イベント【静謐な花園】 笙の音
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(月下城での年の締め括りは、年に一度の大祭。民にとってそれは大事な行事で、何より楽しみな日だ) (月下城では宴席が設けられ、民は城郭の櫓の下に集まってご馳走に舌鼓を打っていた。この一年の収穫と、新年の喜びを分かち合うのだ) (離笙は十歳から毎年この祭りに参加し、櫓の上で月下城の民のために祈りの舞いを捧げ、人々の幸せを願ってきた) (今年で八年目。だが今年は……) | |
城下の民A | |
お嬢様の具合はどうなんだ?年を越せないかもしれないと聞いたんだが。 | |
城下の民B | |
ああ……あんな優しく気立てのいいお嬢様が、ご病気だなんて。 | |
城下の民A | |
今年の祈りの舞は、見られないだろうなぁ。 | |
城下の民B | |
ああ……。 | |
(月下城主の謝淵が祭りの始まりを告げたその時、突然太鼓の音が鳴り響いた) (ドン、ドン、ドドンッ) (リズミカルに響く太鼓、続いて櫓の上に現れた赤い人影) | |
城下の民A | |
お嬢様? | |
城下の民B | |
いや、お嬢様は……。 | |
(太鼓のリズムに合わせ、赤い人影は踊り始めた) (両手を重ねて開き、跳ねたり回ったり。衣装の裾がひらめき、篝火に照らし出された赤い衣装の人影は、まるで燃え盛る炎のようだ) (生命の躍動が込められた舞に、見た者は思わず息を呑んむ) | |
城下の民A | |
あれは……。 | |
(櫓の上で踊っているのは、帰舟だった) (姉の縫った衣装を纏い、動作や表情の一つ一つも、姉から教わったものだった) (その瞬間の帰舟には、邪念は一切なかった) (彼は知っていた、この祈りの舞が姉にとって大切なものだということを) (彼は知っていた、姉が踊りを愛し、それが姉の全てであったことを) (彼は知っていた、見ることはできなくても、自分が踊れば姉はきっと喜んでくれることを) (彼は知っていた……) | |
帰舟 | |
姉さん、笑ってるかい? | |
(近くて遠くに聞こえるはしゃぎ声) (揺れる蝋燭の火。城主府の寝室で、痩せた人影が寝床に座り、静かに窓の外を見ていた) (窓の外には何もない――漆黒の夜空以外は) (だが、離笙は赤い人影が一筋の光の中で情熱的に踊っているのを見たような気がした) (太鼓の音が近づいてくるのを、心の中で聞いたような気がした) (暗闇の景色が真っ白い雪に覆われた原野になったように見えた。そこに誰の姿も見えない) (離笙は太鼓の音色と一つに溶け合い、空気となって自由の空に解き放たれた) (彼女はゆっくりと笑みを浮かべた。まるで仄暗い場所に咲いた、鮮やかな花のように) | |
離笙 | |
ありがとう、舟や。わらわは本当に嬉しいぞ。 | |
(彼女はかすかに聞こえるはしゃぎ声の中で目を閉じた。その顔には優しく満足げな笑みが浮かんでいた) | |
(櫓の上で、帰舟は最後のふりを終えた) (頭上で開く花火、足元で雷のように響く拍手。歓喜の声は耳をつんざかんばかりだ) (帰舟は夜空に咲いた花火を見て、目から二筋の涙をこぼした。しかし、その表情は笑っている) | |
帰舟 | |
姉さん、この舞は『永笙』という名前にしたよ。笙の音も幸せもいつまでも続きますように。そして僕は踊り続けるよ、姉さんの代わりに。 | |
(夜空に次々と上がった花火が、漆黒の空を百花繚乱に染め上げた) (来年も月下城の民が安らかに暮らせますように。笙の歌も幸せもいつまでも続きますように) |
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