ノリこなしちまえ。」

 そして、ギターの弾き方を教えてくれた。自分の心に流れる音を表現する方法を。周囲の音に相乗りし、乗りこなす方法を。

以来、リレイはそれで悩むことはなくなった。

人の心や場の音色が聞こえることを長所と捉え、人の気持ちや場の状況に”乗って”、”うまいことやっていく”すべを見出した。


だから、これがあると安心するんです。迷った時、困った時、自分の音を奏でると、見えなくなった自分が見えるみたいで。

 フェアリーコードに関してはぼかしながら語ると、ソウヤは目を細めてうなずいた。

いいお父さんだね。

そのおかげかな。君も、すごくいい音をしている(・・・・・・・・・・・)――

え……?


 リレイは、見た。

いつしか。ソウヤの瞳が、赤い光を放っていた。闇に咲く華のように、麗し<、鮮やかに。

見ているだけで、呑まれそうになる。視線が、心が吸い寄せられて、目を離せなくなる。

音を、捧げたくなる。

リレイは、ふらりと1歩を踏み出した。無意識に。そうしなければという理由のない使命感に駆られて。


 夜空色の光が宙を断った。

リレイの懐から飛び出したルミスが、元のサイズに戻りざま、ソウヤに向けて大剣を振り抜いていた。


ルミちゃん――?

気をつけなさい――音を呑まれているわよ、リレイ!

 咄嵯に跳びずさり、剣撃をかわしたソウヤヘ、ルミスは細剣の切っ先を突きつける。

そいつは人間じゃない。

 ソウヤの左手から、血飛沫が噴き出した。

いや。違う。”翅音”だ――血のように紅く輝く”翅音”。

ソウヤ自身の瞳もまた、同じ光を宿して夜間に揺らめいている。

人の音を喰らい、血肉に宿す魔性の種族――

この男――吸血鬼よ!


貴様――

 煮えたぎるような怒りの声が、ソウヤの口からこぼれた。

貴様は――妖精か!!

 叫び、スーツの内側から何かを取り出す。

それは、巻物のようにパラリと解け、男の周囲でとぐろを巻くように踊った。


(――ピアノ!?)

 丸められるほど薄い、携帯用の電子ピアノ。きわめて今時のガジェットが、男の手の中で形を変え、まるで違う輪郭を浮かび上がらせる。

刃に牙めいた鍵盤の生えそろう、不気味な美しさをたたえた大鎌を。


音が変わる。鮮烈にして孤高なる闘志を秘めた、麗しき血華の音色へと。

夜空色の大剣を携えた妖精と、牙めいた大鎌を携えた吸血鬼。

ふたりは明確な戦意をたたえて対峙し――

リレイが止める間もなく、激突した。




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story 勝利の旋律



はぁっ!

 夜空色の大剣が唸る。流麗にして豪烈なる剣舞が、気高い音色と共に夜を裂く。

ソウヤは慣れた手つきで大鎌を振るう。繰り出される剣撃のことごとくを受け切り、隙をついて長い脚で蹴り払った。

ルミスは俊敏に蹴りをかわした――直後、背後から殺気が吹きつける。

コウモリのような形状の”翅音”。ソウヤ自身の”翅音”から切り離され、自律してルミスの背後に回っていた。

くっ。

 喰らいついてくる”翅音”を細剣で払う。そこへ、ソウヤが大鎌を振るった。

おおおっ!

 挟撃。牙と鎌とが、ルミスに躍りかかる。

たん、とルミスがステップを踏んだ。

さらりと大鎌をかいくぐり、ソウヤヘ迫る。

なっ――

ふん!

 背の”翅音”で加速しての飛び膝蹴り。ソウヤは咄嵯に左手を滑り込ませ、紅の”翅音”で受ける。

ふたりは距離を取り、構え直した。


(音を、奪い合ってる――)

 いかに自らの音色を響かせ、敵の音色を圧倒するか。これはそういう戦いでもあった。


「フェアリーコードを操る者同士の戦いは、いかにして”勝利の旋律”に至るかが鍵よ。」


 戦いを有利に運べば、自分の音色で場を支配できる。その優勢が続けば、やがで勝利の旋律、を流すこともできる。

そのためには、不安や弱気は禁物だ。ふたりは今、どちらも”絶対に勝ってやる”と闘志を燃やし、ぶつかり合っている。

と。


あれ?この音……。

 リレイは気づいた。

ふたりの戦う音色にまぎれ、何か、かすかな音が聞こえてくる。

ひょっとして、と思うや否や、リレイはギターケースからギターを取り出し、それを大きな銃へと変える。

そして、互いに踏み込もうとしていたルミスとソウヤ、その中間地点に、渾身の弾丸を撃ち込んだ。

――ふたりが、ハッとリレイの方を向く。驚きで戦いの音色が止み、場に無音が満ちていた。

それで、はっきりと聞こえるようになった。

あるべき音が歪んで外れたような、おぞましくも不気味な音色が。


この音――!

あっちから聞こえる!あっちで誰かが音を外してるの!あの子が襲われてるのかも!

君は……、――ええい!

