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【黒ウィズ】アリエッタ編(GP2019)Story

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最終更新者:にゃん

2019/09/12




目次


Story1 半額惣菜と憂鬱

Story2 果汁と苦悩

Story3 チンミと幸福



登場人物


アリエッタ

エリス

ミリエッタ




story1 半額惣菜と憂鬱



アジフライはなー、小骨がちくちくするからなー。

 アリエッタは不満を言いつつも、アジフライのパックを手に取った。

喉に引っかかる小骨を想像してうげーとなっていると、かって王都でエリスとかわしたやりとりを思い出す。


「あのね、魚のね、尾びれをスッととる魔法を開発したんだけど」

「そんなほかに使い道のない魔法を……」

いい?アリエッタ。尾びれじゃなくて骨にしなさい、骨に。骨だけスッととれたら、みんな喜ぶわ。骨よ骨。

「骨なー、骨はなー……。

魚の骨を自分の手でよけるのが、醍醐味なんじゃないかな……」

「なにもっともらしいこと言ってるのよ」


……あのときエリスが言ってたのは、アジフライ用の魔法だったのか。

 それに気づけた自分は、あれから成長したんだなあとしみじみ思いつつ、魔道スーパーの店員を呼び止める。

ちょっとちょっと、半額シール貼って。

そりゃマナー達反ってもんですよ。まだ半額タイムじゃありません。

値段はそのままでいいから、半額シール貼って。

は?

 アリエッタは困惑する魔道スーパーの店員に半額シールを貼らせて、定価でアジフライを買った。

半額アジフライはエリスヘのプレゼントである。

ミツボシヘの筆頭理事業務引継ぎを終えたエリスは異動になった。

アリエッタ対策本部の責任者にして、実働部隊であるアリエッタ監督班のチーフも兼任することになったという。

手始めに班員向けのアリエッタ対応マニュアルを刷新するべく、日夜奮闘しているようである。

マニュアルがどうとか、訓練がどうとか、大変そうだったなー。

 アリエッタ対策本部とは即ち元凶が自分なわけだから、ほんと、すまん、という気持ちはあった。

でも、魔道への探求心が勝(まさ)っちゃうんだよなー。

 だからせめてエリスが喜ぶプレゼントを――それがアリエッタ的落としどころであった。

決め手はズバリ、半額シール!

 エリスはお惣菜ではなく半額シールをおかずにしている節がある。

アジフライよく食ぺてるし、エリスはきっと喜んでくれる!

 アリエッタは惣菜が入った袋を振り回しながら、足取り軽やかにエリスのもとへ向かう。



アジフライが来たぞー!

 うたた寝でもしていたのか、テーブルの上で突っ伏していたエリスがゆっくりと顔を上げる。

……あら、アリエッタ。こんな時間にどうしたの?

アジフライ!食べて食べて!

……半額じゃない。ありがとう。あとで食べるわね。

 エリスはどこか憂いを帯びた目で、アジフライを見つめている。

(思ってたのと違う)

 想像上のエリスは、半額アジフライで狂喜していたのに。

もしかして……胃が痛くてアジフライ食べられないの?

胃?アリエッタ性胃炎ならもうすっかり治って免疫もできたわ。だからアリエッタ監督班を志願したの。

 だったらどうして半額アジフライで喜ばないのだろう。

半額に飽きてしまったのだろうか。それとも半額程度では吹き飛ばないくらいの疲れを溜めているのだろうか。

エリスをこのままにしておくのは、よくない気がする。

というか、半額惣菜と憂い顔の組み合わせは、なんかもう見てられないくらいに悲しかった。

ほんと、すまん、という想いが、アリエッタの胸でちくちくと疼いている。一体どうすればエリスを元気づけられるか。

天才的頭脳をフル回転させて導き出した答えは――

半額惣菜がダメなら――究極グルメで!

……いきなり叫んでどうしたのよ。究極グルメ?

エリス、明日も仕事忙しい?

そうね。忙しいわ。マニュアルの詳細を詰めるために、あなたを監督して行動パターンを記録するの。

 つまり、付きっ切りというわけだ。

わたしは明日、超魔道グルメツアーをやろうと思ってたんだ。

超魔道グルメツアー……ってなによ。

魔道三大珍味の食べ歩き!

