《至高の宝物》白桜恋歌
白桜恋歌
完成報酬 | コーデギフトBOX (白桜恋歌、回想の風、白桜の煌き、40ダイヤ) |
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シリーズ3 | |
ユミリの前には薬瓶が置かれている。
これはマーキュリー財団がノーザン王国から密輸入した新薬で、同財団の総裁から個人名義で贈られたものだ。使用するか否かは自分次第。この新薬が彼女の体内にいるウイルスを死滅させる確率は半分。残りの半分は彼女に死をもたらすだろう。
要するにこれは生死を賭けた大博打。もうこれ以上待ってはいられない状態なのだ。自分はもっと生きていたいし、サクラの成長も見ていたい。シーラの傍で共に老いたい。それにシーラが自分の為に、あるかどうかも分からない希望を日夜休まず探し続けているのは見るに堪えないし、親友が更に罪を重ねるのも見たくはない。死にたいのではなく、生きたいと切に願っている。
彼女の心は常に希望を抱いていた。
結局、彼女は薬を飲み下し、結末の分からぬ不安を抱えたまま眠りについた。
ユミリが病に倒れたのは一ヶ月前。誰もがただの風邪だと思っていた。だが、その風邪が良くなることはなく、ウィルトンの名医たちもユミリの病情に途方に暮れていた。ロゼルグループの研究者が、ある研究報告を持ってパテール連邦アパレルグループのビルに乗り込んで来た時に初めて、シーラは運命が残酷に微笑んでいることに気がついたのだった。
どのようにしてか、ロゼルグループはユミリの血液サンプルを盗み、その中に新型の致死ウイルスを発見したというのだ。そして、新たに開発した治療薬を切り札にし交渉を持ちかけてきたのだ。彼らは自分たちの思惑を包み隠しもせず「クリスのキス」と宝物庫へ立ち入ることを要求してきた。だがシーラはそれを拒否した。宝物庫の秘密を知っている彼は、その要求を呑むわけにはいかなかったのだ。
ユミリの病状は悪くなる一方で、昏睡状態になる時間も長くなってきていた。顔色は青白くなり、美しかった長い髪からは艶が失われていった。彼女が悪夢にうなされ夫や娘の名を口にすると、シーラは彼女の手を握り、額にそっと口づけた。けれど、彼女を深淵から救い出すことは出来なかった。シーラはこんな無力感に襲われたことはなかった。街の広場に二人の名前を刻もうと、無数のライトで二人の愛を照らそうと、愛する妻を救えなければ意味がなかった。
そんな時、リンジーが二人に希望をもたらした。彼女はユミリの親友で、ロゼル研究所の研究員だった。学生時代からリンジーはいつもユミリの面倒を見ていた。それは今回も例外ではなく、彼女はシーラに言った。自分が研究所から治療薬を盗んでくるから、ユミリを悪夢から救い出そう、と。シーラはリンジーの為に全ての手筈を整えたが、結局、上手くいかずに事件は警察の知るところとなった。リンジーの子供が通う学校にまで報道記者が詰めかけ、フリートという名の少年は、全ての悪意に対して沈黙を貫いた。母親の行為に誇りを持っていたからだ。
シーラは罪もない人をこれ以上巻き込みたくなかった。ユミリを救う方法は、あとひとつしか残されていない。彼は「クリスのキス」を持ち出し、独りロゼルグループへ向かう準備を始めた。その時、オフィスの電話が鳴った。それは病院からで、ユミリの意識が戻ったという。電話口に出たユミリはもう一度「白桜恋歌」を着たいと言った。
ユミリは何か知っているのか?彼女がどうして気づいたのか分からない。だが「クリスのキス」がロゼルグループの手に渡るのを喜ばない者が、他にも居るということだろう。彼は「白桜恋歌」をユミリの元へ持って行き、彼女が再びそのドレスを纏う姿を見ていた。彼女は随分痩せてしまっていたから「白桜恋歌」ももうピッタリというわけにはいかなかった。彼女はシーラに「クリスのキス」は宝物庫へ戻しておくよう要求した。そうでなくては二人の思い出が不完全になるから、と。
シーラは彼女の願いを拒んだことはない。
その夜、二人は自分たちの愛にちなんで名付けられた広場へ訪れた。朧月夜が、桜をキラキラと照らしている。それはパテール連邦全体からの贈り物で、人々の注目を集めたものだった。ユミリはシーラの胸にもたれると、「一生一瞬の愛」という広場のプレートをそっと指でなぞった。
「白桜恋歌」は元の場所に戻されたが、それはユミリが生きる希望を諦めたからではない。彼女は愛する人々に悲しみを残したくはなかった。だから彼女は命を、そして未来を賭けた。
三日後、ユミリの葬儀が執り行われた。出席者にはパテール連邦の著名人が残らず名を連ね、マーキュリー財団の総裁も恭しく最前列に並び、ロゼルグループまでもが白薔薇を捧げた。黒いワンピースを着たサクラは、保釈されたリンジーの後ろに隠れている。彼女は死とは何かがまだ完全には理解できず、ただ不安を感じ、酷い絶望と困惑に見舞われ、息をするのがやっとだった。父を探していた彼女は、墓地の前でオーランドとルイドに会い「シーラ総裁は随分前にここを出た」と聞かされた。
シーラは「白桜恋歌」に最後の別れを告げていた。桜の花びらを風が連れ去る。これは彼とユミリだけの弔い。一生の愛は一瞬で絶え、全てが無意味なものとなった。その時、温かく柔かい小さな手が彼の手を引っ張った。
「パパ、私が一緒にいてあげる。ママと約束したのよ、頑張って大きくなって、パパを守るって」
シーラはサクラを抱きしめた。それはもう一つの命の重みであり、ユミリに端を発する、未来の重みだ。
夜空を舞う桜は、この世に銀河が降ってきたかのように空いっぱいの星々と共に輝き、私たちに時間と死に立ち向かう力をもたらした。
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