《ストーリーセットコーデ》永望の月
永望の月
完成報酬 | コーデギフトBOX (蛍の扇子、ユエ、永望の月、月夜の宴、蒼月の清光(背景)、40ダイヤ) |
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毎日、夜になると私はこの世界へやって来る。
人間がぐっすり眠って夢を見ていれば、私はその中へ忍び込むことができる。人間の夢の世界は彼らの心の内を最もよく表しており、虚飾や偽装は一切ない。彼らは夢の中でなら、会いたくても会えない人に会え、欲しくても手に入らないものが手に入り、現実では実現不可能なことも実現でき、限りなく深い絶望の中から希望を見出すこともできる。それはもう自由この上ない世界で、私が実際に行ったことのあるどの時空よりも絢爛豪華だ。
しかし、夢の世界にも恐ろしい深淵や波の逆巻く大海、猛烈な咆哮や悲痛な慟哭は存在する。私は夢の世界の旅行者にすぎなかったが、そこで人間の深い苦しみや痛みを感じることができた。誰であれ、人の心の底には泣いている小さな子供が住んでおり、その子は陽の当たる場所にはおらず常に月光に寄り添っている。そうと知ってうになった。心の底に住む子らが好きだったから。
一番簡単な方法は、飴や人形など、彼らの欲している物を与えることだ。かつてある女の子の夢を訪れたときには、美しい海棠の木があり、散った花が雪のように止めどなく舞っていた。夢の中の海棠は永久に枯れず、花びらが落ちきることもないようだった。女の子は木の下に座り、眠っていたようだ。頬に張りついた小さな花びらが、玉のように白い彼女の肌をさらに引き立てていた。彼女は時々目を覚まし、ぼんやりと空を仰ぐ。そして、何もないと分かるとがっかりし、独り言ちるようにぽつんと呟く。まだ来ない、と。そうしてまた目を閉じ眠ってしまう。ただただこうして眠りながら待ち、目を覚ましてはまた眠る。海棠の花びらはなおも舞い続ける。夢の世界には時間がないから、嘆く彼女を邪魔するものは一切ない。そこで私は彼女が待ち望んでいるものを与えた。次に彼女が目を開けたとき、空から青い鳥が飛来するように。
時に人間の心は量り難く、そこに住まう子の欲しているものを与えさえすれば泣き止むというものでもない。あるとき覗いた夢には、やはり少女がいた。彼女は一振りの剣を抱きかかえ、月光の差す物寂しい練武場に独り座り、多くの人を懐かしんでいたから、その幻影を出してやった。彼女に剣術を教えた父、一緒に書を読んだ母、幼い頃大好きだった武者姿の兄たち。日夜恋しがっていた者に会えれば喜ぶだろうと思ったのだが、彼女は泣き止まず、私の心を締め付けた。私が幻影を消すと、彼女はまた一人になった。すると彼女は月明かりを頼りに、石卓の上で明かりを灯した。私にはそれが何なのかは分からなかったが、彼女にとって大事なものだということは分かった。灯火はゆっくりと彼女の手を離れ、夜空へと舞い上がった。疾風が吹きつけて火が消えそうになると私がそれを守る。そうしてこの思いの詰まった灯火は消えることなく灯り続けた。
通常、夢の世界は独立している為、ひとつの世界を出てはまた別の世界へ潜り込むのだが、時に夢の世界間を通り抜けられることがある。両者が同じ夢を見ていれば、夢の世界の橋を渡れるというわけだ。
ある冷たい夢の世界では、何かの音が夏の蝉のように途切れることなく響いていた。後になって、それが機械の発する音だと知った。あんなに冷たく純粋な夢というのは滅多にない。そこにあったのは精巧な機械と、絶えず流れる水、それに地味な装飾の古い青銅の箱の上に置かれた青龍の玉佩だけで、箱の中には破れた凧しか入っていなかった。
この夢の終わりまで来て、造りかけの楼閣があるのに気づいた。入ってみると、中は素晴らしく設えられているものの、人影がなく、窓から外を見ると、楼の前には二株の相思樹が植えられ、空には満月が掛かっていた。
月は低い所にあり、灰色の屋根瓦を照らす月光は流れる湖水のようだった。そのとき、どこかから蝶が飛んできて、流水のような月光を浴び、冷たい夢に哀しく暗い影を落とした。"
その哀しさはどこから来ているのか。それを確かめようと外へ出た次の瞬間、私は橋を渡り、別の夢世界へ来てしまった。
この夢にも先程の美しい楼閣があったが、こちらには光がなく、暗闇だけが広がっている。闇の中を手探りで進むが、距離も分からなければ、何の音もしない。もう自分の存在も忘れかけていた頃、不意に火の手が上がり、取り囲まれてしまった。火の勢いはそれほどではなかったが、真っ暗闇の中では実際以上に恐ろしかった。まるで先へ進むなと戒められているようだ。だが炎はいくらも経たずに消えてしまった。
私はその戒めを無視した。果てしない暗闇が広がっているだけの人の夢など、ある筈が無いからだ。そこで私はその世界の先へと進んだ。どれだけ歩いただろう。もう諦めようとした時、琴の音が響いてきた。その音はむせび泣くように闇の中を流れ、粉々にされた過去を訴えている。音のする方へ行ってみると、今度は一筋の光が見えた。光の中には細かな塵が漂っていて、それが子供を覆っている。こんな闇の中に子供が一人だけ?
その子を抱きしめると体がとても冷たい。何を与えれば良いか分からなかったが、幸い私の体はまだ月光を纏っていた。人間はどうしてこんなに孤独で哀しい想いをしているのだろう。私は夢の中で彼らに、ほんの少しの幻の希望を与えてやることしかできない。それでも彼らが夢から醒めれば、窓の外の月光で彼らを優しく包めるだろう。しかし夜は長く、痛む傷口も消えてはいないのだから、何も変えられないし、彼らを救うことはできないのかもしれない。
とはいえ、私は知っている。真の希望が既にマーベル大陸に降り立っていることを。彼女は最後の夜明けをもたらすかもしれない。
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