 エリスを元気づけるための、心を込めたパワープレイである。



 超魔道グルメツアーの朝は早い。そして朝飯抜きである。


食料調達から始めるんでしょ?朝ご飯を食べないのはよくないわよ。

 空腹は最高のなんやらという言葉がある。

そして、自分で苦労して手に入れた食材っておいしく感じるよね、それは言えてるね、という人口に膾炙(かいしゃ)したあれもある。

ひとつ、魔道三大珍味の調達は自力でする。ふたつ、珍味以外のものを食べてはいけない。――それが超魔道グルメツアーの掟!

……あなた、いつもこんな変なことやってるの?

ううん。初めて。でもわたしは確信してる。最ッ高に元気が出るツアーになると!

……もう十分元気みたいだけど。

 いつも通りの落ち着いたエリスだが、やはり少し元気がないように見える。それは朝飯抜きのせいかもしれないが。

……恥ずかしい話なんだけど、私、魔道三大珍味が何なのか知らないの。高級食材には縁がないから。

大丈夫!私もよく知らないけど――

 アリエッタは魔道空間の中から1冊の本を取り出す。

じゃーん!『珍味ガイド』買ってきた!

 『珍味ガイド』とは、魔道三大珍味に関する情報はもちろん、家庭で簡単に作れる珍味のレシピまで載っている総合珍味書籍である。

えーなになに……三大珍味は歴史と共に変わる。新たな珍味が発見され、それまで三大の座に君臨していた珍味が蹴落とされるのである。

この百五十年の間、魔道三大珍味と言えば、カミソリザメの卵、オオグチドリの肝臓、マジカルきのこであった。

オオグチドリの肝臓は聞いたことがあるわ。……食べたことはないけど。

しかしこの数年で新たな珍味が相次いで発見され、魔道三大珍味は総入れ替えとなった。

総入れ替え!?今の魔道三大珍味はどんなものなの?

お、気になってる?ワクワクドキドキが止まらない?

いや、変なもの食べさせられるんじゃないか不安なだけよ。

そう口では言っているが、エリスはまんざらでもなさそうである。

せっかくなので、珍味はひとつずつ発表していくことにします!それが超魔道グルメツアーの新たな掟!

 何を食べるかワクワクドキドキ。お腹も心も満たされて元気になること必至。アリエッタはさっそく手ごたえを感じた。

えーとまず最初の珍味は……食べられる草!

全然珍味じゃないわよそれ。

ただの食べられる草と一緒にされては困る!パッと見た感じは雑草っぽいけど、ものすごーくおいしい草なんだって。

だったら名前くらいつけなさいよ。食べられる草って。

それをわたしに言われても困るんだがー?

……まあ……そうね。

 それからアリエッタとエリスは『珍味ガイド』に載っている地図を頼りにして、野を越えたり、山を越えたり、迂回したりした。

ちょっとアリエッタ……。もう1日中歩いてるわよ……。

 エリスは死にそうになっていた。

朝飯抜きからの昼飯抜きで歩き通しなのだから、当然といえば当然である。

エリス、頑張って!食べられる草でいっぱいの楽園はもうすぐだよ!

楽園感ゼロの響きね……。


 そして、ついに、ふたりは楽園に辿り着いた。

絶景。アリエッタは思わず息を呑む。

ごい……これ全部食べられる草なんだよ!

 アリエッタは食べられる草を荒々しくむしって頬張った。

うぉおおおいいいいしいいいいいいいい!

エリスも食べてみて!旨みがえげつないよ!

 朦朧としているエリスも、くずおれるように屈み、食べられる草をむしって口にする。

なによこれ……すごくおいしいわ旨みがえげつない!

 それからふたりは夢中で食べられる草をむしって食べた。

お腹がいっぱいになったら、食べられる草を枕に星を眺める。

エリス、元気出た?こーんなにおいしい珍味が、あとふたつ……も……。

 星を見るエリスの目は、なんともいえず切なげだった。

さっきまであんなに楽しそうに草をむしって食べていたのに。

(まだまだこれから……。食べられる草は三大珍味の中で最弱なのだ!)

