終わりの使者セレミス
10/31~11/13
第一回スペボスホワイトデー3位 チョコ786個
第二回スペボスホワイトデー1位 チョコ15156個
1位記念イベント→始覚の歌語り アリオラ
始まりの使者アリオラ
~♪
~♪~♪
・・・?もしかして、戦士様には私の姿が見えるのですか・・・?
まぁ!赤子以外の人間に姿を捉えられたのは、何百年ぶりでしょう?
この国は天使の加護で溢れ・・・精霊にも愛されています。
私の姿を捉えられたというのも、貴方の側にいる精霊と、国を覆う加護の力によるものかもしれませんね。
改めまして、ごきげんよう戦士様。お久しぶりです・・・と言うべきでしょうか?
私は始まりの使者、アリオラと申します。
生まれ来る人の子に、天から届いた祝福の加護歌を届ける・・・それが私の使命です。
産声を上げる赤子に祝福を、これから訪れるであろう苦難にどうか負けぬよう加護を・・・願いを込めて歌います。
ふふ、歌っている途中で眠ってしまう子がほとんどですけどね。
・・・え?先程の歌ですか?
とても悲しい歌詞だった?・・・そうですね。先程歌っていたのは祝福の加護歌とは違います。
あれは・・・死を迎える者に捧ぐ、終焉の子守歌。
始まりの使者である私が、終焉の歌を歌うなんておかしいですよね。
この歌は本来、私の姉様・・・終わりの使者セレミスが歌うものです。
あまりに美しい日の入りだったものですから、ふとあの日を思い出して・・・口ずさんでしまいました・・・。
・・・戦士様、このアリオラの思い出話を少し聞いてやってはくれませんか?
ー昔、使者としてまだまだ未熟だった頃の話です・・・私はここより北の小さな国の加護を任されていました。
天使である私には、生まれ来る者の場所が分かります。その日も山の中腹へ、天から降りる一筋の命の光が見えました。
しかし、その光に対し天から祝福の加護歌は届きません。日が落ち人々が深く眠りにつく時間になっても、歌は一向に届かず・・・
不審に思った私は、その山へと向かうことにいたしました。
向かう途中、一筋の光が降りたはずの場所から今度は、二筋の光が天へと昇って行くのが見えました。
・・・不安を募らせながら降り立ったその場所には、灯りのついていない木こりの小屋が一つ。扉や家具は破壊され、室内は酷く荒らされておりました。
充満した魔物と悪魔の臭い、色濃く残った呪いの跡・・・。
消え失せた暖炉の横には赤子を庇い抱え込むように倒れた若い夫婦・・・救いを求めるように伸ばされた手の先には、姉様が立っておられました。
吐く息も白くなる程のこの寒空の下、夫婦の残った温もりに守られながら泣き続ける産まれたばかりの赤子の声は
既に耳を澄まさなければ聞こえない程その声は小さく・・・この子もまた、その時を迎えようとしている。
二筋の光は、夫婦の魂が天へと昇った光。この赤子には加護歌が届かなかった理由・・・。
そう、この赤子に向けて届いたのは・・・終焉の歌でした。
天使である私達に運命を変えるほどの力は無く・・・
人間と共に幸福を分かち合ってきた私は、この運命を受け止めきれずその場に座り込み、両手で顔を覆いました。
これまで死者を見送り続けてきた天使である姉様は、表情一つ変えず、言葉も発しません・・・。
きっとこの様な悲しい運命を、姉様は幾度と見てきたのでしょう。
戦場の空を、悲劇の時代を、悲しみに溢れた世界を、かって白かった羽根を黒く染めながら・・・飛び回ってきたのでしょう。
涙を流す私の姿にさぞ呆れているだろうと思い、顔を伏せながら必死に涙を止めようとしました。
しかし涙は溢れるばかり、嗚咽すら漏らし始めた私に、姉様はゆっくりと歩み寄りました。
ああ、叱られる。生と終の姉妹天使と呼ばれる身でありながらなんと情けない・・・。
俯く私の頭を、姉様はそっと撫でこう言いました。
「アリオラ、一緒に歌ってくれるかしら」
久しく聞いていなかった、柔らかな声。固く凍り付いた表情を必死に歪めながら作って下さった、笑顔。
神に創られた日、嬉しそうに抱きしめ迎えてくれた姿を思い出しました。
外が明るくなり始めた頃、黒羽根と白羽根を寄り添わせ・・・私達は、天から届いた歌を共に歌います。
生まれし者よ、その声を上げた事をどうか悔やまないでおくれ
肌に感じるその冷たさを、父と母の腕の温もりを、どうか忘れないでおくれ
生きたいと願い張り上げたその声は、たしかにこの世に響いていた
終わりの使者が捧げる、子守歌 始まりの使者が捧げる、子守歌
眠りの先に待つのは、まばゆいほどの光
その右手に白き翼を。その左手に黒き翼を。さぁ、ゆっくりと羽根を広げ飛び立ちなさい
君に捧げる、この歌の名はー
日の入りと共に旅立つ小さな魂の光は、ゆっくりと天へと昇っていきました。
ー長々と話してしまいましたね。戦士様、昔話に付き合ってくださってありがとうございます。
・・・あら?
