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【黒ウィズ】ミコトと「笹の葉夕月夜」Story

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最終更新者:にゃん

2015/07/07



お願い天の川



星の光は、人気のない参道の輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。

もちろん、人影も……。この場合は神の影もと言うべきか。


「ほーらー! 女子ー! はやく登ってこーい!」

「マトイちゃん! 待ってよ! そんなに急がなくても七夕は逃げないよ!」

「そーですわ! マトイさん、ちょっとてんしょん高すぎですわ。」

「馬鹿を言うな!」

と言いながら、その頬は緩みっぱなしである。

「夜は短いんだ! 最後の者は願い事を告白するのだぞ!」

マトイは飛び跳ねるようにくるりと翻り、参道を駆け上がっていく。

「マトイちゃん、この手の事は大好きだからなー。」

「ほんと、いい歳して……ですわ。」

「私たちにいい歳っていうのもどうかと思うけどね。」

「それはともかくミコトさん、いま何時かしらん?」

「え? えーとそうだなあ?」

「いまですわ!」

ミコトが指折り数えている隙を見逃さず、トミはスカートをたくし上げて、駆け出した。

「おほほほ。最後の者が願い事を告白するんですのよ!」

「あ、ずるーい!」


 ***


「はぁ……はぁ……。ちょっと待って……。」

駆けっこするには少々長すぎたのか、ミコトは息を切らせながら立ち止まってしまう。

とはいえ、見上げてみれば……。

「ほーらー! 女子ー! もう着いちゃうぞー!」

「元気だなぁ……。」

大はしゃぎのマトイから目を外して、ミコトは後方を見やった。

「ぜはぁ……! ぜはぁ……! ミ、ミコトさん……! ず、ずるいですわよ!」

はるか後方で、力尽きてへたり込んでいるトミがいた。

「相変わらず体力ないなあ、トミちゃんは。」

「ジョ、ジョゼフィーヌよッ……!」

「あ、ごめん……。」

そんなやり取りを済ませて、再び石段に足をかけた時、マトイの悲鳴が頭上をかすめてい<。

「マ、マトイちゃん!」


 ***


「マ、マトイちゃん……。」

ミコトが慌てて駆けつけた時にはマトイに悲鳴を上げさせたはずの穢れは跡形もなくなっていた。

「ふん。痴れ者が……。」

マトイは冷然と銃口を下げると、振り向きざまに言った。

「最後はトミか! トミー! 早く上がって来い。願い事を書くぞー!」

「大丈夫そうだね……。」


七夕の夜。短冊に願い事を記し、笹の枝にさげる。

叶う、叶わないは別として、その手の話は心が躍る。人も神様もそれは同じである。


「トミ、お前はなんて書いたのだ? 私はな! 私はな!」

「あなたのは聞かなくてもわかりますわ。私は自分の名前を変えることです。

……って私はジョゼフィーヌですわ!

ミコトはどうですの?」

そう問われたミコトは真剣な面持ちで短冊と睨みあっていた。

「『はくぼ』ってどんな字だったっけ?」

「は? そんな難しい字を書いてもまた誤字になるだけですわよ。」

「ま、仮名でいっか……。では一筆入魂です。」

掛け声と共にミコトは魂を筆先に乗せ、短冊に向かう。

「七夕のはくぼにかがやくきら星よ。川の瀬を越え、遠き友へ。」

「……なんかあなたにしてはまともね。でも、願い事じゃないですわよ。」

「それに今は薄暮(はくぼ)ではないぞ。」

「そこは写実を越えた印象表現ということで!」

「まあ、よいか。しかし、まあ……また来年も来たいな。」

「ですわね。」


「では、これを笹につるして……。さて帰りますか!」

「帰りも競争するか?」

「やーですわ。」


神様たちが去った後、笹にさげられた短冊はひらひらと風と踊っていた。

そして、ミコトがつるした短冊にも相変わらずの誤字が踊っている。


 「七夕の ぷれぼに輝く きら星よ 川の瀬を越え 遠き友へ」




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