 ソウヤは頭を振り、音のする方へ駆け出した。

目の前に、倒すべき妖精がいる。だが、自分の生徒を放ってはおけない――そんな焦りが音となって撒き散らされた。

ルミちゃん、私たちも!

しょうがないわね!』


***

犯人を追うにゃ!



wうう……私――私の、音……!

P大丈夫。心配しないで。きれいになるわ。あなたの音は、もっともっときれいになる。

wああ――

琴崎!妖精、貴様、彼女に何をしている!

P何って。音をわけてあげているのよ。きれいな音。美しい音を!


わけてる?食べてるんじゃなくて?

どうやら、あの子は特別みたいね。

あいつから、いろんな音がする。あいつは人を襲って音を喰らい、それをあの子に分け与えていたのよ!


wうう――ああ――音が――音がッ!

琴崎ッ!!

P邪魔をしないでェッ!!

 怒声とともに、”翅音”が震える。リング状の音の刃が無数に吐き出され、ソウヤヘと飛来した。

ソウヤが身をひねり、大鎌と”翅音”、とで音の輪刃(ソニックチャクラム)を迎撃している間に、ルミスが疾走。

2度、3度と連続して斬りつける――が、妖精の”翅音”は高速でこれに即応し、苛烈な撃ち込みを力強く弾いてのけた。

”音”が強いッ!

 後退するルミスヘ音の輪刃が飛ぶ。

リレイは銃の構造を速射用に切り替え、立て続けに発砲して輪刃を撃ち落とした。

Pうああぁああぁああああーーーーッ!!

 妖精が猛る。なおも数多の輪刃が放たれ、空を裂く。

(人の音を食べたから!?)

 サキを初めとして、きっとたくさんの”強い音色”を持つ人から音を奪った。それで妖精自身の音色が極端に強化されている。


邪魔よ、吸血鬼!引っ込んでなさい!

黙れ!

 ソウヤの左手が伸びた。”翅音”を牙のごとく先鋭化させ、妖精の”翅音”へと叩きつける

鍔迫り合いのように、火花が散った。至近距離。噛みつかんばかりの勢いで、妖精に問いを叩きつける。

1年前――僕の娘の音を喰ったのはおまえか(・・・・・・・・・・・・・・・)!?答ろ!

Pうるさァい!!

 妖精の音が膨れ上がり、衝撃波となってソウヤを吹き飛ばした。


Pうるさい、うるさい、うるさいっ!!どうして邪魔をするの!?私はこの子のためにやっているのに!!

この子は、コンクールで優勝しないとお父さんにいじめられちゃうのよ!?

 ソウヤが、ぽかんと口を開けた。妖精はほとんど号泣しながら、激しくまくしたてる。

Pだけど、この子の音は鈍ってる!お父さんに何度も何度も叩かれたせいで、音が閉じちゃってるのよ!!

だから開いた音をわけてあげなきゃいけないの!きれいできらきら輝く音を!そうしたら、この子の音はきれいに開くのよ!!

 響く。音が。心からの哀れみと悲しみに満ちて。

心の音は嘘をつかない。彼女が本心から、琴崎という少女を哀れんでいることは、疑いようもなく明らかだった。

だからって、他人の音を奪うなんて!

Pしょうがないじゃない!だって――だって!誰もこの子を助けてくれないんだからッ!!

ぶたれて、ぶたれて、足蹴にされて!それでもがんばらなきゃいけないなんて――そんなの、悲しすぎるじゃないのおっ!!

 涙のように、音が散る。あまりにも悲痛な叫びを受けて、ソウヤは完全に言葉を失っていた。

結果を出さねば父に虐待される少女――虐待されるがゆえに結果を出せない少女。

その苦しみと悲しみを吹き払い、彼女を幸せにしてあげたい――そんな思いが、音となって押し寄せる。

純粋なる善意。あまりにも純粋すぎて、他のどんな色すら混じりようがない。

たとえば――少女を救うために襲った人たちへの哀れみや罪悪感は、すべて、”かわいそう”という思いにかき消されてしまっている。


Pアァアアァアアァアアアーーーーッ!!


 絶叫。音が爆裂する。ソウヤもルミスも、”翅音”を楯にして耐える。

そのさまを見て、リレイは確信した。

(力を合わせなきゃ、勝てない――止められないし、救えない!

だったら!)

 リレイは、銃と化したギターの弦に指を添え、思いを込めてかき鳴らす。

ルミスが、ソウヤが、ハッと振り向く。それだけの力が、その音色にはあった。

気持ちのすべてを音に変えるべく、リレイは一心不乱に旋律を奏でた。

音を喰われた人々を助ける。哀れみに溺れた妖精の暴走を止める。妖精に魅入られた少女を救う。

そのためには、力を合わせなければならない。

隣にいるのが誰だろうと。互いにどう思っていようと。

なすべきと信じたことをなすためには、持てる力を束ねなければならない。そうしなければ、誰も救えない!


そうでしょ!?

 思いを。気持ちを。音で伝えて、少女は叫ぶ。

だから、乗って!私の音に!あいつもあの子も他の誰かも、みんなまとめて助けるために!!