西の空に、また天から降りる光が見えました
二筋の光が同時に・・・ふふ、あれは双子ちゃんの誕生ですね。
そろそろ行かなくては・・・こうやってお話できて光栄でしたわ。
私の姿が見えたということは、姉様の姿も見えるかもしれません。
口調や表情で冷たい印象を持たれるかもしれませんが、人の子を心から愛しておられる方です。
姉様とも、是非お話ししてみてください。
では、戦士様!また何処かで・・・!
終わりの使者セレミス
赤い空、赤い海・・・私の瞳と同じ色
日が暮れる、闇がくる・・・私の羽根と同じ色
いつからこんな色になってしまったのかしら
私もいつか、堕ちるのかしら・・・
~♪
~♪~♪
・・・?貴方、もしかして私の姿が見えているの?
そう、私の姿が見えているということはつまり・・・残念ね。
ごきげんよう、戦士様。そして、さようなら・・・。
私は終わりの使者、セレミス。
死に逝く者にだけ見える私の姿、捧げるのは終焉の子守歌。その魂を無事天へと届けるのが、私の使命。
黒い羽根に赤目の天使なんて、珍しいでしょう?人は皆、私の姿を見てこう叫ぶわ・・・死神と。
許しを請う者、慈悲を求める者、恐怖に慄く者、死にたくないと叫び出す者・・・
死神の歌を聴きながら眠り逝くのはどんな気分なのかしら。
天使に運命を変える力なんてない。私はただ、歌うだけ。お眠りなさいと、子供をあやす様に・・・。
・・・?おかしいわね?終焉の歌が届かない?
(まさかこの人も、あの人間と同じ・・・)
・・・え?死者に贈る終焉の歌にしては、随分可愛らしい曲を歌っていた・・・ですって?
あぁ、さっき歌ってたのは終焉の歌でも何でもないわ。
曲名も知らない、歌詞の意味もよく分からない、異国の歌。
今日のような夕日を見ると、ふと思い出すのよ。本当は、もう思い出したくないのだけれど・・・。
・・・曲に聞き覚えがある?本当に?なら、歌詞の意味を教えてくれないかしら?
あの人間が、あの男が・・・最期に残した歌なの。
私の黒を綺麗だと言った、あの男が・・・
ー昔、南の小さな国に降臨した日、屋根の修理していた男は、空から舞い降りてきた私を指さしこう言ったわ。
化けガラス!
死神や悪魔と呼ばれたことはあっても、カラスと呼ばれたのは初めてだったわ・・・。
私の姿が見えているという事は、この男もまた死に逝く者のはず。けれど貴方と同じく、この男に終焉の歌は届かなかった。
妙な格好の男でね、キ、キモノ・・・?と言ったかしら?この国に突然迷い込んでしまったと言う、異国の男。
常に人間に姿が見えているというのも厄介なもので、その男は空を飛ぶ私を見つけては大声で呼ぶの。
元気か?飯は食ったか?今日も綺麗な黒羽根だな。お前はもっと笑った方が良いぞ。
これまで人間と接してきたのは、死に逝くその瞬間だけだった。私にとってこの男は、鬱陶しい事この上なかったわ。
教会で歌う私を見に来たり、パンを無理やり投げ渡されたり、寒いだろうと上着を押し付けられたり・・・。
なぜここまで構うのか、分からなかった・・・。
次第に私も諦めを覚え、一言二言会話を交わす様になったわ。変な喋り方のせいで、会話の半分も理解できなかったけれどね。
私の姿が見える異国の男。届かない終焉の歌。私に笑顔で話しかけてくる人間。あんな賑やかな日々は初めてだった・・・。
あんな日々など、知らなければよかった・・・。
・・・人間の一生というのは、本当に短いわね。
随分、瘦せたかしら?食事はちゃんと取ってるの?またシワが増えたわね。
かって一方的に話しかけてくる男と無視をする私といった立場は逆転し、
慣れない私の世間話に、ベッドに横たわる男は笑顔でゆっくりと頷いた。
シワシワになった手で、私の頭を撫でながら・・・コクリコクリと頷いていた。
幾度と見てきた・・・終わりの時が近づいている。
それでも天から歌は届かなかった。
赤く染まる空、これが彼にとって最後に見る夕日。男は擦れた声で私に言ったわ。
その綺麗な黒髪を見て、国に残した娘を思い出した。違うと分かっていても、放っておけなかった・・・と。
私の頭を撫でていた手を下ろし、男は夕日を見ながら小さく歌い出した。本当は、私が歌って見送るべきだというのに。
だから、真似にして歌ったの。一緒に、ゆっくり・・・ゆっくりと・・・
~♪
~♪~♪
男の魂の光は天へは昇らず、そのまま・・・消えていったわ。
・・・え?歌詞を思い出した??
夕焼け・・・鐘・・・帰ろう・・・カラス・・・
・・・ふふ、ふふふ。そう・・・そういう意味だったのね。
私の代わりに黒羽根のカラス達が、あの男の魂を故郷に送ってくれていると良いのだけれど・・・。
さて、この話はこれで終わりよ。
つき合ってくれてありがとう。私の姿が見える戦士様。
次に会う日が、こなければ良いわね。
私も貴方とは二度と・・・会いたくないわ。
そうね・・・せめて、100年後に会いましょう?
それまでどうか、お元気で・・・。