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【黒ウィズ】ツクヨ編(謹賀新年2017)Story

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最終更新者:にゃん


2017/01/01



story1 神も忙しき時節



年の瀬。

地位の高い人ですら忙しさに奔走すると言われる時期である。

もちろん、それは神様であっても違いはなかった。


「え、ウソ? 参道の階段グラグラしてる……。

この時期は、いつもいっぱい参拝の方が来るのに、これじゃ、危ないかも。」

下界の人々の感謝の気持ちであるご利益ぽいんとで神々のらんくは決められている。

それゆえ多くの参拝客を集める大晦日から正月の間は、神様にとっても一年のうちで最も大事な日である。

「参拝に来て、怪我しちゃったらきっとご利益ぽいんとも減っちゃう。

でも、いまから直すとなると大変だなぁ。間に合うかな?」

ねがてぃぶな考えを頭から追い出そうとツクヨはふるふると頭を横に振った。

「だめだめ、こいう細かい気配りが神様にとって大事なんだから。

頑張って直すぞ。」

弱気をやる気に変えて、ツクヨは立ち上がった。

と、顔なじみの神様たちがにっこりと笑顔でこちらを見ているのが目に入った。

「イヤな予感!!」

「ツクヨちゃん!お願い! 初詣の準備、手伝って!!」

頼まれると断り切れないツクヨは押しの強いミコトたちに例の如く押し切られてしまう。

気付いたときには、ミコトの社の前にいた。


「建て替えたとは聞いたけど、すごい社だね……。」

「ふふーん。ツクヨちゃんもそう思うよね!

いつもは地元の皆さんしか参拝に来ないけど、今年は絶対いっぱい人が集まると思うんだ。」

「来年な。」

「あ、セイちゃん、細かいなあ。」

「でもこんなに立派ならわたしが手伝う必要なんてないんじゃ……。」

「ツクヨちゃんわかってないなあ。私一人で準備なんて出来るわけないでしょ。

私だよ! この、私だよ!」

「威張っていうことじゃないよー、ミコトちゃん。」

「絶対何かやらかすよぉ、お願いぃぃ。」

「泣かないで……。わかったわかったから……。」

「お。ツクヨも呼んだのか。」

「あ、マトイちゃんも来てたんだ。」

「普通に男子もいるぜ。」

「準備しようよぉ。」

「ともかく。まずは中を案内するね。」


 ***


「ミコトちゃん。見せてもらったけど、きれいに掃除出来てると思うよ。

新築だし。準備は充分過ぎるほどだよ。

まあ、社かと言われると微妙だけど。」

「ツクヨちゃん、掃除ならさすがの私でも出来るよ。

そこじゃないんだよね。実はこの社……。

出るんだよね。」

「「「ええーー!」」」

「え? 何が? あと、なんでミコトちゃんも驚くの?」

「え? じゃないよ、ツクヨちゃん。出るって決まってるじゃない。

「オバケだよ、オバケ。

この社ね、夜な夜なゴトゴト音が鳴って、誰かいるみたいなんだよ。」

「ああ、俺も聞いたことはある。ウソじゃないぜ。」

「うん。それは分かるよ。でもね……。」

「馬鹿馬鹿しい!」

「あ、そうだよね。でもそこまで言うことないかも。」

「オバケだと? そんなものいるわけないだろう。

そんな不確かな存在を信じているのか、お前たち。」

「あ、そっち? そうじゃなくて……。」

「ええー、セイちゃんはオバケを信じてないの?」

「当たり前だ。」

「ミコト、きっとセイの奴、ホントは怖いから信じたくないんだよ。」

「バカを言え!」

「声を荒げる所が怪しい……。」

「だったらそのオバケを俺の目の前に連れて来い。成敗してやる。」

睨み合うセイとミコトたちの間を取り持つようにツクヨが割り込む。

「ねえねえ、みんな聞いて。」

「なに? ツクヨちゃん?」

「オバケが怖いとか、信じないとか、どっちもちょっとおかしいと思うの。」

「なぜだ?」

「だってわたしたち、神様だよ。」

「「「ホントだ……。」」」

「神様がいたらオバケくらいいると思うし、神様がオバケを怖がるのもおかしいと思う。」

「確かに……。一理ある。」

「百理くらいないかなぁ。」

「でもあの物音は何だったんだろう……。

一同の背後で重たい足音が響く。神々は一斉に音のする方を見た。

そこには……。


 ***


「なんだー。物音の正体は緑の神様だったのか。」

「きっとこの社を建てに来たむこうの神についてきたんだろうな。」

「これが神か……。」

「そうか、マトイちゃんは初めて見るんだね。」

「おい。緑の神様が床板踏み抜いちまったぞ。」

「ああー! ホントだ! 今から直さなきゃ。」

(これ、長引く感じだ……)