 ソウヤとルミスは、一瞬、視線を交わした。

互いに対する不信の色が、火花を散らして混じり合う。

が。

……わかった。

ふん。仕方ないわね。

 応え、ふたりは並び立った。

信頼はない。信用もない。

だが、少なくとも。

”救うために戦う”――そんなリレイの音色に、乗ると決めた。それだけは確かだった。


あなたの音色――相乗りさせてもらうわよ、リレイ!



***

あの子を助けるにゃ!


 大剣と大鎌が、同時に妖精に襲いかかる。妖精は、左右の”翅音”でこれを受けた。

瞬間、リレイは引き金を引いた。放たれた音の弾丸は、”翅音”の合間を縫うようにして妖精の胴を直撃する。

Pぎィッ――

 妖精が悶え、”翅音”が乱れた。直後、ルミスとソウヤの放った一閃が、ほぼ同じタイミングで胴を薙ぐ。

Pこのォッ!

 怒りに任せて輪刃を飛ばそうとするが、その前にリレイが速射を見舞った。弾丸の雨に撃たれ、妖精はよろける。

ええいっ!

であっ!

 さらにルミスとソウヤが猛追。双方向からの一撃を浴びせ、妖精を大きく吹き飛ばした。

(行ける!)

 これで勝てないはずがない。そんな確信が、リレイの音を昂らせる。

(感じる――これが”勝利の旋律”!)

ブレイクよ!

うん!

 リレイは渾身の気合を銃に込め、音へと変えて撃ち放つ。


飛っべェ!

Pうああぁああぁああああっ!!

 弾丸は妖精を直撃し、その肉体と”翅音”のすべてを、木っ端みじんに打ち砕いた。





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最終話 そして――



琴崎――

 ソウヤは、くたりと倒れ伏した少女を抱き上げる。

少女から――そして倒れた妖精から、さまざまな音色があふれ出し、どこへともなく流れていった。

奪われた音色よ。本来の持ち主のもとへ戻ろうとしてる。

 ルミスの掌から、小さな音が飛び立っていく。やわらかで、優しげな音色――きっとあの妖精のものだろう。

はばたいていく音色たちを、ソウヤがジッと見つめていた。


あの――先生。娘さんが、音を食べられた、って――

……ああ。1年前――妖精が、娘の音を喰ったんだ。以来、娘は気持ちを失ってしまった。

人の音を喰うのは、妖精より吸血鬼の専売特許だと思うけど。

……確かに我々の一族は、人の心を喰らい、自らの血肉を強化することで、栄華を築いてきた。

でも、それは大昔の話だ。今の時代を生きるのに、吸血鬼の力なんて必要ない。

リレイの音を喰おうとしたくせに。

あれは――!

あれは……すまなかった。まだ、この力に慣れていないんだ。

娘の音を喰った妖精を探すために、最近使い始めたってところかしら。で、慣れてなくて制御が覚束ない、と。

それで実際、誰かの音を喰ってしまったらどうするつもり?

そんなことは絶対にしない!この力は、娘の音を取り戻すためだけに使う!

どうだか。

えっと、それより、先生、その子のこと――

ああ。それは任せてくれ。

なんとかしてみせる。僕ひとりでは難しいけど、事情を知ったら助けになってくれる人はたくさんいるはずだ。

みんなで、この子を助けるよ。誰もこの子を助けてくれないなんて――そんなことのないように。

ねえ、ルミちゃん。

妖精って、そんなにあちこちで事件を起こしてるの?

このあたりは、ちょっと異常よ。

妙に妖精が多いの。だから、暴走する妖精の数も、よそに比べたら断然多い。

あたしがここに来たのも、そういう噂を聞いたからなのよ。

ひょっとしたら、この街――他と違う何かがあるのかもしれないわ。




 びょうびょうと、風が吹く。

背の高い建物に挟まれた風が、逃げ場を求めるように駆けてきて、髪や衣服をはためかせていく。


見渡せば、光。天の星々が総出で引っ越しを決意したように、地上にはきらびやかな光があふれている。

知らない土地。知らない街。知らない風と知らない光が、淡く君たちを撫でていく。


……いったいなんにゃ、ここは?


 さあ――と、君は首をかしげるしかなかった。







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story でもってフェアリー



先生、あの子、その後どうですか?

おかげさまで、うまく運んでいるよ。彼女は正気を取り戻したし、家庭の問題も、いろんな人が助けになってくれている。

そうですか。良かった。

……あれ?先生、吸血鬼ですよね。こんな昼間に出歩いてて、大丈夫なんですか?

ははは。太陽が弱点とか、ニンニクが苦手とか、そういうのは伝承上の創作なんだよ。だから、実際にはどれも平気さ。

そっかー。じゃ、特に弱点とか苦手なものとかないんですか?

うーん。そうだね、しいて言えば……。

知り合いのほとんどいない飲み会とか……そういうの苦手かな……。

(あ、すごいヤなことあった感じの音だ)


 ***


リレイちゃん、おはよー!!!

いまだなお!!?

w呼んだ?

今田ナオ!!!




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コメント (フェアリーコード Prelude story2)
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  • 最終投稿日時 2021/01/31 18:19
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