箱庭世界・奸計
キラ・奸計
病院の廊下は細長くて、明かりがなかった。フロアの中で唯一明かりがついているのは階段横の部屋だけだ。
Heliosはパソコンの前に座っていた。その指はキーボードを素早く叩き、画面には数多くのプログラムコードが表示されている。しばらくすると画面が点滅し、ある男の後姿が画面中央に映し出された。そこは暗闇に覆われた部屋で、男の前には同じ場所を移した数十台のモニターがある。それらが映しているのはーー病院の中庭だ。そして、中庭には驚くべき数の爆弾が綺麗に並べられている。男は椅子にもたれながら、至極満足そうだ。彼は大舞台の幕開けを待っているのだ。
フンッ。Heliosは蔑むように鼻を鳴らすと、再び慣れた手つきでパソコンを操作する。秒針が12時を示したその瞬間、Heliosはエンターキーを押し込んだ。すると、男が見ていた数十台のモニター画面が同時に炎を映し出した。煙がもうもうと立ち込め、病院は数秒で崩壊する。画面の中の男は満足そうに狂喜じみた笑みを浮かべると、立ち上がって部屋から出て行った。
Heliosは顔を上げると、崩壊したはずの目の前の病院を眺めて軽く笑いながら言った。「愚か者め」
部屋から出ると、Heliosは中庭に視線を向けた。病院全体が静けさに包まれている。廊下は真っ暗で、怪物でも現れそうな恐ろしい暗闇が足元まで広がっていた。
しかしHeliosは一瞥しただけで、階段に向かって歩き出した。ここは養護施設ではない。彼は実験体1562でも、キラでもないのだ。
突然、中庭の方から轟音が聞こえ、地面が激しく揺れだした。かすかな驚きの色がHeliosの目に浮かんだが、彼はすぐにこれがどういうことか理解し、ためらうことなく病院の入口へ走っていった。
まさか･･････こんなに早く仕掛けられるなんて！
地面に亀裂が走り、何もかもが飲み込まれていく。Heliosは全速力で走ってジャンプした。出口はすぐ目の前。しかし、彼は廊下の向こう側に意外な人物が立っていることに気付いた。彼女は見るからに慌てふためいているようで、危うく転びそうになりつつも、その目はじっとHeliosを見つめていた。
どうして彼女が･･････！？様々な感情がHeliosの心の中で交錯したが、彼は無理やりそれらの感情を抑え込み、怒りのみを露わにした。土埃が舞い上がり、壁が崩れ落ちる。Heliosの顔に小さな傷がついたが、彼はまったく気に留めることなく、落ちて行く瓦礫の中から飛び出した。
彼女を胸元に引き寄せた瞬間、その驚いたような瞳の中に、見知らぬ自分の姿が映っていた。
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