「ではわたしはこれで~。」

ツクヨは今だとばかりに別れを切り出すも、すぐさまミコトにすがられてしまう。

「ええ~、ツクヨちゃんも手伝ってよぉ。」

「わたしも自分の社が……。」

「お願いぃぃ。」

「泣かないでよ、ミコトちゃん。」

「みんなでやれば仕事が早い。力を合わせるぞ。」

「う、うん……。」

結局、なし崩しに雰囲気にのまれてしまった。

ミコトの社の普請を行いながら、話は神様のあいだで噂となっている人物の話に及ぶ。

「そういえばこの前、私の社にあの「いい人」が来たぞ。」

「「いい人」って?」

「ツクヨは知らないのか? ふらっと現れて俺たちの社を修繕してくれる奴だ。」

「そんな親切な人がいるんだね。」

「ツクヨの大きな社には来たことがないのか?」

「うん、来てないと思う。」

「神の間では、戦いを生業としている者じゃないかともっぱらの噂だ。」

確かに戦神やマトイの所のように武芸に関する神様の所によく現れている。

我々のご利益を願っての仕業だろう。

「俺たちが戦神を辞めてからは来なくなったけどなあ。」

「そうなんだね。それだと私の所には来てくれないかも~。」

「ミコトの所は難しいだろうな。」

「ミコトちゃんの所もないんだ。」

「うん。どうして?」

「ううん、なんとなくミコトちゃんと同じっていうのがなかったから。」

「確かにツクヨとミコトは似て非なるものだからな。」

「あれ? なんか傷ついた。なんか傷ついたぞ、私。」



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story2 繁盛、繁盛、波乱万丈



ミコトの社での騒動から解放されて、ツクヨは家路を急いだ。

「ようやく解放された~。

急いで帰らなきゃ……。」

ちょうど年末の買い物客で賑わう街に差し掛かる。

そこでは大売り出しやら商売繁盛やらの大きな文字が踊っていた。

年の瀬によく見る光景である。

「あら?」

「あ。」

そんなところで商売繁盛の神であるトミと出会うのは必然に近い。

「あらあらあら?」

「ジ、ジョゼフィーヌちゃん。」

「いいところに来ましたわね、ツクヨさん。」

(イヤな予感……!)

「見ての通り、今は年末年始の買い物客のおかげで私のご利益に対する需要がうなぎ登り中ですわ。」

「よ、よかったね。急いでいるので、わたしはこれで~。」

「お待ちなさい! むーん!」

「む、むーん?」

「舶来の言葉で月を意味しますわ。あなた、月を司る神様でもありますわね。」

「う、うん。歌とか踊りとかもだけどね……。」

「ツキがある。」

「は?」

「商売にツキは重要ですわ。よってあなたはここにいなさい。」

「それはむしろ必中の神様であるマトイちゃんの方が適任では……。

それにもはやご利益とか関係なくただの語呂合わせだし。」

「ノーですわ!!

マトイさんはいません。忘れなさい!」

「ええ……。」

「商売人は語呂合わせが大好きですわ。自信を持ちなさい。」

「自信とかではなくて……。わたしは帰りたいのに……。」

当然、掻き入れ時で鼻息の荒いトミを説得出来るわけもなかった。


 ***


トミの隣に鎮座させられて、しばらく経った頃、唐突にトミが口を開いた。

「おかしい……。

おかしいですわ。例年の賑わいはこんなものではありませんわ。」

「そうなの? 充分賑わってると思うよ……。」

「絶対におかしいですわ。」

「そうだよね、おかしいよね。ではわたしはそろそろ……。」

ツクヨの腕をトミが鷲掴みにする。

「あなた、逃げられると思って?

ツクヨが帰る……。ツキが帰る……。ツキが逃げる……!

ツキが逃げる!

「顔が怖い……。」

神々がそんな風に戯れている時、買い物客の人ごみの中には……。

「今年はモチ代にも不自由ない……。すごく……しあわせ。

でもカフクさんがいなくなっちゃって……新しい年には帰って来てくれるかな……。」

と、つぶやく少女がいた。そのかなり後方には。

「コノハさん……、私はこうしてあなたを見守っております。

ご迷惑が掛からない距離を保ちつつ、知られぬように、見守っております。

「ノオーーー!」

「うわ! びっくりした……。あなたはトミさん、一体どうして?」

「ジ ョ ゼ フ ィ ー ヌ ですわ!」

「目が血走ってるよ。」

「どうしてカフクさんがここにいるんですの!?」

「私はコノハさんを見守るために……。」

「あなたがここにいたら商売が繁盛しませんわ!