 アリエッタプレゼンツの超魔道グルメツアーは続く。




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story2 果汁と苦悩



 超魔道グルメツアーの朝は早い。そして朝飯抜きである。


なんで朝ご飯に草を食べちゃいけないのよ。食べてから次の珍味を目指せばいいじゃない。

昨日の幸福にしがみつく者は、今日の勝利をつかむことはできない。byアリエッタ・トワ

またもっともらしいこと言って……。

でも、お土産にちょっと持って帰ろう。

 食べられる草をむしって魔道空間に詰め込んでから、アリエッタとエリスは次なる珍味を目指す。


魔道三大珍味食べ歩き。続いての珍味は――ウルトラフルーティーフルーツ!

名前、どうにかならないのかしら。

さる魔道美食家によれば、食べられる草よりおいしいらしい。陽も届かない地下洞窟にみのるんだって!

 それからふたりは平地を歩いたり、平らじゃないところを歩いたりした。

うーん。疲れたなー。

 というか移動が単調で飽きた。あと昼飯を抜いたのもよくない。

ほら、元気出しなさい。食べられる草よりおいしい、ウルトラフルーティーフルーツが待ってるわよ!

今はそういう気分じゃな――

 うっかりしていた。このツアーはエリスを元気にするためのものだった。

エリスは今、珍味に惹かれて元気になっている。

自分の企画したツアーはうまくいっているのだ。そう思うとアリエッタの元気も湧いてくる。

フルーティーがわたしを呼んでいるー!食べたら絶対元気が出るぞー!



見るからに邪悪な気配が漂ってるわね……。

 地下洞窟の床には、侵入者を拒むようにびっしりと魔法陣が描かれていた。

試しにちょっと踏んでみよう。

なんでよ!

あー……じんわり呪われてる感じがする。なんか、肩の違和感がすごい。

軽微な呪いみたいだけど……。それに釣り合わないくらい術式が複雑だわ。解呪には時間がかかりそう。

でも、お腹空いてるから先を急ぐ!呪いを踏み抜きながらわたしは前に進む!

ダメよ!奥のほうはもっと危ない呪いかもしれないもの。

あ、そうだ。天井を歩けばいいんだ。

 アリエッタは魔道空間から魔法書を取り出す。

新魔法書4万とんで289頁――天井天下!

 アリエッタが詠唱するやいなや、ふたりの足が天井に吸いついた。

すごい……これなら呪いを気にせず進めるわ!

わはは!このアリエッタ・トワを止めたければ、壁と天井にも魔法陣を描くことだ!

 ふたりは意気揚々と天井を歩きながら地下洞窟の奥へと進んでいくが――

こしゃくな……。

床だけでなく、壁と天井にも魔法陣が描かれていた。

あと、頭に血がのぼって普通に気持ち悪い。

 ふたりは床に描かれた魔法陣と魔法陣の隙間に降り立つ。

やっぱり小細工はよくないね。ここは王道でいこう。

 アリエッタは魔道空間から魔道スコップを取り出した。

魔法陣が描いてある床を全部掘り返しながら進む!うりゃあああああああああああ!

どこが王道なのよ!

 でも、早かった。

これが……ウルトラフルーティーフルーツ……!

 地下洞窟の最奥に生える1本の樹に、たわわな果実はみのっていた。

アリエッタはウルトラフルーティーフルーツをふたつもぎ取る。果実は魔道水風船のようにたぷたぷとしている。

どんな味だと思う?せーので食べよ、せーので!

かじったら果汁が服にかかりそうだけど……そんなのどっちだっていいわ。どんな味か、楽しみ。

 アリエッタはエリスに果実を渡し、目と目でタイミングをとる。

せーのっ、いただきまーす!

 かじりついた瞬間、果汁があふれ出し――

甘くておいしぎゃああああああああああああ!

 噴き出る果汁は、あっという間にふたりを呑み込んだ。

溺れる。しかし、旨みがえげつない。

旨みに溺れて死ぬ――そんな人生も悪くないのではないかと思えるほどの美味であった。

エリスゥウウウウウ!おいしいねえええええええええ元気出たぁあああああああああ?

 旨みの奔流に呑まれながら、アリエッタは叫ぶ。

おいしいけどそんなこと言ってる場合じゃないでしょおおおお!

 旨みの奔流は、行き場を求めて地下洞窟の中をものすごい勢いで流れてい 。

旨みがえげつな……わぷっ!旨みに呑まれるぅうううううう!

アリエッタァアアアアアアア!

 アリエッタは薄れゆく意識の中で、これ、丸飲みしてたら胃袋がやばかったんだろうなあと思った。


 超魔道グルメツアーの朝は早い。そして朝飯抜きである。


朝を迎えられてよかったわ、本当に。

 それに尽きるとエリスは思う。この際、朝飯の有無などどうでもいいのである。

地下洞窟で旨みの奔流に呑まれたふたりは、洞窟の一部が海につながっていたのだろう、見知らぬ浜辺に漂着した。

まさかこんなことになるとは……。おのれ!ウルトラフルーティーフルーツめ!果汁め!旨みめ!

 アリエッタは悔しそうに砂浜をぼすぼす殴ったかと思うと、しょげかえってしまった。

アリエッタ。どうしたの?元気ないじゃない。

だって……これじゃ元気が……。

溺れかけたとはいえ、果汁はおいしかったし、私はなんだか元気が出てきたわ。

え、ほんと?エリス、元気出たの?

ええ、元気よ。魔道三大珍味の最後のひとつも楽しみね。

そうかー元気出たかー!わはは!さすがわたし!

 ツアーの途中で、エリスは気づいた。アリエッタは自分のことを元気づけようとしている。

思えば、半額アジフライの晩は弱ったところを見せすぎてしまった。

エリスはそんな自分の至らなさを感じつつも、アリエッタの成長を噛みしめていた。

とった手段は少々アレだが、こうして人を元気づけようとしてくれたのだ。

人の親というのはこういう想いで子を育てているのだなと思った瞬間、父の顔が脳裏に浮かんだ。

(父さんにとって……私は……)

 贅沢な悩みなのかもしれない。身勝手で傲慢な想いなのかもしれない。

(それでも私は、父さんに……)

 封印の魔法を扱うシャルム家は、かって魔杖エターナル・ロアの封印に失敗し、その地位と名誉は失墜し没落した。

そんな苦境に陥ったものの、エリスの立身出世によって、シャルム家の名誉は回復しつつある。

すべてがいい方向に進んでいくはずだとエリスは思っていた。

しかし――エリスは父との関係をうまく築けずにいた。

当主であるエリスの父は、仕送りまでしてくれる娘に対して負い目を感じているようで、弱々しく自分を卑下するようになってしまった。

そんな態度はやめてほしいとエリスは何度も言った。魔道士として結果を残せたのも、父さんの教えがあったからこそだとも。

それでも父がかっての威厳を取り戻すことはなかった。

先日の帰郷の際はそれが一層ひどくなっており、エリスは終始息苦しさを感じた。

(私が……私たちが目指していたのは……こんな家族じゃないのに……)

 貧しくてもー族の名誉回復をみんなで夢見ていた頃のほうが幸せだったかもしれない。

エリス……?やっぱり元気ないの?食べられる草、食べる?

 不安げなアリエッタの声で我に返る。

そんなことないわよ。魔道三大珍味の最後のひとつも、果汁がえげつなかったらどうしようって心配してたの。

なんだそんなことかー。最後のひとつは果物じゃないよ。幻獣なんだって!

 一族の汚名は雪げた。それは十分幸せなことだ。

幸せな一家団東に拘泥せず、すっぱりと諦めてしまったほうが楽になれるのかもしれない。

魔道三大珍味最後の大物……その名もズバリ幻獣チンミ!

さすが最後の大物ね!身も蓋もない名前だわ!