すぐにここから離れてください!」

「はあ……。」

「そういうことだからカフクちゃん、一緒に帰ろうか。」

「ツ キ は 逃 げ る な ぁ。」

「落ち着いて。

「そうです、トミさん。私もすぐにこの場を離れますから……。

「ジ ョ ゼ フ ィ ー ヌ だ ぁ あ。」

だがトミもカフクも忘れていた。商売繁盛の神と貧乏神、ふたりが一つ所にいる時。

奇跡が起きることを。


 ***


物凄い突風が街に吹いた。

「あれ? な、なに?」

その突風に乗って砂埃が舞い上がる。

 「うわ……砂が目に入る……。」

すると砂埃から逃げるように、買い物客が茶屋や休憩処に引っ込んでしまった。

「あ。買い物客がいなくなっちゃった。」

「ノーーー!!」

 「この風じゃ買い物出来ない……。どうしよう……。

 しばらくお茶でも飲んで過ごすか。」

避難した買い物客は、風をやり過ごすために、茶屋で休憩を始めた。

すると思わぬほどの客入りに慌てた茶屋が仕入れを増やして、菓子屋が儲かる。

儲かった菓子家は米屋に走り、米屋もさらに仕入れを増やすので、荷運びの船を多く雇う。

そんな風にするすると商売繁盛の輪がつながって、最後にまたこの街が儲かった。

「うわー、すごいことが起こるね。」

「何ですのこれ? 釈然としませんわ。」

「でも、トミちゃんも感謝されているはずだよ。」

「それならまあ……いいか。」

「この風、コノハさんのお体に障らないかしら……。」

「一件落着。ではわたしはこれで~。」

「ツ キ は 逃 げ る な ぁ。」

「きゃー。なんでえぇ。」



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story3 年を越えて、願う



ツクヨがようやく戻った頃にはもう夜になっていた。

「もうしばらくすると人も来ちゃうな……。」

初詣は元旦だけが本番ではない。

大晦日から初詣に訪れる参拝客も多く、いまから参道を直していては、とても間に合いそうもなかった。

落胆の色を隠せずにツクヨはがっくりと俯いた。

「あら?」

下ろした視線の先にあるのは、立派に修繕された階段であった。

「ど、どうして? わたし何もしてないよ。」

さらに先に目をやっても、参道のどこにも悪い所は見えない。

ふと思い当たったのは、マトイの話に出た「いい人」の存在である。

「もしかして、そういうことかな?」

そんな都合のいいことが本当にあるのかと、ツクヨは驚いたが、もしそうだとしたらなぜ自分の所に来たのかが気になる。

「ともかく社に戻ろう。」

ツクヨは参道を急ぎ進んでいった。


 ***


社に戻ってみると、一枚の書状が丁寧に奉納されていた。

神に直接捧げるように、特別な術を施されているものである。

「なんだろう?」

ツクヨはさっそくその書状を開いてみた。

普請した所を目録としてまとめた後、こう記されていた。

 青い月のご利益頂戴致します。――鎌鼬

「うーん……。青い月……。」

鎌鼬という名には、なんら思い当たる所はなかったが、「青い月」には覚えがある。

ふとツクヨは空を見上げる。

そこにはきれいな満月が浮かんでいた。

「あ。忘れてた……。」

大晦日に、初詣に、ミコトやトミの騒ぎなど色々あってツクヨはあることを忘れていた。

年に12回ある満月が今年は13回ある。

しかもその満月が大晦日の晩にやってくる年である。

その珍しさといつも以上に青みがかった光から、それを青い月と呼ぶ者もあるとか。

事実、その日の月は青かった。

「そんな大事なこと忘れてたなんて……。うっかりしてたよ。

どんなに忙しくても、ゆっくり月を見るのを忘れちゃダメだよね。」

そして、その月の夜、ツクヨは想いを込めて舞を踊る。

ツクヨの神力には不思議な所が多く、司る所の不明な部分も多い。

それはまるで月の滋味の豊かさに通じるようである。

「さ、始めましょう。」

満ちた月が年を跨ぐと、ツクヨの舞が始まる。


「満ちても欠けても清く照らす月のように。

良き日、悪しき日ともども皆さん、息災でありますように。

ゆく年も。そして新たに来る年も。」


 ***



「ふう、事なきを得たー。」

参道も修繕し、舞も終わり、ようやくツクヨの一年が終わる。

「さ、今年もがんばろう。」

青く輝く月に向けて、ツクヨは新たな一年の始まりを告げる。

ふと気になったのは……。

「そうだ。参拝してくる皆さんの様子を確かめないと。」

ご利益ぽいんとの行方も気になる。ツクヨが参道の方に目をやると。

「あれ? あれれ?」

参道に人はまばらにしかいなかった。

というのも。


「さあ、化け物どもかかって来やがれ。」

「もう、参拝客の安全はどうしたのよ。」

「任せた!」

「任されましたー。」

どうやら数名の者が大立ち回りを演じているせいで、まっとうな参拝客はその場から逃げてしまったようだった。


「そんなあ……。

今年は幸先悪いなあ。

でも月だって満ちる時もあれば欠ける時もあるから、いけるいける。」


その言葉通り。翌日の参拝者は例年通りの多さに戻った。

ちなみに。

「そういえば、ミコトちゃんの所はどうなったのかな?

いっぱい人が来てるのかな?

派手は派手だったからあるいは……。」

というツクヨの考えだったが。


「あれー? なんで人が来ないんだろう……?」

「なんだか期待外れだな……。」

「うーむ……。」

ほとんど参拝客は来なかった。

人々の話をまとめたところ。

「あんなの社じゃねえ」

という至極まっとうな意見が主であった。






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