 チンミという名の珍味を食べる――そんなふざけたことに興じていられるのだ。十分、幸せではないか。



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story3 チンミと幸福


 超魔道グルメツアーの朝は早い。そして朝飯は食べた。

今日は体力勝負だからである。

アリエッタとエリスは魔道三大珍味である幻獣チンミを捕まえるべく、秘境の原生林に足を踏み入れた。


秘境ってどこかと思えば……アリエッタの実家の裏山じゃない。

わはは!うちの実家、わりと秘境!

ところで、幻獣チンミってどんな生き物なの?

『珍味ガイド』によると……チンミは、そのすべてが謎に包まれている。とても珍味だということだけが知られている。

それじゃどの獣がチンミなのかわからないじゃない……。

 とはいえ、幻獣というからには見た目が幻の獣みたいな感じのはずである。

見たらわかるだろうと信じて、ふたりは原生林の中を歩き回る。

しかし、いくら探しても幻つぽい獣も獣つぽい幻も見つからない。

そもそも森の中はしんと静まり返っていて生き物の気配自体が希薄だった。

くぅ、こうなったら!おーい!チンミー!出てこーい!

私に何の用だ。

 声は、背後から聞こえた。振り返るとそこには――

私が、幻獣チンミだ。

魚じゃん。

しかも焼けてる……。 魚の串焼きみたいなやつがいた。というかもろに魚の串焼きだった。

私は魚ではない。幻獣チンミだ。

まー、本人がそう言ってるんだから、そうなのか。

おぬしらは、私を喰らうつもりか?

 チンミの低く唸るような声が響き渡る。

私は巷では魔道三大珍味として持て囃されている。喰らおうとする者が現れるのは必然と云えるだろう。

しかし私は珍味として喰われるつもりなど毛頭ない。幻獣として生き続けるという固い意志がある。

 こいつ珍味のくせに結構語るなあとアリエッタは思った。

私は昔、幻獣ハンターに捕らえられた。粗塩を振られ、串焼きにされた。しかしそれでも生を諦めなかった!

諦めずに逃げたからこそ、今もこうして幻獣として存在し続けているのだ。

元は焼き魚じゃなかったのね……。串焼きにされても生き延びるなんて、すごい執念だわ……。

悩める女よ。何かを勝ち取るとはそういうことなのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

えっ……。

 チンミはエリスをしかと見つめている。エリスもまた、じっとチンミを見つめている。

私は諦めなかった。諦めなかったからこそ、道が拓けた。

 焼き魚がそれっぽいことを言って、エリスがそれに聞き入っている。

アリエッタには、何の話なのかまったく見えてこなかった。

あなた、何が言いたいの……。

悩める女よ。諦めるな。道は拓ける。その道こそが、進むべき道なのだ。

 呆然としていたエリスは、その場にくずおれた。

……エリス?どうしたの?

 そして、肩を震わせ、泣き出してしまう。

エリス!?どうして!?……チンミ!お前エリスに何をした!

道を説いただけだ。

嘘つけ焼き魚!くううううらああえええええええ!

 アリエッタはチンミ目がけて魔法書を投げつけようとして――

うぅっ!

 肩の違和感で、魔法書を落としてしまう。地下洞窟での呪いの影響が出てしまった。

おのれチンミ……!エリスを泣かせるなんて許せない!八つ裂きにしてやる!

アリエッタ……落ち着いて……。チンミは悪いことなんてしてないわ。

でも、エリス泣いてる……!

 エリスは頬を伝う涙を拭いながら、嗚咽まじりに言葉を紡ぐ。

気持ちがぐちゃぐちゃになっちやっただけよ。

珍味風情に道を説かれてる自分が情けなくなっていろいろ、考えちゃって。……ああ、本当に情けないわね。

 いつも口やかましくお説教をしてくるエリスが、自分よりも小さな子どものように見えた。

エリスは、悩める女なの?

……ええ。実は、家族とあまりうまくいってないの。

……!元気がなかったのって、そのせい!?

 エリスは小さくうなずいた。エリスは小さくうなずいた。

私は、もっと幸せになれると思ってたの。

 アリエッタは、エリスから目を逸らしたいような、目が離せないような、不思議な気持ちになった。

でも、きっと、逸らしちゃいけないんだろうなと思った。

ささやかだけれど、心から笑い合える、そんな幸せな一家団東を夢見て、これまで頑張ってきた。

私は父さんと母さんが好きだし、ふたりだって私が嫌いなわけじゃないと思う。ただ、なかなかうまくいかないの。

 それでどうしてうまくいかないのだろう。アリエッタには想像もできない。

人の心を学びなさいとエリスはいつも言うが、どんな魔法よりも難しいもののように思えた。

でも、幸せな一家団彙がすべてじゃないわよね。

 エリスは指の先で涙を拭うと、微笑んでみせる。

アリエッタみたいに、私のことを気にかけてくれる人がそばにいる。人生はそれでいいのかもしれない。

……ふふ。こうして喋るだけで、気持ちが楽になるものね。家族のことは、諦められそう。

諦めちゃダメだよ!

 人の心は、よくわからない。でも、全部が全部わからないわけじゃない。

これは、諦めちゃダメなやつだとアリエッタは本能的に思った。

諦めたら、エリスはチンミ以下だよ!

チンミ……以下……。

家族が嫌いならしょうがないけど、好きなら諦めちゃダメだよ!

わたしは、エリスも家族も大事。だから、エリスも家族を大事にして。

 泣き止んでいたエリスは、再び泣き出してしまった。

チンミだけじゃなくて、アリエッタにまで道を説かれるなんて、私、ほんとダメね……。

だけど、自分がすごく幸せ者だと思うわ……。

 泣きながら笑っているエリスの気持ちが、アリエッタにはよくわからなかった。

チンミには、わかるのだろうか。

チンミ……。

 幻獣チンミは、幻のように消えていた。



 豪華な家だろうが質素な家だろうが、他人の家というのはどうしたって他人の家の匂いがするものである。

しかしトワ家に限って言えば、自分の家以上に懐かしく温かい匂いがした。

何度かトワ家を訪れているエリスだが、初めて来たときからそう感じているのだから不思議だ。

……あれからエリスはアリエッタに連れられて、トワ家にやってきた。

魔道三大珍味最後の大物である幻獣チンミを食べ逃してお腹が空いているから、おいしいご飯を食べようという理由もあったが――


いい感じの新しい魔法を生み出すと、もっとすごい魔法が生み出せそうって思うでしょ?

やっぱり、いい感じ!って思うことが大切なんだと思う。

だからまず、わたしの実家をエリスの実家だと思って、いい感じのイメトレをしよう。

いい感じの、イメトレ……。

家族と仲良くなれそうだーって思って実家に帰れば、きっと仲良くなれるよ!

 怪獣の気遣いが沁みた。いつか夢に出てきた、いい子エッタのようだ。

案外、自分がどんどん弱さを出していけばアリエッタはみるみるいい子になるのかもしれない。


まあエリスさん。よくいらしてくれました。ゆっくりしていってくださいね。

すいません、ご連絡もせず、突然お邪魔してしまって。

ミリエッタ、一番すっごいごちそう作って!わたしもエリスも、すっごいお腹空いてるから!

ええ、もちろん。アリエッタ、畑からレタスとトマトをとってきてちょうだい。

はーい!

 アリエッタはひと息つく間もなく、畑に駆け出していった。

エリスさん。何かお好きな料理はありますか?ちなみに我が家の料理は肉がおいしいんですよ。肉好きですか?

確かに以前お邪魔したときにいただいたお肉も、すごくおいしかったです。特にソースが絶妙な味わいで。

あれはトワ家秘伝のグレイビーソースなんです。『あのうまいタレをかければなんでもうまい!』とアリエッタもお気に入りで。

 ソースを何にでもかけるアリエッタの様子が、ありありと目に浮かぶ。

厚かましいお願いなのですが……。

 ふたりの声がきれいに重なった。

微笑みで促されたエリスは、口を開く。

トワ家秘伝のグレイビーソース……レシピを教えていただけないでしょうか?

あら、まあ。ふふふ。私のお願いもそれです。

私よりもエリスさんのほうがアリエッタと一緒にいる時間も長いでしょうから。気が向いたら、作ってやってください。

 それからエリスは料理の手伝いをしながら、様々なトワ流レシピを教えてもらった。

この肉、きっとチンミよりおいしいよ!

 畑から戻ってきたアリエッタが、下ごしらえ中の肉をらんらんとした目で見つめている。

チンミ?

わたしとエリスで、超魔道グルメツアーをしてたんだ。魔道三大珍味の食べ歩き。

食べられる草、ウルトラフルーティーフルーツ、幻獣チンミ……。

私、魔道三大珍味なんて全然知らなくて。ミリエッタさんはご存知でしたか?

 ミリエッタはきょとんとした顔で固まる。

……ええ、私はもちろん知ってますよ。アリエッタが作ったものですから。

…………えっ?

 なぜかアリエッタも『えっ?』という顔をしていた。

ちょっと、アリエッタ。魔道三大珍味ってあなたが作ったの?

わたし……作ったっけ?

魔法学園に入学した最初の年だったかしら。魔法の力で何か工作しましょうっていう夏休みの宿題があって。

そのとき作ってたじゃない。珍味。

そうだっけ……?

そうよ。私、聞かれたもの。

幻獣チンミはどんな幻獣にしようかってアリエッタいうから、魚みたいな感じにしたらどう?って答えた気がする。

あーそういえば……うんうん、思い出してきた。わはは!わたしが作った珍味が魔道三大珍味になってた!

……確かに、あんなわけのわからないものが自然界に存在してるよりも、アリエッタが作ったってほうが腑に落ちるわね。

 そして、幻獣を魚にしたらというミリエッタは、まともそうに見えてもやっぱりアリエッタの姉なんだなあと、そちらも腑に落ちた。

アリエッタって昔からアリエッタだったんですね。もっとお話、聞かせてください。

じゃあ、アリエッタが初めて裏山を吹き飛ばしたときの話を……。

いやー、あの頃は若くてめちゃくちゃやってたなー。

今もやってるじゃないの。現役バリバリのめちゃくちゃでしょ。

ミリエッタだってすましてるけど、結構めちゃくちゃなんだよ。ほら、あれ、”5000ヘクタール耕し事件”!

あったわねえ、そんなこと。その年だったかしら。アリエッタの”魔道クワガタ大戦争”。

あれ、楽しかったねー。エリスにも見せてあげたかったなー。

次の年の”魔道カブトムシ黙示録”も、素敵だったわね。ふふふ。

 和やかに笑い合う姉妹を見て、やっぱり諦めちゃいけないとエリスは思った。

こんな笑みを、父や母とかわしたい。幸せな一家団欒を諦めない。

もっと腹を割って家族と話してみようと思った。

もっと自分のことを知ってもらおう。

単身家を出てどんな日々を送ってきたのか。大切なものを知ってもらうべきだし、苦労話だって臆せず話してみるべきなのだ。

エリスにとっての苦労といえば専らアリエッタであり、大切なものもまた、アリエッタとの思い出である。

アリエッタを連れて実家に帰ってみるのも、いいかもしれない。

さあ、出来ましたよ。お話の続きは、テーブルでしましょう。




食べていい?食べていい?いただきまーす!

 アリエッタは真っ先に肉を切り分け、口いっぱいに頬張った。

あー……おいし……。

 噛みしめるようにしみじみと漏らす。

やっぱりさー、これが一番なんだよねー。

この味、本当においしいわね。

そう言ってもらえると、作った甲斐があります。さ、チキンのトマト煮もできましたよ。

魔道三大珍味とかわけわからないこと言ってないで、エリスには最初からうちの肉を食べてもらえばよかったのかもな一。

あら、超魔道グルメツア-も悪くなかったわよ。

 エリスの心の中で、チンミが蘇る。

粗塩を振られ、串焼きにされようが、諦めない。

何かを勝ち取るとはそういうことなのだ。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

(私は幸せを諦めない。勝ち取ってみせる)

 でも今は、目の前にある幸せを精一杯味わおうと思った。


おいしいね!

……ええ。おいしいわ!







黒ウィズGP2019 入選 アリエッタ・トワ





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画像
ケーキに乗ってるエリス人形食べたいの?
わははは!断る!!このエリスは私のだ!!


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